コメント、誤字脱字 共にありがとうございます。コメントはちょっと返信お待ちくださいね。本編更新が落ち着いたら順次返しますので。勿論励みになっております。 そして前回の描写ミスに関しても少しお時間いただきます。どうしようかなぁ、とない頭で考えている最中です。ご容赦を。
そして今回の注意事項。
・シェリーさんとの恋愛描写
・もだもだ
・でも砂糖吐きそうな甘さ。
・シェリーさん中心。三人称。
・ジェネヴァ君が少し怖い?
・トロピカルランドについてのねつ造あり(開園時期について)追記:原作三年前を想定してください。
・多分後で修正入れる
シェリーさんがこんなデレるわけねーだろ!という方はブラウザバックをお願いします。
おっけー?
ではどうぞ。
5/16 トロピカルランドの描写を付け足しました。
組織の施設の中は夏の暑さとは無縁の涼しさが保たれている。冷房にかかる電力はエコとは言えない勢いで、とても地球には優しくないだろう。そもそもこの犯罪組織がそんな地球に対する思いやり、とか言い出した日には地球の滅亡の日なのではないか、と思ってしまう訳だけど。
「ね、暇な時ここに遊びに来ていい?」
そんな夏の暑さに頭をやられたのだろうか。
二回目に彼がこの研究室を訪れた時に言われた。なんでもないことのように。もうその頃には彼の“友達”になっていたから、この突拍子のなさに毒気を抜かれるのも慣れてしまった。
肩まで伸びた銀色が縁取る少女めいた美貌に変化はない。この温度のない無表情は彼の標準装備だともうシェリーは知っている。だからこの発言に他意なんて含まれていない。シェリーはこみあがる動揺を喉の奥に押し込んだ。
「…………あら、なに?貴方、貴重な休みも私に会いたいなんて余程寂しいの?――なんて。おやめなさい、そんな時も組織を思い出させる知り合いに会いたいなんて不毛極まりないわ」
前半に揶揄いを、後半に諫めを含めて言い聞かせる。こちらの言葉をこてり、と小首を傾げる様は顔立ちも相まって愛らしい幼さが垣間見える。その瞳がここまで淀んでいなかったら見た目通りの子どもらしさだと言うのに。
「ん?そう、かな。寂しいのかな?俺。――だっていくら連絡先を交換したってアンタの性格じゃ、あんまり連絡してこないだろ?」
「……さて、どうかしら?」
全く痛いところを突いてくれる。悪気のない様子の彼にシェリーは、苦い思いではぐらかす。余裕のある笑みを浮かべれば大抵はどうにかなることを知っているから。
なのに、彼は。あの無表情が珍しく、眉を下げて、口角を下げほんの少し表情を悲し気になった。
「――ごめん、アンタを困らせるつもりはなかったんだ。どうも、俺にはデリカシーって奴が足りなかったみたいだ」
「…………」
ずるい。淡々とした声が優しい響きになり、こちらに対する親しみを雄弁に伝えてくる。きっとギャップって奴の威力に違いない。だから、ここで言葉が出てこないのは、彼がいけないのだ。
「シェリー?」
「――好きにすればいいんじゃない?貴方が貴重な休みをどう使おうと、私には関係ないもの」
「……うん。好きにする」
折れたシェリーの素っ気ない言葉に、彼の目が緩く細まる。微笑み、まではいかない微々たる柔らかな淡い表情。
あまりに不器用だと思う。けれど、その不器用さが案外嫌いじゃない。
シェリーの“友達”。同じような境遇の彼。
ジェネヴァ。それがシェリーの知っている彼の名前だ。偽りまみれだけど。
※※
ジェネヴァは宣言通り、ふらっと姿を現す事が増えた。一体どこから入り込むのか、シェリーが少し目を離したら、空いている椅子に座って微睡んでいる、なんてざらだ。最初は驚きのあまり怒ったら、「来るって言ったでしょ?」なんて言うものだから。呆れるやらなんやらで。しかもこころなしか、しょんぼりと肩を落しているように見えてしまったのが運のつきだ。シェリーにため息を吐いて許す以外に選択肢がある訳がない。本気で拒絶したい訳でもないし、したら大人げないにも程がある。
いつだったか、そんな風に神出鬼没になったジェネヴァの顔色が悪くなっていく時期があった。まだ夏の盛りの頃だったように思う。
「で?言いなさいよ」
「……別に大した事じゃないよ」
研究室にあったパイプ椅子に座らせ問いただしたらコレだ。シェリーじゃなくても呆れてしまうと思う。どの口が言うのやら。
見下ろした真っ白な美貌は顔色が無さ過ぎて、いつもよりも儚さを増している。目の下に出来たうっすらとしたクマですら美貌を損なわないってどうなってんの?と文句さえ言いたい。こうしてじっくり見るとこの人って色素が少ないのね。それで瞳の深緑が一層際立って見えて、この澱んだ光のなさに竦む思いをするのだ。まるで、底の見えない深淵を見せられるように。
そんな事はまず置いておいて。目の前の滑らかな頬に手を伸ばす。手が頬に触れるとジェネヴァの肩が少し揺れた。ビックリしたように目が見開かれる。珍しい事が重なるのね。
「嘘を言わないで。――顔色が悪いわ」
「……うそじゃないんだけど。――最近、夢見が悪いんだ。まるで」
ジェネヴァの言葉がそこで途切れる。目を伏せて、躊躇うその様子に頬に当てた手で撫でて続きを促す。子を宥める母のような温もり、とまでいかないけれどこちらの温もりが少しでも伝わればいい、と思ったが故に。
「ううん。やっぱり、これで充分。――ありがとう。心配させちゃったかな」
ジェネヴァはグッと奥歯を噛み締め、それからゆるりと頭を横に振る。頬を撫でていたこの手に頭を少し擦り寄せて、離れた。そのぎこちない動きがあまりに不器用で、ドキリとする。
ありがとう、と言うその顔は今までにない程穏やかだった。幼い筈の美貌がやけに大人びて見えて、この胸の動悸が更に激しくなった。いや、気のせいよ、なんて自分に言い聞かせないととてもやっていけない。
「……はやく、元気になりなさいよ。調子狂うじゃない」
「ん。シェリーも、困った時は俺に言って。俺と違ってアンタは優しいんだから」
「何よ、それ。ふふ」
シェリーの思わず零れた本音にジェネヴァは頷いた。そして、お返しと言わんばかりに出された提案に思わず笑ってしまう。そっちこそ随分と優しい言葉じゃない。
「いやいや、本気だよ?――優しい奴は、貧乏くじを引きやすいんだ」
「ふふふ。――でも心配ご無用。私、そんなに優しくないのよ」
貴方だからきっとほっとけない。シェリーの、宮野志保にとって唯一の同年代の友達なのだから。そんなズルい奴なのよ、本当は。
※
そんなやりとりもどこか懐かしい。更に季節は進み、今は秋の訪れに足を踏み入れ、夏の名残の残暑が続くそんな日々だ。そんな残暑は早朝には関係なく、爽やかな涼しい空気がこの都会の朝を包む。
時刻は午前五時。
その爽やかさに構うことなく、シェリーは焦ったように足を進める。辺りの人影は疎らだ。とある事情から普段の通勤時間を大幅にずらした事がここで裏目に出てしまった。ああもう、なんでこんな。舌打ちしたいのをグッと堪え、早足を更に早める。最悪なことに靴がヒールの高い靴だった。お気に入りだから、と言っている場合じゃなかった。
後ろからネットリとした視線を感じる。ゾッとする悪寒に背を押され、もう早足と言うよりは駆け足になってしまっている。道行く疎らな人々の視線なんて構う余裕すらない。
まだ、まだついてきている。足音は聞こえないからまだ距離があるけれど、それも時間の問題だ。ここからシェリーの職場までまだ五分は掛かる。付かず離れずのその距離は甚振って追い詰めて楽しむ捕食者の余裕だ。
怖い。
けれど、誰に助けを求めればいい?組織の人間なんて、頼れるはずがないというのに。シェリーの知っている人間は組織の人間しかいない。
目の前をバイクが通せんぼするように横づけられる。勢いよくブレーキをかけ、シェリーの目と鼻の先にピタリと停車した。フルフェイスのヘルメットに、シェリーは絶対絶命を知る。情けなくも涙が出てしまいそうだ。
その人物がヘルメットに手をかけ、勢いよく脱いだ。
ヘルメットからさらり、ときらめく銀色。
「え?」
「……シェリー。――その鬼ごっこはアンタの趣味?」
「そんな訳ないでしょう?」
相変わらずの無表情。シェリーはそこで己の勘違いを知り、人知れず安堵する。そして変わらずの分かりにくい冗談にムッと眉が寄る。
思わず反射的に言い返せば、ジェネヴァの瞳が緩く細まる。だよね、と軽い調子で返された言葉はやはり冗談の延長だ。なんだか一気に緊張が砕けたような気がする。
「じゃあ。――アレ、片付けてもいい?」
淡々と、まるで世間話の延長のように告げられた言葉にシェリーは我に返った。
見れば、ジェネヴァの目は真っすぐとシェリーの背後をとらえている。その瞳の色はいつもよりも暗く、温度がない。
ゾッとした。
あれは人を殺す事を知っている人のものだ。それに気づいてしまった。咄嗟に手が伸び、動こうとするジェネヴァの服の袖を掴む。
「何?」
短く返される声にいつもの柔らさなんてない。――シェリーにソレが向けられていないのに、この手が、身体が震えて仕方ない。
無言のシェリーに何を思ったのだろう。ジェネヴァはふぅ、とため息を一つ。
「分かった。――“穏便”に、だろ?アンタと俺の認識にズレはあるんだろうけど、そこは許してよ。それから、ごめん。ちょっと頭に血がのぼっていたみたい」
いつものジェネヴァだ。淡々と、無表情だけれど、それでもどこか柔らかで優しいそんなシェリーの友達が戻ってきた。袖を握る、まだ微かに震えるシェリーの手をジェネヴァがそっと包みこむ。身長は、シェリーの方がまだ若干高いのに手はジェネヴァの方が大きいらしい。とても温かだ。
ホッと思わず肩の力が抜ける。その時、手を包んでいたジェネヴァの手が解かれた。その手がそのまま、シェリーの肩を掴み軽く引き寄せられる。
「え」
トン、とジェネヴァの腕の中に軽く閉じ込められる。軽い拘束、抱擁。右手がシェリーの背中を支え、左手は腰と背中の間をそっと撫でて、宥めているようだ。
「……成程。殺意は“俺”にだけ、か。変なのを付けられていないし、ひとまず安心かな?」
「な、なな」
耳元で囁かれる静かな声に顔から火が出そうだ。このポンコツとなった口から出るのは意味のない音ばかり。
「うん?――ああ、ごめん」
シェリーの様子に気づいたジェネヴァは、即座に腕を解放する。驚き過ぎてこっちは腰が抜けそうなのに、何その余裕は。シェリーはムッと顔を顰める。
こてり、とジェネヴァの首が傾げられる。
「うん?――俺、発信機や盗聴器とか見つけられるんだ。これってちょっとした特技だよね」
「特技どころかビックリ人間よ、それ」
どこかズレた天然じみたジェネヴァにスン、とシェリーの感情が落ち着く。近づけばそういう類の機器は分かる、と言われ何を感知しているのか少し気になってしまう。第六感、とか非科学的な分野の話なのかしら。
シェリーが思考を飛ばしていると、スポッと頭が重くなり、視界が少し暗くなる。これって、フルフェイスのヘルメットなのでは?
「――デート、しようか。シェリー」
「は?」
突然の提案に返す声が低くなったのは仕方ないと思う。突然何よ。
ジェネヴァの視線がシェリーの背後に投げられる。ああ、そういえば居たわね。嫌な人が。衝撃のあまりその存在を一瞬忘れていた。
多分、ジェネヴァはこのままシェリーを一人にしたくないのだろう。かといって、元凶たる人間の抹消を止められてしまって。それが故の苦肉の策とか?いやでも、この人って案外愉快犯的な思考もしているのよね……。まあ悪意度は悪戯小僧ぐらいの他愛なさだけど。
悩んでいても仕方ない。一人になりたくないのはシェリーも同じだ。
「……いいわよ」
「ん。じゃあ後ろ乗って」
「え、ええ」
ジェネヴァの後ろに跨りながらシェリーはふと思い至った。でーと。デート、と言ったわよね?ジェネヴァは。――私、初めてなんだけれど。デート。
「もう少ししっかり掴まらないと落ちるよ、シェリー」
「きゃっ」
ぼんやりしていた所に両腕をジェネヴァに掴まれ、そのまま彼の腹の前に手をまわすように誘導される。恐る恐る彼の服の裾を掴んでいたのがいけなかったようだ。
結果、思い切りジェネヴァの背中に顔を突っ込む事になり、二人の距離はゼロとなる。ピタリとくっついた背の思わぬ頼もしさに、シェリーはもうしばらく頬の熱が引かない事を悟った。
バイクは軽快にスピードを増し、あっという間にシェリーのストーカーを置いていく。
※※
休憩、と隣町の小さな喫茶店に入ったジェネヴァにシェリーは身構えた。根掘り葉掘り聞かれる事を覚悟して。
だというのに。
「ね、どこ行きたい?まだ時間一杯あるし、割と何処でも行けるよ?」
「…………」
言葉を失うとはこの事だと思う。
軽い調子で尋ねてくるジェネヴァは邪気のない様子だ。若干顔色は悪いかもしれない。白というより青白い。それでもいつも通りのままなのは、ジェネヴァの気遣いなのかもしれない。遠慮しては逆にジェネヴァに悪いだろう。この場合。
ふと、姉の言葉が脳裏を掠める。
素敵な、恋。それは無理かもしれないけれど、ジェネヴァとなら。目の前のシェリーの優しい友ならばその真似事ぐらいなら出来るだろう。彼も許してくれるだろうし、何よりこれが最初で最後かもしれない。
なんの思惑もなく、シェリーの我儘をきいてくれる、なんて。
デートの定番と言えば……。
「…………ゆうえんち」
「了解。そういえば、遊園地行った事あるの?」
ぽつり、と零れたシェリーの呟きをジェネヴァは拾ってくれた。
「ないわね……」
改めて考えれば、遊園地で遊ぶなんて子どもらしい幼少期を過ごした覚えはない。ずっと両親のあとを追い続ける半生だった。
「俺も多分ない、かな?」
「なんでそこで自信をなくすのよ?――記憶に自信をなくすには若すぎるんじゃない?」
「――だよね」
ジェネヴァの語尾に疑問符が浮かぶ。それに揶揄いを含めてツッコミを入れれば、肩をすくめて軽い同意が返ってきた。
「本当に子どもの頃。――憧れたわ。優しい両親に、大好きな姉と一緒に遊園地に連れて行ってもらう。そんな幸福の記憶を」
随分懐かしい記憶。もうその頃の夢見る少女ではなくなってしまったけれど。
「……本当に俺と、でいいの?他に相応しい人、いるんじゃない?」
ほら、あのお人よしのお姉さんとかさ。注文したコーヒーを飲みながら問われる。自分の前に置かれた紅茶のカップに視線を落とす。茶色の水面にはいつも通りのシェリーが映っていた。
でも相応しい人、ね。思わずくすり、と笑みが零れる。ああ、彼のこういうところが嫌いになれないのだ。いくら先程みたいな怖い面を見てもなお。
「あら?てっきり私、楽しませてくれると思ったのに。もう降参してしまうの?――デートに誘ってくれたんだもの。もう少し、自分に自信を持ってもいいんじゃない?」
だって、私貴方の誘いに承諾したのよ?それで後悔すると思う?見くびらないで欲しいわ。
「!」
「なーんて、ね。さ、もう少ししたら行きましょうか」
「うん。――ねえ、シェリー」
流石に気取り過ぎた台詞だ、シェリーは恥ずかしさを誤魔化すように手に持ったカップを傾ける。
頷いたジェネヴァは珍しく頬を緩めた様子で。
「アンタ、かっこいい女だね」
「ごほっ」
人が飲んでいるのに爆弾をぶち込む姿勢は辞めてほしい。シェリーは紅茶をむせながら思ったのだった。
※
着いた先はトロピカルランド、という遊園地だった。なんでも東都で最近出来たばかりの遊園地で、中々人気が高い場所らしい。
中世ヨーロッパの街並みを再現したような、絵本の中のファンタジー世界をそのまま具現化したような建物が立ち並ぶ。建物の壁の色合いが柔らかなカラフルさがあって可愛らしい。やっぱりここは子ども達の夢を再現した国、なのだろう。
チケットをとって、入場した頃にはもう午前九時を過ぎていた。それでも運のいい方なのだろう。目の前の行列にシェリーは思った。
人々の賑わいに、浮かれた活気に、そして気の抜けるような温かなやり取りにシェリーは別世界に迷い込んだような感覚を味わう。あまりに普段との差がありすぎたのだ。
隣に居るジェネヴァはどうなのだろう?視線をむければ、眩しそうに、遠い場所を眺めるようにぼんやりした様子だった。
それも瞬きの間だけの話だった。
「シェリー。行こうか」
「え」
するり、となんの躊躇いもなく、右手に彼の左手が絡まる。ぎゅっと柔らかな力で握られた手は心地よい温もりだけを伝えてきた。
「まずは定番から行こうか。――ジェットコースターとかどう?」
「え、ええ。でも、ジェネヴァ。手……」
「それよりも、先に――」
ジェネヴァからの提案なんて頭に入っていかない。彼の温もりが強く感じる右手に集中しすぎて、訳が分からなくなりそうだ。
グッと軽く手を引かれ、方向転換がされる。
「やば……あの髪型、間違いない。探偵君達じゃん。――恨むぜ、かみさま」
「ちょっと、しんいちー!! おそいわよ!」
「だからわりーって言ってんだろ」
ぼそっと呟かれた言葉はこの耳に届く前に後ろから聞こえるカップルの騒ぎ声に消される。何?とジェネヴァに視線を投げれば、返ってくるのは曖昧な頷きだ。
「いや、うん。まず必要な道具あるんだよ。こういう場所って」
「は?」
「作法だよ作法。いや様式美ってやつ?」
「?」
ジェネヴァの言葉は要領が得ないものだった。珍しい。彼は結構はっきり言うタイプだというのに。
手を引かれて着いた先は遊園地内のショップ。グッズとか売っている、お土産屋さん、と言えばいいのだろうか。
カラフルな品物を物色するジェネヴァは実に手際よく選んでいく。でも、そのセレクトってもしや……。
思い浮かんだ可能性に思わずじとり、と半目になる。
「ちょっと」
「うん?」
「それ、正気なの?」
「至って真面目だけど?」
思わず冗談でしょ?という響きで確認をとれば返ってきたのはまさかの頷き。つまり肯定だ。
彼の持つショップのかごの中にはこのトロピカルランドのキャラを彩ったサングラス、カチューシャ。それぞれ二点ずつ。つまり、私と彼でお揃いって奴をやるらしい。お互いキャラじゃないでしょうに。
分かっていないなぁ、シェリー。呆れたようにわざとらしくジェネヴァは肩をすくめる。イラっとする。
「こういう時にしか出来ないからやる価値があるんじゃないか」
「はぁ?」
「インパクトがあって思い出すのに苦労しなさそうだろ?」
初デート記念に、さ。
悪気なんて一切ないジェネヴァの言葉にぐぬ、と言い返す言葉が詰まる。
「ズルい。ここでそれを持ち出すなんて卑怯よ」
まるで、ずっと覚えていたい。そう言われているように聞こえてしまう。
でも仕方ない。今日一日はそうする、と決めたのはシェリーもだ。
「……仕方ないわね。今日だけよ?」
「ありがとう」
それに、ジェネヴァの容姿は良くも悪くも人目を惹きつける。浮かれた格好で、多少まぎれるならば、仕方ないと思おう。まあ、シェリーも大概だという自覚もある訳で。
※
サングラスとカチューシャを付けて、色々と遊ぶのは楽しかった。ここでは黒の組織のシェリー、ではなくただの宮野志保になれたように思えて。それに隣にいる彼も組織のコードネーム、ジェネヴァではなくただの少年でいてくれた気がした。
意外とシェリーがジェットコースター等の絶叫系が平気なこと。
ジェネヴァが謎のプロ視点でお化け屋敷の脅かし方に点数をつけていたり。
二人で見たパレードの光景の楽しいこと。
お昼に共に食べたここの目玉のプレート料理のボリュームに驚いたり。
トロピカルランドの中心の城の中から見たこの夢の国の様子がまさに光の世界そのものに見えたこと。
他にも色々な発見があった。姉の言っていた、恋の美しさも多分こんな日々の中で見える美しさなのだろう。
でも。夢はいつか覚めなくてはいけない。サングラスとカチューシャが外される。
さあ帰ろう、と今日ほとんど繋がれていた右手が解かれた。あ、と間抜けな声がこの口から零れる。
「シェリー?」
「――皮肉なものね。私、今日だけで沢山の夢を叶えた気になっていたけれど、いざ覚めるとなると惜しくなる。だなんて」
辺りはもう夕暮れに近い。逆光で輪郭が危ういジェネヴァについ、本音が零れた。まだ、夢の中で居られる気がした。この黄昏時の曖昧さならば、許されるのではないか、と。
「……大丈夫。夢は覚める。けどさ、人間って奴は夢を現実に変えてしまう凄い奴なんだぜ?」
「!」
それは。貴方が変えてくれるのだろうか。ジェネヴァがシェリーの抱く淡い夢を。ともに。
「ま、次はその夢を現実に変えられる凄い奴がアンタの夢を叶えてくれるさ」
「ッ、貴方が!」
咄嗟に声が、言葉がついて出る。そんな、他人事みたいに言わないで。
「次も貴方がいいわ。あなた、じゃないといみがないのよ」
ああ、情けない。次第に震えてしまう声に、もっと涙があふれてしまいそう。おかしいわ、そんなに涙脆い訳ではないのに。感情がここまで昂ぶると悲しくなくても涙が出るなんて初めて知った。
「シェリー?」
何よ、そんな意外そうな顔をしちゃって。首を傾げるジェネヴァに更に感情が昂ぶる。理解してもらえない悲しさと、突き放された怒りで、喉から出る言葉が止められない。
「だって、あなたじゃない。今日いっしょにたのしんだのは。そうでしょう?――分かりなさいよッ」
手を伸ばして目の前のジェネヴァの胸を握りこぶしで叩く。ドン、とシェリーの力いっぱいで叩いても揺るがない。そうだ、意外と鍛えているんだ彼は。朝、やむを得ず腰に抱き着いた時に知った事実。
「――怖くないの?」
ぽつり。迷子みたいな、そんな声で問われた。どんな顔をしていたかはシェリーは知らない。俯いていて、彼の顔を見られなかったから。
けれど。
「今更、よ。そんなの」
そう。確かにジェネヴァの怖い一面は怖い。けれど、シェリーは知ってしまった。彼に人の心がある事を。人並み以上の優しさと、暴力を留まる事が出来る理性を。
それにシェリーと同じような孤独を知っている、という事も。
だから、怖いというよりはほっておけない、というのが正しい。
「大体、怖いなら朝の時点でとっくに逃げているわよ」
「そっか」
シェリーがそうぼやけば、ホッと安堵したような呟きが返ってくる。
「じゃあ、精進する。次、アンタとデートする時今日以上の思い出になるように」
「そうして頂戴」
※
帰り道、行きと同じようにジェネヴァの後ろに跨り、バイクで東都を疾走する。
「いいかもね」
「何が」
ぼそっと呟いたシェリーの呟きはやはりジェネヴァに拾われる。この暴風の中の地獄耳に感心するやら、いっそ呆れるやら。
「バイクの免許よ。このバイク、ハーレーでしょう?」
ハーレーダビッドソン。かの有名なバイクメーカーだ。このバイクはツーリングに適した型番らしい。
「らしいね。――免許取るの?シェリー」
「ええ。そしたら後ろに乗せてもいいわよ?ジェネヴァ」
「ワーカッコイイナー」
「なんで片言なのよ、ちょっと」
投げやりな片言に抱きしめている腕の力を強める。
「やめてほんと勘弁して。おれころされる」
「だれが殺すのよ。だれが」
急にめそめそしだしたジェネヴァに思わず呆れる。これくらいなんてことないでしょうに。そも、組織の中でも腕利きの部類だろうに、ジェネヴァは。
「……シェリーガチ勢って奴がいるんだよ、まじで」
「はぁ?」
がちぜい?なにそれ。
後日、シェリーの住居が引っ越しになったりして、それをジェネヴァが手伝ったりと忙しい日々は続いていった。過保護ね、なんて思わずこぼせば、足りないくらいだよとの言葉が返ってきて笑ってしまった。
補足事項:
冒頭のストーカーについて:実は組織の人間。シェリーに一目ぼれをして付き纏うようになる。付き合えよ、的な。勿論シェリーさんは拒否。それでもなお食い下がり、暴力まで振るいそうになっていたので冒頭ではシェリーさんは超早朝出勤を決行した。まあ一晩中待ち伏せするイカレ野郎だったので、無駄だったわけだけど。
ジェネヴァ君が都合よく駆け付けた訳:深夜の任務で帰り道だっただけ。別にシェリーさんに盗聴器とか仕掛けていない。個人のプライバシーは守るべき派。顔色が悪かったのは、単に寝不足故。ジェネヴァはこの日一日非番だった。勿論シェリーの研究施設には休日になるように手を回している。有給?いやいやこの日は元々休みだったんだよ(威圧)。
ストーカーの今後:ジェネヴァ君に速やかにトラウマ(物理)を植え付けられた模様。「白い悪魔が、人形が、おお恐ろしい!!(発狂)」ガクブル。ぐらいな感じ。ジェネヴァ君はそこら辺容赦はない。「滅びろロリコン(げきおこ)」
またジェネヴァ君に物騒な噂が追加される。マッチポンプ。
という裏話。ジェネヴァ君視点で明らかにさせるつもりだったので、こんな感じに。蛇足感が否めなかったのでジェネヴァ君視点はまるっと没にしました。うん。
ちなみにジェネヴァの言う
シェリーガチ勢:明美さん、ライ(アニメや原作のイメージ)、ジンニキ(アニメと原作のイメージ)
ここでは
シェリーにとって、宮野志保にとって、彼は初恋になるので、結構忙しいです。
まだ彼女は恋を認めないし、認めた先にある結末を見たくないのでもだもだ。
次回は赤井さん回を書ければなぁ、と思います。今二、三割ですかね、進捗度。ではでは。