ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

40 / 49
第十一話 妹 後編

 黒サングラス軍団が蹴散らされる中、フカ次郎もピトフーイもどちらも動揺する事無く、逆境と言うのに不敵な表情を崩さない。何故ならALO最古参のフカ次郎は、本来のアバターであるシルフとして、グランドクエスト攻略に参加しており、その時直にキリトの強さを目の当たりにしていたからだ。キリトの盟友たるリーファの強さも直接知っている彼女にとって、この程度は当たり前と織り込み済みだった。ピトフーイはピトフーイで、この位やってくれなきゃ面白くないし、潰し甲斐が無いという、救いがたい理由からである。

 

「流石、名にし負うチームブラッキー、付け焼き刃じゃ歯が立たないか? なぁ、後学までに教えてくれよ? あんな化け物連中、どうやって集めたんだい?」

 

 サバイバーなんだろう? と言外に匂わせ、フカ次郎がキリトに質問する。

 

「人徳……という事で納得してくれるか?」

「納得いかねぇな!」

 

 フカ次郎のチャクラムがキリトを襲う、トリッキーな攻撃をキリトは落ち着いて捌く。フカ次郎は、御前との戦いでも、手加減せずに本気で戦っていたが、キリトが相手となると入る気合いが違う様だ。

 

「あんまり舐めるなよ、二刀使えよ! 二刀!」

 

 フカ次郎の動きが変わる、低い構えをとり、独特のリズムで腕を大きく振るように交互に前後に回す、それに合わせて足も大きく振るようにステップを踏む。右手が前に出ると右足が後ろ、左手が前に出ると左足が後ろ、SAOでヒョウに教わったナンバの動きとは真逆の動きにキリトは戸惑う。キリトの顔色が変わったのを見るや、フカ次郎はしてやったりと、凶悪な笑みを浮かべた。

 

「それっ!」

 

 低い構えから身体を捻り、全身のバネを利かせた伸びやかでダイナミックなフカ次郎の回転蹴りがキリトを襲う。

 

「なっ!?」

「キリト君!」

 

 ギリギリかわした筈のキリトの頬を、フカ次郎は置き土産とばかりにチャクラムで切り傷を与える。

 

「ほらほら、女泣かせるんじゃないよ! 色男」

 

 思わず悲鳴をあげたアスナを一瞥し、フカ次郎は立体的な波状攻撃でキリトを襲う。独特のリズムで踊る様に攻撃するフカ次郎に、キリトは逆襲の糸口を掴みあぐねていた。

 

「あれはカポエラじゃな……」

 

 フカ次郎の動きを見て、御前が忌々しそうにそう呟いた。御前はフカ次郎が自分にはカポエラを使わなかった事が、どうにも気に入らない様子である。

 

「カポエラ……? カポエラって何、ユイちゃん?」

「はい、ママ、カポエラとは、ブラジルの伝統格闘技です。踊りの様なステップから繰り出す、アクロバットの様な蹴り技が特徴の足技主体の打撃系格闘技です」

「足技主体?」

「はい、カポエラの技は、ほぼ蹴り技だけと言える位に、蹴りに偏重した格闘技です。でも、今ではほとんど踊りになっていて、格闘技として使える人は、僅かだといいます」

「ふーん。因みに、使える人は、どのくらい強いか分かる? ユイちゃん」

「そうですねぇ……、メジャーな立ち技系総合格闘技の、世界チャンピオンになった人がいるようです」

「世界チャンピオン……」

 

 上と思えば下、下と思えば上、変幻自在のフカ次郎の攻撃に、キリトの口角が愉悦に歪む。相手が強ければ強い程、キリトの心は喜びに沸き立ち、目の色が変わっていく、そしてフカ次郎もその笑みにつられる様に、満足気な笑みを浮かべていた。

 

「ようやく本気かい? 遅いぜ、ブラッキー」

 

 そう言うや、フカ次郎はチャクラムの斬撃、投擲に、独特なリズムのカポエラによる蹴りを織りまぜた、波状攻撃を再開する。迎え撃つキリトの両手には、それぞれ一本の片手剣が握られていた。

 

 

 ▼△▼△▼△

 

 

「ほらほら、避けてるだけじゃアタシは倒せないよ、その二本の段ビラは竹光かい」

 

 ピトフーイの風車の様な連続攻撃を、ヒョウは右手を懐手、左手を刀の柄に置いた寛いだ姿勢のまま、ギリギリの紙一重でかわし続ける。

 

「一回……、二回……、三回……」

 

 ピトフーイの挑発の言葉を涼やかな笑みのまま聞き流し、斬撃が襲う度に数を数えていた。

 

「なんだいそりゃ? 空振りした数を数えて、アタシを悔しがらせて隙でも作ろうってのかい? そんな手に乗る程、アタシは甘くないよ」

 

「六回……、七回……、八回……。フッ、そんな数、数える価値も無い。九回……、別の数だよ」

 

 ピトフーイはALOでは弱い訳ではない。実は率いて来たメンバーの中では、フカ次郎に並んでALO最古参のプレイヤーでもある。

 SAOをプレイ出来なかった彼女は、アミュスフィアが販売されると直ぐに購入し、様々なフルダイブゲームにログインしていた。ALOはその内の一つで、SAOと同一のエンジンを使用しているとの噂を聞きつけ、いの一番にプレイしたゲームである。

 SAOにログイン出来なかった鬱憤を晴らす為に、狂った様にのめり込むが、今一つ気持ちが晴れない。SAOのニュースがメディアで紹介され、漏れ伝えられる内部情報に触れる度、彼女の心は荒れ狂っていく。荒んだ心はプレイにも反映される、グランドクエストお構い無し、同族異種族無差別虐殺PKの限りを尽くしていた。そんなピトフーイに手を焼いたサラマンダー族長モーティマーは、他種族の族長の突き上げを食らい、サラマンダー精鋭部隊を選抜して、彼女の討伐を行った上、レネゲート処分を下したのだった。因みに全種族を通じて、一番最初にレネゲートプレイヤーになったのは、ピトフーイである。その後もレネゲート上等とオラオラプレイを繰り返すピトフーイに、度々討伐隊が向けられたり、名前を揚げたいプレイヤーの挑戦者が現れたりしたが、彼女は次第に白けていき、別のゲームへと流れて行った。その後はアスカエンパイアで運営から出入り禁止を食らったりし、流れ流れてGGOにたどり着いて今に至る。

 ピトフーイのアバターは、GGOからのコンバートアバターではなく、元々ALOでプレイしていた時のアバターである、彼女がALOから離れた当時は、まだザ・シードは存在せず、ゲーム間でのプレイヤーコンバートは出来なかった。離れると同時に、今まで塩漬けにされていた彼女のアバターは、未だにALO最強クラスを誇っており、だからこそピトフーイは荒事を起こしてキリト&シノンを探していたのだ。

 

 ぬるい妖精ゴッコ、そんな今のALOに、そうそうこのアタシが遅れを取る訳が無い

 

 そう意気込み乗り込んできたのだが、まさかキリト&シノン以外の『そうそう』に出くわすとは思っていなかった。焦れた内心を斬り払う様に、大上段から振り下ろされたタルワールは、並みの上級者ならば、真っ二つにされていただろう。しかし、ヒョウに荒れた剣が当たる筈もない、すり抜ける様にかわした刃は地面を穿つ。ピトフーイは再びタルワールを振り上げ、間合いを取ろうとしたが、意に反してタルワールは上がらない。

 そんなにめり込む程、力を込めたのかと視線をタルワールに落としたピトフーイは愕然とした。タルワールが動かなかった理由は、地面にめり込ませたからではない、振り下ろされる動きに合わせて、ヒョウが峰を踏みつけていたからだった。ピトフーイの背筋に冷たい物が走る。

 

「これで十回目」

 

 その声に我に帰ったピトフーイは硬直した、いつの間にか袖を通して伸ばされたヒョウの右腕、その人差し指が喉元に突きつけられていた。その人差し指でヒョウは、ピトフーイの首を右から左にゆっくりと薙ぐ様になぞる。

 

「アハハハハハ! アンタ最高だよ、剣聖!」

 

 ヒョウが数えていたのは、空振りした数ではなく、自分の首を斬り落としていた回数だと悟ったピトフーイは、歓喜の高笑いをあげて、タルワールから手を離し飛びす去る。

 

「良いねぇ、アンタ、最高の拾い物だよ!」

 

 新たな獲物を見つけた喜びに、ピトフーイの心が震えた。彼女はタルワールから、ナイフの様な短剣に装備を変える。

 

「いつもはこれで戦意を喪失するか、激昂するかのどちらかだったんだけど……、喜んだのはお姉さんが初めてだよ」

 

 そう言いながら、ヒョウはゆっくりと腰の大刀を抜いて構えた。

 

「そうかい、おあいにく様だったねぇ」

 

 土蜘蛛の様に低く構え、ピトフーイはニタリと嗤った。

 

 

 ▼△▼△▼△

 

 

 キリトVsフカ次郎、ヒョウVsピトフーイの戦いは、第二ラウンドに突入した。

 

 相変わらずキリトとフカ次郎の戦いは、トリッキーなフカ次郎の動きで、激しい戦いになっているが、第一ラウンドと違うのは、二刀を持ったキリトがフカ次郎を押している。キリトの持ち味である素早い反応速度は、二刀を持つ事で冴え渡る。蹴りをかわし、置き土産のチャクラムを受けながら、着地点に剣を伸ばす。着地する手を庇い、伸びて来た剣をチャクラムで払い、フカ次郎はバク転バク宙で距離を取ると、片手逆立ちでピョンピョンと跳ねながらリズムを取るカポエラ独特の動きをしながら、再びキリトの隙を伺う。

 

「流石」

「そっちもな」

「でも、勝つのは私だよ」

「こっちも、譲るつもりは無いぜ!」

 

 キリトとフカ次郎の戦いは、正々堂々とした技と技のぶつかり合う激しい戦いであるのに対し、ヒョウとピトフーイの戦いは、お互いの腹の探り合いの重苦しい静かな戦いになっていた。

 

「ふふーん」

「……」

 

 ピトフーイが、蜘蛛の様に低い構えから、不敵な笑みを浮かべて隙を伺い、円を描く様にヒョウの周りを回っている。ピトフーイが狙っているのは、コマンドの白兵戦の様な戦いだった。ヒョウの一瞬の隙を突いてタックルを決めて押し倒し、組み付いてナイフを急所に突き刺す、その為に何とか懐に入ろうと盛んにフェイントを入れながら、右へ左へと回り込もうとしていた。一方のヒョウも、それを察知している。いつもの平正眼の構えに似ているが、剣先の狙いをピトフーイの眉間にピタリと定め、付け入る隙を与えない。

 

 片や動、片や静、趣は違うが、手に汗握る二つの戦いに、シノンもアスナも言葉を失っていた。そんな中、御前は眉間に皺を寄せて「むぅ」と呻き声を発し腕を組む。御前は主にヒョウとピトフーイの戦いを見ており、ヒョウの太刀筋に何かを感じ取った様子だ、彼女は傍らのアスナにそれを確かめるために声をかけた。

 

「そこな娘、少し良いか?」

 

 時代がかった言葉に少し面食らいながら、アスナは御前に答える。

 

「はい? ええ、良いですよ。私、アスナといいます」

「アスナさんか、儂は御前という。そういえば、礼がまだじゃったな、失礼した。助太刀感謝する」

「いえ、良いんですよ、お気になさらずに」

 

 アスナは御前を見た感じ、自分の母親と同じ位の年齢の人と思っていたが、御前の話し言葉からもう少し上方修正すべきか、内心悩み始めていた。そんなアスナの内心を知る由の無い御前は、ヒョウの太刀筋を目で追いながら話しを進める。

 

「実は儂らは人を探しておってな、ヒョウとツウという二人連れを知らぬか?」

 

 その問いに、アスナは目をぱちくりさせるが、直ぐに明るい笑顔で答えた。

 

「知っているも何も、二人とも私のフレンドですから。ほら、今、あそこで戦っているのがヒョウ君ですよ。ツウは今お留守番というか……、私達のプレイヤーホームで、この後予定しているパーティーの準備をしています」

「ほほう……成る程成る程……」

 

 アスナを背に、戦いに向き直った御前の顔は、思わせ振りな笑みを浮かべながら、鋭い眼光を光らせていた。

 

 二つの戦いに変化が訪れる、二刀を持ったキリトの動きに対応する為、フカ次郎は奥の手を出した。

 

「まさか……、絶剣にリベンジする為に編み出したこの技を、他のヤツに使うとは思わなかったぜ!」

 

 フカ次郎は両足にもチャクラムを装備した。カポエラの技をベースにフカ次郎は、両手両足に装備した四つのチャクラムを巧みに操り、キリトを激しく攻め立てる。そして四つのチャクラムがソードスキルの輝きを放ち、フカ次郎は勝利を確信した。

 

「コイツで終わりだ! ブラッキー!!」

「何の! まだまだ!」

 

 キリトはフカ次郎のソードスキルを、スキルコネクトの四連撃で受け止める。技後硬直の刹那、二人は額を付き合わせ「楽しいなぁ」と、目で会話した。その直後、どちらの硬直が早く解けるかが勝負と思っていたフカ次郎は、信じられない物を見て、驚愕に目を見開く。

 

「ジ」

 

 キリトの二刀がソードスキルの輝きを放つ。キリトはまだ硬直状態ではなかったのだ、スキルコネクトはまだ続いており、硬直と思ったのは大火力のスキルに繋げる為の〝溜め〟だったのだ。キリトは普通のソードスキルを繋げても、フカ次郎は倒しきれないと考え、今現在自分の持つ最強クラスのソードスキルをここで繋げたのだった。

 

「イクリプス!!」

 

 必殺のニ十七連撃が、フカ次郎のアバターを切り刻む。

 

「化け物めぇ~!」

 

 フカ次郎をリメインライトに変えた『ジ・イクリプス』は、SAOにおいて、恐らくは最大破壊力を誇るソードスキルの一つであり、二刀流のキリトにしか使えない唯一無二のソードスキルだ。永らく再現出来なかったのだが、今回のトップオブアルヴスで、ヒョウ対策として破壊力を含めて再現していた。本来ならば隠しておきたかったのだが、フカ次郎の強さがそれを許さなかったのだ。

 

「キリト君」

 

 剣を納めたキリトにアスナが駆け寄る、二人の視線はもう一つの戦いに向けられた。そしてその戦いも終焉に向かっていた。

 

「どうしたんだい、えーっ、さっさと踏み込んで斬ってきなよ、剣聖サマ」

 

 ヒョウを毒づくピトフーイは、口調こそ威勢の良い物だったが、外見が伴っていなかった。何度もタックルを仕掛けるが、ぴったりと眉間に向けられた剣先が邪魔をして、彼女はヒョウの芯を崩す角度から飛び込む事ができなかった。タックルはその都度かわされ、潰され、その度に柄尻による殴打でダメージを食らい、ボロボロの状態だった。それでもピトフーイの瞳は輝きを失わない、獲物を狙う様に爛々と輝きを増していく。

 

「来ないのかい? んじゃ、またアタシから行くよ!」

 

 ピトフーイはヒョウの剣先を掻い潜る様に、これまで何回潰されたかわからないスピアータックルのモーションに入った、それに合わせて今度は仕留めようと、ヒョウも大きく右足を踏み出す、しかし……

 

「かかったね、剣聖!」

 

 ピトフーイのスピアータックルはフェイントだった、彼女の短剣から刃が打ち出され、ヒョウの刀の刃渡りをなぞる様に彼の眉間へと吸い込まれていく。

 

「クッ!」

 

 ヒョウは咄嗟に踏みとどまると、刀を返して短剣の刃を弾き飛ばす、その隙にピトフーイはタックルを決めた。ヒョウは腰を落としながら、柄尻をピトフーイの背中に叩きつけ、テイクダウンを防ぐ。ピトフーイも組み付きざまに、ヒョウの腰に短剣の刃を深々と突き入れた。再び距離を取り、睨み合う二人。ピトフーイの短剣には、打ち出した筈の刃がしっかりと着いていた。この短剣はピトフーイがかつてALOを常時プレイしていた時に手に入れた、アンフィニ・スペツナズナイフというレアアイテムである。旧ソ連の特殊部隊、スペツナズが標準装備していたスペツナズナイフを、カーディナルがアイテム化した物で、本家スペツナズナイフが強力なスプリングで刀身を飛ばすのに対し、こちらは魔法の力で刀身を飛ばす仕組みである。このため本家は一回こっきりであるが、こちらはMPが有る限り何度も使える優れ物だ。

 

「形勢逆てーん」

 

 勝ち誇るピトフーイに、ヒョウはまだまだ余裕の笑みを崩さない。

 

「まだまだ」

 

 ヒョウは納刀すると、柔術の構えを取ってピトフーイに対峙した。

 

「何のつもりさ、往生際の悪い」

 

 ピトフーイは吐き捨てると、再びスピアータックルを基本とする攻撃を再開する、ヒョウはそれに対して柔術の投げや当て身で対応する。

 

「チッ、しぶといねぇ……」

 

 ピトフーイが唾を吐き捨てた、その隙を突いてヒョウの攻勢が始まった。

 

「海燕!」

 

 ヒョウは電光石火の抜刀で小刀を抜き、そのままのモーションでピトフーイの眉間に投げつける。ソードスキルのエフェクト光を放ち、飛んで来る小刀をピトフーイは咄嗟に両手をクロスさせて、ナイフで受け止める。その一瞬の死角を突いて、ヒョウは縮地でピトフーイの懐に飛び込んだ、低い姿勢で身体を極限まで捻り、大刀の鯉口を切る。切った鯉口から、ソードスキルのエフェクト光が迸る。

 

「快刀乱麻!」

 

 ヒョウが放った最大破壊力のソードスキルに、本来ならばピトフーイは真っ二つにされる筈だった、しかし……

 

「アハハハハハ、無駄無駄ァ」

 

 ソードスキルの衝撃で、ピトフーイの上衣が弾け飛ぶ、その下に着用していた鈍色の甲冑が露になった。

 

「知ってるかい? 前回の一斉アップデートで、提携ゲームにコンバートする時は、任意の素材アイテムを持って行ける事になったって」

「!?」

 

 眉をひそめるヒョウに、勝ち誇るピトフーイが言葉を続ける。

 

「だからアタシらは持って来たのさ、宇宙戦艦の装甲板をねぇ」

 

 ピトフーイの言葉に、リズベットが目を見開く。

 

「GGOの宇宙戦艦の装甲板ですって!? それって全MMORPGの中で、最高硬度を誇るアイテムじゃない、まさかその甲冑?」

「そうさ、宇宙戦艦の装甲板を素材に作った、最高硬度の甲冑さ! 惜しかったねぇ、剣聖!」

 

 勝ちを確信したピトフーイが、ナイフを振り下ろす。

 

「甘いな」

 

 そう言って見上げるヒョウの目に、ピトフーイは自分以上の狂気を感じ、一瞬にして総毛立つ。ヒョウの大刀は再び鯉口を切った状態で鞘に納まっていた、鯉口から不気味にソードスキルのエフェクトが溢れる。

 

「回転! ニ連!!」

 

 そして再びソードスキル、快刀乱麻がピトフーイを襲う。

 

「三連! 四連! 五連!」

 

 単発範囲技だった筈の快刀乱麻が、独楽の様に回るヒョウから連発される。快刀乱麻は回転する毎に威力を増し、ピトフーイの甲冑に亀裂を入れてゆく。このソードスキルは、ヒョウがキリトのスキルコネクトを応用して開発した、トップオブアルヴスでの対キリト用のスキルだった。

 

「アハハハハハ、やっぱアンタ最高だよ、剣聖! アンタもキリト達と一緒にGGOに来な! そこでもアタシに勝ったら、このアタシをアンタにくれてやるよ、リアルも含めて好きにして良いよ、滅茶苦茶に犯したって構わない! だから絶対GGOに……」

「六連!!」

 

 ピトフーイの言葉が終わらぬうちに、ヒョウのソードスキルは宇宙戦艦の甲冑を斬り砕き、彼女のHPの全てを刈り取った。技後硬直の最中、ヒョウはピトフーイだったリメインライトにそっと囁く。

 

「悪い、嫁さん居るんだ……」

 

 ピトフーイが倒されたのを見て、激昂したエムが、リーファを突飛ばしてヒョウに駆け向かう。

 

「貴様! よくもピトを」

 

 硬直中のヒョウに、エムは感情を剥き出しにして、大上段に構えた両手剣を振り下ろす。デュエルではないにしろ、一騎打ちの後にこの行為はALOでは決して誉められた行いではない。にも関わらず、エムがそれを行ったのは、彼にとってピトフーイとはそれだけの存在だったのだろう。だが、禁忌を犯してまで行ったその行為は、成就する事はなかった。エムの両手剣がギリギリ当たる瞬間、フッと笑みを漏らした硬直中のヒョウは、自ら地面に転がる様に倒れ込む。そしてエムの両手剣は、ヒョウのアバターの有った場所を虚しく空振りした、そして……

 

「何っ!?」

 

 エムはそう思う間も無く、アバターの頭部を失い、リメインライトへと変化させられた。それをしたのはシノンである、エムの行動に気づいた彼女は、弓矢のソードスキルでヘッドショットを決めたのだった。命拾いをしたヒョウだったが、シノンのこの行動を責める者もいた。

 

「ちょっとシノン! 今のソードスキルは無いんじゃないの!」

「リズさん、抑えて抑えて」

 

 シノンに向かって憤慨するリズベットを、シリカが宥めている。リズベットが憤慨している理由は、シノンがヒョウの真後ろから、何の合図も無しにソードスキルを放った事に有った。

 

「あんた、自分が何をやったか分かっているの!? 一つ間違えたら、ヒョウを巻き込んでいたかも知れないのよ!」

「あのくらいヒョウなら必ず避ける、だから撃ったのよ。実際避けたでしょう、何回同じ事言わせるの」

 

 眦吊り上げるリズベットと、不快感を露にするシノン。険悪化していく二人の間で、シリカは泣きそうになっていた。そんな三人の問題を、まとめて解決したのはヒョウだった。

 

「シノン、サンキュー、助かった」

 

 ヒョウの言葉に、驚き目を見開くリズベット、そして彼女とは対照的に、パッと花が咲いた様に喜色を表すシノン。

 

 ヒョウ曰く、硬直中に生き残りに狙われるだろうけど、あの甲冑を仕留めるにはやむを得なかった。案の定サラマンダーがやって来たが、位置的にアスナかシノンがフォローしてくれると信じていた。アスナがキリトのフォローに向かったから、こちらはシノンだろう、だったら狙撃をアシストしようと思い、ギリギリまで粘ってシノンの姿を背後に隠し、必中のタイミングで転んで矢の軌道を開けたのだ。

 

 それを聞いて、呆れるやら驚くやらで、口をあんぐりと開けるリズベットだった。

 

「ほらね、言った通りでしょう」

 

 ヒョウに誉められたシノンは、今までの不快感を露にした表情から、打って変わってご機嫌な笑顔をリズベットに向ける。それはそれで何か怪しい、そう直感したリズベットは、怪訝な瞳を向けた、すると……

 

「べ、別にアンタの為にやったんじゃないからね!」

 

 そう言ってヒョウを睨み、ツンと横を向くシノン。その様子をニヤニヤと笑って眺めるリズベット、何はともあれ険悪な雰囲気が無くなって、胸を撫で下ろすシリカ。そんな戦い後の安堵感に浸る中を、御前が進み出てヒョウと対峙する。

 

「御助力感謝する、剣聖とやら」

 

 御前の目がギロリと輝き、さらに言葉を続ける。

 

「ものは相談だが剣聖とやら、儂と立ち会っては貰えぬかの?」

 

 そう言って御前は武器を構える、御前の手にした武器は先程使っていた薙刀ではなく、ヒョウと同じ刀だった。アバターとは思えない程の殺気を放つ御前に、一同は息を飲む。

 

「御前さん、どうして?」

「確かめたい事が有るんじゃ、アスナさん。恩知らずと思うやも知れぬが、それはそれ、これはこれじゃ、許してたもれ」

 

 そう言って口を閉ざした御前の前で、ヒョウは刀を抜く。暫し睨み合った後、激しい剣撃が二人の間で交わされた。息を飲むキリト達を前に、十数合撃ち合った後、二人は間合いを取り、刀を構えて仕切り直す様に再び対峙する。そして御前がニィッと片頬を吊り上げた。

 

「精進しとるようじゃの、猛」

「よ、妖怪ババァ……」

「誰が妖怪ババァじゃ!」

 

 御前の拳骨がヒョウの頭に炸裂した、呆気ない幕切れに拍子抜けする一同に、ヒョウが御前を紹介する。

 

「この人、リアルでの俺の古武術の師匠で、ツウの実のお婆ちゃんなんだ」

「お婆ちゃん!?」

 

 その言葉に驚く一堂。アミュスフィアがナーヴギアから進化した点で、顔再現度の強化が有る。ツウの祖母という事は、どんなに若く見積もっても、御前は六十代という事になる。にもかかわらず彼女のアバターはどう見ても三十代後半から四十代前半の若々しいものだったからだ。ざわつくキリト達を横目に、御前はヒョウと二三言い争う様に言葉を交わした後、姫武者ケットシーに声をかけて招く。

 

「なんでまた師匠がALOに?」

「そんなもの、お主と小鶴に用が有るからに決まっておろう」

「用って……、病院で良いだろう」

「何を言うか、家から横浜まで幾らかかると思っとる。儂だけならともかく、連れもおるでのう。ほれ、リリーや、猛じゃぞ」

 

 御前の言葉を聞いたリリーは、バネ仕掛けの様に立ち上がり、ヒョウの胸に飛び込んだ。

 

「猛様、百合華です、お会いしとうございました」

「えっ、百合華ちゃん? 百合華ちゃんか!?」

「はい、猛様」

 

 胸の中でご満悦の表情でスリゴロするリリーに、笑みをこぼして頭を撫でるヒョウの背後に、二人の人影が迫る。

 

「ちょっとヒョウ」

「タケちゃんさん」

 

 底冷えする口調と表情で詰め寄るその二人は、シノンとリーファだった。二人は般若の様な表情で、ヒョウを詰問する。

 

「「一体誰なのよ(なんですか)、この女」」

 

 二人が怒る理由を知らないヒョウは、二人の冷たい目付きにたじろぎながら、リアルでの関係を話す。

 

「ああ、この子は同じ中学でクラスメートだった人の妹さんで、俺にとっても妹みたいな存在なんだ」

「妹みたいなんて嫌です、大人になったらお嫁さんにして下さい、猛様」

「「お嫁さんー!?」」

 

 目を剥くシノンとリーファに、困った愛想笑いをしつつ、ヒョウはむくれるリリーにプレイヤーネームを聞く。

 

「ああ、ここじゃ俺はヒョウって云うんだ、百合華ちゃんは?」

「はい、リリーです、皆さん宜しくお願いします」

 

 ヒョウがプレイヤーネームを聞いた訳を察したリリーは、皆に自己紹介をして頭を下げた。

 

「あら、可愛い子ね、私はリズベット、リズって呼んでね」

「私はシリカです、この子はピナ、宜しくね」

 

 リリーに自己紹介をしたリズベットは、肘でヒョウを小突きながら冷やかしの声をかける。

 

「このこの、アンタも隅に置けないわね、ヒョウ」

「そんなんじゃないから、リズ」

「ふーん、クラスメートの妹さんかぁ~、まさかアイツの妹……、んな訳無いか。あの底意地の悪い悪党に、こんな可愛い妹なんて居るわけ無いか」

 

 リズベットはSAOでヒョウと敵対していたサーキーが、彼と同じ中学の同級生だった事を思い出して、冗談半分でそう口にした。しかしそれに対し、ヒョウはやや暗い表情と口調でその冗談を肯定する。

 

「ああ、リズの言った通り……、この子はサーキーの妹なんだ……」

 

 ヒョウのその言葉に、キリト達元SAOプレイヤーは絶句してしまった。

 




長くなってしまいました。今回の前中後編の反省点、キリト対フカ次郎、ヒョウ対ピトフーイの戦いが、予定以上に長くなってしまった事。二人とも、アクが強いキャラなので、勝手に独り歩きしてしまったのですよ……

だが、後悔は無い!

フカ次郎のカポエラ及びチャクラム、ピトフーイのALOプレイの記述は、筆者の独自解釈の、オリジナル設定です。
提携ゲーム間のアイテム持ち込みについても、物語を盛り上げる為の、筆者のオリジナル設定です。

次回 第十二話 サーキー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。