どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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『1~3 例えば……』は近日削除予定です。

次の話でようやくリナリーの出番……のはず。


第十九話

 

 

 

 

 一人のんびりと歩く。

 チョメ助は行ってしまったし、ここからは単独行動だ。そう言えば、ラビに渡した手紙は上手くいっただろうか。木判を猛アピールしてきたから、原作より死者を減らせたと思うんだけど。まぁ、問題は原作より多く生き残った場合どうやって帰るのか、だ。確か彼らが乗る船はミランダによって修復されているからミランダがいなくなったら崩壊し沈むはず。まぁまだ、戦闘が始まってないかもしれないが。

 ただ、恐らくだがミランダの精神力とかは対して減ってないと思う。うろ覚えだが、発動したときに船の上に出てきた時計に攻撃が当たると大幅に精神力体力が削られていた気がする。今回はラビの行動しだいで瞬殺できるだろうから、全てはラビ任せといったところか。

 

「とはいえ、船が無事でもミランダがいないと帰れない。ミランダごと船が帰ったところでクロス部隊にダメージが戻ってきちゃう……他人任せもまた、もどかしいな」

 

 あるよね、こういう感覚。

 人に任せたんだけど、上手くやれたか心配になるって状況。

 まさに、それだ。信じてはいるが、成功するとは限らないのだ。

 

「…………しゃあない、チャオジーフラグへし折るけどしょうがないよな?」

 

 幾ら生き延びようと、行き先が日本では結末が変わらない。

 何せレベル3の巣窟なのだから。俺が合流したとしても、大勢の人間守りながら戦闘とか有り得ない。ならば生き延びた人たちにはそのまま帰ってもらおうじゃないか。

 

「――――――ども、師匠。ああ、待って切らないで!? 実はお願いがありまして―――」

 

 そして俺は銀のゴーレムから師匠に回線を開いた。

 その時ゴーレムの左下にある数字が増えていたのだが、これが通信料だと知るのはその後だった。

 そして師匠は俺の願いを聞き入れてくれたのだが、うん、察して欲しい。人にものを頼むときは袖の下くらい持ってこいよ、あ? 的な展開だったことは伝えておく。

 

「はぁ、なんでこんなに自身犠牲にせにゃならんのだ……。師ならば弟子の頼みくらい無償で聞いてくれっての。こうなったら、無事船員は生き残ってお前らはちゃんとコッチこいよ?」

 

 俺は再び、あの意味不明な箱+船を取り出してイノセンス化に挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 ラスロが師に連絡し終えた数時間後、船上で戦闘になっていたクロス部隊。

 襲撃者はレベル3とレベル2が数体だけだが、レベル2に限っては雲の上から攻撃をしてくるため位置が特定しずらく苦戦していた。レベル3に至っては海面で何とか立ち直ったリナリーと激戦を繰り広げていた。

 

「くっそ! 全然当たらないさ!!」

 

 船に残っているエクソシストの中で、空中戦または遠距離攻撃を持っているのはリナリーとラビのみ。ブックマンも針を使えるがあくまで近~中距離といったところなのでリナリーがいない今ラビのみとなる。

 しかし、遠距離攻撃を放てようと的が見えなければ当たらない。ラスロであれば科学班印の自動追尾やら便利機能を使って撃沈するか、大火力で広域の弾幕張り巡らせて殲滅するが。

 

(なにか、なにかないんさ……リナリーは戦ってる、やれるのは俺たちだけなのに!)

 

 額に冷や汗を流しながら、雲の上にいるであろうアクマを睨みつける。

 

「クロちゃん頼む!!」

 

「!」

 

 ラビは天判を使用し、広範囲にイノセンスの雷撃を放つ。

 数秒訪れる静寂からもしかしてという気持ちが湧き出るがすぐに打ち砕かれる。

 

「おい、当たっておらんではないか!!」

 

「だって見えないんさしょうがないだろ!!??」

 

 クロウリーに怒鳴られながらも、次の判を選びに入る。

 

(ええい、次は火判さ! それでダメならコンボ判で――――――って、ん? そう言えば最近判判うるさい何かを……)

 

 戦闘中だというのに、動きを止めて顎に手をやるラビ。

 それを見ていたクロウリーがため息をつきながらラビに襲いかかる凶弾を打ち払った。

 

「何をしている!!」

 

「悪いクロちゃん!! ただ、何か思い浮かびそうなんさ!」

 

「ならばさっさとしろ! 何時船内まで攻撃が届いてしまうかわからんぞ!」

 

 甲板には、ミランダを除くエクソシスト以外の姿が見えない。

 これは奇しくも、出航前にアレンの一言が原因である。

 

「わかってるさ! ただ、もうすこしなんさ!」

 

 そう言いながら、グイッと袖で汗を拭う。

 その時、カサリと紙が折れ曲がるような擦れるような音がしハッと懐を漁る。

 

「――行ける! 『木・判!!』…………じゃなかった、木判、天地盤回!」

 

 ラビは自身のイノセンスが持つ特殊能力を思い出す。

 最近手紙に書かれていた、あの判である。

 タンッと甲板にイノセンスを叩きつけ「木」と描かれた判子の様なものを押す。するとそれは光りを放ちながら空へと舞った。

 

「ち ち ち ち ち――――――どいてくれ、雲よ!」

 

 そしてラビがそう言うと、雲は従うように視界を開ける。

 天候操作の木判が発動したのだ。

 少し遅いが、ラスロの考えた展開通りに進んだ。 

 

「……見つけたぞ、アクマ共ッ!」

 

 それを逃さぬ吸血鬼。ラビに打ち上げられ、アクマに取り付く。

 しかし顔を見せない無礼者は楽には殺さんと、血を吸うのではなく注入してきた。イノセンスに犯された彼の血は、人にアクマのウイルスが毒なように、逆もまた然り。血を入れられたアクマは悶えながら散った。

 その後すぐに、赤い雪が甲板へと降り注ぐ。

 

 

 しかしリナリーは、帰ってこない。

 

 

 江戸にて会合するまで、後僅か。

 

 

 

 

 

 

 

 ややこしいが、時は巻き戻り師との連絡二時間後。

 つまりラビ達が戦闘になる数時間前……

 

「待てやクソ狸ィィィィ!!」

 

「ヒヒ、ヒヒヒ! 逃がさないよヒヒヒ!!」

 

 何故か絶賛逃走中の俺。

 いや、理由はわかってるんだけどさ。

 

「やっぱ弟子だなぁクソ狸! ここで会えるとは思わなかったぜ!」

 

 もう効果音がドドドドド!と付きそうなくらい爆走しております。

 だって背後から来るの顔色悪くてパンクな格好した黒い双子だもの。

 

「師匠めぇ、指定の位置にて待機とか言ってノアと鉢合わせとか有り得ない! 仕組んだなッ!? というか、独自行動言われてたのにまんまとかかった俺も俺かっハハハハ――有り得ない」

 

「ハッハッハ! 逃がさねぇ、絶対逃がさねえ! こないだ押し付けてくれちゃった倍近く払ってもらう!」

 

「あー、つまりあの後も師匠に借金を押し付けられたと。……ご愁傷様?」

 

「うぜぇ! その視線うぜえ! ジャスデロいくぞ!」

 

「ヒヒ、了解! ドッロドロー!!」

 

 ジャスデビは銃を俺に向けてくる。

 ああ、そう言えばその銃を若干壊したこともあったなぁなんて思いながら何か溢れ出てくるドロドロとした怨念っぽいものに進路を塞がれる。なんだか凄いざわざわとうるさい。死ねだの恨むだの憎いだの借金返せだの、本当に怨念の塊らしい。

 

「これで逃げ場はなぁい!! 年貢の納め時だゴラァ!!」

 

「は、この程度の怨念イノセンス以下だボケ!」

 

 甘いな少年達。

 イノセンスの囁く声はもっと厳かで響く、おっかない生活指導や学年主任的な声だ。それに毎回怒られている俺ですよ? ついで言うと、借金取りから罵詈雑言+暴力を受けていた俺ですよ? まぁ暴力に関してはいなしてたけどさ。

 

「んなっ!? そんなちっぽけな剣で払った!? 師弟そろってデタラメ過ぎるだろコラ!」

 

「ヒヒ、違う何かドロドロしたのまとわりついてるヒヒヒ!! ……ホントエクソシスト?」

 

「よく言われるからやめい。結構繊細なんだよ俺」

 

 と言いつつ走り続ける。

 こんな状況だがアクマは一体も俺に襲いかかっては来ない。というか付近には潜んですらいないらしい。どうも彼ら、自力で俺をふん縛りあげたいらしくアクマを近辺から追い払ってくれたらしい。

 

「って事で、俺からもプレゼント! 伯爵印のレア物だぜ?」

 

 コロコロを、走りながら後ろに転がす。

 無論グレネードですが。

 

「んなもん喰らうか!」

 

「ヒヒヒ!」

 

 しかし流石はノアといったところか、グレネードを爆発する前に蹴り上げてあらぬ方向へと吹っ飛ばした。……ノアの能力関係ねぇ。ダメだね彼ら、俺に毒されつつある。

 

「まぁ、それで満足してたら足元掬われるんだ。――そこらへん、穴があいてるから気を付けてな?」

 

「そう言って足元見た瞬間銃撃だろ!? 分かってんだよテメェのやり口は!」

 

「伊達に追いかけてないってね、ヒヒヒ!」

 

 分かってらっしゃる。

 でもね、それ第一段階の話なんだ。警戒度、一。

 

「はっは、おめでとう遂に君らは第二段階、つまり警戒度二へと到達しました。……今まで以上にキツイから、恨まんといてね?」

 

「何言ってやがる。取り敢えず、さっさと捕まえて金吐き出せ! そんでもってお前を人質にクロスを呼び出す!」

 

「いや無駄だから。いい? 俺が今日お前らと鉢合わせしたのも師匠が原因だよ? 弟子をノアに売るんだから、人質なんて意味ないし」

 

「淡々と言ってるけど外道だな!? やっぱりお前ら師弟だよ!」

 

「それもよく言われる。俺、一応師匠を反面教師に育ったつもりなんだけど外から見るとそこんところどう?」

 

「自覚ないよヒヒ! たちわるっ!?」

 

 うるせぇ気にしてるんだよこれでも!

 くそう、涙が出てくる。

 

「オイ、マジ泣きしてるぞアレ」

 

 何かノアにまで哀れみの視線を向けられた!?

 俺って、全種族共通で哀れまれんの? あ、神様以外で。

 

「くっそ、お前ら覚えてろよ。容赦しない、第二段階突入記念だ」

 

 第一段階=ある程度俺の逃走劇に慣れてしまい攻撃パターンと行動パターンを把握されるまで。第二段階=第一段階走破された場合、妨害レベルの上昇。つまり遠慮の度合いが変わる。

 今まで投げてきたグレネードの数が増加したり、落とし穴を作ったりね。

 

「切り替え、『己が栄光の為でなく』発動」

 

 曲がり角を曲がって少ししたところでイノセンスを切り替え地面へと伏せる。普通に見れば道の真ん中で倒れてるおかしな男にしか見えないだろうがイノセンス使っているので別のものにしか見えないはず。

 

「待てぇクソ狸! こうなりゃ先ずその邪魔な足からもいでやる!」

 

 あれか、君らノアは俺の四肢をもがないと気がすまないのか。

 

「って、いねぇ!? クソ、どこ行った!?」

 

「これみよがしに大きい穴があるけど、ヒヒ! きっとデロたちを落とす気だったんだね!」

 

 そう、現在の俺は地面に開いた大きな穴となっている。

 

「ち、舐められたもんだな! 幾ら冷静さを失っててもんなもんにかかるかよ! ジャスデロ、飛び越えるぞ!」

 

「ヒヒ、了解!」

 

 そして彼らは、その飛び越えた穴が俺だとは知らずに再び走ろうと一歩、力強く踏み出した。

 

「逃がすかよおおぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」

 

「ヒヒヒヒ、落ちてる、デロたち落ちてるぶっ!?」

 

 そしてその一歩は地へと沈んだ。

 もう見事にかかってくれたね、ジャスデビの二人。

 ドシャッという音と二人の怒鳴り声を聞きながら、イノセンスを解除して穴を覗き込む。この落とし穴だが、俺を囮として嵌めるのが前提のものである。先ず俺が偽の落とし穴となって危機感を煽る。無論、変化した際の落とし穴は多種多様に用意しておく。今回はこれみよがしな大穴だった。ジャスデビならこれで嵌ってくれると信じてた。で、煽った後はきっと飛び越える。そしてその先に今までの逃走生活で培ってきた落とし穴の技術を駆使して完璧な落とし穴を仕掛けておくだけ。それが今回仕掛けたものの全容だ。

 ……うん、白状してしまえば、第二段階へ移行すると言ったその前から第二段階へと移行していた。つまり、ジャスデビにあった時にはもう、このプランは完成していたりする。ここまで走ってきたのは、元々そのために用意していた場所だから。

 

「テメェクソ狸! 一丁前に穴とか掘ってんじゃねぇよ!!」

 

「狸狸うるせぇ。……人間なら必ず一度はやることだ」

 

「やんねぇよ!? こんだけデカイサイズの落とし穴とか掘らねえよ!? 人類馬鹿にすんな!」

 

「いや、お前らが言うなよ!?」

 

 そんなアホみたいな応酬を繰り返しつつ、ゴソリと懐から銃と一束のトラウマを取り出す。ちなみにこのトラウマ、ジャスデビ達を遭遇する直前に、何故か(・・・)俺の背中に貼り付けてあったものだ。犯人は神父に決まってる。借金を押し付けてきた何者か、と疑問に感じて一番最初に神父が出てくる時点でこの世界は終わってる。というか、俺の周りの知り合いその他が終わってる。

 

「お、おいクソ狸? そこから一方的に乱射とか鬼畜かテメェ!!」

 

「ヒヒヒやっぱり外道だ、クロス一派は全員外道だ!」

 

「……やべぇ、乱射より鬼畜扱いされそうなことを今からするんだけど…………弱肉強食、嵌ったほうが悪いよね?」

 

 そして俺は銃をちらつかせながら、その場でトラウマの文字を書き換えていく。ついでに前回いただいた指紋とかを判子にしておいたのでそのままポンと二人分押す。

 中の二人はまだギャアギャア騒いでおりこのことに気づいていない。

 

「さて、と。銃はしまって、こっちを出して……」

 

 そうして取り出すのは丸い奴。

 無論、伯爵印ですがなにか?

 

「キャ――――――!!! マジだ、コイツマジだ! 鬼畜、鬼、クソエクソシスト、クソ狸、変態!!」

 

「最後の一つは流石に聞き捨てならん! 俺のどこが変態だ!!」

 

「このロリコン!」

 

「もう死ね双子ォ!!」

 

 俺は遠慮なくピンを抜く。

 そして投擲する。

 次の瞬間、丸い物体は音を立てて爆発し辺りを白い煙が包み込んだ。

 

「まぁ、社会的に死へと向かうといいよ」

 

 そう言い残して俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ!! くっそ、何時もの、パターンか!」

 

 デビットは怒鳴る。

 見れば、彼は傷一つ負っていなかった。

 それは隣にいるジャスデロにも言えることだった。

 

「スモークかよ、クソッ! また騙されたァァァァ!!」

 

「ヒヒヒ、エクソシスト死ね!」

 

 これは彼らがノアだからではなく、単純にラスロの使用した武器がスモークだったからである。ちなみに、本物のグレネードを投げ込んでブチギレされて『ジャスデビ』へと変化することを恐れたからでもある。

 

「アー、師弟揃ってマジムカつくぜ……」

 

「ヒヒヒ、煙い、凄い煙い」

 

 立ち込める煙は中々収まってはくれない。

 そんな煙が上へと抜けていく様子をボーっとしながらジャスデビは眺める。

 が、しかし、唐突に何かがデビットの頭へと落ちてきて視界を遮った。煙が大分薄くなっていたので、同じように何かが大量にヒラヒラと落ちてくることを確認できる。

 ペラリ、と頭に落ちてきた何かをはがしてよく見る。

 何だか嫌な予感がした二人。顔を見合わせて覗き込んだ。

 

 

 

 するとそこには――ラスロと名が書かれ、横線で消されていた。見れば、下にある血印まで線で消され、新しい血印が押されている。

 

 

 デジャヴ。ついでに、穴の上からニヤリと笑って楽しそうに紙を落としてくるラスロの姿を幻視した。実際は、もう逃げててそこにはいないが。

 そして二人は、桜の花びらのように舞い落ちてくる――請求書の束に怒鳴り声を上げたのだった。

 

 

 


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