ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語 作:場流丹星児
「俺達こそが最強だと、精鋭スコードロンが戦いの園に結集だ! 今回の面子もBoB何するものぞと気合い充分! スクワット・ジャム特別大会、間もなく開始です!!」
女性アナウンサーの興奮気味の言葉に、ギャラリー達は熱を帯びた目でモニターに身を乗り出す。
「各スコードロン、今回はいつもに増して気合いの入り具合も一味違う! それもそのはず、今回の特別大会にはSJの真祖にして元祖、あの二人がスコードロンを率いて参戦だ!」
女性アナウンサーが言葉を区切ると、モニターにキリトとシノンの顔がクローズアップされる。
「第三回BoBで息の合った共闘を繰り広げ、並みいる強豪プレイヤーを薙ぎ倒し、見事同時チャンピオンの栄光を射止めたキリト&シノンのペアが、満を持してSJの舞台に登場だ!!」
アナウンサーの煽りに、中継モニターを観る者達は目を見開いて身を乗り出す。大写しにされたキリト達に、グロッケンの酒場で観戦するGGOプレイヤー達が、待ってましたと歓声を上げる。
「イヨッ! 待ってました! キリトちゃん!!」
「クールな狙撃、期待してるぜ! シノン!!」
モニターは、キリトのチームを紹介する様にメンバー一人一人を大映しにしていく。ギャラリー達はアスナ、リーファ、そしてツウのGGOには似つかない可憐な美少女ぶりに目を見張り、指笛を吹き歓声をあげる。
「お、俺は全財産キリトちゃんのスコードロンに賭けるぞ!」
「おっ、俺もだ!」
可哀想な事に、GGOプレイヤーのほとんどが、キリトが男である事実を知らない。盛り上がるギャラリーに、不快感を露に鼻を鳴らす者がいた、SHINCのエヴァである。
「フン」
「中身がどうだか分からないのに、馬鹿な連中だね、ホント」
隣に並び立ち、ソフィーが吐き捨てるように揶揄すると、エヴァは不敵な笑みを浮かべる。
「まぁ良いさ、ただ……」
「ただ?」
「アタシらが奴らを倒した時、連中の悔しがる顔を直接見れないのが残念だね」
「アハハハハ、全くだ!」
腹の底から楽しそうに笑うソフィーの笑い声をかき消すように、酒場全体からブーイングがあがる。
「でもアイツだけは許せねぇ!」
「ああ、同感だ! あんチクショウめ!」
「お前だけは死んじまえ!!」
「そうだそうだ!!」
彼らはモニターに映しされたキリトのスコードロンの唯一の外見男性アバター、ヒョウに嫉妬から来る罵詈雑言を浴びせていた。エヴァはモニターのヒョウの姿を目にすると、いつかのスポーツチャンバラの部屋での戦いを思いだし、弛緩した精神を引き締め直す。
「気合い入れて行くよ! みんな!!」
「オウッ!」
モニターに大映しされたヒョウに、闘志を込めた眼差しを向けていたのは、エヴァだけではなかった。
「バァン」
ピトフーイが嗜虐と茶目を絶妙なブレンドで混ぜた表情で、モニターに映るヒョウに拳銃を撃つ真似をする。
「待ってなよ、剣聖、アタシがその首、カッ斬りに行くまで。アッハッハッハ」
高らかにあげるピトフーイの哄笑を書き消すように、アナウンサーがスクワットジャムの開催を告げる。
「今回は一体どれだけの弾丸が消費されるのか!? さあ、準備は良いか、野郎共!! スクワットジャム、スタートだ!!」
レンが、エムが、フカ次郎が、そしてピトフーイが闘志を胸に、キリトとヒョウを見つめながらバトルフィールドへと転送されて行く。そんな事を知らず、ヒョウは装備を整えながら、御前/巴の言葉を思い出していた。
「自分自身の欲望に忠実なあの女を間近に見れば、お主の考えも少しは柔らかくなるやも知れん」
ここで俺は何が変わるのだろう? 腰に差した小太刀の柄を無意識に握るヒョウの肩に、不意に手が置かれる。
「さぁ、行こうぜ、ヒョウ」
ヒョウが振り返ると、気の置けない仲間達が、いつもの笑顔でこちらを見ていた。その笑顔にヒョウの迷いは断ち切られた、そうだ、考えても仕方ない、やってみなければ分からないのだ。悔しいが、今まで師匠の言葉に間違いはなかった、剣だけではなく人の在り方も……
「ああ、行こう」
ヒョウ達が転送されたのは、バトルフィールドのほぼ中央である。眼前には廃墟と化した飛行場があり、数台の高機動車が打ち捨てられていた。
高機動車を見つめ、ツウがヒョウの袖を引っ張る。
「ねえタケちゃん、私、あれ欲しい……」
「うん、そうだね。みんな、良いかな?」
ヒョウは仲間達を見回す。
「そうね、有ると便利なのは間違い無いし、良いんじゃない」
「ツウがメインウエポンを装備出来ないのも問題だし、私も賛成よ」
「コヅ姉さんのドラテク、楽しみだなぁ。リアルでも運転免許持ってるんですよね?」
「ドライブピクニックじゃないんだぞ、スグ。決まりだなヒョウ、取りに行こうぜ」
三人娘が合意すると、キリトも妹のリーファをたしなめながら合意する。全員の合意を得られたヒョウが力強く頷くと、その姿をツウは頼もしげに見上げる。
「ありがとう、みんな。となると……」
「アイツらが邪魔だな……」
「ああ、そうだな……」
ヒョウが空港廃墟に向かって駆け出すと、キリトはチームメンバー達に目で合図を送る。すると、全員が頷きあい、迅速に行動を開始した。シノンは高台に駆け登り、狙撃銃を展開し、リーファはスポッター兼護衛として、シノンの傍らで警戒しながら標的を探る。ツウはキリトとアスナの護衛の下、周囲に気付かれないように警戒し、ゆっくりと高機動車に近づいて行く。
「おいっ、あれを見ろ!」
「舐めやがって、アンニャロウ!!」
空港廃墟に陣取るスコードロン、IRAPLOのメンバーは、一見無策の無防備で駆け向かって来るヒョウを見つけると、手にした銃を向け制圧射撃を開始した。
「イケ好かない色男め、蜂の巣にしてやる!」
「ファンタジーに帰れ! 女男!!」
IRAPLOメンバーの射撃が始めると同時に、ヒョウが腰背に差した小太刀の鞘がソードスキルのエフェクト光を発した。
「変移抜刀!!」
巧みなサイドステップを入れた突進に、分身したと幻惑されたIRAPLOの隙を突く様に、はるか遠方から、やや間を開けた三連続の乾いた銃声が鳴り響く。
「霞斬り!!」
ヒョウが敵陣たる空港廃墟に足を踏み入れると同時に、ヘッドショットを決められ即死判定されたアバターと、首を斬り飛ばされてHPの全てを喪い倒されたアバター、合計四つのアバターが彼の足下に転がる事となった。
「しっかし二人とも、一体どんな連携なんですか、これ」
間近で一部始終を見届けたリーファが、驚愕を通り越した呆れ顔で声を荒げる。
「背後にバレットラインを隠して、ギリギリまで引き付けるなんて普通出来ませんよ、一体どれだけ超人なんですか、タケちゃんさん。シノンさんもシノンさんです、あの不規則な変移抜刀に、良く合わせて狙撃なんて出来ますね!?」
ALOの冒険でも、弓矢ソードスキルをギリギリまで背後に隠すヒョウとシノンの連携を見ていたリーファだったが、それをGGOで見せつけられるとはリーファは思っていなかった、リーファをしてそれだから、ヒョウを知らないGGOプレイヤー達は度胆を抜かれたどころではない衝撃を受けた。
「おいおいおい見たか今の……」
「ただの数合わせじゃなかったのかよ……」
大多数のGGOプレイヤー達は、キリトとシノン以外は、数合わせに連れて来ただけの、有り体に言えばいるだけで良い『弾除けメンバー』と高を括っていた。
「へーんだ、俺は分かっていたぜ! 流石この俺様を斬った男だぜ!」
「お前、それ自慢になってねえぞ」
「うるせぇ、バカヤロー!!」
ヒョウの賞金ゲームを見ていたプレイヤー達が、自慢気に声を上げたその時、バトルフィールドでこの戦いを偵察観戦していたプレイヤー達も一様に感嘆のうめき声をあげていた。
「流石だね。アイツなんだろう、ボスの想い人は」
「バカっ! そんなんじゃないって、何回も言ってるだろう!!」
ソフィーがエヴァをからかうようにそう言うと、エヴァが真っ赤になって否定し、メンバー達が爆笑する。かつて咲が授業中にうわの空となり、先生に注意を受けた後の昼休み、洗いざらいを白状させられてから、ヒョウは彼女の片想いの相手と新体操部のメンバーに認識されていた。どんな人だろうと、件のスポーツチャンバラに押し掛けて見ようと計画した矢先、GGOにその人物とおぼしき者が現れたのだ、女子高故にリアルでも浮いた話に乏しい彼女達にとって、このゴシップは格好の恋バナネタになっているのだ。
「全くどいつもこいつも……。気ィ抜くんじゃないよ! 今はスクワットジャムの真っ最中なんだよ!」
「ヘーイ」
シンクのメンバー達は、エヴァが本当に怒り出す前に話を切り上げ、ニヤニヤ笑いながら双眼鏡を覗き込む、そして……
「信じられない……、タケシ・ハフリヤ……。ヒースロー空港の奇跡……」
青ざめた表情で、トーマが辛うじてそう呟くのみで、シンクのメンバー全員が絶句した。
シノンとの連携で、あっという間にIRAPLOの六人の内、四人を打ち倒す事に成功したヒョウは、空港廃墟に踏み込み残った二人を見据えると、彼は軽いデジャヴを覚えていた。狼狽える一人に縮地で踏み込むと、気合い一閃カラシニコフを弾倉とトリガーの間で斬り落とし、峰打ちで顎を打ち上げ叩きのめす。そしてもう一人に向かって縮地で踏み込んだ。
「う、うわぁ! くっ、来るな! 化け物!!」
もう一人の敵は、ヒョウに向かってカラシニコフを乱射するも、一発目はマズルジャンプを抑えられずに明後日の方向に飛んで行き、二発目は弾道を見切ったヒョウの刀に斬り落とされる。
「ヒッ、ヒィイイイ」
三発目を発射した時には既に、ヒョウは銃口の下に潜り込み、逆袈裟でカラシニコフを真っ二つにすると、返す刀で敵の首を斬り飛ばし、納刀した。
「やっと予選を勝ち抜いて来たってのによ!」
振り返ったヒョウの目の前には、さっき叩きのめしたもう一人の敵が、体勢を建て直して立ち上がっていた。着ていたジャケットを八つ当たりの様に叩きつけて脱ぎ捨てると、プラスチック爆弾を括り着けたベストが露になる。
「畜生! 死なばもろともだ!!」
叫ぶ敵が、起爆装置のレバー式のスイッチに掛かる親指に力を込めようとした刹那、ヒョウは無拍子で抜刀すると、スイッチの根元から斬り飛ばし爆弾を無力化し、またしても返す刀で素っ首を撥ね飛ばした。奇しくもかつて、ヒースロー空港でテロリストを退治したその動きで、残った敵を全滅させた。かかった時間は約五分弱とほぼ同じ、違ったのはヒースロー空港では峰打ちだったが、今回はきっちり首を斬り落とした事だ。
「タケちゃ~ん、車確保したよ~」
「コヅ姉、今行く~」
ヒョウがそこに駆け寄ると、ツウはキリトとアスナの護衛の下で、ストレージから実体化した高機動車と同等の大きさを持つ、車輪付きの箱状の物体を牽引装置に繋ぎ終えていた。
「これでヨシ」
三人は車に乗り込むと、シノンとリーファに合流すべくツウはアクセルを踏み込む。その排気音を聴きながら、この戦いを偵察していた中のもう一つのチーム、そのメンバーが不敵な笑みを浮かべながら、アミュスフィィアのストレージから、一冊の本を実体化してページをめくった。
「抜く手を見せずに並みいる敵を一刀両断、対モンスターだけではなく、対人戦闘最強と噂された『無敵』のサムライプレイヤー……。へぇぇええ~」
ピトフーイが実体化し、音読したのはSAO事件全記録集である。開いたページの見出しには、こう書かれていた。
黒のサムライ
「サバイバーだったんだ、ダーリン。……と、言うことは……」
本を閉じ、ストレージに戻したピトフーイの目は、レンに倒されて以来失っていた狂気の光が再び灯っていた。
次回 SJ ②
SJの流れで、少し悩んでいます。どういう流れを望みますか?
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ピトフーイ戦前、ヒョウとエヴァの一騎討ち
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ヒョウとエヴァが共闘し、ピトフーイと戦う