チョイワルビッキーと一途な393   作:数多 命

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ストックできましたので、投下します。
今回は少ないです。


執行者事変
影と夢


「思ったより削れたわねー、どうするのこれ?」

 

「問題ない、このまま米国へとどめを仕掛ける」

 

「プランの変更はナシというワケだ」

 

「ふぅーん?あ、『プラン』と言えば・・・・」

 

「何だ?」

 

「じゃーん!新鮮なプラムー!市場でおいしそーなの見付けたから、買っちゃったのよー!」

 

「・・・・Japonai et blagues(ジャパニーズジョーク)というワケだ、センスは別として」

 

「なぁによう!そんな言うならあげないわよ!?せっかくキンッキンに冷やしておいたのにぃ」

 

「まったく・・・・」

 

「さすがの君も頭を痛めるというワケだ」

 

「いや、いただく」

 

「食べるワケかッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――気がつくと、浮かんでいた。

耳を済ますと、水が流れる音。

目が見える。

上から差し込む青い光、どうやら海の中らしい。

不思議と息苦しくない。

体に感触、誰かに抱きしめられている。

響だった。

たった二人で、広い広い海の中を漂っている。

響の温もりを感じる。

少し違和感を持ったが、幸せなので後回しにした。

・・・・このまま。

誰にも邪魔されない、静かな時間を。

ずっと過ごせたら。

 

――――ッ

 

願ったときだった。

急に強い流れがやってきて、ぶち当たる。

あっさり解ける抱擁。

響を引き剥がされる。

 

――――響!

 

手を伸ばす。

だが、響は微動だにしない。

流れに何もかも邪魔される中、はっきり見えた。

虚ろな目で、人形のようにぐったりしている響を。

ぴくりとも動かない彼女は、そのまま海流にさらわれていく。

やがて少し下の位置に落ち着いた響は、そのまま沈み始めた。

 

――――いやだ!響!

 

必死に流れに逆らって、なんとか響の下へ行こうとする。

だけど、いくらもがいてもたどり着けない。

流れが、水が。

嘲笑うように行く手を阻む。

四苦八苦している間にも、響はどんどん沈んでいく。

 

――――響!響!

 

思い出したように、水が性質を取り戻した。

現実と同じ酸素の無い状態になり。

暴れすぎた所為で、思わず息を吐く。

呼吸が泡となり、水中に散っていく。

同時に体が浮かび始めた。

逆へ向かう体をどうにか海中へ戻そうとするも、いかんせん浮かぶ力のほうが強い。

依然響は沈み続けている。

暗い暗い海中へ、更にその下の海底へ。

自分は逆に浮かび続けている。

明るい太陽の下へ、空が見える海面へ。

 

――――いやだ!一緒じゃなきゃいやだ!響ィッ!!

 

息なんてとっくに限界を迎えている。

だけど溺れるよりも、響と離れる方がよっぽど恐ろしい。

もがく、泳ぐ、暴れる。

何とか響の下へ向かおうとして。

水面に突っ込まれた、いくつもの手が引っつかむ。

 

「こっちだ!引き上げるぞーッ!」

「大丈夫かい!?」

 

体が求めてやまなかった空気。

はっと見上げれば、何人もの赤の他人がほっとした顔で見下ろしている。

 

「助けられてよかった」

「さあ、早くこっちへ」

 

引き上げようとする彼らに向け、首を横に振る。

『友達がまだ下にいる』

『自分じゃどうにも出来ない』

『助けて欲しい』

言葉はしっちゃかめっちゃかになったけど、伝わらないはずがない。

だけど、

 

「何を言ってるんだい?」

 

きょとんと、問いかけられた。

 

「今沈んでいるのは人殺しだろう?」

「死んで当然の悪人だ、子供だからって容赦しちゃいけない」

「あんな汚いものには、関わっちゃいけないんだよ」

 

背筋が凍った。

何を言っているのか理解できなかった。

 

――――違う!人殺しじゃない!

――――響はそんな酷い人じゃない!

 

訴える。

響はもう悪いことをしない。

もう誰も傷つけないから、助けて。

 

「聞き分けの無い子だ」

「可哀想に、騙されているんだね」

 

違う、違う、違う。

ねえ、聞いて。

あの子も助けて。

響を助けて。

 

「さあ!早いとこ陸地へ帰ろう!」

「ほら、そこにいちゃ危ないよ」

 

海中へ戻ろうとする。

たくさんの手が阻んで、引き戻す。

 

――――響!いやだ!響!!

 

海へ向けて伸ばした手すら、捕まれて下ろされる。

船が離れる。

響が離れる。

冷たい水の中へ、寂しい海底へ。

響が置き去りにされる。

 

――――響ッ!!響ッ!!響ッ!!

 

もはや声は届かない。

響の姿は、どこにも見えない。

 

「ああ、よかった」

「あいつは死んだ」

「悪は滅びて当然だ」

 

周りの人々は心底安心した顔で、口々に言い合っていて。

誰も、誰も。

響を案じてくれなかった。

助けようとすらしなかった。

死んで当然だと、それが一番なのだと。

何度も何度も、頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――は、は、は、は」

 

一瞬、意識が飛んでいた。

喉がひりひりする、叫んだのだろう。

動かない体が動くようになる。

視線をめぐらせると、見慣れた自室。

真っ暗なので、まだ夜のようだ。

 

「は・・・・はっ・・・・はぁ・・・・・!」

 

呼吸が落ち着いてくる。

喉の引きつりが収まってくる。

無意識に上を仰いで、最後の一呼吸。

ゆっくり、大きく息を吐き出せば。

波打っていた胸中が、やっと凪いでくれた。

ふと見ると、ぐっすり寝入っている響。

隣の騒ぎなんて気付かないまま、ただ寝息を立てていた。

 

「・・・・ッ」

 

過ぎる、悪夢。

暗く冷たい海の底へ、無抵抗のまま沈んでいく姿。

慣れたはずの冷たさが、言いようも無い不安を駆り立てる。

臆する心をどうにか宥めすかして、体を横たえた。

 

「んー・・・・・」

 

呑気な寝言を上に聞きながら、顔を埋める。

しばらくじっとしていれば、やがて聞こえる心臓の音。

 

(・・・・ああ、よかった)

 

規則正しく刻まれるリズムで、やっと安心した。

夢じゃない。

響は生きて、ここにいる。

 

「みくー・・・・」

「ゎ・・・・!?」

 

腕が回ってくる。

名前を呼ばれたので、起こしてしまったかと焦るが。

また聞こえてきた寝息にほっとした。

抱き寄せられて、先ほどよりもはっきり鼓動が聞こえる。

自分のとあわせて、静かなハーモニーを奏でている。

夢が現実にならないように、夢のままで終わってくれるように。

まどろんだ頭で祈りながら、再び眠りについた。




思えばこの作品書き始めたのも『夢』がきっかけでした・・・・(遠い目)

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