どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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感想へと返信、遅れて申し訳ないです。
ここからはちょっとアレン達の話。
無論、ちょくちょくラスロも出てきます。


第十三話

 

 

 

 

 

 ラスロが数人の死亡フラグを一掃し終えたその頃、アレン達クロス部隊は中国に足を踏み入れていた。ティムキャンピーの探知能力で方角を探り歩いていた結果である。

 

「雨、やみませんね」

 

 船の中から顔をのぞかせたアレンがそう言い、再び顔を船の中――正確には、船を覆っている雨よけの中へと戻っていく。中ではクロウリーとラビが眠り、ブックマンは瞑想を。リナリーは一人静かに座っていた。

 

「そうね、じめじめする」

 

 戻ってきたアレンを見て、苦笑しながらリナリーが言った。

 見ればその傍らには部隊に所属している名簿があった。それを見てアレンは思い出す。

 

(ラスロ……僕を師匠へ差し出すとは。……一度よく話し合わないといけませんね)

 

 ニコニコとした表情の裏側では、黒と額に描かれたアレン。

 リナリーはそんなアレンの笑顔の裏にあるものを理解して、くすくすと笑った。

 

「でも、不思議だよね。ラスロがティエドール元帥、というか神田と同じ部隊を選ぶなんて」

 

「あー、そう、ですね。あの神田と同じ部隊を選んだのはちょっと意外でした。……もしかして、知り合いがそれしかいないんじゃ」

 

「そ、それはないはず。確か、クラウド隊の女の子はラスロの知り合いみたいだったよ?」

 

「女の子? えーと、ミラ・イロウズさんですか?」

 

 リナリーはコクリと頷きながら、少し前の事を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 教団内を歩いていたとき、ジッとラスロを見つめている女の子がいたので少し気になり声をかけてみたのだ。するとその少女はミラ・イロウズと名乗り、「ちょうどいいからアレの事教えてください。油断してる時に頭の上に鉢でも転移させてやろうかと思ってるんです」と満面の笑みで言っていたのが印象的だった。

 

「えっと、ラスロの知り合いなの?」

 

「ええ、そうですね知り合いです。私、アレのせいでここに来たようなものですから。アッチが知らなかろうが関係なく知り合いなんですよ」

 

 ニコニコと笑っている彼女だったが、リナリーには不自然にしか見えなかった。

 あまりに、綺麗すぎる笑みだったから。

 

「それで、どうしてラスロの事を?」

 

「ああ、そうですねそこからですね。えー、さっき言ったとおり、頭の上に鉢落としてやりたいんですよね。中にはしっかりと土を詰めておきましょう」

 

 もう笑顔と言ってることのギャップが酷すぎた。

 リナリーは笑うしかない。

 同時に、ラスロに対して問いた事が。

 

(一体、この娘に何したのラスロ……)

 

 例にもよって、彼はクロス・マリアンの弟子である。

 ちょっと師匠に毒されてよからぬ事を覚えていてもおかしくないとリナリーは思った。実際のところ、ラスロはそういったよからぬことに苦労させられ続けたため二の舞にはなるまいと女性関係には気をつけていたりするのだが、当然リナリーが知るはずもない。

 

「つまり、ラスロの行動範囲を調べたいってことなの?」

 

「概ね、それで間違いないです。リナリー・リー、貴女は聡明だ」

 

 えっと、どうしようと悩む。

 はっきり言って行動範囲なんて知りもしない。というか、知ってたら知ってたで軽いストーカーと間違えられる恐れがある。一部、例外はいるものの弟子と師匠という関係上仕方ないことだ。……その師匠の行動範囲とやらが、酒場と女のところであっても。 

 

「えっと……ごめんね。私も知らないや」

 

「そうですか。……ご協力感謝します。お時間を取らせて申し訳ありません。では」

 

 そう言って彼女は頭を下げて、ラスロの歩いていく方向へと移動――というかラスロの後をつけてた。待って欲しい、と声を出そうとしたのだがラスロに気づかれれば最悪自身もその仲間と認識される為、押し殺す。

 

 ――おやリナリー・リー。どうかしたのですか?

 

 ――う、うんちょっとね。……ラスロの後、つけてるの?

 

 ――ええ、まぁ。もう三回目なのですが、何時も途中で見失うんですよ。今回は、負けません。

 

 勝ち負けの問題ではないと伝えたい。

 というか、ストーキングなんて犯罪じみたことをしている時点で負けである。

 

 ――取り敢えず、私は行きます。

 

 ――ま、待って! 本当に続ける気なの?

 

 ――無論です。アレの気が一番緩むその時を探し出すのです。

 

 次の瞬間、リナリーの心が揺れ動いた。

 首を傾げ、不思議そうな顔をしたリナリーは心の中でもう一度ミラの言葉を反復した。

 

(一番緩むその時、を)

 

 気になった。

 反復して気づいたのだが、凄い気になった。心の天秤が大きく傾き始める。向こう側に乗った、秘密と描かれた石を抱えるミニラスロがアワアワしているが、止まらない。

 

 ――確認できた中では、食事時が上位ランクに入ります。食すのは主に和食でしたね。

 

 ミラは迷っているリナリーの心を見抜き、コッチにおいでと手招きをし始めた。その手始めに、軽く情報を流して興味を惹かせることを始める。

 

 ――この間は、神田ユウの前で殺気を当てられつつも笑顔で食べていました。

 

 ガコンと一段階下がり、上がるミニラスロ。

 

 ――ですが、今のところの一位――それは読書をしていた時です。

 

 ――読書? 

 

 つい、リナリーは聞き返す。

 そして笑うミラ。

 

 ――ええ、確か資料室で植物の図鑑の様なものを読んでいました。残念な事に、私ではその字は読めませんでしたが。

 

 ――それは何語なの?

 

 ――わかりません。他の人に尋ねる前にアレが移動してしまったの後をおうので精一杯でして。

 

 更に傾く天秤。

 皿の上のミニラスロはもう諦めの境地に達していた。実に本人に似ている。

 

 ――そうそう、レアな事に凄い嬉しそうでした。純粋に。

 

 そしてミニラスロは吹っ飛んだ。

 いきなり反対側の更に倍以上のおもし(興味)が乗っかり、吹っ飛んだ。それが意味すること、すなわちリナリー参戦である。此処に、まさかの、ストーキング作戦が始まった。

 この時、知り合いなら堂々と隣を歩けばいいのではと、常識的な考えは消えていた。

 

 色々おかしくて、有り得ない。

 

 

 

 

 

「どうしたんですか、リナリー」

 

「え、あーうん、ごめん少し訂正。ちょっと、一方的だったかな?」

 

 その後色々あったが、何がショックだったかと聞かれれば常識を見失っていた事とリナリーは答えるだろう。バレはしなかったのだが、残ったのは虚しさと罪悪感と情けなさ。

 思い返すのはやめようと心の内に仕舞い込み話を戻す。

 

「取り敢えず、ラスロがティエドール部隊を選んだのは理由があったんだよ」

 

「理由、ですか。……思い当たることがあるとすればロードの件ですね。ただ、聞いちゃうと色々不味いですし」

 

「た、大変だねアレンくんも」

 

「それはもう。師匠との旅はいい思い出がありません。でも――――――」

 

「でも?」

 

 するとアレンはニコリと笑って、

 

「――――――数少ない良い思い出は、一段と輝いてるんです」

 

 それは、額に描かれた黒を払拭するほどに純粋なアレンの本音であった。

 そしてリナリーは、少し複雑な思いを抱く。自分はあまり、ラスロを知らない。無論、目の前の白髪の少年のことだってよく分かっていない。ただ、それ以上に、ほんの欠片しか分かっていないラスロと、その師の思い出を聞いてみたいと思った。

 無論、そう尋ねることはできないと理解していながらも。

 

 

 

 

 

 

 それからまた、少し時が経つ。

 船を降り、雨が止んだ曇天を眺め未だ見つからない自分の師の事を考えため息をつく。

 

「クロス元帥、見つからないね」

 

「ええ、ホント見つかりませんね。……ラビ、伸で上から怪しい赤毛探してもらえませんか?」

 

「……俺が言うのもなんだけど、イノセンスの使い方間違ってるさ」

 

 ラビが苦笑いをする。

 ですよねーとアレンも笑い、再度ため息をつく。

 

(リナリー、どうしたさコレ?)

 

(それが、船の中で過去を振り返ってたらしくて……それで元帥の事を思い出しちゃったみたい)

 

(あぁー、納得さ)

 

 ラビが不憫そうな視線をアレンに向ける。が、アレンはそんなの気にせず落ち込んだままっだった。そんな時、アレンのアクマを探知することもできる左目が反応する。

 

「ラビ」

 

 ジャコン、と銃の構えられる音。向けられた左腕は、しっかりとラビを捉えていた。

 

「へっ!?」

 

「しゃがんでください」

 

 そしてアレンは何のためらいもなく撃った。

 ぎょっとするラビは、持ち前の観察眼と反射能力によってギリギリよける。髪がジュッとと音を立てたのは気にしない。というか、気にしている場合ではなかった。

 ふざけんなっ! と怒鳴ろうとしたラビを他所に、アレンは次々に隠れているアクマを撃ち抜き破壊していく。以前、クロウリー城での戦いで怪我をした左目は完全に治っている上進化している。その為、以前とは比べ物にならないくらいに索敵範囲も広がった。その結果、クロウリーという新しい仲間を得てもなおアレンの戦闘量は減るどころか増えていた。

 何せ、アレンは他の仲間より早く確実にアクマを見つけられるし遠距離でも近距離でも対応できるのだから。

 そう考えると、ラビもまたそうそう文句が言えなくなり何時も通り流すことにした。

 

「……もういないみたいです」

 

「それじゃあ移動しましょ。他のアクマがよってこないとは限らないし」

 

「それで、ドッチに向かうのであるか?」

 

「ちょっと待ってください。今ティムで方向の確……認、を」

 

 が、いない。

 金色のゴーレムがいない。

 全員首を傾げ、キョロキョロと周りを見渡すのだがあの目立つゴーレムが見つからなかった。

 

「ま、まさか拐われたさ?」

 

「確かに金色で空を飛ぶというのであれば、売り物にされてもおかしくはないのである」

 

「不味いのぅ。ティムがいなければ、元帥の居場所が分からん」

 

 アレンは震えた。クロス・マリアンの捜索が打ち切られる事からくる歓喜ではない。はっきり言って逆であり、師から預かっていた師のゴーレムを無くしましたと本人に伝えたときのことを想像してしまったからに他ならない。以前、食人花の世話をさせられた時も枯らせたらお前の頭も枯らすからな、と脅された事もあるアレン。どんな目にあうか脳裏にはっきりと浮かんでくる。

 

「……探しましょう、全力で」

 

(きっと、無くした際のペナルティーが怖いんさ)

 

(アレンくん……)

 

(エリ、アーデ……)

 

 そうしてティムキャンピー捜索が開始されるのだが、その日金のゴーレムが見つかることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 そしてその翌日。

 明らかに顔色の悪いアレンを心配しつつ捜索を再開する。色々な店を除き、売り物にされていないかを確認して回ったり聞き込みをしたり懸命にティムキャンピーを探した。

 しかし、

 

「見つからないであるな」

 

「ええ、ホント、どうしましょうか……」

 

 皆で合流してでの情報共有。

 しかし誰も有力な情報を掴んではいなかった。

 

「でも、あれだけ目立つんだから少しくらいは目撃情報はあってもいいと思うけど……」

 

「どうする? 案外猫にでも食われてたりして」

 

 と、場を和ませようとラビが冗談をかましたその時。ガサガサと、近くの茂みから一匹の猫が現れる。その口からは、バタバタ暴れる金の羽が見えていた。

 

「そうそう、こんな感じでティムが抵抗して羽だけ見える――って、……コレさ!?」

 

「捕まえてくださいラビ!!」

 

 アレンの力強い声に、反射的に体を動かし捕まえようとするラビ。しかし、やはり相手は猫であった。

 

「ぬぁっ! コイツ、見かけによらず早いさ!」

 

 ポッチャリとしていた猫だったが、思いのほか動きが早かった。シュバッをラビの足元を抜けて颯爽と駆けていくデブ猫。変な体勢で動きが止まったラビを置いて、他のメンバーも後を追いかけるのだが人混みに紛れて消えてしまった。

 

「そ、そんな……」

 

「だ、大丈夫だよアレンくん! まだティムも抵抗してるから食べられないよ。……こうなったら、私が行く。皆はさっきのところで待ってて!」

 

 リナリーは軽く跳躍し、建物の上から目標を探し出す。

 

「見つけた。でも、人が多いしもうちょっと待たないと……」

 

 人混みを縫うように走っていく猫を見失わないように、リナリーもまた走り出す。

 その光景を、リナリーの後ろ姿が消えるまで見続けたアレンたちは後のことをリナリーに任せて待ち合わせの場所で大人しく待っていようと移動した。

 

 

 

 

 

 そしてその後、昨日と同じようにラビがよけてアレンが撃つという状況が起こったのだが、猫を探しに行っていたリナリーはそれを知らない。ちなみに、猫はちゃんと見つかり、リナリーのイノセンスであるダークブーツによる上昇、急下降に怯えまくり着地した途端にティムを吐いて逃げていった。意外とやることがえげつない。

 

 

 


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