どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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ただいま帰りました。
強行軍故に、目的地については一日泊まり、次の夜に五時間移動。
それを数回繰り返してきました。
車での移動時間が合計20時間を超えるというね……。


第二十二話

 

 

 

 

 

 伯爵は笑っていた。

 目の前にあるのは新しい方舟。十四番目に汚された古い方舟ではない。

 しかし、伯爵が笑っていたのは方舟が完成間近だからではない。事前に用意していた、ラスロ捕獲装置が完成したからであった。一度中に入れば早々に外には抜け出せない。後は、時が来るまで監禁し、時が来たならロードの提案を採用するだけ。それだけで、ラスロ・ディーユを無効化できる。

 

「ふ、ふふふフ♥ あはははははははははハ♥!!」

 

 上機嫌な伯爵。

 それを複雑そうな目で見るルル=ベル。彼女にしてみれば、散々負債をつけてくれやがったラスロを、捕まえてある程度生かしておくというのだから微妙な心境だ。主が喜んでいるからいいか、と納得しようとするのだが中々できないでいた。

 

(……ラスロ・ディーユ。あの男っ!!)

 

 その感情が嫉妬であると、ルル=ベルは知らない。

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、お前ら元帥殺しでクロス担当なんだ。……てことは狸くんとも遭遇してたりする?」

 

 一方で、他のノアたちは招集を受けてジャスデロの引く人力車に乗って伯爵の元を目指していた。

 

「アァン!? あのクソ狸とクロスはオレらの獲物だから、手ェ出すな!!」

 

「ヒヒ、アンテナの借り返すよ。ついでに借金もね!!」

 

「……アンテナ……ただ、それだけのこと?」

 

「うるせぇ筋肉! コイツにとっては死活問題だ! つか疑問形で返してんじゃねぇ殺すぞ!!」

 

「お前らも借金、押し付けられてたのな……」

 

「そうですけど何か!?」

 

「いや、俺もこないだ背中に張り付いてたからさ。まぁ、俺って金無くとも意外と生活していけるし問題は無いんだけどさ」

 

 すると、ジャスデビの二人は白目を向いてティキを見る。

 

「お前らも食うか、池の鯉。当たり外れあるが、結構うまいんだぜ?」

 

「黙れホームレス! 池で鯉盗み食いとかどんだけだよ! 確かにそりゃ金はいらないわなぁ!!」

 

「ヒヒヒ、デロの借金もらってくんない?」

 

 ティキはふざけんなと一言呟く。

 これがラスロが以前涙を流した理由だった。

 借金あるのに、気にせず生きていけるその生命力に涙を流したのだ。金がないなら、自然から摂ればいいじゃない的なティキの姿に心打たれ、借金の押し付けなんてしている自分が残念に見えていた。

 実際、どっちもどっちなのだが。

 そんなこんなで、時は進む。

 

 

 

 

 

 

 

「……ここからが正念場だよな」

 

 手を心臓に当て、シンクロ率の低いイノセンスの存在を感じる。

 咎落ちこそしないものの、はっきり言ってエクソシスト中一番低い自信がある。シンクロ率=強さといっても過言でもないこの世界、俺のイノセンスの強さは底辺と言える。まぁ、その分を色々と仕掛けを作っておいたり手数、経験で埋めたりしているのでなんとか出来ているが。ただ、ここから先は難しくなるだろう。

 

「何せ、逃げ場がなくなるからなァ……」

 

 何時もなら、旗色が悪くなれば逃げてきたが方舟の中では碌に逃げ場なんてない。追い詰められれば死ぬ。だが俺には帰るという目的がある。……生き残らなければいけない。

 となれば、強くなるしかない。逃げずとも済むくらいに、強く。

 きっと、ノアも手加減なんてしてこないし油断もしてこないだろう。一体何度その油断に漬け込んできたことか。絶対対策とってくるに違いない。例えば、付近から酒瓶を回収して無くしてしまうか、それどころか周りに何もない部屋での戦闘に追い込まれるとか。俺の生命線である手数と、手にとったものを警戒する必要もなくなるのだから一石二鳥。

 

「そうなったら、残る手段は一つだけ。ただ、コイツを上手く扱えるかって聞かれると、どうもな」

 

 シンクロ率の影響か、『無毀なる湖光』は抜き放った後安定しない。時間を制限した上でギリギリまで抑えて使うならまだしも、今の俺が完全開放して使えば、シンクロ率の関係から力が足りず他の能力へ回す力を失って『無毀なる湖光』が常時展開で抜き放たれる状態になるだろう。言ってしまえば暴走状態。恐らく、収納、停止すらできない。その後精神が衰弱していって…………考えたくもない。

 それ程までに『無毀なる湖光』は力を喰う。

 まぁ能力上当然のことだろう。対ノアでこれほど頼もしい武器はない。

 ただ、チェンジできないのはやっぱり痛い。

 きっと、俺がイノセンスをもう少し受け入れればいいのだろうが……

 

「……難しいな」

 

 うん、難しい。

 俺たち寄生型は体を力を放つ武器とするなら精神力はイノセンスの力を発現させる源だ。アレンもまた覚醒後は、心が折れない限りイノセンスを復元することができる。つまりイノセンスとのシンクロ率が上がれば自然と能力も比例して向上する。

 そして、伯爵を倒すという目的が互いに合致しあえばいいのだ。

 ……まぁ、ここでつまずくわけですよ俺は。

 

「……いや、それは置いとこう、うん。深く考えるとシンクロ率下がりそうだし」

 

 これ以上下がったら0行っちゃいそうな気がする。

 そうなると咎落ち確定でのバットエンド。やってられるかと。

 そんな事を考えていたら、ふとアロンダイトに関して思い浮かんだ。

 

「俺の場合、Fateでいう魔術回路から魔力を引き出す感じか? 原作通り、バーサーカーを縛りきれない的な。俺の場合、武器である『無毀なる湖光』の方だけど。しかも出し入れという根本的なところ」

 

 そう考えると雁夜オジさんって凄いと思う。

 

「っと、んなこと考えてる場合じゃないか。って、おい銀色!? イテッ!? 分かってる、分かってるから突撃してくんな!! 今向かうっての!!」

 

 鋼鉄の体を持って突撃してくる銀色のゴーレムを鷲掴み、コートの中へと仕舞い込む。どうやら、リナリーたち一行がたどり着いたらしい。……まぁ、殴られる覚悟もあるし、罪滅ぼしというかでちゃんと戦おうとも思うってるし、向かわないと行けない。

 

「…………全部説明したとして、リナリーは拳で終わらせてくれるかな? 足飛んできたら、体が持たないような気がする」

 

 そんなことを考えながら、銀色のゴーレムが案内してくれる方へと走り出した。

 上を見れば、ワラワラとアクマ達も同じ方向へと飛んでいく。

 

「っ!? まさか、もうそこまで進んだのか!?」

 

 この場面に見覚えがあった。

 確か、伯爵が日本中のアクマを呼び寄せたときに起こった光景のはず。予想以上に早い。チョメ助もいないし、銀のゴーレムじゃ碌に師匠と連絡もできないし――というか一人独自に動いている師匠がまともに教えてくれるわけがないしで状況が分からなかったのだが到着したのか。この後、レベル3達が合体して巨大なアクマへと変わるはず。まぁ、元帥に神田も来るから大丈夫だろうけど。

 

「――――――ただ、もしアレンが間に合わなかったことを考えると、急がねぇと!」

 

 原作との差異によって、アレンの到着、復活が遅れた場合リナリーが危ない。あのぽっちゃりの攻撃を間近で受けることになってしまう。それだけはさせない。まだ、殴られていないのだから。……言っておくがMではない。

 そうして走っていると、遂にあの巨大アクマが姿を現した。まだ距離はあるというのに視認できるとか有り得ない。

 

「イノセンス解除。そして変更。『騎士は徒手にて死せず』発動」

 

 瞬間、俺の姿がハッキリと視認できるようになる。

 正直、走りながら『己が栄光の為でなく』を使うのは疲れる。イメージ維持しつつ走るのは、この状況下ではいささか効率が悪い。どうせアクマは向こうに集結しているのだから姿を見せても問題はないだろう。

 

「やっぱり、日本と言えば刀。何故かあった火縄銃は使えるだろうか?」

 

 両手に各々装備し、擬似イノセンスと化す。勿論、武器庫の中身は補充済みであるが、方舟内で相当使うことになりそうなのであるものを使おうと思う。ちなみに、刀やら火縄銃やらの武器は逃走劇中発見した屋敷にて入手。掛け軸の裏とかわかり易すぎるわ阿呆め。

 人に見せられない笑みを浮かべて走りながらも、細々と存在しているレベル2や3を火縄銃で撃っては捨て背負う籠から次の銃を使用し、偶に気づいて向かってくるアクマを一刀の元に切り伏せる。二、三振りするたびに刀は折れるが、さすがの切れ味。レベル3でも関節を狙えば一撃で切り壊せる。耐久を捨てての切れ味追求は素晴らしい。

 

「たかがレベル3。ノアとの戦闘に慣れてしまった俺をなめるな」

 

 イノセンス自体の力が弱くとも、戦闘の経験と武器の工夫によって切り伏せる。

 そうやって走り続けていると遂に歪とも言える城の様なものが見え、その上にぷかぷか浮かぶぽっちゃりを発見した。そして、巨大なアクマに突撃していくアクマと、それに乗る二人のエクソシストも発見する。

 エクソシストの乗るアクマは、ランダム機動で巨大アクマの攻撃を回避していくが数の暴力に襲われ徐々に徐々に破損していく。手、足、頭の一部、ボロボロになっていく姿を見て鼓動が早くなる。そして遂に、エクソシストはその上から飛び退き、アクマは攻撃に飲まれ散った。

 少し手に力が入り、刀を振るう勢いが速くなる。

 

「まさか、この世界で師匠たち以外でも情が移ってたのが改造アクマとか……有り得ねぇ!!」

 

 はっきりと自覚した。もう誤魔化せない。

 チョメ助は俺にとって、友人だった。

 はっきりと自覚してしまった。

 もうすでに、チョメ助の残骸すら空には残っていない。

 見えたのは、気持ち悪い格好で宙に浮く巨大アクマが神田によって破壊された光景だけ。

 俺は宙に浮いている製造者を睨みつけ、柄にもなく力む。

 

「神田たちも到着してる。正直私怨だけど……俺も珍しく積極的に破壊してやる」

 

 目標はリナリー達守りつつ余裕があれば――――――ぽっちゃりを殺る。

 

 

 

 

 

 

 

 ラスロが走っている頃、ラスロの予想以上の誤差が生じていた。

 すでに神田たちと共に、『神ノ道化』に覚醒したアレンが到着していたのだ。このアレン、腕を失いアジア支部に保護されたのはいいのだが、アジア支部長であるバクがアレンの意志を試しイノセンスの粒子が漂う部屋へと案内するところまではラスロの知ってるアレンだったのだ。

 しかし、その後からが凄かった。

 何を隠そうこのアレン、紳士スマイルで一人の女を虜にした後、必死にその場所に篭もりイノセンスとシンクロしようと頑張ったが、上手く行かず途方に暮れているところにティキに言われてやってきたレベル3が登場しアクマとの再会に喜ぶ左目の歓喜と、体の鼓動を感じ、守りたいモノを一瞬で見出した。人とアクマを愛し救うと決めたアレンは覚醒。『神ノ道化』を操り一撃も受けることなく瞬殺。流石のレベル3も真っ青だった。

 速攻で片付けつつ、アクマから情報を得て方舟の存在を知ったアレンは乗ると言い張りバクたちを困らせる。後に、レベル3の襲撃で慌てて避難していた支部の人員も襲撃から対して時間も経っていなかったためすぐに現場に復帰。後ろでアレンがニコニコしているのを確認しつつ、急かされるように解析を急いだ。

 そのせいで、急いで調べようと大量のゴーレムを方舟に送り込み大破したがアレンの知るところではない。

 結果、準備にも対して時間が掛からず、ラスロの予想以上に早く到着していた。後にこれを知ったラスロは、遅れるよりはいいのだが、早すぎるのもどうかと思ったという。

 

 そんなこんなで、アレンはクロス部隊と、神田たちとの感動の再会――とまではいかないが合流に成功したのだった。当然、神田VSアレンが勃発しかけのたのは言うまでもない。

 その後、ティキにミランダの体力切れによるイノセンスの停止を狙われ殺されかけたリナリー達を助け、紳士としてキレたアレンがティキに襲い掛かる。その際に女性を投げるという行為を行ったティキにさらにキレたアレンは神田と共に挟撃する。

 

 リナリーもまた、帰ってきたアレンを見て喜んだ。先ほどまでその横にいたミランダもまた同様に。

 

(アレン君が帰ってきた。アレン君が、生きてた……よかった……)

 

 しかし、いまだ見つからぬ生死不明の行方不明者が一人。

 現在珍しくやる気になっているラスロのことである。

 アレンに関しては、ティキとラビが戦闘を始めた時に生存の可能性を示唆されたが、ラスロに関しては一言もなかった。実際は、噂をして出てきたら嫌だなぁという、そんな理由から黙っていただけだが。

 

(きっと……ラスロも、生きてるよね?)

 

 それをノアに尋ねれば一発だったが、尋ねられる状況でも立場でもない。

 きっとノアたちは聞かれれば怒鳴り散らしながら教えてくれただろう、「野郎、ピンピンしてやがる」、と。

 今、リナリーの視線の先ではアレン&神田とあまりの遠慮のなさに顔を引きつらせつつ戦っているティキがいる。途中、神田がうっとおしいとばかりに飛び上がり、マリのイノセンスによって縛り付けられていた巨大アクマを一刀の元に両断する。

 それを見たあとリナリーは離れたところにいるミランダを確認する。大分精神力を使ったのか、顔色も悪く息が切れていた。

 そんな時だ、目の前から、圧倒的な黒が押し寄せてきたのは。

 

「我輩はいま、機嫌がいいのでス♥ 何故だか、わかりますカ♥?」

 

 黒の発生源は製造者であり、エクソシストの敵である千年伯爵。

 彼は城と思われる建物の頂上付近を漂いながら、カボチャの傘を前に突き出していた。その先に黒はあった。その黒は徐々に大きく広がるが、黒の密度に変化は無く何も写さず何も通さない黒だ。

 アレンたちも気づき、止めようとするが距離がありすぎる。

 

「もう直ぐでス♥ もう直ぐ、手に入るのでス♥!」

 

 その距離の差を克服した遠距離攻撃。

 炎の蛇、つまるところ、ラビの火判が伯爵へと向かう。

 しかし伯爵は目にもとめない。

 そしてその黒は、迫りつつあった火の蛇を巻き込みつつ放たれる。

 

「うっとおしいですネ♥ この程度で吾輩を止められるト♥?」

 

 今気づいたとばかりに、炎の蛇を鼻で笑い黒が飲み込む。

 炎の蛇は一瞬たりとも抵抗することはできず消滅。

 

「ッ……デタラメさ!?」

 

 伯爵を中心としその黒は拡大する。

 城を飲み込み、街を飲み込み、エクソシストへと迫る。

 

「っ、リナリー逃げて!! 神田、リナリーを!!」

 

「ちっ、距離がありすぎる、間に合わねぇ!!」

 

 アレンと神田が叫ぶ。 

 しかし、リナリーの足は動かず、ミランダもまた体力不足な為その場から動けない。クロス部隊の女性陣は誰一人まともに動けなかった。

 すぐに皆がのまれる。

 視界が黒で染まる中、リナリーは、

 

「――――――」

 

 そして視界は、完全に黒に染まった。

 

 

 

 

 




感想の返信は後ほど、ゆっくりとさせていただきます(-_-;)
リフレッシュ+実家帰りだったのに、残ってるのは疲れだけとか有り得ない。

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