ジンキ・エクステンドSins   作:オンドゥル大使

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♯7 共通の敵

 開口一番に発したのは、あの機体はどの国の標準人機とも異なる、という見解であった。

 

 当然の事ながら、人機研究の第一人者である自分からそのような弱音の出た事を、同じ研究の分野の人々が糾弾する。

 

「標準人機ではない? それではどの国の人機だと?」

 

 開かれたのは有識者会議だ。ブルブラッドキャリアに関しての情報開示と、モリビトという機動兵器に関しての情報共有が表向きだが、顔を突き合わせる誰もが腹の探り合いを早速始めている。

 

 ここに集ったのは各国の人機研究の頭脳達。当然、あの人機を造ったのはお前か、という目線が交わされ合う。疑念の有識者会議でタチバナは代表者として発言していた。

 

「恐らく、惑星圏内の人機ではない、と。パーツ規格は既存のものである可能性が高いが、ブルブラッドエンジンとその設計思想は全く新しいものではないかと考えられる」

 

「しかし、この百年余り、全く新しい人機など開発されたためしがない。《ナナツー》、ロンド系列、それに《バーゴイル》であったか。この三機をベースとし、派生した機体は製造されたものの、本当の意味での新型は存在してこなかった」

 

 タチバナはその事実とブルブラッドキャリアの宣戦布告を照らし合わせる。百年前に追放された原罪の人々。彼らが有するモリビトなる新型人機。

 

「モリビト……ゾル国の撃墜王の称号以外で考える場合、やはり百五十年前に開発されたという幻の機体の線を洗うしかないだろう」

 

 その言葉に一人の研究者が卓を叩いた。

 

「幻の機体? トウジャ、キリビト、モリビト、と呼ばれた三つの機体の事か? あれは開発計画が頓挫したものだ。そもそも製造されなかった、とされる文献もある」

 

「しかしそう考えると辻褄は合う。百年前に追放された人々はモリビトの開発データを手に、宇宙に渡った。衛星軌道外でモリビトを静かに開発、製造したのだとすれば……」

 

 タチバナの憶測にすぐさま異議が飛ぶ。

 

「オカルトだ。第一、ブルブラッドエンジンをどこで、どうやって手に入れるというのだ。あれは惑星内でしか採掘されない。外に出た者達が新型ブルブラッド反応炉を手に入れられる道理がない」

 

「やはり、内通者の存在を視野に入れるしかありませんな」

 

 一人の発した苦言に他の研究者が反応して立ち上がった。

 

「貴様! 自分だけ蚊帳の外のような言い草を! そもそもここにいる有識者ならば、誰でも! ブルブラッドエンジンの密輸など簡単だ! 人工衛星の積荷に混じらせて宇宙に輸送すればいい!」

 

「それはあなたがやったから言える言葉か?」

 

 喧嘩腰の研究者達を諌めるのは不可能であった。水掛け論ばかりで話は一向に進展しない。

 

「モリビトの名前を……幻の機体の事を知っている者は数多いだろう。問題なのは、追放されたというブルブラッドキャリア。彼らの事だ」

 

「馬鹿馬鹿しい! あんなもの、捏造だ!」

 

 何の証拠もないのは確かだが、否定する論拠もないのも事実。タチバナは映像に映っていた禿頭の男性の事を思い返す。

 

「あの映像の人物は? 特定出来ましたかな」

 

「オガワラ博士、ドクトルオガワラと呼ばれている偉人だが、彼は既に死んでいる。五十年前にしっかりと葬儀もされた、立派な死人だ」

 

 死者からのメッセージ、というわけか。タチバナは強い顎鬚をさすって、その事実確認を要請する。

 

「関係各所にオガワラ博士の生死を今一度確認。本当に彼は死んだのか、その事実究明を」

 

「タチバナ博士、もしや、氏が生きているとでも?」

 

 それこそもうろくしたか、と揶揄された眼差しにタチバナは睨み返した。

 

「分からない。だが分からないままにしておいていい事案でもない。オガワラ博士がもし、生きているのだとすれば、ブルブラッドキャリアなる組織を立ち上げた痕跡程度はあるはずだ。その足跡を辿ればともすると、正体の見えない存在を詳らかに出来るかもしれない」

 

「そもそも、追放された人々というのは正式な記録ではあるまい」

 

 百年前に何が起こったのか。誰しも知る必要があった。ドクトルオガワラは本当に死んでいるのかも。

 

「ブルブラッドキャリアに関しての追加情報は?」

 

「依然として不明。追放された、とされる人々の真偽も……」

 

「嘘かもしれない情報に踊らされている、というわけだ。まさしく死者の饗宴だな」

 

 皮肉を入り混じらせた研究者が肩を竦める中、タチバナは一つでも確定情報が欲しいと呼びかける。

 

「モリビトに関してもそうだが、オガワラ博士に関しても調べを進めるように。モリビトと交戦した人々の情報は? まだ集まらないのか?」

 

 読み上げるのは世界各国の頭脳を突き合わせたこの議会に、ただ一人の凡人として召喚された諜報機関の男である。

 

 水無瀬、と名乗っていたか。

 

「C連合傘下のコミューンで目撃されたモリビトタイプです。画像は粗いですが、これと交戦した操主の情報は皆さまの手元にある通り」

 

《ナナツー参式》のテストパイロット――タカフミ・アイザワ。彼の実戦経歴と軍務が記された書類の文末には「該当条件なし」と記されている。ブルブラッドキャリアとモリビトのお膳立てのために用意された人間である可能性はシロという事だ。

 

「ただのテストパイロットかね」

 

「《ナナツー参式》を乗りこなしています。それなりに熟練度のある操主かと」

 

「それがこの様か」

 

 書類を叩いた研究者は、モリビトタイプに圧倒された《ナナツー参式》のスクラップを目にしていた。

 

 その現場にいたタチバナにも当然、疑問が上がる。

 

「現場にいた人間に聞くのが一番早いのではないですかね?」

 

「……ワシを疑っているのならば生憎だが、あの品評会には他にも五十名近くの政府高官がいた。彼らの証人尋問を済ませずして現場検証にはならない」

 

 そもそも、あの品評会そのものを計画したのはC連合のブローカーだ。そちらの方面で調べを尽くすのが当然であろう。

 

 自分を蹴落としたい研究者達は目に見えて落胆したのが伝わった。

 

「このモリビトタイプ、重武装型だとお見受けしたが、これほどの武装をどこで? 宇宙からやってきて補給もなしにこんな芸当が出来るとは思えない」

 

 やはり内通者の存在を疑う論調なのは相変わらず。タチバナも外壁警護の《ナナツー》を退けたほどの火力はどこから来るのか、気になっていた。

 

「重武装の武器腕に、その熱量を再利用した溶断クローか。さらに大出力のスラスターを装備。どこで買い揃えれば、ここまで整った装備が出来るのでしょうね」

 

「……映像には三機のモリビトタイプが存在した。残り二機は?」

 

 このまま牽制の言葉を投げ合っていても始まるまい。少しでも議論を前に進めるべきだろうとタチバナは顎をしゃくる。

 

「もう一機はC連合傘下のコミューンを襲ったロンド系列の機体を撃破したものを……。こちらも映像は大分粗いですが」

 

《ナナツー》から撮影された映像には大型のリアクターを装備した人機が映し出されている。航空装備に、逆関節の脚部。赤と白のカラーリングが施されており、驚嘆に値すべきなのは、ロンドタイプを破壊したのはそのモリビトの性能ではなく、中型の別の機体であった事だ。

 

「これは、サポートマシンか? しかもこの映像通りなら、この大型人機に合体するようだが……」

 

 映像がぶれているものの、大型のモリビトへと獣型の機体が収納されたのを確認出来る。

 

 合体する人機などここ百年余りで存在した事がない。コストパフォーマンスの点で全く割に合わないからだ。

 

 稼動させるに当たって血塊炉が複数必要になるだけではない。機体のOSにも複雑な動作を強いる事になる。現時点で、そのような器用なOSは存在しなかった。

 

「サポートマシンを駆り、加えてこの武装は……開発中のR兵装に映るが」

 

「リバウンド兵装は開発しているものの技術的な壁が立ちはだかっている難題。それを宇宙に追放された人々が先んじて造り上げた? 馬鹿な!」

 

 卓上を拳で叩いた研究者の苛立ちはここにいる誰もが分かっている。リバウンド兵装と呼ばれる領域に関してはエネルギー問題、加えてあらゆる課題が山積しており、一朝一夕で突破出来る部門ではない。それを百年前に宇宙に追放された人々が開発し終えているなど、地上の研究者ならば信じ難いのは当たり前だ。

 

「R兵装を発射可能なほどの大出力ブルブラッド……。さらにサポートマシンを使役出来る優秀なOSにAI、どれも国家が一つ二つ傾かなければ開発出来ないものばかり。ファンタジーではないのだぞ」

 

 眉間に皴を寄せた研究者のため息にタチバナはこの場を預かる身として、二機のモリビトに関する判定を下すべきであった。

 

「この二機を、別々に呼称する。中距離型、重武装のモリビトをタイプ01、大型のモリビトをタイプ02と敵性コードを打っておけ。ゾル国、C連合、ブルーガーデン、発信可能な全ての国家コミューンに、だ。どこが襲撃されても、情報が同期出来るようにな」

 

「ブルーガーデンにも、ですか……」

 

 その国家の名前を紡ぐと顔を翳らせる者達が多いのは、未だに拭えぬ偏見の証であった。

 

「実力のある操主が多いのは事実だ。たとえ開発の行き届いていない野蛮国家と、ゾル国とC連合が判断を下しているとしても」

 

 ブルーガーデンは他のコミューンとは連携体制が違う。王権制を未だに敷いている独裁国家だと考えられている。輸出入の形跡も少なく、どうしてそのようなコミューンがまかり通っているのかと言えば、資源採掘に全く困窮しない地域性が強いからだ。

 

 現にゾル国、C連合はブルーガーデンを一切通さない血塊炉採掘は不可能だとしている。それほどまでに資源の問題は深刻。ゆえに、ブルーガーデンに話を通さねばならない。モリビトが地上の技術者を使って製造されたのだとすれば、それはブルーガーデンも一枚噛んでいると考えなければ筋が通らない。

 

「あの独裁国家が作り上げた、妄言ではないのですか。それこそ、このモリビト騒ぎそのものが」

 

「可能性は捨て切れないが、ブルーガーデンに話を通さずして、この課題は突破不能。逆にいい牽制になるかもしれない」

 

「牽制?」

 

「ブルブラッドキャリアという組織があるとして、ブルーガーデンに関係のある組織ならば、ゾル国とC連合の体のいい戦争の火種になる。うまく事が運べばブルーガーデン一強のこの体制を打ち崩す事が出来る」

 

 まさか、そこまで加味した計画かもしれないとは誰も思っていなかったが、可能性を挙げるに当たって、国家同士の諍いの線はやはり疑うべきだろう。

 

 あるいはこの想像を思い浮かべさせるゾル国とC連合の陰謀説……いくらでも可能性だけならばここで挙げる事が可能だ。

 

 問題なのは、それが可能かどうかではなく、一つでもブルブラッドキャリアを追い詰めるためならばここで議論するべきだという事。

 

 せっかく各国の頭脳が突き合わされているのだ。ただ単に相手を揶揄し、ここで皮肉合戦を浴びせるよりかはずっと建設的だろう。

 

「……いずれにせよ、次にモリビトの現れるその時こそ、逆に好機だと知るべきだ。相手の手の内も知れぬ現在では打てる手も限られている。モリビトタイプ01、02を広域に情報発信。今分かっている情報だけでも掴ませておけ」

 

「情報に関する値段は?」

 

「……惑星の危機だ。そんな時にいちいち物価を気にするべきかね?」

 

 その言葉に研究者達は沈黙を是とした。

 

 たとえどこかの国家の陰謀であろうとも、あれほどの人機を製造したのだ。大国が作り上げた幻でも、その技術は喉から手が出るほど欲しい。全員の認識はそれで間違いないだろう。

 

「モリビトタイプを世界的な敵性人機とする。異論はないな?」

 

 降り立った沈黙がその答えであった。

 

 

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