アルフが人間ポンプ(全身)をしてから一週間。
フレイム中等学園に来て全新入生が受ける最初の合同授業がアルフとコレット達に迫っていた。
全身から血を噴きだした自分を癒し、一週間で復帰させた水魔法と土魔法の回復魔法って凄い。と改めて魔法の存在に感謝するアルフ。
そんなアルフは淡々と、コレットは少し息を荒げながら授業中にとある行動をしていた。
「あ、アルフ。わ、私、もう」
「久しぶりだからなぁ。もう少し体から力を抜いたほうがいいぞ」
「はぁ、ふぅ。まだまだぁ」
「あんまり無理するなよ。後は俺がやるから」
13、14になったばかりの少年少女の頬を赤らめながら昼前。しかも学園内で息を荒げながら少女は顔を俯けながら、少年は前を向きながら汗を流していた。
コレットはアルフの無茶にしばしばつきあう事もあってか、このような事に接することもあるが本格的につきあうのは今日が初めてなのかもしれない。
汗でびちょびちょになった体操服を更に着崩しながらも彼女達は動き続けた。
別の合同授業の日。
あああああああああああっ!
早朝、フレイム中等学園の一角で一人の少年の声が響いた。
幸い、早朝と言う事もあって学園に存在する風の精霊達がその声をかき消す魔法を使っていたのでその声で目を覚ます者はいなかった。
またとある授業中。この日も合同授業で巡り合った二人の生徒を紹介しよう。
フィロ・ウィグロードは貴族である。
それも他国から留学生と言う事。他国からの看板を背負っている身としてそうそうに根を上げることは出来なかった。
だからこそ気丈にふるまっていた。今自分に振りかかっている苦難に耐えていた。だが、自分は貴族なのだ。平民であり、自分達が守るべき存在達の前で弱みを見せるわけにはいかない。自分は彼等の先頭に立っていなければならない人間だから。
「はっ、はっ、はっ」
「・・・大丈夫?」
そんな彼女は苦しそうにその整った顔を苦痛で歪めていた。
フィロの内情を全然知らないがすぐ近くにいるアルフはつい声をかけてしまった。
いかに貴族であろうと王族だろうと平民だろうと奴隷だろうと学園にいる間は平等に扱われる。慣れない環境で慣れない行動についつい苦痛の表情をしてしまったフィロ、今の状況。周りの人達に比べてハイペース気味の彼女の行動が心配になったアルフは声をかけたのだった。
「はっ、はっ、はっ。大丈夫、です」
「いや、でも。…きついでしょ。慣れていないと。それに初めてでしょ」
確かにフィロにとって初めての体験だ。その証拠に彼女の体には初めての証だろうか、とある部分が赤く滲んでいた。
「そう、いう、貴方は、余裕、そう、です、ね」
「まあ、俺は村で慣れていたからなぁ」
フィロの佇まいから平民ではないだろう気配は感じる物があったがある意味純粋培養されていたお嬢様にこれは酷だろうと思い、アルフは声をかけた。だが、貴族としてのプライドがそれを断った。
自分は平気だ。まだやれると。だから気にせず先にいってと言った。
辛そうにしているフィロはきっとトップに立たなければという気概を感じていたからこそアルフは断りを入れてから一気にペースを上げた。
正直な所フィロは限界だったがアルフはまだまだ余裕を持っていた。だからこそ自分はこんなところで果てるわけにはいかない。いかないのに、体が言う事を聞かない。既に彼女の体は限界だから。
いかないで、私より先にいかないでと心の中で叫んだ。だけどそんな声は彼には届かなくて・・・。
そしてフィロは自分より先にいくアルフの姿を見ながら全身から力が抜けていくのを感じた。
また別の合同授業の日。
あ――――――――っ!
早朝。とある少年の雄叫びが土精霊の作り上げた分厚い土壁にぶち当たり、その内部で反響した。その分厚い壁の中からすっきりした顔を少年と少々渋い顔をした学園長(♂)が現れたがその事はその二人とごく一部の人間。そして精霊達しか知らない事だった。
そんな事を知ってか知らずか、アルフ達が王都アポロに初めてやって来た時にいざこざを起こした坊ちゃん貴族。ポロン・コロナは合同授業の時間。仰向けになってその明らかに運動不足な体を上下させて呼吸をしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ、ぶふっ」
玉のようにあふれ出る汗は彼の全身からあふれ出てその丸みを伝わって地面に落ちる。
何故自分がこんな事をしているのか、自分は貴族だどうして自分が無様を晒している。自分は英雄アポロの血統を引く人間だ。こんな風に体を激しく動かす真似はしなくてもいい。それは自分が指示した人間がすることだ。
「おーい、出すなら出すって言ってくれよ」
「だ、黙れ。平民は、黙って、僕、に従え、ば」
そんなポロンに声をかけるアルフはとある作業を中断して声をかけた。
正直に言うとポロンの事は王都アポロに来た時の印象が強いからあまり気が乗らない。しかし、今の状況は自分に好ましい時間と作業である。
アルフにとって座学はモンスター講座と無属性の講座しか興味がない。しかし無属性でも他の属性を知ることで色々と対処できるという事から火や水。土と風の魔法も座学で習っているが、こうやって体を動かす作業の方が好きなのはアルマーニ村から出る前とほぼ変わっていないのだ。興味のないものほど身につかないので時々補習を受けるのもアルフらしいと言えばらしい。
「・・・」
ポロンに言われたとおりに黙ってアルフは作業に移る。まあ相手は貴族だ、貴族の言う事を一つくらいは聞いていた方がいいだろう。
「お、おい。急に、うご、くな」
だが、二つも聞くつもりはない。アルフはポロンを無視してペースを上げる。
「だ、だめ、ら。そんなに、はげ、しくし、たら、で、でるぅっ」
いっそ出したほうが静かになるだろう。アルフはさらにペースを上げた。
それにポロンは耐えることは出来なかった。
「はっ、はっ、はぁっ、うっ?!」
ポロンはたまらず堪えていたものを出してしまった。
その日の放課後。
学園長とサトゥーに学園長室に呼ばれたアルフは何かしてしまったかのかとそわそわしていると、呆れた風にため息をつきながらサトゥーに今日の合同授業の内容を知らされた。
その内容は、生徒たちの体力増強のための強化マラソン。両手両足に重り付き。
「お前本当に何なの?初回はいいとして、二回目から冗談で言ったにもかかわらず周回遅れの生徒を背負って走れとは確かに他の先生は言ったよ。だけどお前も重りをつけて走っていたよね。しかも一人じゃなくて三人も担いでいたよね。魔力そんなに余ってんの」
「いや、サトゥー先生も見ていたでしょ。二回目から俺全力全開で魔法撃ちましたよね。それに魔法なんて使っていないですよ」
「お主、体力お化けじゃのー」
アルマーニ村にいる頃から自前の重りをつけて村の周りや近くの森を走り回っていたアルフにとって今回の強化マラソンはとてもなじみのあるものだった。コレットのような村娘でもアルフの無茶に付き合わされている者なら多少は体力もついているので今回のマラソンも耐えられる。
しかし重石をつけて走る事などしたことのないフィロはその重りが擦れて両手首両足首が擦れて血が滲んだ。ポロンなんかアルフに周回遅れする二周目あたりから動けなくなり、後にアルフの運ぶ三段餅ならぬ三段人間の一番下になり、過剰の疲労と背負われて運ばれた衝撃で吐いてしまった。
しかも強化魔法を使われないように学園長が特例で全力の魔法。かめはめ波を早朝に撃たせて魔法を使わせないようにしたのだが、素の身体能力でこなしたアルフに頭を抱える。
「はー、次から魔力を吸って重さが増す枷でもつけますかね」
「そんなのがあるんですかっ」
「嬉しそうにするでない。それは本来戦犯奴隷につけて反抗できなくするようにする物じゃ。そうそうに手に入れるなど難しいぞい」
ここ30年、大きな戦争はどこの国も起こってない。その為その奴隷もつけられる枷も需要が無い。その為数は圧倒的に少ない。
「そうですか…」
「落ち込むでない。お主、奴隷になりたいんかい。…まあ、今日のところは帰ってよいぞ。今回呼んだのは体力だけではなく魔力の方にも力を込めろと言う事だけじゃ」
とぼとぼと寮に帰るアルフの背中を見送った後、二人の教育者は再びため息をついた。
「…まあ、魔力を吸わせても大して変わらないんでしょうけどね」
「魔力数値たったの5。魔法の使えない赤子並の魔力しかないのになんであんな強力な(回復)魔法がぶっぱなせるんじゃい」
先日行われた水晶を用いた魔力の量を測った日。アルフが太陽拳で自爆した時に出た数値はたったの5。まさに赤子並の魔力しかなかった。それなのに回復とはいえどうして雲を突き抜けるほどの魔法が撃てたのかと頭を悩ます二人だった。
だが、二人は忘れている。技術や技法だけでは再現できない法則。それが魔法だという事を。血筋や環境だけでは説明がつかない現象だから魔法。
もし、アルフのかめはめ波を説明するのならそれは。
魔力と同様に生きとし生きるもの全てが持つ命の力。いわゆる『気』と呼ばれる生体エネルギーの発露ということで全ての説明がつく事を今はまだ誰も知らなかったのであった。
(`・ω・´) 前半部分でいやらしい事を想像した君達、さては思春期だな?