骨折しました。(事後報告)
滅茶苦茶痛いやんけ、人間には215本も骨があるから1本くらい平気とか適当なこと言ったヤツ出てこいやー!
番組の終わりと共に流れ始める作品の雰囲気には合わない明るいエンディングテーマ、続いて始まる次回予告。
そして最後に現れる『この作品はフィクションです。実在の人物、団体とは関係ありません。』のテロップ、それらが終わるとリモコンでテレビのスイッチを切る漣。
「………………あぁ~、面白かった。やっぱり風翔剣士クロス・ダオラは最高だねぇ。」
振り返りもせずに右腕だけで後方のベッドにリモコンをポイっと放り投げると、その場でふわ~っと大きく欠伸をする。
リモコン壊れたらどうすんのよ?
まぁいいわ、テレビも見終わったみたいだしいい加減に声掛けても大丈夫よね?
「漣、もういい?」
「おりょ?ぼのたん、いたの?」
「いたの?じゃないわよ!ずっといたし、声だって何度も掛けたわ!」
どんだけ集中してたんだか?
無反応過ぎて、わざと無視してるのかと思ったわ。火事でも起きたら気付かずに焼かれるんじゃない?
「今何時だと思ってんの?今日が休日とはいえ、朝食も食べないで何やってんのよ?朧も潮も心配してたんだからね。」
「いやー、メンゴメンゴ。今から行くって。」
ようやく来た道を引き返す、今度は漣と一緒よ。
「そういや行きがけに廊下でバケツ提督に会ったんだけど、どうも急いでたみたいなのよね。秘書艦のあんたなら何か知ってる?」
バケツ提督は普段は執務室にこもっていることが多く、特に用事がなければ食事やお風呂くらいでしか出てこない。
それもサボるために引きこもっているのではなく、大量の仕事を処理しているから出てこない。
ああ見えて意外と仕事熱心で、しかも有能で優秀なのよね。だからどんどん新しい仕事や依頼が増えて、ますます忙しくなる。
しかも本人が仕事を苦にした様子がなく、何だかんだで期限以内に終わらせてしまうから笑えない。
とはいえワーカーホリックなのかと思いきや、出来ること出来ないことの線引きもちゃんとあるようで何でもかんでも引き受けてしまうわけでもない、仕事内容の見極めも出来る慧眼の持ち主。
要するにあいつは超有能提督なの。ハァ、あんなのがトップクラスの提督だなんて世も末だわ。
「ご主人様のこと?そういや今日は開発中の新武器のマグネットスパイクとアクセルアックスの試運転に協力するためにドンドルマ鎮守府まで行くって本人が言ってたね~。」
「ふーん。」
バケツ提督は優秀な提督だけど、それ以上に戦闘者としても優秀だから新兵器の試運転にもよく呼ばれている。認めたくはないけど、文武両道とはあいつのことをいうのね。
「しかし、あんた本当によくあいつが言ってることが理解出来るわね……。」
「そーお?そりゃ漣はご主人様と一番付き合いが長いからねー、お互いにツーカーの仲っつーかー……なんつったりして!まっ、要するに秘書艦の座は伊達じゃないってことだね~。」
そんなワケあるか!?
ホッハとかピャアウとかしか言わないのに、あれと会話出来る方がおかしいっての!
あれと会話するくらいならバウリンガル無しで犬と喋っていた方がまだ建設的よ。
メゼポルタ鎮守府の狩娘の中でバケツ提督の言葉が理解出来るのは漣だけだ。
漣は秘書艦であると同時にバケツ提督語の通訳も兼ねている。
バケツ提督にこっちの言葉はちゃんと通じているんだけど、向こうからの言葉は伝わらない……というか理解が出来ない。だから漣がいないとロクに意思疎通も図れない。
いくら優秀な提督だろうと、部下と会話が出来ない時点で使い物にならないわよ。
筆談やタブレット端末を使っての会話も試したけど『ホッハ!ピャアウ!』しか書かないんじゃ意味ないわ!そのくせ重要な書類とかはちゃんと読める字で書くんだもの。
何なのあいつ、絶対わざとやってるでしょ!?
そういやドンドルマ鎮守府には一人で行ったみたいだけど、向こうの連中はバケツ提督の言葉が分かるのかなぁ?
こっちが見ていないところで標準語で喋っているんじゃないでしょうね?
「あ、やっと来た。」
「遅かったね漣ちゃん、何かあったんじゃないかって心配してたんだよ?」
食堂に着くと待ちくたびれた様子の朧と潮が迎えてくれた。
「お待た~、いや~遅くなっちゃった。」
「ホントよ、さっさと取っておいた朝食を食べちゃってよね。このままじゃ昼食に差し支えるわよ?」
「すぐに食べるって……むぐむぐ、冷めてもウマー。」
急いでご飯を掻き込む漣、それを横目に再びお喋りに興ずるあたし達。やがて漣も食べ終わると食器を下げて、そしてお喋りに参加する。そしてその場合、話題となるのは当然……。
「そういえば、なんで漣は遅くなったの?」
「ん~?それ聞いちゃう、聞いちゃう?知りたいのかなー?漣の秘密を知りたいのかなー?」
朧の当然の疑問、それに対して待っていましたと言わんばかりにクネクネし始める漣。
なんか動きがキモいし喋り方もウザいわね……。
このまま漣に任せておくと面倒臭そうだし、もうあたしが言っちゃお。
「あー、それがね。なんか特撮番組を見ていて、それに熱中していて全然来なかったのよね。」
「ぶー、ぼのたんが言っちゃった!漣が言いたかったのにー!」
あたしにセリフを盗られて文句を垂れる漣。
だけどそれよりも特撮番組と言ったとたんに、朧と潮が「ん!?」といった表情をした方が気になった。二人とも何なのよ?
「特撮?」
「……ひょっとして、アレかなぁ?」
どうやら二人ともその番組に心当たりがあるようで警戒の色を見せる……警戒?
「そう、現在の漣は特撮番組にハマっているのだ!その名も『風翔剣士クロス・ダオラ』!面白いぞー!」
「「やっぱり……。」」
露骨にテンションが高くなった漣と、それに反比例するようにテンションの下がる朧と潮。
「そんなもの録画しとけばいいじゃない。」
「そんなものとはなんだー!?それにもう録画しとるんじゃい!」
再び文句を垂れる漣、こんなに面倒な性格してたっけ?
「ほら、スケジュールが合わないときは見られないじゃん?だから今まで撮り溜めしてたのを早朝からずっと見てたの。」
「ハァー、それで朝が遅くなったってワケ?それでも先に朝食食べて後から見ればいいじゃない、録画なんだからいつでも見られるでしょ?」
「まーその通りなんだけど、やっぱ出来ることならリアルタイムで見たいっしょ!分っかんねーかな、この気持ち?」
「えーっと、つまり今までの録画を全部見て、更に続けて実際の番組も生で見たからここまで遅くなったってワケね。」
「そうそう、その通り!さっすがぼのたんは理解が早い。もっとも見る見ないに関係なく録画はしてるんですけどねー。」
「何それ、何でそんな面倒臭いことしてんの?」
「そりゃ何度でも見返すために決まってんじゃーん。DVDやBRDが出たらもちろん買うけどさー、それまでは録画しとかなきゃ繰り返し見れないっしょ?」
「あっそう。」
もう疲れた……。
「それでねー、今日はみんなお休み貰ってるでしょー?ヒマなら漣から提案があるんだけど~?」
唐突に猫撫で声を出しながらニコニコと笑顔を浮かべつつ、こちらの様子を窺う漣。
急にどうしたの、気持ち悪いわね……。今日のあんたなんか変じゃない?
「あー……そうだ、朧は今日は一人ザザミソ祭りをする予定があるの。だから付き合えないよ、うん。」
妙な用事を持ち出して漣の提案を断る朧、っていうか一人ザザミソ祭りって何よ!?
祭りなのに一人でやるの!?そもそもその用事、今適当に考えたでしょ?
漣は気付かなかったみたいだけど、あたしには「あー……そうだ」って言ったのちゃんと聞こえたんだからね。
「むー、残念。じゃあ潮たんは?」
「えっ!?えっーと、漣ちゃんには悪いんだけど……今日は時雨ちゃんと夕立ちゃんを連れてお散歩に行く予定があるから、その……ごめんね。」
「えぇ~、潮たんまで~!?そんなぁ~。」
潮にも断られてがっかりする漣。だけどあたしにとっては潮の発言の方が問題だ。
「はぁ?時雨と夕立ぃ!?潮、あんたあいつらと出掛けるつもりなの!?」
「あはは、ぼのたんってあの子達のこと苦手だよね~。」
「時雨ちゃんと夕立ちゃんは曙ちゃんのこと気に入ってると思うんだけどなぁ。」
漣と潮は笑って済ますが、あたしにとっては笑えない。
あいつらに気に入られるなんて冗談キツいわ!
「朧もあの子達とは仲良くやれてると思うよ。曙はどこが苦手なの?」
「苦手なんてもんじゃないわよ、あの白黒コンビ!声はやたらとうるさいし、力も滅茶苦茶強くて止めるのも難しいし……というかあいつら見た目以上に力強過ぎじゃない?服引っ張られたときなんて脱げるどころか破れるかと思ったわ!そんでもってその有り余る力で部屋は荒らすし、物はすぐに壊す!挙句の果てには構ってちゃんでうっとおしい癖に、機嫌が悪くなると滅茶苦茶怖くなるし!あいつらはホントにバカよ!とにかくあいつらの相手なんてゴメンよ!なぁにがぽいぬだ!なぁにが犬時雨だ!完全に単なる犬じゃない!あんなの他所の鎮守府の時雨と夕立に申し訳ないわ!」
「わぁお、そこまで言う?」
漣に呆れられるが、あたしとしてはあれと普通に付き合える他の連中の方がどうかしている。
「うーん、そこは潮が責任を持ってどうにかするから曙ちゃんには悪いけど、もうちょっと我慢しててね?」
どうにかって……責任を持っての後に付けるセリフじゃないでしょ。
「まぁ用事があるっていうならしょうがないよね。よし、朧も潮たんもダメならぼのたんだ!どう?ぼのたんは時間ある?あるよね、だってぼのたんだもんね。」
(#^ω^)ピキピキ
あたしだから時間あるってどういう意味?そんなに暇そうに見える?
大体あたしだって休日の予定くらいあるっての。
「あのねぇ、あたしは火山で目撃情報のあるマグマの中を泳ぐ巨大シーラカンスの真偽を確かめるっていう予定が……。」
ところが断ろうとした途端、漣は椅子から飛び降り、あたしの足にまとわりついてきた。
「ぼのたぁん、一生のお願い。今日は漣と一緒に過ごしてよぉ。漣を助けると思ってね、ね?それにさぁ、前回密林で目撃情報のある足の生えた巨大魚だって結局見つからなかったじゃん。今回だって無理だって~。」
「ちょっと、漣あんた何やってんのよ!?離しなさい!そもそも一生のお願いって、数日前にもそのセリフ使ったでしょ、あんたの一生何回あんのよ!?それに前回の釣りは、きっと使った釣り餌が悪かったのよ!今回は絶対に釣れるんだから!」
振り払おうにも漣は足をガッチリと掴んでおり離れない。
「漣はさぁ、河まで昇ってきたドスサイズの深海棲艦を魚と勘違いしただけだと思うけど思うんですけど。」
「いくら何でも深海棲艦と魚は見間違えないわよっ!」
「……ぼのたんの足、スベスベだぁ~。ドゥフフフフ……ここか、ここがええんか?」
「このアホッ、足を撫でるな!頬擦りすんなっ!」
「それに灼熱の火山の中でマグマの中に釣り糸垂らしたって糸が燃えるだけで何も釣れるわけないだろ、常識的に考えて。そもそもマグマの中で生きていられる生き物なんていないっしょ。そんな苦行に時間を浪費するくらいなら、今日の休日は漣と一緒に過ごそうよ~。休日をボッチで過ごしたっていいことないって……ペロペロ、うーんデリシャス!」
「分かった、分かったからいい加減に離せ!つーかどさくさに紛れて太もも舐めんな!気持ち悪い!」
「やっほ~い、言質は取ったもんね~!」
し、しまった。漣の熱意という名のゴリ押しとセクハラに負けて、ついOKを出してしまった。
さよなら、あたしの休日。さよなら、あたしの予定。
一方の漣はあたしの足から離れると小躍りをして喜び始めた、そんなに嬉しいの?
「じゃ、漣の世話は任せるから……。」
「頑張ってね、曙ちゃん。」
朧と潮からは同情するかのように肩をポンと叩かれる。
こうしてあたしの貴重な休日は、漣と一緒に過ごすことが決まってしまったのだった。
決断、早まったかな……。
人気キャラの時雨と夕立をバカ犬扱いして大丈夫か?
大丈夫なわけないだろ!いい加減にしろ!
時雨と夕立のことは嫌いじゃないです、むしろ好きです。ゴメンね。