どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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何時もよりちょっと文字数多めです。


第十四話

 

 

 

 ティキを気絶させた後、一応無駄ではあるが縄で縛って吊るしておきその場を去った。これで恐らく、クロス部隊以外は元帥と合流できたはずだ。そうなれば殺されるエクソシストは激減する。まぁ、俺にしてみれば戦力を温存できると言い換えることになるが。

 

「さぁてと。流石にボロボロだし、どっかでゆっくり休みたい……。が、ロードがいると言う事実だけでプライバシーが消失してんだよね俺」

 

 俺の憩いの場は何処に?

 とは言ったものの、何時もロードが俺の居場所を知っている訳じゃないし大丈夫だとは思うんだけど。あれって、アクマの目を通して観察したり報告をうけたりしてるっぽいからアクマに遭遇しなければ先ず平気なはずだ。

 色んなとこに擬態して潜んでるけど!

 というか、今襲撃されると非常にまずい。武器庫の中身は空だし、武器といえるものは刃こぼれしないあの剣しかない。……いや、まだアレを晒すには早い。そんな勇気ありません。

 

「つうわけで、武器庫の中身を再度確認っと……」

 

 地面から引き出された棺桶。それを開いて中身を確認する。まぁ、やっぱり空っぽだったわけで。

 

「はぁ……どっかで武器補充しないと。――――――って、おろ? こんな茶封筒しまってたっけ?」

 

 よく見ると。棺桶の内側の側面にペタリと茶封筒がくっついていた。そう言えば、全く武器庫を整理していなかった。この時、俺はピーンと閃いたというか、理解してしまった。

 

 ――この茶封筒、見覚えありますやん。

 

 そう、おかしかった。

 よく考えれば分かることだった。借金を押し付けられる生活を続けて数年。この期間に関してはアレンには先ず負けない。では、そんな俺の借金がアレンと大差なかったのはどういうことだろうか。 

 数年前、ある日突然俺の借用書が消えたことがあった。訳が分からず、俺は師匠に問うた。すると師匠は、自分が持っていったと言ったのだ。今思えばその発言がおかしい事がわかる。あの師匠が、俺から借金を取り返して払うはずがないのだ。

 では、その持ち去られた借金は何処へ? となる。

 同時に俺の視線は茶封筒に向けられる。

 きっと、当時の俺に余裕を持たせるのが目的だったのだろうが、皺寄せが来てますよ師匠。まさか、俺も歳とって成長したからプレゼント的な感覚で送ってくれやがったのだろうか。

 そして俺は、意を決して茶封筒を開く。

 そこに書かれていた数字に目を通し、茶封筒に、戻す。

 

「今まで、俺が返した借金が7500ギニーで残る500ギニーを足して8000ギニー。1ギニーが日本円にして約二万円。さぁ、計算してみよっかアハハハハ」

 

 約、一億六千万円。

 ……もしかして俺って、師匠に拾われなければ相当裕福に暮らすことが可能だったんじゃ?

 いや、それよりもこの茶封筒だ。

 軽く見ただけで、0が四つ。それ×二万となると、今まで返してきた金額を普通に超えていく。

 うん、何を隠そう借金だね。それも隠された遺産的な。無論、意味合い的にはマイナスだけど。

 

「…………俺が外道と呼ばれる理由、それは全部師匠にあると思う今日この頃。つまり、外道たる俺の師匠こそが真の外道。ホント、それがエクソシストの元帥とか有り得ない」

 

 その時から、俺には願望ができた。

 できるなら、もうちょっと頻繁に、ノアの一族に会いたいな、と。

 

 その後、肩を落としながら疲労した体と精神を引っ張って歩き出す。

 

「もうヤダ。……イノセンス使う気力も残ってないし、こうなれば列車に乗り込んで終点まで寝てしまおうか。何処に着くかはお楽しみーっと」

 

 決まれば早かった。

 というか早く決めて寝たかった。忘れたかった。

 最近戦ってばっかでひ弱だった元現代人たる俺の精神はガリガリ削られていく。今、俺がこうして立っているのは師匠に色々と精神面で鍛えられたお陰だろう。何度でも言う、感謝はしない。

 そう言えば、アレン達はどうなっただろうか。クロウリーを味方につけて、クロス部隊の合計はアレン、リナリー、ラビ、ブックマン、クロウリー、後にミランダと計六人と豪勢だったはず。その分キツイ旅路になるのだが。そろそろ中国大陸で、師匠の恋人?だったらしいアニタという女主人と出会う頃だと思う。

 

「頑張れ、アレンたち。俺もすこーし遅れて行くから。……仕方ないよね? だって日本だし、その前ですら中国だし?」

 

 誰もいないが、言い訳がましいことを呟いておく。

 だが、こういう時に返事が返ってくるのが俺クオリティ。

 

「じゃ、連れて行ってやるっちょ?」

 

 遠慮願いたいっ!

 

「嫌だって顔っちょね。でも聞いてやらんちょ。クロス・マリアンが呼んでるっちょ」

 

 何時の間にか隣にいたチョメ助は、そう言いながら銀色のゴーレムを差し出してきた。ティムとはちょっとデザインが違うが、普通のゴーレムではない事が製作者がアレなためすぐに分かる。

 

「喜ぶっちょ。何時でもマリアンと通話できるとっておきの――――――」

 

「いるかボケッ!!」

 

 俺は銀色のゴーレムを戸惑うことなく叩きつけ踏みにじる。バキッとかボキッとかよからぬ音が聞こえるがそれどころではない。このゴーレムは、絶対に破壊し尽くさないといけない!!

 

「ちょー!? ななななにするっちょか!? ダメっちょ、止めるっちょ!」

 

「俺は、コイツが、砕け切るまで、踏みにじるのを、止めない!!」

 

 だってさ、通話できるってことは師匠からの命令を直に耳に入れるわけだろ? 人伝てならまだしも、本人から聞いちゃったら誤魔化し様がないじゃないか。

 

「ああ、粉々っちょ! って止めるっちょ! 他の土と混ぜてこねるなっちょ!!」

 

「無理。だってコレ再生しそうだし。土という余計なものと混ざってしまえばそう簡単に再生はしまい! 後はどっかの畑にまいてくればよし」

 

「悪知恵だけは一丁前っちょね! ってだから止めるっちょ! 回収するのオイラなんだっちょ!!」

 

「働けアクマ、その間に俺は姿をくらます」

 

「……それ、マリアンと同じ思考だって分かってるっちょか?」

 

 わかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティムが帰ってきた、また少し時間が過ぎる。

 未だ見つからないクロス元帥の情報を求め各々が動いていたとき、偶然アレンが訪れた饅頭屋の店長がクロス元帥似顔絵を見て彼のことを知っていると分かった。そう、ようやく手がかりにたどり着くことに成功したのだ。……追加で饅頭を買うことによって。

 そしてリナリーに翻訳を頼み、教えられた場所に向かうアレン一行だったがそこはやはりと言うか女の人が大勢いるアレなお店だった。酒、女の二つが揃っているのだから師匠が見逃すはずないか、とアレンはため息をついた。

 

 

 

 

 

「……うん、ようやく手がかりが見つかったの。準備が整い次第、明朝には元帥の後を追って日本に旅立つわ」

 

『そうか、気を付けてな。……あー、室長に代んなくてもいいのか?』

 

「平気、リーバーさんにかけたのは、兄さんが寝てると思ったから」

 

 すると電話越しに、リーバーが苦笑するのが分かった。

 

『ん、流石兄妹だな。……無理はするなよ?』

 

「分かってる。ソッチこそ無理しないでね。……ラスロは、まだ連絡ないの?」

 

 リナリーは少し震えた声で言う。

 つい先ほど聞いたこと。ティエドール隊を合流しようとバルセロナに向かったラスロが、先に接触してたノアと戦闘になり行方不明になってしまったと。

 

『……ああ。今、ラスロが使ってた剣が本部に帰ってきた。他の剣は、全部折れてたらしい』

 

 駆けつけたファインダー部隊はまるで墓標のようだったと言ったという。

 

『まぁ大丈夫だろ。ラスロの事だ、何処か彷徨ってるか元帥から逃げてるかだろうさ』

 

「うん、そうだよね」

 

『でも、あれだ。……せめて、お前らの部隊は心配かけさせないでくれよ?』

 

「うん……分かってる。それじゃあ切るね」

 

『おう、じゃあまたな』 

 

 プツリと電話は途切れる。

 リナリーの心は晴れない。

 

 

 

 

 

 

 その頃アレンはアニタの用意してくれた船の甲板に出て、海の向こう――師匠であるクロスがいるであろう場所を眺めていた。頭をよぎるのは、アニタから聞いた師の訃報。

 

『八日前、ここを発ち海上で撃沈されました』

 

 しかしアレンは思う。兄弟子である彼だって、同じことを言うだろう。そう、『それくらいであの師匠が死ぬなんて、有り得ない』と。その言葉がアニタを動かした。涙を流しながら、船を用意し自らも乗りこんできたのだ。当然、アレン達は船の操作などできないから助かったのだが船員だけでなく主である彼女まで乗り込んできたことから、どれだけ師を愛していたのか理解した。

 

「それで、本当に死んでたら許しませんよ師匠」

 

 紳士の風上にもおけない、と最後に付け足してティムを指で弾く。ティムが向くのは、アレンと同じように海の向こう。ただし、その先の土地を見ているのか、はたまた海の底を見ているのかは分からない。

 同時に、兄弟子のことが頭に浮かぶ。今頃どこで何をしているのか、何故神田たちのティエドール隊に志願したのか、その理由を問いただしたい。

 

「どうせ、軽くかわされるんでしょうけど。ホント、師匠そっくりですよ」

 

 本人が聞いたら絶叫ものである。

 しかし、大抵の人が同じことを思い胸に秘めているのだから時間の問題だったりする。

 

「……戻ろう、ティム。もうすぐ出航だ――――――っ!?」

 

 くるりと踵を返し、みんなのところに戻ろうとしたところ左目が反応した。

 

(まだ遠い。でも、この感じは!?)

 

 ギュルギュルとフル稼働する左目。距離は捉えた、であればほかの要素が原因だと考えられる。思い当たることといえばアクマの強さ、それか、数。

 アレンは海の向こう側に目を凝らす。すると、徐々に徐々に空の一部が黒くなっていく。雲?とも思ったがあまりにまばらであることからもっと別の何か、であり集合体であると検討を付ける。そして、アレンは叫んだ。

 

「皆!! アクマが来ます! それも大量に!」

 

 その光景をラスロが見れば唖然としただろう。なぜならば、そのアクマの数は原作以上だったのだから。確かにラスロは咎落ちを防いだ。しかし、その咎落ちしたスーマンに破壊されたアクマは非常に多い。それが無事な上に、咎落ちを回収するために派遣されたアクマ全てがアレン達の足止めに来たのだから当然だった。

 

「っ! 迎撃用意! 全員武器を持て!」

 

 船で戦闘準備が行われる。

 ラビ、ブックマンやほかのエクソシストもまた迎撃体制を取るが今までに無い程の大群のアクマを前に冷や汗が流れる。それでも、アクマを破壊できるのはエクソシストしかいない。

 すぐにラビ達は自分の役割をこなそうとイノセンスを発動させ構え――――――アクマの大群と接触した。

 

「くっそ! 足止めにここまでするさ!?」

 

「黙ってやることやらんかこの馬鹿者!」

 

 ラビの火判が炸裂し、一気にアクマを燃やし殲滅する。しかし、減ったそばからアクマは詰めてくるため減ったという実感を与えてはくれない。ブックマンもまた、イノセンスである『天針(ヘブンコンパス)』でアクマを串刺しにしていくがラビと同じような心境だった。

 一方、クロウリーはやる気に満ち積極的にアクマへと襲いかかる。アクマ専門の吸血鬼である彼からすれば、大量の餌が自らやってきてくれたと同義だった。

 

「くっ、数が多すぎる!」

 

 船を覆う黒い群れ。それ全てがアクマであり、アレンの左目は収まる気配を見せない。左手の銃を乱射し、時には腕に戻して船員を守りつつ敵を握りつぶし、音速で切り裂いた。

 すると、突然横向きの竜巻の様なものが発生しアクマ達を飲み込んだ。そして竜巻の中を我が物顔で飛び、甲板に着地した少女が一人。先ほどまでアニタの店で本部と連絡をとっていたリナリーだった。

 

「アレンくん、これって一体!?」

 

「全部僕たちの足止めみたいです! 気を付けて、中にはレベル2も多く混ざってます!」

 

 リナリーは頷きながら跳ぶ。

 それを見送ったアレンは再びイノセンスでアクマを撃ち抜いていく。まだ数分しか経っていないにも関わらず、倒したであろうアクマの数は三十を優に超える。何時になったら終わるのか分からないこの戦い、アレンは一抹の不安を抱く。

 

「くっ!」

 

 流石にアレンの銃でも、延々と連射し続けることはできず疲労が溜まっていく。元々、左目が再生してからもアクマとの戦闘で八割近くを撃破していたため疲弊し脆くなっている左手。状態の維持が難しくなってきていた。

 ほかの仲間も同じで。ラビの火判、ブックマンの針による広域攻撃でも連続は出来ず、アクマと船の距離が縮まりつつある。クロウリーが、防衛網を突破したアクマを狩ってはいるもののすぐに追いつかなくなることは目に見えている。ではリナリーが、とも思うがクロウリー以上に動けていなかった。空を飛んでいるアクマが多すぎて間を縫って移動できないのだ。あまりに数が多いため密集しもはや壁。リナリーには『円舞 霧風』によって竜巻を定期的の起こすことしかできない。

 船を中心に円形に出来ていた防衛網は徐々にその規模を小さくしていく。それはつまり、アクマに押されつつあると言うことだった。

 

「っ! 船員の皆さんは室内に避難を!」

 

「し、しかし!」

 

「すみません、これ以上気にしながら戦うのは難しそうなんです」

 

「っ……分かり、ました。――全員、船の中に避難しなさい! エクソシスト様方の邪魔になります!」 

 

 ガヤガヤと船員達は戸惑ったが、クロウリーの動きを見て邪魔でしかないと理解し船の中へと入っていく。それを見届けたあと、アニタと従者であるマホジャというムキマッチョ(女)も船内へと避難していった。

 そのお陰か、クロウリーの動ける範囲が広まり徐々に押し返し始める。

 

「いくさアクマ! 丸天、雷霆回転――ジジイ!」

 

「わかっとるわ!」

 

 ラビの呼びかけに答え、ブックマンが針の塊を宙に作り出す。

 それを台とし、ラビは天判を繰り出した。

 ラビの槌から放たれるのは雷光。四方八方に不規則に雷が放出されアクマを包み込む。一気に情勢を巻き返す一撃となった。これなら行ける、と誰もが思ったその時防衛網の一角が崩れ落ちた。

 

「発動が! しまっ!?」

 

 すでに疲労満杯だったアレンだった。

 左手はボロボロと崩れ、痛々しいその姿を晒している。

 しかし、それを気にしている場合ではなかった。アレンの攻撃が収まった地点からアクマが雪崩込んできたからだ。すぐにクロウリーが対応するものの、侵入してきたアクマにアレンが捕らわれ空へと舞う。

 

「アレンくん!?」

 

『エクソシスト頂きィ! 独り占めッ!!』

 

 リナリーが追おうとするものの、アクマは群れの中へと消え去りすぐに壁となる。

 

「邪魔しないで!」

 

 霧風を放ち、進行方向にいるアクマを一掃するが、やはりすぐ詰められ突破できない。徐々に消えていくアクマの後ろ姿を、唇をかんで眺めていることしかできなかった。

 

 

 そしてアレンは、傷ついた上でアクマを撃ち抜き、落ちた場所にてノアと出会い原作を辿る。ただ違うのは、この時点で彼は人も救いたいと認識し始めていたことだ。まぁそれは後ほどとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃ラスロは未だゴーレムの破壊を行っていた。

 

「ええい! これでも再生するか! どんだけ対応してくんだよこのゴーレムッ!」

 

「土に混ぜて焼き物作ってからの再生って、流石にオイラもドン引きっちょ」

 

「くぅ、次はドリルと金庫! 金庫は四つな」

 

「ドリルならあるっちょ。金庫は……ちょっと待つっちょ」

 

 俺はチョメ助が頼んだものを持ってきてくれるまで砕き続ける。何せ隙あらば再生しようとするんだから仕方ない。再生しきった瞬間、立体映像とかで師匠が出てくるとか可能性高すぎるから阻止せねばならない。

 今のところ、チョメ助に頼んで道具を用意してもらい焼き物にしてみたが一瞬で砕けて中から銀のゴーレムが現れた。即捕まえて叩きつけ砕く。

 

「あったちょよ。これで、どうするっちょか?」

 

「ん、サンキュ。取り敢えずドリルで中心に穴開けて構造弄くりまわして――ってアビバッ!?」

 

「か、感電してるっちょ!?」

 

「ぐ、ふ……そう、か。中身見られたら全力で抵抗する、と。なら、作戦変更だ。せいっ!」

 

 俺は口から黒い煙を吐き出しながら剣を抜き放ち、瞬間的にゴーレムを四等分にする。

 そしてそれを急いで回収し金庫の中に各々放り込みロックをかける。

 

「これで、くっついて再生はできまい。精々金庫四つが隣り合わせになるくらい…………俺の勝ちだよね?」

 

「オイラに聞くなっちょ。というか、それ言ってしまった時点で負けっちょね」

 

 結果、チョメ助の言うとおりだった。

 いきなりバゴン! と音が鳴り響いたと思ったら。金庫の扉ぶち破って銀色の物体が四つ現れた。それは神々しく光りながら俺の頭上で合体し、元の銀色のゴーレムの姿を取り戻した。合体時の効果音を言い表すなら、ガッキーン!! と正直少し憧れた。 

 ……ダメだ、諦めよ。

 師匠に普通に勝つことはできなそうだ。ならば、普通に勝つのをやめて逃げようと思う。逃げるが勝ちって、よく言ったものだよね。実に素晴らしい。

 

「しかし ラスロ は 逃げられない ……ちょ」

 

「は、放せチョメ助! 斬るぞコラ!」

 

「チョメ助ってオイラっちょ!? ……何この悪くない響き、これが萌えと言う奴っちょ?」

 

 違います。

 

「妄想に浸るのはいいけど放せっての! 斬られるより撃たれる方がお好みで!?」

 

「やれるもんならやってみるっちょ。マリアン曰く、ボディコンバートする前の状態ならラスロは手を出せない、らしいっちょよ?」

 

「やっぱりかっ! やっぱり刺客が女型なのはそれが理由か、謀ったなチョメ助!」

 

「ちょ~~?文句はマリアンに言うっちょよ。どんな目に合わせられるか、想像するといいっちょ」

 

 そう言われた途端、数々の思い出が脳裏をよぎり、俺の胃を締め付け始めた。胃、胃薬……ダメだ、ティキとの戦いで全部失ってたんだった。正確には戦闘時の衝撃で粉々になった上、穴が空いてて中身が無かった。神は俺に薬すら与えてくれんのか!! 運が悪いにも程があるわ!

 …………もし、もしその神とやらが『ハート』なら謀反企てかねないよ?

 

「ま、現実逃避はそのへんにして行くっちょよ。あ、それとコレ、イノセンス化できるようにしとくっちょ」

 

 そう言って渡されたのは『箱』と『船』の二つ。しかし、その二つは一つになっていた。

 

「えーと、これは一体?」

 

「オイラも分からんっちょ。ただ、コレをイノセンス化できるようにしておけとしか聞いてないっちょ。まぁ頑張るっちょ」

 

 正方形の『箱』と同化した『船』とか一体何?

 と、そんな風にこれはなんなのか考えていたせいでゴーレム壊すの忘れてた。

 銀のゴーレムはニカッと笑ったあと口を大きく開け映像を映し出した。そこにいるのは赤毛と仮面のトラウマ製造機人クロス・マリアン。もう赤い血流れてない様なエセ神父である。ギュウッと胃が縮こまったのがわかる。ちょっと……限界っす。

 

『ハッハッハ、相変わらず汚らしいが元気そうで何よりだ馬鹿弟子。随分と通信に時間がかかったが――――――覚えておけよ? それと、その物体にはちゃんと意味がある。イノセンス化できるようにしておかなければ、その頭に鉛玉か酒瓶を撃ち込んだりぶち込んでやる。分かってるよな?』

 

「は、ははは。了解っす、やってみせますですはい。じゃ、じゃあ切りますね、師匠も忙しそうですし?」

 

『ああ、言ったことはちゃんとやっておけ。でないと、最悪お前だけでなく――ってうぜぇ。また来たかあの色ワルガキンチョ共。また押し付けてやろうか、アァ!?』

 

 通信越しに、最近聞いたあの二人の声が聞こえてくる。

 

『死ねクロスゥゥゥゥ! テメェを殺したら次はあのクソ狸だ!』

 

『って危なっいきなり撃つ!? って、ヒ、ヒヒ! デロの、デロのアンテナ!! 師弟そろってデロのアンテナをっ! ヒヒヒ!!』

 

 そしてブツと切れる通信。

 もう茶封筒の件を聞けるような状態じゃなかった。

 

「……さぁって、見なかったこと聞かなかったことにして本部に帰ろ」

 

「行かせんちょ! 拘束、捕獲、連行っちょ!」

 

 するとチョメ助、縄で俺を巻き、ガシッと俺を掴み、ボディコンバートをして飛び始めた。

 

 

 

 

 

「や、やめろチョメ助!! 俺を、俺を降ろせ! 下との距離が幾らあろうと俺を下ろせェェェェぇ!!」

 

「諦めって肝心っちょ」

 

 こうして俺は、初めて空を飛んだ。

 同時に、新たなる借金に加えノアとの戦闘後であったのに疲労を忘れて暴れたせいですぐに意識が落ちた。

 ちなみに、敢えて借金がノアの前に来る理由は記さない。きっと、分かるよね。……有り得ない。

 

 

 

 




誤字修正。

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