どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第十二話

 

 

 

 

 黒の教団本部、そこの広間には幾つかの棺桶が並べられていた。

 特殊な装飾を施された棺が一つ、そして十字架が刻まれた棺桶は十幾つと綺麗に並べられそれに寄り添うファインダーが涙を流し声を押し殺して泣いていた。

 仕事中、報告を受けて現状の確認に来たコムイは目を見開く。

 その隣ではリーバー班長が目を伏せながら、状況の説明を始める。

 

「今回の戦闘で、クラウド隊、ソル・ガレンが死亡。またファインダーも多数死亡しており、計三十九名の死亡を確認しました」

 

 たった数日。

 その間に神の使徒が一人やられ、ファインダーもまた多く死んでしまった。あの伝説の一族ノアに目を付けられていてもなお、それだけで済んだのだから幸運とも言えるのだが、そう割り切れないのが人である。

 様子を見に来た他の団員も、並ぶ棺桶を見て驚きの声を上げる。同時に、そのことに絶望し伯爵に殺されると怯え出すものまで現れた。その恐怖は自然と広がり、皆の顔を曇らせていく。

 そんな中、コムイはゆっくりと帽子をとって散った仲間に対して頭を下げた。

 

「おかえり。……頑張ってくれて、ありがとう」

 

 それしか言えない、そのことが歯痒くてしょうがない。

 そんな思いを胸中に抱きながら、コムイはその場を後にした。

 

 

 

 

 

「室長、ちょっといいですか?」

 

 あの場を後にしたコムイは、室長室へと帰ろうとしていたのだがリーバーによって止められる。リーバーは止まったコムイの隣に並ぶと、資料を出しながら歩きだした。

 

「それで、どうかしたのリーバー君」

 

「ええ、少し。実はティエドール隊から連絡がありまして……ノアと、遭遇したと」

 

「!」

 

 コムイは口を挟むことをせず、先を促すようにリーバーの話を聞く。

 

「デイシャ・バリーの報告によれば、身なりがよく、肌も黒い。また、額に十字があったそうです。これは、アレン達がいうロードと言うノアと同じです。また、特殊な力を使ってきたとも報告が」

 

「特殊な、かい?」

 

「はい。どうやら、物質を透過する能力のようです。壁、地面に消えたり、体に手を突っ込んで心臓を取られそうになったとか……」

 

 物騒な言葉にコムイは顔をしかめる。

 

「それで、デイシャは無事なんだね?」

 

「一時期追い詰められたそうですが、今は本来の任務に戻っています。ただ――」

 

「ただ?」

 

 リーバーは、一瞬躊躇うが、黙っているべきことじゃないとして事実を伝える。

 

「――デイシャ・バリーを救助した、ラスロが……行方不明になりました」

 

「――――――――」

 

 コムイは頭を回転させる。

 今までの情報から、デイシャはノアと出会い戦闘に。だが、勝てず。心臓を抜かれるやらで殺されかけたところに、ティエドール隊と合流したラスロがその場を受け持った。……そして現在、行方不明。

 

「デイシャを確保した後、神田、マリの両名がデイシャと共に現場へ向かったらしいのですが残されていたのは剣の残骸と折れず残っていたラスロの愛剣だそうです」

 

「マリの、聴力でも確認できなかったんだね?」

 

「…………はい」

 

「分かった。他の隊への連絡事項から――――――」

 

 どうするべきか。

 エクソシストが計二名やられたかもしれない。それを他の隊に連絡するか否か。

 動揺を招かないか? と、考えたところで問題のないことに気づいた。

 

「―――普通に連絡しておいて」

 

「いいんですか?」

 

「うん。だって、ラスロくんだからね。行方不明って言われて死んだって思う人もいるだろうけど、すぐに思い出すさ」

 

 ――そう、いつだって行方不明になっても帰ってきた、と。

 リーバーもまた、そのことを思い出し苦笑いを浮かべた。

 

「きっと、無事だよ」

 

 それでもやはり、ノアと言う存在が絡んでくる以上、不安は消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるなぁ鬼畜くん。もっと楽しもうぜ?」

 

「断る! なんでお前らノアは戦闘大好きっ子が多いんだよ!」

 

 既に夜は明け、太陽が登って朝である。

 あの後、ちょっとの間バルセロナで戦闘していたのだが辺りには民間人の家ばかりと言うことに気づき全力でその場から後退し町外れの疎外地まで移動したのだ。

 

「乱射、いっくぞー?」

 

「げっ! またか!」

 

 俺は数少ないスコーピオンを片手に構え、気にせず乱射する。

 ティキはそれを慌てて回避するが、もう一方に持つ剣で切りかかる。

 

「っぶね! 一体幾つ持ち歩いてんの、それ?」

 

「棺桶一杯ですがなにか?」

 

 ひくっと頬を引き攣らせるティキなぞ無視する。

 こっちはできる限り、大体あと一日こっちに縛り付けないとならんのだよ。そうすれば、他のエクソシストは元帥の元へとたどり着くだろう。たどり着いてしまえばコッチの勝ち。何せ、元帥であればノアすら圧倒できるのだから。

 

「にしても、よく飽きないな。場所変えたときついてこないと思ってたんだけど」

 

 そう言うと、ティキは笑う。

 

「そうなんだけどさ、鬼畜くん。実は俺、今要人の抹殺とやらをやってんだよ」

 

 知ってます。

 師匠の名前もあったよね、頑張ってください。せめて、借金作る暇がなくなるくらい頻繁に襲ってあげてください。そうすると皆幸せ。……しかし、何だろうねこの感じ。嫌な、喜ばしくない事実が分かってしまうような……え、聞く前に帰ってもいい?

 

「帰っても?」

 

「俺だって帰りたいさ。でも、面倒な事に書いてあるんだよ」

 

 指さすのは、隣にフヨフヨ浮いているカード。

 あれ、確かリストだよな。要人関係者抹殺リスト。……で、なんで指さすの?

 認めたくない現実から目をそらしたい。

 胃が、締め付けられてる。

 

「ラスロ・ディーユ。それって鬼畜くんだろ? しっかり書かれてる。……他の名前より濃く、大きく」

 

「あんのデブ公! 粘着質な奴だな! 嫌がらせの天才かっ!!」

 

「その、嫌がらせの天才はそのまま返す。不意打ち上等銃火器上等のエクソシストとかそれ以外のなんでもないだろ……」

 

 会話をしながらも、互いにぶつかり合い、弾き合う。

 俺は剣、ティキは変なエネルギーの塊の様なものを手にまとってぶつけてくる。

 

「取り敢えず、鬼畜くんには眠ってもらわないとな。ロードがお熱だから四肢もぎ取って連れて帰る事になってるんだ」

 

「テメェの方がよっぽど鬼畜!」

 

 ぞわりと走る怖気を振り払い、何時になく全力で剣を振り下ろす。

 

「文句はロードに言えよ。殺さず連れてこいって言うから、千年公が条件つきで許可したんだから。意外と千年公も快諾したんだけど、ホント何したの?」

 

「結局決定したのはあのデブかっ! 人類の敵ィ!」

 

 より一層力が入る。

 今なら師匠にですら襲いかかれそうである。……勝てる勝てない別でな。いや、うん、幾ら想像しても酒瓶で殴られる俺しか想像できない。

 

「な、何で涙がホロリと出てんだよ?」

 

「文句は師匠に言ってくれ! ああ、ホント神様は俺の事が嫌いらしい!」

 

「エクソシストの発言か!? 咎落ちしないのにお兄さんビックリなんだけど」

 

 しりませーん。

 戦え戦え逃げるな逃げるなうるさい声なんて聞こえませーん。以前、うるさいと伯爵につきだすよとか言ってません。本当に。まぁ、そんな事実際にすると俺死ぬんだけどね?

 シンクロ率低いのってそれが原因かな。

 俺、普通に敵前逃亡とかやって退けるし。

 なにより、この世界に馴染みきるつもりないし。

 きっと、このイノセンスが特典モドキだから咎落ちしないで済んだんだよと俺は納得している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまた数刻。

 

「いい加減、もがれてくれない?」

 

「アホ、か。誰がもがれにいくか。それより、いい加減縛られてくんね?」

 

 手足をもごうとする黒い男。

 対するは鎖をジャラジャラさせて縛ろうとする男。

 見る人見れば変態が二人いるようにしか見えない。

 

「ほら見ろ、小さい子供に後ろ指さされて、その母親に見ちゃいけませんなんて蔑んだ目で見られてる」

 

「いや、何処にもいないだろそんなの」

 

「想像してごらん?」

 

「妄想か鬼畜くんって――想像させるつもりないだろ、その銃しまって言えよ!」

 

 無理か。

 ちょっと妄想に浸ってるところを数発撃とうと思ってたんだけど。その為に、案外この状況下で想像しやすそうな例を出したんだけどちょっとだけ、銃を取り出すのが早かったか。失敗失敗。

 

「あー、何か千年公が狸っていう理由が分かった気がする」

 

「やめぇその不名誉な渾名。お前らノアと廃棄物は狸=ナマモノ=俺という式が成り立つとかおかしいんだよ」

 

「自覚がない時点で色々終わってるよ、鬼畜くん。まぁ俺も大差ないけど」

 

 振り下ろす剣、振り払われる剣。

 突き出されるティキの手刀、叩き落とすティキの手刀。

 状態は拮抗しているのだが、そろそろバランスが崩れるだろう。

 ――ティキ側へと。

 何せ武器が減っている。

 正直ソロソロ決めないと、俺が肉だるまになってロードに遊ばれるの図が完成しかねない。

 

「どうした鬼畜くん、思い切りが悪くなったな!」

 

「っ! 気にすんな!」

 

 そう言いつつも、やはり手数が足りなくなってくる。

 するとティキ、遂にイノセンス破壊の力を使用し始めた。御陰で擬似イノセンス化している武器は先程より長持ちしなくなる。もう限界なのかもしれない。

 時刻は夕暮れ。正直腹も減ったし体が限界を訴えてくる。

 一度疲れを認識してしまうと、無視できなくなる。

 

「どこ見てる?」

 

「ぐっ!?」

 

 ティキの、イノセンス破壊の力が俺の眼前に迫っていた。

 仕方なく、犠牲にする片手剣。

 

「それで、完全にふせげると思うなよ?」

 

 ティキの拳と剣が接触した瞬間、ティキの力が増し呆気なく俺ごと吹き飛ばす。

 流石に意識が飛びかけ、何処かの建物の中へと突っ込む。

 

「ぐ、あ……流石に、シャレにならん……」

 

 瓦礫を押しどけながら立ち上がるが、足が震える。

 パン、と空いてしまった両手で頬を叩き喝を入れてごまかす。それにしても、武器がない。もう一度棺桶を召喚している暇はないだろうし、かと言って手持ちの武器は補充したナイフ数本に懐に忍ばせてあるリボルバー一丁のみ。不意をつきたいが、体の動きが鈍く上手くいく気がしない。 

 前を見れば、ゆっくりとティキが歩いてくる。

 その顔は、ノアの本性が前に出て歪んでいた。

 

「こりゃあ、撤退か……でも、切り替える隙もないしなー」

 

 さっき、意識が飛びかけなければ切り替えて瓦礫に紛れて逃げれたんだけどな。

 いやはや、そう上手くいかないものだ。

 

「さて、動けないとこ悪いが腕からいこうか。その次は、足だ」

 

 不味い、実に不味い。

 こうなれば、『無毀なる湖光(アロンダイト)』を振り抜いてしまおうか。いや、それでもし切ってしまった場合の覚醒が怖い。たしか、アレンがティキを退魔の剣で切ったとき無意識に抑えられていたノアが出てきたはず。しかも圧倒的な力を携えて。

 俺の剣はアレンの剣みたいな効果はないが、万が一が怖い。命の危機に、ノアが目覚めた! とかどこの主人公ですか。と、こうなるとホント怖いので、別の武器を使って撃退するか隙を作りたい。

 

「にしても、ここどこだ? スッゴイ噎せ返るようなアルコー……ル?」

 

 よく見れば、何処かの酒屋らしい。

 一応街の外側にいたはずなのに、どれだけ吹っ飛ばしてくれやがったのだろうか彼。確かに高いとことから吹き飛ばされたからこれくらいの飛距離はあってもおかしくないけどさ?

 

「って、それよりも、どうするか考えないと……」

 

 そんな時、偶然足元にあるワインが目に入る。

 

「……アルコールって、燃えるよね?」

 

「!?」

 

 ティキはゆっくりとした歩調を止め、走り出す。

 きっと彼はこう思ったのだろう。肉だるまにされるくらいなら、自害を選ぶと。あまい、甘すぎるぜティキ・ミックゥ! そうなる前に逃げるのが俺である。何があろうと肉だるまとか体を損なう様な事態には陥らない! 

 これ、その考えが甘いとか言わない。やれば、できる。

 

「落ち着けラスロ・ディーユ!」

 

「そう、俺はラスロ・ディーユ。断じて鬼畜くんじゃないから覚えとけよ?」

 

「チッ! 死なれたらロードに文句言われるんだ、勘弁してくれ!」

 

 そう言いながら俺を捕まえようと接近してきた、今が、チャンス。

 俺はワインを掴んで、振り下ろす、当然対象はティキである。しかし、彼はよけようとはしない。それはそうだ、イノセンス以外は自由に透過できるのが彼の能力なのだから。それに彼、俺がイノセンス化できるのは基本武器だけだっていい加減理解しちゃってただろうしこんな酒瓶(・・)に意識を割く訳がないのだ。

 

「喰らえ、ティキ!」

 

 だが、少し間違っているぞティキ。

 俺がイノセンス化できるのは、俺自身が武器だと認識出来たもの!

 

「この酒瓶(イノセンス)は、師匠との思い出(トラウマ)で、出来ているッ!」

 

「――――――は」

 

 そしてティキは気づいたらしい。

 なんの変哲もない酒瓶が、ちょっと神気を帯びていることに。目が合う。

 

 ――なんで酒瓶? 

 

 ――酒瓶はね、兵器です。

 

「んな訳へぶぉっ!?」

 

 脳天叩き割り、はいりました。

 砕ける酒瓶に、飛び散る赤い液体。……ワインなのかティキの血なのか良く分からないです。きっと混ざってる。そして崩れ落ちるティキ。うん、随分綺麗に入ったもの。当然だ。これも師匠の御陰です。感謝はしないけど。

 

「俺の、勝ちだ……なのに、なんだろうこれ。全然、達成感がないや」

 

 片手にあるのは、ワイン滴る割れた酒瓶。

 これ、唯の酔っぱらいの喧嘩後にしか見えないじゃん。

 

「……命懸けの死闘を、ここまで台無しに出来るんだなぁ酒瓶って。マジ尊敬できるとか有り得ない」

 

 破壊痕以外、誰がどう見ても間抜けな構図。

 酒瓶もって佇む男に、ピクピク痙攣する身なりのいい男。

 一体何があったと突っ込みがくること間違いなし。

 

「……離れよ。んでもって師匠のこと考えんのやめよ。人救ったはずなのにすげぇ虚しい」

 

 デイシャを救った達成感は、もうどこにもなく虚空へと溶けて消えた。

 師匠の存在とその思い出があれば、どんなシリアスでさえぶっ壊せるような気がする。

 

「ホント――――――」

 

 

 

 

 ――――――有り得ない。

 

 

 


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