ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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第九話 妹 前編

 ALOからログアウトした直葉は、心ここにあらずといった表情で、しばらくぼーっとしながら天井を見上げていた。ゆっくりと上半身を起こして、アミュスフィアを外す。

 

「どどどどど、どうしよう!?」

 

 今日のALOでの出来事を反芻して、直葉の顔がトマトの様に真っ赤に染まる。

 

「何であんな事しちゃったのよ! 私のバカ! 私のバカ! バカ! バカバカバカ!!」

 

 直葉は枕を抱えて、再びベッドに倒れ込むと、コロコロと寝返りを打ったり、足をバタバタさせたりと、落ち着かない様子である。

 

「タケちゃんさん、変に思わなかったかな? 私の事」

 

 そう一言呟くと、真っ赤になってうずくまり、ポスポスと枕を叩いて、またベッドの上でコロコロと寝返りを打つ。

 

 今日のALOでの冒険は、クラインの勝負だけではなく、直葉にとっても大勝負を賭けた大冒険だった。出会ってから気さくに相手をしてくれて、剣道に通じる剣術、剣裁きを指南してくれるヒョウだったが、彼は常に自分の事を

 

 キリトの妹

 

 と認識している様で、少し直葉は不満だった。キリトの妹としてではなく、一人のリーファとして、ゆくゆくは直葉として認識して欲しい。そう思って、今日の冒険では何とか距離を詰めようと、一大決心をして臨んだのだが……

 

「も~ッ、何であんな事しちゃったんだろう」

 

 さりげなく、自然にアプローチをして、気がつけば親密に……

 

 そう目論んでいた直葉/リーファだったが、最初の最初でプレイヤーネームを呼び間違えるという失態を犯し、あとはしどろもどろのグダグダになってしまった。兄の和人/キリトには注意を受けたが、幸いヒョウとツウには受け入れられ、自分の事もスグと呼んで貰える様になったのは、直葉/リーファにとって不幸中の幸いだった。

 気を取り直した直葉/リーファは、自然に二人の間に入って、ごく自然に手を繋ごうとしたのだが、久しぶりのレコンに気が散ったのが仇になった。リーファとしては、ヒョウと手を繋いで、ツウと腕を組む予定だったのだが、それが逆になってしまい、ヒョウと腕を組み、ツウと手を繋ぐ結果になってしまった。その時ヒョウの腕を自分の胸の谷間に挟んでしまい、それ以降は最初の計画も何処へやら? ひたすらグダグダ街道まっしぐらになってしまった。

 レコンを邪険に扱ったのは、そのせいである。だが、思えば言い過ぎだったかも知れない……。「ヒョウさんに意地悪な女の子だと思われたかも!?」と落ち込んでみたりと、ログアウト後になって赤くなったり青くなったりで、忙しい直葉 だった。

 

「いけないいけない……」

 

 思考が負のスパイラルになって、直葉はぴしゃぴやと両手で頬を叩き、気持ちを切り替え様と今日のALOでの冒険を思い出す。そして、ヒョウがノームの少年の片手剣を、意地悪な兄ノームから取り戻した場面を思い出す。

 

「あ~~、あの時のタケちゃんさん、カッコ良かったなぁ~~」

 

 にへらっ、と締まらない弛んだ笑顔で呟く。

 

「タケちゃんさん、私の事……、どう思っているんだろう?」

 

 直葉は自分の呟きにハッとして、直ぐにそれを否定する。

 

「だっ、駄目よ、私ったら何を考えているの!? タケちゃんさんにはコヅ姉さん、小鶴さんがいるのに!」

 

 そう考えた直葉の胸の奥がチクりと傷んだ。

 

「熱い……」

 

 直葉はALOで、誤ってヒョウの二の腕を挟んでしまった自分の胸の谷間に、熱い火照りを感じてしまう。

 

「タケちゃんさん……」

 

 直葉は熱い胸の谷間に、確かめる様に手を当てる。胸の鼓動が高まる程に、体温以上の熱さを感じていた。

 

「タケちゃんさん……」

「お前、何やってるんだ? スグ……」

「……お、お兄ちゃん……」

 

 両手を胸に当てて、ため息をついた直葉がふと顔を上げると、そこには驚いた表情で自分を見る和人が居た。絶句して暫し見つめ合う直葉と和人……、二人はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 和人はログアウトしてから、やはりプレイヤーネームについてちゃんと釘を刺しておこうと考えて、直葉の部屋を訪ねて来ていたのだ。

 

「ちょっと良いか、スグ」

 

 そう声をかけてノックしたのだが、中からの反応が無い。訝しく思いながらも数度ノックした後

 

「おーい、どうしたんだ、入るぞ、スグ」

 

 と、声をかけ、和人がドアを開けると、直葉がベッドの上で顔を赤らめながら、両手で自分の胸を掴んでいた、これが和人側からの顛末である。しかし、ヒョウの事で、心が一杯一杯の直葉には、和人のノックに気がつく余裕は無く、和人がいきなり部屋に入って来たと勘違いしてしまった。一瞬呆けた後に我に返り、自分が自分の胸を揉んでいる事に気付いた直葉は悲鳴をあげる。思考力の止まった直葉は更に勘違いを重ねた。

 

 ノックもせずにいきなり入って来て、恥ずかしい姿を見られたと勘違いした直葉は、顔を完熟した唐辛子の様に真っ赤にして、手元の枕を両手で持って和人に向かって叩きつける。

 

「入る時はノックしてって言ってるのに、黙って入って来るなんて! お兄ちゃん最低!」

「いや、何回もノックしたけど返事が無いから心配になって……」

「うるさいうるさいうるさ~~い! お兄ちゃんのヘンタイ! 出てって! 出てってよ!!」

「わかった、悪かった、スグ。今出ていくから、もう落ち着け! な?」

「うるさ~~い! お兄ちゃんのバカ! 早く出ていけ~~ッ!!」

 

 何度もボスボスと叩きつけ、最後に直葉は枕を思い切り投げつける。枕はタジタジになって、部屋から逃げ出した和人の閉めたドアに当たり、跳ね返って床に落ちた。暫く怒りの表情でそのドアを見つめていた直葉だったが、兄の気配がドアの向こうから足音と共に消えていくと、ため息をついて枕を拾い上げ、両手で胸に抱えるとベッドにコロリと転がった。直葉は自己嫌悪で歪む自分の顔を、枕で隠す様に覆ってから、コロンと寝返りを打つ。

 

「私……、ヘンタイなのかな……?」

 

 そう一言呟いて、直葉はもう一度、熱さの残る胸の谷間に手を添える。この熱さを胸一杯に……、いや、身体中を一杯に満たしたい……。そう考えてしまった直葉は、小鶴とヒョウの事を想い涙ぐむ。

 

「タケちゃんさん……」

 

 

 △▼△▼△▼

 

「リリー、諦めてはいかんぞ」

「はい、御前様」

 

 二人のケットシーが声を掛け合い、足早にフィールドを駆けている。御前様と呼ばれたケットシーは、凄味の効いた大年増で、妖艶な美熟女といった趣の武者巫女である。彼女は大薙刀を縦横無尽に振り回し、射かけられた矢を切り落としている。それに対してリリーと呼ばれたケットシーは、新入の高校生といった感じの美少女で、姫武者装束に小太刀風の短剣を素早く振り回し、矢を防いでいた。御前様は余裕綽々といった感じで矢を切り落としいるのに対し、リリーの方は蒼白な表情で、矢傷を負っている。

 二人はたった今ALOを始めた初心者プレイヤーだった。ALOをプレイしている知り合いを探し、訪ねる為にログインし、ケットシー領首都からアルンを目指している途中、PKプレイヤーに見つかり襲われていた。

 

 弓矢を用い、巻き狩りの様にチームでPKを行うのは、GGOから流れて来たプレイヤー独特のスタイルである。

 

「森の中に逃げ込まれたらおしまいだよ! 上手く囲んで足止めしな!!」

 

 両頬にタトゥーを入れた、キツい感じのサラマンダーの女性プレイヤーが、どうやらこのPKチームのリーダーの様だ。彼女の指示で、チームは無駄の無い連携でケットシーの二人を追い詰めていく。

 

「あの女、忌々しいが大したもんじゃ……」

 

 森へ逃げ込むルートを潰されたケットシーの御前は、苦虫を噛み潰した表情で呟いた。

 

「一か八か、飛んで逃げるかのぉ……」

 

 御前はふとそう考えたが、直ぐにそれを否定する。

 

「いいや……、儂らは今日初めてこのALOをプレイしたのじゃ、飛ぶのが初めての儂らは、格好のカモじゃ……」

 

 はてさて……きゃつらの囲みの薄そうな所は何処じゃ? そう思案しながら走る、御前の後ろで小さな悲鳴が上がった。

 

「キャッ」

 

 その悲鳴に気がついて、御前が振り返ると、脚を弓で射抜かれて、片足損壊の状態異常となり、倒れ込むリリーの姿があった。

 

「大丈夫か、リリー」

「はい、申し訳ありません、御前様」

 

 駆け寄り肩を貸す御前に、リリーは悲痛な表情で応える。これ以上は無理か……、そう思った御前だが、襲い来るPKチームの動きの中に、活路を見いだした。

 

「ようし、レンちゃん良い仕事したじゃないか!」

 

 PKチームのリーダーが、長身のシルフに向かい、ニヤリと笑う。長身のシルフは、リーダーにはにかんだ笑顔を向け、弓に矢をつがえる。

 

「ようし、みんな! レンちゃんの弓が合図だ! 接近戦に移行するよ、気合い入れな!」

 

 指示を出すリーダーに、巨漢のサラマンダーが意見をする。

 

「ピト、もう一人の方は健在だ、あれの脚を止めてからでも……」

「良いんだよ! 相手はたった二人なんだ! 時間かけて苦しめちゃ可哀想だろう。それに、折角剣と魔法の世界に来たんだ、剣の方も楽しまなきゃ。レンちゃん」

 

 リーダーは巨漢の諫言を遮って、長身のシルフに合図を送る。シルフは頷いて矢をケットシーに向けて放つと、武装をコンポジット・ボウから盾持ち片手剣にチェンジした。

 

「ヒャッハー、全員突撃! 遅れるんじゃないよ!」

 

 身長よりも長いタルワールに武装を替えたリーダーは、嗜虐的な目付きで刀身を一舐めしてから高く掲げ、号令を発した。PKチームが一斉にケットシーに向かい、歓声をあげて突貫する。

 

「ようし、今じゃ!」

 

 PKチームの武装転換を見て、ケットシー、御前はほくそ笑む、脚をやられて歩けないリリーを背負うと、大薙刀を構えてPKチームに向かって駆け出した。

 

「甘いわ! それそれそれーい」

 

 御前が大薙刀を振るい、数名のPKプレイヤーをリメインライトに変えていく。

 

「それい!」

「なんだって!」

 

 すれ違いざま、御前は大薙刀の柄を使い、PKチームのリーダーを地面に転がした。

 

「だから言っただろう、ピト」

「フッフーン、やるじゃん。良いねぇ良いねぇ、ゾクゾクするねぇ」

 

 巨漢のサラマンダーの叱咤を無視し、PKリーダーは素早く立ち上がると、走り去る御前の背中を見て舌舐めずりをした。

 

 

 GGOを本拠にするプレイヤーが、ALOに来た時の戦闘スタイルは主に二つある。

 

 一つはシノンの様に、剛弓を用いてスナイパーに徹する者。そして前述した通り、このチームの様な巻き狩りスタイルのチームである。

 

 スナイパースタイルの者は、GGOでは生粋のスナイパーか、ラン&ガンでメイン武装の有効距離を維持してプレイする者が多い、傾向としてはBoB的な戦いを好む者達だ。一方の巻き狩りスタイルの者は、何でもありの乱戦を好み、メイン武装に拘る事無く状況によって使い分けて戦闘する者が多い、こちらの傾向はSJ的な戦いを好む者達である。

 

 後者はその傾向からチーム、スコードロン戦に長けており、役割分担が明確化されているのが大きな特徴だ。彼等の戦闘スタイルは、ALOの古参プレイヤー達にも強い影響を与え、ギルドやチームの多種族化に拍車をかけている。そしてもう一つの特徴が、状況に応じての大胆な武装転換だった。これにより、武装や魔法の相性による得手不得手、得意距離といった三竦み的な状況を打破する事が可能になり、デュエル以外の対人戦でのジャイアントキリングが見られる様になっていた。

 

 御前はこの武装転換中の隙を突いて、中央突破を計っていた。彼女の見立てでは、どうやらこのPKチームには、ALOに不慣れな者も多く参加している様に思われた。御前の思惑はまんまと的中し、目論見通り中央突破に成功する。そして根元に虚の空いている巨木を背中に大薙刀を構えた。

 

「さぁリリー、この中に入るんじゃ」

「はい、ごめんなさい、御前様」

 

 泣きそうな顔で見上げるリリーを巨木の虚に匿い、御前は優しく微笑むと振り返り表情を改め、追って来るPKチームに向かって大薙刀を隆々としごく。

 

「姐さん、手練れだねぇ」

 

 小悪魔的雰囲気を持つ、小柄なインプの少女が御前の前に進み出た。

 

「因みに、どん位ログインしてるんだい?」

「どの位も何も、儂ゃ今日が初めてだよ」

 

 御前の言葉に、小悪魔インプは驚いて目を見張る。

 

「ウッソォ~! それであの強さかい? バカ言っちゃあいけねえぜ」

「嘘も何も、アミュ何とかを被ったのも、今日が初めて……さ!」

 

 御前は小悪魔インプを警戒しながら、振り返らずに大薙刀の石突きを、斜め後方に付き出した。

 

「ぐふっ……」

 

 大薙刀の石突きは、巨木の幹を回って斜め後方から忍び寄った、長身のシルフの鳩尾に吸い込まれる様に命中した。

 

「レンッ!!」

「大丈夫、フカ。この人……、ホント強いわ」

 

 長身のシルフは立ち上がると、小悪魔インプの後方に飛び下がる。御前の隙の無さに、小悪魔インプは再び目を見張る。

 

「全く……絶剣じゃあ無いんだからさぁ~、どんだけ強いんだよ、姐さん……」

 

 御前の眉が動いた、眼光鋭い含み笑いで小悪魔インプに問い質す。

 

「ほう、その絶剣とは何奴じゃ?」

「えっ!? 絶剣を知らないの? 姐さんホントに初心者かよ~、へこむなぁ……。良いかい、絶剣っていうのは……」

 

 と、小悪魔インプはため息をついて、絶剣について説明すると、今度は御前の方がため息をつく。

 

「なんじゃ、小娘か……、それじゃあ猛ではないのぅ……」

「探し人かい? 奇遇だねぇ。実はあたしらも、人を探しているのさ」

「ならば引いてはくれぬか? 無用の争いはしたくない。そちらの探している人を見つけたら……」

「あたしもそうしたいのは山々だけど……」

 

 御前の提案に、小悪魔インプは首を左右に振る。彼女は自分はALOの最古参プレイヤーの一人である事、最近別のMMORPGにコンバートした事、そこでのプライドで、とあるALOプレイヤーを二人探している事、その二人に無理を通す為に力を見せつける必要がある事、その為に無差別PKを行っている事、そんな自分の姿をALOの古参仲間に見られたくないと、本来の超美人シルフアバターを封印し、最近作ったサブアバターのインプで参加している事、インプは運営に優遇されていると噂されている事をつらつらと話した後、武器を装備して構えを取った。彼女が装備したのは、ユニーク武器のチャクラムだった。

 

「まぁ、浮き世の義理ってヤツも有るけれど、あたし的にも舐められっぱなしってのは、最古参のプライドが許さないのさ」

 

 小悪魔インプのヘラヘラした表情が引き締まり、踊る様に両手のチャクラムで攻撃を始めた。変幻自在、上下左右からの波状攻撃を受け流すも、御前の表情から余裕が消える。

 

「姐さん相当強いね、あたしが戦った相手じゃ、絶剣の次に強い」

「お主もな、儂の弟子に欲しい位じゃ」

 

 弟子という言葉に小悪魔インプは、二三合打ち合っただけで、自分の攻撃に対応して見せる御前の強さに合点がいった。

 

「リアルじゃ何かしらの武道を嗜んでいらっしゃる? 道理で、初心者離れした強さな訳だ」

 

 御前の大薙刀のカウンター攻撃を、小悪魔インプはバク転からひねりを加えたバク宙という、アクロバティックな動きで避けて距離を取る。

 

「ふむ、ゲームと言えど、この程度か? どうやら現実世界で鍛えた技には及ばんようじゃ。お主に勝ち目は無いぞ、降参するか?」

「チッチッチー、姐さんバカ言っちゃあいけねぇぜ!」

「ほう、まだ何か引出しが有るのか?」

 

 御前の降伏勧告を、小悪魔インプは柳に風と受け流す、面白いと目が笑う御前に、小悪魔インプは言葉を続ける。

 

「確かにこのALOは、レベル制VRMMOと違って、リアルでの地力も大きなファクターになっている。当然さ、そうしなけりゃ、いつまで経っても新人は古参に蹂躙されて、寄り付かなくなるからね」

 

 そう言いながら、小悪魔インプは独特の動きで構えを取り始める。小悪魔インプの言葉は続く。

 

「だからといって、リアルの地力を優先させると、リアルで武道格闘技経験の無い奴が割りを食って寄り付かなくなる。だからこのALOには魔法があり、武器にも熟練度って物差しが有るのさ」

 

 警戒度を深め、構え直す御前を、小悪魔インプは絶対的強者が弱者を見下ろす様な目で、狙いを定める様に見据えた。

 

「その物差しが、或る一定のレベルを越えると、こんな事が出来る様になるのさ」

「むう……、これは……」

 

 小悪魔インプの両手に握られたチャクラムが、ソードスキルの輝きを放つ。その不気味な輝きに、御前は武道家の本能で避けきれない事を悟った。

 

「すまんなリリー、どうやらこれまでのようじゃ」

 

 御前がリリーにそう声をかけたのと、小悪魔インプがソードスキルを発動したのは同時だった。ソードスキルの炸裂する衝撃に、リリーは思わず目を瞑ってしまった。そして、その後に訪れるであろう斬撃の衝撃に耐える為に身を強張らせる。しかし、覚悟した衝撃がリリーを襲う事はなかった。

 

「御前……様……?」

 

 恐る恐る目を開けたリリーの目の前には、見知らぬウンディーネが膝をついて微笑んでいる。

 

「大丈夫? もう安心よ」

 

 ウンディーネがそう言うと、杖を構えて魔法の詠唱を始めた。みるみるHPが回復し、状態異常も解消していくリリーは、自分の身体を見回した後、顔を上げてもう一度ウンディーネの顔を見る。そしてその向こうに、御前様を守る様に立ち塞がる黒装束の二人の背中を認めた。一人は大きな片手剣を背負ったスプリガン、そしてもう一人は腰に大小二本の刀を差したインプだった。リリーの安堵の表情を確認したウンディーネは、黒装束の二人に声をかける。

 

「こっちはもう大丈夫よ、二人共、思い切りやっちゃって!」

 

 小さく振り返った黒装束の二人、そのうちの二本差しのインプの横顔に探し人の面影を見いだして、リリーは目に涙を浮かべていた。




御前様と小悪魔インプの戦闘描写に興が乗り(更にこの後片手剣を背負ったスプリガンvs小悪魔インプ、二本差しインプvs顔タトゥーサラマンダーの戦闘が有るので)、かなり長くなってしまうので、前後編に分ける事にしました。後編も近日中に発表する予定です。
前回後書き告知したR18第三話は、後編発表と同時かやや後を予定しています。こちらもご期待下さいませ。

次回 第十話 妹 後編

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