どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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次からまともに戦う予定……?


第二十八話

 

 

 

 

「よっしゃきたぁぁぁァ! スリーカード!」

 

「ひひ、デロはノーペア、ヒヒヒ!」

 

「だがしかし、俺はフルハウスだ。……さて、受け取ってもらおうか?」

 

「畜生がァァァ!」

 

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!?」

 

 言いながら、俺は懐に溜め込んでいた借金の紙をレートに合わせて渡していく。

 本当ならレートの対象は紙の枚数ではなく金額にしてやろうかと言ったのだが、無謀にも彼らは賭けの対象を紙本体にするというので従ったまで。ふはははは、金額が高い順に消えていく。

 

「ぬぁぁぁ!? んだよこの金額!? 全部まとめりゃ俺たちの借金丸々返せんじゃねぇか!!」

 

「対象を紙にしていいって言ったのはお前らだよ? カモ乙」

 

「で、デロのゴールデン美髪じゃだめ? ヒヒ」

 

「燃やすぞ桂野郎」

 

「ヒ――――!? 金にシビアすぎるよこのエクソシスト!? わかってたけど、わかってたけど!」

 

 ふはははは、やばい、鈍った思考だと歯止めがきかない。

 いつも通りの俺じゃない気がする。

 ばーさーかーラスロ、(金限定)

 ……え、いつも通り?

 

「くそ、どうしてこうも勝てねぇんだよ! イカサマしてんじゃねぇだろうな?!」

 

「してないしてない。神様にちかって、してないよ」

 

「テメェがいうほど信用できねえって自覚あんのかクソ狸!」

 

 罵詈雑言を受け取りながらせっせとテーブルの上を片付けていく。

 まぁ、なんでこんなことになっているのか疑問に思うだろうがこれも作戦の内なのだ。

 

「さぁ、次の勝負だ。どうする、ブラックジャックにでもするか?」

 

「っ! そうだ、そいつならイカサマもできねぇだろ! おいジャスデロ!」

 

「ヒヒヒ、了解っ!」

 

 瞬間、ジャスデビの二人の前に新しいトランプが出現する。

 便利だなぁその能力。

 イカサマだって思いのまま――いや、無理か。

 確か二人の意識がかみ合ってこそ実現するんだから。

 どの柄のどの数字のトランプが欲しいなんて別々のプレイヤーとしてゲームしている以上はかみ合うはずがない。

 そこんとこ気づけばいいのにね、この二人。

 まぁそんなことさせないけども。

 

「さぁカードを配るぜ! すぐに返してやるからなクソ狸!」

 

「はっはっは――――できるものならやってみろ」

 

「やだ、なんだかいつに増して真面目なんですけどこのエクソシスト」

 

 さて、俺の手札はどうなっているのか。

 最初の一枚はハートのジャック。つまり10となる。

 

 

 ――ふむ、この絵柄に似たトランプはどこにしまったか。

 

 

「んじゃ、まずは一枚目だ。さっさと取りな!」

 

 ちなみにディーラーはいない。

 

「ヒヒ、デロのスーパードロー、ヒヒヒ!」

 

「――よし、わかった。……ああ、もう勝負がついたな」

 

「!?」

 

「!?」

 

 ギロリと睨んでくる色黒二人。

 悪いがこちとら生活かかってるんだ、使える手は証拠を残さず全部使ってやる。

 そして俺はドローしたと見せかけてコートの裾から取り出した同じような柄のトランプを裏返す。

 数字は、スペードの5。

 

「ん、んだよ驚かせやがって……! 俺はもう一枚引いてくぞ!」

 

「じゃデロもデロも!」

 

「テメェは引いたら超えるだろうが! おいクソ狸、テメェはどうする!」

 

 俺は一度場に出ているカードを一瞥し記憶する。

 デビットの場のカードはスペ6とダイヤの4、そして今引いたクローバーの7。

 対してジャスデロ。ハートのクイーンとハートのキングの二枚に、阿保みたいにもう一枚引いてスペードの3がでたのでお陀仏。

 問題はデビットだが、この場のカードであればどうとでもできる。

 再びドローする振りをして裾から一枚のカードを落とし、あたかも山札の一番上から引いたかのように見せかける。

 無論、袖から落としたのは俺が勝てる、かつ、この場に出ていないカードである。

 そして――――

 

「ブラックジャックだ」

 

「「――――――!?」」

 

 出てきたのはハートの6。

 10+5+6=21。

 ジャストである。

 そして確かめられないように即座にカードを回収しシャッフル。

 カードは袖の中に戻しておく。

 完全計画……!

 我ながら本当に手慣れたものだ。

 

「じゃ、こいつもどうぞっと」

 

「…………っ!? ちょ、ちょっと待て!? さっきのより金額多いじゃねぇか!?」

 

「これ以上、上の額は来ない……と油断したな? そういうことだ」

 

「死ねよクソ神父! どいつもこいつも俺たちを煽りやがって! 特にてめえら不良エクソシスト共!」

 

「堕ちろよ、咎堕ちしてろよ! ヒヒ……ひひひ」

 

「オイ、ゴールデン美髪とやらが萎れてるぞ」

 

「テメェのせいだろうがクソ狸! ああ、もうやめだ! こうなりゃやけだ、テメェを叩き潰してキッカリ全部押し付けてやる……!」

 

「これだから若いのは。すぐ切れるんだもんなぁ。もうちょっと落ち着きを持とう?」

 

「俺らの余裕奪ってんのテメェだから! テメエの押し付けてきた借金だからッ! オイ、ジャスデロ、やるぞ!」

 

「ひ、ひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」

 

 うん、なんだかジャスデロが壊れてる。

 まぁいい。

 それよりも時間稼ぎも限界か。

 うん、時間稼ぎ。

 決して今までの時間は借金を押し付けるためのドロドロの戦いとかじゃない。

 

「いきなり行くぞ、もう切れた。ここなら全力でやっても千年公に怒られねぇ。思う存分やってやんぞ! ジャスデロ」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒ! そう、そうだよね! 最後に勝てばいいんだよね!」

 

 ジャキリと二人は銃を構える。

 あ、ジャスデロの銃のヒビがでかくなってる。

 

「「赤ボ――ぷべら!?」」

 

 そして爆発した。

 ……え、今のって俺が悪いの?

 ジャスデビの内、特にジャスデロから黒い煙が上がっている。

 よく見ればあの金色のロングヘアーはコメディーのごとく特大のパーマへと変わっている。

 なんだろう、本部の科学班以外では初めて見たかもしれない。

 レアな光景ですね?

 

「じゃ、ジャスデロー! ああ、あいつ自慢のゴールデン美髪がこんなにチリヂリに! テメェクソ狸、一体何をしやがった! この外道! 外道!」

 

「知るかッ! あ、いやちょっと事情は知ってるけどというか原因は思えば全部俺にあるような気がするけど根本にあるのは師匠に押し付けられてきた莫大な借金であるわけで……うん、師匠に関わった時点であらゆる不幸は神様か師匠のせいです」

 

「……お前、ついに外道の否定をやめたな!? これからテメェは外道狸だ!」

 

「狸から離れろよ! もう外道は認めてやってもいいからさぁ!」

 

「ほんっと、ほんっっと何度も言ってきたけどお前本当にエクソシスト!? こんないやらしい仕掛けしてくる奴初めてだし、それでいて神とかハートとか否定して咎堕ちしねぇしどうなってんだよテメェ! 千年公が教えてくれた咎堕ちに関する知識間違ってんの!? お前本当はぶっちゃけ本当はノアじゃねぇの!?」

 

「やめぇ、冗談になってないから!!」

 

「ヒ、ヒヒヒ――がく」

 

「ジャスデロォ!?」

 

 ふむ、想像以上に時間が稼げているようだ。

 そろそろ次のステップに進んでもいい頃か。

 

「なぁジャスデビの二人。ここらで大勝負といかないか?」

 

「あん? 大勝負だと?」

 

「そう。ここで戦い、扉の向こうに行きついたやつが勝ち。負けたやつは――こうだ」

 

 ドサリと、借金の束を床に置く。

 

「……どういうことだよ?」

 

「つまり、借金と一緒に置き去りってことだ。勝てば借金は消え、負ければすべての借金はお前らのものになる」

 

「――――面白ぇ、いいじゃねぇか、受けてやるよ外道狸! 聞いてたかジャスデロ、コイツに勝てば美髪も銃も思うが儘だッ!」

 

「デロ、復・活! よしきたデビット、ヒヒ!」

 

 ――かかった!

 馬鹿め、すでに名義を奴らに変えたうえ、以前作っておいた指紋のコピーで印鑑代わりに証明印を押している俺のこの借用書の束と、名義がジャスデビになっている上に俺が肩代わりしたという証拠になる印鑑も何も持っていないアイツらとではこの戦いの意味が違う。

 あのゲームと違ってその場で印鑑を押すのではなく、先に進んだ方が勝ちなのだ。

 つまり負けても、印鑑もなにも押さずに回収。後に千年伯爵という貴族のもとにこの紙束を送り届けてやればいいのだ。

 冷静な判断ができなくなっている今こそ、さらに押し付けるチャンス――ゴホン、時間稼ぎができる。

 

「さぁ、始めようか! わりぃが最初っから全開だ!」

 

「ヒヒヒヒ、見せてやるよ、デロたちの本当の力をッ!」

 

 そしていつの日かみた、ある一ページが再現される。

 二人は一つの歌を歌い始めは銃を突きつけあう。

 この後あらわれるのは間違いなく、最強の自分へと変貌した真のジャスデビ。

 最強の自分を想像することにより、二人から一人へと融合する『絆』のノアの真髄だ。

 きっと今の俺では勝てる相手ではない。

 重い体と鈍い思考に中途半端なアロンダイト一本で何ができるか。

 普段の俺であれば手榴弾からマキビシまで、ありとあらゆる道具を使い、仕舞にはそこらの破片でも転がっている酒瓶でもイノセンス化して戦うことができる。が、今の俺はイノセンスの切り替えができない上に力を使えばゴリゴリと精神力が削られていくだろう。

 その先に待っているのは、ロードによるオモチャ化かポッチャリに惨殺されるかの二択だろう。

 考えるだけでも背筋が冷える……!

 

 しかしである。

 俺がこんな無謀な役を引き受けた理由と、この場を離脱し勝者となるための作戦はある。

 だからこそ、もう少し時を待ちたい。

 その為の布石はもう打ってある――――!

 

『ゆりかごが一つあった――』

 

 何も、先ほど押し付けた借金は料金が高いだけではない。

 ぶっちゃけてしまえば、もともとの金額があれらより多い借金の紙なんて山のように存在している。

 しかしそんな中からあれらを渡したのはちゃんと理由がある。

 この俺でさえ、さっさと始末してしまわなければと思うほどの最悪の条件。

 経てば経つほどに膨らんでいくソレら。

 俺は思いっきり息を吸い込んで、あの紙束の真実を言葉にする――!

 

「渡した借金実はトイチ――――――!!」

 

『は、ハぁァァァ―――――!?』

 

 混じり合っていた二人の影は弾け飛んだ。

 

 

 

 


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