【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0154話『天霧の夜の出会い』

 

………うあー、まだ眠いなぁ~。

狭霧が部屋に帰ってくるのを待っていたら少し寝落ちしちまったぜ。

時間は……そうか。そういえば寝落ちする少し前に川内さん達が出撃していったから今は……、

それであたしは時計を見るとそこには二時のところに針を指していた。

うーん……実に中途半端だな。

この場合だと隣の部屋の狭霧はもう寝てるだろうしな。

少し夜の散歩でも行ってくるかな?

それであたしはいつでも運動できるようにジョギングウェアの恰好に着替えて外に出た。

この時期だと夏も終わりだからか少しだけ半袖だと肌寒いところだな。

まだまだ川内さん達は夜の哨戒から帰ってこないから少し静かだからな。

あー……あたしも早く練度を上げて川内さん達の哨戒に一緒についていきたいなぁ。

狭霧は夜が苦手なのか遠慮気味だけどあたしは平気だからな。

それで夜空に輝く月を見上げながら鎮守府内の庭を歩いていると、なにやら声が聞こえてきた。

大抵の人達は眠りについている中でこんな夜中に出歩くのは誰だろうという感想を持ってあたしはつい興味本位でその誰かの顔を見てやろうと思ったんだけど、

 

「榛名……月が輝いていて綺麗だな」

《そうですね、提督……》

 

……どうやらあたしはデバガメをしてしまったらしいという気持ちにさせられた。

あたしが気づいた先にはこの時間に珍しく起きている提督の後姿とうっすらとした姿の榛名さんが提督に寄り添って一緒に月見をしている光景だった。

しかもちょうどよく夏目漱石で有名な『月が綺麗ですね』というセリフに出くわすとはな……。

意味を知らないあたしじゃないからつい顔が熱くなってくるのを感じていると、

 

「……誰だ?」

 

提督はあたしの気配を感じたのかそれで振り向いてきた。

それであたしは無駄だと思ってもつい物陰に隠れてしまった。

でも提督は夜目が効いているのかすぐにあたしの事に気づいたのか、

 

「なんだ、天霧か? どうしたんだい? 眠れないのか?」

「あ、えっと……まぁそんな感じだね」

 

それであたしは諦めて提督の前へと出ていく。

 

《ふふっ、天霧さんも月見ですか?》

 

榛名さんは優しそうな笑みを浮かべながらあたしにそう聞いてくる。

まぁ、たまたま中途半端な時間に起きちまっただけなんだけどな。

でも、それに乗っかっておくか。

 

「まぁ、そんな感じですね。そういう提督と榛名さんはどうしたんだい……?」

「ああ。つい任務のチェックをしていたらいつの間にかこんな時間になってしまってな……。それなら月見も悪くないなと思ってな」

 

そう言って榛名さんの顔なんだけど少し男を感じられる笑みを浮かべる提督。

その少しちぐはぐな感じのせいなのか、はたまた月夜に照らされているのが原因なのかついその笑みに見惚れてしまっているあたしがいた。

 

「そ、そうなんですか……」

 

それでつい声が上ずってしまっていた。

提督はそんなあたしの動揺に気づいているのか分からないけど敢えて触れないでいてくれた。助かったと言えば助かったかな……。

だけどそこでふと提督は少し儚い笑みを浮かべているのに気づく。

どこか懐かしそうな表情を感じ取れた。どうしたんだ……?

 

「あの、どうしたんですか? どこか辛そうだけど……」

「ああ、すまない。こんな時間だからこそつい感傷的になってこの世界に来る前の事を思い出してしまってな」

「この世界に来る前、ですか……」

「ああ。天霧ももう綾波とかに聞いているんだろうと思うけど私はもともとこの世界の人間じゃない。どういう訳かもとの世界からこの異世界に鎮守府のだいたいの艦娘達とともに来てしまって今に至っている」

「知っています」

 

綾波姉達からは聞いた。

提督はもともとただの一般人だったけど提督のいう通りこの世界に来て成り行きで軍の人間になったという経緯も。

 

「昼間とかはみんなが起きているからつい目まぐるしい毎日で忘れてしまうんだけどな。

ふとこんな時間にまで起きていると家族や友人たちの事を思い出してしまってな。

……こういう時に飲める人はお酒でも飲んで気を紛らわすものだろうと思っているけど私はあいにくあんまり飲めないからな。だからこういう時は榛名とよく世間話をしているんだ」

 

提督はそう言って笑う。

それでもどこか寂しさも含んでいるものだとあたしにはわかった。

 

「そう、だったんですか……」

 

それであたしはどう提督に声をかけていいか分からなくなってそれ以降少しだけ沈黙が入ってしまう。

そんな、少し苦しい空気なんだけど提督は少ししてまたいつも通りの笑みを浮かべて、

 

「ま、今はもう天霧や榛名も含めてこの鎮守府にいるみんなが私の家族だ。だから寂しくないんだ」

「そうですか……」

 

それで空気もだいぶ柔らんだのであたしはそれに感謝しながらも肺に溜まっていた空気を吐き出した。

そんなあたしの様子を察したのか、

 

「すまんすまん。つい重い話をしてしまったな」

 

そう言って提督はあたしの頭を撫でてくる。

意外とすんなりその提督の手を受け入れているあたし自身に驚きながらも悪くない、という気分になった。

 

《もう、提督はすぐに駆逐艦の子の頭を優しく撫でるんですから……天霧さんも嫌だったら嫌って言ってくださいね?》

 

どこか拗ねている榛名さんの様子をあたしは見て思わず口に出していた。

 

「もしかして、榛名さん、嫉妬しています……?」

《そッ!? そんなことはないですよ! ただ提督は駆逐艦の皆さんには甘いですから、その、あの……》

 

どんどんと小さくなっていく声にあたしは榛名さんが提督に甘えたいのを察したので、

 

「提督? 榛名さんをもっと甘えさせたらどうですか?」

「そうだな。榛名、今度はもっと甘えてもいいんだぞ?」

《うー……提督も天霧さんも私の気持ちを知った上でそんな意地悪を言うんですからぁ……私だって触れられるものならもっと提督と触れ合いたいですのに……》

「本音が出たな」

「ですね」

 

それであたしと提督は少し意地悪い笑みを浮かべているのだろう、榛名さんはそれで《もう知りません!》と言ってそっぽを向いてしまった。

その後はなんとか提督が榛名さんの機嫌を治しているのを見ていて思った。

 

(あたしはこの鎮守府に来れたのはよかったのかもしれない……。他の鎮守府にもそれはあたしと同型の天霧は配属されているだろうけど、それでもどこか軍隊然みたいな関係じゃなくて家族との接し方みたいな関係なんだよなこの提督達は……。だからか自然と身構えなくても済んでいる。だから綾波姉達とも普通の姉妹のようにやり取りができる。だから……)

 

「提督、あたしを深海棲艦の手から狭霧ともども救ってくれてありがとうな」

「どうした、いきなり?」

「いや、改めて言っておこうと思ってな」

「そうか……」

 

それであたしは少し機嫌がよくなったので、

 

「提督と改めて話せてよかったよ。それじゃもう遅いからもう眠るとするわ」

「ああ、お休み」

《お休みなさい、天霧さん》

「おう。提督も早く眠れよ」

 

それで提督達とは別れてあたしは部屋に戻っていったのだけどそこで狭霧が起きていたのか少し笑みを浮かべて待っていた。

 

「天霧さん、おかえりなさい」

「ああ。でもなんで狭霧が……」

「うん。お庭での話を私も聞いちゃってね」

「あ……まさかついてきていたのか?」

「うん、ごめんなさい……ねぇ天霧さん?」

「なんだ?」

「優しい提督達と一緒に頑張っていこうね……」

「そうだな。頑張っていこう」

 

それであたしは狭霧や鎮守府のみんなとともにこれからも頑張っていこうと誓った。

 

 

 




今回は天霧でした。
これで新規艦娘は大体出せたと思えますので明日は集合回でも書きましょうかね?
明日は一日期間が増えたので宴会はまだしませんし。



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