お守り集めは悪い文明、ハッキリ分かんだね。
ジジジジジジ……チーン。
「さて、今回はどうだ?……チッ!」
工廠にある復元機、その中を覗いた天龍は露骨に嫌そうな顔をしながら舌打ちをする。
「またハズレかよ、クソッ!」
そして機嫌の悪さを隠そうともせず、毒づきながら八つ当たりで壁に拳を打ち付けた。
どうして天龍の機嫌が悪いのか、それはロクなスキルの付いたお守りが出ないことにある。
天龍がお守り採掘を始めてから数日が経つが、今のところ採集系のスキルか何らかの属性耐性スキルのポイントが1だけ付いたお守りしか出土しておらず、実用性の高いお守りは一つも手に入っていないのだ。
最初は慣れない採掘作業や新たなお守りとの出会いを楽しんでいた天龍も、終わりの見えない単調な作業の連続に流石に飽きてきたのだ。
しかしいくら飽きても止めることはしない。
今回はダメでも次の採掘ならいいお守りが出るかもしれないという、いわゆる沼に嵌っているのだ。
「明日こそ……明日こそ……。」
呪詛のように同じセリフをブツブツと呟きながら、工廠からフラフラと出てきた天龍。
物欲という名の執念に取り憑かれたその姿はさながら幽鬼のようであった。
ちなみに未だにスク水姿のままである。
「明日、明日になれば……エヘ、エヘヘヘ……。」
「そこまでよ!」
危ないクスリをキメたような言動を見える天龍の前に立ち塞がるように現れたのは龍田。
「なっ、何だよ龍田!?」
「天龍ちゃん、もうお守り採掘に行くのはやめなさい!」
「はぁ?いきなり現れて何言い出すんだ!?」
「天龍ちゃん、採掘の効率を高めるために無理を続けてるでしょ?身体中ボロボロよ、そんな状態で出撃とか見ていられるわけないでしょう!」
龍田の言う通り天龍は時間の許す限り採掘クエストに出撃し続けており、一秒でも早く出撃するために食事や睡眠などの時間は最低限に済ませており、純粋な休憩時間に至っては一切ないというブラックな勤務状況を自ら作り出していた。
更に天龍は帰還時間短縮のためにデスルーラを繰り返していた。
狩娘はそう簡単に轟沈しないという事実が、逆に平気で身を削るような無茶をさせていたのである。
「別にオレが何をしていようとオレの勝手だろ?それに私的な採掘クエストだけじゃなくて、ちゃんとした普通のクエストもこなしてる。鎮守府に迷惑は掛けてねーぞ!」
「そういうこと言ってるんじゃないわ!お守りなんかのために傷付いていく天龍ちゃんを見ているのが辛いのよ!」
「お守りなんかとは何だ!強力なお守りが手に入れば狩りが楽になるんだぞ!」
「下位じゃ強力なお守りなんて出やしないわよ!せめて上位かG級になるまで待ってよ!」
「だったら上位やG級でも改めて掘り直すだけだ!下位で手に入る範囲で一番強力なお守りが出るまで掘って、上位に上がったら上位で最強のお守りを掘って、そしてG級になったらG級最強のお守りを掘るんだよ!そうすりゃ常に最強の状態でいられるだろ!?」
「口で言うのは簡単だけど、そう上手くいくわけないでしょ!それだけのお守りを手に入れるためにどれだけの時間を費やすつもりなの!?それに死なないと思って油断してたら本当に死んじゃうかもしれないのよ!」
「うるせぇなぁ。だとしても誰かに強制されたわけでもない、オレがやりたいからやってるんだよ!どんだけ時間が掛かろうが構いやしねーよ!」
「そう、どれだけ言っても止めるつもりはないのね?」
「あぁ。」
「だったら勝負をして決めましょう!」
「勝負だぁ?」
「そうよ。私が勝ったら天龍ちゃんには採掘に行くのを止めるの。」
「はぁ!?そんなの誰が乗るかよ!受けてもオレに何一つも得がねーじゃねぇか!」
「そう言うと思ったわ。だから私が負けたらもう二度と天龍ちゃんの採掘を止めないわ、それどころか採掘に協力してあげる。採掘の邪魔をしてくる深海棲艦を食い止めてあげるし、納品アイテムが足りなかった場合は私が肩代わりしてあげるわ。何よりもし今後神通さんに採掘を咎められた場合、私が庇ってあげる。悪くない話でしょ?」
「なるほどな。で、その勝負の内容ってのは?露骨にオレに不利な内容の勝負だったらそもそも受けないぞ?」
「そこは大丈夫、勝負はあくまでフェアよ。着いてきて。」
天龍が龍田と一緒にやって来たのは鎮守府の演習所。
以前太刀の練習の仕上げとして潮風丸に連れて来られた場所でもある。
「ここか。」
「そうよ、ここまで来たならもう勝負の内容は察したわね?」
「あぁ!オレと龍田でタイマンするんだな!?」
「全然違うわよ!!」
的外れなことを言い出す天龍に流石の龍田もツッコまざるを得ない。
「深海棲艦と演習するの!私と天龍ちゃんで同じ深海棲艦と同じ装備で戦って狩猟タイムを競うのよ!」
「なるほどな、確かにそりゃフェアな勝負だ。」
「そういうこと、それじゃ着替えてくるからちょっと待っててね。」
龍田はそう言って更衣室の中へと入っていく。
訓練所ではあらかじめ指定された装備とアイテムを使って狩猟を行う施設である。
今回は天龍と龍田で同じ装備を使って同じ深海棲艦と戦うルールとなっている。
なので先に龍田に装備を選ばれてしまえば装備選択の余地がない天龍は不利となる。
龍田の得意武器であり、なおかつ天龍は使ったことすらない操虫棍を使用武器に指定されてしまえば苦戦は免れない。
ましてや天龍が戦ったことのない初見の深海棲艦をターゲットにされてしまえば、天龍の勝ちの目は完全になくなってしまうだろう。
この勝負、フェアなようで実は全然フェアではない。
龍田が仕組んだ出来レースなのではと天龍が邪推していると、更衣室から着替えを済ませた龍田が出てきた。
「待たせたわね~。」
「おう……って、なんだその格好!?」
更衣室から出てきた龍田の格好、それはスク水だった。
角付き眼帯とスク水、そして背中に背負ったものすごく見覚えのある太刀、それが龍田の装備の全てである。
分かりやすく言ってしまえば今の天龍が使っている採集装備と完全に同じであった。
「これが今回使用する装備。防御力の強化段階やお守りのスキルも含めて天龍ちゃんと完全に同じものを今回のためにわざわざ用意したのよ~、これでフェアねぇ。採集装備だから事実上スキル無しと同じだし、天龍ちゃんが今装備してるお守りも採掘で手に入れた気まぐれLv1のスキルしか付いてない採集用のお守りなんでしょ?訓練所でピッケルとか使わないから装備する意味はないけど、これも完全再現のために装備しといたわぁ。」
「お、おう……。」
フェアな勝負とは言われたががここまでするとは思っておらず、スク水姿の眼帯龍田という予想外にもほどがある存在が現れたことによって天龍はアホ面を晒すしかなかった。
というか防御力の強化段階やお守りのスキル内容まで含めて完全再現されているのはドン引きである。
「そ、それでその装備で何を狩るんだ?」
「今回のターゲットは下位のヘ級よ。」
ヘ級とは以前バルバレ鎮守府から卯月と弥生が来たときに、天龍と卯月で狩りに行った深海棲艦である。
「ヘ級ぅ?今更ヘ級かよ、ヘ級とか何隻狩ったと思ってんだ?」
天龍が普段装備している天龍シリーズの防具は何を隠そうヘ級の素材を中心として作られている。
天龍はこの装備を完成させるべく何隻ものヘ級を倒していた。
ヘ級との戦いを繰り返したことで相手の行動パターンはしっかりと頭の中に入っている。
使い慣れた太刀と狩り慣れたヘ級の組み合わせ、これによりフェアどころか天龍に非常に有利な要素が揃った演習となっていた。
逆に言えばここまでの好条件で龍田に負けてしまえば、天龍はぐうの音も出ない完全敗北を叩き付けられることになるのだが……。
「最後にアイテムは砥石のみ。回復薬も携帯燃料も無しよ。本当は砥石も無しにしたかったんだけど、まぁいいわ。ヘ級くらいスキル無しアイテム無しでも狩れるわよね?」
「おうよ!」
狩娘にとってのヘ級は狩人にとってのイャンクック的な立ち位置にいる深海棲艦である。
多くの狩娘はこのヘ級から戦い方の基本を学ぶのだ。
初心者狩娘にとっては強敵のヘ級だが、狩りに慣れた狩娘なら龍田の言う通りノースキル、ノーアイテム、そしてノーミスで狩れる相手でなのである。
「先に私から挑ませてもらうわ。天龍ちゃんは観客席から私の戦い方を見てていいわよぉ。」
「ん?『戦い』じゃなくて『戦い方』をだと?それってどういう意味だ?」
「そのままの意味よ~。私の戦い方を見て参考にしたらいいんじゃない?そしたら天龍ちゃんのタイムも縮まるでしょ?」
「んだとぉ!?舐めやがって!ハンデのつもりか!?いくら龍田でも許さねぇぞ!」
「どのみち今の天龍ちゃんじゃロクなタイムは出ないわ、それじゃ先に行くからね~。」
「クッソー!!後で吠え面かかせてやる!」
コケにされたことに憤る天龍だが、龍田はもはや興味を無くしたかのように振り返ることもなく戦闘エリアにつながる扉の中へと消えていく。
それを見た天龍も舌打ちしながら観客席につながる通路を進んでいくのだった。
ちなみに今更言うまでもないが念のために書いておくと、二人とも角付き眼帯スク水姿のままである。
スタイル抜群の二人がコスプレみたいなスク水姿で姉妹喧嘩をする様子は、本人達からしてみれば真剣だったのだろうが、傍から見ればマヌケ以外の何物でもないのであった。
観客席に天龍が着くと同時に戦闘エリアの檻が解き放たれ、龍田とヘ級の戦闘が始まった。
「ウソだろ!?何だよあの動きは、相手の攻撃が怖くねぇのか?」
観客席で天龍が目にしたのはヘ級の攻撃を文字通り紙一重で躱しつつ、相手の弱点部位のみを攻め立てる龍田の姿であった。
僅かにでもタイミングがズレればヘ級の攻撃に被弾する。
防御力など実質無いも同然のスク水装備では、下位のヘ級の攻撃ですら当たればタダではすまない。
しかし龍田はヘ級の動きを完全に見切っているのか、最低限の動きで攻撃を避けていく。
そして相手に僅かにでも隙があれば逃すことなく的確に攻撃を加えていく。
相手の行動パターン、自分の武器と相手の肉質の相性、そして自分自身の動き、全てを把握していなければ出来ない動きであった。
「ヘエェェッ!?」
龍田の放った斬撃によりあっという間にヘ級は倒れ伏す。
「ワンサイドゲームじゃねぇか……。オレこれに勝たなきゃなんねぇの?」
戦いとすら呼べない一方的な蹂躙劇に戦慄する天龍であったが、龍田の顔に喜びや達成感、自慢といった感情はない。それどころか不満さえ覗かせている。
「クリアタイムは4分ちょっとか、ギリギリSランクに届かなかったわねぇ。あのタイミングで気刃斬りを成功させていればもっと早く倒せたかしら?慣れない武器だと思い切った行動に出られないのが歯がゆいわね……。」
どうやら龍田にとって納得のいくタイムではなかったことが不満の原因らしい。
しかし今回は天龍とタイムを競うのが目的であり、再挑戦は認められない。
一回で満足なタイムを出せなかったとしても、それは自分の未熟な腕前が原因だと己を納得させる。
「さて天龍ちゃん、あなたに私のタイムを超えられるかしら?」
戦闘エリアから観客席にいる天龍へと声を掛ける龍田。
どう聞いてもお前には無理だというニュアンスがアリアリと伝わってくる。
「チックショー!何だってんだよ!やってやる!取ってやろうじゃねーか、Sランク!」
やけくそで叫んだ天龍は観客席から直接戦闘エリアに飛び降りた。
がんばれ天龍、大切な採掘ライフを守るのだ!
「それじゃ私はいったん下がるからね。」
龍田は戦闘エリア立ち去り、倒されたヘ級も連装砲ちゃん達に運び出される。
やがて観客席に龍田の姿が現れると同時に、新たなヘ級が戦闘エリアに解き放たれた。
「うっし、いくぜぇ!!」
「ヘエエェェ!!」
天龍は先手必勝と言わんばかりに太刀をヘ級の頭部目掛けて振り下ろした。
そしてその素直で分かりやすい攻撃はヘ級の右腕の装甲であっさりと弾かれる。
「うわ!?」
攻撃を弾かれたことで生まれた隙、それを見逃す程ヘ級はマヌケではない。
動きの止まった天龍に向けてヘ級は火球を放つ。
「た、龍田はこの火球をローリングで普通にすり抜けたんだ!オレだって!」
迫り来る火球、それに怯むことなく真っ向から迎え撃つ天龍。
しかしそれは勇気の伴った行動ではなく、単なる思い付きによる蛮勇でしかない。
「あっつーーー!!!」
自分から火球に突っ込んだことで天龍は火だるまになってしまった。
火を消すためにみっともなく転がり回る天龍、それを龍田は冷めた目で眺める。
「バカねぇ。回避性能スキル無しでのフレーム回避の有効時間はおよそ0.2秒、適当に突っ込んでも避けられるはずないでしょ。」
その後も天龍の無様な戦いは続いた。
慣れたと大口を叩いておきながら、まるで有効打を与えられず時間ばかりが過ぎていく。
先に龍田の戦いを見せられてプレッシャーを感じていたのもあるのだろう。
龍田の動きを意識するあまり思っていたように戦えずそれによって更に時間が過ぎていく、正に悪循環。
アイテムがなく防御力もヘナチョコという極限状態の中で、永遠とも思える戦いの果てにようやく有効打が入り、力尽きたヘ級は倒れ伏す。
「ハァハァハァ……。」
肩で息をする天龍。
途中からタイムを気にする余裕はなくなり、それどころか自分が何故戦っているのかすら分からなくなりつつあった。
「クリアタイムは18分。遅過ぎる、論外ね。」
そこへ冷や水を浴びせるかのような容赦のない龍田の声が飛ぶ。
「18分?そんな戦ってたのか、オレ?」
「そうよ、これで勝負あったわね。」
18分というクリアタイムに愕然とする天龍。
SランクどころかAランクにすら届かない遅い時間。
しかし天龍は自分が龍田に負けたことよりも、そこまで時間を掛けてしまったという事実の方にショックを受けた。
「よっと!」
先程の天龍と同じように観客席から直接戦闘エリアに飛び降りた龍田は落ち込む天龍に近付いていく。
「さて天龍ちゃん、どうして自分が負けたか分かる?」
「………………そりゃ龍田がつえぇからだろ?」
「違うわ、負けたのは天龍ちゃんが弱いからよ。」
「どっちも同じだろ。」
「違うわ、相手が強いから負けたのと自分が弱いから負けたのでは全然違うわ。」
今の天龍には龍田の言いたいことが分からない。
龍田は先程の冷たい態度ではなく、優しく暖かみを持った声で天龍に語り掛ける。
「今の私達は互角の条件、武器も防具もスキルもアイテムも何もかも同じよ。それなのに差が出たのなら、それは本人による差なの。私は常に狩りに出て腕を磨いているわ。でも天龍ちゃんは採掘ばかりで最近はまともに戦ってない。戦うとしても相手は戦略関係なく倒せるような小型種ばかり。採掘というぬるま湯が天龍ちゃんの戦いの勘を鈍らせたのよ、だから簡単に倒せると思ったヘ級に大苦戦した。スキルがあれば強くなる?そうね、強くなれるでしょうね。でもどれだけスキルが強くても、肝心の本人が弱くては意味がないのよ。天龍ちゃんが求めていた強さというのは自分自身の強さであって、スキルで得られる強さのことではなかったはずでしょう?」
龍田の声に徐々に天龍の目に光が戻っていく。
そして龍田の話が終わると、天龍は自分自身の両頬をピシャリと一回叩いた。
「ゴメン龍田、オレが間違ってた!本来天龍っていう狩娘、いや艦娘は装備が良かろうが悪かろうが常に自信を持って戦う女なんだ!敵と戦わずに穴掘りだけして強さを得ようとするなんてオレのキャラじゃねえ!そんなんじゃ本土で遠征ばっかやってる連中と何が違う!」
「分かってくれたのね!」
「あぁ!心配掛けた、本当にゴメン!お陰で目が覚めたよ、オレを見捨てないでくれてありがとう!」
戦闘エリアの中央で優しく抱き合う姉妹。
美しい姉妹愛だが、その姿はやっぱりスク水なのであった……。
食堂で仲良く談笑する天龍と龍田。
演習を終わらせた龍田は普段の装備に戻り、採掘から足を洗った天龍も普段通りの装備に戻った。
つまり二人ともスク水ではなくなったのだ。
「それじゃ明日はちゃんと討伐クエストに行くのね?」
「あぁ!まぁ錆び落としだからいきなり難しいところには行かねぇけどな。」
「おーい、これを見てくれ!」
そこへやって来たのは長門。
「先程クエスト帰りに潮風丸に会ったのだが、そこでこいつを譲ってもらったんだ!」
長門は大きな壺を両手に抱えている。
「これはマカ錬金壺といって、不要な素材を入れることでお守りを合成してくれる壺なんだ!これさえあれば採掘に行かなくてもお守りを手に入れることが出来るぞ!」
「お守り!?」
長門の声に反応するように思わず椅子から立ち上がる天龍。
それをジト目で見た龍田は席を立つと、長門の前へと歩み寄る。
「ん、どうしたんだ龍田?そんな険のある笑顔を浮かべて?」
「フンッ!」
「ヴッ……!?」
龍田は長門に腹パンをお見舞いすると、騒ぐ天龍を引きずるように食堂を後にした。
その場に残されたのは腹を押さえてうずくまる長門と、床に転がるマカ錬金壺だけ。
「わ、私は何故龍田に殴られたんだ……?」
その答えはマカ錬金壺だけが知っている………………かもしれない。
ちなみに気まぐれのLv1スキルの付いたお守りは完全捏造で存在しません。
ワールドからピッケルや虫あみ自体が不要になってスキルごと消滅したから仕方ないね。