アンジャナフ亜種の頭部、どっかで見たことあるなと思ったらイナズマカノコガイに似てるんですね。イナズマカノコガイっていうのは水槽のコケ掃除に使う巻貝の一種です。
え?イナズマカノコガイじゃなくてカミナリ様がモチーフ?
どっちも似たようなもんじゃろ。
コンガになった長門の世話をすると決めたオレ達は、とりあえず長門を連れて執務室から出た。
「それで、世話をするとは言ったもののどうするのです?」
「まずは消臭玉の用意をするわ!何をするにしても臭いのは困るもの!」
「提督が言っていたやつだな、そいつはオレがショップで買ってくるぜ!」
「天龍さんにだけ払わせるなんて悪いわ、私もお金を出すわよ!」
「電も出すのです。」
「ウホ?」
本当にいい子だよね、この子ら。
おい長門、当事者はお前なんだぞ?1zくらい出せよ。
「臭い対策はこれでいいとして、そろそろお腹も空いたし夕ご飯を食べましょう。」
「え?そいつを食堂に連れて行くのか?」
消臭玉を買ったとはいえ、それは長門が出した悪臭を消すためのものであって、悪臭そのものが出なくなったワケじゃない。
それに今も全身からポワ~ンと嫌な臭いがする。
「だって置いてけぼりは可哀想じゃない。それに今の長門さんを一人きりにするのも不安だわ。」
まぁこの長門を放置するとどうなるのか分からんのは同意する。
「何より狩娘だった頃と同じような生活をしていれば元に戻れるかもしれないでしょ?」
「な~るほど、一理ある。」
「これと一緒に食事だなんて嫌な予感しかしないのです……。」
「ウホッ。」
そして食堂にやって来たのはいいんだが……。
「ちょっと、長門さん!そんな下品な食べ方しちゃダメよ!それに早食いは身体に悪いわ!」
「ウッホホ!ウホホ!アグアグアグアグ!」
料理を手掴み、尾掴みしながら大きく開いた口の中へグチョグチョと押し込んでいく長門。
当然食べこぼしや料理の汁があちこちに飛び散っていく。
オレ達も雷を手伝わなきゃいけないとはいえ、オレは長門の向かいの席に座ったことを早くも後悔し始めた。
「きったねぇなぁ……。」
「こっちにまで汁を飛ばさないでほしいのです。」
「ほら、こうやって箸を使うの!箸が難しいのならフォークでもいいわよ!」
「ウホウホホ!ムグムグムグムグ!」
隣に座った雷が箸の使い方をレクチャーするものの、長門は全然話を聞いてない。
ちなみに現在の長門が食べている料理だが、普段の長門が食べている量の数倍はある超特盛となっている。
雷がいつも通りの量を持ってくると長門が不満げな顔をしたので、機嫌がよくなるまで量を増やした結果こうなった。
戦艦ということで普段からオレ達の倍近くは食べる長門だが、コンガと化したことでその食欲は更に肥大化したようだ。
大量の料理があっという間に長門の腹の中に消えていく、そして料理を食べ終えたと同時に……。
「モグモグ、ゴクン……ゲェーーーップ!!」
「うげぇ!?なんて臭いゲップだ!」
「ゔっ!く、臭過ぎるのです!!」
長門は口からゲップを吐き出した。
以前卯月が使ったひえい玉の殺人級の臭いには流石に劣るが、それでも充分に酷い臭いだ。
「ゲホッ!しょ、消臭玉を!!」
雷が慌ててテーブルに消臭玉を叩きつけたことで水色の煙が広がり、瞬く間に悪臭を消し去った。
「うえぇ、臭いが消えたとはいえ未だに気分が悪いぜ。」
「今のですっかり食欲が無くなっちゃったのです。」
「もうっ!ダメでしょう長門さん!みんなまだご飯を食べているの!食事中にそんなことをするのはマナー違反よ!」
「ウホッ?」
雷が長門を叱るものの、当の本人はまるで分っていない様子だ。
こりゃあ先が思いやられるぜ。
食事の後は歯磨き、ということで長門を連れて洗面所まで来たのだが……。
「こいつの口って普通の歯ブラシで洗えんのか?」
「ウホ?」
「ここに長門さんが普段使っている歯ブラシがあるけど、これじゃあ小さ過ぎて頼りないのです。」
見ての通りカバのような顔になってしまった長門。
人間とは比べ物にならない程の大口で、牙獣種というだけあって大きくて太い牙も持っている。
人間用の歯ブラシじゃ、一回使っただけでダメになりそうだ。
とはいえ歯を磨かないという選択肢はない。
長門の口臭対策の第一歩は、まず歯磨きからとみんなで決めたからだ。
「確かテレビで見た動物園のカバは、専用の特大歯ブラシで歯磨きしていたわね。」
「そんな都合のいいものなんてあるわけないのです。」
「代わりになりそうなものなんて、このトイレ用の清掃ブラシぐらいしかないぞ?一応これは新品だから汚くはねぇが、便所ブラシで歯磨きなんていい気分はしねぇな。」
オレが流し場の下から見つけたのは新品の便所ブラシだ。
相手がコンガになった長門とはいえ、これを口に入れるっていうのはちょっと可哀想だな。
長門が正気に戻ったときに自害とかしなきゃいいんだが……。
「もうそれでいいわ、うがい用のコップはこのバケツを使いましょう。」
雷が持ってきたのはどこにでもありそうな水色をした普通のバケツ、金属製のピンク色をした頭に被る用のバケツなどでは断じてない。
雷はオレからブラシを受け取ると、ブラシに歯磨き粉を塗っていく。
「歯磨き粉ほとんど使っちゃったのです。」
「口もデカけりゃブラシもデカいからなぁ。」
「毎回これだと不便ね、何か対策考えなきゃダメね。まぁ今はそのことはいいわ。ほら、長門さん口開けて。」
「ウホ?」
「ほら、こんな風にブラシを口に入れるの。」
「ウホァーン。」
雷は口を開けてブラシを口の中に入れるジェスチャーをする。
手に持っているのが歯ブラシじゃなくて便所ブラシなのが異様だが、それで長門に通じたのか長門も真似して大口を開ける……うっ、やっぱり臭い。
「本当は自分で磨けるようにならなくちゃいけないのだけど、今回は私が磨いてあげるわ。今回ので覚えてね。」
雷はブラシを長門の口に突っ込むと両手を使ってシャコシャコと磨き始めた。
「~♪」
長門も特に抵抗する様子はなく、されるがままだ。
それどころか嬉しそうにさえ見える、口の中がさっぱりして気持ちがいいのだろうか?
「よし!じゃあ流しにぺーっってして、飲んじゃダメよ?」
「ンベェ~~~。」
洗面台に口の中のものを吐き出す長門。
ハッキリ言って凄く臭いしそれに汚い、歯を磨いた後に吐き出されたものとは思えない。
雷はよくこいつの歯を磨けたな、オレには無理だ。
「最後にこのバケツの水でうがいをして、それをまた流しに吐いて歯磨きはおしまいよ。」
「ガラガラガラ……ンベェ~~~!」
雷の言うことをよく聞いているな、やっぱり狩娘だった頃の記憶が残っているのか?
「あれ?歯を磨いた後はうがいをしない方が、歯磨き粉に使われているフッ素が口の中に残るから虫歯になりにくいと聞いたのですけど……。」
「まぁまぁ、細けぇことはいいんだよ。」
「そして最後にコレ、息を綺麗にするタブレット!噛まずに呑むのよ、分かった?」
「ウホ。」
雷は懐から錠剤のようなものを取り出すと、それを長門に飲ませる。
口だけを綺麗にしても完全な口臭の解決にはならないってんで、これを飲ませることにしたんだ。
長門は雷に言われた通りにおとなしく呑み込んだ。
「うん、良く出来ました。いい子ね。」
「ンホホ♪」
ここまでしたが、あまりいい匂いになった気はしない。
そりゃ最初に比べればかなりマトモになったが、それでもそこら辺にいる口臭が酷い人と同等かそれ以上には臭い。
まぁ初日だし、口臭の改善もこれからか。
その前に元に戻ってくれれば問題ないんだけどな。
口臭対策の次は体臭対策ということで長門を風呂場に連れてきた。
オレ達三人はユアミに着替えたが、当然ながら長門に着せるサイズのユアミは無かった。
仕方がないので現在の長門の姿はヘッドギアを外しただけの全裸だが、こいつは最初から裸みたいなもんだし別に構わねぇだろ?
「本当に長門さんの身体をお風呂場で洗うのですか?電は反対なのです。」
電は最後まで長門を風呂場に連れてくることに難色を示していた。
『お風呂場はみんなが使う場所なのです。長門さんを洗うのなら中庭でホースでも使って水を掛けてやればそれで済むのです。』
『それじゃあちゃんと綺麗にならないでしょ、そんなことじゃいつまで経っても汚いままよ!そのままじゃ私達が困るし、それにそんな洗い方しちゃ長門さんが可哀想だわ。それに汚れた長門さんをお風呂場に連れて行きたくないっていうのはまぁ分からないでもないけど、そろそろ外も暗くなってくるわ。そんな時間に中庭に出て水撒きなんてダメよ!』
『だとしても電達まで一緒に入るのはおかしいのです。犬や猫をお風呂場で洗う人はいても、一緒に入浴する人はいないのです。』
『でもこれは犬や猫じゃなくて長門さんなのよ、長門さんとは何度も一緒にお風呂入ったことあるでしょ?さっきも言ったけど普段と同じような生活をすることが完治への第一歩なのよ。』
『別に好きで一緒に入っていたワケではないのです、それにそんな方法で治るって保証もないのです。』
『でも治らないって保証もないわ!それに治らないにしても長門さんが一人でお風呂に入ることを覚えられたらそれでいいじゃない。』
こんなやり取りがあって、今に至る。
「ここまで来たんだ、いい加減腹ぁくくれ!」
「むぅ、仕方がないのです。今日の長門さんはいつもみたいにいやらしい目で電達を見てこないので我慢するのです。」
「顔だけならいつもの何倍もいやらしいけどな。」
「ウホッ。」
このカバみたいな顔を見て上品に感じるやつはいないだろう。
それにこの体臭である、下品以外の何物でもない。
せめて風呂で綺麗にして臭いだけでもなんとかしてやらなきゃなぁ。
「さぁ長門さん、お風呂よ……あれっ?」
雷は長門の手を引いて風呂場に連れ込もうとしたが、長門はその場からジッと動かない。
「どうしたの?ほら行くわよ。」
雷は再び長門を風呂場に連れ込もうとするが、やっぱり長門は動かない。
風呂場の入り口で立ち止まったままだ。
「ダメね、ビクともしないわ。」
「そういえば猿は毛皮が濡れるのを嫌がるって聞いたことがあるのです。」
「そうか?ニホンザルって温泉大好きだろ?濡れるのは平気なんじゃないか?」
「それはニホンザルが特別なだけなのです。普通の猿は毛皮が濡れることを嫌うのです。チンパンジーみたいな知能の高い類人猿ですら、ちょっとした小川を渡ることすら躊躇するそうなのです。それに同じニホンザルでもオスザルは温泉に入らないのです。濡れて毛皮がぺちゃんこになったら群れの中での威厳が無くなるから風呂を嫌うのだそうです。」
「つまり猿は基本的に水が嫌いってことか?」
「そうなのです。」
「なるほどな、だから猿になった長門は風呂場を嫌がったのか。」
「でもアステラ鎮守府の分家にあたるセリエナ鎮守府の近くで見つかった新種のギンなんとかサルっていうお猿さんは天然のお風呂に入っていたって報告があるわよ?」
「それはその猿が特別なのです。それにニホンザルやセリエナの猿がお風呂に入れても、長門さん本人がお風呂に入れないことに変わりはないのです。」
「それもそうね、とにかくこのままじゃ困るわ。この様子だとお風呂に入れられないじゃない。」
「仕方ねぇ、三人がかりで連れ込むか。」
「ンホホ……。」
雷が長門の右手を両手で引き、電も同様に左手を引く、そしてオレが背中を押し込むことでようやく長門を風呂場に連れ込んだ。
そして最後に逃げられないように風呂場の扉をピシャリと閉めると、長門は観念したのかようやく大人しくなった。
「面倒なことが起きる前にさっさと終わらせるのです。」
「任せて!私が綺麗にするわよ!」
雷は泡立てたスポンジを使い、長門の大きな背中を洗い始めた。
普通は身体を洗うのに石鹸を使うのだが、全身が毛で覆われていることを考慮してか使用したのはシャンプーである。
可愛らしい少女が不細工な大猿の背中を洗っているという絵面がなんとも非現実的でシュールだ。
「ウホホ~♪」
最初は嫌がっていた長門だが、洗ってもらうことが気持ちいいと気付いたのか抵抗する様子も無くなってきた。
「よしっ、頭のてっぺんから尻尾の先まで洗ったわよ。それじゃシャワーで流すわね。」
長門にシャワーを浴びせると、泡と一緒に茶色く濁った水が流れ出す。
どんだけ汚れてたんだコイツ?
さっきまで雷が使っていたスポンジも茶色になっているし、これはもう捨てなきゃダメだな。
「さぁて、一段落着いたしオレ達も身体を洗うか。」
「そうね。」
「なのです。」
オレは自分で身体を洗い、電と雷は互いに洗いっこをしている。
これがキャッキャウフフってやつか、オレですら可愛いって思うもん。
普段の長門なら大喜びするんだろうな、今じゃ尻尾で桶を回して遊ぶことに夢中みたいだけど……。
「身体を綺麗にしたら入浴よ!長門さん、お湯に浸かるの。大丈夫?こんな風に入るのよ。」
「ウホホ……。」
雷はあえて長門に見せつけるようにお湯に入っていく、お湯が安全なものであると分からせたいようだ。
長門は恐る恐る湯船に近付くと、尻尾の先でお湯をちょんちょんとつつき始めた。
「ウホ。」
お湯に危険がないと分かると、長門もゆっくりとお湯に入っていく。
「よし、成功か。ならオレ達も入るか?」
「綺麗にしたとはいえ、猿と一緒のお湯に浸かるのはやっぱり気が進まないのです。」
オレは長門に続いて湯に浸かり、電も渋々といった様子で後に続く。
「ふぅ~温まる、山登りと長門の世話で疲れた身体に染み渡るぜ。」
「確かに今日はくたびれたのです。」
「もうっ、まだ今日は終わりじゃないわよ?そんな調子じゃダメよ!」
雷はそう言って戒めるが、疲れたものは疲れたんだよ。
もうちょっとくらい気を抜かせてくれ。
「……ウホッ。」
唐突に長門がブルリと身震いをした、何なんだ?
それと同時に長門の座っている場所から徐々に大きな気泡が浮き上がってくる、この泡ってもしかして……。
とうとう泡は水面にまで到達しパチンと弾けた、そして……。
貝類は長生きさせたことがないので基本的に水槽には入れません!(にわかアクアリスト)