ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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前回予告で、今回は後編としましたが、またまた長くなってしましたので、三編編成の中編とさせていただきます。
m(__)m


第十話 妹 中編

 ヒョウ率いるパーティーが、今日ここを通りがかったのは全くの偶然である。

 

 数日前、ヒョウとツウは、SAOからの馴染みである、シンカーとユリエールからの連絡を受けていた。内容はカウンセリング療法が進み、PTSDも大分治まってきたジャスミンが、どうしてもALOでヒョウに直接会って、あの時のお礼をしたいと言っているので、時間を都合してはくれないだろうか? というものである。無論その後のジャスミンを気にかけていたヒョウとツウに異存があろう筈が無い。二つ返事でOKすると、その噂を聞きつけたキリト達SAOサバイバー達も、懐かしいな、俺たちも交ぜろ、となって人数が嵩み、当初の予定のNPC経営の店でこじんまりとした会合から、二十二層のキリトのプレイヤーホームの庭での野外パーティーへと変更を余儀なくされていた。

 そんな訳で料理等を自前で準備する事となった彼等は、料理総指揮官のツウの指示の下に、食材アイテムの収集に手分けして出かけていたのだった。その途中でPK集団に襲われている二人組のケットシーを見かけ、見かねて加勢に入ったのだ。

 

「大人数で、たった二人を囲んでPKだなんて」

「どんな理由があるにせよ、やり過ぎなんじゃないか?」

 

 ヒョウとキリトが眉をひそめると、意外な事にソードスキルをはじき返された小悪魔インプの目が歓喜に輝く。

 

「ブラッキー」

 

 再びチャクラムを構えようとする小悪魔インプの前に、顔タトゥーのサラマンダーが割って入る。

 

「ちょっとちょっとアンタ達、随分と無粋な真似してくれるじゃあないか。もしかして、正義の味方でも気取ってるのかい、ええ?」

「ちょっと待て、ピト。どうやらビンゴだ」

 

 嬲る様な口調と挑発的な瞳で睨めあげる顔タトゥーのサラマンダーに、巨漢のサラマンダーがそう耳打ちをした。すると顔タトゥーのサラマンダーは、話しの腰を折った巨漢サラマンダーに怪訝な瞳を向ける。

 

「なんだいエム、あんたはなんだってそういちいち口を挟むんだい、ええ? 理由によっちゃあ……」

「だからビンゴだと言っている」

 

 ビンゴという言葉に虚を突かれ、きょとんとする顔タトゥーサラマンダーに、巨漢サラマンダーがキリトを指差しながら、念を押す様な口調で言葉を続ける。

 

「おそらく、こいつが俺達の探している、目当ての人物『キリト』だ」

 

 巨漢サラマンダーの言葉が余程意外だったのか、顔タトゥーサラマンダーは目を見開き、キリトを頭から爪先迄まじまじと眺め回す。キリトとヒョウが困惑した表情で顔を見合せ、互いに首をかしげていると、顔タトゥーサラマンダーが急に大笑いを始めた。そして巨漢サラマンダーに確認する。

 

「ちょっとエムぅ、この冴えない黒スプリガンが、あの『キリト』だってぇのかい? だいたいこいつ、男じゃないか、冗談も大概にしなよ、エム」

 

 ゲラゲラ大笑いしている顔タトゥーサラマンダーに答えたのは、巨漢サラマンダーではなく小悪魔インプだった。

 

「そうだよピトさん、エムさんの言うとおり、この黒スプリガンがキリトさ、間違い無い」

「本当かい?」

「ああ、ALOでキリトといえば、二刀使いの悪魔、スプリガンのブラッキーしかいない」

「でも、あのアバターは女の子じゃ」

 

 小悪魔インプの答えに納得がいかないと、顔タトゥーサラマンダーが尚も言いつのる。しかし、巨漢サラマンダーが小悪魔インプの言葉を肯定した。

 

「特殊アバターだったんだろう。ピト、さっさと用件を伝えて帰るぞ」

「へぇええ、GGOのアイドル『キリトちゃん』は、実は男の娘だったんだぁ、ふーん」

 

 一人納得する顔タトゥーサラマンダーを、奇怪な物を見る様な目でキリトとヒョウが見ながら囁き合う。

 

「何の話しだ?」

「……、こないだ、ちょっとな……」

 

 ヒョウの問いかけに、キリトが言葉を濁すと、その背後でアスナが吹き出していた。アスナの反応にキリトは笑いながら軽く睨む、謎が深まり首をかしげるヒョウ、顔タトゥーサラマンダーが二人の肩越しにアスナに向かって手を振った。

 

「こいつがキリトって事は、あんたがシノンだね。ヤッホー、シノン、久しぶり。印象変わったねぇ」

 

 親しげに声をかけてくる顔タトゥーサラマンダーに、アスナは否定の意を込めて首を左右にふるふると動かす。

 

「なんだ、違うのかい? って事は……」

 

 顔タトゥーサラマンダーは怪訝な瞳を恐る恐るヒョウに向けた、そして何かを合点するとヒョウの両肩をガシッと掴み、瞳から大粒の涙をポロポロと溢しながら前後に激しく揺さぶってこう言った。

 

「シィノォン~~……、こんな変わり果てた姿になって」

 

 その瞬間、顔タトゥーサラマンダーの頬を後ろから、極太の弓矢ソードスキルのエフェクト光が掠めて飛んでいき、地面にズドォオオオオンと炸裂する。あ~あと頭を掻くヒョウに抱きついて、ギギギと蒼白な表情で振り返った顔タトゥーサラマンダーが見たものは、極大ソードスキル後の硬直を残心に、ワナワナと怒りに震えるシノンの姿だった。

 

「何の用よ、ピトフーイ」

 

 憤怒の表情で詰問するシノンに、ピトフーイは喜びと恐怖の入り交じった複雑な笑顔を浮かべて取り繕う。

 

「なあんだぁ~、そんな所に居たんだぁ~。久しぶりねぇ、シノン。いやぁ、キリトがGGOじゃ『男の娘』になったのなら、シノンはALOじゃ『女の息子』になったのかと……、ねぇ、あんたもそう思うでしょう?」

 

 シノンの剣幕に押され、四肢でガッチリとしがみつき、ピトフーイはヒョウに合意を求める。そしてその行為が更に、シノンの逆鱗に触れた。

 

「離れなさい」

「へっ?」

「離れなさいって言ってるでしょう!」

 

 底冷えのする口調でシノンが言うと、何の事かいまいち理解出来ないピトフーイが問い返す。するとシノンはピトフーイの首根っこをムンズと掴み、ヒョウから引き剥がして正座させる。そしてヒョウに向かって冷たい視線で悪態をつく。

 

「ふん、デレデレしちゃって」

 

 おいおいと目を丸くするヒョウに背中を向けて、シノンはピシャリと言い放つ。

 

「ツウに言いつけるわよ」

 

 顔だけ振り向いて肩越しに放つ冷たい視線に、ヒョウはやれやれと肩を落とす。

 

「で、アンタは一体キリトに何の用が有るのよ、ピトフーイ」

 

 ピトフーイに向き直り、問い質すシノンにキリトが声をかける。

 

「なぁシノン、この人知り合いなのか?」

「まぁね」

「だったら紹介してくれないか? 話しを進めるには、その方が良いと思うんだ」

 

 キリトの言葉にシノンは「はぁっ」とため息をついた後、実に嫌そうにピトフーイの紹介を始める。

 

「私が知ってるのはコイツだけ。ピトフーイ。通称気狂いピト、鏖殺のピトフーイ……、良く言えばGGOの個性派プレイヤーだけど、腫れ物プレイヤーと言った方が正しいわね」

「紹介アリガト、シノン」

 

 ピトフーイの屈託の無い笑顔に、毒気を抜かれるもシノンは詰問を続けた。

 

「で、さっきから聞いてるけど、アンタがキリトに何の用よ」

「ああ、それ? 実はキリトちゃんだけじゃなくて、シノンもセットでお願いが有るのよ」

 

 ウインクして手を合わせるピトフーイの話しは次の様になる。

 

 第三回BoB決勝戦がきっかけで、SJが始まったのは二人も知ってると思う。何回か数を重ねてそれなりに盛況なんだけど、GGO全体の流れではBoBに対して日陰の扱いになっている。優勝チームもBoB優勝者に比べると、扱いに大きく差が有り敬意を払われる事は無い。あくまでもGGOの華はBoBであり、SJは一部の酔狂者の流行りに過ぎない、というのがほとんどのGGOプレイヤーの認識である。

 その大きな理由の一つに、キリト&シノンのペアが参加していない事があげられる。歴代SJ優勝者も、キリト&シノンがもし出場していたら、きっと歯が立たなかっただろう、何しろ二人はBoB優勝者なのだから。と云うのが、大多数のGGOプレイヤーの見解だった。

 

 キリト&シノンがエントリーしなかった理由についても、きっと二人はSJをBoBよりも下に見ており、参加する価値を認めていないのだろう、と、大多数のGGOプレイヤーは邪推していたのだ。

 

 SJ優勝チームはもとより、SJ参加チームのメンバーにとって、その考えは到底受け入れられる物ではなかった。BoBよりも下に見られる事は或る意味仕方がない事ではあるが、だからといってコケにされるのは我慢が出来なかった。ならばSJが、SJ優勝チームが、皆の言うとおり軽い物かどうか、キリト&シノンを引きずり出して、白黒決着をつけようじゃないか!

 

 という訳で、ALOにキリトとシノンを求めてカチコミをかけに来たのだとの事だ。

 

「だったら人間狩りみたいなPKなんかせずに、共通掲示板にでも書き込めば良いじゃないか?」

 

 というキリトの意見に対して、ピトフーイの答えはと云うと以下の物である。

 

「遺恨が有った方が燃えるからに決まっているでしょう、外野も含めて」

 

 ピトフーイの計略は、ALOにカチコんで戦果を大々的にアピールして挑発し、GGOvsALOの構図に持ち込んででも、キリト&シノンをSJの戦場に引きずり出す、という物だった。

 

「こういうヤツなのよ」

 

 呆れるキリトに対し、ため息混じりにシノンが顔をしかめて吐き捨てる。

 

「別に興味がなかった訳では無いけど……」

 

 ただ単に、自分のホームゲームはALOであり、その中でのイベントや付き合いを優先した結果で、GGOプレイヤー達が邪推した様な意図は無い。だから、そっちはそっちで気にせず楽しんでくれ。こっちはトップオブアルブスを控えてそれどころじゃないと、キリトがピトフーイ率いるPKチームにやんわりと当分のSJ参加予定は無い事を告げる。

 

「言いたい事は分かった、邪魔をして悪かった。帰るぞ、ピト」

 

 キリトの言葉に、巨漢サラマンダーのエムがそう答え、ピトフーイを連れ帰ろうとした。

 

「えー、そんなのつまんなーい。最初の計画通り、殺っちゃおうよ」

 

 しかし、ピトフーイはエムの言葉を良しとせず、瞳に狂気の炎を燃やして剣を抜く。その様子を見てキリト達の間に緊張が走った。

 

「ニックネームは伊達じゃない、って所か?」

「さっき言っただろう、遺恨が有る方が、何かと燃えるだろう」

 

 やれやれと苦笑するキリトに、ニヤニヤ笑いながらピトフーイが答える。対峙するキリトとピトフーイの間に、小悪魔インプが割って入った。

 

「待ってました、ピトさん、ブラッキーは私が相手するよ!」

「えーっ、それは無いんじゃないの、フカ次郎」

「私は前々から、二刀使いの黒い悪魔とは戦ってみたかったんだ、悪いけどこればっかりはピトさんでも譲れないなぁ」

 

 両手に装備したチャクラムを構え、小悪魔インプ、フカ次郎がキリトを見据える。

 

「やる気満々じゃん、フカ次郎、なら仕方ない、今回は譲るわ。アタシは誰にしようかね」

 

 ピトフーイが舐め回す様に見回し、シノンの所で目を止めた。ニィッと嗜虐の瞳でシノンを見据えながら、タルワールを構える。

 

「シノンちゃーん、あーそーびーま……ん?」

 

 ピトフーイが挑発するシノンの前に、二本差しの着流し黒インプが歩み出る。

 

「ヒョウ」

 

 右腕を懐手にした黒インプ、ヒョウはウインクしながら左手で、困惑顔のシノンを制すると、そのまま左手を刀の柄に載せ、涼やかではあるが意味ありげな笑みを浮かべ、ピトフーイを見据える。

 

「へぇー、アンタがやるってぇの? ふーん」

 

 ピトフーイが品定めをする様に、視線でヒョウを舐め回す。

 

「しゃしゃり出てくるのは良いんだけどさぁ、それだけの実力、アンタに有るの?」

 

 ヒョウはそれに答えず、ただ笑みをたたえるだけだったが、ピトフーイの背後でエムの顔色が変わった。

 

「ダメだピト、フカももう帰るぞ、用件はもう果たした!」

 

 静かではあるが、叩きつける様な口調でそう言ったエムに、ピトフーイは心底嫌そうな視線を向ける。

 

「何でアンタは盛り上がっている時に、水を差す様な事を……」

「分が悪すぎる、今は撤退した方が良い」

「はぁあー? 今囲んでんのはアタシ等だよ? 分が悪いってどういう事さ!?」

 

 言葉を遮られ、ますます不快感を募らせるピトフーイに、エムは首を左右に振ってこう答えた。

 

「黒い着流しの二本差し、そのインプは『剣聖』だ。キリトに剣聖、人数なんて関係ない、ALOに不慣れな俺達は全滅させられるぞ」

 

 しかし、その言葉はピトフーイにとって、ブレーキにはなり得なかった。むしろアクセルとなって、彼女の暴走を後押しする。

 

「へぇえー、コイツが噂の剣聖様かぁ……」

 

 ピトフーイの顔が不気味に歪み、口角をニィッと悪魔の様に吊り上げる。

 

「じゃぁ、コイツを倒したら、アタシが『剣聖』って事だぁ」

「ピト……」

「エムぅ、アタシ等がサシでヤってる間、アンタは皆を率いて他を皆殺しにしな。レンちゃんも抜かるんじゃないよ!」

「やれやれ、どうなっても知らんぞ」

「あいよ、ピトさん」

 

 対照的な反応を示すエムとレンだったが、共にやる事はしっかりやる。二人はサングラスとマスクで顔を隠した、十数名のサラマンダー達の指揮を取り、逃げていた二人のケットシー、アスナ、シノンを押しつつんで殲滅しようと襲いかかる。しかし……

 

「そうはいくもんですかい!」

「あなた達の考えなんか、みんなお見通しです!」

 

 サングラス軍団の後方から、伏せていたリズベットとシリカが不意討ちをかけた。そして、サングラス軍団を蹴散らしながら、リーファが駆け抜ける。

 

「お兄ちゃん! タケちゃんさん! ザコは私達に任せて!」

 

 サングラス軍団を抜けたリーファがレンに斬りかかると、慌ててレンも応戦した。

 

「私はザコかい!?」

「ゴメーン、気を悪くした? ってか、デカっ!」

「デカいって言うなぁ!!」

 

 コンプレックスを刺激され、ムキになってレンはリーファに剣を振るう。最初は身長差に戸惑っていたリーファだったが、数合撃ち合う間に修正していく。

 

「このッ! このッ!」

「お姉さん、隙だらけだよ、せいっ!」

 

 レンはGGOで築き上げた、人間離れした身体速度を持っているが、如何せんここはALOである。サイズの違うALOアバターを持て余し、リーファに懐に入られる事を易々と許してしまい、あっさりとリメインライトにされてしまった。

 

「次行くよ! 覚悟してね、おじさん」

「お、おじさん……」

 

 レンを倒したリーファは、返す刀でエムに向かって斬りかかる。エムはそれを予測していたが、リーファにおじさん呼ばわりされた事で動揺し、僅かに対応が遅れ防戦一方となり、食い下がるもサングラス軍団に効果的な指揮を執る事が不可能になっていた。その隙にリズベットとシリカが、次々とサングラス軍団を倒していく。

 

「じゃあ、俺たちも」

「ああ、そうするか」

 

 三人の活躍を満足気に確認すると、キリトとヒョウは頷き合う、そしてそれぞれの敵手、フカ次郎、ピトフーイの前に、悠然と一歩を踏み出した。

 




因みに筆者のGGO知識はアニメのみです、GGO登場人物等の設定やALOに乗り込んで来た理由は、アニメを基にした筆者の独特解釈ですので、ご了承下さいませ。

次回 第十一話 妹 後編 今度こそ……
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