ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語 作:場流丹星児
第一話 戦う妖精
やぁ、はじめまして
ふぅーん、次はキミがこれを使うんだんね?
えーっ、そうなんだ!? じゃあ、キミも闘うんだね!! よし、わかった! ボク、応援するよ!
あっ? ゴメンゴメン、自己紹介がまだだったね、ボクはこの○○○○○○○○のナビゲーションピクシー、●●●っていうんだ。これからヨロシクね!!
▽▲▽▲▽▲
「ねぇお兄ちゃん、聞いた?」
妖精の国の上空に浮かぶ鉄の城、新生アインクラッドの二十二層にあるプレイヤーホームで、シルフの少女がスプリガンの少年に向かい、無邪気に尋ねる。
「何をだ、スグ?」
「あれよ、四層の森の、謎の剣豪」
興味津々の表情で覗き込んでくるリーファの瞳は、雄弁に「行ってみようよ」と語っていた。
「謎の剣豪?」
眉毛をハの字にしたキリトが曖昧な表情でそう言うと、傍らに座るウンディーネの少女、アスナに視線を向ける。アスナが首をかしげて視線を返すと、水色の髪のケットシーの少女が口を開く。
「ああ、一刀両断のインプの事ね、聞いたことあるわ……」
「しののん、何か知ってるの?」
「チラッと小耳に挟んだ程度なんだけど……」
謎の剣豪、一刀両断のインプ、そう呼ばれるプレイヤーの噂が立ち始めたのは、ここ一週間の事である。
噂の発端は、とあるサラマンダーのパーティーが、クエストの途中で四層の森で二人連れのパーティーを見かけた所から始まる。彼等が見かけたのは、インプとケットシーのパーティーだった。ケットシーはつい先日のアップデートで追加されたレアアバターで、三毛柄と二本の尻尾が特徴の、通称『ネコマタ』と呼ばれる物である。対してインプのアバターは、変哲の無い普通のアバターだが、装備に特徴が有り、着流しに大小の刀を腰に二本差す侍の様な格好である。
「新参者が、生意気に」
サラマンダー達が彼等を新参者と判断した理由は、異種族でパーティーを組んでいる事、そしてインプの格好だった。ALOでは普通、両手装備となれば盾持ち片手剣もしくはメイスが一般的で、両手に武器を装備する事はない。例外としてスプリガンのブラッキーがいるが、あれは例外中の例外である。二本差しなどするだけ無駄であり、二本買って腰に差す位なら、一本だけにして防具を買うのが常識だ。ただの着流しで防具を装備していないのは、おそらく初回特典の支度金で二本の刀を買った為に、防具を買う予算がつかなかったのだろう。彼等はそう判断した。
トーシロめ
レアアバターのケットシーも生意気だが、侍を気取り使えもしない二本差しでイキったインプも勘に障る。ここは古参の俺達が、PK推奨のMMORPGの厳しさを教えてやる。そう意気込んで、チョッカイを出したのが、彼等の運の尽きだった。剣を片手に威嚇するサラマンダー達の前に進み出たインプは、一瞬ゾッとする笑みを浮かべると、そのまま連れのケットシーと一緒に歩き去って行った。サラマンダー達がその後を追おうとした時、自分達がリメインライトになっているのに気がついたそうだ。斬られた事さえ気付かない抜き打ちの速さと、一撃で葬り去る破壊力の凄まじさに、斬られたサラマンダー達が再ログインするなり噂を広め、現在に至る。その後、誰もその二人連れを見た者がいない事で、クエストを失敗した事を誤魔化す為に、このサラマンダー達が嘘をついていると疑われた。しかし彼等の内の何人かがこの時レアアイテムをロストしており、そこまでして嘘をつくだろうかと疑惑は立ち消えになっていた。
ALO全体を通して見ると、インプはマイナーな種族である。しかし先日逝った絶剣もインプ、今回現れた謎の剣豪もインプ、運営は種族間の均衡を図る為に、インプに種族的優遇をしているのではないかと噂も立ち、この一週間でサブアバターにインプを選び育てる者や、メインアバターをインプに変更する者まで居るとの事だ。
まるでアイツみたいだな……
リーファとシノンの話しを聞いて、キリトとアスナはある人物を思い出した。自分達二人と肩を並べ、攻略の最前線に立ったトッププレイヤー。キリトやアスナを差し置いて、対人戦闘最強と噂された彼は、システムで守られているヒースクリフさえも、最後までデュエルを避けたと言われている。
黒のサムライ、無敵のヒョウ
風林火山見習いのノブとシゲから彼の死を知らされて、余りの衝撃に言葉を失ってしまい、嘘だと疑ってしまったが、彼の最期に至る経緯を聞くと、彼らしいと逆に納得してしまった。残されたツウはどうしているのだろう? それだけがキリトとアスナにとっての気がかりである。
「ねぇ、どうしちゃったの? 二人とも急に暗い顔しちゃって」
リーファの指摘をキリトとアスナは曖昧な笑顔で誤魔化して、話題を変える。
「そんな事無いよ、スグ。それよりスグはどうするんだ?」
「どうするって、何を?」
「絶剣杯だよ、出場するのか?」
キリトの質問に、呆れた様な口調でリーファは答える。
「何を聞くかと思ったらお兄ちゃん、そんなの当たり前じゃない!!」
トップオブアルブズ、通称絶剣杯の告知がされたのも、丁度一週間前である。MMORPGを代表とするネットゲームでは、ゲームを活性化させる為に、様々なイベントを打ち、ユーザーを刺激的に楽しませるのが一般的な運営方法である。それにより、ユーザーのモチベーション向上を図り、定着化を促し、また、未体験者の興味を惹いて、新規ユーザーを開拓するのが目的だ。イベント内容は、ゲームの内容によって様々な形態が有り、中にはゲームの垣根を越えて注目されるイベントも存在する。特に有名なのが、ガンゲイル・オンラインの『バレット・オブ・バレッツ』、略称『BoB』だろう。最強のガンマンを決めるそのイベント内容は至ってシンプルで、数名の参加者をバトルフィールドに転送し、何でも有りの銃撃戦を行い、最後の一人となった者が優勝者となる。そのBoBについて、VRMMO界隈ではとある噂が流れ、賑わしていた。
どうも日本版第三回大会で、同時優勝した二人の内の一人、フォトンソードの使い手はALOからのコンバートプレイヤーで、SAOサバイバーらしい……
この噂が発端となり、ALO運営スタッフはある事を思い出す。
そう言えば、今までALOで開催してきた最強決定イベントは、プレイヤー達の間で自主的に行われていた決定戦であり、ALO全体としてのオフィシャルな最強決定イベントは開催していなかった……
もしかしたらそのBoB優勝者は、そんな刺激が足りなくて、ガンゲイル・オンラインに去って行ったのかも知れない。強いプレイヤーは『MMOトゥデイ』でも話題のプレイヤーとして取り上げられ、ゲームの広告塔として重要な役割を担う。ここは一つ、そのプレイヤーを呼び戻す為にも、最強の妖精を決めるイベントを、内外に向かって宣伝し大々的に打ち上げようではないか。
そうした意図で企画されたのが『トップオブアルブズ』である。
アルブヘイム・オンラインにおいて、各妖精の心の中では、最強の妖精はもう『永久欠番』として既に決まっている。絶剣のユウキである、彼女以外に最強を語る資格無しというのが、妖精達の言い分だった。しかし、だからといって妖精達がこのイベントに否定的だったという事は無い、むしろ天国の絶剣に捧げるべく、大きな盛り上がりを見せている。このイベントが、妖精達の間で誰が言うともなく、絶剣杯と称されているのを、運営が黙認している事実がその証左であろう。
イベントが開催されるのは、運営の準備が整うまでの時間を見込んで、二ヶ月後を予定させている。基本的に全員参加のイベントとなっていて、特にエントリーをしなくても参加に漏れる事はないが、不参加希望者はこの二ヶ月の間に申請しなければならない決まりがあった。参加申請ではなく、不参加申請をしなくてはならないのが、このイベントのユニークな点であるが、もう一つユニークな点がある。予選が存在しない事だ。剣と魔法を駆使し、大空を自由に駆け巡るファンタジーVRMMORPG、それがキャッチコピーのALOだが、システムはSAOと同一のカーディナルを使用しており、SAOに魔法と飛行を追加したゲームと言って良い。古参ユーザーのほとんどは、SAOを買い損ねた者であり、新参ユーザーの大半をSAOサバイバーが占めるこのゲームでは、プレイヤーは基本的に自らを剣士であると自認していた。
正々堂々一対一の真剣勝負こそが剣士の本懐であり、それを示すデュエルはALOの華である。
以上の事柄を鑑みて、運営は対決方法を、無作為に選んだ二名による強制デュエルに決定した。一対一なら予選は必要無いという事で廃されたが、その代わりに約半年間というロングランイベントとして成立する。その事を全プレイヤーは言うに及ばず、VRMMORPG世界に発信、宣伝していた。更に運営はユーザーを刺激するために、現在の準備期間中の二ヶ月間をイベント前自己強化期間として、数多くのレアアイテム獲得クエストフラグをフィールドのあちこちに忍ばせている。妖精達の盛り上がりは、かつて無いものを見せていた。無論それはキリト達も同様である。
「お兄ちゃんにだって負けないんだから、私と当たる時は覚悟してよね」
「お手柔らかに頼むよ、スグ」
リーファに当てられた意気込みを、やんわりとかわすキリト。
「あーっ、お兄ちゃん今馬鹿にしたでしょう!」
「してないよ、スグ」
「嘘、絶対馬鹿にしてる」
「してないって」
「ぶーっ」
キリトとアスナのプレイヤーホームに、いつもの笑い声が響いたその一週間後、彼等はとあるイベントに誘われ、参加していた。
呼び掛けたのはクライン、カグヅチ獲得イベントである。参加メンバーはキリト、アスナ、リーファ、エギル、リズベット、シリカ、シノンのいつもの面子に、シウネーとサクヤ、アリシャ・ルーを加え、そしてノブ、シゲを含む風林火山のメンバーだ。
人数的に二パーティー分の面子を揃えたのには訳がある。カグヅチ獲得イベントは、争奪戦の側面を持ったイベントで、戦力の過多がものを言うからだ。
この面子なら、取りこぼす事はまず有り得ない。
そう考えてイベントに臨んだクラインだったが、最後の最後で想定の斜め上を行く事態の発生に、頭を抱える事となる。絶体絶命のピンチに陥ったクラインが悪態をつく。
「てやんでぇ、畜生めぇ! 卑怯だぞ、ユージーン将軍」
「なんとでも言え、生憎こちらもカグヅチは譲れないんでな」
「にしたって、三レイドで来るこたァねぇだろう」
「それが戦略というものだ、そもそも卑怯なのは貴様だろう、クライン」
「てやんでぃ、俺様が卑怯たぁどういう事だぁ!」
クラインが悪態をついた相手は、サラマンダー部族の最高幹部の一人、ユージーン将軍である。須郷によるALO事件が発覚し、グランドクエスト不正が明らかになった後、種族対立は薄れ、他種族とフレンド登録をしたりパーティーを組んだりするのが一般的になりつつあり、ユージーン自身もそうしていた。だがユージーンには族長の側近という立場もあり、大がかりなクエストでパーティーを率いるとなると、サラマンダーを中心に編成せざるを得なかった。
ユージーン将軍がクラインを卑怯と言い返したのは、まさにそれが理由である。
「ブラッキーにバーサクヒーラー、鉄壁の巨人に撲殺鍛治師、魔弓のスナイパー……。こんなバケモノ連中を揃えやがって、正攻法で勝てる訳無かろう!」
「へっへーん、残念だったな。それが俺様の人徳ってモンよ、恐れ入ったか、トンチキめ!」
木で鼻をくくった様に、胸を反らしてうそぶくクラインに、ユージーン将軍が冷や水をかける。
「ようし、わかった。壺井主任、来週の業務は毎日残業だ」
「あーっ! リアル持ち出すなんて、マナー違反だぞ、課長」
「何の事かな? それより自慢の人徳で、溜まった残務をきっちり片付けてくれよ、壺井主任」
「課長~、俺達が勝ったら、残業撤回させるからなぁ~」
「遠慮をするな、手当ては弾むぞ」
世の中とは広い様で以外と狭いもので、実はこの二人、リアルでは同じ輸入会社の上司と部下だったりする。因みにサラマンダー領主モーティマーもこの会社の部長である、兄弟揃って若くして役職についているのは、創業者一族に名前を連ねているからだ。リアルでもそんな上司に可愛がられているクラインの人徳は、存外に侮れないものがあった。
「ぐぬぬぬぬ……」
「どうする、クライン?」
ユージーン将軍に向かい、目を剥いて歯ぎしりするクラインに、キリトが意志を確認する。
「一度決めたら、後には引けねぇ、それが男の生きる道!」
「オーケー。みんな、聞いた通り、俺達のクライアントは作戦続行がご希望だ」
キリトは言葉を切って振り返り、全員を見回す。皆はこの戦力差に臆する事無く、不敵な笑みを浮かべ、頷いている。
「よーし、じゃあ一発派手に暴れようぜ、準備はいいか!?」
キリトの問いかけに、全員が声を合わせて「応!」と答えた。その答えを聞いたキリトは、不敵でありながらも爽やかな笑みを浮かべ、クラインに視線を送る。
「行こうか、クライン」
「俺は良いダチを持って嬉しいぜ、キリの字、みんなぁ~! よーし、いっくぜぇー!!」
クラインの号令で戦闘が始まった。最前線を駆けるダメージディーラーにキリトとクライン、その直下でタンクとしてサポートするのがエギル、その後ろで遊撃戦闘を担当するのがリズベット、シリカ、アリシャ・ルーの三人、後衛にはスナイパーとして敵指揮官を狙撃するシノン、回復魔法を担当するシウネーに、魔法戦闘を行うリーファとサクヤ、そして基本回復魔法を担当し、後半戦での切り札として戦力温存をするアスナがいる、その後衛戦力をガードするのが、風林火山のメンバーというフォーメーションである。彼等の戦闘力は凄まじく、旧グランドクエストをクリアする為に鍛え抜いた、サラマンダー部隊を圧倒していく。しかしキリト達の人数は二パーティー程度であるのに対し、ユージーン率いるサラマンダー部隊はキリト、アスナ対策として三レイドである。人数的なハンデはいかんともし難く、サラマンダー部隊のうち、二レイド分を壊滅させた段階で、キリト達は攻勢限界点を迎えた。長引いた戦闘に、前衛後衛共にポーションでは補い切れないMP枯渇が深刻化した為である。
「へへへっ、楽しくなってきたなぁ、そう思わねぇかキリの字よ」
「全くだ、楽しくって仕方ねえぜ」
「やれやれ、お前達、バトルジャンキーにも程があるぜ」
絶望的な状況で軽口を叩き合うクラインとキリトに、顔をしかめるエギル。
「何だ、エギル、お前楽しくないのか?」
「まさか、そんな事ないだろう、エギル?」
逆に二人に呆れられ、目を剥いたエギルだったが、一瞬後に凶悪不敵な笑みを浮かべる。
「楽しいに決まっているだろう。俺は大人として常識論を言ったまでだ」
「常識論だとさ」
「まーた大人ぶって」
嬉々として大戦斧を振り回すエギルの背中を横目で見やり、なおも軽口を叩くキリトとクライン。そんな三人を後方から見つめるアスナは、意を決して装備を杖から細剣に変える。
「シウネー、任せても良いかしら? リーファちゃん、シウネーのフォローお願い!」
二人の返事を待たずに、飛び出そうと身構えたアスナは、耳ではなく直接頭の中に声が響いた様な気がした。
「大丈夫だよ、アスナ」
声の主は、まだ記憶に新しいユウキである、思わず動きを止めたアスナの耳に、今度ははっきりとした悲鳴が飛び込んできた。
「きゃあああああああああああああああ~! どいてぇえええええええええええええ~!」
悲鳴の方向に振り返り見上げると、コントロールを失って墜落してくるケットシーの少女の姿があった。ひきつるアスナの目の前に、あっという間に落下して迫り来るケットシーの少女、二人は壮烈な落下音に包まれ、もつれ合って地面を転がり倒れこむ。突然の出来事に敵味方の双方は、共に呆気に取られて戦いの手を止めた。
「あいたたたた……。あなた、大丈夫?」
「えーん、ゴメンなさ~い」
いち早く精神の立ち直りを果たしたアスナが、自分の胸の上で目を回すケットシーの少女に声をかける。未だ前後不覚の状態だが、謝罪の言葉を口にするケットシーの少女の声に、アスナは激しく反応した。アスナは飛び跳ねる様に座り直し、目を回すケットシーの少女を膝枕にして、その顔を確かめた。
「あなた! もしかしてツウなの!? ねぇ! ねぇ!」
「あうあうあうあうあう……」
激しく肩を揺さぶるアスナに、ケットシーの少女は更に目を回し、うめき声をあげるだけだった。そんなケットシーの代わりに答える様に、いつの間にか傍らに飛んできたナビゲーションピクシーが言葉を発した。その後の二人のやり取りに、アスナは絶句して目を見開く。ケットシーの少女は間違いなく、SAOクリア後、音信不通となっていたツウだと確信した。そしてナビゲーションピクシーの姿は、絶剣のユウキをそのまま小さくした姿だった。信じられない出来事に、アスナの瞳は涙でにじむ。
「大丈夫? ツウ」
「何とか……」
「ホントにもう、飛ぶのが下手なんだから、ツウは」
「だって仕方ないじゃないユウキ、リアルじゃ飛べないんだから」
「だったら彼はどうなるのさ」
「比べないでよ、ぶー」
一言二言、じゃれ合う様な言い争いをした二人は、驚愕の目で自分達を見つめるアスナの視線に気がついた。一瞬罰の悪い表情で誤魔化し笑いを浮かべた後、ケットシーの少女がアスナの手を取り、ブンブンと上下に振り言葉をまくし立てる。
「アスナ! アスナよね! 私、ツウよ、久しぶり! 元気だった!? ゴメンなさいね、ピンチみたいだから全速力で飛んできたら、墜落しちゃって……」
恥ずかしそうに俯いて、一瞬言葉を濁したが、直ぐに顔を上げて力強い笑みを浮かべた。
「もう大丈夫よ、安心してアスナ」
そう言ってケットシーの少女、ツウは振り返りアスナから視線を反らし、強い眼差しで戦場を見つめる。つられてアスナもその先に視線を向けると、溢れる涙で視界が塞がれてしまった。二人の視線の先は、対峙する両陣営の真ん中辺り、そこにゆっくりと舞い降りる着流し姿のインプの姿があった。
その背中を見たキリト達SAOサバイバーは息を飲む、皆一様に驚愕の瞳でその背中を見つめていた。
「お、お前は……」
こみ上げる涙を抑え、キリトが呻く様に問いかけると、インプの少年は小さく振り返り微笑みかけてきた。その横顔を認めたSAOサバイバー達は戦いを忘れ、滂沱の涙を流し始めた、シリカはリズベットの胸に顔を埋めて号泣している。この異変にリーファやシノン達が動揺する。
「ちょっとアスナ、一体どうしたの」
「ねぇアスナさん、しっかりして、誰なんですか、あの人」
混乱するクラインのパーティーを見て、好機と判断したユージーン将軍が総攻撃の号令を発しようとしたその時、その機先を制する様にインプの少年が静かに口を開いた。
「仲間が世話になったようだな、礼をするぜ」
そのインプの背中に向かって、ケットシーの少女とナビゲーションピクシーが声を揃えてこう叫んだ。
「「やっちゃえ、タケちゃん「ヒョウ」!!」」
次回 第二話 メディキュボイド