ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語 作:場流丹星児
戦場跡の廃墟ステージで、プレSJのエキシビション戦が行われていた。SJの参加促進を促すこの一戦は、二つのスコードロンの戦いで、モニターでVRMMO世界に公開されていた。
ターゲットを視認した数名の男達が、雄叫びを上げてトリガーを引く。彼等は遮蔽物に身を隠すどころか、全身をさらけ出して腰溜めに構えた機関銃を撃ちまくっていた。
「速射連射掃射高射乱射!」
「弾ある限り撃ちまくる!」
「それが我ら全日本マシンガンラバーズの生き様よっ!」
彼等は足下にうず高く空マガジンを積み上げ、左右からジグザグに走りながら迫り来るターゲットに、濃密な弾幕を張って迎え撃っている。
ターゲットは二人、右から来るのは黒装束で長髪が特徴的な小柄なアバター、左から来るのは、白を基調としたコスチュームの、栗色の髪のアバター。二人は全日本マシンガンラバーズの弾幕の中を、一発も弾丸を撃ち返さずに駆け向かっていた。それもそのはず、二人はGGOだというのに、中長距離用の銃を装備してはおらず、反撃して頭を抑えて弾幕を和らげる事はできなかった。その代わり……
ブン
扇状の光の軌跡が二人の前方に描かれると、捉えた筈の弾丸が弾き落とされ、弾幕が破られる。その光景を目の当たりにした全日本マシンガンラバーズの面々は、一瞬驚愕の表情を浮かべたが、すぐにそれは歓喜の表情へと変化した。
「イヤッホー! 流石キリトちゃん!!」
「良いもん拝ませてもらったぜー!!」
「栗毛の彼女もなかなかだなぁ! 惚れたぜ! チクショウ!!」
全日本マシンガンラバーズが相手にしていたのは、キリト率いるスコードロンだった。彼等に迫るのは、キリトとアスナである。二人は巧みなサイドステップと、フォトンソードで濃密な弾幕を捌いて彼等に向かっていた。
第三回BoBでスクリーン越しに見た、キリトのフォトンソードの妙技を直に見て、全日本マシンガンラバーズ達は、意気消沈するどころか、益々気合いを入れてトリガーを引く。
「俺達の熱い想いを弾に込め、キリトちゃん達に届けようぜ! なぁ、みんな!!」
「おう!!」
飛んでくる弾丸を斬り落とす、キリトとアスナの絶技を目の当たりにしても、全日本マシンガンラバーズ達は怯むどころか、さらに気合いを入れ直してトリガーを引く。
「速射連射掃射高射乱射!!」
「愛ある限り撃ちまくる!!」
「我らマシンガンラバーズの生きざまを、キリトちゃん達に撃ち込んでやろうぜー!!」
「ヒャッハー!!」
さらに濃密さを増す弾幕に、キリトとアスナは手近に有った瓦礫を遮蔽物に身を隠した。
「モテモテね、キリト君」
「まーな」
二人は遮蔽物の裏で、軽口を叩き合いながら、そっと顔を出して様子を伺う。
「うわっ!!」
「きゃん!!」
顔を出した途端、濃密なマシンガンの銃撃に合い、キリトとアスナは慌てて首を竦めて遮蔽物の裏に引っ込める。
「モテ過ぎよ、もう」
柳眉を軽く吊り上げ、キリトに抗議するアスナだったが、名案を思い付いたのか、ニヘラッとからかう様な笑顔を浮かべ、言葉を続けた。
「そうだ! 試しに、やめて~ってお願いしてみたら? キ・リ・ト・ちゃん」
「バカ言うなよ、アスナ。そんなんであの銃撃が止む訳ないだろう」
あんまりな提案に、キリトはげんなりとした表情でそう答えると、アスナは本気かジョークか判別のつかない、コケティッシュな笑顔でなおも言葉を続ける。
「わからないわよ、案外いけるかも」
「あのなぁ」
キリトとアスナの隠れる遮蔽物から、全日本マシンガンラバーズの陣取る場所まで、およそ五十メートルほどであろうか。完全に機関銃の制圧距離内である。前進を止められ、進退極まっているにも関わらず、キリトとアスナが余裕で軽口を叩き合えるのは、自分たちから三キロメートル後方に、頼れるバディの存在が有るからだ。
「そろそろね、キリト君」
「ああ、そうだな、アスナ」
二人が頷き合った時、全日本マシンガンラバーズのメンバーの一人、シノハラの足元が爆ぜた。
「うぉっ!!」
キリトとアスナに集中していたシノハラは狙撃の衝撃と驚きで尻もちをつき、顔色を変えて遮蔽物に身を隠す。そんなシノハラの様子を見た他のメンバー達も、慌てて手近な遮蔽物に身を隠した。
彼等はこれがアンチマテリアルからの狙撃だと直感していた。
「この銃撃は……?」
一瞬の緊張と絶句の後、歓喜の歓声が全日本マシンガンラバーズの間から上がる。
「シノンちゃーん!!」
第三回BoBからのGGO二大アイドルと対峙して、歓喜に盛り上がる全日本マシンガンラバーズ達。そんな彼等を三キロメートル以上離れた廃ビルの屋上から、冷静な四つの目が淡々と捉えていた。
「初弾、目標足元に命中。予定通りキリトさんアスナさんへの注意を反らせました。三キロ以上離れているのに……、流石です、シノンさん」
スポッター役のシリカが、狙撃手シノンに状況を報告する。シリカの言葉通り、シノンはキリト達から全日本マシンガンラバーズの注意を逸らすため、わざと外して狙撃をしたのだ。射撃予測線を覚らせない様に、シノハラのアバターを狙わずに、その足下数ミリの地点に寸分違わず狙撃してのけたのは、シノンの狙撃能力の高さもあるが、それだけではなかった。
第三回BoBで喪われたへカートⅡに代わる、新たなる相棒がそれを可能にしていたのだ。
マクミラン TAC-50
狙撃成功距離三千五百四十メートルという世界記録を持つこの狙撃銃の能力も、大きくそれに関与していた。新しい相棒の能力に充分な手応えを感じ、不敵な笑みを浮かべるシノンは、次弾を装填するとスコープを覗き込む。すると、不意に全日本マシンガンラバーズの陣地がスモークに覆われた。シノンの狙撃に頭を抑えられた彼等に、匍匐前進で忍び寄っていたリズベットとリーファが、スモークグレネードを撃ち込んだのだ。
「シノンさん、予定通りスモークが撃ち込まれました。擾乱射撃お願いします」
シリカの報告に頷くと、ランダムにタイミングと狙いを散らし、シノンは12.7ミリNATO弾を、スモークの中に撃ち込んだ。
「テメェッ! 出てこいこの野郎!」
スモークを撃ち込まれ、視界を遮られた中で狙撃を受けた全日本マシンガンラバーズ達は、目くら滅法にマシンガンを乱射する。そんな中、シノハラだけは辛うじて冷静さを保っており、マシンガンを乱射する他のメンバー達に、語気強く警告を発した。
「おい、おめぇら、撃つのを止めろ! キリトちゃんシノンちゃんに、醜態を見せるんじゃねぇ!! そんなんじゃ、マシンガンが泣いちまうぜ!!」
「お、おう」
シノハラの言葉に、浮き足たっていた他のメンバー達も落ち着きを取り戻し、手近にいたメンバーと背中を合わせて全周警戒を始めた。全日本マシンガンラバーズのメンバーの誰かが、ゴクリと生唾を呑み込んだ。息を殺しながら、彼等はスモークが晴れるのを身動ぎ一つせずに待っていた。
シノンの目は、遠くにスモークが晴れていくのを認めていた。
「さぁ、露払いは終わったわよ。後は……」
シノンの視線の先に有るのは、全日本マシンガンラバーズ達に加え、もう一人増えた人影。
「あなた次第よ、ヒョウ」
消え行くスモークの中に、見知らぬ人影を認めた全日本マシンガンラバーズの一人が、アッと声をあげる前に音も無くHPを全損させられ、アバターを残してゲームから退場していった。SJルールでは、HPが全損しても、すぐにアバターは消滅しない。一定時間、イモータルオブジェクトとしてステージに『死体』として残るのだ。その両サイドに居たプレイヤーは、力が無くなってもたれ掛かる死体の重さで異変に気がつき、見えない敵手を求めてマシンガンの銃口を左右に向けるも、先にゲームから退場した者に続いて退場させられていった。
「……てっ、てめえは!?」
音も無く三人のメンバーが殺られ、シノハラはようやく事の全てを知った。彼の目の前に居たのは、GGO二大アイドルを筆頭に、多くの美少女を侍らせ、全GGO男やもめを敵に回した憎きニューピー。咄嗟にマシンガンを構えようとしたが、シノハラは対峙する男の手に持った得物を見て、三人の仲間が音も無く殺られた理由を知る。
それは銃剣作成スキルによって作られたであろう、刃渡り四十センチメートルほどの小太刀であった。
「!?」
一瞬にして視界から消えた小太刀に、シノハラは頭を守る様にマシンガンを頭上に差し上げた。
下がるよりも踏み出す方が良い。
そう咄嗟に判断したシノハラは、それが幸いしてニューピーの身体に密着する様な距離で、小太刀の柄部分をマシンガンで受け止める事に成功した。もしも受け止めたのが、小太刀の刃の部分なら、マシンガンごと両断されていただろう。
距離を取ろうとするニューピーに、シノハラは鍔競り合いの様な形で密着し、仲間達に指示を飛ばした。
「おい、おめぇら! 今がチャンスだ! 俺ごと撃て!!」
凄まじい覚悟の指示に、仲間達が一瞬気圧されて目を見合わせるが、ニューピーに押されるシノハラの姿に意を決してマシンガンを構えた。その姿を確認したニューピーの顔に、禍々しい笑みが浮かんだ。ニューピーは鍔競り合いの小太刀から右手を放して腰背に回した。
「舐めんなよ、てめえ!」
渾身の柄競り合いを片手で、それも左手で相手しようとするニューピーに、シノハラは激昂したが、それは一瞬だった。腰背に回したニューピーの右手が、黒光りするトンファーを引き抜いて突きつけてきた。
「!?」
一瞬トンファーと見間違えた、その右手に握られた物体、それはあまりにも巨大な『拳銃』だった。その威容にシノハラは思わず絶句してしまった。そんなシノハラに構う事なく、ニューピーは巨大な拳銃の撃鉄を起こす。
ガチャリ
発射準備完了した音を聞いて、シノハラは我に返り、仲間に警告を飛ばそうと試みる。それと同時にニューピーは無慈悲にも、巨大な拳銃の引き金を引いた。
「おい、みんな伏せろ!」
そのシノハラの警告の叫びをかき消す、甲高い炸裂音が響き渡ると、シノハラと後ろの二人の上半身が消し飛んだ。
ニューピーが使った拳銃は、プファイファー・ツェリスカという、人によっては拳銃ではなく、ハンドキャノンに分類される代物だった。
上半身を失い、力を失ったシノハラ達だった下半身アバターがドサドサと倒れるのを認め、ニューピーは緊張した呼吸を整える様に、ゆっくりと一回丹田で呼吸をしてから巨大な拳銃を腰背のホルスターにしまい、小太刀を鞘に納めた。
全日本マシンガンラバーズが全滅するのを、モニター越しに観ていたGGOプレイヤー達が、戦慄の瞳でニューピーの姿を見つめていた。
スモークで手の内を隠し、あっという間に三人を屠った剣技。コレクションするだけで、誰も使う事のなかった最強拳銃、プファイファー・ツェリスカを使いこなすアバターのスペック。そして、バージョンアップされた賞金ゲームを易々とクリアした身のこなし……
キリトもそうだが、今までのGGOプレイヤーとは余りにも異なる戦闘スタイルに、古参のGGOプレイヤー達がうめき声を漏らす中、モニターの向こう側のニューピーに称賛の拍手を送る者がいた。驚いた古参プレイヤー達が、その拍手の音のする方に目を向けると、そこにはタトゥーメイクを施した、キツめの美女が不敵な笑みを浮かべていた。
「剣聖の二つ名は伊達じゃないって事かい。流石はアタシのダーリン、やってくれるじゃないのさ」
周囲のプレイヤー達の目が集まるのを意に介さず、モニターを見つめるピトフーイの瞳には殺意の炎が燃え盛っている。嗜虐の笑みを浮かべる彼女のアバターは強烈な殺気を発散しており、見た者全てが言葉と態度のギャップに一歩引いて愕然としていた。
「ダーリン、アンタを一番先に倒すのは、このアタシさ。そして……」
必ずアタシのモノにしてやる。
そう決意してピトフーイは、右手を拳銃の様にしてモニター越しにニューピー、ヒョウを指差した。
「バン!」
シノンの新銃として、マクミラン TAC-50を用意したのは、筆者の独自解釈です。
第三回BoBで破壊されたのは、スコープのみで銃本体は無事だったのですが、この物語では第三回BoBで大きく精神的成長を遂げたシノンが、それを支えたへカートⅡのスコープを新調する事をよしとせず、そのままの形でストレージの中に封印した、という設定です。
マクミラン TAC-50 は、最長有効狙撃距離が三千メートルを超える化け物みたいなアンチマテリアルで(因みにへカートⅡは二千メートル)、本文中の通りの記録を持つ他、長距離狙撃において、成功距離上位五位まで独占する名銃です。第三回BoBで成長し、狙撃手として完全に覚醒したシノンが持つに相応しいと解釈し、採用しました。
賛否両論有るとは思いますが、御理解頂けると幸いです。
次回 第十七話 リハビリ