転生したら兄が死亡フラグ過ぎてつらい   作:由月

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息抜きです。
かるーい気持ちでお読みください。


原作前(三年前)
人生、なにがあるか分からないものだ。


 

 俺は何か神に嫌われることでもしたのだろうか。

 

 

「――ヴァ。ジェネヴァ。おい、聞いてんのか、テメェ」

 

 目を開けたら殺人級の眼光がこちらを射抜いていた。その男は長めの銀髪に、これまた暑苦しそうな黒ずくめの服装をしていた。人を何人も殺してきたような目つきの悪さに、煙草を慣れたようにふかすその姿。とっても見覚えのあるその姿に俺は内心動揺した。

 

「へ?」

 

「チッ。仕方ねぇ。いいか、あの方の命令でこれからお前は仕事だ。標的以下、詳しい情報は前に話した通りだ。しくじるなよ」

「あ、ああ……」

 

 忌々しそうに吐き捨てる言葉はとても身内にかけるものとは思えない温度だ。冷えきりすぎて凍えそうな程、視線も声も冷たい。

 どうやら移動中のようだ。彼の愛車のポルシェを運転するのは彼の右腕ウォッカで、俺の隣、後部座席にふんぞり返るこの男こそ、我らが兄貴のジンである。

 

 何故組織の大幹部であるジンが俺の隣に座っているのか。それは簡単な話、俺ことジェネヴァの実の兄がジンであるからだ。

 

 ジェネヴァ。もちろんこれは本名ではない。見た目は子供頭脳は大人な名探偵でお馴染みの黒の組織のコードネームだ。まぁ貰ったのは最近で、今日はコードネームを貰ってから初のお役目だ。だからわざわざジェネヴァにジンが付き添っている訳である。

 

 あの冷徹なジンにしては随分過保護な話だと思うだろう。だろうな、と俺は膝に抱えるライフルバックに手を滑らせる。見た目はただのギターケースだった。

 

「どうした?今日は随分落ち着きがないじゃないか。今更怖気づきでもしたか?」

「兄さん。……もし、そうだと言ったら?」

「ハッ。だとしたら、俺の弟が今日から居なくなるだけだな。ただの餓鬼に存在価値なんざねぇからな」

「……そう。まぁ俺には関係のない話だね。怖気づいてないし、始末する奴の情報を頭の中で確認してただけだよ」

 

 静かに兄であるジンに答える。俺の言葉にジンは鼻を鳴らすと、つまらなそうに俺から視線を外した。

 

 

「着きましたぜ、兄貴」

 

 運転席から聞こえたウォッカの声に俺は無言で支度を始めた。ジンはそんな俺の様子を静かに一瞥しただけだった。どうやら一人で始末できるか見守るつもりらしい。

 

 どうやらこの人のいないビルの屋上から標的のいるホテルへとスナイプする。それが今日のお仕事らしい。夜、ということもあり暗視スコープでやる。

 距離はおよそ600ヤードといった所か、まぁ普通に当てられる距離だ。あとは獲物がかかるのを待つのみである。

 

 俺、コードネーム<ジェネヴァ>は十三歳である。……兄とは大分年の差があり、一応唯一の肉親である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェネヴァ、という人物はなんともまぁ波乱万丈な人生を歩んでいるようだった。物心ついた頃には既に両親の姿はなく、唯一の血縁であるジンとはあまり交流がない。黒の組織の英才教育を受けた彼は驚く程に才能に溢れた子供だった。すぐに物事を吸収する彼は組織に言われるがまま技術、知識を吸収していった。

 

 その割に感情の面に問題があり、何においても無感動、無感情。まぁこれは育った環境が環境だし仕方のない事なのかもしれない。

 兄であるジンとの関係は良好とは言い難く、嫌われているに近い状態だ。とても胃が痛いわ。

 

 前世を思い出したのは先ほどの車中で、心の内が全然漏れない鉄仮面仕様でほんとによかったと思う次第だ。内心では叫びたかった。切実に。

 仕事が終わり、組織に与えられた自室にそそくさと戻った俺は洗面台の鏡の前で項垂れていた。

 

 鏡の前では儚げ美人(男)が俯いている。そう、今世の俺の姿だ。何故俺で、しかも女じゃないのか、と拳を握る程の顔が整っている。兄譲りの真っ直ぐな銀髪が肩口をくすぐる。出来れば遠くで眺めたい美形だ(現実逃避)。

 

 日記を自室に戻り次第確認した。そこで朗報、どうやら原作前らしい。組織の人間を指折り確認したら、コードネームにスコッチの名がある事を思い出したのだ。やったね!ジェネヴァちゃん、ワンチャンあるで!

 

 まぁチャンスも何も存在自体が俺の死亡フラグな兄がいるのでどうしようもないんですけどねー。ハハッ。

 

 ほんとどうしようね。ジェネヴァちゃん白目むいちゃうわ。

 

 しかもあまり今世の過去の事も思い出せないという詰み仕様。なんか思い出そうとすると吐き気がするんだよな。頭痛とセットでくるのでめげてしまいそうだ。断片的には過去を思い出せるのだが。

 

 悩んでも解決してはくれないので、もう今日は寝よう。明日の事は明日の俺がなんとかしてくれるだろう。皆は真似しちゃだめだぞ!

 

 おやすみ三秒。すやぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一晩寝て思ったんだけど、俺原作に影も形も出てないよね?

 

 俺の存在自体、前世で見たことのある転生的なアレコレでイレギュラーなのか。それとも原作でも一応存在はあって原作が始まる前までにこの世からさよならバイバイしたのか。とても気になる所である。一応、後者の可能性を考慮して今後は慎重に行動したいが、そうしたら最終的に社会的抹殺が最後な気がしてとてもつらいです。

 ジンは死んだ奴は覚えていないんだ、的な事を言っていた気がするので警戒は怠れない。

 

 Prrrrr……

 

 あ、電話だと無警戒に通話ボタンを押す。ちなみに携帯電話はスマホではなく、ガラケーだった。まぁ原作前時間軸なので仕方ないのか。

 

「はい、もしもし」

『……?テメェそんな奴だったか?まぁ、いい。仕事の話だ』

 

 電話口から聞こえてくる冷たい声に俺は早々に電話を切りたくなった。ジン、いや兄さんの声はいつ聞いてもブリザードのようだなぁ。現実逃避したいわ。

 

「仕事……」

『テメェももうコードネーム持ちだからな。これからは幹部としてせいぜい死なねぇよう気をつける事だな。――で、仕事だが。お前は単独の仕事をやってもらう。勿論誰かと組んでもらう事はあるだろうが』

「そう、分かった」

『基本的には俺からの指示で動いてもらう。慣れるまでは面倒を見ろとあのお方からのお達しだからな』

「うん」

『それから……』

「うん?」

『これから人前であの呼び方はやめろ。じゃあな』

 

 人の返事を聞かず、ブツリと切れてしまった電話に俺は項垂れる。

 

 

「勝手かよ……」

 

 某ジャイアニズムな人を思い出した俺は悪くない。というか単独って俺に死ねとでも言いたいのだろうか。結構組織の仕事って荒事の側面が強いので危険が一杯なのだ。俺は当然ながら事務職ではないので、前線というか肉体労働しかないのだけど。

 

「あ、呼び方どうしよう……」

 

 俺の途方に暮れた呟きは一人暮らしには広いこのマンションの一室に寂しく消えた。とりあえず朝食食べてそれからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 今日はオフだぜヤッホーと外に出てしまったのが悪かったのか。俺は猛烈に後悔していた。もちろんこの鉄仮面な無表情は崩れていないだろうけど。

 

 時刻はお昼時、丁度十二時半といった所だ。オシャレなカフェで俺は冷や汗を掻きながら、対面に座るその人をじっと見つめた。

 

「ん?どうかしましたか?」

 

 にっこりと笑うその人、バーボンこと安室透がそこにいた。

 

 ここまでの経緯は簡単だ。いい加減気がめいってしまった俺は気分転換に携帯と財布を持ち、街へと外食しに行った。徒歩でそこそこ賑わっている街へと歩き出した。で、十分やそこらで買い物袋を抱えるこの人とバッタリ会って「あれ?君、見た事のある顔ですね」とイケメンスマイルでゴリ押しされた結果です。今考えてもじゃあ近くのカフェでも行きません?とか言えるこの人のコミュ力の高さが訳分からんわ。

 

「別に……」

「そうですか?それよりも他に何か頼みませんか?ここは洋食屋も兼ねているんですよ。おすすめはオムライス辺りでしょうか。デザートにケーキもいいですよ、ここは俺が奢ります」

 

 そうにこやかに続けるその姿は人のいいお兄さんと言った様子だ。バーボンとしての彼とはまた違った印象を受ける。俺がまだ子供だからだろうか、そんなどうでもいい事を考えつつ俺はバーボンに首を横に振る。

 

「要らない。俺、このコーヒー飲んだら帰るし」

「え」

「ああ、自己紹介がまだだったね。お兄さん。俺は“ジェネヴァ”」

 

 コードネームを口に出した途端、バーボンの瞳に剣呑な光が宿る。うーむ、せっかくの美味しいコーヒーが不味くなりそうだ。確か情報屋なんだっけか、探り屋?まぁどうでもいい。俺は割と脳筋な所があるから、腹の探り合いは嫌いだ。

 

「……最近そうなったから、そう警戒しなくてもいいよ。俺なんて下っ端と思ってくれていいから」

「へぇ……。そうかい」

「うん。まぁ俺は実行係だから、お兄さんと組む事があるかもね。……その時はよろしく」

 

 実行係とか我ながらマイルドに表したな。俺は警戒が揺るがないバーボンに右手を差し出す。一瞬意表を突かれた顔をしていたけど、すぐに微笑みを装備し差し出した手を握り返してくれた。

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ。――ところで、ジェネヴァ君は普段学校とかは行かないのですか?」

「呼び捨てで構わないよ。こっちも仕事の際はそうするから。……で、学校?」

「ああ、君くらいの年の子は俺の国では学校に行っていましたから」

「なる程」

 

 頷きながら俺はさもありなん、と納得する。ところで微妙にこっちの生活を探っているな。いかにも人の良いにこやかさに全て話したくなるのは彼の得意技か。

 

「基本組織で教育受けていたから」

 

 ポツリとこぼして俺は最後の一口を飲みきる。そして立ち上がって、

 

「ご馳走様。またね、お兄さん」

 

 とバーボンの返事を挟む間もなく店を出た。

 

 

「――あれが最近組織で話題の子供か」

 

 去り際のバーボンさんの呟きなんて拾ってないんだからな!俺の組織内での立ち位置をもう一度確認した方がいいかもしれない。なんか時間が経過していくごとに死亡フラグが色濃く見えるようになって大変つらいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン。軽やかな機械音が室内に響く。2LDKという一人暮らしには豪華なマンションに俺はくつろいでいた。勿論チャイムが聞こえない訳がなく、億劫に思いながらも俺はドアを開けた。

 

「遅い」

 

 どこの暴君かな?俺はドアを開けたことに後悔しながらも来訪者を見上げる。まぁそこには黒ずくめの銀髪長髪野郎、いや俺の兄さんが立っていた。

 

「……なに?」

「今日ここに泊まってく」

「はぁ?」

 

 家主の了承なんぞ知ったことかと言わんばかりにジンは勝手に靴を脱ぎ入って行った。これは噂に聞く、押しかけ女房ならぬ兄貴かな?と心中で現実逃避してしまった。

 

「おい、いつまでそこに居やがる」

 

 なんか知らんけど、めっちゃ不機嫌なジンの様子に俺はため息を吐いた。ドアに鍵をかけ、玄関からリビングに歩く。心なしかさっきよりも俺の足が重い。

 

「チッ。ここには酒もねーのか」

 

 あるわけねーだろ。俺は心の中でツッコミを入れる。未成年の一人暮らしの冷蔵庫にそんなん入っていたら問題だろ、逆に。

 

「まぁいい。おい、なんか作れ。腹が減った」

「……」

 

 ジンはそう言いながら、リビングのソファでくつろいでいる。早い。というより俺の心のイラつきがやばいわ。思い出せる範囲内での今世の記憶ではジンはこちらに関心がなかったのに。無関心もいいところだ。それが今更突然。意味わからん。

 

 俺はやれやれと肩を竦め、食事の準備をすることにした。今日の夕飯だ。幸い食器は二人分ならなんとかあるし、食材に関しても大丈夫だ。

 

 

 ちなみに今日の夕飯はオムライスにした。ジンの方に可愛らしいくまの絵をケチャップで描いたら、無言でスプーンで崩された。なんてひどい。ちなみに俺の分はヒヨコの絵である。ジンのもの言いたげな視線がやばかった。バーボンのおすすめで食べられなかったからってそんな八つ当たりはしてないぞ。ただ俺が食べたかっただけだ。

 

 これが所謂むしゃくしゃしてやった後悔はしていないってやつだな。

 

 

 

 ところで中学生の弟に大の大人の兄が料理を作ってもらうとか普通逆じゃね?なんか腑に落ちないというか納得がいかないというか。まぁいいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 途中でやれ灰皿がないだの、酒を買ってこいだのいういざこざはあったもののあとは寝るだけとなった。着替えが、と言い出した時は殴ってやろうかと思った。うるせぇ、お泊りセット持ってこいや。声に出さないがイラッとした。もうお前なんなの?仕方ないから下着は使っていない新品があったのでそれを出し、大きめのシャツと適当なズボンを与え風呂場に押し込む。洗濯はやっておくから、と声をかけリビングに放置してあった黒いコートを持ち上げる。ハンガーにかけてあげたが、あの重量感。絶対武器仕込んであるわ。

 

 過去のジェネヴァが築いた“冷徹な兄”というイメージ像がガラガラと崩れた。木っ端微塵、どころか灰燼と化したわ。爆発四散!

 

 ガチャ、と風呂場からでてくるジンの姿に俺は笑いそうになった。やっぱり体格差ってあるよね。丈の足りないズボンと裾の少し短いシャツ姿にいつもより愛嬌があるように見える。いや、でも体格差から考えると奇跡的に着れてよかったね!と言うべきところだろう。いやー正直この“ジェネヴァ”にはちょっと大きすぎる洋服だったからな。

 

 と、そこまで考えて俺は冷静になった。愛嬌も何もないわと。

 

 まあ後は寝るだけだからお休みーと俺は心の中でジンに言ってさっさと自室に戻る。ああ、やっと解放されると俺は達成感で一杯になっていた。

 

 ベットに潜りこみ、うとうとと瞼を重くする睡魔に逆らう事なく俺は眠りに落ちる。

 

 ――ガチャリとドアの開閉音が聞こえる。しかしそれは俺の意識を覚醒はさせてもこの目を開ける程には至らなかった。

 

 ひたひたとこちらに歩み寄るその足音にようやく俺はこれを兄の足音だと認識したくらいだ。ぶっちゃけ半分意識は夢の中だった。

 

 ぎしりとベットのスプリングが音をたてる。ふかふかなマットレスが少し沈み、足音の主がベットに腰かけたのを俺に教えていた。

 

 さらりと頭をそっと撫でる感覚。俺の中途半端な長さの銀髪に指を少しからめ、その感触を楽しんでいるようだった。――え?何この状況と俺は冷や汗がダラダラだ。

 

「寝てるのか」

 

 頭を撫でる大きな手の優しい手付きとは裏腹に声は絶対零度を保ったままで俺の胃を的確に締め上げる。精神的な負担が半端ないのだ、察してくれ。

 

「……」

 

 少しの沈黙。俺は、そろそろ退くだろうと思っていた。

 

「――死んでねーのか、お前」

 

 ぼそり、と静かに呟かれた言葉に俺は死ぬほど驚いた。え、何俺兄さんの中では死んだ扱いされてたの?! と内心では絶叫の嵐だ。

 

 ジンはスッと立ち上がりすんなりと部屋から出ていった。パタリと静かに閉じられたドアの音が妙に俺の不安を煽った。

 

 朝起きたら、既に兄の姿がなかった。ハンガーにかけたあの黒いコートもなく、少しの煙草の残り香があの暴君の存在を俺に突きつける。

 

 

 

 この後滅茶苦茶お部屋に優しい某消臭スプレーをかけまくった。

 

 

 

 




※ジェネヴァとは――洋酒ジンの一種の名称。原種のジンに近いとされるお酒。ジンの実弟であるオリ主へのあのお方からの皮肉のネーミング、という裏設定。 ……深く考えてません。
※オリ主の見た目は儚げ系美少年を想像して頂ければと思います。でも無表情な上に目が死んでいるので近寄りがたい雰囲気です。


この後、黒の組織メンバーとのほのぼの&殺伐としたやり取りを考えた所でやめました。続き?――旅に行きましたね。という事で。

暇つぶしになれればと思います。それでは。
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