もしも、カサネル√のスバルが、本編のスバルの夢を見たら、っていう話です。

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 四、五章間の話です。
 誕生日に投稿したかったーー。
 


誕生日の夢を

 

 何度もやり直した。何度も繰り返した。命を賭して。

 

 血を吐くほど傷ついた時もあった。うまくいかない周囲に、迫りくるタイムリミットに焦らられ、もう少しで手に入れられそうだった『終わり』を取りこぼした時もあった。

 魔女の手を取ると決めた時、覚悟が足らなかったなどと後悔した数は、もう数えきれないほどに積みあがっている。

 

 しかし、それで得られた結末はとても重く苦しいものだった。

 皆が皆、過去と決別できずに、上っ面だけの関係を築いている。

 それを取り戻そうとするもーー覚悟が、足らなかったのだ。

 

 あの地獄のような日々の繰り返しで、自分の無力さを何度も、何度も嚙み締めたのだ。

 もう一度あの災いの渦中に身を投じようとするも、最期の一歩が踏み出せない。

 

『もう一度やり直して、これ以上の結果を得ることができるのか』

『誰も失わずに済む方法が、二人で思いつくことが果たしてできるのか』

 

 内なる声が、自殺に踏み切ろうとしたっ手をそっと力強く止める。

 

 そうこうしている間に、時間は止まることを知らずに進んでいく。そう、順調に、一日を過ぎていく。戻らずに。

 

 日に日に壊れゆく皆に心を痛め、決意をしたときには、もう遅かったのだ。

 悪化する状況に、自分さえも見失ってーー

 

 

 自分を見失ってから『笑顔』というものが、作り物になってしまうまでは、一瞬だった。

 

 魔女の手を取ることが、仕方のないことのように思えてきた。

 ここまで来てしまったら、足掻こうにも取り戻せる範囲は限られてしまう。

 だから、目の前の『最善』に縋りつく。

 

 ほんの数日を何十にも、何百にも重ねてーー

 

 

* * *

 

 今日は異世界に来て初めての誕生日だった。

 

 しかし、この屋敷にいる人が一ヶ所に集まることなど、決して無かった。

 

 エミリアが、ペトラが、自室で祝ってくれた事しか覚えていない。

 

 その後、一人で自分を育ててくれた親に、感謝の気持ちを伝えた。手紙を書いて、机の上に置いた。

 届いているかなんて、分からないけど。

 

 多分、今でも忽然と姿を消した自分を探し続けているのだろう。

 今の自分を知ったら、どんな反応をするのだろう。叱りつけて、一度心を折ってから立ち上がらせてくれるのだろうか。

 

 聖域の『試練』で見た光景は、現実とは関係ないと言っていたが、多分現実でも同じような反応をしてくれるのだろう。これに関しては確信が持てた。

 

 ーー自分を見失った自分を、救って欲しい。

 

 そんな思いが、心の底にはあった。

 

 

 『何も起こらずに』一日が終わったことに一安心して、床に入る。

 すっかり普段着となってしまった堅苦しい礼装を脱ぎ、ジャージを着た。

 

 これを着ると、まだ笑えていたころの自分を思い出しつつも、『独りよがり』であったころの自分、青臭い自分を思い出してしまうようだった。

 数々の襲い掛かる試練のせいでこれももうボロとなってしまったが、作り変えるのも気が引ける。

 捨てる、という手もあったが、そうすると自分を本当に見失ってしまいそうで怖かった。

 

 床に就いたとはいえ、安心できない。

 異世界召喚されて二回目のループでは、眠るように殺されたことがあった。あの時は原因がはっきりしていたものの、安心してはならない。

 

 『契約した時』から、自分はずっと走り続けている感覚だ。

 休むのが怖いと感じてしまっているあたり、相当な重症だといえるだろう。

 

 気を張り巡らせながらも迫りくる眠気には抗えず、目を閉じ、眠りについた。

 

 

 いつもなら、『意識がある』と感じさせられるのははっきりと活動していると自覚できている時間だけだ。

 しかし、今回、スバルが意識の目を開いたのはーー

 

 

 夢を見ている感覚があった。

 久しぶりに見た夢だ。自分には、夢を見るような資格もないものだと思い込んでいたものなのだから。

 

 しかし、その考えは歪んでこそいるものの正しいといえるだろう。

 

 

 ーーそれは、幸せな夢だった。

 しかし、夢、というには現実味を帯びすぎていた。これは、選択をたがえなかった時の未来にしか見えなかった。

 

 夢の中の自分の周りには、長い銀髪を後ろでゆるく結っている、今の自分が知っているよりも大人びた少女、エミリアが笑っている。その周りには、今や氷づいたような微笑と、よそよそしい言葉遣いで接してくるラムが楽しげに談笑している。

 

 その周りにはーー今となってはもう自然には笑えなくなってしまった、救ったはずの人が、そこにはいた。皆、笑っていた。楽しそうに。心のなかを隠すことなく、祝福していた。

 

 見るだけで心に針が刺さる光景。

 

 ーーこれは、何なんだ。自分が、ああも簡単に笑えているではないか。今までの繰り返しの日々は、間違っていたのか。では、どうすれば『幸せな未来』にたどり着けたのか。何が違ったのか……何が、何がなにがなにがーー

 

 目をそらしたい衝動に駆られる。

 しかし、意識だけの存在であるスバルにはかなわぬ願いだ。

 

 必死で意識だけの身を捩り、何とかして目を覚まそうとする。

 しかし、これは、自分の罪を自覚させるためにあるかのようにまとわりついて、離れない。

 この夢には、自分が魔女の手を取ってでも手に入れたかったものが、手に入っている。

 

 ーーこれは違う。何もかもが違う……もういい。もういいから。頼むからやめてくれ……!

 

 違わない事を分かってながらも、この地獄のような幸福の光景から目を逸らしたい一心で、否定し続けた。

 

 必死で否定するもむなしく、流れる光景は、止まることを知らない。

 

「せーの!」

「「お誕生日おめでとう、スバル!」」

 

 もう全員が集うことのなくなった食堂に、全員が集っている。ーー誰も嫌そうにしておらず、自分の意志で、心からスバルの成長を祝福している。

 

「これがみんなからの感謝の気持ちかしら。受け取るといいのよ」

 

 ベアトリスが、禁書庫から出ている。

 自分の知る今の世界ではありえないことだ。いつも碌に会話を交わすことのできない『存在』が、こうも楽しそうに、嬉しそうにーー

 

 フレデリカも、ガーフィールも仲が良さそうだ。

 自分が気にしないふりをして、これ迄通してきた二人ののひび割れた関係が、きれいに修復されている。

 

 つい最近、このロズワール廷から姿を消したオットーが、夢の中の自分と軽口をたたきあっている。

 

 一つ一つの事柄だけでも擦り切れてしまいそうな光景が、目の前には繰り広げられていた。

 

 ーーどうして、こんな未来が手に入れられたのか。自分は、どこで間違えたのか。

 果たして、エキドナは、答えてくれるのか。

 

 答えてくれないかもしれない。

 あの性悪魔女は、自分に都合が悪いことはさも簡単に隠ぺいしてみせる。

 

 

「みんな……、こんな俺のために、ありがとう」

 

 そう言って、夢の中の自分が、笑った。

 幸せな光景が、続いていた。

 

 

* * * 

 

 

 解放されたかのように、自分はソファから跳ね起きた。

 今自分が見ていたものは、まさしく『幸せな悪夢』といえるだろう。

 

「はあっ……は、ははは……」

 

 思わず乾いた笑みが漏れた。 

 

「お、れが、何を……まちがえ、た……?」

 

 自分の罪を自覚させられた。

 

 外はまだ暗闇に包まれていた。

 まるで、もう一度眠れ、とでも言っているかのように。

 

「エキ……エキドナっ! エキドナ……! 俺を、茶会にっ、招いてくれ……!」

 

 無駄だと分かりつつも、本能的に彼女の名を呼ぶことしか出来なかった。

 

 

 ーー視界が暗転し、目の前にあったのは一面に広がる草原だった。

 

 そこにはもうすっかり見慣れたテーブルがあり、早く椅子に座れと誘われているようだった。

 

「こんな時間に一体どうしたんだい?」

 

 目の前の魔女が、純粋に自分を心配してくれているように声をかけた。

 

「お前……お前は、あの契約の時、最善の未来へと連れていくといったな?! じゃあ何なんだ! あの光景は! あれこそが、『俺の望んだ』最善! みんながああやって、笑える毎日! お前の手を取って掴んだこんな息の詰まるような毎日を、俺は、俺は望んでいないんだぁぁ……」

 

 冷静さを失った。頭に血が上り、勢いに任せて言葉をぶちまけてしまった。

 

「……え? ボクは、ちゃんと、『誰も失っていない』最善の未来に連れて行ってあげた。命ある限りは救われる。いつぞやの君は、確かにそう言ったよ」

 

「だからといって、今の状況を見ればわかるだろ! みんな張り付いた笑みを浮かべて生活してる。いつも屋敷が凍り付きそうになる! それの、どこが……どこが最善だ!」

 

「それが君の選んだ選択だったから、ボクはそこに導いてあげただけだよ?」

 

 確信した。今の彼女には話が通じない。

 あの時は、八方ふさがりだった。だから、その何百何千と繰り返した時間の中で、自分が壊れていっていただけなんかなのかもしれない。

 だが、今、あの幸せな時間を見て、今の状況が最善だとどの口が言えただろうか。

 

「俺は選んでなんかいない! 知恵を絞りだして、二人で考えただろ!」

 

 筋違いだとわかっていながらも、いまはこうやって感情を放出することしかできなかった。

 

「あの聖域から出てかなり時間がたつ。これまでの経験上、取り戻すのは不可能だ。こればっかりは、ボクたちにはどうにもできない、事実なんだよ」

 

「今の君たちを見ていて、ボクは何が悪いのかわかりかねる」

 

「『取り戻せる範囲』でならば、ボクはいくらでも協力しよう。契約はたがわないからね」

 

 ーーこの魔女は、何を言っているのだろうか。

 人の感情がわからないのか。思い返すと確かにそんな節があった。

 このまま信頼し続けて大丈夫なのだろうか。ーーしかし、今ここで契約を切ったら、どんなことになるのか想像もつかない。

 よって、この魔女には永遠ともいえる時間を共有し続けねばならないのだ。

 

 

「試してーー試して、みるといい。君の望む答えが、もう二度と手に入らないものだということを証明するために」

 

「もう俺はここから出る。ーーお前は、魔女だ。人の感情を理解できない」

 

「そう評されるとは心外だ」

 

 腹が立ったので、茶会を終え、意識を覚醒させた。

 

 

* * *

 

 

 僅かな希望に、縋りつきたかった。

 

 でも、それは叶わない願いだった。

 

 本能的に喉を絞めた時、時間は確かに巻き戻った。

 

 しかし、『同じ時間』に戻ってきただけだった。

 

 

 ーーあの日々には、戻れない

 

 

 だから、『目の前の最善』に縋りつく。

 もう、笑顔も何もいらない。

 

『全ての者の生存』が、今こうやって存在している理由なのだ。

 

 そうする過程で自分が手に入れた称号など、エミリアを王にするために使う道具でしかない。

 

 

 

 

 何度でも最善を求め、『死』を重ねよう。ーー人の感情を理解できない、魔女の手を、借りて。

 

 

 

 

 

 

 






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