fate/stay night_Short long days 作:のんべんだらり
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午後は生憎の雨だった。
天気が崩れたら山に入るな。
柳洞寺に住み着いてから、最初に教えられた自然のルールだった。
それはそれ、とばかりに青い合羽をリュックサックから取り出した顕悟は大樹の元に向かっていた。
彼は天気に左右されるタイプではなかった。
「……昨日よりも拡大してる」
しとしとと降り続く中、見に来て正解だった。山の異変は確実に進行している。
大樹一本だけに留まっていた斑点は、山の土地にも侵食している。まるで、木々の血が流れているかのように。
「雨に上書きされる前に流れを読み取らないと……」
合羽のフードを僅かに深く被る。雨粒が目に入らないように注意し、目蓋の下で眼球に力を込めて刮眼し跡を追う。
彼の他に誰かがこの場にいたならば彼の虹彩が変わっていることを指摘できたのだが、不幸にも目撃していたのは口のない植物のみ――。
寺の者でさえ足を踏み入れない領域を躊躇無く踏み越え、顕悟は山へと入っていく。
彼にとって庭のようなものだ。迷うことはない。
終着点は早くにやって来た。
「あーあ、遅かったか」
林の中で痕跡が途切れていた。念のために周囲を確認してみたが特に目立ったものはない。
この先にあるのは鉱山の入り口だった洞窟くらいで、随分昔に埋められたと聞いたことがある。行っても瓦礫の山だろう。
正直、納得はいかないが、これ以上調べることは難しかった。
「風も出てきたし、晴れた日にもう一回……ん?」
林の隅で揺らめいた影に、諦めかけた身体を動かす。
そして臭いにしわを寄せた。
「うわ……これ、血かな」
動物の死体だろうか。
濃い紺の布きれは雨以外の液体でところどころ濡れている。
せめて弔いをしようと触れ、
「え――」
ごろりと転がった物体の顔が顕わになった。
日本では珍しい薄い青色をした髪。血の気のない白い肌。
まるで、おとぎ話から出てきたお姫様だのようだと、顕悟は不謹慎にも見惚れた。
強くなってきた雨足に頬を叩かれて、我に返る。
「――っ!」
弱りきった女性を背負い、泥濘に足は取られそうになりながら野山を駆け下りた。
それは必要最低限の動きで、洗練されていた。伊達に、忍者屋敷で過ごしていない健脚ぶりだ。
無論、下山で走ってはならない、という自然のルールその2も黙過した。
雪崩込むようにして寺に上がり、顕悟が以前使わせてもらっていた部屋に運ぶ。
いつでも泊まれるようにと干していてくれた一成の母に感謝しながら布団に女性を横たえる。
目に見えて弱くなっていく彼女の生命力。
スタイルのよい体に張り巡らされた、本来ならば輝いているだろう体内のパイプは、黒く塗りつぶされている。
顕悟の見慣れた、ソレ。エネルギーの尽きた物質は造形を保てない。草花であれば枯れ、人であれば――死。
いてもたってもいられず、顕悟は再び雨天の中へ身を投じた。
意識を覚醒させた彼女が最初にしたのは、未だ消えていない我が身への自嘲だった。
傍らの花瓶には枯れかけた花が活けてある。嫌がらせか、と突っ込んだ。魔力は尽きかけているが、これを置いた人間の顔を拝んでから消えるのも遅くはない。
「あ、目が覚めた?」
来訪者は外に出ていたのか、頭からずぶ濡れだった。記憶では青い合羽を着ていたはずだが。
「僕は神城顕悟。山の中で倒れていたキミを見つけて、ここまで連れてきた。名前を聞いてもいいかな?」
「……キャスターよ。一応、礼は言っておくわ」
「どういたしまして。っと……はいこれ、身体の足しになるといいんだけど」
白い薔薇を差し出され、キャスターは眼を瞠る。
僅かながらも花にはマナの凝結があった。量はサーヴァントにとっては砂漠に垂らした水滴でしかない。
同時に花摘み少年を嫌がらせの犯人と認定し、その指に目を留めた。
「花もいいけど――」
擦り寄るようにその手からを薔薇を抜き取り、魔力に変える。予想通り瞬時に塵となった。
瞳孔を広げている坊やの手首に指を這わし、血の滴る親指を口に含む。
「こちらの方が好みだわ」
丁寧にもリップ音を残し、ごちそうさまと唇を舐める。
「え、うあ……」
単純に驚いているだけなのか、ぽかんと間抜けな顔にキャスターは気をよくした。
彼の血をもっと、と身体が叫ぶ。――貪れ。そうすれば魔力は満たされるぞ。
ぷっくりとした珠のような血が膨れ上がっている親指の腹にもう一度口付けようとして、唐突に思考の違和感に気づいた。
「(うそ……私、興奮している?)」
冗談じゃない。キャスターは魔女であって吸血鬼ではない。拙劣な淫欲を怒りで握りつぶした。
「とりあえず、体調はよくなったみたいで安心したよ。なんにもない寺だけど、ゆっくりしていって。着替えは僕のお古だけど我慢してもらえると助かる」
そこでようやく彼女のシーツ一枚である格好に顕悟は気づいた。己の愚鈍さを猛省し、ぎこちない態度で畳から離された顕悟の腰は――
「――待ちなさい」
元の位置に戻された。キャスターより畳一枚距離を取って。
「えっと、何かな?」
そんな男の事情を見透かした上で彼女は恥じらいもせず、一挙一動を観察していた。
やり場に困りながらも視線をキャスターに合わせる姿は好感が持てる。
「(見かけによらず気骨はあるようね)」
彼に何を求めての評価なのか気づかないまま、キャスターは話を進めた。
「なぜ、私を助けたのかしら?」
「それは――」
返答次第では殺すつもりで。
そんな彼女の胸中など計りようのない顕悟はへらりと笑みを浮かべた。
「助けることができたから。そこにキミがいて僕がいた、だけ。あとは山で拾われたよしみ?」
疑問符をつけて帰ってきた答えに嘘はない。
下心もなくこの少年は、犬猫を拾う気軽さで彼女を抱えてきたのだ。キャスターは痛み出した米神を押さえたい衝動にかられた。
「質問を変えるわ。あなた、私を助けたいの?」
「そうだね。僕のできることであるならば」
「なら、私を抱きなさい」
「なぜそうなる」
呆れるあまり顕悟は即答した。
キャスターはそれを拒否と判断する。
「それができないなら私に関わらない方が身のためよ、坊や」
「極端に飛躍してない?あー、つまり、キミをこの場で抱かなければ殺せ、そう言ってる?」
「話が早くて助かるわ」
「なら、答えはノーだよ。抱くつもりも殺す気もない」
――偽善ね。時間を無駄にしたわ。
興ざめしたキャスターは、この場で八つ裂きにしてやろうと魔力を集める。
そして告げられたのは――
「だってキミ、処女だから」
「――なっ」
冗談じゃない。この身は当の昔に穢れている。
そんなキャスターの心を読んだかのように、顕悟は首を振った。
「確認した限り、
誰があんな下種と――頭に血が上ったキャスターは、無防備な細い首を掴み上げていた。
ぽた、と畳に染みができる。
飛びかかった拍子にシーツが乱れたが、今の彼女には気にもならない。
「――今の発言は取下げなさい。さもなければねじ切るわ」
「……うん、キミへの侮辱だった。ごめん」
殺気を向けても、震えることなく顕悟は眼を逸らさない。調子が狂う。
素人のくせに、妙にクセがある。
「けど意見は変えない。会ったばかりの人間に身体を安売りしてはダメだ」
年下の少年に倫理感を説かれてしまった。
「その体調ならどこかに消えるということはなさそうだ。キャスターが望むくらいの猶予はあるよ」
「あなた、一体――」
何者なの?
尋ねようとしたとき、障子に人影が差し込んだ。
「神城!帰ってるなら一言かけてくれればいい、ものを――?」
威勢よく襖を開けた人物――一成はぴしりと石膏と化した。
一枚のシーツの下で、女に押し倒されている男。一成の位置からは女性の胸元は隠れているが、何も身に着けていないことは顕わになっているきめ細かい肌で一目瞭然。つまり、2人がナニをしていたのかくらい修行の身といえ健全な男の子である一成にだって理解できた。
「一成、寒い。入るなら入って?」
そんな絶賛混乱の最中、不満そうにかけられた声が石化を解く呪文となったようだ。
「――煩悩退散煩悩退散煩悩退散っ!キエェー!!」
眼鏡がズレ落ちそうになりながら走り去った一成にため息をつきながら、顕悟はひんやりとした冷気と室内を切り離す。涼しい顔したメディアもシーツを纏い直して、布団の上に戻っていた。
「まったく、せめて開けたなら閉めて行ってくれればいいのに。急き心は一成らしいけど」
「彼、いいの?」
「うん。あれでもここの次男坊だから危険はないし」
誤解させたままでいいのかと意味なのだが。わざわざ訂正することでもないか、とキャスターは放置した。
「それでさっきの話に戻るけど、他に方法はないのかな?」
「――そうね、さっきの花が何千何万とあるなら話は変わってくるかしら。あなたを殺して、さっきの早とちり少年の童貞を奪うのも楽しそうだけど」
キャスターとて無理難題を口にしている自覚はあった。
マナを摂取できる霊場など早々ない。ほとんどが教会やセカンドオーナーが所有していると与えられた知識が囁く。
人間から吸収する方法もあるが、それは願い下げだった。
とはいえ、本気であの生真面目な眼鏡の少年に身体を許す気もない。断じて、ある意味生娘だと指摘されたからではない。
であるならば、消えゆく運命を受け入れるのみ。そもそもこうなるだろうことは、下種男を殺したときに覚悟したこと。
それが偶然にも僅かに伸びただけ――諦観に似た感情を疼かせキャスターは、咲き誇った微笑みとかち合う。
「よかった、それなら案内できる」
なんで先に言ってくれなかったんだ、と剥れるような響きさえ伴って、いとも簡単に彼は手を差し伸べた。
「って、キミの服は乾燥中だったっけ。ちょっと待ってて、荷物まとめてくるから」
「私が言うのもなんだけど――あなた、用済みになったら裏切られる可能性は考えないのかしら?」
「それならキミが起きたときにそうなってるだろ。ここだって力を維持できないわけじゃないし、キミの言ったとおり一成を誘惑すればなんとでもなる。それでもこうして話していられるってことは、切迫するほどの事態は脱していて、キミにとって僕を生かす価値があるってことじゃない?」
ただの能天気かと思えば、なかなか端的な分析だった。
「それに、キミはそういうだまし討ちは嫌いだろ?」
「……バカらしい。私の何を知った気でいるのかしら?」
「さあ?キミがどうして血だらけで倒れていたのか、どこから来たのかは知らない。僕を抵抗なく殺せることはさっき身をもって体感したし」
それならばなぜ?
疑いが尽きないキャスターは面食らう。微かに陽だまりの香りが漂った。
「裏切るって言ったときにキミは全身に力を込めた。やりたくないことをやらなければいけないとき、人がする反応だ」
不覚にも、毒気を抜かれてしまった。
土くさい少年は泥だらけになる覚悟があるようだ。ならば、せいぜい利用させてもらうのみ。
「……あなた、後悔するわよ」
そうかも、とわかっているようでわかっていない顕悟の手をキャスターは取った。
報告のため、一成を捉まえたときのことである。
彼はなぜか記憶に空白があった。山で迷っていた女性を保護したので街まで送っていくと説明し、キャスターのことを深く尋ねられないように簡単な挨拶で済ませてしまったが、顕悟はしきりに首をかしげていた一成が気がかりだった。
疲れが溜まっているのだろう。説明の途中では鼻血を垂らしていた。
次来るときは肉料理でも差し入れやろうと、柳洞寺の方向に手を合わせる。
そうして、三芳邸の敷地に足を踏み入れたから立ちっ放しのキャスターに振り向いた。
「どうかな。居心地は」
「最悪ね」
どこか不機嫌な面持ちで、キャスターははき捨てた。
顕悟が彼女の身体を視るも、彼女の生命力に消耗はない。
だが、キャスターにしてみれば、文句も言いたくなる心境であった。
魔術に仕う高級品種はないものの、これほどマナを内包した植物はキャスターが生きていた時代でも滅多にない。
どれほど希少かと聞かれれば、ここにあるマナを全て蒐集すれば、魔力が半分回復する。
今までの悩みはなんだったのとある種、横暴を感じる。
そしてなにより、のほほんと平和ボケした脳内お花畑男が成しているという事実。あまつさえ自覚がないことが異常に腹立たしい。
「……あなた魔術師なの?」
「まじゅつし?ああ、メディアみたいな身体の細部まで光っている人のことか。僕は一般人だよ」
「でしょうね、魔術回路が見当たらないもの。けれど一般人でこれほどマナを効率よく集めるなんて」
「マナ?ああ、そういうこと」
ボタンの掛け間違いに気づいた後のようなしまらない顔をした顕悟が手招きする。足元にある花壇を覗き込むようにして、キャスターも膝を折る。
「僕はただ、彼らの生命力がみえて、それを最大限に活かす方法を知っているだけ。例えば、この子。キャスターからはどう見える?」
周囲に圧されて縮こまっている小振りなマーガレットがあった。マナはほとんど感じない。
素直な意見を伝えると、唐突に顕悟はシャベルで掘り出し、日当たりのよい場所に植え替えた。
そんなことをしてどうなるのか。キャスターの問いかけに応えるように、マナが主張し始める。
キャスターが確認した限り、最も多い部類と遜色がない。
「信じられないなら、他の子も実演するけど」
「……結構よ」
こんなこと、何度も見せられてたまるもんですか。
未練がましく花壇に視線を残しながら手を洗う顕悟に、キャスターはため息をついた。
「それじゃあ、キミの話を聞こうか」
「そうね。立ち話もなんですから、家に入りましょう」
この景色は毒だ。キャスターの精神的に限界だった。戸に手をかける。
「あ」
そんな呟きを漏らしたのは果たしてどちらか。
玄関口を開け放ったメディアか。その先にある未来を哀れんだ顕悟か。
だが、結果は同じ。鈍い音の発生源を抑えてしゃがみこむメディアの姿があるのみ。
引き戸を開けた先にあったのはただの壁だった。ご丁寧に室内の絵まで描かれている。
信じらんないとばかりに、涙を滲ませるメディア。
「玄関はダミーなんだよ。本物はこっち」
「先に言いなさい。次は殺すわ」
本気だった。
「あ、あったあった」
意に返した風でもなく、壁にある突起を押すと顕悟。
垂れてきた一本の綱を掴み、そのまま二階ほどの高さにある窓まで身軽に上っていく。まさか同じことを要求されないでしょうね、と引き攣りながら眺めていたキャスターの前に縄梯子が下りてきた。
「お待たせ、どうぞ」
なんなのこの家。この根無し草について来たのは早まったのかもしれない。キャスターはめげそうになった。
だが、彼女の不運は終わらない。
「(……歩き方は綺麗ね)」
それが、木偶の坊の後をついてまわっていたキャスターの感想だ。
意味もない観察をするつもりは毛頭なかったが、廊下を進む暇つぶしとして他にすることがなかったのだから仕方ないとキャスターは自分に言い聞かせた。長い廊下が悪いのだ。八つ当たり気味の踵に床が悲鳴をあげた。
「……それにしても長いわね。もう10分は歩いているわよ」
「迷った」
「は?」
思わず、聞き返す。エルフである彼女の尖った耳が我慢の限界とばかりに、ピクピクしていた。
「二階は侵入者対策に迷路になっていてね」
「どうして別の入り口に案内しなかったのよ!?」
「来客用はあそこしかないんだ。滅多に人なんて来ないから油断してた」
「ふふふ……私、言ったわよね?次は殺すって」
「待ってキャスター。そこは」
発信源は一歩踏み出したキャスターの足元だった。
嫌な予感が過ぎりつつ、そろりと引いた足の下に、丸いボタンがあった。
「キミってドジっ子属性があったりする?」
「……」
家にあるまじき、振動と機械音が今か今かと重奏している。発動までのカウントダウンだ。
「時にキャスター。潰されるか、落下か、どっちがいい?」
笑顔で勧告された。
「いや、まさか、落下先が居間とはねー。さすが、三芳爺さんの仕掛け。手が込んでる」
あのあと、疾走しているとぽっかりと空いた穴に吸い込まれるように落ちた顕悟とキャスター。
ソファーのクッションに受け止められ、しばし呆然としていた意識も落ち着きが戻ってきていた。
「……ふぅ」
となれば、どこまでもどこふく風でお茶を飲んでいる能天気に、現実を教える時間だ。
ハプニングもあり思わぬ時間を食ってしまったが、ようやく仕切りなおせる。
「この話を貴方が信じようと信じなくとも構わない。けれど、後戻りは許されないわ」
「うん」
「本当にわかってるのかしら?日常では生きられないのよ?」
「おかしなことを言うね。もしかしたら僕が生きていた生活が非日常であるかもしれないのに」
確かに。マナやオドが目視でき、こんな仕掛けだらけの屋敷で暮らし続けてきた異端に日常を求める方がどうかしている。
らしくない気遣いだった。それも無下に一蹴されたけれど。
「……貴方の返事はもう聞かないわ。質問は最後にして頂戴」
そうして、キャスターは自分が呼ばれた聖杯戦争について語り始める。
魔術師と英霊、7組に別れての殺し合い。勝ち残った、たった一組だけが聖杯を手に出来、願いを叶えることができる。クラスは、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカー、アサシン。キャスターもそのクラスの1つ。
現界したときに得た情報を出し惜しみせずにした説明を聞いた顕悟は、
「なるほど。道理で、キミの身体は人よりも光の許容量が大きいわけだ」
しきりに頷いていた。
「それだけ、なの?」
「ああ、そっか。キャスターはマスターを探す必要があるんだよね。キャスターのように身体に巡らせるようなエネルギーを持っている人物には心当たりがあるよ」
でも、既にマスターの可能性もあるのか。困ったな。と悩み始める顕悟にぎりと歯噛みする。
「……あなたでもマスターになることは可能よ。もちろん、性行為以外の方法もあるわ」
「いや、僕はマスターにはならない。キャスターの話を聞いた後じゃ、尚のこと」
「あら、怖気づいたの?」
「そうだよ。だって、いくらキャスターが強くてもマスターが素人じゃ、キャスターの願いを叶えてあげられないだろ」
「――――」
正確に、聖杯戦争の本質を見抜いていた。キャスターは、子供のような年頃だと風貌だけで侮っていたのだ。
「僕はマスターにならない代わりに、キミがマスターを見つけるまで手伝うし、それまではここにいてくれて構わないから。約束する」
「悪いけど、根拠のない約束は信じないことにしているの。ここが戦場になる危険性だってある。そうなったら私はあなたを迷うことなく見捨てるわ」
「いいんじゃない?それくらいの担保は必要でしょ?」
見殺しにすると突きつけられているのに、この万年草は真剣な顔1つしない。
「(……これじゃ、気にしている私が馬鹿みたいじゃない)」
冷めた日本茶を口にする。すぐに注ぎ足された。
「む……」
「ん?まだ何かある?なければ部屋を案内するけど」
自分の分の湯のみを片付け始めた顕悟に、キャスターは釈然としないものを感じつつ、お茶請けに出されていた羊羹を一口でほお張る。
「そういえば、僕が協力を拒否したらどうするつもりだったの?」
「そのときは記憶を奪って、霊場だけ頂いていたわ」
「キャスターって結構ちゃっかりしているよね。なんか似てる」
誰にとは言わない。
その友人も、魔術師であろうと当たりをつけている候補者の1人だ。魔術師ってみんな似たような性格なのだろうか。
近いうち会うことになるだろう未来に、顕悟は静かに疲れた笑みを浮かべた。
『木春菊』
恋を占う、貞節、誠実、心に秘めた愛、真実の友情