ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯351 姉妹の絆

 弾幕を張って牽制するも、敵機はうろたえずに煙幕を引き裂き、プレッシャーソードを見舞う。その剣閃に、蜜柑はアームレイカーに通した指先を手繰らせる。

 

 瞬時にRトマホークを振るい上げたのは、この時、蜜柑の習い性ではない。機体に染みついた林檎の行動パターンであった。今の蜜柑は一人で二人分の働きをしているも同義。指先に接続され制御キーを保持し、一進一退の攻防を繰り返す。

 

『いつまで! ブルブラッドキャリア! いつまでこんな戦いを続ける気なのですか!』

 

「……そっちが諦めるまでに、決まっているじゃない……」

 

 喉奥より発した声に相手操主の声が被さる。

 

『……醜悪な』

 

「それを言えるのは、あんた達じゃないって話でしょ!」

 

 打ち下ろしたRトマホークの一撃が《イクシオンアルファ》へと突き刺さり、敵機が月面へと落下する。その途上にあった機体が不意に浮かび上がり、応戦の砲撃を照準していた。

 

 蜜柑は《イドラオルガノンアモー》の操縦系統にアクセスする。

 

 いくつもの照準器が《イクシオンアルファ》をロックオンし、この時正常に――機体各所より青白いミサイルの尾が引かれていた。幾何学の軌道を描くミサイルを《イクシオンアルファ》は応戦しようとして、青い霧が宵闇に咲いたのを目にする。

 

『アンチブルブラッド兵装……!』

 

「《イドラオルガノンアモー》を、嘗めるなァッ!」

 

 加速推進剤を焚き、《イドラオルガノン》が急速接近する。しかし、それは相手の距離でもある。プレッシャーソードを払い上げた敵機とRトマホークが打ち合い、干渉波を散らせた。

 

『……随分と小生意気に……。片割れを失った人機がァッ!』

 

「吼えるんなら後にして! ミィ達は、これでも忙しいッ!」

 

 互いに後退し、応戦の火線を咲かせる。《イドラオルガノンアモー》の隠し腕に仕込まれていたプレッシャーライフルが火を噴き、《イクシオンアルファ》を追い込んでいた。

 

 だが、敵機から余裕が消えた様子はない。それどころか、追い込まれているのに何かを潜めているかのようであった。

 

 その第六感は習い上げたものではない。地上戦闘で、何度も味わった悪寒。首裏に差し込まれたような冷気である。

 

 ――何かある。

 

 その予感に、蜜柑は追撃の《イドラオルガノン》を急上昇させていた。直後、そのまま加速していれば突っ込んでいた空間を爆発が彩る。

 

 敵機がワイヤートラップを仕込んでいたのだ。舌打ち混じりに《イクシオンアルファ》がワイヤー武装を捨て去る。

 

『小細工にかかれば、まだ容易かったものを!』

 

「悪いわね。容易いように、出来てはいないんだからァッ!」

 

 突っ込んだ《イドラオルガノン》と《イクシオンアルファ》がもつれ合う。近接兵装が軋り、刃を顕現させて互いを貫かんとした。

 

《イドラオルガノンアモー》が右腕に仕込んでいた近接信管を抜き、宙域にばら撒く。無数の弾道が一斉に《イクシオンアルファ》へと殺到した。

 

 その攻撃を満身に受けてもなお、敵は健在である。

 

『甘いとすれば、それは損耗戦! 《イクシオンアルファ》はまだやれる!』

 

「墜ちれば、かわいいってのに!」

 

 焼け爛れた装甲を晒し、こちらを睨んだアイカメラの眼光へと、《イドラオルガノン》は拳を浴びせていた。至近距離の打撃に敵も応戦する。

 

『……どの口が言う!』

 

 払われた一閃が《イドラオルガノン》の胸元を引き裂いていた。血塊炉が露になり、注意色が眼前で明滅するが、蜜柑はそれを振るい去った。

 

《イドラオルガノン》が敵機体へと左腕の砲弾を見舞う。それを相手はプレッシャーソードで割り、近接戦へともつれ込んでいく。

 

『運がありませんでしたね! その機体、中距離向けェッ!』

 

 至近距離で割られた弾頭よりアンチブルブラッドの濃霧が張られた。その中で動きを鈍らせつつ、敵人機が肉薄する。

 

 ――この霧の中で最初に動けたほうが勝利する。

 

 完全なる賭けの支配する戦場で、蜜柑は《イドラオルガノン》のアームレイカーを何度も引いていた。

 

「動いて! 動いて、動いて! 今、動いて勝ってくれなきゃ……何のために! ミィ達は、何のために生まれたって言うのよォっ!」

 

 濃霧の中で《イクシオンアルファ》の赤い眼光が照り輝く。ああ、と蜜柑は諦めの中に己を置こうとした。せめて最後は潔いほうがいいのではないか、と。

 

 ――悪癖だな、蜜柑の。と誰かの声が弾ける。

 

 その声を耳にした瞬間、蜜柑の意識は月面ではない、草原にいた。

いつもの訓練場で桃の叱責が飛ぶ。

 

 ――いい? 敵は待ってくれないの! こちらから打って出ないと! 林檎! 蜜柑、遅れないで!

 

 その指示の声に従った己の半身に、蜜柑は瞠目する。生きていた、と唇が紡いだその時、相手が笑いながら声にする。耳触りのいい声が、近くで弾けていた。

 

 ――「馬鹿だなぁ、蜜柑は。いつだってにぶくって……」――。

 

「……うるさいなぁ……。林檎だって、そうでしょ」

 

 瞼を開く。そう、まだ死んでいない。まだ、この身は生きている。この身体は、前に進もうとしている。それならば、諦めを踏み越えて、そしてこの荒野に――。

 

「――刻めェ――ッ!」

 

《イドラオルガノン》の眼窩が輝きを宿し、プレッシャーソードの一閃をその手で掴み取っていた。まさか、R兵装を素手で掴むとは思ってもみなかったのであろう。敵の狼狽に、《イドラオルガノンアモー》は最大出力のRトマホークを払っていた。

 

 敵機の躯体へと斜に攻撃が走り、《イクシオンアルファ》が身悶えする。プレッシャーソードを払い上げ、《イクシオンアルファ》がとどめの斬撃を見舞おうとした。

 

『この……生き意地の汚い人間がァーっ!』

 

「そうよ……。ミィは人間……ただの、ここでしかない、人間なのよ。だからこそ、強いのだと、知れェーッ!」

 

《イドラオルガノン》の機体制御系が《イクシオンアルファ》に振り回される。その膂力に右腕が引き千切られた。

 

 だが、それが本懐ではない。

 

《イドラオルガノンアモー》より分離した背面バックパックが展開し、振り返っていた。その双眸には意思が宿っている。

 

『……《イドラオルガノン》の追加装備だと?』

 

「《モリビトイドラオルガノンジェミニ》……。殲滅行動に入る!」

 

『小癪な……。墜ちろよッ!』

 

《イドラオルガノンアモー》を敵は振りほどこうとして、その機体が組み付く。思わぬ事態に蜜柑もうろたえていた。

 

 まさか、無人のはずの《イドラオルガノンアモー》が稼働する理由がない。

 

 しかし、直後、Rトマホークを振るい上げたその姿に、蜜柑は全ての意味を悟っていた。

 

 ――いつだって、馬鹿みたいに大上段に得物を振るい上げて、敵へと果敢に向かっていった、あの姿の残滓が……。

 

「ああ、林檎。そこにいたんだね……」

 

 Rトマホークが《イクシオンアルファ》の肩口より突き刺さる。敵の離脱挙動を抑え込んだ《イドラオルガノンアモー》の助けを得て、《イドラオルガノンジェミニ》が武器腕を突きつけていた。

 

 敵の弱点――頭部コックピットへと。

 

 ゼロ距離で固めた戦意に敵操主が声にする。

 

『……あなた達の都合で撃つと言うのか! この先の未来を!』

 

「違う! 未来は、ミィ達が作る! 壊しながらでも作り上げるから、未来なんだァッ!」

 

 充填されたR兵装の輝きが凝縮し、《イクシオンアルファ》の頭部を射抜いていた。

 

 リバウンドの灼熱に焼かれ、《イクシオンアルファ》の頭部を失った骸が宙域に漂う。蜜柑は《イドラオルガノンアモー》へと再びジェミニ形態の機体を接合させていた。コックピットが背部よりメインへと戻り、そして二人分取られた複座式のコックピットを撫でる。

 

「……林檎……。お姉ちゃんはいつだって、ここにいるんだね。だったら、ミィは! 迷わず進める! 林檎に恥ずかしくないような生き方をしたい! それが、ブルブラッドキャリアの、モリビトの執行者なんだからッ!」

 

《イドラオルガノンアモー》は眼光を滾らせ、《ゴフェル》へと推進剤の尾を引いて加速していった。

 

 

 

 

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