ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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第二十四話 最強の五人

 マスターメイサー専用のタイムクエストが有るという事で、六十七層迷宮区は何時にも増してごった返していた。その熱気に、初めて攻略の最前線に足を踏み入れたシリカは、圧倒されて言葉を失っていた。

 

「さぁ、行くぞ、シリカ」

「はぐれない様に、気をつけてね、シリカちゃん」

 

 左右からキリトとヒョウに声をかけられ、シリカの緊張は更に高まる。気遣う二人の口調の中に、シリカは今までに無い警戒感を聞き取っていた。

 

「さぁ、張りきって行くわよ!」

「あひゃっ」

 

 テンション高く掛け声を上げたリズベットに背中をピシャリと叩かれ、シリカは締まりの無い悲鳴と共に一歩を踏み出す。すると、リズベットとシリカを囲む輪形陣を組んで、パーティーは迷宮区の中のクエストポイントに向かって出発していった。

 

 

「えっへっへ、何か気持ちいいわね、こういうの。そう思わない、シリカ?」

 

 最前線という、自分とは場違いな空気に気圧され、不安げに身を縮めて歩くシリカに、彼女とは対照的に胸を反らせて歩くリズベットが、上機嫌に話しかける。

 

「そ、そうですか? リズベットさん」

「だからぁ~、リズで良いって言ってるでしょう、もう友達なんだから。夕べから何回目よ、これ」

「すみません、でも……」

 

 夕べの提案でシリカの事を気に入ったリズベットは、元来の人懐っこい性格もあり、十年来の友達の様な感覚で接し始めたのだが、当のシリカは年下という事もあり、一歩引いた対応をしていた。それが歯痒いリズベットは、とりあえず愛称のリズと呼ぶようにと、シリカに諭して今に至る。しかし、リズベットは今何故シリカに話しかけたのか、その目的を思い出し、呼び方云々は脇に寄せ、元の砕けた口調に改めて話題を戻した。

 

「まぁ良いわ、ゆっくりで。それよりシリカ、見てごらん、すれ違う人達の顔」

 

 リズベットにそう言われ、シリカは顔を上げて周りを見渡すと、道行くプレイヤー達は皆、驚愕の眼差しを自分達に向けている事に気がついた。すれ違うプレイヤー達に至っては、皆、畏怖の眼差しで道を譲ってさえいる。驚いてシリカはリズベットに目を向け直すと、彼女はしてやったりの笑顔で、その理由を話し始めた。

 

「凄いでしょう? 先頭を歩いているのは、血盟騎士団の団長で、二十五層の伝説、『神聖剣』ヒースクリフさん、その後ろ、あたし達の前で二人並んでいるのが黒の剣士、『ビーター』のキリトと、黒のサムライ、『無敵』のヒョウ」

 

 そこへ、リズベットの隣を警戒して歩いているクラインが口を挟む。

 

「よぉリズ、俺は何て呼ばれてるんだ?」

 

 締まりの無い顔で、ニヤニヤ笑いながら聞いてくるクラインをジト目で睨み、リズベットは言葉の肘鉄を食らわせた。

 

「あんた? 別にあんたに二つ名なんて聞かないわ。スケベな目付きの野武士面、以外わね」

「てっ、てめえ! コンニャロ! リズ!!」

 

 拳を振り上げるクラインと、あかんべーをして対抗するリズベット。そんな二人の仲裁をする様に、シリカの隣を歩く女性プレイヤーが口を挟む。

 

「ちょっと、はしゃぎ過ぎよ、リズ」

「ゴメーン、アスナ」

 

 柳眉をひそめる栗色の髪の女性プレイヤーに笑いながら謝罪すると、リズベットは「その通りだ、もっと言ってやってくれ」と訴えるクラインに舌を出した後、シリカにその女性プレイヤーを紹介した。

 

「でね、その子が攻略戦希望の星、『閃光』のアスナよ」

 

 その名前にシリカは目を見開く、攻略プレイヤーに縁の無い者も、閃光のアスナの名前を知らぬ人間は、恐らく一層に引きこもり続けるプレイヤー以外には居ないだろう。憧れと畏怖と驚きの混ざった表情で自分を見るシリカに、アスナ照れくさそうな笑顔を浮かべ、リズベットに訂正を求める。

 

「もうリズ、そんな紹介しないでよ! 恥ずかしいじゃない、私そんなのじゃないからね!」

「良いじゃない、本当の事なんだし」

 

 からかい口調ではあるが、憎めない笑顔で決めつけるリズベットに、かなわないと苦笑するアスナ。

 

「もう、リズったら……。えーと、これからよろしくね、シリカちゃん。リズに振り回されて困った時は、遠慮なく私に言ってね。いつでも怒ってあげるから」

「はい、よろしくお願いします、アスナさん」

 

 実は凄い人達と冒険しているんだと驚きを隠せないシリカだったが、リズベットの明るさとアスナの笑顔に少しずつ緊張もほぐれていった。そんなシリカの様子を見て、リズベットはシリカの不安を払拭するべく畳み掛ける。

 

「ここにはアインクラッド最強と呼ばれる五人の内、四人が揃っているんだから大丈夫、どんなモンスターが出て来てもイチコロよ。このメンバーが揃うなんて、普通じゃ有り得ないんだから、もうクエストの成功は約束された様なものよ。大船に乗ったつもりで行こう、シリカ」

 

 得意顔でパンパンと背中を叩くリズベットに、彼女の心遣いを感じ取ったシリカは、会話をふくらまそうと何気ない疑問を口にした。

 

「そうなんですか、攻略組の人達って、みんな怖い人ってイメージが有ったんですけど、とっても素敵な人達なんですね? 私、安心しました。今ここにいない五人目の強い人も、きっと素敵な人なんでしょうね?」

 

 屈託の無い笑顔でそう言ったシリカの周りが一瞬凍りつく、その豹変ぶりに驚いてアワアワするシリカに、リズベットは慌てて取り繕う様に言葉を被せる。

 

「ああ、ソイツは変わり者だから、気にしなくて良いわ、ねぇみんな」

 

 リズベットの言葉に、我に帰った一同は、シリカを怯えさせまいと表情を取り繕う。笑顔の戻った皆の顔を見て、シリカは五人目の人の話題は、このメンバーの中ではタブーなのだと察し、これ以上その事について口にする事を控え、当たり障りの無い話題に切り替えた。

 

 五人目の人、それはここにいる者達以外にも、中堅以上のレベルを持つ、上層をテリトリーにしている全プレイヤーにとってもタブーであった。その男の名前はPoHという、殺人ギルド『ラフィン・コフィン』の首魁である。

 オレンジプレイヤーの数が増え、オレンジギルドが乱立すると、ラフィン・コフィンは彼等の上に君臨する様になり、無視出来ない勢力になっていた。未だ本格抗争にはなっていないが、攻略組とはちょくちょく小競り合いを起こしており、看過出来ないものになりつつある。六十層を越えた後、攻略組が解放出来なかった層が二つ有る、攻略組がボス攻略会議を開いている最中、それを当てつける様に他勢力に解放されていたのだ。誰が解放したのはいわずもがなで、それは『俺達を舐めるなよ』という、オレンジプレイヤー達から攻略組に対する無言のメッセージだった。

 ロザリアの件が有った以上、シリカにもこうした現実を知らしめる必要がある、しかし現実世界の妹に準えて彼女を見ていたキリトには、なるべくそういう世界には踏み込んで欲しくない、知らないでいて欲しい、という願望が有った。しかしそれは身勝手な想いである、シリカに強くなりたいという意志が有る限り、何時かは向き合わねばならない事である。キリトの心は、深いジレンマに陥っていた。しかし、そんなキリトの心を嘲笑う様に、人知れず事件は起きていた。

 

 

「おう、草の情報通りだ、奴らが来たぞ」

「よし、みんな位置に着け、奴らに悟られないように囲むんだ」

 

 ヒースクリフを先頭に歩くヒョウ達を遠目に確認した、多数のプレイヤー達がハイドスキルを全開にして、慎重に包囲網を敷いていく。

 

「黒い奴は居るか?」

「二人居る、どっちだ?」

「片手剣を背中に担いだガキだ、居るか?」

「ああ、居る」

「ようし、絶対逃がすなよ、ロザリアさんの仇だ」

 

 小言とハンドサインで連絡を取り合う彼等のカーソルは、鮮やかなオレンジ色である。その中でも一際濃い、血の色の様なカーソルを持つ男が、傍らに控えるオレンジプレイヤーに、凶相を歪め吐き捨てる様に横柄な口調で質問する。

 

「おい、奴は居るのか」

「はい、黒装束の刀使い、確かに居ます」

 

 その答えに、男は凶相を更に歪め、クツクツとくぐもった笑い声を漏らす。

 

「そうか……、居るのか……、会いたかったぜぇ、祝屋ァ」

 

 サーキーはその目に狂気を宿しながらも、配下の者に指示を出して包囲陣形を完成させていく。

 

「奴らがインスタンスマップに移行したら、出口を囲んで待機だ、いつ出てくるか分からん、気を抜くなよ」

 

 息を殺して身を潜め、遠目に窺い見るサーキー達の視線の先で、ヒョウ達一行はインスタンスマップへと消えて行った。その直後、スックと立ち上がったサーキーの口から、激しい口調で仕上げの指示が飛ばされた。

 

「おう、今だ! 出口を囲め! 蟻一匹通す隙間も作るな!」

「おおっ!!」

 

 掛け声をかけて走り出すオレンジプレイヤー達の背中を睥睨し、サーキーは満足そうにその凶相を歪ませる。

 

「殺してやる、今度こそテメェを這いつくばらせて、なぶり殺してやる、祝屋ァ!!」

 

 




次回 第二十五話 フェザーリドラ④

改め

第二十五話 ヒョウ、無双

改め

第二十五話 オレンジクエスト
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