天龍ちゃんと狩娘   作:二度三度

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お ま だ セ

普段は6000~7000文字前後しか書かないのに、今回はいつの間にか24000文字以上も書いてた。
つまり単純計算で四ヶ月分も書いたということになるな!(暴論)
これは投稿が遅くなっても仕方がない、むしろ二ヶ月分上乗せされてるから早いのでは?



開幕フゲンやりたかったけど話の展開的に断念、シリアス展開ってやっぱつれぇや。

それと今回の話で撃龍槍と破龍砲は出てきません。
理由は自分の初回プレイで使い方が分からなかったから!
チュートリアル一回じゃ覚えられねぇんだよ!(老害)
ましてや破龍砲なんて使い方どころか存在すら語られないし、私イジケちゃうし!
つまりなんもかんもウツシ教官が悪い!




葛城ちゃんとカムラ鎮守府3

 

 

 

 

 

「実はさっき葛城が戻ってくる直前に鎮守府から連絡があったんだ。鎮守府に百竜夜行が近付いているってね……。」

 

クエストを無事に終わらせた記念にこれからうさ団子で打ち上げだ……と思いきや、ウツシ提督の口から出てきたのは百竜夜行とかいう初めて耳にする単語。

百竜夜行とやらがどんなものなのかは葛城は全く知らないが、言葉の響きから察するに不穏な雰囲気が漂っている。

 

「百竜夜行?何それ?」

 

「そういえば愛弟子は百竜夜行を一度も経験したことがなかったね!よし、愛弟子よ!まず前提としてモンスターのことはどれだけ知っているかな?」

 

「私が知ってるのは大まかなことだけで、モンスターの細かい種類や特徴とかは知らないわよ。それでもいいのなら、まずモンスターとはこのカリュード諸島でしか確認されていない野生動物の総称で、基本的に本土の生物よりも大きな体躯を持つ種が多い。また強靭な肉体を持っていて銃で撃たれたくらいじゃビクともしないし、口から火を吐くなど現実離れした能力を持っていることもある。その生態はまだまだ謎に包まれていて、私達狩娘の任務にはそういった未知の生物の調査も含まれている……ってところかな。」

 

「うんうん、それだけ知っていれば充分だ。よく勉強しているね!」

 

「そしてウツシ提督の特技はそのモンスターのモノマネ……でしょう?」

 

「うん、そうだね……。」

 

葛城がモンスターについてしっかりと勉強していたことに対して喜んだウツシ提督だったが、最後に葛城が呆れ口調で放った一言によって目に見えてテンションが下がる。

自分の特技を貶されたのが悲しかったらしい。

 

「この間だって稲味噌肉とか言いながら地面に仰向けに寝っ転がりながら、ブッサイクなタヌキのお面で自分のお腹をポコポコと叩いていたじゃない。ああいうのみっともないからやめてよね。」

 

「稲味噌肉じゃなくてイソネミクニだよ!イソネミクニは水棲のモンスターで、仰向けで泳ぎながら食料の貝を固い腹部で叩き割る習性があるんだ。モンスターのモノマネっていうのはそのモンスターの生態や行動を熟知していないといけないから、真似が出来るっていうのはそれだけでも凄いことなんだぜ!?それとあのお面はタヌキじゃなくてブンブジナ!俺が一つ一つ魂を込めて作った大切なお面だよ!?俺がお面作るのが好きなのは愛弟子も知ってるだろう?」

 

自慢のモノマネもお手製のお面もメタクソに酷評されたウツシ提督は悲しそうな顔でイソネミクニとお面について説明するが、葛城にとってはそんなの知ったことではない。

葛城はイソネミクニもブンブジナもどちらも見たことも聞いたこともないのだから、変なお面を持って奇行をしているようにしか見えないのだ。

 

「はいはい、すごいすごい。で、そのモンスターと百竜夜行に何の関係があるの?」

 

「まだ愛弟子が建造される前、カムラ鎮守府には定期的にモンスターの大群が押し寄せてくることがあったんだ。それを妖怪や幽霊みたいな怪異が大群で練り歩く百鬼夜行になぞらえて、百竜夜行と呼ぶようになったんだ。今のところカムラ鎮守府以外では確認されていない現象なんだぜ。」

 

「モンスターの大群が鎮守府に?私が造られる前にそんなことがあったんだ……。」

 

葛城は今まで狩娘になるための修行や勉強に必死で、自分が造られる前のことについては聞いたこともなければ聞こうとしたこともなかった。

自分が造られる前に何度も鎮守府がモンスターの襲撃に遭っていたと聞けば感慨深くもなる。

しかし今の話の中で、ふとあることに気が付いた。

 

「あれ?だけど鎮守府ってちゃんとモンスターの縄張りから外れた場所に建てられているんでしょ?なのにモンスターが迫ってくるなんて、それも大群でだなんておかしくない?それによその鎮守府では起きてないんでしょ?だったら百竜夜行はどうして起きるの?」

 

「それが原因は不明でね。どうしてカムラ鎮守府でしか起こらないのか、どうしてモンスターはカムラ鎮守府を目指してやってくるのか、それがさっぱり分からないんだ。百竜夜行のモンスターはいずれも極度の興奮状態にある上に、普段なら敵対しているモンスター同士が争うことなく本来の縄張りを離れてまで鎮守府に近付いてくる。不思議な現象だろう?原因については研究されてはいるんだけど未だに明確な答えが出なくてね。そのあまりに必死な様子から何かから逃げようとしているんじゃないかという説まであるんだ。でも愛弟子が建造されるちょっと前くらいからパッタリと止んでいてね、それで我々のあずかり知らぬところで勝手に解決したと思い込んでいたんだ。」

 

「だけど実際は解決しておらず、また鎮守府に迫ってきたってこと?」

 

「そういうことさ。今まで再発しなかったのは偶然だったんだろうね。まぁ今はとにかく急いで鎮守府まで戻ろう。まだ百竜夜行が迫ってるってだけで、規模や状況は何一つ分かっちゃいない!それに鎮守府には前提督がいらっしゃるとはいえ、俺もれっきとした提督だ。百竜夜行に備えなくちゃいけないからね!」

 

「分かったわ。そういうことならさっさと帰りましょっ……って早ッ!?」

 

ウツシ提督が翔蟲を飛ばした瞬間、鎮守府がある方角に向かって空高く飛んで行き、あっという間に姿が見えなくなった。

呆気にとられた葛城もダメ元で真似して翔蟲を飛ばしてみるが短い距離を飛ぶのが精一杯で、仕方なくモモちゃんに乗って走り出す。

これはファストトラベルと呼ばれる移動方法であり、特定の拠点やキャンプまでひとっ飛びで移動可能な新技術である。

しかし今まで鎮守府の敷地内でしか活動したことがなく、今回が初出撃でファストトラベルのことなど何一つ教わっていなかった葛城は地道に鎮守府を目指すしかないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと帰ってこれた。モモちゃんもお疲れ様。」

 

「ヴォウ!」

 

狩猟地から鎮守府までモモちゃんの背に揺られながら帰ってきた葛城。

ずっと騎乗していたことで痛むお尻を撫でつつ、走り続けてくれたモモちゃんを労う。

しかし意外にもモモちゃんは少し疲れただけで、ちょっと休むとすぐさま元気になった。

生物として格の違いを感じさせる一幕である。

 

「…………でしたらバリスタの増設を…………。」

 

「…………それに妖精さん達の招集も急がなければ…………。」

 

そして鎮守府の執務室……ではなく、何故か外にあるダンゴ茶屋にてウツシ提督とフゲン前提督と雲龍と天城の四人は話し合いの真っ最中。

 

「おっ、愛弟子!帰ってきたんだね!」

 

帰ってきた葛城に気が付いたウツシ提督は笑顔で手を振る。

しかし自分だけさっさと帰ってしまったウツシ提督に、葛城は不満げな顔を隠しもしない。

とはいえ今は緊急事態、モンスターの大群が攻め込んでくるという一大事である。

文句を言いたいのを我慢する程度には葛城も大人であった。

 

「さて、愛弟子も帰ってきたし話をまとめよう!原因は相変わらず不明のままだけど、突如として発生した百竜夜行が鎮守府に近付いてきている。群れを率いる大物はドスフロギィ。幸いなことにいずれも下位相当の個体ばかりで、群れの大きさも小規模だ。いつものように翡葉の砦に誘導して、そこで迎え撃つ。最優先目標は群れの中心となっている大物ドスフロギィだ、奴を倒せば群れは散り散りになるだろう!砦の関門が破られれば鎮守府にモンスターの侵入を許してしまう、そうなったら俺達の負けだ。だからこそ何としても食い止めなければならない!砦の設備をフル活用して奴らを追い払うぞ!」

 

いつものほがらかな様子とは違い、提督としてピシッと場を取り仕切るウツシ提督。

未だ百竜夜行というものがあまりよく分かっていない葛城も、話に着いていこうと必死に内容を噛み砕いていく。

 

「そしてここからは俺の提案なんだが、今回の作戦は葛城を中心に進めようと思う。」

 

「へぇ~、葛城にねぇ……ファッ!?葛城!?葛城って私じゃない!?」

 

そんな葛城だったが、ウツシ提督からの寝耳に水な提案により頭をトンカチでぶん殴られたかのような衝撃を受けた。

 

「えっ?えっ?何で私!?百竜夜行って鎮守府の危機なんでしょ!?失敗したらどうするの!?初出撃を終わらせてきたばかりの初心者に任せちゃ駄目な案件でしょう!?そもそもモンスターなんてテッカちゃん以外は図鑑と提督のモノマネ以外じゃ全く知らないし、ここは姉さん達に任せるべきじゃないの!?」

 

突然の指名に焦る葛城だが、ウツシ提督はその反応は想定通りと言わんばかりに葛城をなだめる。

ちなみにテッカちゃんとは鎮守府で飼育されている鬼蛙テツカブラの子供のことである。

 

「まあまあ。愛弟子よ、落ち着いてよく聞くんだ。今回の百竜夜行は小規模でモンスターの強さも大したことがない。だからこそ経験を積むためにキミが出撃するんだ。今まで終わったと思い込んでいた百竜夜行が再び来たんだ、今後も来ないとは言い切れない。そしてその時に百竜夜行の規模が大きければ、キミは高難度の百竜夜行に挑戦することになる。いきなり難しい百竜夜行に挑戦しろって言われても無理だろう?だからこそ敵が弱い今回の百竜夜行で勉強しておく必要があるんだ、つまりこれはまたとないチャンスなんだぜ!それにみんな愛弟子が今回の百竜夜行を切り抜けられるって信じているんだ、だって誰もこの提案に反対していないだろう?なぁに、心配せずとも一から十まで愛弟子に丸投げするわけじゃない。俺達だって手伝うさ!」

 

「葛城、安心して。私が付いてる。」

 

「雲龍姉様と比べれば見劣りするでしょうが、天城もいますからね!」

 

「臆することはない。葛城よ、オマエは猛き炎だ!気焔万丈!百竜夜行、何するものぞ!今までずっと守り抜いてきたのだ、だったら今回も守り抜く。それだけよ!」

 

葛城の活躍を信じて疑わない全員の顔、それに後押しされることで葛城も少しずつやる気が出てくる。

 

「もう、これ嫌って言ってもダメなパターンじゃない!分かったわ、私やるわ。それに私が駄々こねたところで百竜夜行は待ってくれないしね。」

 

「よし、それでは百竜夜行に向けて準備をしよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故郷を守る、堅固の要塞

 

翡葉の砦

 

百竜 来たれり

 

いざ 気焔万丈

 

我らが牙城 不抜なり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけでやって来ました翡葉の砦!」

 

「何がやって来ましたよ、何かの番組かっつーの!」

 

「ホー。」

 

「グルル……。」

 

現在ウツシ提督と葛城達がいるのは鎮守府のすぐ近くにある峡谷。

辺りを見ればいくつもの防壁が築かれており、峡谷を通ろうとする者の移動ルートを制限及び誘導する造りになっている。

 

「ここでモンスターの侵攻を食い止めるの?」

 

「そうだよ。鎮守府につながる最終関門を突破させると鎮守府に直接攻め込まれてしまう。そうなったら終わりだ。だけど一人でモンスターの大群に立ち向かうというのも流石に無理だ!だからこそここに設置された多種多様な狩猟設備を使ってモンスターを追い払うんだよ。まずはこれを見てくれ!」

 

ウツシ提督は翔蟲を使い防壁の上に登り、葛城も続いて登る。

登った防壁の上には台のようになっている箇所がいくつかあった。

 

「これが設置台。台の下には地下道が掘られていて、上で合図を出せば妖精さんが様々な狩猟設備を設置してくれるぞ!」

 

そう言いながらウツシ提督が台を足で軽く叩くと台は左右に割れるように開き、下からボウガンを大型化させたような兵器が一人の妖精さんと一緒にせり上がってきた。

 

「これはバリスタだ、強力な矢や特殊な弾丸を放つことが出来る。進行してくるモンスターを射撃して追い払うんだ。」

 

防壁の上には他にもいくつものバリスタが設置してあり、それぞれに妖精さんが一人ずつ乗り込んでいるのが見えた。

 

「愛弟子が射撃をしてもいいんだけど、一人で全部の設備を使うのは無理があるし、何より手数が足りないからね!愛弟子の手の届かない範囲は妖精さん達が担当してくれるぞ。妖精さんは直接戦闘は出来ないけど、バリスタ程度なら動かせるからね。バリスタを何台も設置することで、力を合わせてモンスターを追い払ってくれるんだ。彼らの助力無しで百竜夜行を切り抜けるのはとても難しい。百竜夜行をクリアする第一歩は彼らを頼ることから始まると言っても過言ではないさ!」

 

葛城と目が合った妖精さんはキメ顔でサムズアップをして見せる。

小さい体格ながら鎮守府を守るという自信に満ち溢れたその姿は、葛城の緊張を和らげた。

緊張が和らいだことで、葛城は一つの疑問を尋ねてみようと考える。

 

「さっきからずっと気になっていたんだけど、何度もモンスターを追い払うって言ってるでしょ。何でモンスターを追い払うことにこだわるの?倒さなくていいの?」

 

「あぁ、それか。百竜夜行に加わっているモンスターはみんな極度の興奮状態に陥っていて正気じゃないんだ。そこで狩猟設備を使ってキツい一撃をお見舞いすることで頭を冷やさせる。そうすることで正気を取り戻して、現状を把握したモンスターは撤退していくというわけさ!別に倒してしまっても構わないんだけど、次から次にモンスターは来るから倒している暇はないと思うよ。倒すのは群れを率いる大物だけで十分だ!大物だけは絶対に関門を超えられるという自信があるのか、どれだけ攻撃しても引き下がらないから倒す以外に方法がないだけなんだけどね。」

 

葛城としても別にモンスターを倒したくてウズウズしているわけではないので、倒さず追い払うだけという方針に不満はない。

むしろ現れるモンスター全てを倒し続ける必要がないことに安堵すらした。

 

「もし設備が邪魔になったり、いらなくなったのならもう一度設置台に合図を送るといいよ。そうすれば妖精さんが設備を撤去してくれる。状況に合わせて有効な設備を置いていくのが百竜夜行を切り抜けることにつながっていくんだ!それでは次に行こう!」

 

ウツシ提督は防壁から飛び降りると、今度は通路に直接作られた設置台へ向かう。

そしてさっきと同じように底を叩くと、今度は竹を束ねたような物体がせり上がってきた。

 

「これは竹爆弾。モンスターが触れると爆発する爆弾さ!かなりの破壊力を秘めていて、防御力が高いモンスターにも効果はバッチリだ!モンスターが通りそうなところに置くといいよ。」

 

「へぇ~、見た目はパッとしないけど強いんだ。だったらこれをいっぱい置いたらいいんじゃない?」

 

爆弾とは強力な武器である。

実際の戦争でも様々な種類の爆弾が使われているのは周知の事実であり、兵器から転身した艦娘、そしてその艦娘が変化した狩娘にとっても爆弾が強力だという認識は当然のようにある。

だからその爆弾をたくさん使って戦おうというのは自然な提案だったのだが……。

 

「いや、残念だけどそんなに在庫がないんだ。それに設置にも手間が掛かるし、モンスターが触らなきゃ意味がない。そして撤去した場合、安全確認のために一度分解する必要があるから再設置にも時間が掛かる。だからこそタイミングを見計らって使ってくれ!」

 

爽やかな笑顔でそう言い放つウツシ提督と、それに対して渋い顔を見せる葛城。

今の話を聞いただけでこの兵装の使いにくさに気が付いた。

モンスターの大群が押し寄せる隙間を縫って、必死にこの使い勝手が悪い爆弾を設置する。

そんな場面を想像し、なるべくこの兵装には頼るまいと心に誓うのであった。

 

「さて、他に説明すべきは……おや?騒がしくなってきたね。」

 

谷の上空を飛び交う小鳥が一段と騒がしくなり、遠くからは徐々に地鳴りのような音が聞こえ始めた。

明らかな異常事態だ。

 

「うん、百竜夜行はすぐそこまで来ているみたいだ。それじゃあ俺は自分の持ち場に戻るけど、近くで見守っているからね!」

 

そう言ってウツシ提督は近くの設置台の扉を開くと、中に潜り込んでいこうとする。

 

「ちょっ、ちょっと待って!?今、まだ他にも説明することがあるような素振りだったじゃない!?それに持ち場って何よ!?一緒に戦ってくれるんじゃないの!?」

 

葛城は慌ててウツシ提督を引き留めようとするも、無慈悲にもウツシ提督は首を横に振る。

 

「悪いがそれは出来ないんだ。地下で狩猟設備の準備をしたり、谷から外れて直接鎮守府に向かうモンスターが出ないか監視する必要もあるからね。心配せずともキミなら出来る!頑張ってね!」

 

何とも無責任な一言を残すとウツシ提督は狩猟台の中に消えていった。

 

「何なのよ、もおーっ!!」

 

 

 

 

 

BGM:百竜夜行

 

 

 

 

 

ドシンッ!

 

突然の物音に振り返ってみると、橙色の毛皮と鋭い鎌のような形状の棘の生えた長い尻尾を持つ肉食恐竜のような生物が木製のバリケードを乗り越えて内部に侵入してきたところだった。

 

「あっ!あれは確かオサイズチ!?」

 

鎮守府近辺でよく見られる中型モンスターで、そこまで強い相手ではない……らしい。

何故『らしい』かというと葛城が今まで鎮守府の外に出たことがなく、オサイズチを見るのが始めてだからである。

中型とは言うが頭のてっぺんから尻尾の先まで優に10メートルはあり、どう考えても中型では済まされない巨大生物である。

 

「オサイズチは本来は手下のイズチを引き連れて縄張りを徘徊しているモンスター……だったわよね?手下のイズチがいないのならコンビネーション攻撃とかしてこないはずだし、これはむしろチャンスなんじゃないかしら!?」

 

突然の遭遇に驚きながらも何とか活路を見出した葛城だったが、モンスターが一体しか現れないようでは百竜夜行とは呼べない。

 

ドシンッ!

 

ドシンッ!

 

最初のオサイズチを追うように、バリケードの向こうから別のオサイズチが現れた。

その数、合計で三体!!

 

「「「ヴァオーーーッ!!!」」」

 

「ちょっ!?いきなり三体とか無理無理!!ごめんなさいごめんなさい、お願い許して!!」

 

相手は細身でなおかつ大部分を尻尾が占めているとはいえ、相手は全長10メートルもある恐竜のような外見のモンスター。

それが三体も現れたことでせっかくやる気になっていた葛城は、開始早々に戦意を喪失しかけてしまう。

 

「方位445……撃テ!!!」

 

だがそこに救いの手が差し伸べられる。

オサイズチ達に向かって一斉にバリスタの矢が放たれたのだ。

矢はオサイズチの顔や喉などいわゆる急所を的確に狙っており、元々そこまで打たれ強くないオサイズチ達はいきなりの攻撃に慌てふためいた様子でバリケードを飛び越えて引き返していった。

 

「守ッテミセルッテ言ッタロ?」

 

バリスタの矢が飛んできた方へ振り返ってみれば、そこにいたのは葛城にサムズアップをしてみせた妖精さん。

他にも周囲のバリスタからも妖精さん達が葛城に向かって手を振っている。

守ってみせるなんて言われた記憶は全くないが、その行動に葛城は勇気付けられ、そして今自分がすべきことを改めて自覚する。

 

「そうよ、私は一人じゃない!みんなが鎮守府のために精一杯戦っている!私一人で戦う必要はないんだわ!そして私は提督に、姉さん達に、前提督に、そしてみんなにこの場を任された。だったら私が今すべきことは、怯えることじゃない!この場を守り抜くことよ!!」

 

そう決断した葛城の行動は速かった。

空いてるバリスタに飛び乗ると、続々と現れるモンスターに向かって矢を放つ。

時には大破寸前のバリスタを新品と入れ替えることで戦線の維持をしつつ、妖精さんに指示を出してモンスターを追い返していく。

セイちゃんとモモちゃんには動き回ることでモンスターを撹乱させ、その隙にモンスターへ矢を撃ち込んでいく。

しかし倒しても倒しても現れ続けるモンスターの大群は砦の守りを打ち破らんと押し寄せてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまった!からくり蛙みたいなモンスターに抜かれた!」

 

「ヴォロロロロ!!」

 

葛城達の努力も虚しく遂に防衛網は突破され、関門の一つ手前にある木製の柵に到達したからくり蛙にそっくりな大型モンスター、ヨツミワドウは柵に向かって張り手を繰り出す。

木製の柵は本命である金属製の関門に比べ、そこまで耐久力のあるものではない。

ヨツミワドウに叩かれるだけで破片をまき散らし、面白いように歪んでいく。

 

「これ以上やらせな……きゃあっ!?」

 

ヨツミワドウに意識を向け周囲への注意が散漫となっていた、そんな隙を他のモンスターは見逃さない。

上空から白い鳥のような姿をした大型モンスター、アケノシルムの火炎液が容赦なく降り注ぎ、葛城の行動を阻害する。

葛城がアケノシルムに邪魔されるということはヨツミワドウがフリーになるということである。

ヨツミワドウを狙えばアケノシルムの妨害が入り、アケノシルムを狙った場合はヨツミワドウによる破壊が進む。

 

「くっ、どうしたら……あっ、セイちゃん!?」

 

「ホー!」

 

葛城の危機を感じ取ったのか上空のアケノシルムに向かって飛んでいくセイちゃん。

しかしその体格差はまさに大人と子供。

いくらセイちゃんが見た目のわりに強いとは言っても、大型モンスター相手に真っ向から戦いを挑んだところで勝てるわけがない。

では真っ向から戦いを挑まなければどうなるのか?

 

「ホーッ!!」

 

小さな体を活かして撹乱するようにアケノシルムの周囲をぐるぐると飛び回るセイちゃん。

それをうっとおしく感じたアケノシルムは翼でセイちゃんを叩き落そうとする。

しかし小さなセイちゃんには当たらない。

セイちゃんはわざと激しく飛び回り、全身からこぼれ落ちる金色の粉を少しずつアケノシルムの周りに撒き散らしていく。

そして気付かない間にそれを吸っていったアケノシルムに遂に異変が現れた。

 

「キョエェェェェ!?」

 

突如としてアケノシルムは空中でバランスを崩す。

まるで酔っ払ったように前後不覚となり、セイちゃんを追うどころではない。

やがて飛ぶことすら出来なくなり、フラフラと地上に墜落していく。

 

「ホルルルルルルル!」

 

思うように動けず地面でもがいているアケノシルムに向けてセイちゃんから今度は青い霧のようなものが放たれた。

それを浴びたアケノシルムはあっという間に深い眠りに落ち、完全に動かなくなってしまった。

 

「何だかよく分かんないけどチャンスよ!大砲を出して!」

 

葛城は自分が使っていたバリスタを大砲と入れ替える。

大砲は威力こそ高いものの取り回しに難があり、また単純に防衛が忙しくて今まで出す暇がなかった。

しかしアケノシルムを確実に仕留めるためにも遂に使用を解禁する。

 

「セイちゃんの作ってくれたチャンスを無駄にはしないわ!いっけー!」

 

睡眠状態のモンスターは無防備なため、普段よりも大きなダメージを与えることが出来る。

これはカリュード諸島において狩猟を行う者にとっては常識である。

眠っているアケノシルムに直撃した大砲弾はただでさえ高いその威力を更に増し、アケノシルムの大きなトサカを一撃で破壊してみせた。

 

「ギョエェェェェ!?」

 

流石のアケノシルムもこれには耐えられず、尻尾を巻いて飛び去って行く。

 

「よしっ、次はからくり蛙を……しまった、時間を掛け過ぎた!」

 

「ヴォロロロロ!!」

 

ヨツミワドウの大きく膨らんだ腹部が柵を押し潰す。

アケノシルムに掛かりきりになっている間にもヨツミワドウの破壊活動は続いており、耐久の限界を迎えた木製の柵は遂に破壊されてしまったのだ。

 

「ヴォアーーーッ!!」

 

関門に向けて前進していくヨツミワドウ。

邪魔な柵が無くなったことが群れ全体に伝達したのか、今まで妖精さん達を妨害するように動いていたオサイズチやアオアシラまでもが関門に向かって進攻を開始する。

 

「まずいわよ!このままじゃ関門を守り切れないわ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気焔万丈!助太刀に来たぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

関門前の設置台からガイナ立ちで現れたのはフゲン前提督。

 

「猛き炎よ、待たせたな!だがこちらもようやく手隙となった。我が太刀の冴え、見せてやろう。」

 

フゲンは関門を守るように太刀を構える。

そこに押し寄せるヨツミワドウ、オサイズチ、アオアシラ。

 

「鎮守府へは通さん!焔が如く闘志を燃やせ!ウオアアア!!」

 

目にも止まらぬ一閃。

葛城に分かったのは何かが光ったと思った瞬間、フゲンの目の前にいたモンスター達がまるで紙屑のように吹き飛ばされたということだけだった。

 

「ハアァ、絶好調!」

 

恐れおののき逃げ出すモンスターを見送って、フゲンは破顔する。

 

「うっそぉ!?フゲン前提督強過ぎ!?」

 

「ガッハッハッ!見直したか?ジジイもまだまだ捨てたもんじゃないだろう?さて、俺はまた地下に戻るぞ。」

 

「えっ?もう戻っちゃうの……じゃなくて戻られるんですか?」

 

危機を脱したとはいえ、せっかく出てきてくれたのにもう戻ると言われれば葛城も困る。

関門まで到達されなかったとはいえ、既に木の柵は破壊されているのだ。

 

「なぁに、オマエを助けたいと思っているのは俺だけじゃない。他の奴らにも出番をやらんといかんのでな。」

 

そう言いながら再びガイナ立ちで地下へと消えていくフゲン。

入れ替わるように今度は二人の人影が地下から現れる。

 

「葛城、待たせたわね。」

 

「今度は私達が力になりますよ!」

 

「雲龍姉ぇ!天城姉ぇ!」

 

続いて現れたのは弓を手にした雲龍と、ランスを構えた天城。

 

「三人で戦うのは初めてね……。」

 

「葛城疲れてない?まだ行ける?」

 

「こんなの疲れた内に入らないわ!むしろ姉さん達のお陰で元気が湧いてきた!百竜夜行なんかブッ飛ばしてやるわ!」

 

「ならいいわ……。」

 

「鎮守府のためにも、皆様のためにも頑張りましょう!」

 

「私達、三姉妹の力で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「災禍を、払う!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲龍の放つ矢が雨あられと降り注ぎ、天城の振るうランスは突風を巻き起こす。

それに巻き込まれたモンスターは次々と撤退していった。

 

「凄い、姉さん達あんなに強かったんだ……。でも私だってあの二人の妹なのよ!負けられないわ!」

 

それを見た葛城の瞳にも力が宿り、その想いの力が技のキレへと繋がっていく。

 

「やあっ!!」

 

葛城の太刀筋は一太刀ごとに洗練されていく。

その動きは上位狩娘である姉と遜色ないものであった。

 

「「「焔よ、力を!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォオオオォォォォォ!!!」

 

「この声は!?」

 

関門を守るべく奮闘する葛城の耳に、今まで聞いた中で一番重々しい咆哮が届く。

 

「来たわ、大物。注意して……。」

 

「大物?まさかそれって!?」

 

大物と聞いて動揺する葛城の前に、大きな足音を立てながらそれは現れた。

オサイズチはおろか、ヨツミワドウすら上回る巨体。

オレンジ色をしたヒキガエルのような質感の皮膚と、見るからに毒々しい紫色の喉袋。

そして今まで現れたモンスターの中で一番の闘争心と威圧感。

とうとう大物ドスフロギィがこの場に現れたのだった。

 

「これが大物ドスフロギィ!?」

 

「そうよ、群れを率いる個体。これを倒せば百竜夜行はおしまい。だけどその強さは他のモンスターの比じゃない。気を付けて……。」

 

「天城と雲龍姉様は谷の入り口付近でモンスターの侵攻を少しでも食い止めます。大物が倒れれば百竜夜行は終わり。だからこそ葛城が大物と戦い、私達はその戦いに横槍が入らないようにするんです。遅れて現れるモンスターは大物から受ける影響が薄いお陰で、食い止めるだけならそこまで難しくないですからね。だからこそこの場は任せますよ、葛城!」

 

そう言い残し雲龍と天城は翔蟲で飛んでいく。

大物を目前にして一人取り残される形となった葛城、しかし彼女に絶望の色はない。

尊敬する二人の姉にこの場を任されたという事実が、彼女に力を与えていた。

 

「いいわ、やってやろうじゃない!おっしゃあ!来い!大自然!」

 

「ヴォオオォォォ!!」

 

 

 

 

 

BGM:反撃の狼煙

 

 

 

 

 

大物ドスフロギィの咆哮と共に戦いの幕が切って落とされる。

頬を膨らませて毒霧を吐き出すドスフロギィ、葛城はそれを素早くかわすと反撃の一撃を繰り出す。

しかしドスフロギィも伊達に大物をやっているわけではない、その攻撃は読めていたと言わんばかりに回避行動に移ろうとする。

 

「ホー!」

 

そうはさせじとセイちゃんが素早く頭に飛び付き、クチバシで目を突こうとする。

ドスフロギィはすぐさま頭を振ることでセイちゃんを振りほどく。

しかしそれによって回避が遅れ、避けられるはずだった葛城の攻撃の直撃を受けた。

 

「グルルルルッ!!」

 

葛城の攻撃に続いてモモちゃんは素早い身のこなしでドスフロギィの背中に飛び乗ると折り畳んでいた鋭い爪を展開し、爪を突き立て皮膚を引き裂いていく。

葛城は知らないことだが、モモちゃんの同族は爪と牙だけで硬質化した骨や堅く塗り固めた鉱石すら簡単に破壊してしまうパワーを持つ。

大物とはいえドスフロギィの皮膚を引き裂くなど造作もないことであった。

 

「バリスタ隊、照準大物ドスフロギィ!上ノ変ナガルクニハ当テルナヨ!テェー!」

 

当然黙ってやられるドスフロギィではなく、セイちゃんと同じようにモモちゃんを振り落とそうとする。

そこへ妖精さんから援護射撃が入り、ドスフロギィは強制的に動きを止められた。

その隙にもモモちゃんのカギ爪攻撃は続いていき、最終的にドスフロギィの額を切り裂いたところで顔面を激しく蹴り飛ばして飛び降りる。

ドスフロギィは蹴られた勢いそのままに防壁の一部へと激突、体勢を崩して倒れ込んだ。

この一連の動きはアステラ鎮守府でよく行われているクラッチクローの基礎動作そのものである。

クローで相手の皮膚に傷を付け、頭にスリンガーを射出することでモンスターを吹き飛ばして障害物に叩き付ける。

モモちゃんは偶然にもクラッチクローの戦闘方法を再現したのであった。

 

「倒れた今がチャンス!ちょっと卑怯だけど傷口を狙わせてもらうわよ!」

 

モモちゃんの付けた傷によって肉質が軟化したドスフロギィ。

最初の一撃とは明らかに手ごたえが違うことを確信した葛城は、倒れて動けないドスフロギィの傷口を集中的に狙っていく。

勝てば官軍、これは鎮守府を守るためにも負けられない戦いなのだ。

 

「ヴァアアアァァァァ!!!」

 

しかし大物ドスフロギィは普通のドスフロギィではない。

普通のドスフロギィでは耐えられない連撃にも耐え抜くと飛び起きて体勢を立て直す。

その際に牽制として尻尾を振り回し、葛城を近付けさせない。

 

「クッ、あれほど斬り付けたのにまだまだ元気そうじゃない!大物というだけあって体力には余裕があるのね!」

 

元気の有り余るドスフロギィと違い、連戦続きでそろそろ疲れの見え始めた葛城。

しかしここで退くわけにはいかないと気を引き締め直したところで、この場にそぐわない底抜けに明るい声が聞こえてきた。

 

「妖精の皆さーん!みんな元気!一致団結だ!」

 

声の主は当然ウツシ提督。

関門前の設置台から楽しそうに大きく手を振りながらの登場である。

 

「やあ!我が愛弟子!調子はどうだい?元気にしているかい!」

 

「これが元気そうに見えるっての!?こっちは大物とやり合ってんのよ!」

 

ウツシ提督の呑気な声に思わず半ギレで答える葛城。

 

「そうだろうと思ってキミのためにこんなものを用意したよ!」

 

そのウツシ提督の声と共に、バリケードの向こうから現れたのは一頭のアオアシラ。

 

「ちょっと!?何してくれてんの!?向こうは姉さん達が押さえてくれてるっていうのに、何でモンスターをここに通してんのよ!?」

 

「心配せずとも俺から二人にお願いしてそいつを通して貰ったんだ!」

 

「はぁ!?」

 

大物との戦いの真っ最中にアオアシラが現れたことで葛城の堪忍袋の緒が切れかかる。

だがウツシ提督はワザとアオアシラを通したという。

 

「こういうことさ!てぁあああ!!」

 

ウツシ提督はこちらへ走り寄ってくるアオアシラを瞬く間に鉄蟲糸で縛り上げた。

 

「さあ愛弟子よ!今なら操竜に持ち込める!そのアオアシラを操ってドスフロギィと戦うんだ!」

 

「そういうことね!とうっ!」

 

葛城は鉄蟲糸で絡めとられて動けないアオアシラに飛び乗ると、巻き付いた糸を束ねることで操竜へと移行した。

 

「それともう一つ、こんなものも用意したよ!」

 

ウツシ提督が指を鳴らすと近くの防壁の設置台から銅鑼がせり出してくる。

ウツシ提督はその銅鑼に向かってクナイを投げ、クナイが激しくぶつかったことで銅鑼は大きな音を響かせる。

 

「これは反撃のドラだ。この音色を聞けば全身に力がみなぎるぞ!」

 

「凄い、何でか分かんないけど信じられないくらい力が湧き上がってくる!」

 

 

 

「さぁここからだ!行け!我が愛弟子よ!キミの活躍を見せてくれ!百竜夜行なんか恐れるに足らず!俺が教えた狩猟技術を存分に発揮して、砦を守り抜いてくれ!頼んだよ!俺はいつだってキミのことを見守っている!あぁ、思い出すよ……。キミを一流の狩娘にするため訓練したあの日々を!今こうしてその成長ぶりを目の当たりに出来て俺は猛烈に感動している!頑張れ!キミは強い!ここが踏ん張りどころだぞ!なぁに、恐れることは一切ない!キミが思っている以上にキミは強い!強くて強くてしょうがない!キミさえいればカムラ鎮守府は守り抜ける!」

 

 

 

長々と喋りながら地下へと消えていくウツシ提督。

だが葛城は操竜に集中しており、そんなこと聞いてすらいない。

 

「練習ではパンダカーしか乗ったことなかったから事実上ぶっつけ本番みたいなもんだけど、やってみせるわ!」

 

どうやら今までずっと遊園地にあるようなパンダの形をした乗り物で操竜の練習をしてきたらしい。

そんなもので操竜の練習になるかどうかはさておいて、反撃のドラのお陰で手綱を握る手にも力がこもる。

 

「行けっ!」

 

葛城の操竜に合わせてアオアシラが大物ドスフロギィに飛び掛かった。

相手はアオアシラを上回る大きさを誇るとはいえ、流石に受け止めることは出来ずに突き飛ばされる。

 

「ヴォッ!!」

 

しかしドスフロギィもやられてばかりではない、体勢を崩しながらも毒霧を吐いて反撃を試みる。

操竜には鉄蟲糸の耐久力という名前の時間制限があり、鉄蟲糸がちぎれてしまえば操竜は続けられない。

ドスフロギィは本能的にそれを理解しており、鉄蟲糸を切るために攻撃を加えようとしているのだ。

 

「翔蟲、頑張って回避してっ!」

 

しかし攻撃を受ければ鉄蟲糸の耐久力が減るということは葛城にとっても百も承知。

故に翔蟲にアオアシラを引っ張らせることで無理矢理に毒霧を回避する。

しかもただ避けるだけでは済まさない、避けるついでにアオアシラをドスフロギィの側面に回り込ませた。

 

「この位置、貰ったわ!」

 

大抵の生き物は側面からの攻撃に弱い。

それは大物ドスフロギィであっても例外ではなく、真横から繰り出されたアオアシラの右のカギ爪は避けられることなく横腹をえぐり取る。

 

「更にもう一発!」

 

続けて左のカギ爪が、そして再び右のカギ爪と、両腕からデンプシーのように繰り出されるカギ爪のラッシュが容赦なくドスフロギィを襲う。

しかも葛城はただ単に隙を突いて攻撃を仕掛けているだけではない。

モモちゃんが付けた傷を狙うようにアオアシラを誘導しており、その連続攻撃は見た目以上のダメージをドスフロギィに与えていた。

この激しい連撃の前に大物ドスフロギィといえど思わずダウンしてしまう。

 

「よぉし、シャケハント……じゃなくて操竜大技いくわよ!」

 

操竜大技、それは操竜のシメに繰り出される文字通りの大技である。

威力こそ絶大だが繰り出す際の隙が大きく、また激しい動きによって鉄蟲糸にも大きな負担が掛かり、発動後には確実に千切れてしまう。

そのためこの必殺技は操竜で相手を弱らせた最後のフィニッシュとして使用するものなのだ。

 

「グォオオオォォォ!!」

 

アオアシラの咆哮と共に繰り出された猛烈な突進、続けざまに放たれるカギ爪攻撃。

怒涛の連続攻撃がドスフロギィの体力を削っていくが、アオアシラの激しい動きに耐え切れず鉄蟲糸もまた一本ずつ切れていく。

そしてアオアシラが渾身のベアハッグを繰り出すと同時に最後の鉄蟲糸が引き千切れる。

まさにそのタイミングで葛城はアオアシラの背中を踏み台にして空中へと飛び上がった。

 

「これで終わりよ!」

 

アオアシラを飛び越え、ドスフロギィの真上まで到達した葛城は独自の構えを見せる。

それは葛城が一番得意とし、そして信頼を置く必殺技。

 

 

 

 

 

「気刃兜割!!」

 

 

 

 

 

ドラの音色によってみなぎる力を切っ先に集中させて繰り出した気刃兜割。

力だけでなく、鎮守府を守ろうとする意志、姉や提督から託された誇り、あらゆる想いが込められた必殺の刃は今までで最高の一撃となって放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BGM:クエスト成功

 

 

 

 

 

「勝った、勝ったわ!」

 

葛城の全身全霊を込めた気刃兜割。

その威力はドスフロギィを仕留めるにとどまらず、斬撃の余波で足元の大地にも小さいながら切れ込みを入れ、振り下ろした際に発生した風圧だけで後ろにいたアオアシラを怯ませるほどだった。

役目を終えたドラは静かに台の中へと戻って行き、葛城の溢れる力も収まっていく。

 

「さて、あんたはどうすんの?」

 

葛城はゆっくりと振り返り、残ったアオアシラの鼻先に太刀を突き付ける。

ドラが無くなったことによって力は元に戻ったが、アオアシラ一匹を追い払うくらい今の葛城に造作もない。

 

「グ、グゥ……。」

 

大物ドスフロギィが倒されたことで既に闘争心を失っていたアオアシラは、怯えた様子を隠すことなく逃げ去っていく。

 

「本当に大物が倒されると他のモンスターは逃げていくのね……。」

 

葛城がアオアシラを見逃していると、雲龍と天城が翔蟲にぶら下がったまま空を飛んで戻ってきた。

 

「やったわね、葛城。」

 

「相手をしていたモンスター達が急に退却を始めたから、もしかしたらと思って戻ってみれば思った通り!凄いわ葛城、遂に大物を倒して百竜夜行を終わらせたんですね!」

 

「えへへ、そぉ?」

 

降りてきた雲龍と天城に褒められ気を良くする葛城。

百竜夜行を終わらせた達成感と鎮守府を守れた安堵感に身を委ねていた。

 

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

 

 

 

その時、突然の爆発音が鳴り響く。

驚いた三姉妹がその方向に振り向けば、そこには爆発によって発生した硝煙の中で力なく倒れたアオアシラがいた。

さっき葛城に見逃されてこの場から逃げ出そうとしていた個体である。

 

「何!?何が起こったの!?」

 

まだ戦いは終わっていなかったのかと慌てて三人が武器を構えるのとほぼ同時に巨大なモンスターが姿を現す。

 

 

 

 

 

BGM:悪逆無道/マガイマガド

 

 

 

 

 

「グロロロロロロロ……。」

 

それは鎧武者の兜のような立派な角を生やし、鋭い槍のような長い尾を持った、虎のようにもアンキロサウルスのようにも見える恐ろしい姿をした大型モンスターであった。

 

「あれは、マガイマガド……。」

 

「えっ?」

 

雲龍が思わずつぶやいたマガイマガドという一言、聞き覚えのない名前に葛城は思わず聞き返す。

 

「マガイマガド、本来なら人里はおろか自然界ですら滅多に姿を見せることのない珍しい大型モンスター。なのに過去の百竜夜行ではふらりと姿を現しては鎮守府、百竜夜行のモンスター双方に壊滅的な打撃を与えてきた。その性質は非常に獰猛で危険性もとても高い。かつての戦いにおいて私達では相手にならず、フゲン前提督を以てしても追い払うのがやっとで一度も倒すことは出来なかった相手よ。」

 

「そんな……。」

 

雲龍の口から語られる恐るべき事実。

尊敬する二人の姉、そしてモンスターの大群を蹴散らす程の力を見せたフゲン前提督ですら倒せなかった相手が現れたとなれば、勝利気分で浮かれていた葛城の心も一瞬で冷や水を浴びせられたように静まり返る。

 

「まさか今回も現れるなんて思わなかったけど安心して!あれから天城達も強くなったんです!前回のようにはいきません!」

 

葛城を守るように雲龍と天城が前に出て、更にはセイちゃんとモモちゃんも戦闘態勢に入る。

 

「グルロロロロロロロッ!!!」

 

マガイマガドの咆哮、それは百竜夜行で現れたどのモンスターよりも迫力と殺気があり、大物ドスフロギィですら比較にならない。

たった一度の咆哮、それだけでこちらの戦意が削がれそうになる。

そして咆哮と共にマガイマガドの全身から紫色をした鬼火のようなものが吹き上がる。

その姿はまるで怨念をその身に宿して地獄から蘇った悪鬼羅刹のようであった。

 

「ホーッ!」

 

「ガウゥ!」

 

セイちゃんとモモちゃんがマガイマガドに同時に飛び掛かる。

だがその攻撃もマガイマガドの前脚から生える太刀のような甲殻にアッサリと受け止められ、そのまま跳ね返された。

とはいえ弾き飛ばされた程度ではやられない。

セイちゃんは空中で体勢を立て直し、モモちゃんは転ぶことなく着地する。

 

「まずい!」

 

「えっ、まずいって何が?」

 

今の攻防を見た雲龍の顔が険しくなる、しかし葛城には何がまずいのか分からない。

確かにセイちゃん達の攻撃は防がれたが、跳ね返されただけで大きなダメージを受けたわけではない。

一目で分かる異常としてはマガイマガドの反撃を受けた際に鬼火が燃え移ってしまっていることぐらいだが、それでも熱そうにしている様子は見られない。

このくらいならまだ戦える………………そう思った次の瞬間。

 

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

 

 

葛城の目の前でセイちゃんとモモちゃんが爆発した。

セイちゃんはそのまま受け身も取れず地面に墜落し、モモちゃんは自分がドスフロギィにそうしたように爆発の勢いで防壁に叩き付けられて動かなくなる。

 

「セイちゃん!?モモちゃん!?」

 

ボロクズのようになったパートナーの姿に葛城は思わず悲鳴を上げる。

幸いなことに大きな出血は見られず、呼吸も止まっていないので致命傷は免れたようだが、自力で動くことが出来ないレベルのダメージを受けたことに変わりはない。

 

「今の爆発、ひょっとしてアオアシラを倒したのも同じ方法で!?」

 

「コレ以上ノ狼藉ハ許サンゾ!バリスタ隊一斉ニ撃テー!」

 

一瞬でセイちゃんとモモちゃんがやられたのを見て、妖精さん達はマガイマガド目掛けて矢を放つ。

だがマガイマガドが高く持ち上げた尻尾をくるくると振り回すと、尾の先から次々に鬼火が飛んでいき、それは寸分違わずバリスタ隊を直撃した。

 

「グワーッ!?」 「ヤラレター!!」 「ゴメン、モウ無理-ッ!」

 

「逃ゲローッ!」 「後退セヨー!」 「爆発スルゾーッ!」

 

「警告スル。オ前ハ戦イカラ逃ゲヨウトシテイル。逃亡者ハ、オ尻百叩キノ刑ニサレル!アッ、ヤッパ駄目ダ!」

 

次々に爆破されていくバリスタ隊。

砲台は一瞬で破壊され、元々戦闘力が高くない妖精さんは設置台の中に逃げ込むしかない。

こうしてあっという間にバリスタ隊は全滅してしまった。

 

「見ての通り、マガイマガドの鬼火は燃え移ったものを爆破する。そしてその威力は絶大。決してあの鬼火には触らないで……。」

 

雲龍はそう言いながらも連続で矢を放つ。

バリスタ隊の射撃よりも激しい弾幕であり、並のモンスターではひとたまりもない。

だがマガイマガドは鈍重そうな外見とは裏腹にひらりひらりと軽快な身のこなしで次々に矢を避けていき、避けられないと判断すれば甲殻の厚い部位で弾いていく。

 

「くっ、動きが不規則で狙いが定まらない……。」

 

雲龍は焦りながらも次の矢を番える、しかし素早いマガイマガドは避けながらも徐々に距離を詰め、やがて自分の間合いに雲龍を捉えた。

回避行動を取っていたマガイマガドの尾はいつの間にか甲殻が展開しており、十文字槍のような姿に変化した尾の甲殻の隙間から鬼火があふれ出す。

やがて大量の鬼火に包まれた尾を雲龍に向かって、まさしく槍のように突き出した。

 

「姉様はやらせません!!」

 

だがそこに盾を構えた天城が割って入る、盾を持つ者として仲間を守るのは当然の責務。

甲高い音を立ててぶつかる尾と盾、凄まじい威力の前に盾を弾かれつつも突き攻撃自体は何とか防ぎきった。

 

「よし、防ぎました!これで……あっ!?」

 

だがマガイマガドの攻撃はそれだけで終わらない。

尾から旋風のように鬼火の渦が発射され、その直後に大爆発を引き起こす。

盾を弾かれた天城にそれを防ぐすべはない。

爆発に巻き込まれた天城は吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がっていき、うつ伏せに倒れてピクリとも動かない。

 

「天城!?」

 

「天城姉さん!?」

 

吹き飛ばされた天城の姿を追って思わず振り返ってしまう雲龍と葛城。

しかし戦闘中に敵から目を離すということがどれほど愚かな行為なのか、二人は身をもって知ることになる。

 

「グォゴオオオォォォォォ!!!」

 

「えっ?」

 

マガイマガドの咆哮が聞こえたと思った次の瞬間、雲龍は空中にいた。

一体何が起こったのか?

まるで他人事のような気分で雲龍は何故かとても痛む身体を必死に動かし、ようやく動いた首だけで下を見る。

そこには全身に今までの比ではない燃え盛る鬼火を身にまとったマガイマガドが、さっきまで自分が立っていた場所でブレーキを掛けるように足を踏みしめている様子が目に入った。

どうやら自分は突進してきたマガイマガドに跳ね飛ばされたらしい、この全身の痛みは突進を受けたからだろう。

燃え盛るマガイマガドは身を翻して元居た場所にまで戻ると、そのまま垂直に跳躍して空中にいる雲龍よりも高く跳んで見せた。

そして最高度に到達すると身にまとった鬼火を爆発させ、その反動を利用してミサイルのようにこちらへ突っ込んでくる。

スローモーションになった視界の中、ゆっくりと迫りつつあるマガイマガド。

雲龍の視界の隅にはこちらを見ながら何かを叫ぶ葛城が映るが、彼女が何を言っているのか雲龍には全く聞こえない。

ここで自分がやられたら葛城は一人でマガイマガドと戦うことになってしまうのだろうか?

雲龍にとっては自分がやられてしまうことよりも、葛城の安否の方が気掛かりであった。

 

「葛城、ゴメンね……。」

 

 

 

 

 

ドオオオォォォォォン!!!!!

 

 

 

 

 

「雲龍姉ェェェ!!」

 

雲龍に衝突したマガイマガドは雲龍を巻き込んだまま地面に着弾、凄まじい大爆発を引き起こす。

これこそがマガイマガド最大の必殺技『大鬼火怨み返し』であり、その破壊力は見てのとおりである。

目を開けていられない程の爆風、葛城は吹き飛ばされぬように必死に堪える。

もうもうと上がる硝煙と土煙。

やがて晴れた煙の中には爆発により生まれた小規模なクレーターと、倒れた雲龍を前脚で踏みにじるマガイマガドの姿があった。

 

「お前!お前!!お前エエェェェ!!!」

 

セイちゃん、モモちゃん、天城、雲龍、大切な家族を目の前で次々と傷付けられ、葛城の怒りは限界を超えた。

自分の中に僅かに残る冷静な部分は二人の姉が敵わなかったのだから自分が出ても何も出来はしない、さっさと逃げるべきだと警告を続けている。

だが激しい怒りが冷静さを押さえ込む、ここで賢しく逃げを選ぶくらいならバカのままでいいと。

 

「うわあああ!!」

 

だが冷静さを失い、怒りの感情に任せるまま戦う者の末路など決まっている。

怒りは確かに力を与えるが、それ以上に隙を産むのだ。

もはや剣術も何もあったものではない、感情のままに振り回される太刀。

そんなものはマガイマガドには通じない、逆に鞭のようにしなる尻尾で弾き飛ばされた。

 

「あうっ!?何のこれしき、みんなの痛みに比べたら!」

 

手の皮が擦りむけるのもお構いなしに地面を押さえることで無理矢理吹き飛ばされた勢いを殺してその場で止まる葛城。

幸い身体に鬼火は付着していない、だったらまだ戦える!

だが顔を上げた葛城の視界に入ってきたのは、今まさにこちらに飛び掛かろうとするマガイマガドの巨体であった。

今の葛城にはそれをかわすことも、受け止めることも出来ない。

虫ケラのように叩き潰されて戦闘不能となる、それを理解してしまったからこそ葛城は悔しさで涙をにじませた。

 

「これで終わりなの!?一矢報いることも出来ないで!?畜生、畜生ッ、ちくしょおぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせぇぇぇい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ、フゲン前提督!?」

 

「おう、猛き炎!諦めるにはまだ早い!まだ戦いは終わっちゃいないぞ!」

 

諦めかけた葛城、そんな彼女を救ったのはフゲン前提督であった。

葛城に飛び掛かろうとするマガイマガドの巨体を太刀の刀身で受け止め、そのまま押し返そうとするフゲン。

だが力の差というのは非情である、フゲンはマガイマガドに徐々に押し込まれていく。

 

「ぐううぅぅぅ!?寄る年波か!俺が後10歳若けりゃこの程度の相手、ボコボコにしてやるというのに!!」

 

このままではフゲンまでもがやられてしまう。

命の危機を感じたことで頭が冷え、冷静さを取り戻した葛城は状況を打開すべく知恵を絞る。

 

「フゲン前提督に加勢しようにも、今の私じゃ単なる足手まとい。だったらそれこそ逃げるべき?私がいない方が前提督も守る者がいなくて戦いやすいだろうし。いや、そんな後ろ向きな考えじゃダメ!気持ちの時点で負けていたら、勝てる試合にすら勝てないわ!今の私に出来ること、何か今の私に出来ること………………そうだ!アレよ!あれを使えば!」

 

悩む葛城の視界に図らずもあるものが映る。

葛城はそれを利用してマガイマガドに一泡吹かせようと思い付くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおおおおおっ!?」

 

遂に抑えきれなくなり吹き飛ばされるフゲン。

全身から激しく鬼火を噴出させるマガイマガドは倒れたフゲンを見下ろしながら、尻尾を勢い良く振り回して鬼火のエネルギーを集中させ始める。

これは天城を仕留めたマガイマガドの得意技『尾槍・鬼火螺旋突き』の予備動作。

直撃すればフゲンとて敗北は免れない。

 

「もはやこれまでか、無念!」

 

だとしても倒れる時は前のめり、例え敗北しようとも無様な姿は見せまいとフゲンは燃え盛るマガイマガドを睨みつけた。

 

「やああああ!!」

 

そこへ割り込んできたのは葛城、武器も抜かず素手のままでマガイマガドへと走り寄っていく。

 

「葛城!?何をする気だ!」

 

「グロロロロ……。」

 

捨て鉢になったような無謀な突進。

マガイマガドはフゲンではなく葛城へと狙いを変え、フゲンは葛城を止めようと手を伸ばす。

だが葛城は止まることなくマガイマガドの目前まで接近すると翔蟲を飛ばした。

 

「行けッ、翔蟲!」

 

翔蟲に引っ張られた葛城はマガイマガドをすり抜けるように飛んでいく。

何をするでもなくただ飛んでいくだけの葛城に拍子抜けしたのか、怪訝そうな様子を見せるマガイマガド。

だが既に葛城の攻撃は完了していた。

違和感を感じたマガイマガドが気付いた頃にはもう遅い、マガイマガドの目の前には爆発寸前の鬼火が浮遊していたのであった。

 

「グゴォ!?」

 

「これがあんたの攻略法よッ!」

 

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

 

 

鬼火の爆発の直撃を受けたことでマガイマガドは全身の鬼火が誘爆、自爆を起こして倒れ込む。

 

「どう?これはみんなが受けた痛みよ!たまには自分で味わってみなさい!」

 

葛城は敢えて自分の身体に鬼火を付着させ、爆発寸前のそれを翔蟲の高速移動によって振り払うことでマガイマガドだけを爆発させたのだった。

 

「グオァ!?」

 

爆発のショックで意識が朦朧としていたのか、頭を振りながら起き上がるマガイマガド。

思ってもみなかった方法によって反撃を受けたことに戦意が削がれたのか、マガイマガドからは明らかに先程までの勢いがなくなっていた。

 

「よくやってくれたよ、愛弟子!弟子にここまでさせたんだ、ここから先は師匠の俺が頑張らないとね!」

 

いつの間にやら現れたウツシ提督。

ウツシ提督は爆発で倒れているアオアシラに駆け寄ると、その口に無理矢理秘薬を流し込む。

 

「さて、瀕死になっていたところに悪いんだけど、キミにはもう一働きしてもらうよ!」

 

ウツシ提督は秘薬の効果で何とか起き上がったアオアシラを再び鉄蟲糸で容赦なく縛り上げていく。

そしてそのままアオアシラに跨って操竜に持ち込むと、続けて白いイタチのような生物を取り出した。

 

「こいつはエンエンク。モンスターを引き寄せる独特のフェロモンを発する環境生物さ。こいつをこうしてっと!」

 

ウツシ提督はエンエンクを軽く刺激することでフェロモンの分泌を促す。

エンエンクがフェロモン出し始めると、それをアオアシラの頭にこすり付けるように塗り込んでいった。

 

「これでフェロモンアオアシラの完成だ!」

 

目が覚めた途端、訳も分からず鉄蟲糸で縛られて背中に乗られた挙句、いきなり頭にフェロモンを塗られたアオアシラの混乱は察して余りある。

ましてや自分を爆破した犯人であり、強さでも大きさでも自分の遥か上を行くマガイマガドがすぐ近くにいるこの状況。

 

「グオッ!?」

 

「さあ来いマガイマガド!鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」

 

ただでさえ百竜夜行が終わったことで戦意を失っていたというのに立て続けにこの仕打ちである。

パニックを起こしたアオアシラは脇目も振らず全力で逃げ出し、所々でウツシ提督が走る方向を操作することでスムーズに翡葉の砦から脱出させた。

 

「グロロロロ……。」

 

エンエンクのフェロモンに本能を刺激され、アオアシラを追い始めるマガイマガド。

だがその途中で一度だけ立ち止まって振り返ると葛城を睨む。

その視線は『今回は退くが、次はこのようにはいかない。』と物語っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アオアシラを追ってマガイマガドは立ち去り、やがてその気配も完全に無くなった。

 

「はぁ~、死ぬかと思った。というか気持ちだけなら何度も死んだ!」

 

ずっと神経を張り詰めさせていた葛城だったが、緊張の糸が切れたのかようやく膝を着く。

 

「……っていけない!雲龍姉ぇと天城姉ぇ!セイちゃんとモモちゃんは!?」

 

「心配するな、葛城!みんな無事だ!」

 

「愛弟子、キミのお陰だよ!」

 

傷付いたみんなのことを思い出し葛城は慌てて振り返ったが、雲龍はフゲン前提督に支えられ回復薬を飲まされていた。

同じように天城もウツシ提督に助け起こされており、セイちゃんとモモちゃんは妖精さん達の手によって優しくベースキャンプへと運ばれていく。

 

「ウツシ提督!?何でここにいるの!?アオアシラと一緒に囮になったんじゃ!?」

 

「ある程度逃げたところでアオアシラを乗り捨てて翔蟲で帰ってきたんだ!心配しなくても逃げる途中で見つけたヒャクメマダラを使ってアオアシラに強走効果を付与してきたから、そう簡単に追い付かれることはないはずだよ。強走効果が切れた後のアオアシラの末路は知らないけど、そこまで離れれば流石のマガイマガドもここには戻ってこないだろうからね。」

 

地味に残酷なことを笑顔でサラッと話すウツシ提督。

まぁあのアオアシラは鎮守府の仲間どころか攻め込んできた敵なのだから、最終的にどうなろうと興味がないのは仕方がない。

 

「それよりも葛城、よくやってくれた!あのマガイマガドを攻略して見せるとは、お前はまさしく猛き炎だ!カムラの誇りだ!」

 

「うんうん、本当に凄いよ!本当に素晴らしいよ!キミは俺の想像を超えて強く、そしてたくましくなっていたんだね!弟子はいつか師匠を超えていくものだなんてよく言われるけど、今回の愛弟子の活躍を見たことで俺も実感したよ!キミはきっと、いや絶対に偉業を成し遂げる最高の狩娘になるんだって!」

 

「えっ?いやそんな、持ち上げすぎだって!あれは無我夢中でたまたま成功しただけで、上手くいく保証だってなかったんだし!」

 

「いえ、そんなことはないわ……。」

 

「姉様の言う通りですよ。葛城、よく頑張ったわね。」

 

フゲンとウツシ提督に褒められるも謙遜してしまう葛城だったが、回復薬を飲んだお陰で無事に復活した雲龍と天城も葛城の活躍を称賛する。

 

「今まで私達はずっとマガイマガドに辛酸を舐めさせられていたんです。葛城、あなたはそのマガイマガドの戦意を喪失させてみせました。これがどれほど凄いことなのか、今回の百竜夜行が初めての葛城にとってはピンとこないのかもしれないけど、マガイマガドを追い払うなんて今まで誰も成し得なかったことなんですよ!」

 

「天城の言う通り、今まで誰もマガイマガドを追い払えなかった。マガイマガドは暴れるだけ暴れて、気が済めば去っていく災厄。私達はそれを見送るしかなかったの、とても悔しかったわ……。だけど百竜夜行に初めて参加した、それも実戦経験もほとんどないような狩娘がマガイマガドと渡り合ってみせた。それは例え奇跡や偶然が重なっただけだとしても凄いことなのに、あなたは奇跡や偶然に頼ることなく自分の知恵と勇気だけで成し遂げてみせたわ。あなたは私の妹にしておくには勿体ないくらい凄い狩娘よ。」

 

「そっ、そんな……。天城姉ぇに雲龍姉ぇまで、あぅあぅあぅ……。」

 

天城と雲龍にも褒めちぎられた葛城は赤くなって俯いてしまう。

 

「どうだい、分かっただろう。ここは素直に褒められるべきだよ、でないと今までやられっぱなしだった俺達の立つ瀬がないしね!」

 

「うむ、ウツシ提督の言う通りだ!ここは盛大に祝うとしよう、新たな英雄の誕生をな!」

 

ウツシ提督とフゲン前提督、そして雲龍と天城の四人は葛城の見ている目の前で右手を重ね合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気焔万丈!カムラの新たな英雄、葛城の誕生だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして重ねた手を天高く掲げて、四人全員で大きく宣言した。

 

「ぎゃーーーっ!みんな止めてぇ!恥ずかしいじゃない!?」

 

「いつもの調子が戻ってきたじゃないか愛弟子!さあ凱旋だ!今度こそ祝勝会、お団子パーティだ!」

 

終わり良ければ全て良し、マガイマガドにやられたことなど無かったかのように上機嫌で帰っていく四人。

葛城は慌ててその背中を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても今回の葛城の活躍は本当に目を見張るものがあったな。」

 

「えぇ。マガイマガド関連を抜きにしても無事に関門を守り抜き、大物ドスフロギィを倒しています。多少の焦りこそ見られたものの、初めてにしては上出来と言えるでしょうね。」

 

「ウツシ提督もそう思うか。雲龍と天城はどう思う?」

 

「私も同意見です。私が初めて百竜夜行に参加したときはあそこまで動けませんでした。」

 

「天城もそう思います。葛城、あの子は私達にはないものを持っています。」

 

「そうかそうか!ウツシ提督よ、これはもう決めてもいいのではないか?」

 

「そのようですね、フゲン前提督にまでそう言って頂けるのなら愛弟子も自信が湧くでしょう!」

 

フゲンと何やら話をしていたウツシ提督は上体だけで振り返ると右手を振りながら葛城に呼びかける。

 

「愛弟子!」

 

「何よ?」

 

「今後の百竜夜行も全て愛弟子を中心に進めていくことにしたからよろしくね!」

 

「ふーん、そう……。はあっ!?何でそうなるのよ!?」

 

「今回の百竜夜行を見て確信したんだ。これからも愛弟子に任せておけば間違いなく上手くいくだろうってね!これはみんなの総意なんだよ、一回の百竜夜行で全員を認めさせるなんて流石は俺の愛弟子だ!」

 

「何が総意よ!私の意思が入ってないじゃない!」

 

「みんなの期待を背負って立つ。責任のある重い立場だけど、みんなそれだけ愛弟子のことを信頼しているんだ。頑張っていこうね、俺も見守っているよ!」

 

「ふざけるなぁーーーっ!!!」

 

成立しているようですれ違っている二人の会話。

何を言おうともまるで通じないウツシ提督に我慢のならなくなった葛城は思わず天に向かって叫ぶ。

 

「えっ!?」

 

その時、空を見上げる葛城の視界に不思議なものが映り込む。

雲の隙間をすり抜けるように飛んでいく、龍のようにも深海魚のようにも見える不思議な青い巨大生物。

その巨大生物に不思議なものを感じ取った葛城は思わず足を止めて見とれてしまう。

 

「あれは一体?」

 

「おーい、愛弟子!何をしているんだい?早く行こう!」

 

「あっ、ウツシ提督!今あそこに……あれっ?」

 

ウツシ提督に呼ばれて視線を戻した葛城は再び空を見上げるが、そこには青空が広がるばかりで青い巨大生物は影も形も無かった。

 

「見間違いだったのかな?」

 

「愛弟子―?」

 

「はーい!すぐ行くわ!」

 

 

 

 

 

やがて葛城はいくつもの困難を乗り越えて一つの伝説を作ることになる。

そんな彼女の記念すべき第一歩はここから始まったのであった。

 

 







愛弟子やめるのだ!そこは竹爆弾を出し入れする穴なのだ!



おまけ:雲龍さんの装備

武器:カムラノ忍弓
頭:依巫・祈【元結】
胴:依巫・祈【白衣】
腕:依巫・祈【花袖】
腰:依巫・祈【腰巻】
脚:依巫・祈【緋袴】
花結:鬼香の花結・三輪
護石:伝家の護石
スキル:早食いLv2、満足感Lv3、広域化Lv3、幸運Lv3、腹減り耐性Lv1、壁面移動Lv1

ヒノエの装備である依巫シリーズ、武器もヒノエと同じでカムラノ忍弓。
花結は攻撃を意識した鬼香、スキルと噛み合ってないとか言わない。
そして残念配布護石として名高い伝家の護石をひとつまみ。
雲龍のイメージとしては操虫棍が似合いそうけど、元ネタであるヒノエに合わせた結果弓になりました。
盟友の時の豊富なスキル?
あれは盟友のシステムありきのものだし、そもそもこの装備は上位のものだから……。



おまけ:天城さんの装備

武器:カムラノ忍鎗
頭:神凪・願【元結】
胴:神凪・願【白衣】
腕:神凪・願【花袖】
腰:神凪・願【腰巻】
脚:神凪・願【緋袴】
花結:硬香の花結・三輪
護石:熟練の護石
スキル:業物Lv3、弾丸節約Lv3、回避性能Lv3、翔蟲使いLv3、挑戦者Lv4、体術Lv1、体力回復量UPLv2

ミノトの装備である神凪シリーズ、武器もミノトと同じでカムラノ忍鎗。
花結は防御を意識した硬香、こっちの方が攻撃的なスキルだけど気にするな!
そして護石はこれまた配布枠の熟練の護石。この三姉妹全員配布の護石を装備してんな。
天城も武器(?)として三番叟鈴、要するに鈴の付いた棒を持ってるから狩猟笛とか似合いそうだけど、これまたミノトと合わせた結果ランスになりました。
でも天城とランスの組み合わせは結構似合ってる気もする。



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