末原恭子、麻雀部三年生。いつものように部活に励もうとしていたのだが、今日のメンバーはみんなどうにもおかしかった。

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大阪で昨日何かあったらしい

ガラガラガラー

 

 

その日、朝一番にあくびをしながら部室に入ってきたのは麻雀部員、末原恭子だった。

季節は春、陽気に当てられるのは仕方がないと言いたいが、彼女も三年生になって気合を入れなければならない時期である。

 

「よし!」

 

一人そう気合を入れると彼女は部室の窓を開けて空気を入れ替えたり、簡単に掃除をしたりし始める。

そんな時、扉を開けて新たに部員が現れた。

 

「おはようございます」

 

入ってきたのは上重漫、同じく麻雀部員で2年生の後輩だ。

恭子ははたきを手にし、振り返りながら挨拶を返す。

 

「おはよう、漫ちゃん」

「末原先輩だけやったんですか、朝から精が出ますね、ポーツマス! ポーツマス!」

 

漫はいつもの場所にカバンを置きながらそう言った。

 

「・・・・・・何?」

「私もお手伝いしますよ、何をやればいいですか? ポーツマス! ポーツマス!」

「ちょ、いや、何?」

 

思わず首を傾げる恭子。

なんか聞きなれない言葉が聞こえたような。

ポーツマス?

恭子は少し考えた後、問い掛けた。

 

「・・・・・・漫ちゃん、それはなんかの罰ゲーム?」

「へ? 何がですか?」

「・・・・・・いや、何か語尾に言えとかって言われとるんか? 主将辺りに」

「え・・・・・・いや、別に何も、ポーツマス! ポーツマス! ・・・・・・ありませんけど」

「あるやろ!? 何やねんそれ!?」

 

ガタッと近くにあった麻雀卓に手をつきながらそう叫ぶ恭子。

漫は、はっと口元に手を当てながら「もしや」という表情で答えた。

 

「あっ・・・・・・もしかして、「これ」ですか・・・・・・?

 すみません、気に障ったみたいで・・・・・・ポーツマス! ポーツマス!」

「だから何やのそれ」

「いや、実は昨日の夜辺りからどうも・・・・・・」

 

ジト目の恭子に、漫は「えへへ・・・・・・」と頭を掻きながら言う。

 

 

 

「しゃっくりが止まらなくて」

 

 

 

「しゃっくり!? それしゃっくり!?」

「や、やだなー、末原先輩。

 私かて気にしてるんですからそないに言わんといてくださいよぉ・・・・・・ポーツマス! ポーツマス!」

「おかしいやろどう考えても! 何やねんポーツマスって! それはもはやしゃっくりちゃうよ!?」

 

ガーッ!と突っ込んだ末に恭子は頭を抱えて漫に背を向ける。

 

どういうこと? これは。

やはり何かの冗談?

いや、でも漫ちゃんはそういうタイプやないし・・・・・・。

やっぱり主将辺りに何かやれとか言われとるんやろか・・・・・・?

それが一番可能性が高いが・・・・・・。

 

 

 

「クレシェントスラァァァッシュ!!!」

 

 

 

「「!?」」

 

突然外から聞こえた大声に、思わず二人は顔を見合わせて固まる。

そして廊下の方へと視線を向けた。

 

い、今のは、何・・・・・・?

 

と、二人が見守る目の前で部室の扉がガチャッと開き、新たな人物が入ってきた。

 

「おはようなのよー」

 

麻雀部員、真瀬由子である。

 

「・・・・・・おはよう、ゆーこ」

「・・・・・・おはようございます」

「おはよう、二人とも早いのねー」

 

由子はいつもののんびりとした調子で部室に入る。

そして恭子が手に持っているはたきから掃除中だということまで察したのか。

 

「お掃除? 私も手伝うのよー」

 

そう言って掃除用具の入っているロッカーへと向かって行った。

一連の動きを見守っていた恭子だったが、やがて意を決し、声を掛ける。

 

「・・・・・・あ、あの、ゆーこ?」

「どうしたのー?」

「・・・・・・さっきのは、ゆーこ?」

「えっ」

 

こちらに背を向けてロッカーに手を掛けていた由子だったが、恭子の言葉に固まった後、観念したように笑った。

 

「・・・・・・あ、き、聞こえてたんや、恥ずかしいなー、もう・・・・・・そうなのよー」

 

やれやれと、由子は二人の方に向き直り、正直に告げる。

 

 

 

「昨日からくしゃみが止まらないのよー」

 

 

 

「えっ、そうやったんですか? 大変ですね・・・・・・」

「風邪とかやないみたいなんやけどね・・・・・・多分春先やし花粉とかやと思うんよー。

 そういう漫ちゃんは大丈夫?」

「いえ、実はしゃっくりが止まらなくて・・・・・・」

「お互い大変ねー・・・・・・クレシェントスラァァァッシュ!!!」

「ポーツマス! ポーツマス!」

 

「おかしいやろ!! なんやねんこれ!? この状況は!?」

 

ガターン!と卓を叩きながら、二人をブンブンと指さす恭子。

一体何をやっているのだこの二人は!?

事前に示し合わせたドッキリでも仕掛けてきとんのか!?

そうでなければ説明がつかない!

何やねんポーツマスだのクレッシェントスラッシュだの!

 

「恭子ちゃんは大丈夫そうなのねー」

「そうみたいですね・・・・・・さっきちょっと変な目で見られちゃって」

「あらあらー、恭子ちゃんは体調管理とかしっかりしてるから、きっとそういうこと無いのよー。

 王は人の気持ちが分からない、とかいう言葉があった気がするのよー」

「末原先輩が王って言うのは・・・・・・まぁ、でも、何もそんな目で見なくてもとは思いましたけどね、ポーツマス! ポーツマス!」

「クレシェントスラァァァッシュ!!!」

 

 

「・・・・・・どういうこっちゃねん・・・・・・」

 

 

和気あいあいと笑顔で掃除を手伝い始めた二人を見て、恭子は呆然とそんな言葉をこぼすしかできなかった。

 

 

 

そうして三人で掃除をしたり卓の準備を整えたりしていると、やがてまた新たな人物がガチャッと扉を開けて現れた。

 

「うぅ・・・・・・おはようさん・・・・・・」

 

そこにはあちこち怪我をしており、包帯を巻いたり絆創膏を貼られたりしながら「お姉ちゃん大丈夫?」と声を掛けている妹の絹恵に肩を借りた、愛宕洋榎の姿があった。

 

「しゅ、主将!?」

「主将!? どうしたんですかその怪我!」

「だ、大丈夫なのー?」

 

思わず三人とも駆け寄っていた。

洋榎はよれよれと歩きながらも、三人に対して親指を立ててフッと笑って見せる。

 

「安心しぃや、この通り大丈夫やで、な? 絹?」

「大丈夫ちゃうから私に肩借りてるんよ、お姉ちゃんは」

 

絹恵はそんな姉を心配そうに見ながら、肩を貸すだけでなく腰に手を回して支えてあげていた。

ふらふらしたその姿は、普段の元気いっぱいな姿とは遠くかけ離れている。

 

一体かの愛宕洋榎が何故このような怪我を負っているのか。

 

答えはすぐに分かった。

 

「うっ!? あ、あかん! 離れるんや絹!」

「お、お姉ちゃん!?」

 

ドンッ!と突き飛ばされる絹恵。

洋榎は絹恵からも三人からも離れるようによれよれと歩く。

 

 

直後、その身体がふわっと浮いた。

 

 

「う、うわぁぁああああ!!!」

 

 

そして洋榎の身体はぎゅるんぎゅるんと舞い上がると、天井にビターン!と叩きつけられる。

 

 

その後、またぎゅるんぎゅるんと落下してきた洋榎の身体は、今度は床にビターン!と叩きつけられた。

 

 

「お姉ちゃん大丈夫!?」

「主将! しっかりしてください!」

「しっかりするのよー!」

 

慌てて駆け寄る絹恵、漫、由子。

恭子は突然の出来事にポカーンと眺めていることしかできなかった。

 

「・・・・・・う、うぅ・・・・・・酷い目に遭うた・・・・・・すまんなぁ、皆」

 

再び絹恵に支えられながら立ち上がる洋榎。

 

「昨日からずっとこないな調子やねん。

 早いところ治まってほしいわぁ・・・・・・」

 

そして膝後ろの辺りを軽くさすりながら、洋榎は告げた。

 

 

 

「この、こむら返り」

 

 

 

「そんなこむら返りがあるかぁあああぁぁぁい!!!」

 

窓の外へと叫ぶ恭子の声が、学校中に響き渡った。

 

 

 

その日一日は恭子にとって散々なものだった。

 

漫はかなり短いスパンで「ポーツマス! ポーツマス!」と連呼するし、由子は気を抜いたタイミングで「クレシェントスラァァァッシュ!!!」と叫ぶし、洋榎は突然悲鳴と共に空中に飛び上がって天井と床に叩きつけられるし。

それだけではなく絹恵までも、事あるごとに転んでスカートの中を周囲に晒しながら「あかんっ! 私ったらプロポリス!」とか言うし。

挙句の果てにそんな状況にツッコミきれずイライラし始めた恭子を見て、赤阪郁乃監督代行までもが、いつものように顎に人差し指を当てて首を傾げながら「末原ちゃんは今日もデリンジャー?」などと言い出すし。

 

「もはや訳が分からへん・・・・・・」

 

麻雀部の活動も終わり、今日はもう戸締りをして帰ろうかという段階になり、恭子はぐったりと項垂れながらそう呟いた。

まぁ、いつまでもこうしていても仕方がない。

きっと疲れているのだ、今日は早く帰って寝よう、それが一番だ。

そんなことを思いながら恭子は片付けを終え、窓を閉めていく。

ふと最後の窓を閉める前に、そこから見える外の景色を眺めながら軽く伸びをした。

「うーん・・・・・・」と声を上げて伸びた後。

 

 

「ガラガラガラー」

 

 

奇妙な声を上げる。

はふぅ、と息をついた恭子は目元を擦りながら呟いた。

 

「やっぱり疲れとるんかいな・・・・・・」

 

それとも春の陽気のせいだろうか。

 

 

 

「昨日からあくびが止まらんわ」

 

 




オチが分からなかった方はもう一周どうぞ。

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