天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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香取「ここから先は鎮守府にいる他の狩娘達は知らない、当事者しか知り得ない特別なエピソードです。卯月さんは勿論、弥生さんにも誰にも教えていない、私達だけの秘密のお話です。なので当然クロオビ鎮守府にいるメンバーもこの話は誰も知りません。」






香取さんと運命の出会い・超特殊許可

 

 

 

 

 

「ふぅ、待たせたわね。」

 

「あれ、あなたは?」

 

新しい提督の誕生を喜んでいた私達のもとに、見知らぬ女性がやって来ました。

黒いボブヘアーに赤い瞳、白い巫女服と赤いミニスカート、そして妙に縦長い艦橋の髪飾り。

ついでに黄金に輝く城壁のような盾と、これまた塔のように長い黄金のランス。この特徴的な容姿の狩娘は……。

 

「あれ?お前は山城じゃないか。」

 

「久しぶりね団長。」

 

そうだ、山城さんです!彼女が提督の言っていたドンドルマ鎮守府の山城さん!

こうして会うのは初めてですね。

 

「ようやくどこの鎮守府か突き止めたわ、苦労したんだから……。それにようやく鎮守府に着いたと思ったらよりにもよって中庭にいるんだもの。どこにいるのかと思って鎮守府の部屋という部屋を探し回ったんですからね!」

 

あぁ、唐突に現れたと思ったらそういうことだったんですね。

 

「それでとっても大きな深海棲艦とやらはどこにいるのかしら?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「出たんでしょう、信じられないくらいに大きな深海棲艦が?鎮守府にいた娘から聞いたわよ、ものすごく大きな深海棲艦が鎮守府に迫ってきているってね。」

 

会って最初に出す話題がそれですか?もっとこう、自己紹介とかあるでしょう。

 

「あぁ……確かに出たが。」

 

困惑しながらも答える団長。

 

「でしょう?言っちゃ悪いけど、見た限りここの鎮守府の娘はあまり強くなさそうね。」

 

ムッ……確かにここの鎮守府の娘はまだまだ弱いですよ、でも面と向って言うなんて言い度胸ですね。

 

「でもG級狩娘である私が来たからにはもう安心なさい!」

 

えーっと、彼女は一体何の話をしているのでしょうか?

 

「筆頭狩娘山城!私の槍に賭けて鎮守府に迫る巨大な深海棲艦なんて蹴散らしてみせるわ!」

 

ババーン!と効果音が付きそうな感じで見得を切る山城さん。

これが漫画なら見開きでページを占領しそうな勢いです。そして顔が丁度ページとページの中央に来てしまって見えなくなるところまでがお約束ですね。

筆頭狩娘っていうのも言葉の意味はよく分かりませんけど、とにかく凄い自信があるようですね。

だけど一つだけ気になる点が……。

 

 

 

 

 

「あの、山城さん……。」

 

「何かしら?……というか誰でしたっけ?」

 

「か、香取です……ここの鎮守府で秘書艦をやっています。」

 

「そう、よろしくね。それで何の用かしら?」

 

「あのですね、超大型深海棲艦はもういません。」

 

「またまた、そんな下手な嘘をつかなくてもいいのよ?自分の鎮守府を守るのに、他所の鎮守府の狩娘である私の手は借りにくいのかしら?」

 

「いやそうじゃなくて……。本当に深海棲艦はいないんです、もう追い払いました。」

 

「……本当に?」

 

「本当です。」

 

「へぇ~…………………………えっ?」

 

引きつった表情を浮かべながら、顔だけを団長の方に向ける山城さん。そしてそんな彼女に向かって申し訳なさそうな顔をしながらもコクリと頷く団長。

 

「か、下位の狩娘だけでちょうかだいしんか……ンンッ、きょだんぃしんかん……ゴホンッ、おっきな深海棲艦をやっつけたっていうの!?い、意外とやるじゃない……。」

 

私達下位の狩娘が超大型深海棲艦を撃退したことが信じられない様子の山城さん。

全身がプルプルと震えてますし、おまけにセリフもカミカミです。

いいところを見せよう思って自信満々で出てきたのに、既に全てが終わっていたのが恥ずかしかったのでしょう。

さっきまではプライドが高くて少し失礼な人かと思っていましたけど、意外と残念なところがあって親しみが持てる人なんですね。

これは団長と仲が良かったというのも頷けます。

 

 

 

 

 

「いえ、私達も戦いましたけど一番活躍したのは提督です。提督が戦って追い払いました。」

 

「提督、それって団長のこと?でも団長は戦えないハズよね?それとも噂の子供提督かしら?」

 

山城さんもゆうた前提督のことを知っているんですね、団長から聞いていたんでしょうか?

 

「いえ、深海棲艦と戦ったのはこちらの彼です。彼が私達の新しい提督です。」

 

「えっ、この人が?………………え、え???へ、へぇ~……ふ~ん。まぁ顔は悪くないわね、でも本当に超大型深海棲艦を追い払えるだけの実力があるのかしら?」

 

ここでようやく新しい提督に気が付いたのか少し驚いた様子の山城さんですが、そのまま提督に近付くと、まるで鑑定家が骨董品の価値を吟味するかのような感じで観察を始めました。

私の自慢の慧眼でお前の実力を見抜いてやると言わんばかりです。

流石の提督もジロジロ見られて少し居心地が悪そうですね。

 

……っていうかいくら何でも距離が近過ぎるんじゃないでしょうか?

観察に集中しているんでしょうけど、気付かないうちにどんどん提督に近付いていってますよ。

しかもそんな歩きにくそうな高い靴で、更にこまごまとした歩き方なんてしたら……。

 

「……っ!?きゃあ!」

 

あぁ、やっぱり転んだ!何も無いところなのに足をもつれさせてつまづくなんて、流石は不幸艦。

G級狩娘を名乗るわりには妙にどんくさいですね…………というか倒れた方向には提督が!

 

「うわっ、危ない!?」

 

 

 

 

 

ドシーーーンッ!!

 

 

 

 

 

山城さんは提督を押し倒すように転ぶと、そのままもつれ合うように二人で倒れ込んでしまいました。

提督も慌てて受け止めようとしたみたいですけど、流石に急過ぎて踏ん張れなかったようです。

 

「ま、まるで2人が抱き合ってるみたいネー。」

 

「言わないで下さい、私もちょうど同じことを考えていたんですから。」

 

倒れてきた山城さんを受け止めようと咄嗟に両腕を広げた提督、倒れる際に受け身を取ろうと慌てて両腕を前に伸ばした山城さん。

それがどうしてこうなったのか、山城さんの両腕は提督の首に回されており、提督の両腕も山城さんの背中に回されています。

提督が山城さんと抱き合いつつ押し倒されたようにしか見えません。

何なんですかこの唐突なラブシーンもどきは? 久しぶりに再会して感極まって跳び付いてきた彼女を受け止めようとするも、受けきれずに倒れた彼氏の図か何かですか?

 

「にゃっ!?と、とんでもない光景を見てしまったのね……。」

 

「ほう、意外と積極的なんだな山城のヤツ。あの姉以外に興味の無かったヤツが、初めて会った男をいきなり押し倒すとは。アイツもドンドルマという新しい職場で成長したといったところか。はっは!」

 

とんでもない光景と言い放つ睦月さん、まだ幼い彼女には刺激が強過ぎたんでしょうか?

団長も団長で何呑気なことを言ってるんです?

 

 

 

 

 

「それより提督、早く山城さんを離して起きたらどうですか?山城さんもいつまでも寝てないで早く立って下さい………………提督?山城さん?」

 

返事が無い?ひょっとして倒れた際に怪我でもしたんでしょうか?

提督は山城さんを受け止めたまま背中から倒れたんです、頭でも打っていたら大変です!

 

「提督、山城さん………………あっ!?こっ、これは!?」

 

「What?……Oh、Noooooo!!!!!!」

 

返事が無いのも当然です、何故ならお2人の口は互いの口によって塞がれていたのですから!

……っていうかこんな偶然あり得るんですかっ!?

ラブシーンもどきかと思ったらもどきじゃなかった、本当にどうしてこうなった???

 

「HugとKiss両方しちゃったんデスカーーーッ!?ご、合計110ポイント……いや、相乗効果で1000ポイント!!クッ、マズいネー、悔しいけどこのままじゃ勝てないネー!」

 

「だ、だ、だ、大丈夫です!扶桑型の山城という艦はドが付く程のシスコンで有名な艦娘なんです、それは狩娘となった今でも同じなハズです!それに提督は私や金剛さんとの過剰な触れ合いでも、顔色一つ変えなかった自制心の強い人なんですっ!とにかく安心して下さい!!」

 

目の前の光景に混乱しているのか、自分でもちょっと何を言っているのか分かりません。

 

「会ったばかりの提督にいきなり惚れた2人がそれを言っても説得力が無いのね、睦月は恋愛ってそんな軽いものじゃないと思うんだけどなー。」

 

う、うるさいですよっ!

 

 

 

 

 

「…………んんっ……えっ……あっ!?き、ききき……キャーーーッ!!」」

 

口付けをしたまま呆然と固まっていた山城さんですが、ようやく正気に戻ったのか悲鳴を上げてその場から飛び退きます。

山城さん、耳から首元に至るまで顔全体が真っ赤です。頭から湯気が昇っているような錯覚すら覚えますね。

 

「10秒以上も長いKissをしちゃって、妬ましいネー!」

 

それは同感です。

 

山城さんがどいたことでようやく提督も立ち上がります。

山城さんに負けず劣らず提督も顔も真っ赤です………………って私を抱き締めたときも、金剛さんの治療をした時もまるで動じなかった提督の顔が赤くなってる!?

ま、まさか提督は山城さんのような女の子がタイプなんでしょうか?

 

 

 

 

 

「何てこと、姉さまに捧げる予定だった身体と唇が……。あぁ姉さま、山城は穢されてしましました。」

 

何とも言えず気まずそうな顔をする提督と、怒り、恥ずかしさ、落胆といった具合にコロコロ表情を変え続ける百面相の山城さん。

 

「今まで男性との身体的接触なんて団長とした握手以外、一回も無かったのに!!」

 

えぇ~?それはそれで人としてどうかと……。

鎮守府が女性中心の職場だからとはいえ、今までよく男性と触れ合わずに生きて来られましたね。

団長に従っていたことから男嫌いということでは無いんでしょうけど、姉の為に自分の身体を綺麗に保っておきたかったとかその辺りの思考なんでしょうか?

 

「ちょっとあなた!よくもキスしてくれたわね!一体どうしてくれるの!?」

 

涙目になりながらもプンプンといった感じで顔を赤くして怒る山城さん。怒っているハズなのに、あまり迫力がありません。

パッと見は大人っぽい雰囲気の落ち着いた女性のようですが、その実態はまるで駄々をこねる子供です。

何というか、残念な美人という言葉がとても似合いますね……。

それとキスをしたのは提督じゃなくて貴女の方からです。

 

「あなたのせいで……あなたのせいでっ!私と姉さまの将来の幸せ家族計画がパーじゃない!!」

 

提督に詰め寄る山城さん。転んだのは山城さんであって、巻き込まれた提督は悪くないと思うんですけど、理屈と感情は別なんでしょう……。

というか姉さまとの幸せ家族計画って……自分の姉に一体何をするつもりだったんでしょうかこの人?

 

「あなた責任取りなさいよッ!!」

 

「せ、責任を取れって言われても……。」

 

怒る山城さんと困り果てる提督。

責任って、提督に何を要求するつもりなんでしょうか?慰謝料の請求?

事故みたいなものとはいっても、こういうのは男性が悪くなるケースが多いですからね……。

でももし裁判沙汰になった場合はこの香取、全力で提督の弁護をさせて頂きます。

着任早々に他所の鎮守府の狩娘にセクハラを働いて提督解任だなんて笑い話にもなりません。私は最後まで提督の味方ですよ!

 

「責任を取って……責任を取って……。」

 

言葉に詰まる山城さん。どんな面倒ごとを言い出すつもりなんでしょうか?

 

 

 

 

 

「責任を取って、私と……け、けけけ……ケッコンしなさいよッ!!」

 

 

 

 

 

なぁんだ、慰謝料じゃなくてケッコンですか、裁判沙汰にならなくて良かった………………ケッコン?

 

「「は?」」

 

瞬時にハモる私と金剛さんの声。

 

「け、ケッコン?」

 

「そうよケッコンよ!私はもう姉さまに合わせる顔が無いわ!だったらその原因を作ったあなたが責任を取るのは当然じゃない!」

 

いや、その理屈はおかしい。

 

「それとも何?私の初めてを奪っておきながら私とのケッコンは嫌だって言うの?私が欠陥戦艦だから?それとも私が筆頭狩娘とかいう頭の悪そうな集団に所属してるから?ハァ……ヤリ逃げされるなんて私ったら本当に不幸ね……。」

 

「いや、そういうワケじゃ……。そりゃ僕だってこんなタイプの美人さんとケッコン出来るのなら嬉しいし……。

 

超理論を展開する山城さん相手に流石にしどろもどろになる提督。

後半何かつぶやいていたみたいですけど上手く聞き取れませんでしたね、何と言っていたんでしょうか?

それにしても自分の所属している集団を頭悪そうって、同僚に話を聞かれたら解体されるんじゃないでしょうか?

 

「びっ、びじっ!?……じゃ、じゃあ何が不満なの?」

 

びじ?ビジー?IT用語ですか?

近距離にいた山城さんには提督のつぶやきが聞こえたんでしょうか?

再び瞬時に赤くなりながらも提督に理由を問います。

 

「僕らはまだ出会ったばかりで、お互いのことを全然知らないじゃないか。そんな状態でいきなりケッコンって言われても流石に……。」

 

ごく当たり前のことを話す提督。

だけどそれってどちらかと言えば女性が言うセリフなのでは?これが草食系というものなんでしょうか?

 

「だったらデートよ!デートに行きましょう!それでお互いの仲を深めて、そしてケッコンするの!それだったら文句無いわね!?」

 

それに対してガツガツと攻める肉食系の山城さん。

キスをされて吹っ切れたのか、ここだけ見ればシスコン艦の面影は全くありません。

セリフだけ聞いたら、まるでどこぞの餓えた狼さんみたいですね……。

そういえば彼女はケッコン出来たのでしょうか?風の噂では妙な揚げ物製造マシンを作っているらしいですが……。

 

ですがこのままでは提督が山城さんとケッコンしてしまいます。それだけは何としてでも阻止しなくてはいけません!

 

「ちょっと待「チョット待つネーーー!!」ってくだ……さ……ぃ。」

 

私の声に被せるように声を張り上げる金剛さん。せめてさっきみたいにハモらせて下さいよ、グスン……。

 

 

 

 

 

「そんなの認められないヨ!いきなり現れて提督とケッコンだなんて無茶苦茶ネー!そもそも他所の鎮守府の狩娘が違う鎮守府の提督とケッコンするなんて前代未聞デース!そんなにケッコンしたいなら、自分の鎮守府の提督とケッコンすればいいじゃないデスカ!!それに好きでもないのに責任を取らせるためだけにケッコンしたってお互いUnhappyになるダケネー!」

 

いいぞ、もっと言え!……って感じですね。反論の余地も無い正論です!

 

「あ、あなた金剛ね?一体何なのよ、私と彼の問題に首を突っ込まないでくれるかしら!?私の鎮守府の提督は確かに尊敬出来る人だけど、ケッコンするかというのはまた別問題よ!……それに誰が彼のことを好きじゃないってゴニョゴニョ……。顔も悪くないし、声も好みだし、性格も良さそうだし、深海棲艦と渡り合えるだけの実力があって、団長にも認められていて、そしてこんなことまでされたうえに、欠陥戦艦の私を褒めてくれるだなんて、いくら初対面とはいえ好きにならない方が無理でしょ……。

 

「そういやドンドルマの提督はあの人だったなァ。確かにあの人がケッコンっていうのはちーっとばかし想像し辛いもんなァ。」

 

当然そう簡単には引き下がらない山城さん。何やらブツブツ言ってますが、このまま金剛さんに論破してもらいましょう。

団長も一人で納得していますけど、尊敬は出来るけど恋愛対象とは見られていないドンドルマの提督って一体どんな人なんでしょう?

 

 

 

 

 

「なにより提督のWifeの座は既に私のモノなんだからネー!」

 

そうそう、その通り………………えっ?

 

山城さんに続いてデタラメをでっち上げる金剛さん。

当事者のはずなのに話に入り込めず部外者になってしまった提督も呆然としています。

ましてや団長や睦月さんなんてもはや空気ですよ、空気!!

ですが、このまま放っておくワケにはいきません!

 

「ちょっ、ちょっと待って下さい!?」

 

「どうしたネ、香取?今いいところなのに……。」

 

「そんな嘘吐かないで下さい、いつあなたと提督がケッコンしたっていうんですか?」

 

話を止められて不服そうな金剛さんですが、私の話を聞いた途端にそれを待っていたと言わんばかりに胸を張ります。

 

「そんなの逢ったときからネー!ホラ、船長もこう言ったじゃないデスカ?逢うべくして逢ったって。つまり私と提督は夫婦になる為に逢ったのネー!それに山城の唇を奪ったからケッコンって言うのなら、さっきの戦いでKissされた私もケッコンしたも同然ネー!」

 

「そんな屁理屈通るわけがないでしょう!?それにそんな理由でケッコン出来るんだったら、私にだって提督とケッコンする権利があります!」

 

「な、なんデスとーーーっ!?」

 

ハァハァ、言ってやりました……って、しまった!?

何とかこの状況を丸く収めようと思っていたのに、私の発言のせいで尚更混沌としてしまいました。もう現時点で収拾をつけるのは不可能です。

 

「な、何よ!?あなた達も彼とケッコンしようっての?」

 

私と金剛さんの発言に驚きを隠せない山城さん。

そりゃあ誰だって驚きますよね……。私自身も驚いてますもの。

まぁ一番驚いているのは提督のようですけど……。

 

「提督ってモテるんだねぇ……。」

 

「こりゃあ面白いことになってきたな。物事はなんだって面白いに越したことはないぞ。はっは!」

 

呆れる睦月さんと面白がる団長、他人事だと思って傍観の姿勢に入ってますね。

呑気に面白いとか言ってますけどこれは笑い事じゃないです、私が言えた義理じゃありませんが……。

 

 

 

 

 

バサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッ……。

 

ふと遠くから羽音が聞こえてきました。ニクイドリやトウゲンチョウといった鳥類と比べると遥かに力強い、だけど聞き慣れない羽音です。

羽音は段々とこちらへ近付いるようで徐々に大きくなっていきます。何かが近くを飛んでいるのでしょうか?

 

「んっ?おおっ、おいあれを見てみろ!」

 

空を指差す団長。私達も一時的に言い合いを止めて空を見上げます。

 

「ほら、あそこだ。あそこにガブラスの姿が見えるだろう?」

 

大きな翼を羽ばたかせる持つ黒い蛇のような生物。あの独特な姿をした生物は間違いなくガブラスです。

ホルク?メルノス?いえ、知らない子ですね。

 

「珍しいな、こんなところにガブラスが現れるなんて。それもたった1匹とは。あいつらは基本的に山奥に群れで棲んでいるからなァ。」

 

確かにそうですね、私もガブラスは滅多に見た事がありません。

ここバルバレ鎮守府は砂漠と平原に囲まれた土地。山もあるにはありますが、ガブラスを見に行こうと思ったらかなり遠出をしなければいけません。でも私達は観光に来たワケじゃないし、ガブラスを見る為だけに山に行くほど暇でもなかったですしね。

 

「ん?あのガブラス変じゃない?何だかフラフラしているよ?」

 

……言われてみれば確かにそうですね、飛行が安定していないみたいです。

それに黒いはずの頭が白くなっている?いえ、白い何かを被っているのでしょうか?

 

変なガブラスはそのまま私達の真上まで差し掛かります。

 

「クアッ!!」

 

唐突に頭を振るガブラス……って頭が取れた!?

……いえ、違いますね。頭に被っていた白い物が外れたみたいです。

 

「クアー♪」

 

邪魔な物が無くなりスッキリしたのか、ガブラスは私達には目もくれずにそのまま飛び去って行きました。一体あのガブラスは何だったのでしょう?

 

ヒラ……ヒラ……パサッ。

 

ガブラスの頭から外れたそれは、そのまま提督の頭の上に覆いかさ張るように落ちてきました。

いえ、上空を見上げていたので落ちた場所は提督の顔の上ですね。

 

「んんっ、何だコレ?」

 

当然それを手に取り調べる提督。布のように見えますが、ハンカチでしょうか?

 

「ああっ、それはっ!?」

 

提督が手にした布を見て驚く山城さん、一体どうしたんでしょうか?

 

「それは私のパンツよっ!!」

 

へぇ~、この布切れ山城さんのパンツだったんですね………………えっ、パンツ?

 

「それは数日前ガブラスに盗られた私のパンツなの!」

 

流石は不幸艦、下着泥棒ならともかく野生動物にパンツを盗られるなんて中々経験出来ることじゃありません。

……ってことは提督は山城さんのパンツを被ったことになるんでしょうか?

 

「あ、あなたっ!?私を抱いて唇を奪った上に、次はパ……パパパ、パンツまでッ!!」

 

今のはどう見ても提督は悪くないのでは?事故ですよ事故。それと抱いたとか誤解を招くような表現はやめて下さい。

……いえ、ここはプラスに考えましょう。

提督が山城さんのパンツを頭に被ったことで山城さんは提督のことが嫌いになるハズです。そうすれば山城さんの提督への好感度は大幅ダウン。このケッコン騒動も回避出来ます。そしてこのまま金剛さんも言い包めれば、いずれは私が提督と……。

 

「こうなったら絶対にケッコンしてもらうわッ!!人のパンツを頭に被っておいて逃げられると思わないことね!!」

 

「ええーーっ!?」

 

何でそうなるんですか!?そりゃ提督も叫びますよ。

そもそもその理論だとガブラスとケッコンするハメになると思うんですけど……。

 

「クッ、こうなったラ……。」

 

「金剛さん?スカートの中に手を入れて一体何をしてるんです?」

 

「今からパンツを脱いで、提督にPresentするネー!」

 

「はぁ!?」

 

な、何を言っているんでしょうかこの人!?

 

「山城は提督が自分のパンツを被ったからケッコンすると言ってマース、ならば私も提督にパンツを被せればケッコン出来るハズデース!何より洗って干していたパンツよりも脱ぎ立てのパンツの方が絶対に強いネー!このケッコン勝負、第一夫人の座は貰ったネー!」

 

「馬鹿なことを言わないで下さい!これ以上は収拾がつかなくなります!そもそもここ外ですよ!?あなたは時間と場所をわきまえる金剛型の長女じゃないんですか!?」

 

「チッチッチ、甘いネー!お砂糖マシマシのスコーンよりも甘いヨー!」

 

当たり前のことを言っただけなのに何故か呆れられる私。

一体私のどこが何が甘いと言うんでしょうか?

 

「ホラ、私の今の装備を見るネー。私は何を着ているネー?」

 

「そりゃ吹雪型の装備一式ですけど……。」

 

「そう、つまり今の私は吹雪型。吹雪型十一番艦の金剛ネー!!」

 

おっしゃっていることの意味がよく分かりません……。

そもそも吹雪型の十一番艦ってようするに綾波型のことでは?

 

「ブッキーと言えばパンツ!パンツデス!ブッキーはパンツ、パンツはブッキー!もはや世界の常識デース!そして私の改ニグラでもパンツが見えていマース!だからパンチラした私は紛れもなく吹雪型というワケデース!今の私は吹雪型であって金剛型ではないのだから時間と場所をわきまえる必要は無いのデース!それに聞いた話によれば吹雪型九番艦の磯波ちゃんは吹雪型のエロ担当と呼ばれているそうじゃないデスカー?そんなにエッチな娘がいるのなら、吹雪型十一番艦である私がパンツを脱いだところで大した問題にはならないハズデース!」

 

金剛さん、ひょっとしてあなた酔っ払っています?それとも変なクスリでも使ったんですか?

それと吹雪さんと磯波さんに土下座して下さい。

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁ~~~!?」

 

巨大な怪物と戦った結果、今までの仕事をクビになり、鎮守府運用のイロハも知らずに提督になる。そして初対面の女性にキスされてそのまま一方的に求婚されて、更に複数の女性に求婚される。挙句の果てには唐突にパンツを被せられる。

こんな超展開の連続にとうとう頭がパンクしたのか、パニックを起こした提督が逃げ出してしまいました。

まぁ、気持ちは分かります。

 

「あっ!?待ちなさいッ!絶対にケッコンしてもらうわよ!!」

 

「Oh、待つネー!待ってくれたら私のパンツあげるからサー!」

 

当然提督の後を追う山城さん、そしてアホなことを言いつつそれに続く金剛さん。

このまま3人が鎮守府の中に入ってしまったら、他の狩娘にも飛び火して鎮守府全体がとんでもないことになってしまいます。これ以上騒ぎを大きくするワケにはいきません。

こうなったら……。

 

「待ちなさーーーいっ!!それ以上の狼藉はこの香取が許しません!」

 

私も追うしかありませんよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古くからの言い伝えによるとガブラスは災厄の使者というらしいが、俺達にとっては幸せを呼ぶ黒い蛇かもな?ホラ見ろ、あの4人はもうあんなに仲良くなったぞ。はっは!」

 

「それをいうなら幸せの青い鳥なのね。そもそもあれが仲良く見えるのならお医者さんに診てもらった方がいいと思うのにゃ……。」

 

 

 

 







この後、いきなりケッコンは無理だと言われた山城は、提督に婚約指輪の代わりとしてパンツを渡しました(無理矢理押し付けたともいう)。
そして着任したばかりで、まだ整理もしていない提督の荷物カバンの中から替えのパンツを貰って(奪って)帰っていきましたとさ。
更に金剛と香取のパンツも渡された提督は一日で三日分のパンツを失いましたとさ。





天龍ちゃんの改二の噂がボチボチ出ていますね。
良かったね、これでG級も安泰だ!



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