ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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第十九話 SJ ②

「ミラナ! ミラナ! ちょっと来なさい!!」

 

 

 リビングからけたたましい父親の呼び声で、微睡みから覚めたミラナ・シドロワは、あくびと共に大きく伸びをすると、ロッキングチェアから立ち上がり、自室を出てリビングへと向かった。久しぶりに日本からモスクワの父親の元に戻った彼女は、時差ボケの抜けない頭で考える。きつい口調だが、怒っている口調ではない。何事だろうと目を擦りながら、ミラナはリビングに入って行った。

 

「どうしたの? パパ」

「ああ、ミラナ、休んでいるところ済まない、兎に角パパと一緒にテレビを見てくれ」

 

 興奮に上ずった口調で話す父親の視線が、釘付けになっているテレビの画面を見るや、ミラナの意識は時差ボケを吹き飛ばし、一気に覚醒する。

 

「もう一度見てみましょう、今度はスローモーションで再生します。ここです! 皆さん、見えましたか!?」

「いや……、気がついたらもう刀を抜いていて……、お恥ずかしい、全く見えませんでした。いやぁ信じられない、スローモーションなのに抜く手が見えないなんて」

「本当に信じられません、私にも全然見えませんでした。アマチュアレスリングで金メダルを取った、トップアスリートのヒョルドーさんに見えないんですから、当然と言えば当然です。この日本の少年、タケシ・ハフリヤは……」

 

 ミラナは自分よりやや年上と思える少年が、真剣を巧みに遣い、二人のテロリストを撃退するニュース番組を観て、言葉を失い立ち尽くした。

 

「ミラナ、君はこの子を知っているかい? 友達だったりしないよね!?」

 

 突拍子もない父親の言葉に、ミラナは視線をテレビ画面から逸らす事無く、首をふるふると左右に振って否定する。

 

「本当かい? 日本は狭いから、もしかしたらと思って」

「パパはモスクワ中の人をみんな知っているの? 日本はロシアよりも狭いけど、モスクワよりは広いのよ!!」

 

 

 普段暮らしている、大好きな日本を誤解され、子供らしくカチンと来たミラナが、ややきつい口調で応えると、父親はやや恥じ入った口調で言葉を返す。

 

「ああ、そうだったね、済まん済まん、確かにパパもモスクワ中の人は知らないな。それにしても凄い少年だ、日本には、まだサムライが居るんだね、驚いたよ……」

 

 日本の企業を相手に貿易をしているにもかかわらず、微妙に勘違いしている父親の言葉を聞き流し、ミラナはテレビに映る少年の剣技に心を奪われていた。

 

 数日後、自室でパソコンの動画サイトを食い入るように見つめるミラナに、興奮気味に呼ぶ父親の声が聞こえた。

 

「ミラナ! ミラナ! ちょっと来なさい!!」

「もう、どうしたの、パパ」

 

 テレビのニュース番組の後、パソコンで検索して探し当てた祝屋猛の動画鑑賞を邪魔されて、一瞬で不機嫌になったミラナは、それを隠そうともせずにリビングに突撃した。そして抗議する前に語られた父親の言葉に、ミラナの機嫌は一瞬で修復される事となる。

 

「ミラナ、例のタケシ・ハフリヤだけどね、何と実はパパの会社の取引先の息子さんだったんだ!!」

「えっ!?」

「日本の取引先に、祝屋商事という会社が有って、まさかと思って聞いてみたら、そこの三男なんだそうだ。いやぁ、世界はモスクワよりも狭いとは思わなかったよ! ハッハッハ」

 

 愉快そうに笑う父親を呆然と見上げるミラナに、信じられないサプライズがもたらされる。

 

「実はヨーロッパ剣道連盟が主催する、タケシ・ハフリヤの演武公演が来週モスクワで開かれるんだが、私のコネで花束贈呈のプレゼンターを、ミラナに決めてきたよ。どうだい、嬉しいだろう?」

「!?」

 

 茶目っ気溢れるウインクをする父親をリビングに残し、ミラナは赤らめる頬に手を当てて自室へと駆け込んだ。

 

 そうして公演の日、つつがなくスケジュールが進み、全ての演武を終えた祝屋猛に、花束を贈呈する時がやって来た。とても二歳年上の小学生とは思えない、祝屋猛の剣技を目の当たりにし、驚きのあまりミラナの頭からは、全ての段取りが飛んでしまい、カチコチになって花束を差し出す。

 

「ど、どうぞ……」

 

 本当はロシア語で、『ロシアへようこそ。とても素晴らしい演武を、ありがとうございます』と言うはずだった、しかし、緊張のあまりミラナは、慣れている日本語で、一言そう言うのがやっとだった。

 

「スパシーバ……って、あれ? 日本語?」

「えっと、あの……、ごめんなさい!!」

 

 花束を受け取った祝屋猛のその言葉に、我に返り失態した事に気づいたミラナは、恥ずかしさに逃げ出そうとした。しかし……

 

「ありがとう、久しぶりに日本語が聞けて嬉しいよ。実は少しホームシックだったんだ」

「えっ?」

 

 屈託無い笑顔で握手する祝屋猛、その笑顔と剣ダコで硬くなっているにもかかわらず、優しく暖かい手の感触に、ミラナの心は撃ち抜かれた。以来、二人の交流は、二千二十二年まで続いていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「でね、刀を握っている時と、そうじゃない時のギャップが凄いの、優しくて可愛くて……。ああもう! あのニューピーが本当に猛さんだったらどうしよう!? ねえ、どうしたら良いと思う!?」

「聞いたアタシがバカだったよ……」

「おーい、トーマが壊れたぞー、誰か直してやってくれー」

 

 IRAPLOを一瞬で壊滅させたヒョウを、祝屋猛と呟いたトーマに、エヴァは何か情報が有るのかと話を振ると、彼女から帰って来たのは、初恋の惚気話だった。自分の思い出にのめり込み、ウキウキと話し続けるトーマに、エヴァとソフィーは頭を抱えて話を打ち切る。

 

「ああ、私も思いだした、確かに居たね、そんなヤツ」

「でもさ、何でそんな凄いヤツが、二千二十二年以来、今まで情報が無かったんだ?」

「さぁて……、何でだろうねぇ……」

 

 首を傾げるソフィーに、意味ありげな笑みを浮かべ、惚けて見せるエヴァ。その仕草にソフィーはある事に思いつき、ハッとして声をあげる。

 

「まさか、サバ……」

「詮索は無粋だよ、ソフィー」

「だってエヴァ……」

「わかってる、でも今一番大事なのは、アイツをどうやって倒すかだ。他の事は後回しにしょう」

 

 自身もそう思っているが、証拠も無く決めつけて下手に先入観を持つ事で、以降の戦術の幅を狭めるのを嫌ったエヴァは、強引に話を切り上げる。その意に気づいたソフィーは頷いて思案を巡らせながら呟いた。

 

「厄介なのは、あのすれ違いざまに繰り出す『分身斬り』だね」

「ああ、あれが攻撃の起点になっている、さらに厄介な事に、予測線を隠してシノンさんの狙撃をアシストしている」

「まさか、そんな事が!?」

「そのまさかをやっいてる、そう考えるべきだろう。トーマ」

 

 エヴァは再びトーマに話を振る。

 

「あの分身斬りを、デグレチャフで狙撃できるかい?」

「変移抜刀!!」

 

 眦吊り上げて、斜め上の回答を寄越したトーマに、エヴァは眉をひそめてまじまじと彼女の顔を見る。そんなエヴァにお構い無しに、訂正を求めて語気を強めてまくし立てるトーマ。

 

「変移抜刀霞斬り!!」

「……あ、ああ……、で、それをデグレチャフで狙撃できるかい……?」

 

 異様な迫力で二度訂正をするトーマに呆れながらも、話が別方向に拗れていく事を危惧するエヴァだった。そんな彼女にトーマは胸を反らして、誇らしげにこう答える。

 

「そんなの無理に決まっているでしょ! 相手はヒースロー空港の奇跡、私の祝屋猛なのよ!」

 

 遂に『私の』を付けたトーマに頭を掻きながら、エヴァは大型のサバイバルナイフを逆手に持ち、暫し考え込む。

 

「うーん……」

 

 思案顔でナイフのホルスターに収め、ベルトの腰背部分に差す。

 

「ちょっと良いか?」

 

 エヴァはソフィーに声をかけると、彼女を的に動きを確かめる様にサイドステップをしながら、すれ違い様にナイフを抜いて斬る動作を繰り返す。その動きを見ていたローザが、あっと声を上げる。

 

「どんなに動きがトリッキーでも、あのニューピーは右利きなんだから」

「そうか、すれ違う時は必ず左側を駆け抜ける」

 

 ローザの言わんとする事に気づいたアンナが続けると、我が意を得たりとローザが頷く。

 

「だから、動きに惑わされず、すれ違いを押さえれば!?」

「そうね、防げるかもしれない。でも、どうやって?」

 

 頭を捻るアンナ。

 

「使っていないドラグノフが有ったろう、あれを盾代わりにしてアタシが抑える、その隙に銃撃を加えれば……」

「いーや、そうもいかないみたいだよ」

 

 ローザの作戦に全員が頷きかけた時、偵察観戦を続けていたターニャが水を差す様に呟いた。彼女の呟きに、エヴァ達は再び双眼鏡を覗いて頭を抱えた。

 

「GGOの戦術が、まるで通用しないか……、こりゃ、お手上げだねぇ」

 

 その言葉とは裏腹に、不敵な笑みを浮かべるエヴァの心は、あのスポーツチャンバラの部屋に戻っていた。




次回 SJ ③

SJの流れで、少し悩んでいます。どういう流れを望みますか?

  • ピトフーイ戦前、ヒョウとエヴァの一騎討ち
  • ヒョウとエヴァが共闘し、ピトフーイと戦う
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