ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯311 【ハウル・シフト】

 響き渡った警告にコックピットを覗き込んでいたタキザワと茉莉花が声にした。

 

「今、説明した通りだから。鉄菜、あなたは敵を蹴散らしつつ、戦線を切り拓いてもらうわ」

 

「機体制御は前よりも扱いやすくなっているかと思う。だが、出力面の不安は拭えない……。申し訳ないがほとんど出たとこ勝負だ」

 

「構わない。《クリオネルディバイダー》の制御は?」

 

「ゴロウに一任している」

 

『と、いうわけだ。よろしく頼む、鉄菜』

 

「前回のように邪魔は入らないと思ったが……」

 

 濁したのは空域に現れた第三勢力の存在に、であった。

 

 無数のバーゴイルとナナツーに紛れ、新型人機が確認出来るだけでも二機。うち、一機のデータを照合する。

 

「《フェネクス》……。もう一機は……遠景だがトウジャに見えるな」

 

『該当データにないトウジャだ。新型の可能性が高い』

 

「いずれにせよ、私が前を務める。瑞葉、《ゴフェル》の守りは任せた」

 

『任せて欲しい。《カエルムロンドカーディガン》、……うまく動いてくれよ』

 

「桃、そちらの状態は?」

 

『《ナインライヴスピューパ》も一応は出せるけれど、あまり戦力としては期待しないで。ほとんどのパーツは《モリビトシンス》に回しているからね』

 

『おいおい、それって嫌味か?』

 

 割り込んできたタカフミに、桃は言い返す。

 

『嫌味でも何でもない。放っておいて』

 

『つれないこって。《ジーク》は前回の戦闘のフィードバックもある。《ゴフェル》の護衛をメインにさせてもらうぜ』

 

「構わない。……桃、《イドラオルガノン》は……」

 

『《イドラオルガノンジェミニ》は単騎では無理よ。……悔しいけれどね』

 

 蜜柑は、今は待機させておくしかない。それがどれほどの苦渋の選択でも。

 

《モリビトシンス》がカタパルトデッキへと移送されていく。

 

 その背には今まで右肩に装備していた《クリオネルディバイダー》が装着されていた。翼を拡張させ、盾の部位が上を向いている。

 

 両肩の盾には再度、Rシェルソードが装備され、腰には予備武装のRブレイドが装着されていた。

 

 全身、これ武器とでも言うように構えた《モリビトシンス》が起き上げられ、その足がスリッパ型のカタパルトシステムに直結させられる。

 

 信号が青を示し、ブリッジより入電させられた。

 

『発進準備完了。タイミングを、《モリビトシンス》、鉄菜・ノヴァリスに譲渡します』

 

「了解。《モリビトシンスクリアディフェンダー》、鉄菜・ノヴァリス。出る!」

 

 新たなる装備を得た《モリビトシンス》が電磁射出器で発進し、その翼を大空に羽ばたかせた。

 

 改修した《クリオネルディバイダー》による機体制御はうまくいっている。後は、自分がどれだけ立ち回れるかだ。

 

 続いて《ナインライヴス》が射出され、四枚羽根を拡張させる。

 

『……クロ。この状態じゃ、エホバを叩こうにも……』

 

「ああ。邪魔が入る可能性は多いにある」

 

 眼前にはアンヘル、及びC連邦艦隊が迫っている。直接対決はそう遠くはないだろう。

 

 まずはこちらの兵力への牽制だろうか。艦隊より《スロウストウジャ弐式》が数機、発進する。

 

「小手調べか。受けて立つ!」

 

《スロウストウジャ弐式》がプレッシャーライフルを引き絞った。それらの弾道を全て回避し、《モリビトシンス》が迎撃のRシェルライフルで銃撃した。

 

 出力の上がったRシェルライフルを前に、敵機が後退する。

 

「逃がさない。Rクナイ!」

 

 袖口に仕込んだRクナイが稼動し、引き出された刃がワイヤーを伴わせて《スロウストウジャ弐式》へと突き刺さった。そのまま巻き戻そうとして、相手の人機がこちらの頭部へと照準する。

 

 ただではやられる気はないらしい。

 

 その敵機を鉄菜は《モリビトシンス》で振り回した。

 

 ワイヤーの膂力が敵人機の推進力を上回り、機体制御を失った敵人機へと、鉄菜は新武装の照準を据える。

 

 背部《クリオネルディバイダー》より腰へと延びた砲門が《スロウストウジャ弐式》を捉えた。

 

 高出力Rランチャーの赤い光軸が敵機を葬り去る。

 

「これが、《モリビトシンスクリアディフェンダー》だ!」

 

 新たなる《クリオネルディバイダー》の力を得た《モリビトシンス》が次なる一機へと標的を据える。Rシェルライフルを可変させ、その剣術が敵機を両断した。

 

 爆発する前に、すぐさま次の機体へと跳ね上げさせる。

 

 今までの起動性能とは二ランクは上の速度に相手がうろたえ気味に隊列を崩した。

 

 今ならば全滅させられる。そう確信した、その時であった。

 

 殺気の波が押し寄せ、鉄菜は機体を急速制動させる。

 

 標的とした《スロウストウジャ弐式》を、高出力リバウンド兵装が貫いた。

 

『……友軍が?』

 

 困惑気味の桃がRランチャーを構える。鉄菜は艦隊の中央部よりこちらへと急速接近するその機影を目にしていた。

 

 怒りを体現する赤に染まっているその機体は、巨大なる翼を広げて推進力だけで津波を引き起こす。

 

 飛翔した巨躯は通常人機の六倍はあった。異常に伸びた四肢に、鉤爪のようなシルエット。見覚えがある機体は中央の眼窩をぎらつかせた。

 

「キリビトタイプ……。だが、あれはアムニスのものではない……」

 

『新型!』

 

 桃がRランチャーを放つ。それを敵機は避けるでもない。その皮膜で反射させた。リバウンド兵装を完全に無効化する鉄壁を相手は得ている。

 

「リバウンドフィールドか!」

 

 鉄菜はRシェルソードを構えさせ、巨大なる不明人機へと肉迫する。敵の通信網が接触回線を震わせた。

 

『モリビト……、モリビトォッ! お前らは、何もかも奪った! あたしから、何もかもを!』

 

 声の主に、鉄菜は目を見開く。

 

「その声……、燐華・クサカベか?」

 

『鉄菜? ……ああ、やっぱり悪い夢、悪い幻。鉄菜の幻影を見せるなんて、ブルブラッドキャリアはやっぱり、滅ぼさないといけないんだ。このあたしと! 《キリビトイザナミ》が!』

 

《キリビトイザナミ》と呼称された機体の四肢よりアームが伸びる。まずい、と習い性で下がらせた瞬間、先ほどまでいた空間を高磁場のリバウンド兵装が引き裂いていた。

 

「……あの機体、出力任せのデタラメだ。だがそれゆえにやり難い。下手に飛び込めば蜂の巣になるぞ」

 

『鉄菜。それだけではない。相手方からの手痛い歓迎だ』

 

 上空より飛来したオレンジ色のトウジャに、鉄菜はRシェルソードで応戦していた。オレンジのトウジャタイプがX字の眼窩を煌かせる。

 

『お前っ! 旧式のモリビト!』

 

 思わぬ声が通信より漏れ聞こえて、鉄菜は瞠目していた。

 

「まさか……、林檎・ミキタカか? エホバ側に……」

 

『裏切った事くらい、知っているくせに。自分だけ綺麗なままで取り繕うなんて、いやらしいっ!』

 

 トウジャタイプの持つ折れ曲がった大剣に、鉄菜は《モリビトシンス》を下がらせる。

 

 どう考えても、今の林檎は正気ではないはずだ。

 

「林檎・ミキタカ! 私は後から事情を聞いたに過ぎない。だが! その立ち位置でいいのか! お前には守るべきものがあったはずだ!」

 

 その言葉に林檎の搭乗するトウジャが剣を払う。

 

『守るべきもの? 笑わせる! そんなもの、一つだってなかった! 鉄菜・ノヴァリス! お前が何もかも、全部台無しにしたんだ!』

 

「違う! お前は見ないようにしているだけだ。お前にしか出来ない事があった!」

 

『黙れよ! 旧式風情がぁっ!』

 

 トウジャタイプが大剣を振るい上げ、こちらへと接近戦を挑む。鉄菜は《モリビトシンス》を上昇させて逃れようとして、敵人機の思わぬ対空銃撃に怯んだ。

 

『林檎! そのモリビトとの戦いは因縁と見た! ならばお前には満足いく戦いを!』

 

 ナナツーとバーゴイル、それに中央で指揮する《フェネクス》が放つ火線に鉄菜は回避運動を取らせるが、それはトウジャタイプの射程であった。

 

『もらった!』

 

「させるか!」

 

 袖口より出現させたRクナイで敵人機の大剣を縛り上げる。しかし、それを物ともしないほどの膂力で敵は捕縛を引き千切っていた。

 

 明らかに細身のトウジャのパワーを超えている。機体関節各所で煌く青い輝きに、鉄菜はハッとする。

 

「ハイアルファー人機か……」

 

『そう! ハイアルファー【ハウル・シフト】、起動!』

 

 刹那、敵人機が空間を飛び越えたとか思えない速度で接近する。否、これは接近など生ぬるい。

 

 空間を跳躍し、その間の全ての事象を歪めて肉迫した。

 

「……機体のパワーとスピードの底上げ……。それだけではないな。何か……窺い知れないが、何かが……」

 

『観察している場合かよ! お前を墜とす!』

 

「墜ちるわけにはいかない! 《モリビトシンス》!」

 

 薙ぎ払われた大剣をRシェルソードで受け止め、もう一方の腕よりRクナイを発射する。

 

 クナイの切っ先に込められた銃口が火を噴き、敵トウジャタイプを怯ませようとした。だが、それを読み切ったかのように敵は一瞬にして直上に至る。

 

「……速いな」

 

『鉄菜、純粋な速度ではない。あれは、事象を捩じ曲げている』

 

「どういう事だ?」

 

『余所見を! している暇があるのか! モリビトォッ!』

 

《キリビトイザナミ》から稲光が放たれる。その放射線を《ナインライヴス》がウイングバインダーで防いでいた。

 

 しかしすぐさま血塊炉を搭載したはずのバインダーが根元から砕け落ちる。

 

『クロ! こいつの相手はモモが!』

 

『邪魔立てを! お前も、モリビトなのか!』

 

《ナインライヴス》と《キリビトイザナミ》が交戦に入ったのを確認してから、鉄菜はトウジャタイプに意識を割いた。敵機が空間に割り込み、大剣を振るう。その太刀筋自体は読めないものではない。だが、突如として空間を飛び越えるこの速度だけはどうしても習い性だけでは回避が難しい。

 

『墜ちろォッ!』

 

「Rブレイドで!」

 

 腰に提げたRブレイドを逆手に握り、敵の大剣と打ち合わせる。干渉波のスパークが散ったのも一瞬、Rブレイドより発振したリバウンド刃が大剣の軌道をぶれさせた。直後に放った高周波振動が大剣を割ろうとしたのを察知したのだろう。相手が刃を離す。

 

「……新武装であるRブレイドを、ある程度読んでくるか」

 

『ブルブラッドキャリアなら、どんな兵器を使ってくるかくらい予測がつく。そこにいたんだからね』

 

 林檎の声音に鉄菜はアームレイカーを握り締めた。

 

「どうして……、ならば何故! 裏切るような真似をした! 林檎・ミキタカ!」

 

『それはお前がいるからだろう! お前さえいなければ、ボクが最強の操主だった!』

 

 またしても瞬間移動としか言いようのない速度で敵機が迫り、鉄菜はRシェルソードで大剣を受け流しつつ、Rブレイドを装甲へと叩き込もうとする。握り手に返しがついているRブレイドは敵の実体格闘兵器を破る役目も果たしているのだが、この時、あまりにも敵の速度が想定外であった。

 

 近づいてくるのも速過ぎれば、遠ざかるのももっとそうだ。

 

 目視出来るのが不幸中の幸いだったが、それでも反応の限界点すれすれを見せてくる。

 

『鉄菜、分析の結果、あの人機は速度自体にはさほど出ているわけではない。ゆえに、お前が反応出来ているのだろう』

 

「どういう事だ。速度による圧倒ではない、と?」

 

『ハイアルファーだろうな。あれが座標軸を跳躍させている。あのハイアルファー人機は文字通り、空間を飛び越えているのだ。二点……現時点での観測結果に過ぎないが、恐らくは二点の座標を意図的に繋げ、その領域内にある物質、摩擦、空気抵抗、それにあらゆる物理干渉をなかった事にしている。極めて限定的なのはそれほどの計算軸を即座に反応に組み込めないからだろう。もし、あれが本来の用途であるところの、物質破壊に充てられているのだとすれば、今頃《モリビトシンス》など塵芥だ。こちらの位置する座標を組んで二点、ないしはそれ以上の座標軸で囲み、なかった事にすればいいだけなのだからな』

 

『お喋り。だからゴロウ、お前は好きじゃなかった』

 

 刃を突きつけるトウジャに、鉄菜は声を張り上げていた。

 

「……どうしてだ。蜜柑・ミキタカは、泣いているんだぞ!」

 

『……うるさい。そんなの! ボクに関係ないだろ! お前にだって、言われる筋合いはない! 行け! 《エンヴィートウジャ》!』

 

《エンヴィートウジャ》と呼称された人機が空間を飛び越えて懐へと入る。鉄菜はRシェルソードで弾き上げて敵を下がらせようとしたが、その間合いを相手も熟知している。

 

 浴びせ蹴りのもたらす損耗に注意色に染まるステータスを視野に入れつつ、Rブレイドで隙を突いていた。

 

 敵機が瞬時に後退する。

 

 つかず離れず、同じ距離からの近接戦闘。それはこのハイアルファー【ハウル・シフト】の真骨頂なのであろう。

 

 だが疑問が残る。それほどのハイアルファー、確実に身体を蝕む何かがあるはずなのだ。

 

 それを汲んでまで、何故自分にこだわるのか。

 

「……林檎・ミキタカ。お前には帰る場所がある。家族だっている。何が不満なんだ」

 

『……分からないだろうね。旧式には、さぁ! 持っているものの幸福感がある、お前には!』

 

「持っている、だと……。私には何も……」

 

 いつもならば、ここで否定する。だが先ほど、抱えてしまった。抱えていいのかと、皆に問いかけてしまった。ゆえに、ここで何もないと口にするのは彼らの厚意を侮辱する。

 

『そこで口ごもるのが! 気に入らないって言っているんだ!』

 

《エンヴィートウジャ》の格闘戦術が《モリビトシンス》へと叩き込まれる。《モリビトシンス》はそのまま海面すれすれを波立たせながら疾走した。

 

 Rシェルライフルを照準し、《エンヴィートウジャ》へと照射する。しかし、相手の反応速度が遥かに勝っていた。

 

 またしても空間を跳躍し、その機体が大写しになる。鉄菜はRブレイドを払っていた。

 

 大剣と打ち合うが、Rブレイドの弱点を既に看破したのだろう。敵は果敢にも攻めてくる。

 

『その刀、あんまり力を入れられないみたいだね。返しがついていたって、慣れない装備じゃあ、さぁ!』

 

 すぐに押し返され、《モリビトシンス》へと刃が叩き込まれようとする。鉄菜は《クリオネルディバイダー》の持つリバウンド出力を上げた。盾の防衛性能が波を逆立たせ、蒸発し、一時的な霧を作り出す。

 

 その霧で一撃が逸れた。いつもならば、この一瞬の隙を逃さない。

 

 しかしこの時、鉄菜は上方に逃げるだけで、致命的な一撃を加えようとは思わなかった。

 

 その様を理解してか、敵機が刃を突き上げる。

 

『嘗めるな……、今! わざと逃がしただろ!』

 

「……林檎・ミキタカ。戦いたくない。出来ればブルブラッドキャリアに――」

 

『無理に決まっているだろ! お前がいるブルブラッドキャリアなんて、願い下げだ!』

 

「だが、蜜柑・ミキタカの……、みんなのいる場所なんだぞ」

 

『みんなってなんだよ! お前が、そんなに馴れ馴れしく! そんな風にするから、ボクは!』

 

「林檎・ミキタカ! お前はまだ戻れる! 戻れる場所にいるはずだ!」

 

『戻れるもんか! 何もかも壊してやる! そのいけ好かない、《モリビトシンス》も!』

 

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