2020年なので初投稿です。
コンガの生態には無い設定を捏造してるけど許してネ!
「うーん。狩りが始まっているのに出撃せずにベースキャンプに残るのって初めてだから、何をしたらいいのかしら?」
電と天龍さんを見送ってからすることがなくて手持ち無沙汰だわ。
ただ時間を無駄にするのも嫌だし、みんなのためにキャンプのかまどで携帯燃料でも作っているべきかしら?
「ウホ♪」
ふと長門さんの方を見てみると、暇潰しのつもりなのか器用に尻尾を使ってブレイズブレイドの刃を出し入れして遊んでいた。
「もう、刃物はオモチャじゃないのよ?怪我でもしたらどうするの。」
とはいえ尻尾で大剣を持ち上げられるだけじゃなくて、ちゃんと刃の出し入れもこなせるなんて凄いわね。
コンガのままでも大剣を使えるんじゃないかしら?
「…………そうよ、思い付いたわ!!」
「ウホ?」
「いい?長門さん、よく見といてね。」
私は長門さんからブレイズブレイドを受け取り、浜辺に漂着していた少し朽ちた丸太の前に立つと武器を構えて力を込める。
ちなみに私のイカリハンマーは邪魔になっちゃうからベースキャンプの休息用テントの中に置いてきたわ。
「こうやって力を溜めて……力が溜まり切ったら脱力しちゃう前に解き放つ!!」
振り下ろしたブレイズブレイドは、ズダンと大きな音を立てながら丸太に半ばまで突き刺さる。
「どぉ、これが溜め斬りよ。」
うーん、大剣は普段使わない武器だから手ごたえがイマイチね。
力を溜めること自体はハンマーで慣れてるけど、大剣は溜めてる間に動けなかったり溜め過ぎると脱力しちゃうから私には難しいわ。
「さぁ長門さん、今のを真似してみて。大剣は溜め斬りに始まり、溜め斬りに終わるのよ!」
大剣を長門さんに返す、大剣は本来長門さんの得意武器だからすぐに使いこなせるようになるわよ!
「ウホ。」
長門さんは相変わらず尻尾で軽々と大剣を持ち上げる。
そして丸太に向かってお尻を向けると大剣を振り上げ力み始めた、力み過ぎてそのままオナラしたりしないわよね?
「ウホッ。」
そのまま長門さんが大剣を振り下ろすと、丸太は切断されるというより力任せに叩き割られて真っ二つになってしまった。
「ウソっ!?なんて破壊力……。」
フォームは変だったけど私の振り下ろした大剣なんかとは比べ物にならない破壊力ね。
それどころか狩娘の頃の長門さんよりも威力が上がっているんじゃないかしら?
コンガになったことでパワーが増したと考えるのが普通ね、やっぱり動物のパワーって凄いのね。
その後も大剣の基本的な動きを一通り教えていく。
私のメイン使用武器じゃないから本当に基本的なことしか教えられないけどね。
長門さんは尻尾を使っているせいか動きこそ独自のアレンジが多く入っているものの、恵まれた体格と持ち前のパワーで重いはずの大剣を軽々と扱い、次々と砂浜に斬撃の痕を刻み込んでいく。
間違いなく私よりも大剣を使いこなしてるわ。
「武器を使った後は砥石で研いで手入れしなきゃいけないわ。これをしないと斬れ味が落ちて武器の威力が落ちるの。」
武器の使い方について教えることがなくなったので、続いて武器のメンテナンスについて教える。
「これが砥石。石ころの次くらいに手に入れやすい鉱物で、どこでも簡単に拾えるわよ。それじゃ実際にやってみるからよく見ててね。」
長門さんに見えるようにブレイズブレイドを研いでいく。
ブレイズブレイドは小さな刃の一枚一枚まで研がなきゃいけないから少し面倒ね。
「どう、分かったかしら?」
「ウッホ!」
………………どうしましょう、もう教えられそうなことがなくなっちゃったわ。
またしても暇になっちゃう、こういうときはどうすべきかしら?
この状況で私が他に長門さんにしてあげられることは……?
そもそもさっきから私はどうしてこんなに焦っているの?
なんで長門さんにしてあげられることばかりを探しているの?
ここで電と天龍さんをのんびり待っていればいいだけなのに、どうして長門さんに何かを教えてあげようとばかりしているのかしら?
いえ、本当は分かっているわ。見て見ぬフリをしているだけ。
このまま誤魔化し続けるというのは長門さんに対して失礼よね……。
せっかく二人きりなんだし、本当のことを話して気持ちの整理をしましょう。
「……長門さん、砂浜に座ってくれる?少しお話ししましょう。」
砂浜に体育座りで座ると、隣の地面をポンポンと軽く叩いて長門さんにも座るように促す。
スカートのお尻に砂が付いて汚れることなんて気にしない。
長門さんも私の隣にドスンと腰を下ろす。
「長門さん、ちょっと長いけど聞いてくれる?」
「ウホ?」
「私ね、真っ先に長門さんの世話をするって言い出したでしょ?あれね、9割は長門さんへの恩返し。そして長門さんの助けになろうと思ったからよ、それは本当よ。だけど残りの1割は誰かの世話が焼きたくてしょうがなかったからなの。」
「……。」
長門さんは黙ったまま座り続けている。
いつものように尻尾で一人遊びをするわけでもなく、周囲に気を取られることもない。
これは私の話を聞いてくれていると取っていいのかしら?
「あのね、私って人に頼られることが好きなの。誰かの世話を焼くことが好きで好きで堪らないの。おかしいでしょ?だけどクロオビ鎮守府では誰も私に世話を焼かせてくれなかったのよ。」
「…………。」
「妹の電はしっかりしてるから、私がしてあげられることは案外少ないの。それどころか私の方が電に世話を焼かれているような気までするわ。龍田さんも自分のことは全部自分でやっちゃうし、天龍さんの世話も龍田さんが焼いてるからやっぱり私が出る幕はないわ。神通さんは私以上に何でも出来る万能な人だから私が出しゃばると逆に邪魔になっちゃうし、川内さんは川内さんで夜型人間だから私が世話を焼こうにも洗濯ぐらいしかすることがないわ。提督の仕事も全て秘書艦の神通さんが引き受けてるし、お金儲けとか自分自身のこととかは結局全部自分でやっちゃうわ。あれでも提督に選ばれる程度には優秀な人だからね。」
「………………。」
「そして長門さんも基本的に私に世話は焼かせてくれないわ。でも今のコンガになった長門さんなら自分で出来ることは限られてるでしょ?だからこれはチャンスだと思ったの。今の長門さんなら私に存分に世話を焼かせてくれるって。」
「……………………。」
「ずっとこんなことを考えていたの、ごめんなさい。全てが善意じゃなかったのよ。」
「…………………………。」
「どう、これが本当の私。幻滅したでしょ?」
長門さんは黙って最後まで聞いてくれた。
こんなことを話したからにはきっと嫌われちゃうわね、でもこれでよかったのよ。
この気持ちを隠したままでいるのは長門さんを騙して利用しているのと同じよ。
「ウホ……。」
頭を優しく撫でられている?
顔だけ長門さんの方に向けてみると、長門さんが尻尾を使って私の頭をそっと撫でてくれていた。
「慰めてくれているの?ふふふ、ありがとう。」
「ウホ!」
お蔭さまでちょっぴり元気が湧いてきた、重くなった心がすっと軽くなった気がするわ。
やっぱり長門さんはどんな姿になっても優しいわね、こんな私のことを見限らないでくれて本当にありがとう。
コンガになったこと自体は長門さんにとって災難でしょうけど、お陰で私の心の内を聞いてもらえた。
今だけはドキドキノコに感謝しなくちゃね!
「正直な気持ちを話してスッキリしたわ、湿っぽいのはこれで終わり!気持ちの切り替えも兼ねてランチにしましょ。長門さんが食べるだろうと思ってアオキノコとこんがり肉を使ったお弁当を作ってきたのよ!」
「ウホ~!」
長門さんとランチを食べた後、腹ごなしも兼ねて再び二人で武器の素振りをしているとゴトゴトという聞きなれた音が聞こえてきた。
海の方に目を向けてみると、レンタクに揺られながら電と天龍さんが帰って来ていた。
「雷ちゃんただいまなのです!」
「戻ったぜー!」
「お帰りなさい!その様子だと狩猟は成功したみたいね!」
さっきまで振り回していたイカリハンマーをキャンプに片付けると二人を迎え入れる。
背負ったままでもいいんだけど邪魔になるからね。
一方の長門さんはブレイズブレイドを持ったまま、尻尾で持てる上に力もあるから邪魔に感じないのかしら?
「あのカニ滅茶苦茶堅かったな、新しい武器だってのに弾かれまくって凹むぜ。」
「天龍さんは真正面から斬り掛かって、弾かれたところをハサミに捕まって齧られてたのです。電がザザミの脚を叩いて怯ませなかったら、そのまま口の中に放り込まれていたのです。」
「言うなよ~。」
「天龍さんはいきなり攻撃したりしないで、もう少し観察するべきなのです。初見の相手に迂闊過ぎるのです。」
雑談しながら剥いできた素材を片付けたり、怪我の手当てや武器の手入れをして帰還の準備を進めていく。
「ウホ?」
「長門さん?」
そんな中、ふと何かに気が付いたように長門さんが山の方へと視線を向けた。
「ウホ~~~!ウホホ~~~ッ!!」
「長門さんっ!?待って、どこへ行くの!?」
そして昨夜のように遠吠えをすると、突然山の方を目指して駆け出してしまった。
慌てて声を上げるが長門さんが止まる様子はない、このままじゃ長門さんを見失っちゃう!
長門さんは今コンガなのよ!今の状態だとここから一人で鎮守府に帰ってこれるかどうかすら怪しいのに、山なんかに入ったら完全に行方不明になっちゃうわ!
こうしちゃいられない、今の私に出来ることは……。
「あっ、雷ちゃん!?武器も持たずに山に向かったら危ないのです!」
「何やってんだ!?ちょっと待て!」
長門さんを追い掛けるのみ!
電と天龍さんの制止も聞かずに、私も山を……というか長門さんの後姿を目指して走り出す。
止めてくれたのに無視しちゃってゴメンね、でも長門さんを見失うワケにはいかないの!
武器が無いのは確かに不安だけどテントで装備していく暇なんてないわ、今はとにかく追い掛けなきゃ!
長門さんの後姿と足跡を頼りに追跡を続けていたけど、徐々に引き離されてきた。
でっぷりとした見た目と裏腹に、四つ足で駆け回る長門さんの動きは非常に軽快だ。
山道を進むにつれて木が多くなってくると、大ジャンプで一気に木を登り、長くて鋭い爪と強靭な足腰を使って木から木へとひょいひょい飛んで移動する場面も増えてきた。
この移動方法も走るのと遜色ないほど速い上に、周囲に木さえ生えていれば足元が草むらだろうがでこぼこ道だろうが関係なく一定のスピードを出せる。
何より足跡を残さないから追跡が大変よ、以前天龍さんが言っていた導虫っていうのが欲しいわ!
どうして大きて重たい大剣を尻尾で持ったまま、あそこまでアクロバティックな動きが出来るのかしら?
ひょっとして長門さんが大剣を持っていなかったら、もっと早かったんじゃないの?
「はぁはぁ……長門さん、待ってぇ……。」
走り続けて流石に疲れてきちゃった、本音を言うとちょっと休憩したいわ。
だけどここで足を止めたら本当に長門さんを見失っちゃう。
長門さんはどんどん山の深いところに進んでいく、普段じゃ絶対に通ることのない場所だわ。
道らしい道もないありのままの自然が行く手を阻む、進むだけで精一杯よ。
「なが……あっ!?きゃあああぁぁぁ!!」
疲れて足元がおぼつかなくなっていたからか、それとも泥を踏んだせいで靴が滑りやすくなっていたためか、はたまた長門さんを追うために上ばかり見ていて足元を見ていなかったせいか、私は前方が急な斜面になっていたことに気付かず、そのまま足を滑らせて転がり落ちてしまった。
「あぅ、いったぁ~い!」
斜面をゴロゴロと転がって全身をあちこちにぶつけながら落ちたせいで身体中が物凄く痛いわ。
それに髪の毛には木の枝が何本か引っ掛かって絡まっちゃってるし、服は土で汚れちゃった。
だけど長門さんを見失ってしまったことに比べれば、痛みや汚れなんか些細なことよ。
そしてそんなことを気にしていられない理由がもう一つ。
「ここ、どこなの?」
私が落ちた場所は完全に見覚えのない場所だった。
暗い森の中でも特に陰湿で淀んだ空気が漂う、他のエリアとは明らかに雰囲気の異なる薄気味悪い場所。
山自体普段から立ち入る機会はそう多くないけど、それでもマップに記されたエリアには立ち入ったことがある。
だけど今私がいる場所は明らかに一度も入ったことのないエリアだった。
恐らく長門さんを追い掛けるためにマップのルートを無視して無理矢理進んだせいで、通常エリアの外に落ちちゃったんだわ。
私が落ちた斜面は一般的な滑り台よりも角度が急だから、登るのは無理ではないけどとても難しそう。
このまま登って来た道に戻るのは現実的じゃないわね、戻れる道がないか探しましょう。
そう思って歩き出したのだけど……。
「さっきからそこら中に白くて丸いものが落ちていたり、木にぶら下がったりしている?」
私の身長と同じくらいか、それ以上に大きな白くて丸い物体。
初めて見るわね、これはなにかしら?ちょっと気味が悪いわ。
BGM:暗闇の捕食者
「クァァ……。」
「えっ?キャッ!?」
どこからともなく聞きなれない動物の鳴き声のようなものが聞こえたと思った次の瞬間、私は樹上から飛んできた白い塊に全身を絡めとられ、その場から一歩も動けなくなっていた。
「な、何よこれ?クモの糸???」
私の身体の自由を奪ったその物体はどこからどう見てもクモの糸、だけど量が半端じゃないわ。
クモの糸の強度は同じ太さの鋼鉄の4~5倍っていうけど、そんなものが荒縄のように私の上半身を幾重にもきつく縛り上げて地面とつなぎ合わせている。
慌てて糸が飛んできた方を向くも、そこに糸を飛ばした犯人の姿はなかった。
その代わりこの薄暗いエリアの木という木全てに、エリア全てを覆い尽くさんばかりの巨大なクモの巣が張られていることが分かった。
この薄暗さと空気の悪さは張り巡らされたクモの巣によって日光や風が遮られていたことによるものだったのね。
よく見れば周囲にある白い球体も全てクモの糸の塊で、更に目を凝らせば薄っすらと糸の中に何らかの生物の亡骸が入っているのが見えた。
「ひょっとして、ひょっとしなくてもこれはクモに食べられた犠牲者の成れの果てで、私もこれからこの子達の仲間入りをするの!?」
そんなのイヤよ!
どうにかして拘束を解こうと身じろぎをするものの、見た目以上に強固な糸はビクともしない。
「おーーーい、雷、長門!いるのか?返事をしろ!」
顔だけで振り返ってみると、天龍さんがスライディングで斜面を滑り降りてきた。
追い掛けてくれていたの!?
「天龍さん!?」
「雷、そこにいたのか!坂の手前で足跡が無くなってたから焦ったぞ……ってどうしたんだよその格好は!?」
糸に巻かれた私の姿に驚いた天龍さんは、坂を降りきると私の方に駆け寄ってこようとしている。
来てくれたことはすっごく嬉しいんだけど……。
「天龍さん来ちゃダメ!ここにはクモがいるわ!」
「クモ?クモがどうした?」
私の説明が悪かったのかキョトンとした表情を見せる天龍さん。
あぁもう、なんて説明すればいいのかしら!?
私が頭を悩ませていると、突然巨大な影が天龍さんの背後に音もなく降り立った。
「天龍さん後ろよッ!」
「あん、後ろ?」
天龍さんも私の声に反応して振り返ろうとするが、それより影が動く方が早かった。
天龍さんの腰の辺りに何かを素早く突き刺す影。
「ぐっ!?な、何だ……急に眠気……が……。」
天龍さんは膝から崩れ落ち、そのままうつ伏せに倒れてピクリとも動かなくなってしまった。
大きな影は天龍さんを無力化したと判断したのか、カサカサと生理的嫌悪感を覚える音を立てながら天龍さんを跨いでこっちに近付いてくる。
近付くにつれてハッキリとしてくる相手の姿、それはまさしく異形だった。
その正体は全長10メートルはありそうな巨大なクモ。
不気味な姿に似合わない美しい純白の甲殻、それを隠すように全身を黒いゴム質の皮で覆っており、背中からは何本もの紫色をした結晶のような棘を生やしている。
巨大な二本の鎌状の爪の間に挟まれた、比較的小さな頭部にある六つの青い複眼は私を捉えて離さない。
クモは私が動けないのを確認すると、びっしりと鋭い牙の生えた長い棒状の大顎を口内から露出させた。
牙からは紫色の液体がポタポタとしたたり落ちており、一目で毒液だと分かる。
「クァァ……。」
クモは私の目の前まで来ると、湿った音を立てながら毒の大顎をまるでハサミのように大きく開く。
それで私を挟むっていうの!?こんな巨大なノコギリバサミに挟まれたら毒があろうがなかろうが死んじゃうわ、ギロチンに掛けられるようなものよ!
「イヤよ。助けて、助けて……。」
「クアアァァァ!!!」
大顎が閉じられようとした次の瞬間、縦回転しながら飛んできた何かが勢いよくクモの左側頭部に命中し、クモは右に大きく転倒した。
「ギイィ!?」
「えっ?何!?何が起こったの?」
クモにぶつかったことで勢いを無くし、その場にズンと音を立てて突き刺さったのは見覚えのあるブレイズブレイド、これってまさか……。
「ウホーーーッ!!」
「長門さん!?」
私を守るように樹上からクモと私の間に飛び降りてきたのは長門さん。
重い大剣を投げ付けたっていうの!?やっぱり凄いパワーだわ!
長門さんはクモの方を向いて二本足で立ちあがると、顔とお尻を真っ赤にして腰を振りつつオナラをする。
助けに来てくれたのは嬉しいけど、こっちに向かってオナラをされたから臭いわ!
「クアアァァ!!」
顔に斬り傷が付いたクモも体勢を立て直し、青かった目を赤く光らせながら鎌を振り上げて威嚇をする。
「長門さん、助けに来てくれてありがとう。でもこのままじゃ長門さんも危ないわ!私のことはいいから早く天龍さんを連れて逃げて!」
確かに長門さんのパワーは凄いけど、足手まといの私と天龍さんを庇いながら一人でクモと戦うのはいくらなんでも無茶よ!
あのハサミで挟まれたら流石の長門さんだって瀕死になっちゃうわ!
私は地面に縫い付けられているけど、天龍さんはただ眠っているだけ。
長門さんのパワーなら天龍さんを担いで逃げられるわ!
「ウホッ。ウホ~~~!ウホホ~~~ッ!!」
しかし長門さんは私の方を見て大丈夫とでも言うように軽く頷くと、先程のように遠吠えを始めた。
何をしているのかしら、と疑問に思った次の瞬間!
「「「「「「「「ウホッ!ウホッ!ウホッ!」」」」」」」」
長門さん……じゃなくて何頭ものコンガが森の奥から木々を飛び移りながら次々と姿を現すと、そのままクモを取り囲む形で飛び降りる。
「ウホ!!」
そして最後に一際大きな体格と立派なトサカを持ったコンガのボス、ババコンガが樹上に現れると長門さんの横にドシンと大きな着地音を立てて降り立った。
「ウホーーーッ!!!」
「「「「「「「「「ウホーーーッ!!!」」」」」」」」」
ババコンガが尻尾を使ってお尻からフンを取り出しながら咆え声で群れに号令を出すと、長門さんを含めたコンガ達も同様に尻尾を使ってお尻からフンを取り出し、そしてそれを一斉にクモに向かって投げつけ始めた。
き、汚いわ……。
いくら襲われて死にそうになっていたとはいえ、この仕打ちはいくら何でもあんまりじゃないかしら?
クモは全身を茶色の汚物塗れにして、息をするだけで死にそうな程の異臭を漂わせている。
表情筋を持たないクモだけど、明らかに苦悶の表情を浮かべているように見えるわ。
「クカカカッ!!!???」
激臭に耐えられなくなったクモは尻から糸を伸ばして近くの木の枝に引っ掛けると、糸を伝ってその木に飛び移った。
そして次の木に糸を飛ばし、まるでターザンのように振り子移動をしながら次々に木々を移動して山奥へと消えていった。
BGM:Triumph!
「「「「「「「「「「ウホホーーーッ!!」」」」」」」」」」
勝鬨を上げるコンガ達。
「ウホホッ!」
クモが退散したのを確認して顔とお尻を普段の色に戻した長門さんは、鋭い爪と腕力で私に巻き付いた糸をあっさりと引き千切ってくれた。
「本当にありがとう長門さん!でもちょっと、というか物凄く臭いわ……。」
長門さん一人のフンだけでも堪らなく臭いというのに、コンガの群れと親玉のババコンガまで加わってこれでもかという程にフンをばらまいたから、ここ周辺にはこの世のものとは思えないような悪臭が漂っている。
私が臭いで気絶しなかったのは風上にいたからね、とにかくこの惨状をどうにかしないと……。
ポーチからありったけの消臭玉を取り出すと、先程までクモがいた場所に片っ端から叩きつける。
大量の消臭玉の効果でようやく悪臭は収まった、一個でも数が足りなかったらと思うとゾッとするわね。
「雷ちゃ~ん、いるのですか?きゃっ、崖なのです!わあああぁぁぁ!!」
崖の上から電の声が聞こえてきたと思ったら、さっきの私のように斜面をゴロゴロと転がり落ちてきた。
「ぐえぇっ!?」
「い、痛いのです!」
そして未だに崖下で昏睡していた天龍さんに激突して制止、その衝撃で天龍さんも目が覚めたみたいね。
「はっ、そうだ!?雷、無事か……って何だこりゃあぁぁぁ!?」
「雷ちゃん、いるのですね!武器も持たずにこんな山奥まで入っちゃダメって……はわわっ!?一体どうなってるのです!?」
コンガの群れを見て悲鳴を上げる二人。
「その子達は普通のコンガよ、長門さんじゃないわ……あっ、そういうことだったのね!!」
長門さんの今までの行動がようやく結びついたわ!
「長門さんが遠吠えしていたのは仲間と連絡を取るためだったのね!そして山に向かったのは仲間と合流するためだったんだわ!そうなんでしょ?」
「ウホ。」
思わず長門さんに聞いてみる、すると長門さんもそうだと言っているかのように頷いた。
「いやいや、コンガになったとはいえ長門は長門じゃん。野生のコンガが仲間なワケないだろ。」
「そうなのです。何で長門さんが野良コンガと連絡取る必要があるのです?本気で野生に帰るつもりなのですか?」
「うーん、そう言われるとそうなんだけど……。」
しかし天龍さんと電に即座に否定される、でも今までの長門さんの行動を振り返るとそうとしか思えないのよね。
そんな風に考えていると、茂みをガサガサと揺らしながら何者かがこちらに近付いて来ているということに気が付いた。
ひょっとしてクモが戻ってきたのかしら?それとも新たなコンガ?
おまけ:長門さんの装備
武器:ブレイズブレイド
頭:長門ヘッド
胴:長門スーツ
腕:長門カフス
腰:長門スカート
脚:長門ブーツ
護石:城塞の護石
スキル:納刀術、抜刀術【技】、火事場力+1、腹減り倍化【小】
長門さんの装備、抜刀大剣向けの装備だが下位装備なのでスキルはまだまだ不十分。
もっとも現時点ではコンガになっているため頭防具以外は弾け飛んでおり、お守りも行方不明になったので何のスキルも発動していない。
しかし本人のフィジカルが高いお陰で、スキルが無いにも関わらず前より強くなっている。