「――――あ、お姉ちゃん!」
パタパタと、駆け寄ってくる。
「今日ね、シチューだよ!鮭とかぼちゃ!」
腰のあたりに飛びつきながら、弾けるような笑顔。
「今日もお疲れ様、響。ごはん出来てるよ」
リビングに入れば、温かい温もりが出迎えてくれて。
「「おかえりなさい」」
まばたき、一つ。
光も、温度も。
嘘の様に消え失せる。
「・・・・」
月明かりの下、自分の両手を見つめた。
――――何の役にも立たない手指を。
いくら睨みつけたところで。
大切な人は、戻ってこない。
◆ ◆ ◆
「なんたる、無様」
SONG本部、司令室。
弦十郎を始めとした職員や、響達装者を前に。
伴薙が佇んでいた。
その目は据わりきり、放つ気配はまさしく修羅。
誰もかれもが、一声も発することが出来ないまま。
重々しく沈黙を保っている。
「警護対象を三人も連れ去られる挙句、みすみす子供まで死なせるなどと・・・・守護者の自覚はどこへ行ったのです?」
「・・・・面目次第も、ございません」
「お前の謝罪に意味はありません」
弦十郎が謝罪を絞り出すと、伴薙はぴしゃりと切り捨てる。
「それを言うべきは他におりますでしょう・・・・御前様ッ!!」
苛立ちのままに怒鳴りつければ、渋々とばかりに訃堂が通信を繋げる。
「御下でこれほどの被害が出たというのに、他人事ですか。他でもない、貴方様のご指示がこの事態を引き起こしているというのに」
『・・・・国を防人る者が、国を第一に考えて、なんの不都合がある』
「それで惑星一つを滅ぼしかねない事態を引き起こしているのであれば、世話がありませんね」
『では、《神殺し》を何とする?』
伴薙の威圧をものともせず、モニター越しなれども見下ろし睨む訃堂。
『鬼』と『鬼』が散らす火花で、司令室の空気は更に重みを増した。
『貴様とて忘れたわけではあるまい!!先のAXZ事変より発現した、神殺しの《蒼炎》。敵はおろか、味方をも威圧し、意志という意志を支配の上、脅かす!!』
この時、なんとなしに隣を見た切歌は。
響の肩が、かすかに跳ねるのを見た。
『発現させた本人にすら未だ自在な制御が叶わぬと来れば、身構えずにいるなど愚の骨頂であろう!!』
「その腰の抜けた姿勢で事に当たった結果が現在ですか、『果敢無き哉』とはまさにこのことですね」
そんな響の反応も露知らず、訃堂と伴薙は睨み合い続ける。
「なんにせよ。此度の件で、日本政府および風鳴機関は、国連の信用を著しく失いました」
最終的には、反論は許さぬとばかりに伴薙が畳みかけて来て。
「御前様に置かれましては、老体らしく黙して引いて頂きたく」
『・・・・ッ』
丁寧な言い回しの、『黙って引っ込んでろ』を受けて、訃堂は剣呑に舌を打ったのだった。
「――――これよりSONGは、私が指揮をします」
通信の途切れたモニターを睨んだままの宣言に対し、装者とオペレーター達からは。
『また?』と言わんばかりのオーラが出る。
一様に思い浮かべるのは、先の日本政府から派遣された役人だ。
「黙して引くべきは、貴方達も同じですよ」
そんな気配を感じ取ってか、伴薙はまたもぴしゃりと言い放つ。
「理由が何であれ、人を防人り切れなかった責任は非常に大きい。この汚名を、今後の働きによって漱がねばなりません」
「で、でも!私達は・・・・!」
「理由が何であれと言いましたよ」
まるで自分達が怠慢を働いた様な言い方に、調が反論しようとして。
やはり、バッサリ切り捨てられてしまった。
「夷狄に『待った』が通じないことなど、貴女方は骨身に染みているはずですが?」
「・・・・ッ」
最終的にぐうの音も出せず、押し黙るしかなかった。
――――風鳴機関の介入は無くなったが、代わりに味方であるはずの国連に目を付けられてしまうことになってしまった。
その使者として現れた伴薙もまた、風鳴と『浅はかならぬ』では言い表せない様な因縁の持ち主。
特に翼に至っては、ミーティングが始まってからずっと俯いている。
その顔色は、耳まで土気色になっていた。
「これからどうなっちまうんだ・・・・?」
「ガンス・・・・」
不安げなミラアルクとエルザの呟きが、重い空気に溶けて行った。
◆ ◆ ◆
「うう~・・・・!!」
板場弓美は檻に手をかけ、渾身の力で引っ張る。
時折ガシャガシャ揺らしながら、脱出を試みるも。
「あっ・・・・!?」
力任せに握っていた所為で、いつの間にか手汗に塗れていた手が滑り。
尻もち。
「いったぁ・・・・!」
痛む尻をさすりながら、弓美は涙目で鉄格子を睨みつけた。
――――駆けつけた香子が敗北してしまった後。
未来とエルフナインは、弓美ごと連れ去られてしまっていた。
弓美はなんとか抵抗を試みていた二人の目の前で殴られて、人質となってしまっていたのである。
「完全に足手纏いになっちゃってる・・・・なんとか逃げないと・・・・!」
脳裏に過ぎるのは、倒された香子の姿。
自分達を守ったばっかりに、手にかけられてしまった子どもの姿。
「っく・・・・!」
込み上げた吐き気をなんとか堪えた時だった。
「――――ウルッセェと思ったら」
のし、と。
不躾な足音。
「元気じゃねぇか、あ?」
「あんた・・・・!」
シュバルツだった。
「何しにきたの!?言っとくけど、私は響達みたいにどっかんどっかん派手なことは出来ないんだからね!!」
「オオ、コワ」
精いっぱい威嚇する弓美を、動物でも見る様な笑顔で見下ろしたシュバルツは。
「ちょうどいいや、次の仕事まで暇だからヨォ」
見せつける様に、鉄格子に手をかけ。
まるで飴細工を扱うがごとく、こじ開ける。
「こないだの生意気の仕返し、やっとこっかなって、サ!」
「――――!?」
間一髪。
繰り出された蹴りを、弓美は飛びのいて回避する。
床に倒れた彼女を見下ろして、シュバルツは下卑た大笑いを響かせた。
「ほうら、頑張れ頑張れ。精々逃げろヨ」
「ッ・・・・ぁ・・・・!?」
ずかずか近づいてくるシュバルツから逃れようとしたが、激痛に体が硬直する弓美。
愕然と足元を見れば、はっきり腫れ上がっているのが分かった。
「ぃ、いや・・・・!」
戦えぬ身、強大な敵、挫いた足。
絶望に涙を零しかけた。
「――――ッ」
――――その光景を。
シュバルツの足元が、不自然に揺らぐ。
「――――ぁ」
大きく広がって、波打つ。
「――――ア?」
やっとこちらに気が付いて、振り向いたシュバルツへ。
「――――10万ボルトォッ!!」
香子は指をつきつけ、指示を咆えた。
◆ ◆ ◆
――――あ、ありのまま。
今起こったことを話すぜ!?
香子の遺体を、家族で確認しに行ったら。
遺体が、ワンコとすり替わっていた・・・・!
何が起こったのか、わたしにも分からなかった・・・・!
いや、嘘みたいだけどホントの話だって。
遺体の収容袋がぶるぶる震えて、ホラーが始まったかと思ったら。
クロがぴょこんって出て来たんだって!!
「――――」
付き添ってくれていた了子さんは。
手の中の、香子のスマホを黙って見降ろしている。
袋から現れたクロが、キャッシュカードみたいに口から出して渡してくれたものだ。
画面には、あのいけすかない役人と、シュバルツのツーショットが。
動画でも静画でも、ばっちり残されていた。
「え、は?」
「な、何が、どう・・・・?」
わたしも、お父さんも、お母さんも。
状況を上手く呑み込めていない。
さきまでの地獄だった空気が、今やすっかりカオスだ・・・・!
「・・・・」
そんな中、動いたのは了子さん。
小さく呟いたかと思うと、香子のスマホを怒りのままに握りしめる。
「――――小童が」
手元でミシミシと悲鳴が上がるのもお構いなしに。
「――――無謀をッ、謀りおったなッ!?」
轟、と絶叫した。
おまけ
香子「――――アイムアライブ!!!!」ドンッ
「ねえ聞いて!!生死不明で二年以上も放置されていたんだけど!?」
「わたしこれ怒っていいよね!?ね!?」
「今なら布留部由良由良ってもいいよね!?」
「いける気がする!!」
例のアレ「――――」ハァーイ
香子「」
「――――ウワアァーッ!?」腹の底からのシャウト