ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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体調が優れないので、病院に行って検査したら……

脂肪肝

と、診断されてしまいました orz


第十二話 サーキー 前編

「えぐっ、えぐっ……、ひっ、ひっ……、えっ、えっ……」

 

 その日は夏休みのお楽しみ、複数地域の子供会がより集まり、合同の行事として行われる、子供夏祭りの待ちに待った開催日である。子供会に参加している子供には、平等にお楽しみチケットが配られ、それと引き換えにお菓子やジュース、タコ焼き、焼きそばが食べられ、景品ゲームが楽しめる一大イベントだ。そんな楽しい日であるにも関わらず、会場の大祝神社の鳥居の下で、女の子が一人で泣いている。綺麗な浴衣の襟元が乱れているのをそのままに、女の子は我慢しても溢れる涙を袂で拭い、立ち尽くしていた。

 

「どうしたの? 君」

「大丈夫? 泣かないで。何があったの、私達に話して」

「ほら、元気を出して、力になるよ」

 

 かけられた声の方に顔を上げると、優しそうなお兄さんとお姉さんの顔があった。お兄さんは優しく微笑み、お姉さんは心配そうに自分を見つめている。その顔に安心した女の子は、一気に涙腺が弛み、大声をあげて泣き出してしまった。

 

「券……、全部盗られちゃったの……、折角……、楽しみにしてたのに……」

 

 女の子が泣きながら、途切れ途切れに理由を話すと、お姉さんは同情して顔を曇らせる。

 

「まぁ、酷い……。誰に盗られたの?」

「……お兄ちゃん」

「「お兄ちゃん!?」」

 

 女の子の答えに、お兄さんとお姉さんは顔を見合わせた。女の子の浴衣の襟元が乱れていたのは、懐に大切に仕舞っていたお楽しみチケットを、彼女の兄に無理矢理乱暴に奪われたからだ。お姉さんが浴衣の襟元を直している間、お兄さんが女の子に質問する。

 

「誰が君のお兄ちゃんなの? 僕が取り返してあげる」

 

 お兄さんの質問に、女の子は激しく首を左右に振って、答える事を拒んだ。

 

「ダメ、教えたら、お家に帰ってから叩かれる、ダメ」

 

 叩かれる情景が思い浮かんだのか、庇う様に頭を抱え、女の子は激しく泣き出した。察するに女の子は、日常的に兄に虐められているのだろう、お兄さんとお姉さんは表情を曇らせて顔を見合わせる。

 

「うん、分かった。もう聞かないよ、安心して」

「ごめんなさいね、怖かったね、無理に聞かないから、安心して泣き止んで」

 

 お兄さんとお姉さんが宥めると、女の子がおずおずと顔を上げて、探る様に二人の顔を交互に見た。すると、お兄さんがポケットから、自分のお楽しみチケットを取り出した。

 

「はい、僕のを半分あげる」

 

 お兄さんがそう言ってチケットを半分差し出すと、慌ててお姉さんもそれに続く。

 

「あーっ、タケちゃんズルい。私も半分、はい」

 

 女の子は驚いて目をぱちくりさせたが、勢い良くかぶりを振って拒絶する。

 

「ダメ! 知らない人に物を貰ったら、お母さんに怒られる」

 

 涙を浮かべる女の子を前に、お兄さんとお姉さんが困った様に、また顔を見合わせる。それから、そうだ、と何かを閃いたお兄さんが、女の子の頭を撫でながら自己紹介を始めた。

 

「僕は祝屋猛、五年生なんだ、よろしくね」

 

 お兄さん、祝屋猛の意図を察したお姉さんも、後に続いて自己紹介を始める。

 

「私は大祝小鶴、六年生よ、あなたは?」

「榊……、榊百合華、四年生です……」

 

 女の子、榊百合華がそう答えると、お姉さん、大祝小鶴が抱きしめて頬ずりする。

 

「百合華ちゃんね、よろしく。いい、百合華ちゃん、これでもう、私達は友達よ」

「もう知らない人じゃないよね。だから、はい、これ」

 

 そう言って、猛と小鶴はもう一度チケットを百合華に差し出した。百合華は眩しそうに二人を見上げ、涙を拭い笑顔を輝かせる。

 

「ありがとう、猛お兄ちゃん、小鶴お姉ちゃん」

 

 榊百合華にとって、その日は一生忘れられない思い出の一日になった……

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

「……猛様」

 

 ピトフーイ率いるPKパーティーとの戦闘を終え、目的のアイテムも無事ゲットしたヒョウ達一行は、意気揚々とキリトのプレイヤーホームへと向かっていた。その道中、リリーはヒョウとの出会いの思い出にひたっていた。

 うっとりと上気した表情で、ヒョウの隣を歩いているリリーの背中を眺め、リズベットは誰にも聞かれない様に小声でアスナに囁く。

 

「ちょっとアスナ」

「何? どうしたの、リズ?」

「どうしたのじゃないわよ、アスナは心配じゃないの!?」

「心配って?」

 

 剣呑な表情のリズベットは、呑気なアスナに少し苛立ち、眉間の皺を深くする。

 

「だから、あの子の事よ! サーキーの妹なんでしょう!?」

「ああ、その事? うーん、成るようにしか成らない、としか言い様が無いわね……」

 

 眉を八の字にしてアスナがそう言うと、今一つ真剣さの足りない彼女の態度に、リズベットは思わず声を荒らげた。

 

「アスナ! あんたねぇ!」

 

 いきなり大声をあげたリズベットに一行の耳目が集まり、その事が彼女の頭を一気に冷やした。愛想笑いで誤魔化すリズベットに、アスナが囁く。

 

「私にもリズの言いたい事は分かるわ。でもね、あの最後の日、ヒョウ君とサーキーの間に何が有ったのか、それをリリーちゃんに伝えるかどうかは、ヒョウ君とツウが決める事だし、私達が気を揉んでも仕方ないでしょう?」

「でもアスナ……」

「あの二人がどんな回答を出したとしても、私は尊重するつもりだし、仮に全てを話したとしてもきっと大丈夫よ」

「そうですね、私もそう思います」

 

 アスナの言葉にも、今一つスッキリしないリズベットに、シリカが口を挟みアスナに同意する。

 

「シリカ?」

「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですが、聞こえちゃって……」

「キュエア」

 

 ペロッと舌を出して、軽く頭を下げたシリカは、相槌を打つ様に鳴いたピナの鳴き声に続けて言葉を紡ぐ。

 

「確かにサーキーさんは酷い人でしたけど、だからといって家族全員が酷い人間なんて事は無いと思います。それに……」

 

 シリカがリズベットに目配せする。シリカの目配せした先には、誰が見ても心からヒョウを慕っていると分かる、リリーの姿が有った。

 

「あんな風にヒョウさんを慕っているリリーさんが、お兄さんのサーキーさんの様に酷い人だとは、私には思えないんです」

「まぁ、言われてみれば、確かにそうなんだけどさぁ、でもねぇ……」

 

 なおも眉間に皺を寄せて、目を凝らしてリリーの背中を疑わしげに凝視するリズベットに、シリカは屈託の無い笑顔で楽観論を続ける。

 

「だから、仮にヒョウさんがあの日の出来事をリリーさんに包み隠さず話しても、きっと大丈夫だと思います」

「うん、そっか……、うん、きっとそうね」

 

 シリカは何の確信も無くリリーを信頼した訳ではない。シリカの確信はリリーの目に有った。

 

 かつて対峙した時に見たサーキーの目はひねくれて濁りきっていたが、リリーの目は澄んでいる。

 

 アバターという情報体ではあるが、シリカにはそれがはっきりと見て取れたのだ。それはリズベットも同じく感じていた事だったが、かつて自分がSAOで犯した失態、四層の島の訓練工房に、そうとは見抜けずサーキーの草を潜入させてしまった過去が有るだけに、彼女は慎重になっていた。そんな彼女もシリカの言葉で、ようやく納得する。

 

「それよりも私が気になるのは……」

 

 ワクテカの瞳で視線を僅かにずらすシリカに、何事かとリズベットが視線を向けた。

 

「ん? どしたの、シリカ?」

「シノンさんとリーファさんです! 怪しいと思いませんか?」

「ほほう、シリカ、あんたも気づいた?」

「はい、リーファさんはすぐに分かりましたが、まさかシノンさんまでとは思いませんでした」

 

 恋バナアンテナをピコーンと立てて、シリカとリズベットはヒョウのやや後ろを、あからさまにやきもきした態度で歩くシノンとリーファの後ろ姿を、ニヤニヤ笑いながら美味しそうに見るのであった。そんな二人を半ば呆れ顔で眺めつつも、アスナは意外な情報に少し驚いていた。

 

 

 へぇえええ、リーファちゃんは剣道剣術繋がりで、ヒョウ君の事を憧れから恋慕に変わりつつあるのは、相談もされて知っていたけど……、しののん……やっぱりそうなのかな……。普段はヒョウ君に対して距離を置いて、ちょっとよそよそしい態度を取っているから目立たないけど、時々熱い視線を向けていたり、デレッとした態度を取ったり……。それに今日の戦闘もそうだけど、ヒョウ君を信じきって戦いを組み立てているのよね、しののん。うーん、どういう経緯でそうなったんだろう? まさか、ヒョウ君が忘れているだけで、実は古くからの知り合いとか? ちょっと興味深いものがあるわね……

 

 

 かつてSAOで、ヒョウとツウの結婚を、世界中が認めなくても自分だけは応援する、そう力強く宣言したアスナであった。しかし、それは二人が実の姉弟だと勘違いしていたからで、本当の関係を知った今は無効である。そう心の中で納得した彼女は、キラキラと瞳を輝かせ、リズベットとシリカの話に加わるのだった。

 

 自分の恋バナは恥ずかしいが、他人の憶測恋バナは蜜の味とばかりに興じる三人娘のオカズになっているとは露知らず、リリーは一歩進む度に不安感も大きくなって行った。理由はツウこと小鶴と再会するのが怖かったのだ。

 リリーこと百合華はSAO事件解決後、一度小鶴と会っていた。会っていたといっても、兄賢斗の情報を聞きに訪れた両親の背後で会釈をした程度だったのだが、その時の小鶴の態度に、百合華は大きなショックを受けていた。

 

「知りません! 榊君の事なんて知りません! 帰って下さい! 帰って!!」

 

 小鶴はサーキー、榊賢斗の両親を見るや、目を剥いて震えだし、二人が賢斗について尋ねると、まるで狂った様に取り乱したのだ。そうして頭を抱えてうずくまる小鶴を庇う様に、彼女の両親と祖母が引き取る様に求めると、自分の両親はすまなそうに頭を下げて、その場を立ち去ったのだった。

 

 あの穏やかな小鶴姉様が、あんな風に取り乱すなんて……

 

 三人の出会いから数年が経ち、成長した百合華は猛を優しいお兄さんから恋愛対象へと昇華させていた。それに伴い小鶴との関係も、恋の鞘当てをする相手へと変化してはいるが、基本的には優しい理想のお姉さんである事に変わりは無い。

 どんな時にもゆるふわで、おっとりと包み込む様な優しさがにじみ出す小鶴姉様が、あんな風に取り乱す程に、兄賢斗は酷い事をSAOでしでかしたのではないのだろうか? ひょっとしたら、猛様の現状がああなっている事に、兄は深い関わりを持っているのではないか? だとしたら、この再会の後、自分と二人の関係も壊れてしまうのではないか? そんな不安が心の中で鎌首を持ち上げていた、しかし、だからこそこの再会を自分は望んでいたのだと、リリー/百合華は強く思い直す。その為に御前様に無理を言ってお願いしたのだ、もしも予測通りに猛様があんな身体になった事に、兄が関わっていたならば、その時は自分が兄に替わって謝罪しなければならない。どんな事をしても償わなくてはならない、リリー/百合華は拳を握り締め、人知れず覚悟を決め直すのだった。




お読みいただき、有り難うございます。またまた長くなるので、前後編に分ける事にしました。

次回 第十三話 サーキー 後編

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