ウォン ウォン ウォン…
「ワグナス!!運搬クエストが面倒で仕方がないぞ!」
「…ダンターグめ!ネコの着地術も無しに卵を持ったまま崖から飛び降りてみせるなど!」
「…奴を責めることはできまい。もうレイアの顔が見たくないからとクエストを押し付けたのは俺たちだ。」
「わかっていただろうにのう、ワグナス。」
「ボクオーン。」
「あの簡悔の精神を持つ連中が楽にクリア可能なクエストなど用意するものか。」
「では我々は何の手だてもないまま卵を担いで走り、落とせと言うのか!」
「そうじゃ。それが制作側の言う「正しい運搬」のやり方だ。」
「自らは卵を持たずに我々に運ばせておいてか―――。」
「ノエルお兄様!ウラガンキンとアグナコトルがうろつく火山から火薬岩を持って帰るクエストが依頼されたわ!!」
「よし!」 チャキ
「行くのか?」
「…死ぬなよ。」
「火薬岩など何万落としたか知れないよ。」
このネタ通じる?
リノプロスの巣から卵を盗み出した山城と雪風。
二人は来た道を通ってそのまま戻ることにする。
「思ったよりアッサリでしたね!もう拠点とオアシスをつなぐ道も覚えたし、これを繰り返すだけなら運搬って思ったより簡単かも!」
簡単に卵が手に入ったせいか既にクリアしたも同然と言わんばかりに油断している雪風。
しかし経験豊富な山城はここからが本番と気を引き締める。
「あれっ?あんなところに黄色いトカゲがいますよ。」
まだ砂漠にも到達していない岩場のエリア。
そこに黄色い鱗と二対の小さいトサカを持った恐竜のようなモンスターが数匹たむろしていた。
「やだっ、あれゲネポスじゃない。」
「ゲネポス?」
「麻痺毒を持った攻撃的な小型モンスターよ。幸い親玉のドスゲネポスはいないみたいだけど今の状況じゃ面倒ね。」
「行き掛けにあんなのいましたっけ?」
当然いない、いればすぐに気付くだろう。だが驚く雪風と対照的に山城は冷静だった。
何故なら運搬クエストにおいて行き掛けは安全だったエリアでも、運搬アイテムを持って帰ろうとすると突然現れた危険なモンスターに妨害されるというのはあるあるだからだ。
運搬の邪魔をするためだけに湧いて出てきたとしか思えないこれらのモンスター、まるで楽に運搬させてなるものかという『大いなる意志』の介入を疑う現象である。
ベテランの山城にとってこのような運搬の妨害は慣れたものであり、驚くに値しない。
「ゲネポスは目がいいわ、見付からずに進むのは不可能よ。奴らの攻撃をかわしながら進むしかないわね。」
「えっ、戦わないんですか?」
「普段だったら戦うわよ、でも卵を運んでいるのに戦えるわけがないでしょ。」
「あっ、そっか!」
とぼけたことを言う雪風に呆れながらも山城は意を決してゲネポス地帯に足を踏み入れる。
「全方位に気を配るのよ!どこから攻撃が飛んできてもおかしくないわ!」
「はいっ!」
「クギャラッ!クギャラッ!」
「ギャッ!ギャッ!」
「バオゥ!バオゥ!」
山城と雪風を発見したゲネポス達は一斉に走り出し、跳躍力を生かした飛び蹴りや麻痺牙による噛み付きで二人を歓迎する。
「雪風はやられません!」
小柄な体を活かして雪風はゲネポスの牙を回避する。
雪風を狙うゲネポスは一頭だけだったので、攻撃を空ぶったゲネポスが体勢を立て直す前にさっさと走り抜けることでエリアを突破する。
「私もこんなところからはさっさとおさらばさせてもらうわよ!」
山城は一頭目のゲネポスの蹴りを走って回避し、その先に待ち受ける二頭目の尻尾攻撃を身体を逸らすことで避け、三頭目の噛み付き攻撃をガードの体勢も整っていない盾で無理矢理受け止める。
並の狩娘なら回避の難しいゲネポスのジェットストリームアタック。
だが山城はG級の筆頭狩娘、そのくらいで捕まるようなヘマはしない。
「……っていうか何か私だけ露骨に狙われてない!?」
雪風の妨害をするゲネポスは一頭だけなのに対し、残りのゲネポスは全て山城の方へと向かってきており状況は四面楚歌。
「舐めんじゃないわよ!武器が使えないからってベテラン狩娘を甘く見るな!」
「グギャッ!?」
山城は一番近くにいたゲネポスの頭に回し蹴りをお見舞いし、怯んで動きが止まったところで今度は渾身の横蹴りを繰り出して吹き飛ばす。
蹴られたゲネポスはまるでボウリングのように後続のゲネポスを複数巻き込みながら転倒、それに動揺したことで他の個体の動きも一時的に止まる。
「山城さん凄いです!」
「喜ぶのは後にして!いいから早く逃げるわよ!」
これだけ激しい攻防を繰り広げておりながら肝心の卵には罅一つ入っていない、山城の絶妙な力加減とバランス感覚がなせる業である。
ゲネポスの動きが止まっている隙に山城は先に逃げていた雪風と合流し、岩場エリアから抜け出すことに成功するのであった。
岩場エリアを抜けた先は砂漠エリアになっており、そしてその砂漠を抜ければベースキャンプ。
ゴールはすぐ近くだからこそ失敗するわけにはいかない。
しかし砂漠には二人の行く手を阻む第二の刺客が待ち受けていた。
「山城さん見て下さい、砂の中を背ビレが泳いでますよ!すごーい、あんなの始めて見ました!」
珍しいものを見たと言わんばかりに目を輝かせる雪風。
だが山城にとって砂漠を泳ぐ背ビレなど厄介者以外の何物でもない。
「ガレオスまでいるの!?パッと見で一頭しか見当たらないからそこは不幸中の幸いだけど……。」
「ガレアス?」
「ガレアスじゃなくてガレオスよ。それエルガド鎮守府で言ったら怒られるからね。」
エルガド鎮守府とはカリュード諸島のある地域にて、突如として出現した謎の大穴を調査するために造られた鎮守府であり、そこを指揮する人物こそガレアス提督である。
ガレアス提督はカムラ鎮守府のフゲン前提督とも親交のある歴戦の猛者であり、その経験と実力から多くの功績を上げている。
そんな偉大な人物の名前をモンスターと混同するなど失礼にも程がある。
エルガド鎮守府にはガレアス提督を尊敬する者も多く、万が一彼らの前で提督の名前を間違えてしまえば厄介なガレアスファンの手によって吊るし上げられてしまうだろう。
「ガレオスは砂の上を歩く獲物の足音を敏感に察知して襲ってくるわ。砂地に足を踏み入れた時点で交戦は避けられないものと思いなさい。」
意を決して山城と雪風は岩場と砂漠の境目を超える。
その瞬間、縄張りを巡回するように一定のルートを泳いでいた背ビレは山城達の方へと向きを変えた。
「来たわ、背ビレで引っ掻けようとしている!あのヒレにはゲネポスと同じように麻痺毒を持っているから絶対に当たっちゃダメよ!なるべく小さい動きで避けて!」
高速で迫ってくる背ビレ、二人はそれを卵を抱えたままステップでかわす。
しかしガレオスの攻撃は止まらない。
背ビレによる攻撃は効果が薄いと判断したのか、今度は弧を描くようにゆっくりと泳ぎながら徐々に接近してきた。
そして残り数メートルまで近付いたところで背ビレは砂の中へと沈んでいく。
「足元から飛び出してくるつもりよ、スピード上げて!」
山城と雪風は全力で走り出す。
その直後に先程まで二人がいた場所の砂が爆ぜ、そこからシュモクザメのような姿をした生物が飛び出してきた。
「あれがガレオス、大きい……。」
ガレオスの全長は10メートルに僅かに届かない程であり、ちょっとした中型モンスター並の大きさを誇る。
しかしこのサイズでも能力的には小型モンスターであり、本来は群れを作ることで真価を発揮するモンスターでもある。
それを考えればたかが一頭のガレオス程度に怯んでなどいられない。
「急いで!もう少しでベースキャンプなんだから!」
砂の上に落ちたガレオスは再び地中に潜ると高速で二人の後を追ってきた。
「キュイィ!キュイィィ!」
「変な声で鳴きながら追ってきてます!」
「あの鳴き声は滑空攻撃の前兆、あの図体でグライダーみたいに飛んでくるわよ!」
滑空攻撃は動きこそ直線的だがスピードが速く、またガレオス自身の大きさも相まって卵を抱えたままでは避けにくい攻撃である。
1、2回程度ならともかくこれを何度も繰り返されれば運搬どころではなくなってしまうだろう。
「そうだわ!こっちに来なさい!」
雪風を連れて山城はある場所を目指して走り出す。
その際にワザとらしく大きな足音を立てるのを彼女は忘れない。
足音によって聴覚を刺激されたガレオスは興奮状態に陥り、二人目掛けて飛び掛かる。
「キュオオォォ!!」
「今よ!避けなさい!」
ガレオスの滑空攻撃を察した山城は右に、雪風は左に向かって大きく避ける。
ガレオスは二人が左右に避けた間を勢いよく通り過ぎていった。
飛び出したガレオスはそのまま砂の上に落ちて再び地中に潜っていくと思われたが……。
「キュガッ!?」
その前に砂漠から突き出た岩に激突し、力なく墜落する。
モンスターを岩にぶつけて自滅させるこの手法は突進を多用する一部の大型モンスターに対して有用な攻略法である。
本来ガレオス相手に使う手法ではないのだが、ガレオスの視力の悪さを知っている山城は同様の戦法が通用すると判断したのだ。
なお通常ならガレオスは苦戦する要素のない小型モンスターなのでこんな小細工を使う必要はない。
砂から引きずり出すのが面倒な人が高周波を使う程度である。
卵を抱えて戦闘が出来ないからこそ、このような回りくどい作戦を取ったのであった。
「さっ、今のうちにいくわよ。のんびりして目を覚まされても面倒だしね。」
ようやくベースキャンプに帰ってくることの出来た二人。
クエストを始めてまだ10分ちょっとしか経ってないのに、もう半日くらい経ったような気分である。
それくらい濃密な10分だった。
最後の最後で卵を落としては元も子もない、二人は慎重に納品ボックスの中に卵を入れる。
「ハァー……。ようやく終わったわね。」
「えっ?まだ終わってませんよ。卵の納品は五個だから、後三つ納品しなくちゃ駄目ですよ。」
「あっ!?」
すっかり終わった気になっていた山城だったが、雪風の一言で正気に戻る。
後輩の前で油断した姿を見られた山城は恥ずかしさを誤魔化すように一度コホンと息を吐くと、次の出発の準備をするのであった。
行きの描写は変わり映えしないので割愛する。
強いて言うのであれば今は卵を持っておらず身軽なので、ガレオスにもゲネポスにも全く絡まれることなく通り抜けることが出来た。
そして再びリノプロスの卵を二個回収するとその場を後にする。
今度は安全に帰ることが出来るよう祈りながら。
「あれっ?」
「どうしたの?」
「ほら、あそこのゲネポスの縄張りになっている岩場のエリア。そこに入るための通路が大きな黒い岩で塞がれてます。」
雪風が顎で指し示す方向、リノプロスの巣とゲネポスの岩場エリアをつなぐルート。
そこにはちょっとした家くらいありそうな大きな巨岩が鎮座していた。
「ついさっきここ通ったばかりですよね?その時はこんなものなかったと思うんですが……。」
雪風の言う通り、ベースキャンプからリノプロスの巣へ向かう際にはここには何もなく、普通に歩いて通過した。
それから卵を拾ってここまで戻るまでの短時間でこんな巨大な岩が出現するなんてことは常識的に考えてありえない。
しかし常識なんてものはここカリュード諸島では意味をなさない。
そんなことについて考えるよりさっさと目の前のクエストを終わらせて帰った方がいいということを山城は知っているのだ。
「隙間も無いし、ツルツルしてるから登っていくのも難しそうですね。」
「こういう岩は硬過ぎるから強力な爆弾とかを使っても砕くのは無理よ。素直に回り道した方が早いわ。それにクエストをクリアすればこの岩も消えるから、今後の通行のことを考えるもの無駄でしょうね。」
「クエストが終わるとこの大岩が消える?そんなことあるんですか?」
「そういうものなのよ。運搬クエストはそういうものだと割り切りなさい。」
運搬クエストの時だけ出現し、クエストが終われば消え去る岩。
まるで言っている意味が分からないが、実際にそうとしか言いようのない現象なので説明のしようがないのだ。
道が通れない以上ここにいても仕方がないので、山城と雪風は来た道を戻り別のルートを探す。
二人が選んだのは荒野のエリアを通るルート。
岩場を通るよりは迂回する形となるが、足元は安定しており歩きやすい。
だがそんな環境が安定したエリアにモンスターがいないはずもなく……。
「クルルルッ!クルルルッ!」
「わぁ、ダチョウみたいなモンスターがこっちにやって来ました!ゲネポスよりもおっきい!」
「げぇ!?クルルヤック!?」
二人の姿を視認するや否やトコトコと走り寄ってきたのは発達した前脚と鮮やかなトサカが特徴的な中型モンスター、クルルヤック。
クルルヤックは二人を観察するように周囲を歩き回る。
敵意は感じられないが、ずっと見られて鬱陶しい。
「ククッ、クルルッ!」
「何だか物凄く見られてるんですけど……。」
「相手にしちゃ駄目よ。クルルヤックは基本的にこちらから手を出さなければ大人しいモンスター。目を合わさずに立ち去るの。」
まるで野生の猿と遭遇したときの対処法である。
二人はクルルヤックをいないものとして扱うように、素知らぬ顔で立ち去ろうとする。
「クックッ、クックッ。」
しかしクルルヤックは二人の後ろを着いてくる。
攻撃してくる様子は見られないが、離れるつもりはないようだ。
「な、何で着いてくるんですか?」
「私達が持ってる卵が欲しいのよ。」
「卵?」
「クルルヤックの大好物は卵なのよ。私達が隙を見せたら卵を盗られるかもしれないから決して目を合わせず、だけど油断はしないようにしなさい。卵を渡して帰ってもらうっていうのもナシよ。一度でもそれをやったら卵が貰えると思って永遠に付きまとってくるようになるわ。」
完全に猿扱いのクルルヤックだが、危険度は猿とは大違いである。
二人は緊張したまま荒野を抜けるのであった。
「やっと砂漠まで戻って来れましたぁ。」
「呆れた、コイツまだ諦めてないのね。」
「クルルルルッ!」
荒野経由で砂漠エリアまで戻ってきた二人。
おまけで卵目当てのクルルヤックまで着いてきてしまった。
砂の中では相変わらずガレオスが一頭泳ぎ回っているが、これがさっきのと同じ個体であれば振り切るのは少々難しいだろう。
モンスターとて馬鹿ではなく学習能力がある。
先程の追い掛けっこで岩の位置を覚えられた以上、岩にぶつけるという作戦の成功率は格段に下がると見て間違いない。
「あれ?ガレオスが向かってきませんね。」
しかし砂漠に入ってみれば拍子抜け。
ガレオスは遠巻きに様子を窺うだけであり、襲ってくる様子はない。
「ひょっとしなくてもコイツの仕業ね。」
「クァ?」
クルルヤックは性格が大人しく体格も小さいとはいえ腐っても中型モンスター。
一方のガレオスは体格だけならクルルヤックを上回るものの、分類上は小型モンスター。
フィジカルの差は埋めがたく、クルルヤックを恐れてガレオスは近付こうとしないのだ。
「ちょっと納得いかないけどこれはチャンスね。このままベースキャンプに直行するわよ!」
こうして山城と雪風は楽々キャンプに帰還することが出来た。
最後まで着いてこようとしていたクルルヤックだったが、ベースキャンプに続く狭い通路を見て通れないと判断したのか追跡を諦めて引き返していく。
「これで四個納品、残りは一個ね。」
「一個ということは卵を持つのは一人で大丈夫ですよね。」
「そうね。卵は雪風が持ちなさい、私が護衛してあげるわ。両手が塞がってるならともかく、フリーの私がその辺のモンスターに後れを取るわけないでしょ。」
作戦も決まり、二人はベースキャンプを後にする。
さっきまでずっといたクルルヤックはいなくなっており、行き掛けの駄賃に倒しておこうと思っていたガレオスまで見当たらない。
そのままクルルヤックと遭遇した荒野まで進んでいくが、やはりモンスターの姿は見られない。
モンスターが全くいない平和な道中、しかしその平穏に逆に胸騒ぎを覚えた二人は急ぎ足でリノプロスの巣へと向かった。
「なっ!?なぁぁぁぁ!?なぁにしてるのよ!!」
「ブアァ!!」
「ブルルッ!!」
そこで二人が目にしたのはリノプロスの巣を荒らすクルルヤックの姿だった。
クルルヤックは威嚇を繰り返すリノプロスを意に介さず、巣から卵を拾い上げるとクチバシで割って中身をすする。
「クエッ!クエッ!」
クルルヤックはある程度卵の中身を食べると投げ捨てて、次の卵を拾い上げるといった行動を繰り返している。
どうやら卵の美味しいところだけを食べたいようで、何とも贅沢というか罰当たりな食べ方である。
「うわぁ、巣の周りが割れた卵でベチョベチョです!」
クルルヤックの蛮行により巣の中の卵はどんどん減っていく。
このままほっといては卵が食べ尽くされてしまい、物理的に納品が不可能になってしまうだろう。
「やめろー、卵をよこせー!!」
某皇帝陛下のようなセリフを吐きながらクルルヤックに飛び掛かった山城は、食事中で油断しきっているクルルヤックの頭を盾で思い切り殴り付けた。
突然の衝撃でクルルヤックが怯んだ隙を見逃さず、クルルヤックの身体を掬い上げるようにランスで豪快に薙ぎ払う。
「グエェ!?」
クルルヤックの身体はいとも容易く宙を舞う。
モンスターの中では小柄な種とはいえ、自分より大きく重量もあるクルルヤックを山城は軽々と投げ飛ばしてしまったのだ。
地面に叩き付けられたクルルヤックは目を白黒させながら尻尾を巻いて逃げ去った。
元々臆病な性格の上に、自分より小さな生物にアッサリと吹き飛ばされたことで完全に戦意を喪失したらしい。
「フン!もう来るんじゃないわよ。」
クルルヤックがいなくなったことで山城と雪風は改めてリノプロスの巣を漁ろうとしたのだが……。
「卵が一個しかありませぇん!」
巣の中に残された卵はたったの一個。
初めてここを訪れたときは十個くらいあったというのにクルルヤックもとんでもないことをしてくれたものである。
「これ持ってっちゃっていいんでしょうか?」
「どういうこと?」
「だってこれ持ってっちゃったら卵が全部無くなっちゃいますよ、そんなの可哀想です!」
雪風はリノプロスの卵を全て持って行ってしまうことに抵抗があるらいい。
だが山城からしてみれば杞憂である。
「大丈夫よ。リノプロスの巣はよく襲撃されるものなの。さっきのクルルヤックだって私が追い払わなきゃ卵を全部食べてたでしょ?そしてリノプロスは巣の卵が足りなくなったと判断すれば再び産卵する習性を持ってるわ。これによって厳しい自然界の中でも数を減らすことなく生き抜いていくことが出来るのよ。だから卵を持っていくことにそこまで罪悪感を感じなくてもいいわ。もちろん無茶な乱獲や密猟はダメだけどね。」
山城は周囲のリノプロスの動向に注意を払いながら雪風に卵を拾わせる。
全ての卵を盗られたリノプロスの気持ちを考えることは結構だが、山城としては他にもっと気にすべきことがあるのだ。
「そんなことよりこれが最後の卵だから絶対に失敗出来ないわよ。いくらリノプロスが何回も卵を産むといっても、流石に一日で何個もポンポンと産んだりはしないわ。これをしくじったらまた数日後にここに来るか、別の縄張りで卵を探すしかないからね。リノプロスのためを考えるのなら、もう二度と来なくていいように必ず成功させなさい。」
「はいっ!」
クルルヤックの襲撃のより殺気立っているリノプロスをかわしつつ山城と雪風は縄張りを後にする。
リノプロスを倒して安全に帰ることも出来るのだが、卵を盗んでいるのにその親まで手に掛けるのは流石に良心が咎めるのでやめた。
岩場エリア前の黒い岩はそのままであり、二人は荒野エリアへと進んでいく。
この荒野はクルルヤックがいたエリアだが、さっきまでクルルヤックが居座っていたせいか本来ここにいるはずの小型モンスターがいなくっている。
そのクルルヤックもどこかへ逃亡してしまったため、ここのエリアは危険なモンスターのいない安全なエリアとなっていた。
お陰で二人は何一つ邪魔が入ることなく荒野エリアを通過することに成功したのだった。
大した苦労もなくあっという間に砂漠エリアまで辿り着いた山城達、一度目の大苦戦が嘘のような順調っぷりである。
しかしこれは悪名高き運搬クエストである、このまま何事もなく終わるはずもなかった。
「わっ!ガレアス……じゃなくてガレオスがたくさんいます!いっぱい泳いでます!」
目の前に広がる砂の海、その中を泳ぐ背ビレ、背ビレ、背ビレ……。
行き掛けにガレオスがいなくなっていたのは仲間を呼びに移動していたからだったのだ。
「ど、どうします?これ絶対に襲われますよ……。」
「安心しなさい、私はG級狩娘よ。ガレオス程度、何匹集まろうがあなたに指一本触れさせやしないわ!」
「分かりました、山城さんを信じます!」
二人が砂地に足を踏み入れるや否や取り囲むように集まってくるガレオス達、それを山城は次々にいなしていく。
時には盾で防ぎ、時には槍で叩き伏せる。
ちぎっては投げの大立ち回りで敵の戦意を削いでいき、わざと大袈裟に槍を振るうことによって相手を威嚇、宣告通りガレオスを寄せ付けない。
「流石は山城さんです!これならすぐにでも突破出来るかも!」
「あっ、おバカ!そういうのをフラグって……。」
BGM:一本角の盾大名/ダイミョウザザミ
雪風が不用意な発言をした瞬間、山城の足元から一際巨大なガレオスが飛び出してきた。
巨大なガレオスは山城を軽々と空高く吹き飛ばす。
「きゃあっ!?」
「山城さん!?」
「これはっ、ドスガレオス!?」
普通のガレオスが10メートルになるかならないか程度の大きさなのに対して、この個体は軽く見積もって18メートルはあろうかという巨体だった。
そう、このモンスターはガレオスではない。
ガレオスの群れを率いるドスガレオスと呼ばれる特殊な個体であり、見た目こそほとんど変わらないがパワー、体力、知能、凶暴性、全てにおいてガレオスを大きく上回る大型モンスターなのである。
「そうか、ただ群れを呼んだんじゃない!確実に仕留める為にリーダーのドスガレオスを!?」
「山城さん、大丈夫ですか!?」
「こっちに来ないで!雪風、貴方の任務は卵を納品する事!ここは私が食い止めるからさっさと行きなさい!」
吹き飛ばされながらも即座に受け身を取り立ち上がった山城はこっちに来ようとした雪風を制すると、ランスで地面をバシバシ叩くことで自分にヘイトを向けさせる。
全てはクエストを成功させるため、そしてまだ下位狩娘で経験の浅い雪風を守るためである。
「わ、分かりました!どうかご無事で!」
「誰に向かって物言ってるの。ドスガレオス程度に苦戦してたらG級狩娘なんかやってないわ!さぁ掛かって来なさい!」
「シャアアアァァァ!!!」
飛び掛かるドスガレオスの巨体、それすら盾でいなして受け流す。
流石のG級狩娘でもドスガレオスの全体重を真正面から受け止めるのはそう簡単なことではないが、無駄な力を逃がしてやれば本来なら受けられない攻撃でもやり過ごすことが可能となる。
「その程度じゃ私の守りは破れないわよ!何度でも来なさい、全部受け切ってやるわ!」
地面を叩くだけでなく、わざと大声を出すことでドスガレオスの聴覚を刺激していく。
雪風が完全に走り去るまでガレオス達の注意を逸らし続ける必要があるのだ。
「シャアアァァ!!」
「キュオオォォ!!」
「カァアアァァ!!」
「そう、それでいいのよ!」
山城の挑発が功を為したのかガレオス達は完全に山城に狙いを定めた。
地中という死角からの攻撃だが、歴戦の勘というヤツで見えない攻撃も捌き切る。
山城レベルにもなれば敵の攻撃を見てから防ぐのではなく、あらかじめ攻撃が来そうな場所を守っておいたり、わざと隙を晒すことで攻撃してほしい場所に攻撃を誘導することすら可能となるのだ。
小足見てから昇竜余裕なプロゲーマーもビックリのニュータイプ狩娘である。
「そこっ!」
威力は低いが矢継ぎ早に繰り出されるガレオス達の連続攻撃、そこに混ざって放たれるドスガレオスの放つ重い一撃。
威力の異なるそれらの攻撃を的確に防ぎつつ、隙を見つけては反撃を加えていく。
いくらG級狩娘の実力でもドスガレオスを一撃で仕留めるのは流石に無理だが、通常のガレオス程度を戦闘不能に追い込むくらいなら山城にとってはそう難しいことではない。
そしてガレオスの数が減れば必然的に攻撃を受ける頻度も減る。
攻撃を受ける頻度が減るということは防御の回数を減らすことと同義であり、防御の回数が減ったのであれば反撃の機会は更に増える。
いつの間にか取り巻きは全て倒され、残るはリーダーのドスガレオスだけとなっていた。
こうなればもう詰みである、ドスガレオス自身は強力なモンスターではなく動きも単純で読みやすい。
今まで山城相手に有利に戦えていたのは雪風という足枷と配下のガレオスがいたからであり、それらを失った以上ドスガレオスに勝ち目は万に一つもなかった。
「ギュオオオオオォォォ!!!」
砂中から飛び出して噛み付こうとするドスガレオス。
山城は敢えてドスガレオスにランスを噛み付かせて動きを止めると、ドスガレオスが口を離すよりも早くランスごとドスガレオスの頭を地面に叩き付けた。
「はぁあああっ!!」
地響きと共に地面に叩き付けられるドスガレオス。
山城の振り下ろすランスの威力は並の狩娘が放つハンマーの溜め3スタンプにも匹敵する。
ドスガレオスもまさかこのような方法で攻撃されるとは思っても見なかったのだろう。
咄嗟に身を守ることも出来ず、下顎を強打したことで無防備に倒れ伏す。
山城は噛まれたままのランスを手放して身軽になると目の前にあるドスガレオスの頭部を足場にして跳躍、落下の勢いを利用して盾で思い切り首を殴り付けた。
「グギュ!?」
山城の渾身の一撃によりドスガレオスは完全に意識を失い、半開きの口からだらしなく舌を出したままピクリとも動かなくなる。
ドスガレオスの首は他の部位よりも皮膚が薄く弱点となっており、それを知っていた山城は大ダメージを与えるべくチャンスを窺っていたのだ。
一撃で仕留めるのは無理だが、二撃あれば仕留められる。
これがG級狩娘をも超えた筆頭狩娘の実力である。
「ふぅ、勝負あったわね。」
山城はランスを回収すると、ドスガレオスにトドメを刺すことなくその場を後にする。
よく見れば周囲のガレオス達も倒れているだけで命に別状はないようだった。
「安心なさい。私達の目的は卵を持って帰ることであんた達の殲滅じゃない、命まで奪う気はないわ。」
狩娘の本分は生態系の維持と調査であり、基本的に依頼や非常時以外での殺生は厳禁である。
今回のケースであれば卵の納品を成功させるための狩猟は許可されているので、運搬の邪魔をするドスガレオスを殺してしまっても何の問題はない。
だが筆頭狩娘である山城の実力を持ってすれば、自分の命を狙うモンスターすら殺さずに無力化することが可能なのだった。
「山城さぁ~ん!無事だったんですねぇ!」
ベースキャンプでは納品を終わらせた雪風が山城のことを待っていた。
「何言ってるの、私は筆頭狩娘よ。ドスガレオス程度に負けはしないわ。それより雪風だって私と同じ筆頭狩娘の一人なんだから、いずれ同じことが出来るようにならなきゃダメよ。」
「ええっ!?雪風もあれと戦うんですかぁ?」
「いや別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけど……。ドスガレオスより強いモンスターや深海棲艦なんて世の中にゴロゴロいるんだから、あの程度の相手に勝てないようじゃこの先やっていけないってことよ。」
「はぁい!」
分かっているのか分かってないのか、ニコニコと満面の笑みで返事をする雪風。
さて、後は帰るだけ……なのだが、今回彼女達はドンドルマ鎮守府から徒歩でここまで来たことを覚えているだろうか?
つまり連装砲タクシーやモーターボートのような帰りの足なんて用意されていないので、クエストを終わらせたら再び徒歩で鎮守府まで帰らなければならない。
帰るまでが遠足とはよく言ったものだ。
ブラックな任務のように思われるが、これは極秘ミッション(笑)であるため情報漏洩を考慮して連タクの手配がないという事情もあるのだ。
そして筆頭狩娘は特殊な任務を受けることが多いので、悲しいことにこういう足のないクエストには慣れっこなのであった。
「それじゃ、帰ろうかしら……はぁ……。」
「山城さんどうしたんですか?」
帰ろうとしたところで大きな溜め息を吐く山城。
ガレオス軍団を一人で制圧する高い実力の持ち主であっても決して疲れないわけではない。
くだらない内容に反比例して機密性の高い極秘任務、半ば脅される形で変な組織への不本意な加入、ただ相手を倒せばいいだけの普通のクエストと違って慣れない運搬クエスト、何故か雪風よりも自分を集中的に狙ってくるモンスターへの対処、卵が残り一つになってしまったことにより脳裏にチラつくクエスト失敗の文字……。
様々な心労が重く圧し掛かり、山城の気力を奪っていたのだ。
まだ新人ということで事の重大さが分かっておらずのほほんとしていられる雪風は呑気なものである。
クエスト中は気張っていたものの、クエストが終わったことで気が抜けてしまい今までの疲れがドッと押し寄せてきたのである。
「うーん、山城さんの元気が無さそうで心配です……そうだっ!」
何かを閃いた雪風は無線を取り出すとどこかへ連絡を取り始めた。
「はいっ!雪風です!…………雪風は大丈夫です、でも山城さんが疲れて元気が無いんです!…………バルバレ?…………そうなんですか?…………分かりましたっ!雪風は一人でも帰れますから!…………はいっ!それじゃあ雪風帰投します!」
無線の電源を切ると雪風はニッコニコの笑顔で山城の方へ顔を向ける。
「山城さん良かったですね!」
「良かったって何が?」
「今、不知火お姉さんに連絡したらクエスト報告はこっちの方で上げておくから山城さんはこのままバルバレ鎮守府に行って休んでしまっていいそうです!」
「はあっ!?」
「バルバレ鎮守府はここから近いから今日はそこで羽を伸ばして明日帰ってくれれば構わないらしいですよ!」
「いやいや、何でそうなるのよ!?」
取り乱す山城。
脳内でバルバレ鎮守府に寄り道したいと思ってなかったと言われれば嘘になるが、だとしても帰還もせずにそのままお泊りを勧められるとは思ってもみなかった。
「山城さんはバルバレ鎮守府のしれえのことが好きなんですか?」
「にゃっ!?い、いきなり何を言い出すのよ!?」
「不知火お姉さんが言ってました!」
「不知火、いつか泣かす……絶対泣かす……。」
雪風から投げ込まれる火の玉ストレート。
顔面に剛速球の直撃を受けた山城は、デッドボールを用意した不知火に必ず報復することを誓った。
「それで好きなんですか?」
「そ、それは……いや別に私はアイツのことなんて……。」
「それじゃあ嫌いなんですか?」
「いやそうじゃなくて……誰も嫌いだなんて……ゴニョゴニョ。」
「じゃあ好きなんですね!」
無邪気さ故に山城を追い込んでいく雪風。
意地悪でからかっているのではなく、素でこの反応なのだから始末に負えない。
「いつかバルバレのしれえとケッコン出来るといいですねー!ケッコン式挙げるときは絶対に雪風も呼んで下さい、いっぱいいっぱい祝いますから!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
雪風の連続攻撃の前に形勢の不利を悟った山城は戦略的撤退を決意した、またの名を涙目敗走ともいう。
「あっ、山城さん!…………行っちゃった。そんなにバルバレのしれえに会いたかったのかな?」
激しい水しぶきを上げて高速で海上を走り去る山城の後ろ姿を見送った雪風はドンドルマ鎮守府へ帰還すべく舵を切る。
帰ったら不知火に山城がバルバレ提督に会いたい一心でもの凄いスピードで走っていったということを報告しようと心に決めて……。
山城「最後の一発くれてやるよオラ!(弐撃決殺)」
運搬クエストで敵が増えるのはともかく、いきなり岩が出てくるのは何でなんでしょうね?
ワールドではサブキャンプでも納品出来るようになり、ライズでは壁を登って敵を避けたり近道をしたり、翔蟲を使って高所から落ちても止まれるようになった。
そもそも運搬クエストというものが消滅してサイドクエストに格下げされたことで運搬をする機会そのものも減り、敵の増加や通行止めといった要素も無くなった。
でもたまに過去作の苦行のような運搬クエストを思い出して懐かしくなったりするのです。
おまけ:山城さんの装備
武器:ロストバベル
頭:扶桑Xヘルム
胴:扶桑Xメイル
腕:扶桑Xアーム
腰:扶桑Xコイル
脚:扶桑Xグリーヴ
護石:天の護石
スキル:体術+5、ガード性能+5、ガード強化+3、攻めの守勢+3、心剣一体
ガチガチのガードランサー。
意外にも不幸や挑発に陽動といったスキルは付いていないが、持ち前のリアルアンラックにより敵から集中砲火を受け、どれだけ頑張っても報酬にはマトモなものが並ばない。
装備のデザインは白いハチマキと桜柄が特徴的な山城改二の衣装。
扶桑と山城の衣装はデザインが左右逆になっているのだが、デザインが近い装備は同一のものとして扱い、個人の裁量で外見にアレンジを加えているという設定がある。
つまり元々山城装備というものは存在しないので扶桑装備を身に着けているだけであり、決してシスコンだから姉の装備を着ているわけではない。
あまり出てこない設定なので作者もたまに忘れそうになる。
雪風ちゃんの装備
武器:ハンターナイフ
頭:雪風ヘルム
胴:雪風メイル
腕:雪風アーム
腰:無し
脚:雪風グリーヴ
護石:無し
スキル:精霊の加護+2、ランナー+1、腹減り耐性+1、
いかにも序盤らしいパッとしないスキル構成。
しかし持ち前のリアルラックによりスキル欄にはない激運が常時発動しており、精霊の加護も確定で発動する。
隠密もデフォルトで発動しており、敵に認識されていても何故か狙われにくい。
デフォルトで不幸と挑発を発動する山城とチームを組むことで一種の化学反応が発生するのだが、スキル欄に記載されていないので二人ともこの現象には気付いていない。
ちなみに腰装備が無いのは仕様です。安心して下さい、装備がなくても穿いてますよ。