fate/stay night_Short long days   作:のんべんだらり

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魔女の契約。


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使い魔であるサーヴァントが現世に留まる方法は、幾通りか存在する。

 

まず一つ、人間の魂に含まれる生命力を吸引すること。

一般人に内包されているエーテル量は魔術師と比べて少ないため、肉体保持のためならともかく、戦闘を行うとなれば百人規模の数を必要とする。

人が一人死ねばで大げさに騒ぎ立てる現代社会では、殺さずに摂取しなければすぐに正義に燃える魔術師に足がついてしまう。

必要とする数も跳ね上がり立ち回りも大きくなり、得られる量は良くてイーブン、悪くてマイナスである。

 

二つ、魔力のこもったものから生命力を抽出すること。

血液や唾液など人の体液や女性の髪といった命の危険そのものはないが、取り分も少なくなる。

宝石や食物など魔力を含むものならなんでも構わない反面、貯蔵にバラつきがあるため、運頼みの難点をもつ。当初、キャスターがもち掛けたまぐわいや、土筆お手製の植物などはこれに該当する。

ほぼ毎日摂取しなければ追いつかないため、手軽に用意できるものが望ましい。

 

そして三つ。魔術回路を有する魔術師から供給を得ること。

聖杯戦争の補正があるとはいえ、使い魔として破格の英霊を保持するための魔力は全て魔術師が負担する。相応の鍛錬を積んでいなければ、召喚直後に意識を失う者もいれば身動き不能になる者もいる。

そのためリスクと勝利を秤にかけ、上記の方法を併用する魔術師もいる。

今回、キャスターと凛が結んだ契約も漏れることなくこの条件を満たしているわけであった。

 

 

 

「どう?状態は?ちゃんと繋がったと思うんだけど」

 

二体目を手に入れたホクホク顔は、捲り上げていた服を直す。

体調を崩す様子のない彼女はキャスターほどとは言わないまでも、参加しているマスターの最有力候補だけある。

 

「……ええ、問題ないわ」

 

神経を使う作業のためとはいえ、他の面子を容赦なく庭に追い出した凛とキャスターの相性は悪くない。主に性格的に。

己を喚び出した最初の魔術師に比べ、清純で潤いある生命力は申し分なく、ただ――気分が優れない。

理由はわかっていた。

穢れなき清らかな花は、ときとして罪だらけの魔女を毒す。

遠い昔、擦り切れた記憶の残像に映る悲劇の王女が儚げに微笑んだ。

それでも、国に追われた王女は――戻る場所などない。そう、変わらない後押しをする厄介な男から逃れるためにも踏み入れる。

 

「――この時よりこの身は、あなたの杖として仕えさせて頂きますわ、マスター」

 

二度目になる誓いは、思ったよりも高い声となった。

まだ恋も、愛も、男も、女も、魔術も、死も、裏切りも、醜さも知らなかった小娘のようで――

 

(……バカバカしい)

 

唐突に夢は醒めた。

幼い容姿のせいで、心まで引き摺られるようになっては末期である。

 

「堅苦しくなくていいわよ。さっきまでのふてぶてしさを見せられちゃ、むず痒いわ」

 

こちらが本来の素なのだが、真名をまだ知らぬ凛はきっぱりと断る。

内情を知られずに済んだのはいいが、お転婆マスターにため息が零れる。土筆男により広げられた包容力をもってすれば可愛いものに見えるから不思議である。

 

「それで、話してもらえる?――人払いした理由は気付いているんでしょ?」

 

ぺんぺん草や半人前ならいくら騙せようと、血統書つきの魔術師は契約に優れていれば同時に破棄の手段の知識も備えている。

土筆ん坊と出会う以前の説明を避けたキャスターの思惑に気づいた上で、新たなマスターは裏切りの因子を持つ魔女を敢えて抱え込んだ。そこには、キャスターではなく傍にいた人物への信頼があるのだろう。

先ほどの茶化すような雰囲気と打って変った凛に、キャスターは居住まいを正す。

 

「ご想像通り、私は召喚した魔術師を殺しています。そのことで釈明はありません。少しでも我が身が従うことに後悔があるのでしたら、契約の撤廃を」

「本気で言ってるなら侮りすぎだわ、キャスター」

 

強気な視線は微塵も揺らぎはしなかった。

ここで引くくらいなら最初から話に乗ることも、こうして話し合いの場をつくるなんて無駄を嫌う彼女が時間を割きはしない。

 

「――そう。それなら既に殺めた事実を知って尚、彼が協力していると気付いているのね」

「確証はなかった。けど、あなたが主人殺し(つみ)を自白したってことは、神城くんもそれを知っているから、でしょ。天然が傍にいて隠し通すためには、誰にも言わないことが一番安全だもの」

 

人の口には角を立てられない。己一人が抱えていなければならない秘密を話した時点で、隠す必要がそもそもないのだと、凛は的確に情報戦を心得ていた。

実戦は初めてにしては、心理の掌握に長けている。筋はいい、と弟子になるかもしれない主人(マスター)をキャスターは見定める。

 

「知ったところであのマイペースぶりなんだから、ある意味大した胆だわ。……いや、あのボンクラだし、考えなしってこともあり得るか」

「あるもんですか。そうみたいだね、なんて一言で終わらせたわよ彼」

 

苦労のしわ寄せを経験した者たちのため息が重なる。

その辺の雑草を見るように目を伏せた凛に対してキャスターは共感が芽生えた。

いくら目を離そうとも気付くとひょっこり顔を出す土筆ん坊は、相手の都合など無視する生き物なのだ。分別はあるが、すくすくと伸びやかに、周りに同調することを知らない独自のノロさが神城顕悟改め根無し草のあり方である。

漂う哀愁に似た諦めを振り払うように凛が顔を上げる。

 

「ともかく、おかげで同業者(まじゅつし)を信じる担保を確認できたわ」

 

イタズラの成功を喜ぶ不敵な面構えの所以であるキャスターは、なるほど、と相槌をうつ。

改めて、年若い魔術師の評価をキャスターは変更せざるをえないようだ。

本性を計るためにわざわざ護衛を外し、内容次第ではキャスターを庇うであろう土筆ん坊を遠ざけてまで神代の魔術師を試したわけである。

なんとも勇ましいお嬢さんだこと、と紅に光る唇が弧を描いた。

 

「……それで、結果はどうなのかしら?」

「ギリギリ合格ってところね。真名から技能まで根掘り葉掘り確認するのは、面倒事を片付てからでも遅くないって思うくらいには信用してるわ」

 

合理的な判断に首肯する。

だが、そもそも素人同然の士郎に世話を焼く事態そのものが合理性から嫌われた所業であるのでは、と懐疑していたキャスターの口は、意に反して頑として動かない。

まるで少年少女の関係が万年草と魔女に重なる、なんて幻覚が金縛りのように彼女の意思を断絶させていた。

 

「でもま、なんだかんだで毒されてるんだから、むしろキャスターも被害者よね」

 

そして、更に聞き捨てならない台詞が奈落に突き落とした。

ピシリと固まった幼い淑女に我が意を得た手ごたえを感じたいじめっ子は、どこ吹く風で待ちぼうけの面子に話が終わった旨をジェスチャーで伝えていた。

それはコートを首まで着込んだ長身の影を呼ぶように手招きしているように見えた。

 

「――さて、そろそろ行きましょうマスター」

「くくっ、そうね」

 

故にエルフの敏感な聴力は、少女の揶揄(やゆ)をばっさり消去した。

間の悪いことに、庭から縁側の戸口近くまでやってきていた彼のくしゃみが青髪から覗く彼女の耳を(くすぐ)る。

 

「そうそう、キャスター――」

「……なにかしら」

 

真っ赤なコートを羽織る背中越しの呼掛けに、従者は律儀に応じる。

冷やかしの類いならばすぐに霊体化できるように構えて。

 

「私がマスターである限り、()()無関係な人間への手出しは許さないから」

 

そこでようやく、魔女は主人(マスター)の本当の目的を悟った。

厄介な男を引き離そうとしていたのは、なにも自分だけではなかったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、一時間後には初仕事を任されていた。

霊体化しているとはいえ、幼き魔女が嘆きを隠さずにはいられないほどに事態は拗れていた。

 

(……確かに、これは厳しいわ)

 

だが、それを感じ取れたのは肉体を持たないサーヴァントのみ。属性に善をもつセイバーは勿論、白髪の皮肉男さえも入室を遠慮するほどに言峰教会の霊場は特殊といえた。

霊場に馴染んでいる赤い魔術師では気づかないほどに巧妙に隠された気配に、キャスターは自嘲した。

 

(案外、保護を断ったのは正解かもしれなくてよ、坊や)

 

つい今しがた外気を閉ざした扉は無言のまま。

この場に最も相応しくなかった人物の遠ざかる足音を追いかける聴覚に反応して、彼女の尖った耳が上下に跳ねるも、それを目視できる人物は出ていったばかりだ。

教会には、魔術師のみが残されている。

 

「では、始めよう。まず、君の名前を聞いておこう」

 

言峰綺礼と名乗った神父の興味は、既に七人目へ向かっていた。

 

「衛宮士郎だ」

 

関心がすぐさま、敵意に変わる。

どろりとした泥のような感覚は独特な教会の霊脈と似通っていた。

士郎の後ろに浮かんでいたからこそ、三日宿の縁しかないキャスターも気付けた微弱で明確な意思は殺気だけを感じたところで、首の後ろをさすっているだけの士郎と同じく、不快感を感じるに留まるだけであろう。

 

(……彼本人に聞いても仕方ないわね。気付いていないマスターは論外)

 

人間関係で苦労した生前であるからこそ、引っかかった程度の違和感を士郎が理解できるとも思えない。

思考よりも会話から情報を得る方が得策とした魔女は、以後口を慎む。

 

入れ代わるように衛宮、と小さな嘲りを神父は口ずさんだ。

 

「君はセイバーのマスターで間違いはないか?」

「それは違う。確かに俺はセイバーと契約したけど、聖杯戦争とかてんでわからない」

 

サーヴァントの戦闘に居合わせ、キャスターに睨まれるままにセイバーの召喚をしただけの彼は自宅では口に出来なかった本音を吐露した。

見物を決め込んだ六人目と透明の少女の眉が跳ね上がりそうになるが、まだ堪忍できるレベルだとして痙攣(けいれん)にとどめられる。

 

「なるほど、これは重症だな」

「でしょ?」

 

士郎の頭の中を覗いたキャスターを除き、頭を痛める事態であった。

 

「聖杯とはなにか、そこから説明せねばなるまい」

 

聖杯――聖者の血を受けたという杯。

響く言葉だけであれば、伝説や伝記が作り出した幻想として終わっていただろうソレは、数ある聖遺物の中でも最高位。手にしたものは奇跡を行うことができるというのが、喚ばれたサーヴァントに与えられる前知識であり、先祖から引き継ぐ冬木の魔術師の常識である。

繰り返して聞かせるように演技がかった語り部は続く。

 

「聖杯は自ら持つに相応しい人間を選び、戦わせ、ただ一人の持ち主を選定する。選ばれ、手に入れるために殺しあう降霊儀式――それが聖杯戦争」

「俺には戦う理由なんてない。セイバーを召喚したのだって、神城を助けたかっただけだ」

 

重々しく語り出されるのは、繰り返される戦争の歴史。

だが、偶然が重なっただけと無自覚に他人のせいにするようにも取れる主張にとって、それは血生臭さしかない悲劇だった。

人を救う正義の味方は殺し合いの中に築かれる未来(みち)ではないと、確固たる約束が決して士郎を怯ませない。

 

「それに俺なんかより、もっと優秀な魔術師はいる。それだけの大掛かりな儀式なら代わってもらった方がいい」

「残念だが、マスターというものは他人に譲れるものではない。その腕に令呪が刻まれた者はたとえ何者であろうとマスターを辞めることはできない」

 

更には参加資格の令呪は聖痕である。

都合が悪いからといって放棄することはできない。逆を言えば、放棄させることも難しい。

故に、薄青の淑女は返り血を浴びて再び魔女となった。彼女の事情を聞かされておらず、増してやマスターになる公算が潰えている士郎がその辺りを慮《おもんぱか》るなど土台無理な話である。――この先知る機会もない。

 

坦々(たんたん)と事実だけを並べた説明に、七人目は顔を怪訝に染めていた。

 

「なんだよ、それ。そんなあるかどうかもわからない物のために、殺しあうなんて――」

「無意味だ、と?」

 

ちっぽけな苦情は、魔術の世界に入りたての新米についてまわる葛藤だ。

人から魔術師になるために乗り越えるべき壁は、魔術に髄を埋めてきた側にとってみればほんの些細な駄々に過ぎない。そしてどれほど馬鹿げた発言をしたのか、本人が思い至るまでに時間がかかるからこそ半人前、と先人は呼ぶ。

 

「過去の英霊を呼び出し使役する。否、既に死者の蘇生に近いこの奇跡は魔法といえよう。物の真贋(しんがん)など、その事実の前には無価値」

「――――――」

 

とはいうものの、()()()物は七百以上も存在していれば、その一つである精巧なレプリカは教会でも保管してあるのだが、と監督役は子供をあやす様に(わら)った。

 

「……聖杯についてはわかった。だけど、それとサーヴァントが関係あるのか?」

「あのね、衛宮くん」

 

それまで腕を組んで耐えていた聞き手が、片目を開けて問うた。

 

「聖杯は霊体である以上、降霊するしかないの。勿論、私たちでも呼び出すことはできるけど」

「……霊体には霊体しか触れられない。だからサーヴァントが必要なのか」

 

ご明察、と凛は魔術師らしい言葉を初めて発した半人前に称賛を送る。

 

(……聖杯だろうとつくった者が人間ならば必ず綻びはあるもの。裏があるわね)

 

その背後で魔女はたかだか数百年前の人間が練り上げた理論を静かにあざ笑う。

聖杯なるものの製作者の捻れ切った性根には虫唾が走るが、輪廻の中に組み込まれている以上顔を合わすことができない。会ったら八つ裂きにしてやると豪語する彼女が二百年前へうっかりによって跳躍しないことを祈り、再び神父の声に耳をそばだてる。

 

「ここまで言えばわかるだろう。サーヴァントを最も早く倒す方法は、そのマスターを殺すことだ」

「なっ――」

 

最も効率的な手段は、士郎に気に入られなかったようだ。

だが、体内の魔力が尽きるまで現世にとどまれるとはいえ、血液を抜かれるような底冷えは体験した者にしかわからないだろう。

 

「だからこそ、殺し合いになるのだよ。サーヴァントを失ったマスターに令呪がある限り権利は残り、再契約はいくらでも可能になる」

「ああ、遠坂とキャ――」

 

スターのようにか、と安易に動こうとした軽い口を背後に潜んでいたゼロ距離の呪い(ガント)が封じる。

高速で振上げられた凛の拳を回避できたのだから、感謝して頂戴ねと見当外れな方向へ抗議している恨めし気な視線に護衛は嘆息する。

そっか、いたんだっけと慌てて手を引っ込めた凛に、もう一つ追加させた魔女は再び気配を闇に消した。

 

「と、ともかく、わかったでしょ?マスターってのはサーヴァントと契約できる魔術師であり、令呪の有無にかかわらず命を狙われるの」

「……令呪、の有無って……使う以外に、なくなるものなのか?」

 

脂汗を浮かべた士郎は崩れ落ちそうになっている膝についた左手を見下ろした。

その甲には赤い刻印が二つ色づいている。

 

「聞いたことない?身体を傷つけずに患部を取り除く魔術師」

「霊媒医師、だったか……手品みたいなもんだと思っていたんだが」

「ま、間違ってはないわね」

 

霊体を繕う事で肉体を治療する、特殊な魔術師。

メス一つ入れずに腫瘍(しゅよう)を取り除く”呪術”でもあり、未開の地で使われる外道と肩身の狭い魔術であったと士郎は記憶している。

 

「綺礼はこう見えて、その霊媒魔術使いなの。だから、監督役なんて任されてるんでしょうけどね」

「……どういう意味だ?」

 

戻りかけてきた体調を整える時間を引き伸ばそうと思っての質問を、なんとなく自慢気にしている神父の弟子は真っ当に受け止め、自身の刻印を示した。

 

「もっとも剥がすだけなら他にも方法はいくらだってあるわ。腕を切り落とすなり、それこそ令呪を使って擬似的な令呪を作成するとか」

 

所詮、令呪は魔術回路神経と繋がっている。神経ごとぶった切るか、引っこ抜けばいい話。

なんにせよ神経を直接弄られるわけであるから、痛みは半端なものではない。

 

「令呪を残したまま保護を申し出れば、それを取り除かない限りマスターであり続けるじゃない」

「そうか、令呪の除去が仕事でもあるわけだな。なら、監督役ってみんな霊媒医師なのか?」

「いいえ。教会の秘蹟(ひせき)使いでもごく一部しか扱えないし、綺礼ほどの腕は早々いないわよ」

「――そこまでにしておけ、凛」

 

本人は思うところがあるのか、嬉しくない話題のようだった。

 

「霊媒は肉体に依存する接触治療にすぎない。肉体に依存しない存在証明である魂そのものに触れられる奇跡にはほど遠い」

 

クセがある神父であっても、やはり魔術師である。

求めてやまない根源までの距離において謙遜が止むことはない。

 

「マスターでなくなった魔術師の保護をするのが最優先事項の職務としては、頼りになるが」

 

魔術を一般社会で使用を罪悪とする以上、病院や警察に駆け込んだところで解決できる問題ではない。医療に長けた魔術師が監視役であることは、殺し合いの最期の良心なのかもしれないと、半人前は漠然と捉え、

 

「――っ」

 

背筋を襲う敵意に再び汗を噴出させていた。

 

「此度は最短周期の聖杯戦争、なにが起きても不思議ではない。この街に潜む第四次聖杯戦争の爪痕もある。衛宮士郎ならば規模は想定できると思うが?」

 

――死傷者500余名、焼け落ちた建物は百件を超え、未だかつて原因不明。

ベンチの設置や保養の植林はされているが気配は10年前からさして変化はない公園――焼け野原での唯一の生き残りは降りかかる重圧に奥歯を噛み締めた。

 

「……十年前のアレも、そうなのか?」

「参加した人間が言っているのだ、嘘はあるまい」

「なっ……アンタは、まさか」

 

前回のマスターは、憂いとも似つかない空虚を帯びて忠告する。

 

「戦いを回避した男には、聖杯など手に入らなかった」

 

その身は脱落し、空の聖杯を前に絶望し、抜け殻となっていた。

悔恨。侮蔑。嫌悪。

自らを傷つける感情を味わい、聖職者とは正反対の(いびつ)は愉悦を我慢する。

 

「聖杯を手にする資格がある者は、サーヴァントを従えたマスターのみ。――意思をここで決めねば結果は同じこと。いま一度、尋ねるとしよう」

 

何度目かの質問。

焼き直しのような問いかけに応えようとする意思は打って変って静かであった。

 

「衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いないか?」

 

突きつけられた選択は、決まっていた。

 

「――――ああ。俺はセイバーのマスターとして戦う」

「結構」

 

長い溜めを要した士郎の決意への反応は呆気なく。

 

「今回の聖杯戦争は受理された。――これより、マスターが残り一人になるまで、この街における魔術戦を許可する。各々が自身の誇りに従い、存分に競い合え」

 

無意味な宣言は、手探りの衛宮士郎に向けてか同門であり弟子である遠坂凛に向けてか。

傍観者であるキャスターの前で十字を切る神父を付き合いの長い少女は胡散臭そうに眺め、(きびす)を返す。

 

「凛。今後、教会に足を運ぶことは許されない。次に来ることがあるならば――」

「保護を願う場合のみ。ええ、わかってるわ」

 

素っ気無いやりとりを済ませ、用が無くなった教会を後にする。

傍若無人の振る舞いで挨拶もせずにさっさと外へ出て行く凛に姿なき従者はついていき、士郎だけが、扉をくぐる前に足を止めることになる。

 

「――喜べ少年。君の願いはようやく叶う」

 

投げられた祝福によって。

意味などなかった。ただ、その神託は彼自身もまだ知覚できない胸の奥に突き刺さっていた。

 

 

こうして世界は一変する。

殺し殺され、奪い奪われる。冬木という土地全てにおいて等しく、その関係から抜け出すことは許されない。何人(なんびと)たりとも――例外はいない。

 

 




金盞花(キンセンカ)


◆ステータス情報が追加されました。
クラス キャスター
真名 
マスター 遠坂凛 new!
属性 中立・中庸 new!
筋力E 魔力A++ 耐久D 幸運D 敏捷C+ 宝具C
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