人類最終試練〜〝破壊の化身〟と〝絶対悪〟〜   作:葛城 大河

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短編2 地獄の窯は開かれた

─────地獄の窯は開かれた。

 

 

煌焰(こうえん)の都〟で、その封印は解かれた。それによって現れた最強の神殺し。〝魔王〟アジ=ダカーハの顕現。それによって発生される大災害。〝人類最終試練〟の名に相応しい不倶戴天の怪物に挑んだのは、逆廻十六夜を含めた〝ノーネーム〟たちだ。全霊を持って挑む彼等に三頭龍は、彼等と同じ戦いで圧倒してみせた。知謀には、膨大な知識で。力には、より理不尽な力で。

 

 

どれほどの攻撃も、策謀に対しても()の〝魔王〟の背中に刻まれた「Aksara」の御旗が揺れることはない。なにをしても、それ以上のもので返される。それに逆廻十六夜は初めて、勝てないと、この〝魔王〟には自分は勝てないのだと冷静に判断した。

 

 

それは一つの生の終わり。十六夜が感じ取った死の気配。これは覆らない。立ち向かえば、彼は不倶戴天の〝魔王〟によって殺されるだろう。故に───だからこそだろうか。十六夜は目の前で〝絶対悪〟を担う強大な三頭龍に悪の意味を、目的を問う。なにが彼の〝魔王〟がそうさせるのか。それが最期に気になったからだ。その問いに、三頭龍は六つの紅玉を向けて答えてみせた。まるで、そうであるかのように。世界に向けて吼えた。

 

 

『この身は今日まで視界に入る悉くを打ち砕いてきた。命を、都市を、文明を、社会を、繁栄を、秩序を、犯罪を、社会悪を、蔓延る正義と醜悪の悉くを、嵐の如く、雷雨の如く、世のすべてに、一切の差異なく牙を剥いた』

 

 

自身が理不尽な存在だという風に、己が暴虐を齎したというふうに。されど、〝彼〟は告げた。

 

 

『だが、私は〝天災〟ではない(・・・・)。天災でしか成しえない筈の破壊を、一個の意思、一個の生命体として衝動の赴くままに振るう者』

 

 

天災ではない。天災とは即ち、意志なき災害。しかし、自分が行うのは確固たる決意によって齎す災害だ。それは───

 

 

『それはもう天災とは呼べない。世界が一丸となって滅ぼさなければならない巨悪である』

 

 

そう、それこそが〝魔王(わたし)〟だ。

 

 

『故に我が総身、我悪一文字こそ、あらゆる英雄英傑が到達する最期の巨峰…………』

 

 

〝彼〟は眼前で満身創痍になる英傑を見据える。そして、宣言するように、言葉を言い放った。

 

 

『踏み越えよ………我が屍の上こそ正義である────‼︎』

 

 

それが〝彼〟が定めた一つの決意。背中に背負った悪一文字は、約束された終末まで戦うという覚悟。自身を悪と定義する事で、自身の死が正義であるとし、善を築く為の悪となる。これが一人の男が女の涙を止める為に、未来を救う為に自ら〝魔王〟と呼ばれる怪物という明確な巨悪になって、自身に光輝の剣を打ち立てる英傑が来るのを待ち望んでいる男の選択だった。

 

 

それに逆廻十六夜は〝魔王〟アジ=ダカーハの在り方に、なにもかも負けたと口にした後、口角を上げる。そして、

 

 

「────ハッ、お前が…………お前が魔王かッ‼︎ アジ=ダカーハッッッ‼︎」

 

 

話は終わりだと伝える六つの紅玉に、十六夜は地盤を粉砕し、世界すべての悪を背負う三頭龍に向けて駆け出した。これが十六夜にとって最期の特攻。勝ち目はない。しかしそれでも、彼は全力で踏み出した。その光景を、残念そうに見据えながら〝魔王〟は決断を下した。

 

 

─────

 

────

 

───

 

 

結果的に、逆廻十六夜は死ぬ事はなかった。死ぬ決意を決めた彼であったが、〝ノーネーム〟と予期せぬ援軍に救われた。そして、それらの歯車が噛み合い、本来、勝つ事がなかった十六夜は〝魔王〟アジ=ダカーハの心の臓を貫いていた。明確な勝利。だが、それにも関わらず───十六夜の手は震えていた。それを見据えるのは六つの紅玉。

 

 

『………恥じる事はない。知らぬならここで学べ。その震えこそ恐怖だ』

 

「………ち、違う。これは」

 

『違わぬ。そして忘れるな。恐怖に震えて尚、踏み込んだ足。───それが勇気だ』

 

 

諭すように〝彼〟は未だ震える十六夜に告げた。そして見事乗り越えたというように視線を向ける。しかし───これでもまだ、足りない(・・・・)。〝彼〟はこの後、なにが起きるのかを理解している。自身が打ち破られたが故に、今まで封じてきたアレ(・・)が目覚める。長き時から再び産声を上げるだろう。全てを粉砕する為に、あらゆるモノを破壊する為に。そんな近い未来を想像し、震える逆廻十六夜に再度、紅玉を向けた。

 

 

『顔を上げるのだ、我が勇者(・・・・)

 

 

〝彼〟の言葉に俯いていた十六夜は、漸く顔を持ち上げ、紅玉の瞳とアメジストの瞳が合わさる。

 

 

『俯く必要はない。貴様は、私に勝利した』

 

 

それが十六夜が望んでいなかった勝利だったとしても。上手く世界が噛み合い、偶然に手にしたものだとしても。それでも、逆廻十六夜だけが唯一、打倒出来なかった〝人類最終試練〟〝絶対悪〟に光輝の剣を打ち立てたのだ。それが偶然の産物であろうと、紛れもなく誰の世の記憶にも残る偉業である事に間違いはない。故に、自身を倒し、正義を成した英傑に、英雄にアジ=ダカーハは賞賛の言葉を送った。

 

 

もうじき、自身は消えるだろう。それを理解した〝彼〟は本当に最期の言葉を口にする。

 

 

『我が勇者よ………遠くない未来、貴様らに理不尽な事が起こるだろう。ソレは確固たる意思をもって総てを破壊するモノ───〝破壊の化身〟と呼ぶに値する正真正銘の〝怪物〟』

 

 

ヤツの原動力は人類に対しての憎悪(・・)。総てを破壊し終えても尽きる事のない憤怒だ。破滅を撒き散らし、青き閃光を解き放つ一体の〝魔王〟。アジ=ダカーハと出自を同じくする存在であり、修羅神仏の誰もが知る事がない。〝彼〟だけが唯一認識している(・・・・・・)、人類に対しての最大の試練の一つ。

 

 

〝ノーネーム〟はあの〝魔王〟とぶつかるだろう。その時、目の前に居る人間は勇気を出して前に足を踏み出せるのか。ソレは起きなければ分からない。だからこそ、アジ=ダカーハはこう告げた。

 

 

『ヤツと邂逅し、理不尽が起きたとしても────』

 

 

────決して、心を折れてくれるなよ。我が勇者(・・・・)よ。

 

 

その勇気を失うな。目的を見失うな。そして、忘れるな英傑よ。いつだって、〝怪物〟を倒すのは───人間なのだから。そうして、アジ=ダカーハは消え、長かった戦いは幕を閉じた。

 

 

例えソレが、これから起きる戦いの序章(プロローグ)だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝魔王〟アジ=ダカーハが打ち倒された同時刻。世界の何処かでソレは呻き声を発した。身体に纏わりつく鬱陶しいモノが消えた感覚を覚え、身動ぎする。そのたびに、ズシンと辺りに音が鳴り響いた。三頭龍(邪魔な奴)が施した術が消失した事を感じ取り、ソレは天を見上げる。そして───

 

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA─────ッッッ‼︎』

 

 

箱庭の大地にその産声は轟いた。邪魔な枷は外れ、ソレは外に解き放たれたのだ。一人の〝魔王〟の消失と共に。総てを、あらゆるモノに破壊を齎す不倶戴天の〝怪物〟。人間など人類が生きている事が無性に腹立たしい。消さねばならない。破壊しなければ行けない。だが、破壊しなければいけないのに邪魔な者たちが居た。

 

 

最初の一回目は三頭龍に邪魔された。それ以来、彼は学んだ。この世界の事を。修羅神仏の存在を。人類を破壊するのにあいつらは邪魔だ。あいつらの居る箱庭(・・)が邪魔だ。

 

 

故に────箱庭を破壊しよう。修羅神仏の総てを壊し尽くそう。黒龍は瞳の中に憎悪を滾らせ、そう天に吼えた。

 

 

 

────再び(・・)、地獄の窯は開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

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