どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第二話

 

 

 

 あの任務の後、イノセンスをヘブラスカに渡して報告も終えた。

 その後は任務が入ってこなかったのでのんびりと過ごしていた。植木鉢の方も、ようやく芽が出始め成長を感じさせてくれる。桜の方は、あまり進展はない。まぁ仕方ないか。

 それからの毎日は、適当に歩き回って飯食べてお茶して自室で花の世話してと教団本部から一度も外に出ずに過ごした。……別にニートじゃないよ? 偶然仕事が回ってこないと言うか、任務に出したらそのまま帰ってこなそうとか疑われているわけじゃないよ? そう、偶然なのだ。昨日、神田、ラビ、リナリーが各々任務に赴いてたのとか見てない。

 

「……はぁ、まさか俺ってワーカーホリックだったか?」

 

 最近、本当に暇でウズウズしてしまう。

 師匠との旅では常に働くことが当然の事だったため、動いていないと落ち着かない。それに気づいたとき、師匠の恐ろしさを知った。本人に自覚なくワーカーホリックにするとかどこの悪魔? 有り得ない。

 

「まぁ、燻ってるのももうおしまいだな。もう直ぐアレンが教団に来るはずだし……始まるんだな」

 

 千年伯爵との、本格的な戦争。

 暗黒の三日間と呼ばれる終末を避けるための戦い。正直関わりたくないと思っていたが、イノセンスを持っている時点で関わらないとか無理だ。ロード辺りなら、イノセンス渡してしまえばオモチャとして生かしてくれるかもしれないが残念なことに寄生型故に破壊されると不味い。俺が持つイノセンスの力は三つ、場所は心臓に宿っている。うん、ノアに狙われる=命の危険大。

 

「どうせ特典とか言っても信じてもらえないだろうし。というか、俺も特典だよーってはっきり言われた訳じゃないし」

 

 自然と俺のもとに集まってきた。

 それを俺が特典と言っているだけ。実際、俺を転生させてくれやがった神様には会ったことがない。だがきっといる。そしてソイツは間違いなく俺のことが嫌いだ。じゃなきゃ、この世界が俺に優しくない訳がない。第二の人生の方が死亡する確率高いとか有り得ない。

 

「原作の知識とかも、結局曖昧っていうか途中までしかないしなぁ……」

 

 俺が覚えているのは、ジャンプ掲載時にあった本部襲撃事件で、ノア側の方舟に遮られ孤立した科学班がスカルとかいう番人に変えられる所に、アレンが自身の方舟に乗って科学班を助けに来たところで終わっている。それ以降とか知らない。しかもそれ以前の記憶もまた曖昧だ。何せ俺って好きな漫画読むだけでその他は気がむいたら流し読むってタイプだったからな。

 

「……頑張ろう。生き残るために。ついでに、まぁ手が伸びれば近くの人位は守ってみせるさ」

 

 胸元に下げてある弾丸を握りしめる。

 血がついているが、これを落とすことはない。俺がふっきれるその時まで。

 

「さて。行きますか。どうせ巻き毛室長の事だし、師匠の手紙とか資料の底に沈んでるんだろうし」

 

 そう考え腰を上げた瞬間鳴り響くアラーム。

 俺は悟った――遅かったなぁと。窓から外を見れば、鋭い眼光を携え神田が飛び降りていくところだった。ここから俺が走っても、きっとアレンは攻撃される。すまん、そう呟きながら両手を合わせて室長室まで走り出した。

 

「あ、ラスロ。大丈夫、もう神田が向かったわ」

 

 入ってすぐ、リナリーが正面にあるモニターを指さした。そこには六幻に襲われている懐かしい弟弟子の姿が。あ、斬られた。

 

「あー、室長少しいいですか?」

 

「ん? どうかしたのかい?」

 

「あの白髪の少年、敵じゃないですから」

 

「そっかそっか、敵じゃないのかそれは良かった――――――って、アレ?」

 

 室内にいた全員がカチンと固まる。

 特にリーバー班長がギギギと錆びたブリキの様な音を出しながら俺の方に首を向けてくる。

 

「ほら、以前俺が渡した師匠からの手紙あったでしょ? アレに書いてあるはずなんですけど」

 

「ラスロくん…………マジで?」

 

「マジでマジで」

 

「………………」

 

「………………」

 

 視線が全て、室長へと突き刺さる。

 

「そこの君! 僕の机の上を探して!」

 

「え!? は、はい!」

 

「というか、その前に神田止めません? アレンが三枚おろしにされそうなんですけど」

 

 結局シリアスになりきれず、何時も通りの科学班とその他数名だった。

 

 

 

 

 その後、なんとか誤解をとき師匠からの手紙も見つかりアレンが教団内に入ってきた。俺は少し話しかけようかとも思ったが、神田が殺気まき散らしていたのでやめた。一歩進めた途端ギラリと睨まれるのだからたまったものじゃない。どうせ後で会うことになるし、今は機会を見送ろう。

 そうして踵を返すと、少し歩いたところに見慣れない少女が立っていた。その少女は俺の方を見続け、目があった途端プイと顔を逸らし早足に去っていった。

 

「え、なんで? しかも今ハッキリ嫌悪感吐き出してたよね?」

 

 全く心当たりがない悪意。

 というかあんな娘原作にいただろうか。

 

「ま、まさか師匠関係じゃないだろうな? いや、それはない、か?」

 

 横暴で自由奔放な師匠だが、アレでも一応紳士。女性を泣かせることはあっても、嫌われるような事はしない。……その変わり、男たる俺たちには異常に厳しかったが。アレ、教育委員会に訴えれば勝てたね。……きっとその前に沈められるだろうけど。

 

「男とか雑巾の様に扱うからな、あの人……」

 

 御陰でおかしな知恵ばかり付いた。

 ちょっと内心で項垂れながら自室へ戻る。

 するとコンコンとノックの音が。

 

「開いてる、入っていいぞ」

 

 そう言うと扉が開き少し遠慮がちに白髪の少年、アレンが入ってくる。

 

「お久しぶりです、ラスロ」

 

「ん、久しぶりアレン。師匠は息災か?」

 

「ええ、それはもう。僕の頭をトンカチで打って姿を消すくらいには元気ですよ」

 

 ニコニコと笑っている割に、にじみ出る黒い気配は留まることを知らない。きっとオデコには黒と書かれているのだろう。

 

「それにしても驚きました。突然消えたラスロが此処にいるなんて」

 

「師匠に聞いてないのか?」

 

 するとアレン、何をですとパチクリと瞬きをする。マジかあのエセ神父。 

 

「実を言うと、俺もアレンと似たような目にあった」

 

「え?」

 

「俺も唐突に本部に行けと言われてさ。有無を言わさず酒瓶で頭部を強打されて気絶した。しかも、だ。俺の場合は箱に荷詰めされて出荷されたよ。目を覚ましたら箱の中、有り得ない」

 

 唯一の心遣いはあの茶封筒と俺の荷物を一緒にしてくれたことか。……すげぇ狭かったけど。見ればアレンは同情というより仲間がいたと言う視線を俺に向けていた。

 

「……と、まぁ散々な目にあってここにいるわけだ」

 

「流石師匠、えげつないですね……」

 

「ホントにな。ああ、そう言えばアレンは食堂に行ったか?」

 

「いえ、まだです。食堂がどうかしたんですか?」

 

「ああ。あそこの料理長凄腕だから、マジで美味い。しかも早い。きっとアレンも気に入――」

 

「――行ってきます」

 

 見ればアレンはすでに部屋にいない。ここまで腹ペコキャラだったか? もしかして、俺が居なくなってから大変だったんじゃなかろうか。……沢山食べてこいアレン。きっとすぐにマテールまで任務だから。どうせ俺は留守番だ。ホント、師匠と変わらぬ扱いってどうよ。まぁ、確かに中東に逃げようと思ったことはあったけどね?

 

 

 

 

 

 翌日。

 

「――と言うわけで、今回は神田くん、アレンくんは合同任務。ラスロくんは別の任務に行ってもらうよ」

 

 なんか外出許可が出た。

 

「ここにアレンくんが居るってことは、ラスロくんも逃げる気はないってことだと判断します。元帥からの手紙にも書いてあったしね。それじゃあ頼んだよ?」

 

 巻き毛室長はそう言って資料を渡してくる。

 俺はわなわなと手を伸ばし目を通す。

 

(な、なんであんなにやる気があるんですか?)

 

(いやー暫く外に出てなかったから鬱憤が溜まってるんじゃないかな? ほら、クロス元帥みたいにまた姿を消すかと思ってたから)

 

(あー、納得です)

 

 コソコソと耳打ちしているアレンと室長を無視して目を資料に走らせる。今の俺は、神田の殺気すら凌駕してみせる。

 見ればまたイノセンス回収任務だ。これを成功させれば、原作以上に教団の所持イノセンスを増やせるかもしれない。そうなれば戦力が増強され良いことづくし。心配なのは、ノアが出張ってこないかだ。多分、復活してるノアはロードを入れて五人に満たないはずだし早々出てこないと思うけど。そう軽く考えながら、久しぶりの外を楽しみに任務へと出発した。

 

 

 

 

 

「楽勝――そう思っていた時期が俺にも有りました」

 

「どぉしたのラック。余所見してたらダメだよぉっ!」

 

 飛来するロウソクを剣で払う。ついでに片手に持ったハンドガンでAKUMAを数体屠っていく。

 どうも考えが甘かったらしい。ワクワクしながら任務に赴いたら、駅出た途端に襲撃にあった。駅は跡形もなく、周りにいた一般人が全員レベル1へと変化していくのをみてウンザリしたものだ。そこに見覚えのある扉が現れて胃が痛み出したときには色々と嫌になった。なんでこうもノアに襲われなきゃならないんだろうか。

 

「ああ、胃が痛い」

 

「とか言いながら手が止まらないね。ねぇ、そのイノセンスどうなってるのさぁ?」

 

 まるでオモチャを見るような目。

 それは俺の両手にある武器へと注がれている。

 

「何度も言うけど、ネタバラシなんてしないぞ。俺死んじゃうし」

 

「ぶー、つまらない事言うね。もっとボクと遊ぼうよぉ♪」

 

「ロウソク増員させんな! マジ怖いわ!」

 

「ついでにAKUMAも投入~!」

 

「ざけんなテメッ!?」

 

 剣と銃で落ち落とす。しかし如何せん数が多い。神田なら受けてでも進むだろうし、リナリーなら跳んで軽々よける。ラビなら槌を巨大化させて防げるし、アレンもまた腕で防げるだろう。しかし、俺にはそんな便利なものはない。

 であれば作りだすしかない。銃を仕舞って開いた手でコートの内ポケと同化したように埋め込まれた刃の潰れたナイフを掴む。これによって、ナイフだけでなく、同化しているコートもまた若干ながらイノセンスと化す。その瞬間、俺に砲弾とロウソクの群れが殺到した。一瞬で飲み込まれ、コンクリートが抉れて砕け空を舞う。俺もロードも互いに視界が遮られる。

 鈍い痛みを感じながらも、チャンスとばかりに粉塵に紛れてその場を離脱した。 

 

 

 

 

「……撒いたか? それにしても、上手くいってよかった」

 

 一応よけることは出来たが、状況は余り変わらなかっただろう。故に、敢えて受けて粉塵に紛れて逃げることにした。俺に騎士道とか無いし。咎落ちの予兆も見られないしね。そう、戦術的撤退だから大丈夫。

 路地裏に紛れ込み、コートの状態を確認する。どうやら劣化はしてないようだ。ナイフの方はダメだったみたいだが。これは師匠の案を採用したちょっとした裏技だ。俺がイノセンス化できるのは武器と認識できるもののみ。裏を返せば、俺が武器だと認識できれば何だってイノセンスに出来ると言うこと。

 そこで、コートとナイフと一つの物とし武器として認識することでコートの方もイノセンス化させようという試み。実際成功しているが、やはり認識の甘さからコートの方はイノセンス化が完全には出来ていない。まぁ仕方ないと思う。 

 

「どうするかな。ロードもいるし、こうなったらバレずに行くしかないか」

 

 目的地は近いが、どうせ待ち伏せされているに決まっている。正面から戦ってもいいが、死なないロードに大量のAKUMA。大体はレベル1だが、レベル2もそこそこいるし危険。ロードさえいなければと思うがどうしようもない。

 ならば潜入だ。嬉しいことに、俺のイノセンスはランスロットに関するものだからあの隠蔽特化の宝具も再現している。ただ、使用には中々集中力が必要になるので後が疲れるが贅沢は言っていられない。

 

「イノセンス、発動――『己が栄光の為でなく』」

 

 同時に、『騎士は徒手にて死せず』が解除される。それから俺の体を黒い霧が包み始めその姿を幻影へと変えていく。

 ランスロットが友の名誉のため、姿を偽って代わりに戦ったときの名残り。姿を惑わし、真実を捉えさせない幻影だ。ソレはやがて俺を包み込み、幻影から実像へと。

 霧が晴れれば、そこにいるのは何処にでもいるような冴えない中年男性。更にイノセンスの効果で気配を捉えられないよう稀薄にして、そのまま恐ることなく目的の場所へと歩く。欠点と言えば、集中力を要することと同時に他の力とは使用できないことか。正直コントロールが効かない。戦闘に支障なく使えても両腕を化かすくらい。師匠は二つの別々のイノセンスを同時に使って見せているが、結局アレもマリアに系統命令だしてその通りに使わせてるだけだし。まぁだからと言って師匠に勝てるなんてことないけど。

 そして俺は、呆気なくイノセンスを手に入れ、堂々とロードの真横を通って本部へと帰った。ちらりと振り向かれたときは気が気じゃなかった。調子にのってごめんなさいとつい謝りかけたくらいに。

 ちなみに、本部に帰った俺は頭痛に悩まされることになった。維持するのに集中力が半端じゃなく必要なのだ。何せ、俺のイメージから出来ているのだから。少しでも崩れると瓦解する。以前、アレンの前で師匠に化けて見たのだが、途中でイメージが崩れ酒場にいた酔っぱらいへと切り替わってしまい鼻の下辺りが情けない師匠へと変化してしまったことがあった。

 吹き出すアレン、鏡を見て爆笑する俺。そして、ゆらりと現れる師匠。俺たちの結末は決まっていた。それからは、絶対に失敗しないように必死に練習したものだ。失敗すると後ろから酒瓶飛んでくるし。理由を聞けば、

 

『お前がそれを覚えれば、借金取りからの囮になるよな?』

 

 だった。マジで泣いた。

 ノアとか伯爵から逃げるためでなく、借金取りというところで泣いた。 

 その日の夜、夢に出てきた師匠に酒瓶持って追いかけられた、有り得ない。

 

 




主人公の口癖、有り得ない。

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