どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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ちょっと旅行に行ってくるので。



第二十一話

 

 

 

 

「さてさて、チョメ助はもう着いた頃だろうし……上手くいってるといいけど」

 

 イノセンスをフル活用して逃げた俺は、現在枯れた井戸の中に身を潜めている。

 ちょっとイノセンスで周りを削ったりしたので意外と快適。

 

「ま、上手くいってくれれば師匠に貸し作ってでも頼みごとをした甲斐があるってな」

 

 代償として一体何を支払わせられるか、これが今後の不安要素の一つである。

 すでに通信料が押し付けられているので、ある程度までの借金なら驚かない自信がある。ていうか、先日ジャスデビに押し付けてきたところだし。あの借金の巡ったルートは、師匠(大元)→弟子(中継)→ジャスデビ(終点)です。そこから後はないから、二人には頑張ってもらいたい。

 

「……にしても、もう直ぐか」

 

 ため息をつく。

 正直、嫌な予感がする。

 あーそうそう、あの船+箱の謎の物体のイノセンス化は成功した。

 その努力の裏には、語るも涙、聞くも涙のお話が待ってるけど省略する。

 ジャスデビとね、遭遇して逃げたあとも色々あったんだ。グレネードに描かれたぽっちゃりが俺を探して徘徊してたり、その側近たるルル=ベルがウネウネと変化しながら殺気を撒き散らしていたり。アクマのレベル3も相当数がブンブン飛んでるから気が気じゃなかった。ティキには食事中悪いけど、前方に酒瓶投げたあと動揺してるところに背中へペタリを借用書を貼り付けておいた。ただ、その後俺は涙を流すことになったが。バチが当たったらしい。神様ェ。

 

「それにしても――――――ティキ、恐ろしい子」

 

 そう呟いてから、俺の上を見上げて空を飛んでるアクマを一瞥して目を閉じた。

 もう少しで、俺も全力で戦わなければならない時が来る。

 そう考えると、胃が痛む。

 せめてぽっちゃりデブ公が来ませんように。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょちょちょちょちょ――――――! ッだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 クロス部隊の乗る船を押すチョメ助。

 チョメ助がリナリーを回収し、クロス部隊と合流したのがつい先刻のこと。現在はティムの御陰で味方であると証明され江戸方面まで全力で船を後押しし、移動時間の短縮を行っていた。

 

「……なぁチョメ助、いや、ちょめ助? 発音が今一……まぁどっちでもいいさ」

 

「ちょちょちょ――! オイラ的にはチョメ助の方で! それで、ブックマンJrは、オイラに、なんのようだっちょ?」

 

「いや、こんなに飛ばしてるから、体力もつんかなって」

 

「問題、ないっちょ! そこの女も体力の消費は避けるべきだし、何よりオイラにも時間がないっちょ!!」

 

 ラビはふぅん、と相槌を打ちながらクロスのいるという江戸の方を見つめる。

 同時に、チョメ助に言われた言葉を思い返す。

 クロス・マリアンからの伝言であり警告。

 

『足でまといになるなら帰れとマリアンは言った』

 

 曰く、日本はすでに伯爵の国であり、江戸といえばその中枢である。そこには大量のレベル3が巣食い、入れば出て帰ることは難しいとのことだった。

 ラビはちらりと、甲板に出ている船員たちを一瞥して思案する。

 

(……生き残った、でもそれが無に帰りそうな嫌な感じさ)

 

 それでも進むと決めた以上、進むしかない。

 自分はブックマンであり、記録のためにこちら側にいるだけ。

 情に、流されるな。

 そう言い聞かせて、再び海の向こうへと視線を巡らせた。

 その時丁度、リナリーも同じような不安を抱いていた。

 

「本当に、ついてくるんですかアニタさん……」

 

「そのつもりよ、リナリーちゃん。奇跡的に皆軽傷ですんでいるわ、ここまで来たのだから最後までついていきたいの」 

 

 船室にて、アニタと向かい合っていたリナリー。

 何どもそのことを確認するが、意志は固く折れてはくれない。船員の皆もまた、最後までお供しますぜ! と笑いながら言ってくるものだから断るにも断れない。

 そんな悩むリナリーを見て、アニタは苦笑しながらいう。

 

「それにね、帰る以前に手段がないの……」

 

 そこでリナリーは気づく。

 現在乗っているこの船、出航前は一体どんな状況であったかを。また、ここに来るまでに受けたダメージが見当たらない理由に。そう、この船が無事に浮いていられるのもミランダのイノセンスが発動しているからにすぎない。本来ならば沈んでもおかしくないダメージを一時的に吸い出している状態だった。

 

「じゃ、じゃあミランダと一緒に!」

 

「それじゃあ、リナリーちゃんたちのダメージが戻ってしまうわ。そのダメージで、アクマの巣窟に行くなんて、無茶よ。クロス様が言っていた通りになってしまうわ」

 

 リナリーは何も言えなかった。

 どちらにせよ、ミランダは欠かせない重要な人物だ。アニタたちが帰るためにも、リナリーたちが日本で戦うためにも欠かすことはできない。選択肢は強制的に選ばれてしまう。

 

「ごめんなさいね。私たちが江戸に行っても足でまといにしかならない。でも、行くしかないのよ」

 

 他の選択肢があればそうしたいのだけれど、それに皆を巻き込むわけにはいかないとアニタは呟いた。その選択肢とはなにと聞くまでもなかった。アニタの瞳にはある種の決意が見えていたから。

 即座にリナリーはそれ以上聞き出さないようにと口を閉じた。

 その選択肢とは、きっと――――。 

 

「……さて、と。それじゃあ私は気分転換に、少し甲板に出てくるわね」

 

「え、今は雨が降ってますよ?」

 

「ふふ、私、結構雨が好きなの。ま、まぁ、クロス様が好きだからって言うのもあるのだけど」

 

 そう言うアニタの顔はほんのりと色づいており、同性のリナリーからしてもとても魅力的に写る。同時に、理想の女性像として脳裏に刻み込まれ、いつか自分もこんなふうになれればなぁと憧れを抱く。

 恥ずかしげにカツカツと部屋を出ていったアニタの後ろ姿を最後まで見届けて、リナリーも不便な足を杖で支えて立ち上がりエクソシストの皆がいる船室へと移動する。中には疲弊したミランダも入れて全員揃っている。正確には、出航した時点に乗っていた皆。アレンは生きているのか生死不明でアジア支部に引き取られ、ラスロなんかは情報一切なしで生死不明に加えて行方不明である。

 本当ならチョメ助に聞いてしまえばいいのだが、チョメ助とラスロが知り合いであるなんて思ってもいないリナリーたち。その結果、ラスロに関しての情報が一切不足するという状況に。

 

(……どうすれば、いいのかな)

 

 このまま進んでも、アニタたちは死ぬ。

 引き返そうとすれば、きっと……。

 

(わからないよ、アレン君、ラスロ)

 

 アレンであれば、きっと守り通すと言って進むだろう。しかし、今のリナリーはそんな事を軽々しく言えない状態だ。レベル3との戦闘でイノセンスを最大開放した結果、両の足が不自由になってしまった。回復するかもわからない。

 では、ラスロならこんな時何と言うだろうか。彼は生き延びることに関してはとある黒くてカサカサするヤツ並にしぶとい。おまけに神出鬼没という厄介さまで兼ね備えた第二のクロス。

 

(…………想像、できない)

 

 正直、こんな時ラスロがどんな行動をとるか全く分からない。この場にアレンがいれば、聞くこともできたのだろうがその二人はここにはいない。ちょっと前までは師匠、兄弟子、弟弟子揃っての生死不明、有り得ない。

 そんな時、船内に放送が流れる。

 要約すれば、再度クロスからの使者が来たとのことだった。

 放送通り、外に出てみれば雨降る中チョメ助の他にも数体のアクマがふよふよと浮いていた。

 

「全員揃いましたね? 実は、よく分からないのですがクロス様からの使者だと言って……」

 

「ちょっ! 柏木、天城、ミツエにコタロウ! 来てくれたっちょか!」

 

 ワイワイと言葉を交わしているクロスの使者とチョメ助。

 一体何がどうなっているのか分からないリナリーたちは呆然とする他ない。そうしていると、チョメ助がはっと我に返ってやって来たアクマ達へと問う。

 

「そう言えば、なんでこんなところまできたっちょか? 交代は江戸に着いたらだし、四体もいらないっちょよ?」

 

 すると、コタロウと呼ばれた落ち武者のようなアクマが答える。

 

「クロスの野郎が、いきなり命令してきやがってよ! もしサチコと合流した時点で、船員が残っていたなら、この小型船を持って人間どもを中国へ返せってよ! 特に、アニタって女は俺の女だから丁重にってよ!」

 

 その言葉に、アニタたちが動揺する。

 正確には、アニタがポンと顔を赤くし、それをはやし立てる船員達。

 一方、ラビはサチコってなにさ? と思いながらアクマを眺め、リナリーは安堵のため息をついた。大人組と言えば、こんな気配り、本当にクロス元帥か? と今までの人物像から怪しんでいる。

 

「悪いが、荷物は置いてってもらうよ! 命の方が最優先だってよ!」

 

 そう言ってコタロウその他三体のアクマは小型船を中に浮かべ乗るように指示を出す。船員たちはアニタを見て指示を仰ぎ、アニタが首を縦に振ったことを確認してから乗り込みだした。その光景を、アニタは複雑そうに眺め、それを支えるようにマホジャが横に立った。

 

「俺たちはここまでっす! 頑張ってください、エクソシスト様!」

 

「アニタ様の憧れの人、連れて帰ってきてください!」

 

「勿論、アンタたちも欠けることなく帰ってこいよ!」

 

 船員達は乗り込みながら、リナリーたちへと声をかける。

 ここまで共に旅をしてきた彼らだ、感傷深いものがあり思わずジーンとくる。

 

「「「勝ってください、エクソシスト様!!」」」

 

 アニタとマホジャ以外の船員が乗り込んだ途端聞こえてくる声援。

 先程まで、己はブックマンであると自戒してきたラビの心も揺らぎ思わず雨降る空を仰ぎ見る。

 

「…………ちょっと、これは……ジジイ、すんごいキツイさ」

 

「……………………ぬ」

 

 ブックマンも思うところがあったのか、唸り声をあげる。

 そして最後に、マホジャが乗り込みアニタだけが甲板へと残った。

 

「ちょっと待ってくださいな。……リナリーちゃん」

 

 アニタが手招きする。リナリーは素直に従ってアニタへと近づいた。

 

「これ、リナリーちゃんが持っていて?」

 

 そう言って差し出されたのは、アニタの母の形見だった。

 既に片方は、レベル3との戦闘の際になくしてしまい片方しか残っていない大切なものだった。

 

「そんな、これはダメですよ!」

 

「いいの、リナリーちゃんに持ってて欲しいの。……この戦いが終わったら、また髪を伸ばしてね? あんなに綺麗な黒髪なんだもの。そして、またこの髪留めを着けて私に見せに来て。そうね、恋焦がれる人と一緒に来てくれると嬉しいわ!」

 

「ア、アニタさん!?」

 

 リナリーはあわあわと両手を振って顔を隠す。

 彼女にこの行動を取らせたのが男衆であれば、確実にコムイの科学兵器が飛んでくる。そう思ってしまうほど年相応で、可愛らしい様子だったとラビは記録する。当然、速攻で頭をパンダに殴られる。

 

「ふふ、妹がいたらこんな感じなのかしら」

 

「おい、ソロソロ行くよ! アクマが来るかもしれないってよ!」

 

「すみません、今行きます。……ああ、お別れとなると話したいことが一杯になってしまうわね。髪型のこと、リナリーちゃんに似合いそうな服のこととか。でも、時間切れね」

 

 アニタは悲しそうに笑い、リナリーの頭を撫でる。

 

「それじゃあ、またねリナリーちゃん。――また後で会いましょう?」

 

 そう言ってアニタは、マホジャかた伸ばされた手を掴んで小舟へと乗り込んだ。

 別れの時がやってきた。しかし、原作と違うのはまた会えるという点。偶然にもラスロという人間がおり、少なからず影響を受けたアレンからの言葉があり、ラスロからの手紙からヒントを得たラビが早急に手を打ったことによる奇跡的な改変。チャオジーというエクソシストが誕生するのが遅れてしまうが、その程度だ。

 

「あ、アニタさん!」

 

 リナリーが浮上していく小舟に向かって叫ぶ。

 するとアニタがひょこりとマホジャに支えられながら顔を出した。

 

「会いに行きます! だから、その……待っててください!」

 

「ええ、待ってるわね! ふふ、そうとなれば色々を用意しておかなければね。マホジャ、手伝ってくれる?」

 

「無論、主のためならば」

 

 船はアクマによって運ばれ、遂に中国へ向かって飛び始める。

 

「……ちゃんと、安全に連れて帰れよー!!」

 

 その船に向かってラビが言う。

 この時はブックマンも何も言わずに見送った。

 徐々に徐々に姿は見えなくなり、灰色の雲へと隠れていく。

 それを見ながら、リナリーは静かに決意する。こんな足で不安定だけど必ず生き残って帰るとただ、ここで一つ疑問が。何故、自分も連れて帰ろうとしなかったのか。今の自分ならば、一般人と大差ないはずだから連れて帰られてもおかしくはなかった。恐らく、今頃アニタも小舟の上でアクマに訴えているところだろう。

 実はこの裏に、ラスロの葛藤が隠れていた。

 どうせなら、リナリーも連れ帰ってもらいたい、しかし原作でも、クロスに足でまといなら帰れと言われてもなお進んだ彼女が帰ってくれるだろうか。言えば余計に帰ってはくれないのでは?

 しかし、原作通りに進めば方舟に侵入できる。

 帰したい、でもそうするとコッチのフラグが潰れる!? と一人悩んだ結果こうなった。後に起こる黒の教団襲撃では方舟がないと科学班が全滅してしまう。詳しい日付がわかれば、なんとか周りを説得して配置もできたのだが……。

 結局、方舟内で俺がイノセンスフル稼働させれば何とかなる……いや何とかすると自信なさげに呟きながら、クロスへのお願い事(・・・・・・・・・)にこう付け加えた。

 ――リナリーが自分から帰ると言わない限りは連れ帰らないと言うことで。

 

 

 すべてが終わったら、殴られるつもりでそう決断したのだった。

 

 

 

 

 


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