fate/stay night_Short long days   作:のんべんだらり

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■Phlox paniculata

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1

 

かくして、半人前と血統ある魔術師、そして居合わせの一般人が揃った。

 

七人目のマスターの隣には弓兵を一閃した剣兵が甲冑を脱ぐこともせず陣取っている。平和ボケしたマスターとは違い、警戒を怠らずにいる厳しい眼光はまさしく歴戦を生きた英雄のものだ。

人智では抗い得ない圧倒的な迫力は意思に関係なく凛の身体を歓喜に震わせる。

これぞ、間違いなく待ち望んでいた聖杯戦争の狼煙(のろし)

 

と、ここまではいい。

たとえ最後のマスターがショバ代未納のはぐれ魔術師の弟子で、簡単なガラスの復元さえもできないお粗末な半人前だろうとも、令呪とサーヴァントを得たということは聖杯に選ばれたということだ。文句はあるが、殺しあう相手に言うべきではないと凛は判断する。

 

「――で、どうしてあなたがいるの?」

 

問題は――そう。凛と士郎の中央でのほほんとお茶を(すす)っている神城顕悟の存在である。

 

「衛宮の家に居候してるんだ。昨日、言わなかったっけ」

 

――言ってはいないが、偵察兵から聞いている。

盗み聞きを白状するわけにもいかず、凛はダンッとテーブルを叩いた。

 

「キャスターと一緒にいる理由を聞いてるのよ!」

「……なんで遠坂怒ってるの?」

 

これだからお花畑頭は……ッ、と青筋を浮かべた凛はすぐさま正気になり、「常に優雅、常に優雅」と自己暗示をかける。沸騰剤にしかならない男を視界から締め出した。

出会いがしらに殴った手前、渋々ながら唱えた凛の不得意な治癒魔法では彼の頭の回転速度まで上げることはできなかったようだ。令呪もない一般人がサーヴァントと肩を並べている異常は、戦闘を二度経験しただからこそ納得がいく問題ではない。

 

(喚び出した魔術師が別にいる……いや、いたと言うべきね)

 

鼻息は荒くとも魔術師の頭脳が冷静に思考する。

既に現存しているサーヴァントならば一般人でもマスターになる方法は案外簡単だ。ましてやキャスターのサーヴァント、抜け道の一つや二つ知っていても不思議ではない。

問題が生じるのは契約後である。魔術の家系で無数の魔力回路を持つ凛とは違い、サーヴァントを維持する魔力を保有していないマスターでは、外部からそれを補わなければならない。つまりは、ないものはあるところから持って来ればいいという物理論理。

 

「あー……話の途中で悪いんだけどさ。神城もその、マスターなのか?」

 

かわるがわるお茶を()ぎ足してまわっていた士郎に視線が集まる。

 

「俺、変な事聞いたか……?」

「……はぁ」

 

その場を代表してこぼれた溜息に顔を向けかけた注目の的は、それがキャスターだと知るや慌てて逸らされた。

セイバーの抗議によって改ざん記憶を元に戻された純情少年にとって、美女の素肌を見た夜がつい今しがたのようにフラッシュバックしてしまったのは甲乙付けがたい誤算であった。が、それは士郎のみの秘密である。

 

「てっきり衛宮くんも気づいた上で黙ってるのかと思ってたけど……あなた、本当に半人前なのね」

「む」

 

仕方がないわね、とあからさまに見せつけられ、不満そうな士郎がとり残される。

 

「神城くんはマスターじゃないわ。魔力を持っている一般人もいるけれど、彼からはそれすら感じない。……無関係ではないでしょうけど?」

 

疑惑をかけられていることすら気づいていない平和な顔を凛は睨み付けた。

その横で、これまた他人事のように静観している幼い子供を見遣る。

 

「単刀直入に聞くけど、その姿のために何人を手に掛けたの?」

「さあ、どうだったかしら。覚えていないわ」

 

真っ向からの仕掛けに、薄青の魔女は興味のなさ気にさらりと答えた。

片方は負傷中とはいえ、サーヴァント2体に挟まれた状況でとぼける余裕は流石だ。

 

「そうね。でも、人間を害してはいないわよ」

「……嘘じゃないでしょうね?」

「わざわざ(うそぶく)くのも面倒ですもの」

 

他人の生命力を摂取していれば、魔力に淀みができる。弱体化しているキャスターからそれらが感じられないのは見抜きつつ、凛がカマをかけた理由は別にあった。

 

(……このボケ男が人様の生命力を摂取させるような真似、見過ごすわけないか)

 

疑うことすらバカバカしいと一刀両断した。

ならばどうやって土筆ん坊はサーヴァントを現存させているのか――。つらつらと考えて、とある供給方法に思い当たった凛の耳が赤く染まる。

 

「ちょっとそこの耳年増なお嬢ちゃん?貴女が想像するような魔力収集もしてないわ。安心なさいな」

「言われなくとも、可能性を考えていただけよ」

「あら、そう?」

 

すぐさま、己の切り替えしが失敗したと悟った。くすくす笑う上品な声が蒸気した頬を逆撫でする。

魔術師2人の会話に口を挟めずにいた半人前と一般人は顔を見合わせる。

そんな中、硬い表情を崩さぬ少女が空気を引き締めた。

 

「――膨大な魔力を必要とするキャスターが何もしないなどと到底信じられません。子供の姿とはいえ、マスターの記憶操作をした前科もある」

「そうだな、あれは驚いた」

 

しきりに同意しつつ些細(ささい)改竄(かいざん)の体験者は、ヤカンに呼ばれて台所に消えていく。目を合わせた瞬間、切り伏せられる幻視を見せる殺気からの素早い離脱だった。

 

(……逃げたわね、衛宮くん)

 

暴れ出す寸前である獅子の手綱を放り出した持ち主に、凛は冷ややかな目を向けた。

 

「何と言われようと私がマスター不在で現存していることは事実。それとも、最良のサーヴァントクラスはこうして生かすも殺すも一瞬の姿を(さら)す理由を直接説明しなければならないような鈍い頭脳なのかしら?」

 

肌が痺れるほどの威圧を軽くいなすキャスターもまた子供の風貌とはいえ英霊の一人。

それに、と幼き魔女は微笑む。

 

「魔術師のルールに乗っ取れば等価交換でしょう?貴女のマスターは相応のものを持っているのかしらね」

「ふん、それくらい我がマスターならば――」

 

縋るように戻ってきた士郎をセイバーは見上げる。

 

「ん?うちには高価なものないぞ」

 

期待も空しく、士郎が手にしているのは急須のみ。

 

「確かに、現状の理解で手いっぱいの衛宮くんには何もないわね。というか、既に借金状態だもの」

 

そもそもキャスターの助けを借りて、召喚されたセイバーとしては文句を言う立場でもない。

口戦で敗北を記した剣兵は崩れ落ちる間際にすっと湯呑みを差し出すことを忘れない。

 

「でも、衛宮くんにはなくても私にはあるわ」

 

魔女の興味が、憮然としたセイバーから凛へと移る。

 

「……そうね。貴女には条件をつけさせてもらおうかしら」

「いいわ、聞こうじゃない」

 

含まれた愉悦を感じ取った現代の魔術師が促す。

 

「――私をサーヴァントにする気はないかしら?」

 

ある程度キャスターの状態を見て予想していた提案に、凛は僅かに焦りを感じた。

敢えて直球でくるなんて流石古代の魔女、腹の探り合いに長けている。

 

「契約をしてもらえるなら、そこの坊やを含めてすべて話しましょう」

「……そっちの要求は?」

「ふふ。サーヴァントが望むことは一つでしょう?そちらの白髪の彼と貴女がどうしても叶えたい願いがあるというのなら話はおしまいね」

 

凛はふむと唸った。

キャスターの考えは読みきれないが、凛の相棒はセイバーに一閃されたおかげで全力では戦えない。ならば、少なからずメリットはある。否、虚勢は止めよう。メリットしかない、まさしく棚から牡丹餅である。

アーチャーの傷さえ回復すれば、近距離戦闘もそこそこできる前衛(アーチャー)後衛(キャスター)で陣営は不動のものになるだろう。後衛2札でもいい。

悩むべき選択ではない。故に、凛は慎重になっていた。

 

(――どう思う、アーチャー?)

(あまりにも出来過ぎているな。……だが、傍にいる少年を操ってはいないようだ。発言の大筋は事実だろう)

(それだけキャスターは切羽詰まってるってことよね、微塵も出さないけど。……一度断って出方を見るってのもありかな)

 

聞こえは真っ当な慎重論だが、主の性格を初日に嫌というほど染み込ませた弓兵にはわかった。主はからかわれた仕返しを企んでいる、と。

だが、何事も上には上がいるというもの。悪戯心を見抜いたキャスターが凛の天秤を大きく揺らす。

 

「それから、こちらに回す魔力は彼の半分――いえ、三分の一で結構よ」

「なん、ですって……!」

 

括目(かつもく)するのも無理はない。

時計台(ロンドン)に進路が一択の凛にしてみれば、現代の魔法使いクラスに値する稀代魔術師に学べるなんて喉から手が出るほどのビッグチャンスだ。()()の切り札として破格である。

条件としてこの万年草を保護する必要はあるのだけれど……、と独り()ちたキャスターの疲れた笑みは、瞳を$通貨で計算中の凛には届かない。

口を挟むべき彼女の従者は見えた結果に溜息をつき、もう一人は遠坂がマスターならば全く問題ないとお茶で息をつく。

蚊帳の外に置かれたきりの士郎は給仕に徹し、セイバーは黙している。

そうして、瞳の回転が止まった。

 

「――おっけー、その話乗るわ」

「持ちかけておいてなんだけど……わかりやすいわね、貴女」

「チャンスは逃さない、それが常勝の秘訣だもの。拾いものがキャスターなら申し分ないわ」

 

一人暮らしが長く金銭的に苦労していた身にとって、真名は聞いてはいなくともキャスタークラスは言わばダイアモンド級。みすみす捨てるなんて愚策を選べはしないのだ。

軽はずみだとなじるならば、凛を節制生活に漬け込ませた遠坂の遺伝と兄弟子にこそ、責任があるというもの。

 

(ってわけで監視は任せるわよ、アーチャー。どーせ、回復中で暇でしょ?)

(……キミは一言多く言わずにはいられないのかね)

 

簡単な打ち合わせを済ませ、詰めていた緊張を吐き出す凛にキャスターの笑みが深くなる。

 

「それじゃ、さっさと済ませちゃいましょうか。この後の予定も詰まってることだし」

 

決めたらすぐ行動をモットーとする優等生は、学校で見ない溌剌(はつらつ)とした表情で立ち上がる。

 

「……予定?」

「お風呂掃除のことかな?」

 

おうむ返しに尋ねた士郎はともかく、合いの手を打つような天然発言を凛は無視する。

キャスターから聞き出す魔術リストを構築させている上機嫌な彼女はそんなことくらいで心をささくれ立たせはしないのだ。

 

「今の衛宮くんに必要なのは情報でしょ。セカンドオーナーとして、聖杯戦争の管理者のところに案内してあげるわ。それで命を救ってもらった借りはなしだから」

「あ、ああ……」

 

笑顔の眩しさに目をやられた士郎の頭上にある時計は、23時を回っている。

聖杯戦争の開戦から立て続けに魔力のぶつかり合いがあったのだ。まだ起きているはずと凛はいけ好かない管理者を思い浮かべる。寝ていたとしても叩き起こせばいい。

契約の準備をしながら、赤い悪魔は隠しきれない喜びを漏らしていた。

 

 

 

 

2

 

 

日本では珍しい土葬形式の墓地をもつ言峰教会は、寺にとって鬼門であった。育てられた環境による宗派の違いもあり、顕悟にしても用事がない限り近寄りたくない場所だ。

 

ともあれ。個人のわだかまりは捨て置き、マスターに間違われたままランサーに殺されても目覚めが悪いと夜の散歩に同行させられた顕悟は、凛と士郎に数歩遅れて真夜中の教会に足を踏み入れた。

 

「綺礼、いるんでしょ?最後のマスターを連れてきたわよ」

 

無人の礼拝堂に凛の声が反響する。

初めて入った教会は荘厳と言うより、不気味だった。時間帯がそう感じされるのかもしれないが、顕悟は珍しく嫌悪に近い感情を抱く。ここには長くいたくない。

それは士郎も同じく、難しい顔をして落ち着きなく辺りを見回していた。

 

「ちょっと、大丈夫?具合悪そうだけど」

「……うーん、なんか胃のあたりがぐるぐるする。衛宮は?」

「全身、針に刺されてる感じだ」

「ふーん、ここも冬木の霊場の一つだし、初めて来た人にとってはそんな感じなのかもね」

 

神父を親しげに呼ぶ凛はグロッキーな男連中を置いて、月明かりだけを頼りに勝手知ったる礼拝堂をすいすいと歩いていく。

 

「夜目が利くなんて、猫みたいだね」

「慣れてくれば結構見えるぞ?」

 

士郎の助言をもってしても、膝をあちこちの椅子にぶつけている顕悟では到底追いつくことはない凛は最前席の手前で足を止めた。

 

「こんな夜更けに訪問するとは、礼儀のない妹弟子だな。何用だ、凛」

 

長身の無表情の神父がいつの間にか、台座に立っていた。

 

「うっさい。セカンドオーナーとしての仕事よ」

「いつから子守を引き受けるようになった。転職祝いは必要か?」

「いいから、さっさと聖杯戦争の説明してやって。それが役目でしょ」

 

凛から顔をしかめていた士郎を見た際に僅かに頬を動かした言峰は、その後ろにひょろりとした土筆を見定める。

 

「それはいいが、どちらがそのマスターなのだ。保護にしても、わざわざ消す記憶を増やすなど非効率だと思うが?」

「あっと、そうよね。神城くん、悪いんだけど」

「うん、終わるまで外にいるよ。頑張ってね、衛宮」

「お、おう」

 

がたいのいい神父の登場に怖気づいてた士郎の肩を叩き、顕悟は足取り軽く扉へ向かう。

 

「――ちょっと待ちなさい」

 

そのまま戻る気のない背中を、凛は見逃さない。

 

「あなた、保護受ける気ないの?何のためにここに連れて来たと思ってるのよ」

「記憶を消して安全に生活するためだと思ってたけど違うの?」

「……そうよ」

 

彼女から耐えるような硬さを感じ、顕悟は眉尻を下げた。それはやんわりと拒絶を示していた。

 

「――少年、キミは自殺願望でもあるのか」

 

真意を理解できずにいる()()に、言峰は口端を吊り上げる。

それが褒め言葉だとわかるのは、まどろっこしい皮肉と長い付き合いの凛くらいだろう。

 

「あのね、神城くん。一般人のあなたが魔術を知ったまま生きるのは苦痛しかない。聖杯のあるこの土地は監視もついているし、もし秘匿に厳しい機関に見つかれば命を狙われるわ」

「それは困るなぁ。冬木から離れる気はないし」

 

深くに根ざした土筆は、易々と動けるものではない。

いつまで経っても軽い調子に反して、凛の声に力がこもっていく。

 

「離れる離れないの問題じゃないのよ、殺されたら意味ないじゃない」

「でも僕が忘れたって遠坂や衛宮たちはこの先も続く。何度忘れたってきっとまた魔術と出会うよ。それに衛宮の家追い出されたら僕、帰る家ないし」

「そんなの、柳洞寺が――」

 

ハッとして凛は口を噤む。

寺が五本指に入る霊場でのほほんと生活していて巻き込まれない確率の方が低い。

結局はどこも彼にとってリスクは同じだ。それほどまでに聖杯戦争の渦中に潜り込んでしまった稀有な男。そして不幸なことに、彼はその覚悟をとうに終えていた。凛や外野が忠告したところで、聞く耳はとっくに切り捨てている。

 

「というわけで、保護は辞退します」

 

傍観していた言峰は見出した歪にほう、と感嘆でのどを鳴した。

 

「――じゃ、僕は出てるね」

 

古びた扉がギィと鳴きながら、閉じていく。

まるで断末魔のような悲鳴のようだと、誰かが呟いた。

 

 

 

 

 

ぶらりと教会を後にした土筆ん坊が敷地に放置されていたベンチに腰掛けてから、しばらく。

 

「遠坂と衛宮、なかなか来ないね」

 

傍目から見れば街灯に照らされている影は一人分。丑三つ時に近い時間帯、誰もいない教会で独り言を呟くイタい不審人物となっていた。

 

「教会なのに花がないなんてあるまじき。ハッピー感が足りないのはそのせいだ」

 

とはいえ昼間であっても何にもないさびしい雰囲気は変わらないだろう。

遮蔽《しゃへい》物がないせいで、丘を下ったところにある墓地の十字架が遠めに映る。寧ろ、薄暗い夜が本来の顔とばかりに生きた空間に視えた。

 

「その辺、どう思う?」

 

と、明滅を定期的に繰り返す外灯は投げられた話題についに根を上げた。

 

「……やはり、見えているか」

 

寄り掛かるようにして眉を寄せていた姿なき声(アーチャー)が、答える。

 

「なるほど。魔眼の類ですか、ならばキャスターが手放さないのも頷ける」

 

今度は、教会に顕悟たちを見送ったままの姿勢でいる(セイバー)が木霊した。

 

「キャスターが言うには魔眼ほど強力じゃないみたいだけどね。霊視、に近いのかな。もしかして、確かめるために2人とも黙ってたの?」

「素直に聞いてまともな答えがあるとは思えなかったのでな」

「はぐらかされるだろうと推測してました。キャスターがあの態度でしたので」

 

聖杯戦争の管理者であるならば危険もない、と双方口を揃えて建物の外で霊体化して待機していたアーチャーとセイバーだが、当初一方的に話しかけてくる一般人の扱いに戸惑っていた。

キャスターの関係者である以上、警戒を怠ることなく観察していたそれぞれのサーヴァントの疑心は徒労に終わるとも知らず、人畜無害相手にありもしない秘密を探っていたのだ。

 

「えっと……ご苦労さま?」

 

逆効果を与える(ねぎら)いに、剣と弓は息をついた。

片方は、いないはずの存在を、片方は態度に虚偽がないかを警戒していたのだが、意識しても疲れるだけだと割り切ることにした。

 

「他にも気になることあれば答えるよ?」

「キャスターのいない間が、好機というわけですね」

「というより、キャスターを助けてくれたキミ達に隠す必要もないし」

「――――」

 

聖杯によって選ばれただけの偶然。期間限定の過去(サーヴァント)に対して信頼を寄せ、見返りなく尽くす人間に絶句する。

 

「アーチャーはともかく、敵対する可能性のある段階で早計だと思いますが?」

「じゃあ、ランサーを追い払ってくれたお礼」

 

セイバーは若干、コレと一緒に生活していたというキャスターを見直した。

 

「ふっ、言い包められては英霊も形無しだな」

「その英霊に瞬く間に伏したのはどなたですか」

「剣の撃ち合いで弓が勝っては立つ瀬があるまい」

「……ほう。それは再戦の申し入れですか」

「怪我人相手に振るうのが、キミの剣かね?」

 

徐々に険悪になっていく雰囲気だが、あくまでも声のみ。

唯一の見物人は仲のよさに口を挟むのも野暮(やぼ)とし、音声の応酬(おうしゅう)は士郎たちが戻るまで続いた。

 

 

 

 

3

 

 

士郎が参加の決意表明し、それぞれの誤解も解け、帰り道は和やかな空気となっていた。

それが一変したのは、T字路に差し掛かったときのことだ。

 

「それじゃ、ここまでね。明日からは自力で頑張りなさい」

「ああ、ありがとう。遠坂」

「帰り、気をつけてね」

 

挨拶を済ませ、ちょっぴり逞しくなった士郎についていこうとした顕悟の身体がつんのめる。

 

「アンタはこっちよ」

「え」

 

くい、と凛が顎で指す道は衛宮家ではなく、学校の方角。遠坂邸に分岐する進路である。

全て話す事情の中に含まれてるのを忘れたわけじゃないでしょうね?と念押しされて、顕悟は反射的に頷いた。

 

「キャスターはもらっちゃったんだし、アンタだけ放り出すわけにはいかないの。ったく、素直に保護されていればよかったのにとんだオマケよ」

「いやいや待とうよ、遠坂。深呼吸」

「そ、そそそうだぞっ!落ち着いて考える選択だと思うぞ!」

「まずは衛宮くんが落ち着きなさい。……大げさね。部屋は余ってるし、家賃さえ払ってくれれば問題ないわ」

 

 

確かにキャスターと同居していた土筆ん坊なら間違いも起きなければ、実質他二名も同じ屋根の下にいるのだから凛の発言に無理はない。が、凛と顕悟は同級生であり、かつ、士郎の憧れの相手であるからして。歳相応の問題が大有りだった。

 

「一つ質問があるんだけど」

「なによオマケ」

「……支払いは月末でいい?」

「おおい、神城!?」

 

そうじゃないだろ、と叫ぶ士郎にようやく合点がいったと顕悟が振り向く。

 

「大丈夫。三日分の宿代は衛宮にも払うつもりだから」

「それは有難い――じゃなくてだなっ」

 

太刀打ちできる正当な理由もなく、士郎は言葉に詰まる。抵抗する己の原因を自覚しているが、告げるにはまだ不確かで形にならない。

だが今宵は正義の味方(えみやしろう)の願いが叶う、始まりの日。

歩き出しかけた凛は動きを止め、捕捉されている顕悟もつられるままに、悶々と考え続ける士郎の背後を注視していた。

 

「――――ねぇ」

 

鈴を転がすような楽しみを押し隠した声が、街の音を消していく。

 

「お話しは終わった?」

 

深夜に似つかわしくない無邪気な子供に、2メートル以上ある巨漢が脇に控える。

 

「こんばんは、お兄ちゃん。また会ったね」

 

坂の上に、白い少女が英霊を従えて立ちふさがっていた。

 




草夾竹桃(クサキョウチクトウ)』 別名:花魁草(おいらんそう)
協調、合意、あなたの望みを受けます、同意、温和、一致


次回は戦闘かぁ……うーん
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