どうやら神様は俺の事が嫌いらしい   作:なし崩し

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色々こじつけがありますがご容赦を。


第八話

 

 

 

 

 列車に乗り込み、流れゆく景色を見ながら考える。

 あっれー? 俺のせいで新しいエクソシスト誕生しちゃった?

 正直笑い事ではない。原作とは違う彼女がいることで、どう変わっていくか予想がつかないのだ。室長が言うには、彼女は転移系のイノセンスを使うらしいから、戦闘面での変化はないと思うのだが……。

 

「反面、生存率の増加には凄い効果だよな、ソレ」

 

 そう、変化があるとすれば俺の理想、生存者の増加である。

 詳しい能力を知らないから分からないが、人数制限、効果範囲、制約等をよく知ることで今後の未来が明るくなりそうだ。それに、不確定要素であったクラウド隊の生存率が上がるはず。ソカロ隊は兎に角俺がティキを止めるので大丈夫だったが、クラウド隊は誰によってやられるのか分からなかった。ノアか、アクマか。

 俺がティエドール隊に志願したのは、彼女がクラウド隊にいたからだ。

 デイシャを逃がし、ティキを止めていれば自然とソカロ隊は助かるはず。そして問題のクラウド隊も希望が見えた。ただ心配なのは、咎落ちという関門が起こらずアレンの成長を妨げてしまうこと。まぁ人命優先だから許して欲しい。

 色々潰しつつあるが、仕方ない。原作通りに進めて人が死ぬのはゴメンだ。そんなんじゃ帰った時にずっと背負い込むことになる。

 

「それは、御免だしな……」

 

 帰ることが出来たなら、アイツらと笑っていたい。

 些細な願いだが、俺にとっては何より大事な願いである。

 

「その為にも、帰る方法を見つけるまで生き残らないとな」

 

 まぁ、その前にさ。

 この神様さっさと他の神様と交代してくれないかな?

 

「よ、ようやく見つけたっちょ!」 

 

 目の前には凄い美女。

 しかし、しかしだ。何だろうねこの胃痛。

 ギチギチと締め付けられるような痛みに加えて、何だか頭も痛いんだ。

 頭痛とかのジクジク痛いとかじゃなくてね? こう、何かで思いっきり殴られてコブどころか出血してしまっているような、あの痛みなんだよ。

 というか、どこから入ってきたの前にそのステキな着物はどうしたのと問いただしたい。 

 

「ちょ? おーい聞いてるっちょか!」

 

「え、ああ、聞いておりますよ? 拙者に何が御用でも?」

 

「ちょ? 聞いた限りじゃ日本人じゃなかった気が……ちょ?」

 

「ええ、拙者生粋の日本人でござる。ラスロ某とやらではないでござらんよ」

 

「そ、そうだっちょか。あれ、でも特徴が合ってるっちょな。というか、何も言ってないのにラスロの名が出てきたっちょな?……そう言えば、もしもの時はって預かってたものがここらへんに……」

 

 そう言って怪しい美女はあろうことか胸の谷間に手を突っ込んだ。

 ああ、大変だ。

 何がって? 別に興奮してるわけじゃないよ、マジで。何がヤバイって、こんなこと教え込む人に心当たりがあったりね? こう、赤毛で仮面つけたエセ神父とか? 弟子に借金押し付けて蒸発するような師匠とか? 酒瓶で弟子殴って貨物に押し込む外道師匠とか?

 正直胃がマッハ。ヤバイよ、飯食えないよ。

 と、取り敢えず逃げようか。本当にあの人の使いなんて言われたらと思うと気が気じゃない。また借金を押し付けられるのか、はたまた何か厄介事に巻き込まれるのか。

 

「っと、あったっちょ! ……あれ、どこ行くっちょか?」

 

 ビクゥ!?

 

「まぁ座るっちょ。そう時間は取らないっちょよ」

 

 グイッと強引に座らされる俺。

 く、こんな所で紳士モードが発動するとは! 師匠の使い(仮)だとしても女性は女性、振り払えないのは仕方がないと言えば仕方ないのだがっ!! ってハッ!? まさかこれを見越しての美女派遣!?

 

「……ヤベェ、否定材料消えてきやがった」

 

「黄昏てるところ悪いっちょが取り敢えず、これを見て欲しいっちょ」

 

 そう言って差し出される包み。

 そんなもの、どうやってソコに……何でもないです。取り敢えず受け取り、重さを確認する。重さは、鈍器として使えそうなほど。材質は包みの上からでもわかるほど硬質だ。大きさは三十cm~四十cmくらいか?

 形は下からある程度上に向かうと、途中から窄んでいくような――

 

「――うぼっ!?」

 

「うわぁぁっ!? い、いきなり吐くなっちょ! というか吐いたっちょ!?」

 

「まだ、平気だ。ちょっと……危うかったけどな」

 

 あ、胃が。

 もう、痛くないや。

 あはは、限界突破か、久しぶりだな。

 

「だ、大丈夫っちょ?」

 

「取り敢えず、トイレ行ってくるからここから動かないで」

 

「それは無理っちょ。『馬鹿弟子一号がトイレに行くと口にしたときは逃げる前兆だ、逃すな』と言われてるっちょ」

 

「…………oh」

 

 やっぱり、師匠か。

 

「それに、逃げようとしたらこの包みを開封して逆手に持てと言われてるっちょ」

 

「はっはっは、OK分かった、座って話を聞こうじゃないか。……だからその包みしまって下さい」

 

「せ、切実と感じられるっちょね。……一体何が入ってるっちょ?」

 

 鈍器です、トラウマです。

 結局、俺は師匠の使い(仮)に捕まり話を聞くこととなった。

 (仮)付けは最早意地だ。

 

 

 

「さて、では自己紹介からはじめるっちょ。オイラの名前は通称サチコっちょ」

 

「サチコ? ……日本人ってか、通称?」

 

「見て分からないっちょか? ボディは普通に女っちょ」

 

「ボディ? ……あー、アレか、お前師匠の改造アクマか!」

 

 思い出した。ラビが後に名付けるチョメ助だ。

 いたなーそんなの。アクマ改造して伯爵の命令無視できるようにした奴だ。ただ、中には自爆装置が入っていて、殺人衝動が抑えきれなくなったら自爆するんだ。……鬼畜すぎだろ師匠ェ。

 

「正解っちょ! って、何で席を立つっちょ?」

 

「いや、紳士モードいらないやんと思って。じゃ、そういうことで」

 

「待つっちょ! この包みを開封するっちょよ!」

 

 掲げられる包みin鈍器。

 降伏します。

 

「……随分と素直に座るっちょね。ホント、中身が気になるっちょ。まぁそれは後ほどとして、いきなり本題に入らせてもらうっちょ。ラスロ・ディーユ、クロス・マリアンの伝言っちょよ。曰く、『最近ガキがしつこくてしょうがない。引き受けろ』だそうっちょ」

 

「結局そう来るかっ! また借金取りの囮にするつもりだな!?」

 

「んー、借金取りとは少し違うっちょが追いかけてくると言う意味ではただしいっちょよ。人相はこっちに描かれてるっちょから後で確認するっちょ」 

 

「……拒否権ねぇのな。はは、何で俺あの人に拾われたんだろ」

 

 ホロリと涙が。

 

「……ちょっと同情するっちょ。アレと何年も旅してきた心情、お察しするっちょよ」

 

 ついにアクマにまで慰められた。

 

「まぁ、正直それはオマケっちょよ。こっちがだいじっちょ。クロス・マリアンは日本に向かったっちょ。目的は、以前と変わらずある物体の破壊っちょ」

 

 それは知っている。アクマ製造プラントの破壊だ。

 以前からコソコソ俺も手伝ってた、否、手伝わされていたのでよく知っている。

 

「その在処の目処がついた上、近々侵入するチャンスが訪れるかもしれないらしいっちょよ。その時、日本にいて臨機応変に箒雑巾バケツモップの様に必死に働けとマリアンは言ってたっちょ」

 

「ついに馬鹿弟子一号が掃除道具一式に……意外と凹んでない俺って一体?」

 

「重傷っちょね。悪いけど、置いておくっちょ。それとあと一つ、『船』、『箱』、を武器として見れるようにしておけとのことっちょ」

 

 船、箱を武器に?

 武器に見れるようにと言うことは、使うのは『騎士は徒手にて死せず』だろう。『箱』はまぁなんとかなるかもしれないが『船』は難しいな。戦艦みたいなのがあればいいのだが、コッチでは見たことないし……だがやらねば殺られる。頑張れ俺。

 

「以上っちょよ。これがマリアンからの伝言っちょ」

 

 チョメ助はそう言うと、ペタっと自身の口を抑え始める。

 見れば、ほんの少し目付きが危ない上、額にアクマの証である五芒星(ペンタクル)が浮かんでいる。それが示すことは――

 

「――殺人衝動か?」

 

「そ、うっちょ。まだ、軽いっちょが時間の問題っちょね」

 

 あっけからんと言うチョメ助。

 暫くすると、衝動は収まったらしく息を整えていく。

 

「ちょ~、ここは人間が多いっちょ。地味にキツイっちょよ……」

 

 呟くチョメ助を他所に、自爆した時のアクマの魂の結末を思い浮かべる。

 この前の巻き戻しの街でも起きかけた、魂の消滅。あの時は俺が間に合ったからいいが、チョメ助が自爆する瞬間俺がいるとは限らない。というか一緒にいる方より、一緒にいて更に自爆する瞬間である事の方が確率的に低い。

 ならば、今この時破壊してしまった方がいいのではないか? 生憎ここは特別席、人はいない。腰にある剣は狭いので使えないが、銃であればすぐに抜き放ち、破壊できる。

 

「やめとくっちょよ。そんな事すれば色々重くなるっちょよ?」

 

 俺の視線に気づいたらしきチョメ助は言う。

 まるで俺を心配するかのように。

 

「それよりも、この自爆システムをどうにかしたほうが気にしなくて良くなるっちょ」

 

 そう言って指さすのは自身の心臓部。

 

「ここに自爆システムが組み込まれてるっちょ。素材はダークマターだから、アクマだって破壊できるっちょよ。魂も、っちょが。マリアンは言ったっちょ。お前は絶対に、何か行動を起こそうとするって。その時は、自分の好きなようにしろとマリアンは言った」

 

 チョメ助は、だから、と続けて。

 

「詳しくは聞いてないっちょが、お前のイノセンスは変わってるんだっちょ?」

 

 ああ、そういうことか。

 つまり、俺のイノセンスで自爆システムを擬似イノセンス化しろと言いたいのか師匠は。俺のこの能力は、自身が手に取り、武器だと認識したものをイノセンス化するもの。自爆システムは言ってしまえば特殊な時限爆弾であるから、イノセンスに変換はできるだろう。そうすれば、自爆したチョメ助の魂は消滅しない。

 じゃあファインダーに、俺がイノセンス化して武器を渡せばと思うかもしれないが実は意味がない。俺がイノセンス化しても、俺の手から使用されなければイノセンス化は解けてしまう。剣をイノセンス化しても俺以外が手に取れば元に戻るし、例え爆弾であっても俺が仕掛けたり投げない限り効果をなさないのだ。

 師匠と調べてみた結果である。

 

 

「だから、これを何とかして欲しいっちょ。取るんじゃなくて、変えて欲しいっちょよ」

 

「……それが、お前の好きなようにする、の結論なのか?」

 

「ちょ。この短時間の会話で、お前は変わってるって分かったっちょ。現に、こうやって消滅させるくらいなら自分で破壊すると考えるくらいに」

 

「いや、自爆の結末をしってれば俺の弟弟子だってそうしたぞ」

 

「それでもっちょよ。兎に角、頼むっちょよ」

 

 真摯な目だった。

 いかに改造アクマと言えど、本当に元アクマかと思うほどに。

 女性の頼みはできる限り叶える。師匠スタイル善。

 ちなみに師匠スタイル悪、は都合が悪ければ上手く誤魔化して泣かせてしまう。ただし、傷つけず一時の夢へと変えるほぼ詐欺術。流石エセ神父、有り得ない。しかも稀に猛烈なファン作り出すし。そう言う人に限って美人なのだ。

 

「分かった。ただ、その結果殺人衝動が高まりやすくなったりしかねない。それでもいいか?」

 

「改造アクマに二言はないっちょ」

 

 そしてその日、俺はアクマ改造に知らず知らずの内に足を踏み込んでいた。また、ほんの少しではあるし時間はかかるものの、ダークマターを擬似イノセンス化することが可能であることが証明されていた。これってもしかして、アクマ本体を武器と認識できれば使えんじゃね? ……とも思ったが、ダークマター故にイノセンス化した後手から離れた瞬間塵に帰るから手持ち武器にしないといけない事に気づいた。ダークマターをイノセンス化すると、普通の武器以上に脆くなるようなのだ。そのせいで、改造アクマたちは少々不安定になっている。

 というか、片手にアクマ掴んで振り回すとか――――――うん、ないな。シュール過ぎて有り得ない。

 あの日の後、十数体にも渡る改造アクマに、丸二日かけて同じ処置をすることになったとき、その事実に気づいたのだった。

 全て師匠の計画のうちかも知れないとか、マジ有り得ない。

 

 

 

 

 

 

 

「――と言うわけで、ラスロ君にはティエドール隊に行ってもらった。そこで、君たちはクロス元帥のところへ」

 

 ラスロが消えて少しした後、左目をロードとの戦闘で怪我してしまい、再生しかけていると言え、調子の悪い時にラビに助けられる。御陰で、教団のコートの意味を思い出しよりいっそう覚悟を決めた。その後、起きたリナリーと、ブックマンと合流しノアの情報を聞き終え馬車に乗って移動しているときのことだ。そこで元帥が敗れた事実、狙われている事実、そして『ハート』の事をコムイから知らされる。そして彼らもまた、他のエクソシスト同様に元帥護衛任務につくことになった……のだが。

 

(ら、ラスロっ! 僕を餌に逃げたんですか!?)

 

 現在すでに消えており、どこにいるか分からない兄弟子を恨む弟弟子がいた。

 それはそう、アレンから見れば、ラスロがいない理由なんて師匠であるクロス・マリアンと遭遇したくないからにしか見えない。お互い酷い師に教わってきた身、その恐ろしさは体に染み付いている。

 

(あー、アレンくんが黒くなってる。……僕が言い出したことって言わないほうがいいかな。うん、そうしよう)

 

 それを見ていたコムイもまた、全責任をラスロに押し付けようと画作していた。

 ラスロが知れば、大人って汚い! と叫んでいたに違いない。

 

「ね、ねぇ兄さん。私達はクロス元帥を探す事になったけど、居場所も分からない元帥をどうやって探すの?」

 

「流石僕の可愛いリナリー! そう、そこが重要なんだ。他のチームはラスロくんを除いて、担当元帥の弟子だからある程度行動パターンは知ってるはず。それに、月に一度連絡がくるからね」

 

「……ちなみに、師匠はどれだけ連絡を?」

 

「あははは――――四年」

 

 アレンはふいっと、コムイから顔を逸らした。

 

「困っちゃうよねーホント。すでに教団内では、すでに死んだか、任務そっちのけで遊んでいるのかと噂は様々。まぁ、生きていることは君たちが来てくれたから分かってるけどね。っと、話を戻そうか。どうやって探すか、なんだけどアレンくんもいるしこのティムキャンピーがいる」

 

「「ティムキャンピー?」」

 

 今まで黙っていたラビとアレンの声が重なる。

 アレンの肩に乗っていたティムキャンピーはニカッと口を開いて笑う。

 

「そう、科学者でもある元帥が作ったものだからね。契約主の居場所は何処にいても分かるはず。そして、アレンくんが行動パターンを先読みして包囲すれば袋のネズミだ! ハハハハハハ!!」

 

 アレンは思う。

 例え見つけても、あらゆる手段を使ってでも逃げ出しそうだと。きっと、弟子である自分さえ使って見せるだろうと、アレンは何処か確信めいた予感があった。

 

「っと。そうだそうだ。ラビには手紙を預かってたんだ。はい、ラスロからだよ」

 

「な、なんでラスロさ?」

 

 その疑問に答えるものは誰もいない。

 

 

 

 




修正しました。

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