どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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第七話

 あれからの事を話そう。

 ロードの空間から開放された俺たちは、ミランダの部屋と思われる場所に放り出された。これで一息つけると言うときに、ミランダがガタガタと震え始める。イノセンスを維持できなくなっていたのだ。

 イノセンス、それも装備型はそれ用に作り替えなければ使用者への負担が増大する。ミランダはほぼ原石のままのイノセンスを常時使用していたのだから当然のことだろう。だが、ミランダは解除することを拒む。理由は、解けは全ての怪我が二人の元に帰ってしまうから。

 それをアレンとリナリーが説得するのだが、中々強情で折れてくれない。その間に医者とか教団に報告しようと部屋をでて、帰ってくるまでそれは続いた。

 

「自分の傷は自分で負います。生きてれば癒えるんですし」

 

「そうよ、ミランダ。だから、ね?」

 

 涙を流すミランダを、二人は優しく慰める。

 が、このままじゃ終わらないなぁと思った俺は心を鬼にして手刀を叩き込む。

 

「う、ぅぅ――コペッ!?」

 

「安心しろ。医者は手配したし、報告もした」

 

 ドサリと倒れるミランダにそう告げる。

 その行為に当然食いつく二人。

 

「だ、大丈夫なんですかミランダさんは!?」

 

「やりすぎてないよね、大丈夫なんだよね?」

 

 ガクガクと服を掴まれ揺すられると返事ができませんよお二人さん。

 取り敢えずジェスチャーで放してくれと伝え開放して貰い、口を開く。

 

「まぁ問題ない。俺が一体どれだけこうやって眠らされたと思う? 武術にしろなんにしろ、受けた方が身についちゃうんだぞ?」

 

 思い当たることがあったらしいアレンは顔を伏せ、リナリーは訝しげに俺を見る。

 はっはっは、その程度の視線で揺らぐ俺ではない。

 

「というか、先ずは自分たちの心配しろよ? ――ほら、時間が帰ってくるぞ」

 

 あ、と言う顔をした二人。

 俺の指差す方向にはあの時計があり、時が二人に帰っていくその瞬間が直に見える。

 

「安心して寝てろ。大丈夫、起きたら貨物の中とかないから」

 

 元からそんな心配してません、と呟いたアレンだが、戻ってきた時により一気にダメージが。限界を越えて意識を手放した。リナリーもまた、精神への負荷が返ってきたために眠ってしまう。 

 

「さぁてと。アレンとミランダの手に応急処置くらいはしておくか」

 

 薬箱はどこかなぁと、失礼ながら家探しをさせてもらう。

 ああ、それにしても胃が痛い。この後に追求が待っているとか、有り得ない。

 ……さっきはああ言ったけど、俺がいなくならないとは言ってないよね? 

 

「……悪いなアレンにリナリー。言い訳思いつくまで、ちょっと待ってて」

 

 期限は決めない。

 その方が都合がいいからな! 

 

「お、医者にファインダーも到着か。その内コムイにラビたちもくる……はずだし、ソッチはどうするか」 

 

 取り敢えず、アレンたちより少し前、あの空間に閉じ込められて知り合ったとでもしておこうかな。どうせラビたちから詳細が話されることだし。

 

「ここからだ。ここからが重要なんだ」

 

 ノアの登場。

 そして元帥狩りによって死亡するエクソシスト。

 娘を思いながら咎落ちしてしまうスーマン。

 そして師匠を追って旅立つアレンたち。

 

「ホント、問題が山積みだなぁー」

 

 取り敢えず、一息ついて考えるのを止める。

 俺もイノセンス解放のせいで疲れているらしい。パラメーター補正がないと俺じゃあアレはキツイ。

 一度気を抜けば、ずるずると体が崩れ落ち休息を求めてくる。その欲求に素直に従って、壁に寄りかかりながら少し眠ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 トントン、と肩を叩かれ意識が浮上する。

 うっすらと目を開ければ、目の前にはコムイ室長の顔が目に入った。

 

「おはよう、ラスロくん。体調はどうかな?」

 

「おはようさん、すごい気だるいが基本問題はないかな。それより、他の二人はどうです?」

 

「アレン君とリナリーだね。二人はまだ眠ってるよ。アレン君はもう直ぐ起きると思うけど、リナリーはもう少しかかるかな」

 

 すまし顔でいう室長だが、持っているコーヒーカップにヒビが入ったのを、俺は見逃さない。

 

「そう言えば、何で室長が此処に? 自らくるなんて珍しいじゃないですか。まさかシスコンが限界突破とか笑えない冗談はやめてくださいね?」

 

「あはは、何を言ってるのさラスロくん。……僕のリナリー愛は常に限界突破の臨界状態さ!! ……まぁそれは置いておいて、取り敢えず今後の説明を先に済ませてしまいたいんだけど、いいかな?」

 

 辺りを見渡せば、どうやらミランダの部屋じゃない。

 資料で埋めつくされている何処か別の場所らしい。……見れば未だ起きないリナリーが書類の布団を被っているのだが大丈夫なのか? 

「どうかしたかい、ラスロくん。って、ああ、またリナリーが!!」

 

 慌てて資料をはけて布団をかける室長。

 どうも調子がよくないらしい。リナリーに負担をかけるようなことを一時的にでも見逃したのがその証拠だ。そう言えば、先程の会話でもリナリー関係の話を少し置いておくと宣言したことも証拠となる。

 

「……随分お疲れのようで。何か、あったんですか?」

 

「まぁ、ね。今回現れたノアの一族もそうだけど、それと同じくらいに心配なことがあるんだ」

 

 室長は、一度顔を引き締め真剣な眼差しで俺を見据える。

 ……それについては、だいたい予想がつく。一応、昔に打てる手は打っておいたのだが、どうなったのかは分からない。

 

「落ち着いて聞いて欲しい。実は先日、元帥の一人がイノセンスを失いました」

 

「……………………」

 

「ケビン・イエーガー元帥。高齢ながら常に第一線で戦っていた戦っていた人だよ。ラスロくんはある程度親しかったよね?」

 

「……ええ、まぁ。そうですか、イエーガー元帥が。でも、生きてはいるんですよね?」

 

「うん、かろうじて、だけどね。右眼に左腕を損傷して一時危険だったけど、何とか一命は取り留めたよ。それでね、元帥から君に伝言を預かってる。『やってくれたな、全く』だそうだよ。朗らかに笑っていた。その後、すぐに眠ってしまったけどね」

 

 『やってくれたな、全く』か。

 まぁ何にせよ、生き残ることに成功したわけだ。

 室長からの言葉を聞いて安心した。駄々をこねてでも説得した甲斐があったと言うものだ。まぁ何を説得して何を仕掛けたかは想像にお任せする。ヒント、人情を揺さぶった。コラ、鬼畜言わない。

 

「元帥が持っていたイノセンスは、元帥自身のも入れて九個。その内半数が失われたよ。無論、元帥のイノセンスもね。現在、元帥は起きて眠ってを繰り返しているんだけど、その中である情報を入手したんだ。キーワードは、神狩り」

 

「神狩り、イノセンスの事ですか」

 

「うん、元帥曰く、『向こうも動き出した、狙いはハート。元帥が狙われる』、ラスロくんはハートについてはクロス元帥から聞いているね?」

 

「ええ。全てのイノセンスの核であり、それが破壊されれば人類の負け。つまり、強いイノセンスがハートではないかと狙われている?」

 

 その通り、と頷いた室長は近くの資料の山から一枚の資料を取り出し手渡してくる。

 

「現在派遣予定のエクソシストの名簿だよ。本当なら、ラスロくんにはクロス元帥を探して欲しいところだけどアレンくんに任せようと思うんだ。ティムキャンピーもいるしね」

 

「あー、つまりあなた様は俺と師匠の再会フラグをへし折ってくれた神様ですね?」

 

(クロス元帥捜索がそこまで嫌だったかー。まぁなんにせよやる気を出してくれたし良しとしようかな?)

 

「で、だ。残るはティエドール隊、ソカロ隊、クラウド隊なんだけど、どうする?」

 

 俺は資料を受け取り目を通す。

 さて、この選択が重要だ。実を言うと、師匠捜索に当てられたら何がなんでも変更してもらう予定だった。当然、心から嫌だと思うと同時に、俺が他の隊に入ることで現れるであろうティキを足止めする為だ。きっと、俺がノアが来ると言っても誰一人止まりはしない。信じてもらえないと言うこともあるかもしれないがそれ以前に、やはり皆神の使徒なのだ。それで止まるような人は一人もいない。きっと、死に直面したときに、後悔する人もいるだろうが、その時にはもう遅い。

 教団側だって、ノアがくると分かっていてこの任務を発令しているわけだし。なら出来ることと言えば、なるべく被害を最小限に留めることだ。時間を稼ぐだけなら、『己が栄光の為でなく』を使って惑わしながらチクチクやればいいし。

 そうなると、何処に所属すればいいのだろうか。

 思い出せ、ティキに一番最初に襲撃されるのは誰だ。確か……ティエドール隊のデイシャ・バリーという、鈴の様なイノセンスを使う男だったか? その後、ソカロ隊が全員やられる。クラウド隊の死亡原因は良く分かってないんだよな……原作には載ってなかったのか、俺が忘れているのか定かじゃないが。

 

「さて、どうしたものか――――――って、ん?」

 

「どうかしたのかい、ラスロくん」

 

「少し。えーと、このクラウド隊にいる四人目(・・・)って、どうしたんですか?

 

 原作との少し違うズレ。

 確かどの部隊もスリーマンセルだった気がするんだが。というか、この四人目の名前を、過去の俺も現在の俺も知らない。

 

「ああ、彼女の名前はそこにあるように――ミラ・イロウズ。先日君が回収してきたイノセンスの適合者だよ」

 

「…………はい?」

 

 え、待って待って。先日って言うと、どれ? 何か転移させられるやつ? それともロードに待ち伏せされたりした時の? いや、そもそもおかしい。知らない、そんなエクソシスト増員とか知らない。

 

「イノセンスの能力は、ミランダと同じように奇怪現象と似た力を持ってる。つまり、転移、テレポートが出来る後衛型のイノセンスだよ。当然装備型だね」

 

「…………おおぅ、ちょっと待って。何だが思考が追いつかないー」

 

「珍しいね君がそんな顔をするなんて。もしかして知り合いかい?」

 

「あー、いや、知りません。まぁ、いいです、了解です。じゃあ余りものたる俺はティエドール隊かソカロ隊ですね」

 

「な、何でいきなりそんなに卑屈になるのかな? ま、、あぁそうなるね。どうする?」

 

 どうしようか。

 やっぱりここはティエドール部隊かな。そこでティキをひたすらおちょくり続けて逃げまくり、数日は貼り付けてやろうか。ただ問題は、ティキが千年伯爵からの依頼を優先しないかなんだよなぁ。飽きたから他のとこ行くって行かれてもこまるんですよ俺としては。

 しかし、他のところを選べばデイシャの死亡フラグがピコンとたってしまう。

 

「それじゃあ……ティエドール隊で」

 

「分かったよ。それじゃあよろしく頼むね。彼らは今バルセロナに向かっているはずだから、上手く合流して欲しい。これが路銀ね。後予備のコートも持ってきたよ」

 

 ポンと手渡される黒いサイフを仕舞い込み、渡されたコートを着込んで旅立つ準備をする。

 え、気が早いって? ハハハ、だって今のうちにいなくなれば二人からの追求の逃れられるじゃないかっ!!

 っと、忘れてた。一応ラビに手紙を書いてっと。これでよし。

 

「え、ちょ、ラスロくん? 準備早すぎないかい?」

 

「ノアが動いてるんです、悠長にしてられないと思って。あ、コレをラビに渡しておいてください」

 

「え、ラビにかい? 分かったよ、それじゃあ気を付けて、ラスロくん」

 

「無論。死にたくないですしね。グットラック」

 

 急かすようにイソイソと建物を出る。

 後ろから訝しげな視線を感じるが、一度だけ振り向いて苦笑いで返す。

 悪いね、すっごい私情からくる行動力だから大した意味とかないんだよね。

 そして俺は、アレン達の元を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、

 

「なぁにやってるの千年公~」

 

「ワヒャッ♥! ロード何時もいってるデショウ♥? 飛びつくのはやめなさいっテ♥」

 

「それよりそれなぁに~? 新しいゴーレムかなにかぁ?」

 

「そうでス♥ リスト檻の囚人セル・ロロン、でス♥」

 

「リストぉ? なんのリストさ~」

 

「十四番目関係のでス♥ 関係者をティキぽんに抹殺してもらおうと思っテ♥」

 

「へぇ~、あ、アレンの名前がある。それにぃラスロもぉ?」

 

「そうでス♥ あの忌々しい、裏切りの騎士の名を冠する小僧でス♥ 師であるクロス・マリアン共々、厄介な奴らですよネ♥ クロス・マリアンと共に過ごしてきたあの小僧が十四番目の関係者である可能性は実にたかイ♥」

 

「……へぇ」

 

 依頼を優先される? 無駄な心配である。

 むしろターゲットの一人。ラスロが逃げるその時まで、ティキは嬉々として戦い続けるだろう。不運の星のもとに生まれたラスロ、落ちついた日々なんて有り得ない。 

 

 

 

 

 




ちょこっと修正。

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