【完結】戦艦榛名に憑依してしまった提督の話。   作:炎の剣製

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更新します。


0203話『深雪様の出番だよ』

 

 

 

 

深雪様の出番だね!

そう切り出したのは言うまでもない事なんだけどついにあたしが遠征艦隊から外されて演習艦隊へと移ったんだ。

だけど演習艦隊に移った日は生憎の悪天候。

台風もまた近づいてきているときちゃ少しの胸のざわめきも感じるってもんだな。

それで思い出すのは電との衝突事故でなんの活躍も出来ずに沈んじまったことだな。

まぁ、気にはしていないんだけど衝突と聞くとどうにも怖いんだよな。

最上さんじゃないけど古傷が痛むっていうか……。

そんな事を考えながらも廊下を歩いているとちょうどよく電が前から歩いてきた。

 

「あ、深雪さん……」

「電か。どしたー? そんなに離れなくたっていいじゃないか?」

「ですが、また衝突してしまったらと思うと、怖いのです……」

 

あー、電はあたし以上に気にしているのかー。

ならアタシから歩み寄らないとダメだよな。

そう思ってあたしは電へと近づいていって肩に手を回してがっちりと組み合う。

 

「あ、あの……深雪さん? これはなんなのですか?」

「うん? まぁ、あれだ。もう艦船じゃないんだからいちいち気にしていないでも別にぶつかったって怪我はしないんだから気にしないでいいんじゃないかってな」

「そうですけど……」

 

むー。強情な奴め。

まだ何か言い繕おとするか。

ならば最終手段だ!

あたしは電の脇をくすぐってやった。

 

「あっ、あはっは! やめてなのです! くすぐったいのです!」

「ここかー? ここが弱いのかー?」

 

ちょっと強引に電を笑わしてみるあたし。

こういうのもいいもんだよなー。

こうでもしないと電って距離を開いちゃうからなー。

 

「分かった、分かったのです! もう距離を取りませんからやめてなのです!」

 

もう息もキレキレで泣きそうになっているのでそろそろいいかな?

それであたしはくすぐるのをやめる。

 

「ふー……それじゃもう無用に距離を置くのはなしにしてな? 深雪様的にも少し傷つくから」

「わかったのです」

 

電はもう遠慮が無くなったみたいで微妙な感じも拭えているみたいでよかったよかった。

 

「あの、そういえば深雪さんも演習艦隊に組み込まれたんですよね?」

「ああ。だから演習で練度を上げていけば衝突の心配も減らせるってもんだな!」

「あはは……」

 

どうにも苦笑いを浮かべちゃうみたいだな。まぁしょうがないっちゃしょうがないか。

 

「それじゃ今から執務室に一緒に行くか? ちょっと司令官とも話がしたかったもんでな」

「わかったのです。いきましょうなのです」

「よし!」

 

それであたしと電は執務室へと向かっていった。

ふと気づけば窓の外は大荒れの天気で窓がガタガタと軋みを上げていた。

うーん……やっぱり怖いもんだよなー。

そんな事をまた考えていながらあたしと電は執務室へと到着した。

電が率先して扉のドアを叩いて、

 

「司令官さん。いますか?」

『電か。どうした?』

「はい。少しお話がしたいと深雪さんが言うので着いてきました」

『そうか。それじゃ入ってくれ』

「了解なのです。さ、深雪さん、入りましょう?」

「おう。でもやっぱ電って初期艦だけあって司令官の事はなんでも知ってそうだよな」

「そ、そんなことはないのです……初めの頃ならそうですけど今はもうみんなの司令官さんですから」

 

それでどこか寂しそうな表情を浮かべる電。

なんか面白くないなー。こんな顔を見たいわけじゃないんだけど。

ま、いいか。

あたし達はそれで執務室の中へと入っていく。

そこにはいつも通り軍服を身に纏った榛名さんな提督の姿があったのであたしとしても少し安心できる光景だな。

 

「こんな雨の中よく来たね二人とも」

「おう!」

「はいなのです」

「それで今日はどういった話かな?」

「それなんだけどさー、司令官。あたしの練度って今どんくらいだったっけ?」

「なんだ。自分の練度を覚えていないのか……?」

「あははー……。どうにも忘れっぽくてな」

「しょうがないな」

 

司令官は艦娘名簿を取り出して現在の練度を確認してくれている。

 

「深雪はまだ演習艦隊に入ったばかりだから今は練度は56ってところかな?このペースで行くなら一週間もしないで練度70は行くだろうな」

「そっか! それならいいんだ」

「それより深雪。電と一緒に来るって事はもう二人はあまり気にしていないんだな過去の事」

 

あ、司令官め。やっと収まった話を掘り返しやがった。

 

「司令官~……いつまでも引き摺っていたらやっていけないでしょうが」

「な、なのです……!」

 

さっきまで思いっきり引き摺っていた電も一緒に反論してくれたのでよかったとしようかな。

司令官はそれで少し反省したのか、

 

「……すまん。少し配慮に欠けていたな」

「いや、別にいいけどさ。それよりもっと楽しい話をしようぜ司令官!」

「そうだな。二人は姉妹たちの仲は良好そうだよな」

「あったりまえだぜ! この深雪様がいつも盛り上げてやっているからなー。吹雪とかもそれで助かっているとか言ってくれるんだぜ?」

「電も……その、暁お姉ちゃんとかが率先して引っ張ってくれるのでいつも楽しいのです」

「そっか。楽しそうでよかった」

 

司令官はそれで笑みを浮かべている。

司令官はよくみんなにこういう話を振ってるそうだけど、やっぱり心配性なんだろうかな?たまにまだ気持ちが不安定な子とかはメンタルケアしているって話だし。

だからあたしも司令官に逆に聞いてみる事にした。

 

「それじゃあさー。司令官と榛名さんの仲もいいのかい?」

「私達の仲か? それは仲はいい方だよな。な、榛名」

《はい。提督とは仲はいい方だという自覚はありますね。なんかこの話題もよく他の皆さんからも振られるんですよね。やっぱり不安定に思われているのでしょうか? 一緒の身体で共存しているというのは……》

「いんや。むしろ羨ましいって思うくらいじゃないすか? あたしも電ももちろん他の子たちも二人の仲は見ていて羨ましいって感じているのは本当だしね」

「はいなのです。電も、司令官さんとそう言う関係になれたらってたまに思う事があるのです」

「そうか……。」

 

司令官はそれで少し考え込んだ後に、

 

「もしだけど、私の意識が他の誰かに移ってその移った子の意識が榛名みたいになったらどう思う……?」

「そ、それは……少し怖いのです。今までの司令官さんが別の誰かになってしまうと思うと……」

「そうだなー……今となってはもう榛名さんで慣れたからいいと思うけど、今更他の誰かに移ったら少し司令官の事を軽蔑するかもしれないな」

「そういうわけだ。私と榛名はもうお互いに納得済みだけど、他の子たちは少しだけど拒否感を感じてしまうだろうからな。だから分離する手立てがない現状は今のままでいいと思っている」

《榛名も提督と同じ考えですね。提督と一緒に戦えるって思えば苦ではないですけど、他の子たちにしてみれば一緒の感覚は味わえないと思いますから。それに意外と提督と触れ合える機会が少ないのも辛いものなのですよ?》

「やっぱそっかー。うん、それを聞いて安心した。なにもお互い100%今の現状を容認しているわけじゃないって分かっただけでも聞いた甲斐があったかな」

「なのです」

 

うん。当然の話だけど辛いもんだもんな。

お互いに好き合っているから尚更辛いと思うしね。

だからあたしも司令官と榛名さんの事を出来るだけフォローしてやりたいと思った。

後で電にもその件を聞いてみたら同じ考えだったのでやっぱり考える事は皆同じって事かな……?

いつか、深雪様も司令官の役に立てるように頑張るぜ!

 

 

 




今回は深雪回でした。
提督と榛名も現状は少なからず不満はあると思うんですよね。
年に一回だけしか触れ合えないというのも考えモノですからね。



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