どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第十話

 

 

 

 

「くっそしつこい!!」

 

 指にナイフを挟んで投げつけ、アクマ数体を破壊する。

 しかし、俺の視界からアクマが減ったようには見えない。それ程までに数が多いのだ。既に銃は撃ち尽くしたし、今のナイフで飛び道具は失った。あるのは無銘の剣一本。コチラもがたがきはじめている。

 

『ヒャハハ! 元帥のところにはいかせないよーん!!』

 

 剣を振るう。

 横、斜め、正面。斬っても斬っても湧いてくる。はっきり言って欝だ。飽きた、逃げたい。というか足止めにこの戦力とか有り得ない。師匠んとこ送れ、これでも足りないから。ジャスデビが仕留められてないんだから、手伝ってこい。

 あ、折れた。

 

『チャァーンス! 半殺しにして伯爵様のところへ連れて行け!」

 

「ざけんな! よりにもよってあのデブかッ! アバタ・ウラ・マサラカト・オン・ガタル!」

 

 師匠直伝、良くわからないところに武器収容しますよーの術。無駄に師匠との借金生活していた訳ではない。一応、ガサツに、間違えると酒瓶飛んできたりしたが術式の一部を教えてもらったりしていた。……今のところ出来るのこれだけだけど。

 師匠はマリアに使っているが、俺は武器庫に使っている。とはいえ、棺一つ分が限界だ。まぁ十分なんだけどさ。

 

『ぬぬぁに!? 導師だった!? やべぇ近づく――』

 

「おせえよ! 絶対俺は、デブに捕まってなんぞやらん!」

 

 棺から銃火器を取り出す。

 そう、この棺には銃火器とソコソコいい剣と愛用の無銘の剣を同じ型を十本ちょっと収納している。これさえ召喚に成功してしまえば、後は蜂の巣である。

 

『きたねぇ! それがエクソシストのやることかよっ!』

 

「きたねえもなにもねぇよ! 死ね」

 

『師匠が師匠なら弟子も弟子かっ! この外道――――――!!!』

 

 一瞬にしてアクマはその数を減らす。

 だが、俺はやめない!

 

「もう、言われなれちゃったのよな」

 

『ちきしょ――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何時も通りイノセンスの力を使い姿を隠蔽して街を抜ける。

 何だか最近異常に襲われるんだけど何かしたかな俺。

 あれから、奴らマジしつこかった。無論、ジャスデビの話だが。撒いたのにロードの扉で現れるもんだから気が気じゃなかった。不意打ちとか当然のごとくやってきたし。ビビって剣振ったら手からすっぽぬけてジャスデロのアンテナぶっちぎったのは悪かったと思ってる。

 

「ホント、時間がかかるな。一応、神田達の方にも足止めは行ってるはずだからまだ遠くへは行ってないはずなんだけど……そろそろついてもおかしくないはずなのに」

 

 列車、馬車を乗り継いで急ぐ。

 当然、乗っている時はイノセンスで隠蔽をかけている。じゃないと民間人巻き込んじゃうし。御陰で休む暇がない。ま、完徹は慣れているから平気だけどな! ……胸張っていうことじゃないよな。

 

「お客さん、そろそろつきますよ」

 

 俺は馬車から外を覗く。

 辺りは暗いが、一部分だけほんのりと明るい土地が見える。あれがバルセロナか。……よく見ると、あちこちで爆発起こってる。ピカピカ光ってるのはそうだろう。あと、変な虫みたいなの飛んでるし。あれ、神田の技だ。

 

「ここまででいいです。お金はここに」

 

「毎度、最近なにかと物騒らしいからお客さんも気を付けてな」

 

 そう言って業者さんは帰っていった。うん、軽く感動した。最近人の温かさに触れてなかったからジーンときたよ。最近はさ、顔色悪い二人組か鉄っぽい何かの塊に追いかけ回されてばかりだったから。というか、ジャスデビは俺にかまってないで師匠んとこ行けよ。担当は師匠のはずだろ?

 ああ、恋しき日常。こんな胃薬常備の日常とか要らない。求むのは平穏かつ安寧が保たれている日常。

 

「その為にも、いっちょ頑張りますかー!」

 

 今日の目標はティキ・ミック。

 デイシャ・バリーが殺される前に辿り着き、選手交代して足止めをする事。こんなところで戦力を失わせやしない。俺の平穏の為に頑張ってもらわなあかへんのや!

 そんな決意をしながら、姿を隠蔽しつつデイシャ探しを始める俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ティエドール部隊。

 

『チッ、あの野郎まだ来ねぇのか』

 

 調子の悪い無線ゴーレムから、不機嫌な神田の声が聞こえてくる。

 神田の言うあの野郎、それは先日連絡があったラスロの事を指す。ティエドール隊の内二人は増援に喜んだのだが、神田のみ、鬱陶しそうにブチギレた。彼曰く、『狸に知り合いはいねぇ』

 それを聞いたマリ、デイシャの二人は一体何があったのかたいそう気になったそうな。

 そんな神田だが、珍しくラスロがくることを認めていた。理由は簡単で、どんな奴でもいいから戦力が欲しいからである。空には黒く丸い物体がフヨフヨと。それに混じって奇妙な形をしたものまで飛んでいる。レベル1とレベル2のアクマの群れだ。何でもかんでもぶった斬ってきた神田だが、流石に飽き飽きしたし疲れてもいたから意見をするりと変えたのだ。

 

「そろそろつくころじゃん? アイツ、ゴーレム持ってないから連絡つかねえけど」

 

『いや、着いたらしい』

 

 そんな通信に、聴覚が異常に鋭いマリが割り込む。

 マリは偶然ではあるが、聞き覚えのあるノイズを街の外から感じ取った。二つあるのち、一つ。イノセンスの感覚がしたから気づくことができた。

 

「じゃ、ちょっとは楽になるじゃん」

 

『しゃくだがな。俺はオッサン並にアイツが嫌いだ』

 

(ホント、何があったじゃん……)

 

『それより、お前達は今何処にいる? 私は目印になりうる例の塔から西に五キロだ』

 

『俺は――――――南だ』

 

「あー、俺は東に三キロ近くじゃん?」

 

 デイシャはゴーレム越しい距離を伝えるが、ザザというノイズ音に邪魔をされる。

 

『音が悪いなデイシャ。調子が良くないようだ』

 

「みたいじゃん。こりゃあ変え時じゃん?」

 

 コツコツと無線ゴーレムをこづくデイシャ。

 叩けば治る、何処の言葉だったか。確かラスロが言ってたなと思い出す。そう回数会った事はないのに、妙に印象に残る男だった。飄々とし、得体のしれない何かを抱えてそうな男、流石は例のクロス元帥の弟子だと当時は思ったものだと苦笑いを浮かべた。

 帰ってきては消え、帰ってきては消え、最近は四年という音信不通新記録をたたき出していた。……師匠同様に。自身の師であるティエドール元帥もまた、苦笑いしていた事を思い出し少し吹き出す。

 

『どうした、デイシャ』

 

「いや、何でもないじゃん。それより、この長くなりそうな夜どうするじゃん?」

 

 未だ雑音を排除できない無線ゴーレムに話しかけながら空に浮かぶ月を眺める。三日月を遮る黒いぽつ。アレ全てがアクマだと思うとやるせなくなってくる。

 

『取り敢えず集まろう。十キロ前後ならばゴーレム同士で場所を辿れる』

 

『場所はどうする?』

 

「マリのおっさんとこで。オイラと神田が向かう」

 

『了解した。……時間は?』

 

『夜明けまで、だ』

 

 神田がそう言うと、デイシャは立ち上がり駆け出す。それはきっと神田も同じだろう。マリであれば、その場を動かないように息を潜めるか、襲ってきた敵を破壊するかだ。

 

「さってと、行くじゃん!!」

 

 身軽に建物を蹴り飛ばし駆け抜けるデイシャ。

 そして数分もせずにアクマ共が群がってくる。それに対しデイシャがとる行動は一つ。

 

「『隣人の鐘(チャリテイ・ベル)』発動!」

 

 同時に、デイシャの帽子についていた鈴の様なものが落下し足元へと移動する。デイシャはそれを当然のごとく、前へと蹴り出した。目標は前方のアクマ。真っ直ぐに飛んでいったデイシャのイノセンスは、見事にアクマの額に穴を開ける。

 しかし――

 

『――そんなちっぽけな弾じゃ壊せねぇよぉ』

 

 アクマは聞いた様子もなくヘラヘラ笑う。赤ん坊のような形と顔をしていることからボール型から進化したレベル2であると分かる。デイシャはニヤニヤするアクマを逆に嘲笑し指を指す。

 

『あぁ? んだよぉ?』

 

「なぁに、ちっさいからって馬鹿にすんなって事じゃん。聞こえてくるじゃん、鐘の音」

 

 何を言ってるんだと再び笑いだそうとするアクマだが、いきなり頭部に亀裂が走った。

 

『な、なな!?』

 

 怯えるアクマ。

 デイシャはアクマを見据えながら言う。

 徐々に大きくなっていく鐘の音は、アクマの頭部から聞こえてくる。

 

「音波による内部破壊じゃん? もう一度言う、小さいからって馬鹿にすんな」

 

『が、ああああ!?』

 

「言葉を出せないか。じゃぁ、鐘になっちまえ」

 

 そして、アクマは鐘の苗床となり付近のアクマも纏めて吹き飛ばしてみせた。

 

「ちゃっちゃと行くじゃん!」

 

 自然と戻ってきたイノセンスをボールの様に蹴りながら再びデイシャは走り出した。その方向に、どれだけ危険な存在が潜んでいるかも知らないで。

 

 

 

 

 

 

 そしてその危険な存在であるノアの一族ティキ・ミックはカードを片手に歩いていた。

 中には囚人が入っており、ティキが消した人物名をモップで消していく役割を持っている。つまり、ティキが殺せば殺すほど、檻の中の文字は消えていく。そんな文字、名前の一つに視線を向ける。

 

「ラスロ・ディーユねぇ。しかも偽名ときた。そんでもって本名は某裏切りの騎士? だっけか?」

 

 学がないから今一分かんないんだよなぁと呟くティキ。学がなくともそれくらいは知っておけと突っ込んでくれる人は誰もいない。ティキは今、一人なのだから。

 白を人間のティキと言うのなら、黒はノアであるティキ。白であれば人を愛し娯楽を共に楽しむことだって出来るが、今のティキは黒。ノアとしてエクソシストを殺す、殺人鬼だ。

 

「にしても、千年公が敵視して、ロードが気に入って、更にジャスデビに借金関係で追いかけられるって……明らかに何か抱えてるだろ」

 

 ため息をつくティキ。

 しかし、裏腹に面白いと感じている自分もいた。

 ノアがこぞって、方向は違うが興味を持つ男。それも、エクソシスト。

 

「つっても、会うのはまだ先になるだろうな。……リスト多すぎだろ」

 

 そう言えば何が基準で選ばれているのか知らないなと、少し気になった。ラスロだけであれば、目を付けられてるからで済むが、他はどうなのだろうか、と。

 

「……ま、俺には関係ないか。やることやって帰るんだし」

 

 先ずはどこを目指そうかなぁ、とリストを眺めながら考える。

 探すのも面倒、というかロードの扉使えばもっと早くできるんだしそうすべきじゃ? とか学がないくせに頭が回った。きっと、ティキが早く帰りたいと思っているからだ。

 

(こっちの生活、長くなりそうだな)

 

 所謂白の時の居場所。

 暫くは帰れない、温かみのある場所。家族とは違った温かみであるとティキは認識している。

 

「ま、ドッチの俺もあるから、楽しんだけどさ――――」

 

 黒の時、エクソシストを殺したときの感覚。

 正確には殺せなかったが、抉った時の感覚が忘れられないティキ。白と黒、危うい均衡にいることに本人は気づいていない。

 

「壁抜きじゃん! 請求は教団に!」

 

 そして、ティキは会合する。

 いきなり目の前の壁をぶち抜いて現れた黒の敵であるエクソシスト。デイシャ・バリーと。

 

 

 そこに異様なスピードで向かう、ネズミが一匹いたりする。

 

 


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