金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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エルフィン=妖精
リート=歌

某アニメとは一応、無関係。
救われなかったキャラに愛の手を?




第021話:”えるふぃん・りーと”

 

 

 

どうにもこの美術部……もとい。物語には難がある。

何が難かと言えば、色気がない。

 

そこで今回は、そこをフォローしてみようと思う。

なんのことはない。帝都オーディンにあるヤンの別宅の様子を覗き見ようというわけだ。

 

 

 

さてキルヒアイスを見送ったヤンは、「海図にない航路を見つけ出そう~♪」などと鼻歌を歌いながら門を潜る。

ヴェンリー子爵家初代当主”ジャスティン・タイラー・フォン・ヴェンリー”が遺したとされ、代々受け継がれた家歌……貴族が口ずさむ歌としてはややポップ過ぎる気もするが、まあ代々何かと破天荒、帝国貴族としては異端の道を歩き続けたヴェンリー家にとっては何を今更と言ったところだろう。

 

そして屋敷のボリュームに負けない重厚なオーク材で作られた大きなドアが開かれると……

 

「お帰りなさい! あなた!!」

 

玄関に入るなり突然飛びついてきたのは、美しい金色の髪の女性、

 

「おっと!」

 

『首から下は”貴族の標準型(=役に立たない)”』と評されるヤンだったが、流石にこの強襲は予想されていたのでしっかりキャッチする。

まあ帰宅するたびの通過儀礼(毎度のこと)が奇襲になるわけもない。

そしていつも以上に優しげな表情で抱きとめた女性の金髪を撫で、耳元でそっと囁く。

 

「やあ、ただいま。私の可愛い”妖精(エルフィン)”」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

エルフィン(elfin)”、”妖精”を意味する愛らしい愛称で呼ばれるこの女性、旧姓を”エルフリーデ・フォン・コールラウシュ”という。

そして今は、

 

「もう! 新婚の私をこんなに心配させるなんて悪い人!」

 

「ごめんごめん」

 

会話からお察しくださいだが……今の名は、エルフリーデ・フォン・ローエングラム伯爵()()、ヤンがローエングラムの爵位と領地を継承したときに嫁入りした、分家ではあるが正真正銘リヒテンラーデ侯の孫娘である。

 

言うまでもないが、黒真珠の間でリヒテンラーデが『無能な若手貴族を煽るように』露骨なまでにヤン押しした根本的な理由は、エルフリーデが理由である。

つまり軍才に関しては疑う余地のない”自分の身内”であるヤンをアピールするという形を取った、政治的行動だということだ。

もっとも単純に孫娘の婿()殿()を自慢したいという児戯めいた、というか孫煩悩な老人らしい気持ちもあったようだが……そのあたりはしっかりフリードリヒに見抜かれていたが。

 

さて、ともすれば貴族らしい政略結婚/リヒテンラーデの露骨過ぎる陣営強化に見えるかもしれないし、事実「ヴェンリー家もついに門閥化か!?」という危惧、あるいは期待もあったようだが……

そんなことをエルフリーデに下手に聞かれようものなら、

 

『私達は恋愛結婚です!!』

 

と般若の顔で全否定するだろう。無論、刃物片手に。

とはいえ彼女の主張もまた事実であり、ヤンがヴェンリーの家督を継いだ時のパーティーで「嗚呼、この人は私にとっての永遠の新緑……枯れる事なき心の大樹」と、貴族にあるまじき優しげで穏やかな雰囲気にエルフリーデが一目惚れしたらしい。

噂に過ぎないが、その時、エルフリーデの瞳の中のハイライトは仕事を放棄していたらしい。

 

その後、ヤンを巡る熾烈な女の戦いがあったらしいが……それは戦場以上に怖すぎるので詳細は割愛させていただきたい。

考えてみればご先祖様(ジャスティン)は駆逐艦艦長として銀河連邦軍人時代のルドルフと共に海賊退治に勤しんだという逸話が公式史に残ってるほどの帝国開闢以来の名門、子爵あるいは伯爵という地位、巨大財閥のオーナーで銀河有数の金持ち、おまけに女癖も悪くなく貴族としては不自然なくらい周辺はクリーン……残っているのが不思議なぐらいの超々優良物件なのだから、そりゃあ争奪戦も苛烈になるだろう。

 

 

 

もっともヤンに言わせれば、父親に厄介事を丸ごと押し付けられた結果であり、面倒そうだしする気もないが女遊びに精を出す時間的余裕なんて欠片もなく、結果身持ちが硬いと誤認されるようになっただけだ。

事実、家督を継いでからも帝国セレブの出会いの場であるダンスパーティーやら何やらにはほとんど出れなかったし、出たとしても精神力をすり減らすような権力者達との密談で忙しく、とても浮名を流す余力はなかった。

 

口は出すが財閥の運営は基本、信頼できる人任せではあるが、彼が決済したり指示を出したりしなくてはならない事象が0なわけもない。

また、代々の”当主の仕来りで士官学校”に入ったはいいが、目立つ気はなかったがひょんなことから活躍してしまい、本人にとっては不条理な巡り会わせでトントン拍子で出世してしまった。

またその異例な出世の速さの裏には、帝国軍には貴族が出世しやすい土壌がある上に、妹が寵姫に入り込んでしまったということも大きく影響していた。

ヤンは帝国における多岐にわたる貴族の権勢に内心辟易しながらも、それを利用して上手く立ち回っている自分もいるので頭から否定するわけにも行かず、

 

『世の中、こんなはずじゃないことばかりだなぁ。ホントに』

 

と、どこぞのクロスケみたいなことを夜空を見ながらつぶやいていたらしい。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

もっとも第三者の視点から見れば完全に自業自得だろう。

ヴェンリー家で語り草になってる”実録! 神童ヤンぼっちゃま伝説(仮称)”の中には、こんなエピソードが残ってる。

 

ヴェンリー財閥の一部門に前にも出てきた”ヴェンリー警備保障”という会社(実質的にヴェンリー家の私設軍)があるが、それまでは財閥の輸送船団の積荷を、海賊や怪しげな輩から守る護衛艦に帝国軍払い下げの中古軍艦を主に使用していた。

だが年齢一桁の頃のヤンは、

 

『軍は鹵獲した()()艦を研究や機能実証や実験に使った後、大量に放置しているはず。まずはそれを頂きましょう。現役で使われていた以上、軍の払い下げより型は新しい物が多いはずですし』

 

『戦場には修理を施せばまだ使える艦が結構、置き去りにされてるもんですよ? それをデブリ回収の名目でサルベージしましょう。それを有償サービスとして提供すれば一石二鳥です』

 

『う~ん……どうも「所詮、叛徒の船」ってあまり意味のない優越感があるせいか軍の性能調査は不徹底だなぁ。あれでも帝国の最新鋭艦や一級品を沈める性能があるのに……そうだ。いっそウチで自前に研究して、造船部門の技術的フィードバックに使ってみませんか? 幸い、同盟由来の技術ならパテントの発生もしませんし。何せ相手は国家じゃないんですから』

 

『確かに同盟の船は地表には降りられませんが、そもそも帝国艦が重力圏への降下/離脱機能を持っているのって暴徒鎮圧とか叛乱時の地上制圧作戦のためでしょ? ウチが戦闘艦使う相手って輸送船団の積荷を狙う海賊とかですから、実際にはあまり問題ないですよ。地上に降りて戦う必要があるなら、それこそ帝国の払い下げ艦を使えばいい』

 

などなど。ヴェンリー家内では普通に同盟って言葉が使われていたのも驚きだが……ヤンが異常なほど自由惑星同盟の軍艦に関して造詣が深いことに周囲の大人はひどく驚いたらしい。

まあ、()()()()を知っている親愛なる諸兄には不思議でもなんでもないだろうが。

ついでに言えばおそらくこのあたりの発想は、前世の同盟崩壊後の経験が生きているのだろう。

 

こうして生まれたのが新たな傘下企業、同盟艦船艇の技術研究/解析と再生(レストア)などを行う”ヴェンリー船舶技研”。代表取締役はヤン・ユリシーズ・フォン・ヴェンリー(当時9歳)だった。

 

そんな経緯がありヴェンリー警備保障は、格安で高性能で型の新しい”船団()()()”を大量配備することに成功させ、現在は”同盟1個正規艦隊をもう一揃え”と呼ばれるまでの保有数を誇るようになっていた。

第019話に出てきたアンネローゼが乗艦としていたアコンカグア級のレストア・シップである”エーデルワイス”もその中の一隻だ。

またヤンが今生でも相棒とする……前世とは役回りは違うが、星系間移動手段として座乗する機会の多い個人所有の船(プライベート・シップ)の”ヒューベリオン”は、買い取った同盟の同名鹵獲戦艦、改装が施されていない標準仕様(ストック)状態のアコンカグア級ヒューベリオンを、次世代新装備試作品の実証テストを兼ねてヴェンリー船舶技研で前世の記憶を頼りにfs改造し、グリーンからターコイズブルーに塗り替えた船だ。

違う点をあげるとすればマーキングが”144M”ではなく、ヴェンリー子爵家の家紋……通称”そよ風の紋章(ゼビュロス)”に差し替えられ描かれてることぐらいか?

 

またヤンにより得られた利益はそれだけにとどまらず、同じく財閥傘下の”ヴェンリー造船”は、技術的なブレイクスルーやパラダイム・シフトを果たし、ライバル企業に大きく差をつけることになった。例えば、軍からは「ヴェンリー造船に発注した船は不思議と他の造船所製より性能がいい」ともっぱらの評判だった。ただヤンに言わせれば「性能がいいんじゃなくて本来の性能がでているだけ」とのこと。同じ部品/同じ設計図を使っているが、品質管理や加工精度レベルでも差が出ているのではないだろうか?

ちなみに同盟艦から得た技術は、ちゃっかり解析したヴェンリー船舶技研名義でヤンが帝国でのパテントを取っていたりする。

 

これは間接的ながらも財閥全体……例えば財閥となるきっかけとなった最老舗の”ヴェンリー通運”や”ヴェンリー兵器開発”、その他多くの工業系部門にも大きな利益を齎せたという。

もっとも当の本人にしてみれば、

 

『それなりに愛着のあった同盟の船が、無残な姿で打ち捨てられている姿を見るのはどうにも忍びなくてね』

 

と困ったように頭を掻くだろうが。

 

 

 

とはいえ万事が万事、商売でも戦場でも無自覚にこの調子だったらしく、結果として気がつけば今の立ち位置に収まってしまっていた。

もっともヤンにとってはそんな日々が不快なはずもなく、「サボりたい。昼寝したい。だらけたい」という気の抜けた台詞とは裏腹に、否応なしに前世の自分が驚くほどの勤勉さあるいは謹厳さを発揮してしまった。

 

まあ、これが父タイラーが「これなら私より上手く切り盛りできるだろう」と家督を押し付けられ銀河に愛妻(合法ロリ)と逃避行された直接的な原因だろう。

 

我ながららしくないと思いながらも忙しく日々は流れ、前世以上に異性とは無縁な日常にふと現れたエルフリーデより告げられる愛は心地よいものであり、気がつけばその”後ろ盾の厄介さ(リヒテンラーデ)”を知りながらも結婚することに躊躇いはなかった。

もっともリヒテンラーデだけでなく皇帝さえも、ヤンにとっては”()()()”と同義語かもしれないが。

 

そして、いつの頃からかエルフリーデもまた、ヤンにとって「帝国で戦う十分な理由」の一つになっていたのだ。

 

 

 

腕の中に感じる温もりに、ヤンはようやく生きて帰ってきたことを実感できるような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかの一日三度投稿。しかも文章量のバッケン・レコード……自分でもなぜ出来たか不思議(汗
きっと二度と出来ないだろうなと。

ヤン、原作より少し気障です。
貴族として生きた影響か、はたまた前世の不良中年との記憶の残滓か?

エルフリーデ、かなり人間丸いです。
ただしその分、病んデル気も?
デレてる相手がヤンだから、まあいいかと。浮気しそうもないし。
これが本当の”ヤンデレ”……いえ。言ってみたかっただけです。

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