いつの間にやら二月中旬(絶句)
メゼポルタ鎮守府、そこはカリュード諸島に存在する鎮守府の中で最大の規模を誇っており、所属する狩娘の人数も多く、そして練度も高い。
そんなメゼポルタ鎮守府も元々はドンドルマ鎮守府から枝分かれする形で作られた、いわゆる分家のような鎮守府である。しかし所属する提督の優れた手腕と狩娘達のめざましい働きにより、現在ではドンドルマ鎮守府をも追い越し今に至る。
しかし最も優れた鎮守府とはいえ、狩娘達も常に戦い続けているワケではない。時には息抜きも必要となる、今回はそんな狩娘達の休日を覗いてみよう。
「ハァ、漣のヤツ……休日だからってだらけ過ぎじゃない?」
ハイハイどーも、あたしは特型駆逐艦曙よ。とはいえそんなことはどうでもいいでしょ、ここじゃあ艦種なんてほとんど無意味なものなんだから。
あたしはメゼポルタ鎮守府に所属している狩娘なの、もっとも今日は休日だから狩りには行かないけどね。
はぁ?最高峰の鎮守府に所属している狩娘が休日なんかにうつつを抜かしていいのかだって?
あんた常識ってものが無いの?休日が無いとかどんなブラック企業よ!?
あたし達はここ周辺の海域の調査が目的であって、近海の深海棲艦を根絶やしにすることじゃないわ!毎日狩りばかりしているワケじゃないの!
それにクソ……じゃなかった、あの提督が言っていた……らしいんだけど『休むことなく狩りだけを続けていたら、やがて狩りの効率のことしか考えられない頭になってしまう。そして狩猟マシーンになるだけならまだしも、いずれは他人の腕前や装備に戦法にまでケチを付けるようにになってしまい、本人の性格までもが歪んでしまう。』だって。
もっともこれは漣から聞いた話であって、あたしが直接あの提督から聞いた話じゃないんだけどね。
それであたしは今日が休みなのはさっき言ったけど、あたし以外にも朧と漣と潮が今日は休暇を貰っているのよ。
だというのに漣が姿を見せないの!もうそろそろ10時になるっていうのに何してんのよ?せめて朝食ぐらいは食べに来なさいよね。
休日とはいえ、仮にも秘書艦でしょ?まだ寝てるのだとしたら弛んでるわ!
あたしはもちろん、朧も潮も朝食なんてとっくに終わらせて歯まで磨いちゃったわよ。
それでしばらく食堂で三人でお喋りしていたんだけど、あんまりにも漣が遅いもんだから流石に気になってあたしが呼びに来たってワケ。
えっ、なんであたしが代表で呼びに行ってるのかだって?朧と潮はどうしたのかだって?
う、うっさいわね!二人にジャンケンで負けたの!
最高ランクの鎮守府だけあって施設の規模も最高ランクなメゼポルタ鎮守府。
利便性のこともあって流石に移動するだけでくたびれ果てるほど広いワケではないけれど、それでも一般的な鎮守府と比べればずっと長い廊下を一人てくてくと歩いて行く。
すると通路の向こう側から誰かがやって来た。
「ホッハ?」
「んっ、あっ!?バケツ提督!」
現れたのはメゼポルタ鎮守府の提督。
いつもピンク色をしたバケツのようなデザインの兜を被っている変なヤツ。
しかもバケツを被っているだけで十分に変なのに、それ以外の格好も奇妙極まりない。
カニの甲羅みたいな質感の青い鎧。魚の鱗みたいなもので作られた、これまた青いスカートみたいな腰巻き。そして兜よりも濃いピンク色をした長手袋とタイツ。
ハッキリ言ってダサい以外に言葉が見つからない、一緒に出掛けるハメになったら全力で他人のフリをするレベルね。
そしてこいつは24時間365日、お風呂に入るときも寝るときも、そして食事をするときも常にこのピンクバケツを被りっぱなし。
バケツの口の部分に隙間があるようには全く見えないけど、どうやってご飯を食べてるんだろ?
あたしもこの鎮守府に着任してからそこそこ経つんだけど、未だにこいつの素顔を一度も見たことが無い。
とにかくそんなワケで、あたしはこいつのことをバケツ提督と呼んでいる。
「バケツ提督、あんたこんなところで何してんのよ。今日の業務はいいワケ?」
「ホッハ!ハッ!ハアッ!ホッハ!」
「んぎぎぎぃぃぃ!!!あぁもう、相変わらず何言ってんのか分かんない!もういい、さっさと行きなさいよ!!」
「ピャアウ!?」
バケツ提督は奇声を上げると廊下の奥へと走り去っていった。
ふん、緊急ならともかく平時に廊下は走るなって習わなかったの?
今のやり取りで分かったと思うけど、バケツ提督は意味不明な言葉しか話さない。
ホッハってどこの国の言葉よ?というかそもそも意味のある言語なの?
素顔も謎なら話す内容も謎、なんであんな訳の分からないやつが提督をやってるんだか。
凄腕と名高いドンドルマ鎮守府の提督の下で経験を積み、一人前の提督と認められてここメゼポルタ鎮守府を任されたらしいけど、あんなコミュニケーションを取ることすら困難なやつが提督をやっているなんて何かの間違いよ。
漣もよく秘書艦やってられるわね。まぁいいわ、今はその漣を連れ出してくることがあたしの任務よ。
バケツ提督と別れてから再び漣の部屋を目指して廊下を歩き続けていると、またしても廊下の奥から誰かがやってきた。
今度は長身と小柄の二人組だ。
「曙じゃないか。おはよう。」
「曙ちゃん、おっはよー!」
「武蔵さんに清霜じゃない、おはよう。」
やってきたのは武蔵と清霜、二人ともあたしと同じくメゼポルタ鎮守府に所属する狩娘だ。
この二人は基本的に一緒にいることが多い。
戦艦に憧れる清霜が武蔵を慕い、面倒見のいい武蔵が世話を焼いているといったところか。
ちなみにここの鎮守府に大和はいない。いくら最大規模の鎮守府とはいえ、いないものはいないのだ。
そして会った瞬間から気が付いていたけど、清霜の様子がいつもと違っている。
特に服装、というか装備が……。
だけどそれについてはあまり触れたくない。ぶっちゃけて言うと相手をしたくない、純粋に面倒臭い。あたしには漣を呼びに行くっていう任務があるんだから。
「(`・ω・´)」
ううっ、清霜から放たれるオーラが凄い。やたらと話を聞いてほしそうにしている。
ドヤ顔で胸を張ってこっちを見てくるし、全身がキラキラと光っているような幻覚さえ見える。
狩娘に戦意高揚状態なんて無いハズなんだけど……。
「………………。」
そして武蔵から放たれるオーラも凄まじい、早く清霜に触れてやれとの無言の圧力をひしひしと感じる。
実際にはそんなことはちっとも考えてないのかもしれないけど、無言のまま胸の下で腕を組んで鋭い眼光でこちらを見下ろしてくる様子はどう見てもそうとしか思えない。
たまにキラッと白く光る眼鏡なんて、こっちにプレッシャーを与えるためだけにかけてるんじゃないの?
「……えーっと、清霜あんたどうしたの、その格好?」
負けた、二人のオーラに負けて聞いてしまった。あぁ、あたしの意気地なし。
昨日までの清霜は見慣れた夕雲シリーズの防具を装備していたのだが、今日の清霜は全く違う装いをしている。
艦橋を模した桜の花びら付きの髪留め。赤と白で縁起のいい色合いのセーラー服とミニスカート。肩が露出した長袖。腰に付けた小さな錨。左右非対称なデザインのソックス。狩りをする際に非常に邪魔になりそうな傘。そして黒い金属製の襟に付けられた金色の桜の紋章。
要するに大和の装備である。本人がペタンコな駆逐艦なので、胸に仕込まれた九一式徹甲弾がめちゃくちゃ目立つ。まるでいかがわしいお店みたい。
「えへへー、カッコいいでしょ。頑張って作ったんだよ。どう?似合う?」
「そ、そうね。いいんじゃない……。」
サイズは合っているけど着せられている感が凄い、だけどこれは本人の名誉のために黙っておこう。
「こっちのヘビィボウガンも凄いんだよ!」
取り出した武器もこれまた戦艦大和そのものなデザインのヘビィボウガン、何から何まで大和尽くしね。
納銃状態のヘビィボウガンは真ん中から二つ折りにされているから、まるで沈没してるみたい……。
「排熱噴射機構が搭載されているから、ドカーンと超々々弩級戦艦並みの一撃を放てるんだ!凄いよねぇ。」
排熱噴射機構ね、確かに威力はあるけどそれでも実弾中心で攻めた方がいいような……。
それに排熱噴射機構が超々々弩級戦艦並みなら、それの上位互換の砲熱照射は何並みの威力になるのよ?
「今日はこれの試し撃ちに行くんだ!撃つ時のカッコいいキメ台詞も考えてきたんだよ。エネルギー充填128%、対ショック対閃光防御、最終セーフティー解除、排熱噴射機構発射ぁー!!!……ってね!」
「私はその付き添いだ。」
それって大和じゃなくてヤマトじゃない!
それにエネルギーを128%まで溜めるのはヤマトじゃなくてソルカ○ンでしょ。ソ○カノンの元ネタがヤマトだから問題はないと思うけど混ぜ過ぎよ!
余談だが、排熱噴射機構というのはメゼポルタ鎮守府で使われているヘビィボウガンの特殊機構の一種である。
ヘビィボウガンで弾を放つ時に出る熱や、保温オイルを利用してヘビィボウガンそのものを加熱し、一定以上の熱を持った時にその熱を排熱弾という熱線にして発射出来るのだ。
メゼポルタ鎮守府には排熱噴射機構の他にも、抜刀ダッシュや剣晶スキルに超越秘儀など他の鎮守府には見られない特別な技術やスキルが数多くあり、間違いなく狩娘の強さは他の鎮守府の一歩先を進んでいる。
しかしそのせいでメゼポルタ鎮守府は修羅の国だと勘違いされているのが所属する狩娘達の悩みどころだ。
周辺に生息する深海棲艦の強さは想像を絶するバケモノばかり。
そんな強力な深海棲艦が放つ攻撃は威力、範囲ともに凄まじく、ちょっと被弾しただけでも生半可な狩娘ではたちまち轟沈する。
そこでメゼポルタ鎮守府の狩娘は全ての攻撃をことごとく回避し、万が一の被弾に備えて根性スキルを付けたり、根性札を常備したり、元気のみなもとというドーピングアイテムでダメージを軽減しようとする。
狩娘が所持する武器、防具ともに他の鎮守府のものとは比べ物にならない高性能で、普通の海域の深海棲艦なら文字通り瞬殺してしまう。
そして所属する狩娘の大半が効率主義者であり強い装備を持たない者や、狩りの腕前が劣る者には人権が無く、相手を楽に片付ける為にそこら中でハメ戦法が取り入れられている。
そして一般的な鎮守府に所属する狩娘のことはぬるま湯に浸かったコンシューマー勢として見下している等々………………挙げればキリがない。
このような内容の誤解が広まってしまっているが、決して事実ではない。
確かにメゼポルタ鎮守府の狩猟技術は他所の鎮守府よりも進んでおり、それを扱う狩娘も他の鎮守府に比べれば強いのだが、極端に大きな差があるわけではない。
むしろ新技術の試験場として運営されている面もある。
深海棲艦の強さも他所に比べれば鍛え抜かれた個体が出現することも確かに多いが、即死攻撃を雨あられと降らせてくるような魔物は存在しない。
所属する狩娘にも精神破綻者はおらず、普通の鎮守府と何も変わらないのだ。
その強いという噂だけが独り歩きし、更に尾鰭が付け足され、頭のおかしなバケモノ集団というように思われ恐れられている。
流石にこのままではいけないと考えたのか、誤解を解くためにも他の鎮守府からの研修生を数多く募集しているのだが、噂のせいで怯えられているのか、そう簡単には集まらない。
メゼポルタ鎮守府の誤解が解けるのは、まだまだ遠そうである。
「大和装備と大和ボウガン、そして排熱噴射機構!これで名実ともに清霜も立派な戦艦だね!」
いや、その理屈はおかしいでしょ。突っ込みどころが多過ぎる。
確かにここでは素材さえあれば誰でも違う船の服を再現して装備することが出来るけど、それって結局着替えただけじゃない。単なるコスプレよ!
それにここでは艦種が意味をなさないから、駆逐艦が弱くて戦艦が強いってことはないでしょ。憧れるっていうのは自由だけどね。
大体それって立派な戦艦というか、見た目が大和になっただけだし、普通の戦艦には排熱噴射機構なんて付いてないでしょ。
まぁそれを口に出して言っちゃう程、空気が読めないワケではないけどね。
「これも全部武蔵さんが協力してくれたお陰だよ。本当にありがとう!」
「フッ、お礼の言葉なら何度も聞いたぞ。ならば私も何度でも同じ言葉を返そう。私はお節介を焼いただけに過ぎん。それを作り上げたのは清霜、お前自身の努力と実力だ。」
あーもう、何イチャイチャしてんだか!確かに大和シリーズの装備は作成に多くのレア素材が要求されるから素材集めが大変だってのは認めるけど、こっちはあんた達が乳繰り合うのを見る為に来たんじゃないわよ。
「えっと、あたしは漣を呼びに行かなきゃきけないんだけど……。」
「おっと、時間を取らせてしまったようだな。すまない。」
「漣ちゃんかぁ、今の時間ならきっとあれだよね!」
「そうだな、間違いなくあれだろう。」
あれ?あれって何よ?
「あれ面白いもんねぇ、清霜も今日の見たかったなぁ。」
「心配するな、手は打ってある。」
「本当!?さっすが武蔵さん!じゃあ帰ったら一緒に見ようねー!」
「フッ、分かっている。」
あれって見るもんなの?
「それじゃあ曙、また後でな。」
「漣ちゃんにもよろしく言っといてねー!」
そういうと二人は去っていった。
せめてあれが何なのか言いなさいよ、もうっ!
あんた達は死に際に犯人の正体を知っているにも関わらず『犯人はあいつだ。』としか言わずに息絶えてしまう推理小説のキャラクターか!
ようやく漣の部屋の前に着いた。バケツ提督とむさしもコンビに時間を食ったせいか実際の距離以上に長い道のりに感じたわ……。
一般的な鎮守府では姉妹艦は同じ部屋で暮らしていることが多いみたいだけど、メゼポルタ鎮守府は規模が大きいだけあって狩娘一人一人が個室を持っているの。
もちろん姉妹艦同士同じ部屋で暮らすのも自由だけど、個室そのものは全ての狩娘に与えられているわ。
最大の鎮守府というのは伊達じゃないってね。
「漣~、いる?」
ドアをノックしつつ声を掛ける……が、返事が無い。
「まだ寝てるの?入るわよ。」
ドアを開け中に入ると、床に敷かれた座布団の上で正座をしている漣を見つけた。
「なんだ、起きてるんじゃない。だったら返事くらいしなさいよ………………漣?」
正座までして何をしているのかと思ったら、どうやら漣はテレビを観ているらしい。
それも随分と熱心な様子、ノックにも声掛けにも無反応とか相当ね。
ここカリュード諸島は本土とは遠く離れた太平洋の真ん中にある、そのため本土の番組の放送対象地域ではない。
その代わりカリュード諸島独自の放送局及び番組制作会社があり、それにより放送されている番組の内容も本土とは異なっているのだ。
日々のニュースや天気予報は勿論、バラエティやスポーツ、音楽番組にドラマやアニメも独自のものが放送されており、チャンネル数こそ多くないもの様々なジャンルの番組を楽しむことが出来るようになっている。
………………それで何の番組を観ているの?
漣が何を観ているのかが気になり、夢中になっている漣の後ろに立ってテレビ画面を確認する。
そこに映っていたのは鈍く艶めく全身鎧に身を包んだ男と、木彫りの大仏のような姿をした大男。
えーっと、これは特撮番組……よね?
二人の男はそれぞれの得物である太刀と……これは狩猟笛?とにかく木製の法螺貝のような武器を手に戦っている。
何というか、どっちも狩娘の使っている武器に似てるなぁ……。
むさしもが言っていたあれってひょっとしてこの番組のこと?
夜の街外れ、人の気配の無い静かな場所で切り結ぶ鎧の男と大仏姿の男。
やがて大仏姿の男は鎧の男の斬撃を受け傷付きながらも、後方へ飛び退くと得意げに語る。
「やりおるな、流石は風翔のフルクシャ。いや、今はクロス・ダオラと名乗っているのだったか?見事なものよ、我々と同じフルシリーズにして太刀のウェポンというのも伊達ではないようだ。貴様の実力なら次期ウェポンマスターも夢ではないというのに、その栄誉を蹴ってまで我々に歯向かうとは実に愚かなことよ。だが今までの戦いで貴様に有効な旋律は分かった。やはり貴様の強さはその風を操る力あってこそのもの。次の攻撃には風圧軽減の旋律を上乗せしてやろう。」
そう語る大仏姿の男。
しかしその余裕も、鎧の男改めクロス・ダオラが次に放ったセリフにより綻びを見せ始める。
「残念だが、お前に次は無い。」
「何!?いや、ただのハッタリだ。そんなものには惑わされんぞ!」
ダオラの一言に動揺しつつも笛を振るい音色を集める大仏姿の男、しかし何時まで経っても演奏が始まることはなかった。
「馬鹿なッ、演奏が奏でられん!?ワシの龍木ノ古笛の旋律を封じ込めるとは……貴様ぁ、一体何をした!?」
「知れたこと、お前の武器である狩猟笛は紛れもない管楽器。管楽器は内部を空気が通らなくては音が鳴ることはない。だからオレの能力を使い、一時的に楽器内部の空気の移動を阻害しただけだ。」
「そ、そんな方法で!?」
「演奏の使えないお前など、もはやご利益の無い単なる大仏だ。言った通りこれで終わりにしよう。いけるなシャイナス!」
『いつでもオッケーニャ!』
ダオラの声に答えるように、どこからともなくこの場には似つかわしくない可愛らしい声が響く。
「烈風っ!!」
「これは!?う、動けんっ!!」
ダオラが掛け声と共に前方に左腕をかざすと、大仏姿の男を中心に閉じ込めるように竜巻が発生する。大仏姿の男は暴風に拘束され、その場から一歩も動くことが出来ない。
「狩技・風翔雷撃気刃斬!!」
ダオラは紫電を放つ太刀を構えると竜巻に高速で突進し、そのまま竜巻を突き抜ける。
そして太刀を鞘に納めると同時に、大仏姿の男は竜巻もろとも縦に両断された。
「がぁぁぁぁ!!!笛のウェポンであるこのワシが!この激運のフル夜叉が!!こうも簡単に!?馬鹿なぁぁぁ!!!???」
断末魔と共に爆炎に包まれる大仏姿の男改め激運のフル夜叉、やがて煙が晴れた跡には塵一つ残っていなかった。
「所詮お前の運などこんなもの、運だけで勝てない相手に戦いを挑むべきじゃなかったな。吹き専のお前には後方支援がお似合いだ。」
夜叉が消え去ったのを見届けると、その場を後にしようとするダオラ。
「フン、相変わらずそんなことをやっているのか。」
「……ッ、誰だ!?」
しかし闇の中から声を掛けられ、思わず立ち止まり振り返る。
それに応えるように夜の帳の中から姿を現したのは、仄かに紫の光を放つ禍々しい漆黒の鎧に身を包み、同じく紫に光る漆黒の漆黒の棍を携えた男だった。
「お前は……操虫棍のウェポン、狂竜のフルゴア!?」
「その忌々しい名で呼ぶな。今の俺にはブラック・マガラという名がある。久しぶりだな、クロス・ダオラ。」
現れた男の名はブラック・マガラ。
「一体何の用だ、またオレと戦いに来たのか?」
現れたマガラに対して警戒心を見せるダオラ。
友好的とは言い難い空気が流れ、緊張感が高まっていく。
しかしマガラが棍を背に仕舞ったことにより、その空気は胡散した。
「既に一戦を終え、疲労したところを襲うほど落ちぶれたつもりはない。それに今の腑抜けた貴様を倒すことに価値があるとは思えんな。」
「オレが腑抜けているだと?」
マガラの侮辱に対して怒りを見せるダオラ。
しかしマガラの口撃が止むことはない。
「そうだ、お前が最初に夜叉に襲われたのは街のド真ん中だろう?だというのに何故貴様はこんな辺鄙な場所で戦っている?貴様と夜叉の実力差を考えればその場でさっさとケリをつけることも出来たハズだ。しかし貴様は無様に逃げ回り、その間に余計な疲労とダメージを受け、そして無駄に戦いを長引かせた。どうしてそんなことをした?」
「それは……アイツの繰り出す雷光虫弾の予測不能な軌道は、入り組んだ街中では避けるのが困難だ。だから見晴らしがよく戦い易いこの場所に誘導しただけだ!」
マガラの追及に対して反論するダオラ。
しかし苦し紛れの言い訳などマガラには通用しない。
「違うな。お前は街の人間を巻き込むまいと考え、ここに来たに過ぎない。」
「くっ……だとしても無関係な人間を巻き込まないようにすることの何が悪い!?」
「その考え方が腑抜けていると言っているのだ!貴様には敵を倒そうという執念が足りん。そんな有り様ではオレが手を下さずともいずれ死ぬぞ?」
「オレは死なない!人々の平穏も、そしてオレの命も、オレ自身のやり方で守って見せる!」
「フンッ、忠告はした。オレは貴様も含めた残りのフルシリーズを全て倒し、ネオウェポンズを壊滅させる。オレが最強であることを証明するためにな。オレに倒されるその日まで、精々生きながらえて見せるがいい。帰るぞ、ヴェルガイン。」
『了解ニャ。』
ダオラの青臭い答えを一蹴し、興味を失ったかのように背を向けるとヴェルガインという者へ声を掛けるマガラ。
それに対して先程のシャイナスの声よりは低いものの、やはりどこからともなく可愛らしい声が答えた。
それと同時にマガラは闇夜に紛れるように去っていった。
しばらくマガラが去っていった方向を見つめ続けるダオラだったが、やがてダオラの鎧は光の粒子へと変わり、鎧の中から精悍な顔つきをした金髪の青年が現れる。
身体から離れた光の粒子は青年の側に集まると、二足歩行をする白いシャムネコの姿へと変わった。
「ブラック・マガラ、どうしてお前はそこまで強さにこだわるんだ?そんなことで証明される強さに価値なんて無いというのに。」
「人の価値観はそれぞれニャ。コモンドにとっては大切な人々の平和も、強さを求めるマガラにとっては取るに足らないものなんだニャ。」
ダオラ……その正体である青年コモンドの言葉に対して、人間ごとの考えの違いについて述べる白猫シャイナス。
「…………なぁ、シャイナス。」
「なんだニャ?」
「今は人の目が無いからいいが、野外で不用意に二本足で歩くんじゃない。それと喋るな、不審がられる。」
「何かと思ったらそんなことニャ!?相棒に掛ける言葉がそれって酷くニャい?」
人々を守るために戦うクロス・ダオラと、己の力を証明するために戦うブラック・マガラ。
異なる目的のために戦い続ける二人の剣士、戦いの果てに二人を待ち受けるものとは……?
次回予告
ブラック・マガラの言葉に迷いながらも戦い続けるクロス・ダオラ。
そんな彼の前に現れたのは重弩のウェポン、無双のフルオウガ。
フルオウガの操る王砲ライドは、ヘビィボウガンでありながらバイクとしても運用可能な恐るべき武器だった。
フルオウガのスピードに苦戦するクロス・ダオラは、王砲ライドの動きを止めてしまうといわれるヘビィボウガン、潜砲ハープールの存在を知る。
次回「バイク乗りの誇りと意地」
王砲ライゴウの方がよかったなんて言うな!
予告だけです。(実際にやるとは言っていない。)