天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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前話までの山城のエピソードはこの話のための前振りだったんだよ!

……ってのは流石に言い過ぎだけど、この話の続きはずっと書きたいと思ってました。






イサナちゃんと天を廻りて戻り来よ1

 

 

 

 

 

「うぅ、アポ無しだけど大丈夫かしら?」

 

前回雪風に追い詰められたことで山城は逃げ込むような形でバルバレ鎮守府までやって来た。

そして鎮守府の玄関ドアに手を掛けたままウンウンと唸っているのであった。

 

「もしも連絡も無しに急に押しかけてくる重い女とか思われたら死にたくなるわね……。」

 

どうやら中に入って提督に会うことに踏ん切りが付かないようである。

モンスター相手にはあれだけの戦闘力を誇るG級筆頭狩娘も、気になる相手の前では単なる乙女なのであった。

 

「ええい、女は度胸!筆頭狩娘がこんなことで怯んでどうするのよ!ここはむしろ押せ押せで香取や金剛と差を付けなきゃダメなのよ!」

 

そもそもの所属が違うのでバルバレ提督と頻繁に顔を合わせることが出来ない山城は、恋のバトルにおいて香取や金剛より大きく後れを取っている自覚がある。

香取は秘書艦なので提督と一番距離が近いし、金剛は妹達を巻き込んで提督包囲網を作り上げようとしているらしい。

ならばこちらは量より質!

頻繁に会えないのであれば、忘れられないくらい濃厚な一日を過ごしてみせる。

それが山城の考える逆転の一手であった。

 

「よし、頼もーう!」

 

道場破りのように勢いよく玄関を開け放つ。

 

「……あら?提督~、団長~……おかしいわね。じゃあ香取~、金剛~、睦月~……誰か~、誰かいないの~?」

 

しかし鎮守府内は想像していたよりずっと静かで、人の気配が感じられない。

普段であればこの時点で山城の声を聞き付けた誰かが迎えにここまで来てくれるのだが、今回は誰も出て来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか静かねぇ。鎮守府の中には誰もいないし、ドンドルマとはえらい違いよ。(詠唱開始)」

 

流石に誰もいないなんてことはなく何人かの連装砲ちゃんや妖精さんはいたものの、狩娘とは誰も出会うことなく気まずい気分のまま執務室までたどり着く。

 

「提督いるー……って団長!?」

 

「う……う……。」

 

執務室で山城が目にしたもの、それは提督用のテーブルに力無く突っ伏す団長の姿だった。

息はあるようだが山城の声にすら反応せず、起き上がるどころかピクリとも動かない。

何より団長がいつも大切にしており肌身離さず持っているトレードマークの帽子が床に転がり落ちてしまっている。

これは誰がどう見ても明らかな異常事態だ。

 

「団長っ、団長しっかりして!」

 

山城は慌てて団長に駆け寄る。

団長は山城がまだ艦娘として本土で活動していた頃に所属していた鎮守府の提督であり、狩娘となった今でも付き合いのある恩人なのだ。

バルバレ鎮守府においても今の提督が着任するまで提督として活動していた時期があり、今でこそ指揮権の混乱を避ける為に一歩引いた位置にいるが、それでもその影響力は非常に高い。

そんな重要人物が倒れていたとなれば慌てふためくのも無理はないだろう。

 

「団長……って何これ酒臭っ!?」

 

「リモセトス!?」

 

介抱のために団長を抱き起した山城だったが、団長の全身から立ち昇る酒臭さに驚き思わず手を放してしまう。

手を放されたことにより団長の頭は重力に引かれてテーブルに激突、呻き声を上げて再び倒れ伏した。

 

「よく見たらテーブルの下に空っぽの酒瓶が!?仕事中に飲んでいたってコト!?団長、あなたって人は!」

 

団長はお酒が大好きなのだが同時に悪酔いもしやすく、まだ山城が部下として一緒にいた頃に酔った拍子に大事な書類を紛失したこともあったのだ。

その書類の尻拭いをしたのが他ならぬ山城であり、いくら尊敬する相手とはいえ我慢出来ないこともある。

仕事中に酒を飲むなど言語道断、元部下としてガツンと叱ってやらねばなるまい。

 

「団長!何やってんのよ、団長!?」

 

青筋を立てながら団長の襟首を掴んで乱暴に起き上がらせる山城。

だが明らかに団長の様子がおかしい。

最初は酔って寝ているのかと思ったが、目は白目を剥いており口からは泡を吹いている。

 

「ボガバドルム……。」

 

「なんて声、出してんのよ……団長。」

 

常人の口から出るような声ではなく、毒でも盛られた動物が死ぬ寸前に出すような変な呻き声。

よく見れば団長の額は赤く腫れてコブになっており、完全に気を失っているようだった。

 

「あれ、ひょっとしてこれって私がさっき手を放したせい?」

 

飲酒によってただでさえ酩酊していた団長は山城の不手際でテーブルに頭をぶつられけたことによって完全に意識を失ってしまったのであった。

 

「わ、私のせいじゃないわよ……。お酒を飲んでた団長が悪いんだから……。私知ーらない、私悪くないもんねー。ヒューヒュー!(吹けてない口笛)」

 

本来であればこれこそ介抱すべき事態なのだが、色々と事態が積み重なったことで脳の処理能力が追い付かなくなった山城は何も見なかったことにすると執務室を後にして廊下を進み続けるのであった。

止まるんじゃねぇぞ。(字余り)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室からなるべく距離を取るようコソコソと歩く山城。

その様子は周りの目を気にして犯行現場から遠ざかろうとする挙動不審な指名手配犯そのものである。

ようやく会えた団長を気絶させてしまった以上、親しい相手……いやそこまで贅沢は言わないのでせめて顔見知りの相手と出会いたいと考えて鎮守府内をさまよい歩く。

 

「それぞれの自室にも誰もいなかったわね。このタイミングでみんな出撃中ってワケ?そんなことある?だとしたら何て間が悪いのかしら、やっぱり不幸だわ……。」

 

やがてうろつく内に工廠へと辿り着く。

工廠の担当であれば流石に出撃することなく中にいるのではないかと期待して入ってみれば、そこには気落ちして作業台に突っ伏す一人の少女の背中が見えた。

 

「はぁ~、やっぱりダメだなぁ~。」

 

「イサナちゃん、何してるの?」

 

「んっ?……あっ、山城おねえさん!」

 

山城に声を掛けられて笑顔で飛び起きた少女の名前はイサナ。

バルバレ鎮守府の工廠で竜人妖精さんに弟子入りして鍛冶屋見習いをしている狩娘である。

 

「山城おねえちゃんまた来てくれたんだね~!今日はどんな用事なのー?」

 

「わ、私のことはいいじゃない……。(ここの提督に会いたくて来たなんて口が裂けても言えるわけないでしょ!?)」

 

ようやく出会えた心許せる相手、だがその質問にバカ正直に答えるわけにはいかない。

山城はバルバレ提督に恋していることを秘密にしている。

筆頭狩娘として立場のある自分が恋にうつつを抜かしているなんてことを、周囲にバラしてはいけないと考えているのだ。

別に恋をしていることぐらい恥じることではないのだが、今まで恋愛というものに全く縁のなかった山城はこういうものは隠すべきと思っており誰にも話していない。

実際のところは彼女の知人のほとんどにはバレており、知らないのはそれこそ雪風やイサナのような精神年齢が幼い狩娘くらいである。

 

「さっきから鎮守府の色々な所を周ってるんだけど全然人がいなくてね、神隠しにでも遭ったのかと思って心配してたのよ。」

 

「あー、そういうこと!心配しなくても誰も神隠しになんか遭ってないよー!それに私の他に団長さんがいるから誰もいないなんてことはないよ。執務室には行かなかった?行ったら団長さんがいるはずだよー!」

 

「だ、団長は疲れて寝ちゃってたのよ!私も最初に誰かいないかと思って執務室に行ったんだけど、団長は座ったままグーグー寝ててね。執務中に寝ちゃうのは良くないと思ったけど団長も日頃の激務で疲れが溜まっているんだろうと思ってそっとしてきたのよ、そっとね!本当よ!!」

 

「そうなんだ~。団長にも苦労を掛けてるし、私達ももっと心配掛けないようにしっかりしないとねーっ!」

 

ウソをつきました。

ホントは自分が気絶させたのにね。

 

「それで何で誰もいないの?」

 

「えっとね、まず昨日の海でねぇ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルバレから程なく離れた洋上の狩場。

そこでは二人の狩娘と一隻の深海棲艦が死闘を繰り広げていた。

 

「クッ……シツコイワネ……!」

 

「榛名、そっちへ行ったわ!」

 

「任せて霧島!ここは榛名が通しません!」

 

金剛の装備しているものとよく似た防具を身にまとい、武器も金剛と同じくガンランスを装備している二人の狩娘は金剛の妹である榛名と霧島。

二人は現在、大型深海棲艦である戦艦棲姫と戦闘の真っ最中である。

 

「ダッタラ……コレナラドウカシラ……!」

 

「あっ、やだ!?きゃあっ!!」

 

「榛名!!」

 

戦艦棲姫に攻撃を仕掛けようとした榛名だったが、逆に戦艦棲姫の背部ユニットの大きな腕に捕まってしまった。

 

「ケイセイギャクテンネ……。」

 

榛名の両腕を掴んで自由を奪うと、人質として盾にするように霧島の方へと向ける。

 

「よし、榛名をさけて……。」

 

霧島は状況を打破するためにガンランスの必殺技である竜撃砲を起動させたが……。

 

「アネガシンデモイイトイウノッ!?」

 

「死なないでしょ……多分。」

 

一度火の入ったガンランスは止められない。

頭脳派を自称しているが実際は割と脳筋な霧島は希望的観測に任せて竜撃砲をぶっ放した。

その結果……。

 

「榛゙名゙ば大゙丈゙夫゙じゃ゙あ゙り゙ま゙ぜん゙ッ゙!!」

 

「榛名―――っ!」

 

竜撃砲は当然のように榛名に直撃、上手に焼けた榛名はボロ雑巾のようになって吹き飛ばされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで狩りどころじゃなくなった霧島おねえちゃんは真っ黒焦げになった榛名おねえちゃんを背負って慌てて帰ってきたんだー!」

 

「へ、へぇ……。」

 

霧島の暴挙に山城はドン引きである。

仮に山城が敬愛する自分の姉、扶桑を自分の不手際で丸焦げにしてしまったのだとしたら切腹することすらやぶさかではない。

ちなみに相手が雪風に自分の恋愛事情をバラしやがった不知火であれば、百発ブッ飛ばしても許されると山城は思っている。

 

「それで焦げた榛名おねえちゃんのダメージは回復薬で元に戻ったんだけど、焦げてチリチリのアフロになった頭は戻らなかったんだよね~。」

 

狩娘の受けたダメージは基本的にベッドで寝て休んだり回復薬を飲めば修復される。

だが話を聞く限り榛名の髪は何故か修復されなかったようだ。

 

「榛名おねえちゃんは髪がアフロになったせいで元気がなくなっちゃうし、霧島おねえちゃんも榛名おねえちゃんをそんな目に遭わせたってことでショックを受けて落ち込んじゃったんだ!それを見かねた提督がメゼポルタ鎮守府に腕の立つ美容師連装砲ちゃんがいることを思い出して、榛名おねえちゃんを連れてメゼポルタ鎮守府まで行くことにしたんだよー。美容師連装砲ちゃんは例えツルッパゲの人でも昇天ペガサスMIX盛りにカットしてくれるんだって、凄いね!」

 

ハゲをどうやってカットするというのか?

しかもどうやらそのペガサス盛りとやらはカツラではなく地毛らしい。

だとするとその美容師は自由に髪を生やす能力があるということになるのだが……。

そんな能力があれば自分の頭の眩しさに心を痛めている人々は歓喜し、逆にカツラや植毛の職人は廃業に追いやられてしまうだろう。

 

「で、提督がメゼポルタ鎮守府に行くって聞いた霧島おねえちゃんは自分も行きたいって頼み込んだんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室で外出の準備をしているバルバレ提督とアフロの榛名。

そんな二人の下に霧島がやって来た。

 

「あら、霧島。」

 

「やぁ霧島、僕達はもうすぐ鎮守府を出るんだけどその前に何か用事かい?」

 

「指令、榛名を連れてメゼポルタ鎮守府に向かうとお伺いしましたが……。」

 

「耳が早いんだね。メゼポルタには凄腕の美容師連装砲ちゃんがいてさ、そこに榛名を連れて行って髪を元に戻してあげるんだ。髪が元に戻れば榛名も元気を取り戻すんじゃないかと思ってね。」

 

「もしよろしければこの私、霧島も同行させてもらってもよろしいですか?」

 

「ん?いいけどどうしてかな?」

 

「メゼポルタ鎮守府ではパンチやキックで敵と戦うことが可能になる独自のスキルがあると聞きました。それがあれば今までとは全く違った戦い方が出来るはずです!あの時もそのスキルがあれば榛名を傷付けることなく深海棲艦にダメージを与えることが出来た!私はそのスキルを習得したいのです!榛名の髪をそのようにしたのは私の不徳が致すところ。未熟な自分に別れを告げて姉妹を、そして鎮守府を守るためにも私は新たな技術を身に着ける必要があるのです!どうかお願いします!」

 

「霧島……。それって結局榛名が竜撃砲を撃たれる代わりに殴られるだけの結果で終わりそうな気がするんだけど……ううん???」

 

メラメラと燃える霧島の闘志。

それに対して榛名は疑問を覚えたものの、霧島の熱意の前に押し負ける。

何だかんだで頑張ろうとする姉妹には弱いのだ。

榛名を巻き込んだことを反省して新しい戦い方を模索するのはいかにも頭脳派らしいが、そこで出てきた答えがステゴロなのは脳筋ここに極まれりといった感じである。

 

「うお~~っ!二度とあの事は繰り返させません!」

 

「う、うん……。すごいやる気だね。確かに霧島の言うスキルはあるよ、その名も体術っていうスキルだね。僕らに身近な体術スキルは回避やガードの際にスタミナの消費を抑えるものだけど、メゼポルタで使われている体術スキルは格闘攻撃の威力を底上げするというもので、名前が同じなだけで全然違うスキルなんだ。それを身に着ける為にメゼポルタ鎮守府に行きたいんだね?」

 

「はい、その通りです!」

 

「分かった、じゃあ事前に話を通しておこう。これでも僕はメゼポルタの提督と仲が良いからね、霧島の願いも無下にはされないはずさ。」

 

「ありがとうございます!」

 

霧島がペコリと頭を下げた次の瞬間、バァンと激しい音を立てて執務室の扉が開かれる。

 

「話は聞かせてもらいマシター!」

 

「ひえ~っ!?」

 

扉をぶち破る勢いで入室してきたのは金剛、そしてその金剛に無理矢理引きずられる形で比叡も執務室にやって来た。

 

「Hey、提督ぅー!榛名と霧島を連れていくなら私と比叡も連れて行くデース!」

 

「えっ!?いやまぁ君達を連れて行くのはいいけど何で!?」

 

「そんなの簡単デース!榛名は髪がアフロになったことで心が傷付いている、霧島は新しいスキルを覚えるのに必死で心に余裕がない。心が不安定では何をやっても上手くいかないものデース!だからこそ姉妹で尚且つ心に余裕がある私達が同行するのデス!私と比叡が榛名と霧島の支えになりマース!」

 

「「こ、金剛お姉さま!」」

 

「えっ、そんなの初耳ですけど?お姉さまが榛名が提督と二人っきりで出掛けるなんてズルいって言ってここまでムグッ!?」

 

金剛の気遣いに感動する榛名と霧島。

それに対して余計なことを喋ろうとした比叡は金剛の手によって口にスコーンを押し込まれたことで強制的に黙らされる。

 

「ホラ、比叡もこう言っていることだし私達を連れて行くデース!」

 

「モグモグ……。」

 

「うん、比叡が何言ってるのか分かんないけど確かに心のケアも大切なことだからね。よし分かった、それじゃあ金剛と比叡も一緒に行こうか。」

 

「Thank You!(フッフッフッ、上手くいったデース!榛名達を心配する気持ちがないといったらウソになるけど、私の本当の目的は私達4姉妹で提督を囲い込むことにあるのデス!最近は香取のアプローチも露骨になってきたし、たまにしか来ないのに提督からの好感度が一番高い山城という強敵もいるからネー。鎮守府の外という誰の邪魔も入らない場所で提督を手に入れてみせマース!)」

 

内心でほくそ笑む金剛だったが、バァンと激しい音を立てて再び扉が開かれる。

 

「ここにいましたね、金剛さん!!」

 

「ゲエッ、香取!?」

 

金剛を追って入室してきたのは秘書艦の香取。

普段は穏やかで優しい狩娘なのだが、今の彼女は明らかに機嫌が悪そうである。

 

「貴方の目論見は全てお見通しですよ!」

 

「も、目論見って何のことデスカー?ピューピュー!(ちゃんと吹けている口笛)」

 

「誤魔化すつもりですか、まぁいいでしょう。もう約束は取り付けてしまったようですし、ここで却下させるのもフェアではないでしょう。それに提督と榛名さんがメゼポルタ鎮守府に行くのは確定事項です、なので……。」

 

香取は眼鏡をギラリと光らせるとビシッと提督を指差す。

 

「提督、この香取も連れて行って下さい!」

 

「エエ~~~ッ!?」 「ヒエ~~~ッ!?」 「ええっ!?」 「ほう……。」

 

「私は提督の秘書艦です!であれば秘書艦らしく提督の傍に仕えるのが務めです!」

 

「香取も一緒に行きたいのか?でも留守の間は団長に提督の仕事を頼むことにしてるから、香取には秘書艦として団長のフォローをして欲しかったんだけど……。」

 

「それなら問題ありません!団長に提督と同行したいと相談したところ、快く送り出してくれましたので!」

 

本人はそう言っているが、実際は珍しいお酒で団長を買収しただけである。

山城には流石に劣るものの、香取も団長との付き合いは長い。

なので団長が酒好きなことは把握しており、こんなこともあろうかとあらかじめ珍しいお酒をストックしていたのであった。

 

「うーん、団長の許可があるならまぁいいか。じゃあ香取も一緒にメゼポルタ鎮守府に行こうか。」

 

「ありがとうございます……フッ、思い通りにはさせないわ!」

 

「グヌヌヌ……。」

 

勝ち誇った顔の香取と、悔しげに睨む金剛。

こうして提督と金剛4姉妹と香取の計6人はメゼポルタ鎮守府へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで提督さんも秘書艦の香取おねえちゃんも鎮守府の主力の金剛おねえちゃん達もいないから、これでは仕事にならないってことで団長は今日は全ての業務を中止にして休日にすることにしたんだー!」

 

本日は休みらしい、だから団長は日中からお酒を飲んでいたのである。

しかしイサナは香取が団長にお酒を渡したことも、そのお酒を団長が飲んでいたことも知らない。

山城も香取と団長の取引内容を知らないので、休日なのをいいことに団長が自分でお酒を用意して飲んでいたのだと思い込んでいる。

 

「じゃあ鎮守府に誰もいないのは……。」

 

「うん、休みになったことで睦月ちゃんが鎮守府のみんなを誘って外に遊びに行ったんだよ!」

 

以前超大型深海棲艦に鎮守府を襲撃されたことがあるというのに鎮守府には誰もおらず、団長は酔い潰れて前後不覚。

山城には危機感が足りてないようにしか思えないが、そんな空気の緩さもバルバレ鎮守府のいいところの一つなのだろう。

 

「私も遊びに誘われたんだけど、せっかくの休みなんだから以前からやってみたかったオリジナルの装備の製作にチャレンジしたいってことで断ったの!だけど作りたいって思ってただけでデザインも性能も何にも考えてなかったからアイデアの時点で行き詰っちゃったんだ!そんなところに山城おねえちゃんがやって来たんだよー!」

 

だからバルバレ鎮守府には団長とイサナしかいなかったらしい。

山城としてはバルバレ提督と行き違いになったことに落胆を覚えたが、自分に会えて喜ぶイサナの前で露骨にガッカリする真似は避けた。

それに提督に会えなかったことは残念だが、卵の運搬で疲れ果てた心身を休めることは出来る。

しょうがないのでイサナの作業に付き合ってあげるついでに休憩しようと山城が判断するのは自然な流れであった。

 

「ねぇ山城おねえちゃん、何かいいアイデアとかない?」

 

「うーん……私は加工とかには疎いからいいアイデアは持ってないけど、行き詰ったときには気分転換して気分をリセットするといいアイデアが閃きやすいってよくいうわよ?」

 

「息抜き、息抜きかぁ……。あっ、そうだ!こっち来て!」

 

息抜きについて何かを考えていたイサナだったが、何かを思い付いたようで山城の片手を掴むと工廠を出て歩き出す。

イサナに引っ張られて到着したのは鎮守府の娯楽室、休憩用の大きなソファーとこれまた大きなテレビが目を引く。

 

「はいドーン!」

 

イサナはソファーに勢いよく飛び乗る、山城もイサナの真横にそっと腰掛けた。

 

「今週放送してた風翔剣士クロス・ダオラ、私はまだ見てなかったんだ~!録画はしてあるから今から見ようと思うんだけど山城おねえちゃんも一緒に見るでしょ?」

 

「クロス・ダオラね……。私も個人で録画してるけど、今回のは私もまだ見てなかったし丁度いいわ。一緒に見てあげる。」

 

「今回の放送はなんたってブラック・マガラがメインの回だもんね!ブラック・マガラは私達の提督さんがやってるんだ、だからここの鎮守府の狩娘は全員クロス・ダオラを見てるんだよ~!私達の提督さんがテレビで人気なんてスゴイよね~、他の鎮守府の子に自慢出来ちゃうよね~!」

 

山城は元々テレビにあまり興味がなくクロス・ダオラも見ていなかったのだが、クロス・ダオラのライバルであるブラック・マガラを演じているのがバルバレ提督だと知ってからは番組を観始め、そして番組そのものにハマったという経緯がある。

イケメン俳優目当てで特撮を観始めたお母さんみたいな始め方なのであった。

ただしバルバレ提督本人に恋をしている山城としては提督が人気になるのは嬉しい反面、テレビから入ったにわかファンが増えるのも嫌だという複雑な心境を抱えていた。

色んな意味で厄介なファンである。

 

「それじゃ録画を再生するねー!」

 

イサナがリモコンを操作すると同時にテレビの画面が切り替わり、録画データが読み込まれる。

鎮守府も娯楽室も実質貸し切り状態だというのにやってることはソファーに座ってのビデオの鑑賞。

しかし未視聴のクロス・ダオラ……というよりテレビで活躍するバルバレ提督を見たがっていた二人の留守番狩娘にとってはそんなのどうでもいいと言わんばかりにテレビに食らい付くのであった。

 

 

 







榛名改二記念なので榛名の出番が多めです。

えっ、どう見ても霧島の方がセリフが多い?
ブッ飛ばされた上に頭をアフロにされるこの扱いのどこが記念だ?

榛名の出番は(多分)次回もある(と思う)のでご安心を。


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