どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第十五話

 

 

 

 

 

 アクマに拐われたアレンは未だ空を飛んでいた。

 足を噛まれているため逆さに吊るされており、上手く抵抗できないため左腕を起動させる他逃げ出す方法がないのだが疲労困憊のため腕を上手く使用できない。

 

(このままじゃっ! 頼む、イノセンス!)

 

 一部が砕けボロボロの左手に力を入れて、強引にイノセンスを発動させる。常にアレンのイノセンスを見てきたクロス部隊が、その左腕を見れば誰もが、痛々しいと表現するほどに歪んでいたが気にせずアレンはご機嫌なアクマを不意打ち気味に切り裂いた。

 

『ぐぇっ!? テメ、エクソシスト! このままじゃお前も落ちて――』

 

 忠告してくるアクマ。

 しかしそれさえも無視をして、今度こそ完全に二つへと分割した。当然、空を飛ぶ力を失ったアレンは真っ逆さまに落ちていくが腕を大きく伸ばして近くにあった木々に巻きつけゆっくりと降下していく。

 

(なんとか、上手くいったかな……それより、早く戻らないと)

 

 地面に降り立ったアレンは火の上がっている方角を見据えながら歩こうと一歩踏み出して――止めた。左目にアクマが反応したからだ。それも、凄い近い場所で。きっと自分を探しているのだろうと、歪んだ左手を銃に変えてアクマのいる方へと走り出す。例え左手が限界でも、救えるアクマは救い出す。それがアレンの愚直なまでに純粋な思い。

 

(それにしても、アクマたちは何処に向かって……)

 

 走りながら、アレンは真っ直ぐな軌道を描いて移動しているアクマに疑問を抱く。もしアレンの予想通り、アレンを探しているなら直線ではなく最低でも円で動くだろう。しかし、アクマは真っ直ぐ移動している。

 

(可能性があるならば、空からしか見えない何かがあった? でも、アクマが目指すものなんて――っ! まさか!?)

 

 頭を過ぎった最悪の事態。

 竹林の落ちたアレンには見えなくて空からしか見えない、アクマの目指す場所。アクマとは何というマシーンだったか。

 A、人を殺す機械である。

 つまり、移動しているアクマたちが目指している場所は何処かの村か街。

 もしかしたら、あのアクマはアレンを追ってきた結果偶然村を見つけたのかもしれない。

 アレンは自分のせいかもしれないと考えると、走るスピードを上げて一気にアクマの元へと向かった。そして見たのは、丁度アクマが何も知らない村人を襲おうとした瞬間だった。

 

「――――――させない!!」

 

 アレンは反射的にアクマを撃ち抜き、他にもいる数体のアクマに牽制を放ち威嚇する。

 数体は偶然当たり破壊に成功するが、まだ数体残ってしまう。まぁ偶然戦力を減らすことができたので悲観したりなどはしない。

 

『エクソシストみっけ! はは、オレタチついてるぅ!』

 

 何か言っているアクマは置いておき、左目でアクマの総数を確認する。

 

(二、三四、――七体……内、レベル1が四体、レベル2が三体。……これが終わったあとのコムイさん式イノセンス修復作業が怖い)

 

 と、思いながらも口上をベラベラしゃべっているアクマに狙いを定め引き金を引いた。なんかこんな事前にもあったな、と思い返しながら。

 

「残り、六体!」

 

 自分の腕の損傷具合を確かめ限界が近いと悟る。

 故に、アレンは早期決着を狙って全力でアクマを破壊しようとする。一体倒すごとに腕が軋む。しかし、一体倒すごとに魂が解放されていく。くじける理由はなく、涙を流してありがとうと呟いて解放されていく魂を見れば腕の痛みなんてどうということはない。それに、襲われていた村人も感謝の言葉をくれる。

 

(僕のせいかもしれないのに……それでも、やっぱり嬉しいものですねラスロ)

 

 以前、ラスロ言っていた好きな言葉ベスト3の内の一つ。リナリーにはあまりラスロを知らないと言っていたアレンだが、ふとした切欠で聞くことのできたラスロの好きな言葉を思い出した。

 そうして気づけば、アクマは残り三体。それも、村からある程度の距離を取り離れていくところだった。アレンは追跡しようとも考えたが、アクマたちの様子がおかしいことに気づく。よく見れば、残ったアクマ三体は後ろ方向、つまりアレン達を見据えながら後退し着々とエネルギーを溜めてた。すでに臨界なのか体についた銃口が光り輝いている。

 

「まさか、村丸ごと吹き飛ばす気じゃ!?」

 

 村の規模は小さく、レベル2が二体、レベル1が一体も入れば簡単に滅ぼせる。恐らく、あの攻撃が放たれれば生きていられるのは寄生型イノセンスを体に宿すアレンのみ。

 それに対してアレンが取れる行動は腕を最大限に展開して村ごと防御するか、銃形態のままアクマ三体を撃ち抜くか。救えるのはアクマか人間かの二択。先ず、ラスロであれば迷わず人間を選ぶがアレンは違う。アクマを救済することを目的とした少年で、異色のエクソシストだ。それ故に迷う。

 

(アクマより早く攻撃して……いや、攻撃が到達する前に放たれる。中途半端でも威力は十分だろうし防御するしかない? でも、防御してから反撃をって、こんな状態じゃ発動できるのはあと一回が限度、どうすれば……)

 

 つまり、あのアクマたちを救えるのは当分先。

 もしかしたらもう二度とその機会は無くなるかもしれない。

 グルグルと頭の中を二つの選択肢が回る。何時ものアレンなら冷静に考え、悔しさを飲み込みながら人命を優先できたのだろうが冷静さを欠いた今のアレンにはそれが出来なかった。

 

(後ろには人、前には束縛された魂……時間が、ないっ)

 

 こんな時、他の皆ならどうするかを考えるアレン。皆、違うイノセンスを持っているため方法は違うというのに。ただし、今回に限っては正解であった。 

 

(リナリー……ラビ、クロウリーにブックマン。神田……ラスロ)

 

 順々に彼らがどう戦うかを想像する。そして最後に想像したのは、ラスロ。正直これも間違いですよと言いたいが、これまた実は正解だったりする。流石神に愛された子。

 

(ラスロなら……以前のように間違いなく逃げますね、ええ)

 

 それも、意図的にアクマ引き連れて。

 道中でアレンに押し付けたり、師匠であるクロス・マリアンに押し付けたりして殴られている場面を思い出す。 

 

(はは、思い出してたら、何だか落ち着くなぁー)

 

 ちょっと昔の事なのに懐かしい。

 そんな感傷が焦っていたアレンの頭を冷やしていく。

 そして記憶に潜る。同じような時、彼は一体何と言っていたか。

 

『何で逃げた上に連れてくるんですか!』

 

『いや、あの場合これが一番だろ? 標的逸らして一気に殲滅する……他人を利用して』

 

『ホントにエクソシストですか? というか、ラスロ一人で破壊できたでしょ?』

 

『甘いなぁアレン。俺が守りたいのは自身と、偶然関わってしまった人間だ。当然、アクマも助けてやりたいけど生きてる方優先』

 

 そのラスロの言葉にカチンときたことも思い出すが、今は流す。

 

『それに、俺のイノセンスじゃ一気に殲滅は難しい』

 

 それは当時のラスロが火器を所持していなかったことが大きいが、アレンの知るところではない。

 

『納得してないね君? あー、じゃあさ。師匠ならどうすると思う? 俺は思うんだ、師匠ならば防御とか関係なしに全部ぶっ飛ばすって』

 

『想像、できますね』

 

『だろ? 師匠は特に考えず好きなようにやる。相手の攻撃ごと飲み込んで破壊する。後手に回る師匠とか想像できん。まぁ、結局は各々好きなようにやるってこと。内容は当然、人によって違うんだよ』

 

 ラスロはそう言って、アレンの左手に目を向けた。

 

『一応言っておくけど、コッチ側にも関わらず意外と俺って二人を信用してるからな? きっとお前も師匠みたいに自分の意地と夢を貫き通せるだろうな。俺と違って、違う意味で馴染んでないけど神様には愛されてるし? ……あれ、なんだろうこの湧き上がる真っ黒な感情』

 

 ラスロがあまりに暗い目をするものだからすぐに逃げ出したためその後のことは覚えてないと言うか知らない。そしてアレンは、過去の回想から一つの答えに辿り着く。

 

(好きなように……)

 

 アレンが今まで目標としていたことそれは、アクマを救うこと。

 しかし、今成したいのはそれだけじゃない。

 アクマだけでなく、後ろにいる人々を、人間を守りたい。

 

(アクマも、村の人だって、守りたい、救いたい)

 

 ならば、やること選ぶべき選択肢は――――――

 

「――存在しない三択目ですね。攻撃しつつ、守り通す。アクマも、人も――――救済せよ!」

 

 すると僅かに、左手がほんのりと暖かくなった気がした。痛みも和らぎ、今ならば師匠と同じように敵の攻撃ごと敵を破壊できるとイノセンスの力をアレンは感じる。

 

「行きます、イノセンスッ最大開放!」

 

 それと同時に、アクマたちもエネルギーを解放し攻撃を放ってきた。

 

 が、そんなちっぽけなものはアレンに到達することはない。

 

 

 その瞬間アレンの左手から極光が放たれ巨大な手の形を取り、攻撃ごとアクマを飲み込み一瞬で破壊した。圧倒的な威力を持って、アレンは救いたいと思ったものを同時に救った。

 やがて光りは収まり、元のイノセンスの形へと戻っていく。

 ただし、先ほど以上にボロボロの状態へと変化して。

 ただ、腕の変化はそれだけでなかった。 

 

「これで、終わったはず。後は――――――」

 

 ふと、左腕とのシンクロ率が上がっていることに気づくアレン。

 しかしノアは空気を読むことなどなく、これで終わりにはしてくれなかった。

 

 

 

「ヒューゥ、やるなぁ。でも、ここで終わりだ」

 

 アレンはいきなり聞こえてきた声と殺気に反応し、反射的にイノセンスで体を守る。そしてやってくる衝撃と流れる背景。完全に防ぎきれず、竹林の方へと大きく飛ばされていた。

 受身を取れず、何度かバウンドし竹にぶつかり止まる。

 

「……がっ、く、っ。一体、何が」

 

 かすむ視界で、歩いてくる男の姿を捉える。

 その男は貴族風の格好をしており全身黒で統一されていた。額に浮かぶ聖痕さえも。

 

「一応少年の事は知ってる。出来れば、もう一度くらいポーカーをしたかった。でも、ちょいと『狸くん』が何か企んでそうなんで急がないといけないんでね」

 

 そう言うと、男はアレンの左手に自身の手をかざすと、黒い光りが走り……破壊した。

 

「――――――え」

 

 あまりに呆気なく壊された自身の左手の残骸を横目で見て、そして悟る。

 自分はエクソシストでは無くなってしまったのだと。

 突然すぎて意味がわからなくなって呆然としているアレンを見て、ティキは教団コートにつくボタンをプツっと外して裏返す。

 

「ん、少年がアレン・ウォーカーだな? 悪い、ホント急いでるんだ。何処から不意打ちがくるか分かったもんじゃない。見ろよコレ、コブができた。酒瓶遠慮なく振り下ろしてきたんだぜ、少年の兄弟子」

 

 そう言ってコブを見せてきた男の顔を見れば、本当に周りを気にして警戒している硬い表情だった。途中、『狸くん』とかいう意味不明な単語が出てきたが、それより兄弟子という単語が耳に残った。

 そんなアレンの表情を読み取ったのか冥土の土産とばかりに伝える。

 

「大丈夫、兄弟子である狸くんは生きてるよ。それはもうピンピンしてると思うぜ?」

 

 まぁた変な渾名で呼ばれてる、と内心苦笑すると同時に安堵が広がっていく。

 しかし、アレンに迫った危機は回避できそうにもなかった。

 

「っと、ついでに俺の能力も見せてあげたかったが時間がない。今殺してやるから――と思ったが、それじゃあ面白くない。少年にはポーカーでの借りがある。せめてもの情けに、ゆっくりと死なせてやるよ。その、真っ直ぐな目を向けないでくれる? 色々シラケるんだけど……っさ!」

 

 男は両手に蝶の様なものを作り出し、片方を、一気にアレンの左胸部分、心臓へと押し付けた。同時に痛みが体を支配し、体が痙攣する。ゆっくりと、自分の体が死へと向かっていくのが分かる。思い返されるのは、師たちとの旅に、今の仲間との思い出。

 あっという間に視界が暗くなっていく。そして完全に闇に閉ざされるという時に、ポケットの中にいたティムキャンピーに伝える。

 

 ――皆のところに……行け。

 

「んぉ!? 鈍器!? 狸くんか!?」

 

 ティムは直ぐ様飛び出し空へと駆ける。どうやら運が良いことに、へっぴり腰になった男はティムを取り逃がした。

 取り乱す男の姿を視界に納め、それを最後にアレンの心臓は停止した。

 

 

 

 

 

 アレンの心臓に穴が開き停止したのを見届け、男――ティキは何時も通り銀のボタンを奪おうとする。しかし、ボタンはすでに奪っていたので視線をボタンがあった場所に向けるだけに留まった。

 

「それにしても、不気味すぎる。ポケットから何か出てきたときは狸くんの刺客かと思ったぜ。……って、ん? これってあんときのトランプ、か」

 

 ティキはもう一度辺りを見回してからアレンの懐に手を伸ばす。それは以前列車の中でアレンとポーカーで賭けをし、あまりに見事なイカサマに敗れ服を奪われ、その後アレンの慈悲によって返された時に代わりとばかりに渡したトランプだった。

 そのトランプを一瞥し、縛っていた紐を解きアレンの上へとばら蒔く。

 

「んじゃ、おやすみ。……良い夢を、少年」

 

 そしてティキは、そそくさとその場を去っていった。

 

 

 

 

 


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