ソードアート・オンライン・クロニクル もう一人の黒の剣士の物語   作:場流丹星児

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第二十話 SJ③

 ターニャに促され、シンクのメンバーが再び双眼鏡を覗いた先では、ヒョウ達が手近なスコードロンに狙いを着け、蹂躙している最中であった。不規則なハンドル捌きで敵スコードロンの狙いを外しながら、ツウの操る高機動車が疾走する。まるで横殴りの豪雨のようなアサルトライフルの弾幕の中、ツウは高機動車を急停止させ、スモークグレネードを二発、敵スコードロンに撃ち込む。敵スコードロンはツーマンセルの三班構成で、班はやや離れたでそれぞれが別の班を掩護、連携出来る様に陣取っていた。彼らは半包囲する形で高機動車に射撃を行っていたが、ツウの放ったスモークグレネードにより連携は分断されてしまう。

 

「出るぞ、アスナ!」

「ええ、キリト君!」

 

 左右の後部座席ドアを開け、キリトとアスナが飛び出し分断された左右の班めがけ、フォトンソードを煌めかせ走り出す。その姿を見届けたツウは、再び高機動車を発進させた。

 

「お、落ち着け! ただの撹乱だ! 慌てたら奴らの思う壺だぞ!」

「あ、ああ、わかってる。奴らの長距離武器は、シノンのマクミランだけだ、いけすかねえニューピー野郎の分身斬りさえしのげば、俺達にも勝機はある! 

 

 フォトンソードで弾丸を切り落とし、左右から迫るキリトとアスナ、そして長距離から効果的に擾乱射撃で掩護するシノンによって、敵スコードロンの三班の連携は崩される。その隙をツウの駆る高機動車が、勇ましいエンジン音を高らかに上げながら突き進む。

 

「ヒィイイイイイ、怖いよぅ、タケちゃあああああん!」

「あとちょっと! もう少し我慢してコヅ姉」

「エーン、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…………」

 

 薄くなったとはいえ、降り注ぐ弾丸の雨に恐怖にひきつるツウを励まし、無理矢理アクセルをベタ踏みさせながら、ヒョウはリヤゲートを開き牽引する箱の上に飛び移る。そして体勢を整え敵スコードロンとの位置関係を確認した。

 

「コヅ姉! 今!!」

「ヒィイイイイイ」

 

 ヒョウの合図を受け、ツウは恐怖に悲鳴を上げながらも、巧みなシフト操作とアクセルワーク、そしてハンドル捌きで高機動車を豪快にアクセルターンさせた。その遠心力を利用してヒョウは飛び降り、猛烈な勢いで敵スコードロン中央に向かって走り出す。

 

 

「ヤツだ! ヤツが来るぞ! 準備しろ!!」

「合点承知!」

 

 二人の視線の先で、憎っくきニューピーの身体が不規則に揺らぐ。

 

「変移抜刀」

 

 まるで分身している様なその姿を前にしながらも、彼らは不敵な笑みを浮かべる。

 

「俺達だって、伊達に古株じゃねえんだ!」

「いつまでもやられっぱなしでいられるかよ!」

 

 一人はアサルトライフルから二丁の軽機関銃に装備変更をして両手に構え、迫りくるヒョウに向かいホースで水を蒔く様な濃密な射撃を開始した。彼とペアを組む相棒も、彼の背後に隠れてアサルトライフルから別の物に装備変更を完了させる。

 

「ヤツの分身斬りがどれだけ凄くても、凌いだ後はこっちの物だ!」

「ヤツは右手で刀を抜く、だから斬るには向って左、相手の右側を駆け抜けるしか無い!」

「来る場所が決まっているんだ! タイミングさえ見極めれば!!」

「初見殺しに、何度も何度も殺られるかよ!」

 

 タイミングを見計らい、ヒョウの斬撃を止めるべく、パートナーの背後から飛び出した男が、勢いよく突き出したのは、ポリカーボネート製の防盾だった。実弾銃の衝撃にもある程度耐えうるそれは、ニューピーの分身斬りを充分に防ぎきるはずだった。しかし……

 

「霞斬り」

 

 分身斬りを止めるべく、全身に力を込め体当たりする勢いで飛び出したが、覚悟していた衝撃を受けることなく、スカされた感じでたたらを踏んだ足元に転がっていたのは、パートナーの上半身だった。驚いて目を見開いた視線の先には、小太刀を構えて不敵に佇むニューピーの姿が有った。そのニューピーの姿に違和感を感じた瞬間、彼の眼前は朱に染まり、You are dead の文字がデカデカと表示される。

 

「うぉおおおお」

 

 この戦いを、酒場のディスプレイで眺めていたGGOプレイヤー達が、感嘆と驚愕のうめき声をあげながら瞬殺されたプレイヤーの感じた違和感を口にしていた。

 

「まさか……、左手……」

「おいおいおいおい、右手で抜くんじゃなかったのかよ」

 

 右手で抜刀して斬ると思われたヒョウは、今回は二人の敵の動きに合わせ、左手で抜刀して斬ったのだ。岡目八目とは言った物で、観戦プレイヤー達の何人かがヒョウの繰り出す変移抜刀霞斬りに同様の対策を思いつき、酒場で自慢気に講釈していたが、あっさりそれを覆されて言葉と面子を失ってしまう。

 

「だから言っただろ、ヤツはALOでこの俺様を斬った男だぜ! そんな付け焼き刃が通用するかよ!」

「お前が言うな!」

 

 グロッケンでヒョウのゲームを観戦していたプレイヤーが自慢気に語るのを、仲間のプレイヤーがツッコミを入れるのと同時に、キリトとアスナが残敵殲滅し、ヒョウと合流して勝利のハイタッチをかわす。そしてやって来たツウの操る高機動車に乗り込んだ。

 

「みんなお疲れ様、タケちゃんカッコ良かったよ」

 

 三人を乗せ、ツウはシノンとリーファを回収すべく、高機動車を発車する。その姿を離れた場所から双眼鏡で眺めていたシンクのメンバーは、二人を除いて残念そうに顔を歪めていた。特に悔しがっていたのは、同様の作戦を思いついていた、ローザとアンナである。しゃがんで双眼鏡を覗き、ヒョウ対策があっさり破られるのを目の当たりにした二人は、地面に大の字になって寝転ぶ。

 

「クッソー、駄目かぁ~!」

「イケると思ったんだけどなぁ~」

 

 悔しがる二人とは対称的に、嬉々として喜びはしゃぐトーマ。

 

「流石私の猛様、『剣の芸術家(ソードアーティスト)』の異名は伊達じゃないのよ。あ~カッコ良かった~」

「おいおい、アタシ等これからアイツと戦うんだぜ、わかってるのかトーマ? で、どうするんだい、リーダー」

 

 呆れながらトーマにツッコミを入れたソフィーから声をかけられ、エヴァはスポーツチャンバラでの思い出から引き戻される。

 

「右手にトンファー、左手に小太刀か……」

「ん、何か言ったか、リーダー」

 

 小声でつぶやいたエヴァに、ソフィーは聞き返すが、エヴァは答えず目を閉じてもう一度スポーツチャンバラでの戦いを反芻する。そして、最後の最後でできなかった新体操の技をモノにし、それがヒョウに通用した事を思い出し、強くイメージする。

 

「いや、何でもない。聞いてくれ、みんな!」

 

 ソフィーの問いかけをあしらい、エヴァはシンクのメンバー全員に向き直る。

 

「アイツはまだまだ底を見せちゃいない、格下のニューピーと侮ってかかるとどうなるか、肝に銘じたね!?」」

 

 エヴァの言葉に、メンバー全員の表情が引き締まった。その顔を一人一人確かめる様に見回し、エヴァは続ける。

 

「アタシ達の全てをぶつけて、アイツを倒しに行くよ! 気合いを入れな!」

「おう!!」

 

 エヴァの檄に、メンバー全員が力強く答えると、シンクはヒョウ達の乗った高機動車の後を追う様に移動を開始した。

 

 

 

「ギャハハハハハハ、バッカじゃないの、アイツら、腕が二本有るのを知らないのかい、マヌケだねぇ~。アンタもそう思うだろ、エム」

 

 大岩の上で胡座をかきながら双眼鏡を覗くピトフーイは、エムの頬をピシャピシャ叩きながら大爆笑していた。

 

「うぐっ……、しかし、利き腕という概念がある以上、やむを得ない……」

 

 理不尽な暴力に耐えながら、エムは一般論を口にすも、ピトフーイはその言葉を最後まで話させず、双眼鏡から目を離すと侮蔑を込めた視線で睨みつけ、語気を荒らげて遮った。

 

「アンタもそんな事言うのかい、現にダーリンは左手で斬って見せただろう!」

「それは結果論であって、事前にそれを……」

「結果論だってなんだって良いんだよ! ダーリンは常にこっちの想像を越えて来る奴なんだ! 都合のいいこっちの思惑なんざ、嘲笑って踏み越えて来るんだ! サバイバーの、それも攻略組なんだからね!」

「つまり、死線を越えた数が違うという事か……」

「そーゆーとこ。それもアタシ達がここで経験した死線とは違う、本当の死線というヤツをね。全く本当にゾクゾクするよ、ダーリン」

 

 相手を殺す事、相手に殺される事、その両方を想像し、恍惚に耽るピトフーイ。その脳を溶かす程に痺れる想像は、フカ次郎のあげた、素っ頓狂な叫び声に打ち消される。

 

「あ~っ、アイツってもしかして!?」

「何、どうしたのフカ?」

 

 驚いてレンが聞くと、フカ次郎は眉間に皺を寄せ、しきりに何か思い出そうと目を閉じ腕を組んで首を傾げていた。

 

「いや、あのニューピー、アタシの脳内イケメンリストに載ってる気がして、それも相当深い所……」

「何じゃ、そりゃ?」

「ちょっと待ってて、今思い出す。アイツは、アイツは……」

 

 ピトフーイ、エム、レンがフカ次郎を取り囲み、顔を覗き込む。数秒経って突然フカ次郎の目が見開かれ、リスト上に載っていた名前を叫ぶ。

 

「アイツは、アイツだ! 祝屋猛!!」

 

 フカ次郎が得意気に叫んだその名前に、皆は一瞬呆けて顔を見合わせる。誰、それ、と目で語りかける三人に、フカ次郎はじれったさそうに、先回りして答えを出す。

 

「みんな覚えて無いの、ヒースロー空港の英雄!!」

 

 フカ次郎の言葉に、レンの記憶が蘇る。

 

「刀でテロリストやっつけた、TVに出てたあの子!? フカが夢中になってた!?」

 

 その言葉に、エムもピトフーイも、かつて見たニュース映像を思い出す。

 

「という事は、アイツはゲームだけじゃなく、現実世界でも死線を踏み越えているのか!」

 

 戦慄するエムの横で、ピトフーイは力無く二三歩よろよろとよろめくと、恍惚の表情でわななきつぶやいた。

 

「濡れる!!」

 

 

 




次回 第二十一話 SJ④

SJの流れで、少し悩んでいます。どういう流れを望みますか?

  • ピトフーイ戦前、ヒョウとエヴァの一騎討ち
  • ヒョウとエヴァが共闘し、ピトフーイと戦う
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