彼を作り出したガンバライジング社は
謎の仮面ライダー研究機関である。
ガンバライダーの目的は─────
オリジナル設定などが多々見られますのでご注意ください。
楽しんでいただけたら幸いです。
GANBARIZING CORPORATIONと書いてあるプレートを見つけ、ここが俺の目的地であることを確認する。ガンバライジング社本部。東京都台東区に位置するこの会社は、様々な分野で世界中に展開する超大型企業であり、その外観はもはや要塞と呼ぶに相応しいものだった。
俺は一度深呼吸をすると、キャリーバッグを転がしながらロビーへと入る。
ロビーにはサラリーマンや白衣を着た医者らしき人、会社見学に来たであろう子供たちなど多くの人がせわしなく動いていた。大きなモニターからは仮面ライダーやガンバライダーのプロモーションビデオが流れている。
ガンバライダーは十数年前、突如現れた怪人に対抗すべく生み出された存在だった。現在その数は約2万人にものぼり、GRZ社とガンバライダーは人々の平和の象徴的存在になっている。
そう、アカデミーでの3ヶ月に渡る訓練を終えた俺は、今日からガンバライダーとして働くためここにやってきたのだ。
俺はそんな思いを噛み締めながら総合案内所へとさらに進む。
「あのー」
「どうかなさいましたか?」
「今日からこのガンバライジング社本部に配属になった黒羽望(くろばのぞむ)です」
未だ使い慣れない敬語で俺は受付嬢に挨拶をする。
「黒羽望さん、ですね。お待ちしておりました。ただ今オペレーターをお呼びしますので、時間までそちらのベンチにお掛けになってお待ちください」
「……わかりました」
予定の時間まではあと10分程あったのでどこか見て回ろうかとも思ったが、受付嬢にそう言われてしまった以上仕方がないので、言われるままベンチに腰掛けた。
……来ない。予定の時間からもう45分は経っている。モニターのプロモーションビデオももう10周目に突入しようとしていた。仮面ライダーもガンバライダーも大好きだが流石に少し飽きてきた。
俺は席を立つと再び総合案内所へ向かう。
「すみません。この社内の地図とかってありますか?」
「地図ですね。少々お待ちください」
そう言いながら受付嬢はカウンターの下を漁る。
「こちらがフロアマップですね」
スマイルを向けながらマップを手渡してくる。交代したのか、さっきとは別の人だった。
「あっ、どうも」
こうなったら自力で向かうまでだ。俺はマップを手にGRZ社の内部へと歩を進めた。
「しまった。目的地訊くの忘れた」
どれくらい歩き回っただろう。
GRZ社のマップ、それを穴が開くほど見つめているが自分が今どこにいるのか全く分からない。場所を尋ねようにも誰ひとり見当たらない。それになぜか空気がピリピリしてやけに静かだ。
もう生きては辿り着けないかもしれない……そう思っていた矢先。
「すみませ──ん!」
若い女性の声だ。
ほっとした。俺だけGRZ社に取り残されたとかそういうわけではなさそうだ。
声がしたほうに向き直ると、スーツ姿の小柄で若い女性が走ってきた。顔を紅潮させたまま、膝に手をついてゼェゼェと肩で息をしている。GRZ社の社員の人だろうか。
「なにかあったんですか」
「あの、人を探しているんですけど……」
「人探しですか……そりゃ大変そうっすね。俺でいいなら、手伝いますよ」
ついノリで言ってしまったが、正直言って見つけられる自信はない。ここに来て間もないしまず人がいないだろう。
「ありがとうございます」
女性の顔がパッと明るくなる。彼女を見ていたらそんな不安などどっかに飛んで行ってしまいそうだ。
「えっと、この人です」
そう言いながら彼女はポケットから一枚の紙を取りだし、俺に渡す。それには黒髪で赤目の男の顔写真や経歴がびっしりと書かれていた。その男の名前は黒羽望というらしい。
間違いなく俺である。
「あのー、これ俺です」
「えっ」
信じられない、といった表情だ。俺も信じられない。顔をあらかじめ知っているのに気がつかないなんてことがあるのか……。
「すみません……申し遅れました。私は、本日付で黒羽さんの専属オペレーターとなりました。紀戸千菜(きど せんな)です」
彼女はぺこりとお辞儀をする。
オペレーター。それはガンバライダーのサポーター兼お目付け役である。ガンバライダーの中には元犯罪者や体をあちこちいじられてもはや人間ですらない奴とか、いろんな輩がいるらしい。そいつらがガンバライダーの力を悪用しないようにガンバライダー一人につきオペレーターが一人派遣されるという形式になっている。……と、俺はアカデミーで教わったことを反芻しながら彼女の話を聞いていた。
「……」
「どうかされました?」
彼女の声により思考が一気に断ち切られる。
「あっそうだ自己紹介……。俺のことはもう知ってると思うけど、黒羽望です。よろしく頼んます。紀戸さん」
俺がそう言うと、彼女はクスッと笑う。なんだろう。どこか噛んだりしただろうか。
「『紀戸さん』だなんて。そんなに気を遣わなくていいですよ。もっと楽にしてください」
「そんな風に見えたのか……?気を遣ったつもりはなかったんだけどな」
そんなことを言いながら、俺はまたアカデミーでどこかの教官がガンバライダーとオペレーターは二人三脚だ!とかなんとか言っていたのを思い出していた。確かに親密な関係になるに越したことはない。
「じゃ、お言葉に甘えて。よろしくな。紀戸ちゃん」
「紀戸ちゃんですか」
「あ、ダメだったかな」
「いえ、慣れてなかっただけです。……こちらこそよろしくお願いしますね」
初めてのオペレーターが彼女でよかった。これなら何とかやっていけそうな気がする。
すると千菜は思い出したように言った。
「それでは部屋に案内しますね。詳しい説明はそちらでします」
第043オペレーションルーム。
日本語訳で作戦司令室なんて言うものだから壁一面にモニターがついていてSFチックな感じのものを想像していたがそんなことはなかった。だだっ広い空間に大きなコンピュータと少しの家具。本当に必要最低限のものしか置いていない。コンクリート打ちっぱなしの壁だからか、なんだか冷たい感じだ。
「ここが黒羽さんと私の仕事部屋、みたいな感じですね。黒羽さんの戦闘中、私がここでガンバライダーシステムの制御をします」
俺のオペレーターである千菜は事務的に、淡々と説明をこなしていく。彼女には悪いがずっと話を聞いているので少し眠くなってきた。
「それでこのコンピュータが……あの、ちょっと、黒羽さん!起きてください!一応聞いてもらわないといけないことになっているんですから!」
「……あぁ、ごめん。割と眠かった。で、なんだっけ?GRZ社は特殊な構造だから迷子になっても仕方がないって話だっけ」
「その話はかなり前に終わりました!そこから聞いてなかったんですね……」
千菜は大きなため息をつくと、観念したようにどこからかアタッシュケースを取り出す。俺の予想が正しければそのケースの中身は──。
アタッシュケースの中身はやはりガンバドライバーだった。さらにICカードとガンバライダーカード、GRZ社のマークもといガンバライダーのライダーズクレストが刻まれた100円玉程度の大きさのコイン──ライドメダルが数枚入っている。どれもキズ一つない新品だ。
「これが貴方のガンバドライバーです。まだガンバドライバーとICカードとガンバライダーカードには利用者登録をしてないのでいじらないで──」
「あ、ごめん紀戸ちゃん」
俺はガンバドライバーを撫でまわしながら謝った。千菜はしばらく呆然とした後、がくりと肩を落とす。
俺のオペレーターとなってしまったのが彼女にとって運の尽きだったかもしれない。いや別に彼女が自分の意志で俺のオペレーターになったわけではないのだが。
「……じゃあいじっていてもいいのでとりあえず待機しておいてください。事が片付き次第オリエンテーションが行われるのでそれまでは」
呆れ返った感じで千菜が言った。さっきから結構な頻度でため息が漏れている。
オリエンテーションか……。お偉いさんが長ったらしく話でもするのだろうか。ここまで考えて、俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
「事が片付き次第って?なんか起こってんの?」
「はい。数十分前に『ゼノ』が出現して、数名のガンバライダーが現在も交戦中です」
そう言うと千菜はたどたどしい手つきでコンピュータを操作し、モニターに映像を映し出す。そこに映っていたのは黒い靄(もや)に対して武器や拳を振り回し戦闘?を繰り広げるガンバライダーたちの姿だった。
ゼノ──それこそがこの世界における仮面ライダーの怪人のような存在だ。カメラや鏡を通すと黒い靄のようにしか映らず、肉眼でしかその本当の姿を確認できないという。聞くところによると「辛うじてヒトの形状を保っている」とか。とにかく正体が一切掴めていない、無駄に名前がかっこいい怪人なのだ。
「だから俺が迷子になってたとき人気がなかったのか。それにしても気味わりぃ」
「そうですね。本当は私がもっと早く黒羽さんを迎えに行くはずだったんですけど、こっちを優先するようにと言われたので……。すみません」
「気にしなくていいって。勝手にうろついた俺も悪いんだしさ」
などと話をしていると突然、コンピュータから警報が鳴り響く。千菜はインカムを装着しながら言う。
「ゼノの出現を確認しました。ポイントE╼06です!」
「噂をしたらってヤツか。……出撃する?」
俺がそう尋ねると、千菜はこわばった顔で小さく頷いた。
俺は千菜に言われたとおりに格納庫へ移動する。格納庫はジメジメして薄暗い。肝試しにはうってつけの場所なのではないだろうか。
徐々に薄暗いのに目が慣れてきた。
よく見ると中央にバイク、そしてその周りには用途不明の機材がいくつも積まれている。
こういうのは秘密基地みたいな感じがして好きだ。大好きだ。そんな感じでひとりでに盛り上がってうろちょろしていると『何をしているんですか!』……と千菜の声が聞こえてきた。
格納庫には俺しかいないはずだ。なのにどうして──幻聴か?
『もう、早く準備してください。ほかのガンバライダーさんに先を越されちゃいますよ』
間違いない、バイクから声が聞こえている。まさかバイクに通信機能がついているとは思っていなかった。
「いやあ悪い。突然バイクから紀戸ちゃんの声が聞こえてきたからもんだからさ。自分の脳をバイクにでもインストールしたのかと思った」
そう言いながら俺はせっせと準備をする。でももし本当にそうだったらなんと呼べばいいのだろう。ベルトさんならぬ……バイクさん?
『冗談は任務が終わったらいくらでも言ってください』
彼女はもう俺の扱いに慣れたようだった。
バイクにガンバライダーカードを差し込む。すると低いモーター音が格納庫全体に響き渡り、ひとりでにエンジンがかかった。バイクのライトが光ったことによりようやくバイクの全体像が見える。緑と黒が織り交ざったスーパースポーツバイク。戦闘用に改造されているはずなのに、どこかで見たデザインそのままだ。
『じゃあ黒羽さん、用意はいいですか?』
「ああ、いつでも行けるよ」
『第043格納庫、ゲート開閉します』
俺が返事をするのに合わせて千菜がゲートを開閉させた。格納庫に外の光が差し込む。
「もう行っていい?」
『黒羽さん……』
スピーカーを通して千菜の声が聞こえる。どこか不安そうな感じだ。
「どうした?」
『あの……ご武運を、祈ります』
「ああ、無理しない程度にやってみるさ」
俺はアクセル全開でゼノが現れた現場へとバイクを走らせた。
千菜のナビゲート通りにバイクを走らせ、規制テープを張り巡らして待機している警官にGRZ社の社員証──ICカードを見せて許可をもらってから避難区域に突入する。
どうやら俺が一番乗りだったようだ。運がいいのか悪いのかよくわからない。
『目標までの距離、あと100メートルです』
目的地周辺に到着。だがゼノは物陰に隠れておりこちらからは詳しくわからない。
俺はバイクを停め、ガンバドライバーを取り出して腰に装着する。アカデミーで教わった変身シークエンスを思い出しながら、ドライバーに起動スイッチとなるライドメダルを装填。それと同時にドライバーが起動、システム音声が鳴り響く。ICカードを取り出して構える。
「……変身!」
ICカードを差し込む。即座にシステム音声が鳴り、足元にガンバライダーのライダーズクレストが展開。ガンバライダーの稼働に必要なD₂粒子の供給を開始。身体が鎧に覆われる。頭部のフレームにカード型の顔が装着し、変身完了。胸のアーマーに液晶モニタがついているのが特徴的な第二世代のアーキタイプガンバライダーの姿だ。
『ガンバライダーシステムの起動を確認。D₂粒子供給量、融合率、すべて正常です。……すみません。利用者登録が完了していなかったのでガンバライダーのスペックは最低レベルのままです……』
千菜が申し訳なさそうに言う。だが元を辿れば原因は俺にある。自業自得というやつだ。
「じゃあさっさと任務を遂行して、それも終わらせちゃおうぜ」
ゼノもさっきの変身で俺の存在に気付いたようだ。物陰からのそりと出てきて、その姿があらわになる。
初めてゼノを肉眼で視た。こいつは今まで目にしてきたどの怪人とも似つかない姿をしていた。禍々しく、ひどく不潔で、怪異的な、この世界の歪みがヒトという型を得て具現化したかのような。この世界に存在してはいけない──一目視ただけでそう思った。
人間の身体のあらゆる器官は存在しないか、存在していても形だけでその役目は果たしていないだろう。四肢は細長く、皮膚は鎧を纏っているかのように堅そうだがところどころ裂け目が生じている。その裂け目からは見たこともないような色の体液が漏れ出していた。
この生きるという概念すらあるのかどうか怪しい生命体には影もできていない。いや、存在自体がこの世界の影にあたるのかもしれなかった。
「──────」
何か声のようなものを発している。しかし、それがヤツのどこから発されているものなのか、それがどのような意味を持つのか全く理解できなかった。
「っ──!」
猛烈な吐き気が俺を襲い、思わず地に膝を突く。あんなバケモノを見たんだ、無理もない。しかしマスクの中で吐瀉物をぶちまけるわけにもいかないので気力で堪える。
俺は仮面の奥で顔を歪めながら立ち上がり、ゼノを再び視界に捉えようとした。
しかし、ゼノは音もなく姿を消していた。
「くっそ、どこだ!」
『黒羽さん!上です!』
千菜の声を聞き俺は慌てて身を翻す。すると俺がさっきまでいた場所にくるくると回転しながらゼノが着地した。コンクリートが割れ、破片が飛び散る。
「──────」
ゼノが首より上の部分をこちらに向ける。気持ち悪いから見ないでほしい。
瞬間、ゼノが地を蹴り弾丸のような速さで俺に接近する。腕を鞭のように振るい、すべてを薙ぎ払おうとする。
俺が身を屈めてかわす。ゼノの腕が俺の頭上を擦過し、背後で何かが大きな音を立てて壊された。なんだかとても嫌な予感がする。
「おま……俺のバイク壊しやがって!」
そこにあったのはバッキバキに壊されたバイクだった。ライダーの象徴であり、これから俺の愛車となるはずだったモノをよくも……!
俺は怒りのままに拳を振るう。その拳は見事ゼノの顔面にヒット。まさかあんな見た目で物理攻撃が通用するとは思っていなかった。
「まだまだッ!」
さらについさっきまでバイクだったものを持ち上げ、ゼノに投げつける。バイクの恨みは恐ろしいと我ながら思った。
「紀戸ちゃん!」
『はっ、はい!なんでしょう!』
「今使える武器ってなにかある?」
『えっとですね……ガンバソードとガンバブラスターしかありません』
「じゃあいいや、どっちもちょうだい」
『わかりました。ガンバソードとガンバブラスター、生成を開始します』
ゼノが倒れて怯んでいる隙に、俺はオペレーションルームと通信しながらドライバーを操作する。自分が使いたい武器を脳内でイメージ。光を纏い、ガンバソードとガンバブラスターが手元に現れる。
『ガンバソード、ガンバブラスター。生成完了です』
ゼノがバイクの残骸から飛び出してきた。両手に武器を持ち応戦する。
ソードを振りおろしゼノの左腕を切断した。ゼノは口のような器官を大きく開き、俺の右脇腹を抉った。その衝撃でソードを手放してしまう。ソードは地面に落下する寸前で光の塊となって消えた。くそったれ。痛くて怖くて泣きそうだ。
ゼノの頭を掴み引きはがすと、そのまま口にブラスターをねじ込み光弾を数発お見舞いしてやる。しかしそれは致命傷には至っていないようだった。
俺はブラスターを口から引き抜くとゼノを両腕で放り投げ、無理やり距離を取った。
『バーストゲージ、溜まりました。バーストチェンジ可能です』
「ハァ、キッツい……」
「──────」
ドライバーをいじりながら顔のカードを引きはがし、裏返して再び装着させる。
「バーストチェンジ!」
本来なら背中にバーストパーツが生成されるはずなのだが、アーキタイプだからか背中はがらんとしたままだ。
再びドライバーを操作する。必殺技の準備だ。
『リミッター解除。右脚のD₂粒子充填率200%を突破』
右脚の白いラインが発光。時間が経つにつれ右脚が焼けるように熱く、そして重くなっていく。気づくと全身から煙のようなものが噴き出していた。
ふっ、と軽く息を吐きながら脚に力を込めて飛翔。コンクリートが砕け散った。ものすごい力だ。
軽く地面を蹴っただけなのに十数メートルは飛んでいた。とてつもない浮遊感が俺を包み込み、時間の流れが緩やかに感じた。
「これでも喰らえ!」
脚を思い切り伸ばして急降下。ライダーキックが炸裂し、ゼノの体を貫通した。
ガンバライダーのライダーズクレストが展開。ゼノは自身の体液をまき散らしながら、黒い靄と化して消える。
『目標の消滅を確認。……お疲れ様でした』
千菜が安心したように言う。
俺もICカードをドライバーから抜き取り変身を解く。途端にさっきまで堪え続けていた吐き気と全身の痛みが襲ってきた。
「……う''っ''」
『えっ!ちょっと大丈夫ですか!?』
ドライバーから声が聞こえてくる。バイクだけじゃなくドライバーにも通信機能がついてたのか……と吐瀉物をぶちまけながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。
「悪い。ちょっと休ませて……」
それを言うと俺はコンクリートの上に仰向けに倒れこむ。千菜が俺に呼びかけているようだが何を言っているか理解できなくなってきた。もう駄目だ、意識が──。
こうして、俺のガンバライダーとしての生活は幕を開けたのだった。