ガンランスの砲撃が味方を吹き飛ばさなくなったお陰で便利になったけど、それと同時にすっごい不便。(二律背反)
「くんくん。うーんとね、臭いを感じるのはこっちっぴょん。」
現在卯月の案内に従ってヘ級の追跡をしている最中なのだが、いくら歩けど追い付く気配はまるで無い。
それはヘ級の移動速度が異常に早いワケでもなければ、卯月の道案内が間違っているワケでもない。
「あっ、こんなところに鉱石の採取ポイントがあるっぴょん!せっかくだしちょっと掘っていくっぴょん。そーれ、カツーンカツーンと……。」
その理由は見ての通り、ことあるごとに卯月が道草を食うからである。
ウサギだから道草を食って当然ってか……やかましいわ!
「鎧玉がいっぱい掘れたっぴょん♪……あれっ?いつの間にやら臭いのする方角が変わったっぴょん。それじゃあこのまま進んでも仕方が無いから引き返すっぴょん!」
「オイオイ、そんな悠長なことをやってる場合かよ?クエストって50分しかないんだぞ?時間足りるのか?さっきから何度もヘ級と行き違いになってるし、このままだと永遠に追い付けねぇぞ。」
こうなったらもうコイ卯月を置いていって一人で探しに行こうかな?
手元にマップは無いし、ヘ級のマーキングもしていないけどこのまま時間を浪費するよりはマシだろ?
「しょうがないなぁ、それじゃあそろそろ本気を出すっぴょん。」
そんなオレの心境を読み取ったのか、ようやく卯月も真面目にヘ級を探す気になったようだ。
最初からそうしろよ……。
「くんくんくんくん………………あっ、あそこにいたっ!見つけたっぴょん!」
「あっ、アレか……あ~、アレかぁ……。」
卯月の案内でようやくヘ級に追い付くことが出来た………………出来たのだが。
「あのさぁ、アイツ……何だか顔が爛れてないか?」
発見したヘ級の顔面、というかマスクは見るからに痛々しく焼け爛れており、未だにジュクジュクと痛々しい音を立て続けている。
更には腐食によるものなのか、幾つもの十円玉サイズの穴が空いてしまっており、その穴からはわずかな火花と黒煙を立ち昇らせている。
また肩から胸に掛けても酷い火傷のような痕があり、心なしか元気が無さそうに見える。
「ほとんど攻撃してないのに既にボロボロじゃん。何だか狩るのが申し訳なくなってきたな……これもひえい玉の効果なのか?」
「その通りっぴょん。ひえい玉はぶつけた深海棲艦を追い払うだけじゃなくて、大ダメージを与えることも出来るっぴょん!ついでに言うとスリップダメージのオマケ付き、追撃の溶解液で更にダメージは加速するっぴょん。だからひえい玉はこやし玉の上位互換だって言ったんだっぴょん♪」
いや、これはやりすぎだろ……。
これって禁止級の非人道兵器じゃないの?そりゃ使うのも作るのも禁止になるよ。
いくら相手が深海棲艦で、最終的に狩ることになるとはいっても流石にこれは可哀想だ。
そして深海棲艦にすら大ダメージを与える物体を作り上げるなんて、比叡は一体どんな材料を使ってどんな調理をしてんだよ?
提督と金剛は今までこの料理を前にしてきて、よく無事に生き延びてこられたな……。
「それで今度はどうするんだ?もう音爆弾を使うのは無しだぞ、もちろんひえい玉もな。」
「ゴメンゴメン、今度は大丈夫っぴょん♪」
狩りを始める前にあらかじめ卯月に釘を刺しておく。
これ以上スリンガーで変な物を投げられちゃ堪らないぜ。
「今度はうーちゃんが狩娘として狩りに協力するっぴょん!協力しての狩り、狩娘としての醍醐味だっぴょん。」
「卯月との協力プレイか、即席のコンビでそう上手くいくもんかねぇ?」
狩娘に名を変えたとはいえ、オレ達は元々艦娘。
軍人として、集団戦闘の大切さは痛いほど分かっている。
こういう時こそ提督が仕事をするもんだが、狩娘の提督は基本的に放任主義だ。
だからこそ現場で指揮を執れる狩娘が必要になるが、オレにそんな能力は無いし、どう考えても卯月にだって指揮は執れないだろう。
さて、どうしたものか?
「何だか難しく考えてないっぴょん?そんなに真面目にならなくてもいいんだよ?」
「え?」
「狩娘っていうのはね、狩猟時間を気にしたりよほどの事情でもなければ基本的に個人プレーなんだよ。周りの動きを見ながら自分に出来る最善手を打つ、それが結果的に連係プレーになるっぴょん。それに艦娘と違って余程のことが無きゃ死なないし、深海棲艦との戦闘もあくまで環境調査の一環ぴょん。防衛戦でもない限り、絶対に勝たなきゃいけないワケでもないからもっと気楽になるっぴょん。」
「はぁ、そんなに適当でいいのかよ?」
「そりゃあ負ければ悔しいけど、力を合わせて敵に勝てたときの達成感はひとしおなんだっぴょん!大丈夫、心配する事は無いっぴょん。ひえい玉のお陰で既にヘ級は弱ってるし、金剛お姉ちゃん譲りのガンランスは物凄い威力なんだから負ける要素なんて無いっぴょん!」
「分かった、分かった、わーかった!!そこまで言うのなら力を貸してもらうからな!」
「へへっ、了解っぴょん!大船どころか軍艦に乗ったつもりで任せるっぴょん!」
我心得たりと言わんばかりにビシッと敬礼をする卯月、上手いこと言ったような顔をしているが、オレ達元々軍艦だからな……。
その敬礼と同時に卯月が浮かべたニヤリとした如何にも悪そうな微笑み、その意味深な笑顔の意味を理解するのは、このすぐ後である。
「それじゃあ仕掛けるぜ!卯月、着いてこい!」
探し出すのに時間を掛けすぎたせいか、あれだけ酷い目に遭ったにもかかわらず、すっかり警戒を解いてしまっている呑気なヘ級に攻撃を仕掛ける。
不意打ち上等、背後から二人掛かりでバッサリとやらせて貰うぜ!
「行くぞ!」
「……えっ?」
ヘ級の背後まであと一歩といったところで、突如背後で発生した謎の爆発により宙を舞うオレの身体。
な、何だ?いきなり背後から攻撃されたぞ、一体何が起こっているんだ?
敵の背後を取ったつもりが、逆に背後から攻撃されるとは……。
走馬灯でも見ているかのように、ゆっくりと流れていく周囲の風景。
空中に打ち上げられて身動きが取れない……というか、この異常事態に呆然としていて身動きが取れないオレはそのまま空中で一回転しながら、ヘ級の背中を飛び越えつつ仰向けに落下した。
「「………………。」」
海面に大の字になって倒れたオレの頭は丁度ヘ級の足元にあり、当然ヘ級と目が合った。
突然の出来事に、お互い呆然としたまましばらく見つめ合う。
「……ヘアッ!」
「あっ、やべぇ!?」
一足先に正気に戻ったヘ級が砲口を向けてきたのに気付き、慌ててそこから離脱する。
先手を打ったハズなのに、逆に先制攻撃されてるぅ!?
「はいガード♪そのくらいの攻撃じゃ、この守りは貫けないっぴょん。」
「すまんっ、助かった!」
追い付いてきた卯月がオレの前に出て、飛んできた火球を大楯で防いでくれた。その隙に体勢を立て直す。
「気付かれてなかったハズなのに、何でいきなり吹っ飛ばされたんだ!?」
「はいはーい、そんなことより今は目の前の相手に集中するっぴょん!」
オレの当然の疑問は卯月に適当にあしらわれる、とはいえ今は確かにヘ級から目を逸らすべきではない。
謎の攻撃で先手こそ取られたが、相手は先程の戦闘でダメージが蓄積しているせいか動きに精彩を欠いている。
それにこっちには卯月の援護もあるし、敵の狙いがオレと卯月の二人に分散したことで回避に余裕が出てきた。これが集団戦の強みってやつか。
卯月の背後から飛び出し、砲口から放たれる火球を掻い潜りつつ、ヘ級の懐に飛び込む。
この距離ならオレの方が有利だ!
「今度こそいくぞ!覚悟ッ!」
「は?」
太刀を振り抜こうとした瞬間、再び背後で起きた謎の爆発により空を舞う。
あぁ、オレは空を飛んでいるんだ。大海原を駆ける狩娘が次に目指す舞台は大空か……。(現実逃避)
龍田曰く『鈍いことに定評のある天龍ちゃん』らしいが、流石のオレでもいい加減に気が付いた。さっきから毎回背後から謎の爆発を受けて吹き飛ばされている。
背中の傷は剣士の恥らしいが、敵に背を向けてないのに背中を攻撃されたんじゃ防ぎようがない。
しかもこの爆発は相手が構えていないにも関わらず発生している。
誰でも嫌がるなんちゃら弾や、脳波でコントロール出来る遠隔兵器でも使われていない限り、この爆発はヘ級の仕業じゃないのだろう。
ならば犯人は別にいるということになる、だったら戦いを有利に進めるためにも犯人探しをするしかねーよなぁ!
オレの推理としてはこうだ、この場にはオレと卯月とヘ級の他にもう一隻深海棲艦が隠れ潜んでおり、不意打ちの攻撃で爆発を起こしているのだろう。
爆発のタイミングも今までの攻防から大体掴んだ。ヘ級の攻撃を卯月に防いでもらい、その隙に飛び出して攻撃をしようとした瞬間に毎回爆発している。
オレの後ろにいる卯月にすら気付かれずに攻撃を仕掛けているということに対しては多少の疑問も残るが、水中に潜んでいる潜水艦かなんかだろう。
攻撃のカラクリが分かれば恐れるに足りず!次の攻防でその正体を掴んでやるぜ!
「ヘェッ!!」
「甘いっぴょん!この鉄壁の守りはそう簡単には破られないっぴょん!」
ヘ級の攻撃を卯月がシールドで防ぎ、その隙にオレが前に飛び出す。
ここまではいつものパターン、しかしここからは一味違うぜ!
ヘ級に攻撃を仕掛けると見せ掛け、背中に全神経を集中する。
……来たッ、背後から僅かな殺気。そしてそれ以上に何とも形容しにくいが、まるで楽しげというべきか……とにかく妙な気配を感じる。
「来るのは分かってるンだよ、そう何度も同じ手に引っ掛かって堪るか!!」
太刀の切っ先を海に突き立ててブレーキ兼軸代わりとし、勢いを殺しつつその場でクルリと半回転して全身で振り返る。
さぁ犯人の姿を見せてもらうぞ?仮に見えずとも繰り出された攻撃くらいは見切ってみせる!
「……えっ?」
「あっ……。」
そこでオレが目にしたものは新たな深海棲艦……ではなく、オレに向かってガンランスの砲塔を向けている卯月の姿だった。
「バレちゃった。でも、えいっ♪」
「うわあっ!?」
ガンランスから放たれる砲撃、その爆発は容赦なくオレを吹き飛ばす。
なるほど、新手の深海棲艦なんていなかったのか……敵は身内にいたんだ。
そりゃ卯月が何も言ってこないわけだ、だって本人が犯人なんだもん。
そういや爆発してるのにあまりダメージが無いなーと思ってたけど、アタリハンテイ力学によって威力が抑えられていたんだな。
「バレちゃったじゃない、何をやっとるんだお前は!?」
「何って、見ての通り天龍お姉ちゃんの狩りの妨害をしてるっぴょん。」
「妨害ぃ!?何考えてんだ!」
「まぁまぁ、悪く思わないでほしいっぴょん。この妨害もれっきとした龍田お姉ちゃんからの依頼っぴょん。」
「はぁ?」
「忘れたっぴょん?そもそもうーちゃんは天龍お姉ちゃんに迷惑を掛ける為に呼び出されたっていうことを?」
……そういやそうだった。ヘ級との追いかけっこに時間を掛け過ぎてすっかり忘れてたよ。
「真剣に狩猟をしているときに味方から吹っ飛ばされるのってイヤでしょ?」
「当たり前だ!そもそもそんなことが好きな奴なんかいねーよ!」
「それが分かってもらえれば十分っぴょん。要するに意味もなく味方を巻き込むような攻撃はよくないし、ましてやわざと攻撃するなんてダメ絶対っぴょん。」
そういうことか、確かに太刀は大振りな攻撃が多いから味方ごと斬ってしまうことはあり得るな。
それを分からせるためにわざと撃ち込んできてたってワケか、それにしちゃ必要以上に執拗だったが……。
「それじゃ、バレたからにはもう遠慮はいらないっぴょん!ガンガンいくよ~。」
「いやもう理解したから撃たなくていいって……。」
「うわっ!?バカやめろッ!」
まだ撃つ気か!もういいだろ、これ以上は狩猟に差し支えるって!
次々と炸裂する砲撃、もはや狩りどころじゃない。何とかこの暴虐を止めさせるには……。
「クッソー、本当はこういうことはしたくなかったが仕方がない。アタリハンテイ力学のお陰でダメージは無いんだろ?だったら殴って止めさせる!いい加減堪忍袋の緒が切れた、お仕置きだ!」
「ぷっぷくぷぅ~!対人戦最強のガンランスに太刀で挑むつもりっぴょん?甘い、甘過ぎるっぴょん。最強の矛と最強の盾を両立したガンランスの前では、太刀なんてただの棒切れにしか過ぎないんだっていうことを教えてあげるっぴょん!」
「年上を舐めるんじゃねぇ、このイタズラウサギ!お尻ぺんぺんしてやるからな!」
こうしてオレ達は本来の目的も忘れ、不毛なバトルを繰り広げた。
オレが斬り付ければ盾で防がれ、カウンターの砲撃で吹き飛ばされる。
オレが距離を詰めればバックステップで一瞬で距離を稼がれ、そして砲撃で吹き飛ばされる。
オレが距離を取ればその場に陣取り、仕方なく近付いたところを砲撃で吹き飛ばされる。
ガンランスの弾が切れたところをチャンスと見て接近すれば、普通に突き攻撃で転ばされ、その隙にリロードを許す。
仕方なくオレが石ころを投げて攻撃すれば、より速度と精度の高いスリンガーを使った射撃で石ころを撃ち込まれ返り討ちに遭う。
……アレ?さっきから一回もロクに攻撃を当てられていないような?
あれから10分近く卯月と格闘し、オレは完膚無きまでに敗北した。縮めて完敗だ。
年上の威厳だとか、戦闘狂キャラとしての尊厳だとか色々な物が粉々に砕け散ったぜ。
「ハァハァ……何故だ、なんで勝てねぇ?」
「へっへ~ん、そんなの当然だっぴょん。使っている武器が対人戦に向いているとか向いていないとかいう以前に、天龍お姉ちゃんは対人戦慣れしていないんだっぴょん。そんなのでうーちゃんに勝とうたって無理無理。うーちゃんだって対人戦はそんなに得意じゃないけど、流石に対人経験ゼロの相手にガンランスを使って負ける程弱いつもりは無いっぴょん。」
「その年齢で対人経験があるなんて、一体どんな人生を歩んできたんだよ!?」
オレ達が本来は人の命を奪う軍艦だったということも忘れて尋ねる。
こんな小さな娘に対人経験があるなんて紛争地帯かよ?
「えーっとね、うーちゃんの鎮守府では喧嘩だとか譲れないものがある場合には、鎮守府の内港で対人戦をするっていうのが恒例なんだっぴょん。狩娘同士で武器を使って戦って、先に外港に出た方が負けになるっぴょん。見学も出来るし賭けとかもあって面白いっぴょん。みんなは戦争部屋って呼んでいるっぴょん、もっとも何が部屋なのかは不明っぴょん。」
思った以上に下らない理由だった。
一瞬本来の意味での演習をやってるのかと思ったが、よくよく聞けばまるで相撲じゃん。
それに他人の喧嘩で賭けをするとか不健全過ぎるだろ。
責任者たる提督と団長と秘書艦は何とかしろよ、止める大人はいないのか?
「因みにこれは面白いこと好きの団長が作ったルールだっぴょん。喧嘩は不毛だけどしないっていうのは難しいから、それならせめて面白くしようって言って作り上げたんだっぴょん。団長の影響を受けてか提督も肯定的だし、香取お姉ちゃんはしょっちゅう提督とのデート権を賭けて金剛お姉ちゃんと戦ってるっぴょん。賭けの胴元は睦月ちゃんで、羽振りがいい時はよくデザートとか奢ってくれるっぴょん。流石は睦月型の一番艦、太っ腹だっぴょん。」
全員ダメだった、っていうか責任者が主犯格かよ!?誰か止めろ!
それに賭けの胴元が睦月って風紀の乱れが極まってるだろ、よりにもよって駆逐艦かよ……。
とはいえ遺恨を残さないなら決闘方式の方がいいのかなぁ?うーん……筋が通っているような、それでいて屁理屈のような?
「そして現在最強の狩娘は山城お姉ちゃんだっぴょん。たまにフラッと現れては挑戦者を全員倒していく無敗の狩娘だっぴょん。香取お姉ちゃんと金剛お姉ちゃんが二人掛かりで攻撃しても勝てないっぴょん。相手の攻撃を盾で受け止めつつ、そのまま盾で殴り倒しちゃうっぴょん。G級狩娘の名は伊達じゃないっぴょん、憧れるっぴょん。」
G級狩娘恐るべし、オレの鎮守府に対人戦ルールが無くてよかった。神通はおろか龍田にだって勝てる気しねぇんだもん。
しかし思った以上にバルバレ鎮守府って魔窟なんだなぁ。提督が入れ替わったのなら、もうちょっと健全な運営をしろよ……。
「……そういや今の今まで忘れていたけどヘ級は?」
今まで対人戦にアツくなっていたから忘れていたけど、よく考えればオレの本来の目的はヘ級の狩猟だった。
「あぁ、ヘ級ならうーちゃん達が撃ち合いを始めた頃にそそくさと逃げ出したっぴょん。」
「は?」
「あれ、聞こえなかったっぴょん?だーかーらーヘ級は逃げたっぴょーん!」
「なっ、なんでそんな大事なことを黙ってたんだ!?」
思わず問い詰める、道草食い過ぎてクエストの残り時間5分切ってんだぞ!?
「いや普通なら狙っていた深海棲艦がエリアからいなくなれば誰でも気付くっぴょん。」
「うぐっ……。」
しかしそんなオレの反論も一瞬で論破される。気付かないオレがマヌケだってことかよ……。
「まぁまぁ、きっとヘ級なら今頃寝床に帰って寝てるハズだっぴょん。逃げる前にペイントボールぶつけておいたから今度は導卯月を使わなくても場所は分かるっぴょん。」
いつの間にペイントボールまで当てていたんだ?オレとの戦闘のどさくさに紛れてそんなことまでしていたとは、コイツ実はとんでもない狩娘なんじゃねぇの?
オレは逃げられたことにも気付かなければ、ペイントボールを投げていたことにも気が付かなかったぞ?そしてそれだけのことをしながらオレとの戦闘でも圧勝して見せるって……狩娘としての自信無くすわ。
「今度は相手が寝ていて逃げないし、場所もハッキリ分かっているからさっさと追いかけてとっちめるっぴょん!ホラ、ちゃっちゃと行くっぴょん!」
「……ぁぃ。」
その後、残り時間1分といったところで寝床で寝ていたヘ級を卯月の竜撃砲で吹き飛ばし、無事に決着を迎えたのであった。
うーん、なんとも煮え切らない決着だ。卯月はワザと妨害行為ばかりしていたと言うが、それに対してオレは戦闘に貢献したか?妨害があったとはいえほとんどヘ級にダメージ与えてないような?
肝心のダメージソースって卯月のひえい玉と竜撃砲だろ、これじゃあオレが寄生みたいじゃねぇか……。
「今日はありがとうねぇ。ホラ、天龍ちゃんもちゃんとお礼言って。」
「ア、アリガト……ゴザマス……。」
「卯月も面白かったっぴょん。久しぶりにやりたい放題出来たから、いい気分転換になったっぴょん!」
「よかったね……卯月。弥生も、楽しかった……です。」
ヘ級を狩猟した後、帰還までの1分間の待ち時間で再び卯月に吹き飛ばされ続けたオレは一回もヘ級から剥ぎ取りをすることなく鎮守府へと帰投した。
クエストの最後までこれだもん、勘弁してくれ……。
そして帰投してみれば、今度は二人がバルバレに帰るっていうんでお別れの挨拶だ。忙しいなぁ……。
「それにお土産もいっぱい貰えたっぴょん。きっとみんな喜ぶっぴょん、ありがとうだっぴょん♪」
「いいのよぉ~。わざわざ来てもらったお礼も兼ねているんだからぁ。」
お土産に渡したのは1ダースの達人ビールが入った箱。
狩娘が見た目通りの年齢ではないとはいえ、ビールなんて子供に渡していいお土産か?
しっかしこれは確かに人気のビールらしいし、オレ達の提督が作っているからある意味ここの名物なのかもしれねぇけど、プレゼントがビール1ダースなんてまるでお中元じゃん。
「それじゃあこれでお別れぴょん、泣かないでね~♪」
「……ばいばい。」
「またいつでもいらっしゃい、歓迎するわよぉ~。」
「おう、いつでも来いよ!元気でなぁ~。(もう来ないでくれ……。)」
こうして卯月達は帰って行った。いつでも別れっていうものはしんみりするな。
「それで今日の卯月ちゃんとの狩りはどうだったかしらぁ?これで天龍ちゃんもNG行動について、分かったでしょう?勉強になったんじゃないかしらぁ?」
「イヤっていう程分かったよ!」
アレはもう二度と経験したくない、勘弁してくれ……。
「フフッ、その様子なら大丈夫そうね。卯月ちゃんを呼んだ甲斐があったというものよぉ。それとヘ級から剥ぎ取ったものは確認したかしら?」
「剥ぎ取り?してねぇよ。卯月に妨害されたからな。」
「あらそーぉ?でも成功報酬で出た素材は貰っているんでしょう?」
そういやそうだったな、報酬ってボタン押しっぱなしでボックスにパパッと送られるから内容を確認してなかったぜ。(メタ)
「その素材を持って加工屋に行ってみなさい、きっと面白いものが作れるわよぉ?」
「面白いものぉ?」
そんなワケで龍田と二人で工廠にやって来たのだ。
「アッ、イラッシャイマセー。ソロソロ来ル頃ダト思ッテタヨー。」
「おう!早速で悪いんだがヘ級の素材を手に入れたんでな、それで何が作れるのかカタログを見せてくんねーかな?」
「リョーカイ!ドウゾー。」
出迎えてくれた加工担当の妖精さんは、自分の身体より大きなカタログを軽々と掲げるとそのまま持って来てくれた。
それにしても妖精さんってよくこんな大きなものをひょいっと持てるよな。人間や狩娘にとってはちょっとした図鑑程度の大きさだけど、妖精目線で言えば大きさだけで畳一枚分くらいあるからな。厚みともなれば重ねた畳6枚分はあるんじゃねーの?
ましてや素材になる鋼材や深海棲艦のパーツになるとカタログどころの重さじゃないからなぁ。おっと、今はカタログの方が大事だな。
「それで、どこのページだ?」
「ここよ、ここぉ~。」
『天龍シリーズ、龍田シリーズ』
そこに描かれていたのはオレにとって一番見慣れた、そして久々に見た衣装だった。
「こっ、こっ、こっ、これはぁ~!?」
「そうよぉニワトリみたいな天龍ちゃん。ヘ級の素材で作れるのは天龍型の正式採用装備、天龍シリーズ。ちなみに同じ素材で私の装備も造れるわぁ。どぉ、私とお揃いの龍田シリーズ着てみる?まぁ今の私が着ているのは上位のS型だけどねぇ。」
待ちに待った天龍型の装備、これさえあればダンゴムシやパンツ丸出し装備とオサラバ出来るってワケだ!
それと龍田には悪いが、お揃いにする気は無いぜ。オレに龍田の衣装は似合わねぇよ。
「これだけじゃないわ、こっちのページもよ~く見て。」
龍田が次に開いたのは武器のページ。
「……あっ!?この武器は間違いない、オレの刀だ!」
「これまた天龍ちゃんお待ちかねの太刀よぉ、ここでは天龍刀と呼ばれているわねぇ。この天龍刀もヘ級の素材を使って骨2から強化出来るから今の天龍ちゃんにピッタリなんじゃないかしら?」
「言われなくても作るぞ、絶対作る!他にも何か作れるって言われてもこれを作るぞ!」
「ふふっ、やっぱりね。私もそうだけど、狩娘って何故か艦娘の頃に装備していたものと同じ装備に惹かれるのよねぇ。船だった頃の記憶が正式採用装備を求めさせているのかしら?」
オレが喉から手が出るほど欲しかった装備だ、早速作成に取り掛かる………………が。
「あれ?一つも作れねぇんだけど……。」
「それはそうよ。だって素材元となるヘ級を一隻しか狩ってない上に、剥ぎ取りだって妨害されたんでしょ?素材が足りているワケがないでしょ。」
「お、おいっ!?さてはオレが作れないの分かってて案内しやがったな!?」
「ウフフ、どうかしらねぇ?」
ワザとだ、これは絶対にワザとだ!
とはいえこれ以上文句を言っても仕方が無いのでここは我慢する。
「作れるということが分かっただけでも儲けものじゃない?それにどれだけ素材を集めればいいかっていうのも分かったでしょう?」
「そりゃそうだけど……。」
「分かったなら狩ってらっしゃい。天龍ちゃんの晴れ姿、楽しみに待っているからねぇ。」
「え?一緒には行ってくれないのか?」
「だって面倒臭いじゃない?それに今日はもう疲れたわよ。大丈夫、一度は勝てた相手だもの。次も勝てるわよぉ。」
「た、龍田が冷たい。疲れたっていうのならオレの方がよっぽど疲れてると思うんだけどなぁ。それに勝てたのもオレの実力じゃないんだけど……。」
先程の勝利は実質卯月の手によるものだ。
……とはいえそれでいいのか?便乗したような形で勝ってそれで勝てたと胸を張って言えるのか?
オレ一人で戦って倒さなきゃ、とてもじゃないが勝ったとは言えねぇ。
「……よし分かった、見てろよ?あっという間に一式装備を揃えてやるからな!」
「そうそうその意気よ!それに先生をソロで狩れなきゃ初心者卒業とはいえないもの。装備作成と初心者卒業、二つの目標目指して頑張って♪」
その後天龍はクロオビ鎮守府近海でひたすらヘ級を狩り続けた。
しかし例のアレの加護を受け、ようやく一式装備を作れるようになったのはヘ級を13隻倒してからだったという。
今年の更新はこれが最後になります。
皆さまメリークリスマス、そしてよいお年を。